東雲結子:先生、決算前の棚卸しで倉庫に来ています! 段ボールを数えすぎて、目を閉じても段ボールが整列して見えます。

税理士石井:ははは、今夜は段ボールが一箱ずつ柵を飛び越えていく夢を見そうですね。それで、在庫の具合はどうですか。

東雲結子:棚の奥に、メモリーの部品の在庫がありました。もし相場が下がったら、値下がりした分を評価損にして、税金を減らせますよね? 値崩れも、たまには役に立ちます!

税理士石井:うーん、そこが落とし穴なんです。評価の方法が原価法のままだと、国税庁の通達は、時価が「単に物価変動、過剰生産、建値の変更等の事情によって低下しただけでは」評価損を計上できる事実に当たらない、としています。

東雲結子:えっ、値崩れしただけではダメなんですか。じゃあ段ボールに大きく「値下がりしました」と書いておきます。

税理士石井:ふふ、段ボールにいくら書いても、申告書の数字は1円も変わりませんよ。相場の下落を損金にしたいなら、低価法を選んでおく必要があります。しかも原価法から変えるなら、その事業年度が始まる前日までに承認の申請が要ります。

東雲結子:大家さんでいえば、火事が起きてから火災保険に入っても間に合わない……みたいな話ですか。

税理士石井:そのとおりです。値崩れに気づいてからでは、その期には間に合いません。ところで、事務所のパソコンの買い替えの相談もありましたね。

東雲結子:はい、見積もりが1台32万円でした。メモリーが値上がりして、パソコンまで背伸びしています。でも30万円未満の特例は、大綱で40万円未満になるんですよね? セーフです!

税理士石井:おっと(汗)、大綱は方向性で、2026年1月末の時点では法律ではありません。しかも40万円をいつ以後の取得から使えるかは、大綱に書かれていないんです。この回は、値崩れの局面の在庫と値上がりの局面のパソコン、両方の税金を、法令と大綱を分けて確かめます。

連載の最終回は、メモリー価格の波と税金です。値崩れの局面では、メモリーの部品や製品を在庫に持つ会社に「棚卸資産の評価損」の問題が出てきます。逆に値上がりの局面では、パソコンを買う会社や個人事業主が、取得価額の10万円・20万円・30万円の線を意識することになります。

この回の税制は、2026年1月31日時点で施行されている法令と、国税庁の通達(法令の解釈)によります。令和8年度税制改正大綱(2025年12月26日閣議決定)の内容は方向性で、法律ではありません。本文では、法令と大綱をはっきり分けて書きます。

後半では、メモリーメーカーの決算に出る在庫の評価減を、株式投資の目線でどう読むかも整理します。実際の処理は会社ごとの事実関係で変わるので、最後は顧問の税理士と確かめてください。

この記事の要点 根拠となる数字
原価法では、相場の下落だけで在庫の評価損は損金にならない 法人税法第33条第1項、法人税基本通達9-1-6(「単に物価変動、過剰生産、建値の変更等」)
低価法なら期末の時価との差が損金になるが、原価法からの変更は事業年度開始の日の前日までに申請が要る 法人税法施行令第28条第1項第2号、第30条第2項
青色申告の中小企業者等なら、パソコンは30万円未満で全額損金(年300万円まで、2026年3月31日までの取得・事業供用)。大綱は40万円未満・3年延長・400人超の法人を除外の方向 租税特別措置法第67条の5、令和8年度税制改正大綱(2025年12月26日閣議決定)
投資の目線:メーカーの在庫評価減は下落局面の決算に出る。マイクロンは2023年8月期に18.31億ドル 2022年12月〜2023年2月期14.30億ドル+2023年3〜5月期4.01億ドル(米国会計基準)

棚卸資産の評価損は、原則として損金にならない

法人税の出発点は、法人税法第33条第1項です。「内国法人がその有する資産の評価換えをしてその帳簿価額を減額した場合には、その減額した部分の金額は、…損金の額に算入しない。」在庫の帳簿の値段を自分で下げても、原則として損金にはならない、ということです。

条文は「その有する資産」と書いており、在庫に限った話ではありません。法人で物件を持つ大家さんにとっても、帳簿の値段を下げれば経費になる、という単純な話ではないことは覚えておきたいところです。

例外は第33条第2項です。政令で定める事実が生じ、会社が損金経理で帳簿価額を減額したときは、評価換えの直前の帳簿価額と期末の価額との差額に達するまでの金額が損金になります。政令の事実があることと、決算書で評価損を計上していることが条件で、損金になるのは期末の価額までです。

棚卸資産の場合の事実は、法人税法施行令第68条第1項第1号が定めています。

区分 内容 根拠
法令の事実 災害により著しく損傷したこと/著しく陳腐化したこと/これらに準ずる特別の事実 法人税法施行令第68条第1項第1号
著しい陳腐化 物質的な欠陥がないのに、経済的な環境の変化で価値が著しく減り、今後回復しないと認められる状態。例:季節商品の売れ残り、型式・性能・品質等が著しく異なる新製品の発売で、今後通常の方法により販売できなくなったこと 法人税基本通達9-1-4
準ずる特別の事実 破損、型崩れ、たなざらし、品質変化等により、通常の方法で販売できなくなったこと 法人税基本通達9-1-5
当たらないもの 時価が単に物価変動、過剰生産、建値の変更等の事情で低下しただけの場合 法人税基本通達9-1-6

※2026年1月31日時点の法令。通達は国税庁の解釈。このほか、法的整理の事実もある。

メモリーに当てはめると、DRAM(計算中のデータを置くメモリー)やNAND(電源を切ってもデータが残るメモリー)の相場が、過剰生産や値崩れで下がっただけでは、原価法の会社は評価損を損金にできません。値崩れそのものは、通達9-1-6の「当たらないもの」の側にあります。

一方、旧世代の製品が、性能が大きく違う新世代の製品の発売で「今後通常の方法により販売することができない」状態になったなら、通達9-1-4の(2)に当たる余地はあります。ただし、これは個別に判断される話で、相場表だけで決まるものではありません(当ブログの当てはめ)。

用語メモ:棚卸資産=販売のために持つ商品・製品や、製造に使う原材料・仕掛品などの在庫。損金=法人税の所得を計算するときに差し引ける費用。損金経理=決算書(確定した決算)で費用や損失として処理すること。通達=国税庁が法令の解釈を示したもので、法令そのものではない。

低価法を選んでいれば、期末の時価との差が損金になる

法人税法施行令第28条第1項は、棚卸資産の評価方法として原価法と低価法を定めています。原価法は、個別法・先入先出法・総平均法・移動平均法・最終仕入原価法・売価還元法のいずれかで出した取得価額で評価する方法です。

低価法(法人税法施行令第28条第1項第2号)は、「…原価法により評価した価額と当該事業年度終了の時における価額とのうちいずれか低い価額をもつてその評価額とする方法」です。相場が下がって期末の時価が取得価額を下回れば、その差が損金になります。

期末の時価について、法人税基本通達5-2-11は「当該事業年度終了の時においてその棚卸資産を売却するものとした場合に通常付される価額」としています。国税庁の趣旨説明は、会計の正味売却価額(売価から見積追加製造原価と見積販売直接経費を引いたもの)と整合すると説明しています。

低価法は毎期、原価法による評価額と期末の時価を比べ直します。そのため、前期の評価減は翌期に持ち越されず、相場が戻れば評価額も取得価額の範囲で戻る形になります(条文からの当ブログの読み)。

メモリーチップの在庫には、もう一つ注意があります。法人税法施行令第28条第2項は、「通常一の取引によつて大量に取得され、かつ、規格に応じて価額が定められているもの」には個別法を選べないとしています。規格品を大量に仕入れるメモリーチップは、その典型と考えられます(当ブログの当てはめ)。

項目 原価法(届出なしの場合を含む) 低価法
期末の評価額 取得価額 取得価額と期末の時価の低いほう
相場が下がったとき 法人税法施行令第68条の事実がなければ損金にならない 期末の時価との差が損金になる
次の期 — 毎期比べ直す(前期の評価減は持ち越さない)
選び方 届け出なければ、最終仕入原価法による原価法(法人税法施行令第31条第1項) 新設法人は設立した事業年度の確定申告書の提出期限までに書面で届出(第29条)。原価法からの変更は事業年度開始の日の前日までに承認申請(第30条第2項)
個人事業主 青色申告の承認を受けていなければ原価法 青色申告の承認を受けた人だけ(所得税法施行令第99条第1項)

※2026年1月31日時点の法令による。評価方法は事業の種類ごと、棚卸資産の区分ごとに選ぶ。

表の左側の「届出なし」には、少し注意が要ります。評価方法を届け出ていない会社は、最終仕入原価法による原価法で評価することになります。何もしていなければ、相場の下落だけでは評価損を損金にできない側にいる、ということです。

新しく会社を設立した場合は、設立した日の属する事業年度の確定申告書の提出期限までに、評価方法を書面で届け出ます(法人税法施行令第29条)。最初の届出で低価法を選んでおけば、変更の承認申請は要りません。メモリーの販売や組み立てで会社を立ち上げるなら、最初の届出の段階で評価方法を考えておくことが、あとあと効いてきます(当ブログの見方)。

なお、税務署長の承認を受ければ、原価法・低価法以外の特別な評価方法を選ぶこともできます(法人税法施行令第28条の2第1項)。

原価法から低価法への変更は、事業年度が始まる前日までに申請する

いちばん実務で効いてくるのが、変更の期限です。法人税法施行令第30条第2項は、評価方法を変えるときは「その新たな評価の方法を採用しようとする事業年度開始の日の前日までに」承認の申請書を出すよう求めています。

裏を返せば、値崩れに気づいてからでは、その期は間に合いません。たとえば3月決算の会社が、2026年4月1日に始まる事業年度から低価法を使いたいなら、申請の期限はその前日の2026年3月31日です(当ブログの当てはめ)。

火災保険と同じで、相場が崩れる前に入っておく仕組みです。メモリー価格は、上がった後に大きく下がる歴史を繰り返してきました。TrendForce(台湾の調査会社)のDRAM契約価格をつないだ目安では、2018年10〜12月期からの5四半期で−58.0%、2021年10〜12月期からの8四半期で−59.8%です(予測と集計が混ざる当ブログの連鎖計算)。

1年の事業年度のうちに、在庫の時価が大きく動く可能性があるということです。在庫を多く持つ会社ほど、値上がりの局面のうちに評価方法を確かめておく意味があると私は考えます(当ブログの見方)。

個人事業主は、さらに条件があります。所得税法施行令第99条第1項により、低価法を使えるのは青色申告の承認を受けた人だけで、承認を受けていなければ原価法になります。白色申告のままでは、相場の下落を低価法で取り込む道はありません。

図の左側は、期末に在庫の時価が下がったときの判定の流れです。低価法を選んでいれば期末の時価で評価して差額が損金に、原価法なら災害や著しい陳腐化などの事実があるときだけ損金経理で評価損を計上でき、相場の下落だけなら損金になりません。下の枠は、原価法から低価法への変更の期限です。

右側は、パソコンなどを買ったときの10万円・20万円・30万円の線と、大綱の方向を点線の枠で分けたものです。図の「法法」は法人税法、「法令」は法人税法施行令、「法基通」は法人税基本通達を指します。

会計では収益性が下がれば簿価を切り下げ、税務とのずれは申告書で調整する

会計のルールも見ておきます。企業会計基準第9号「棚卸資産の評価に関する会計基準」について、EY新日本の解説(二次資料)は、第7項を次のように説明しています。

「通常の販売目的で保有する棚卸資産は、取得原価をもって貸借対照表価額とし、期末における正味売却価額が取得原価よりも下落している場合には、当該正味売却価額をもって貸借対照表価額とします」。会計では、収益性が下がれば簿価の切下げが求められるわけです。

メモリーを部品として仕入れる製造業には、第10項も関係します。原材料などは、継続して適用することを条件に、再調達原価や最終仕入原価を正味売却価額の代わりにできる、と解説されています。

切下げ額の扱いは、第14項で前期の切下げ額を戻し入れる洗替え法と、戻し入れない切放し法を選べ、第17項で原則は売上原価とされます。臨時の事象に起因し、かつ多額であるときは、特別損失に計上します。第18項は、注記などで開示する必要があるとしています。

ここで会計と税務がずれます。会計では切下げが必要でも、税務で原価法を使う会社は、法人税法施行令第68条の事実がない限り損金になりません。法人税の申告書の上で切下げ額を加算し、売ったり廃棄したりした期に減算する、という調整になります(当ブログの整理)。

大家業でいえば、帳簿上の利益と、税金の計算に使う所得が一致しない場面です。決算書の数字と申告書の数字は別のもの、という感覚は、在庫を持つ会社でも同じように大切です。

マイクロンは2023年8月期に、在庫の評価減18.31億ドルを計上した

実際の例として、マイクロン・テクノロジー(以下マイクロン)の決算を見ます。米国会計基準の会計処理で、日本の法人税の話とは別ですが、値崩れが在庫にどう表れるかがよく分かります。

四半期 売上高(百万ドル) 粗利益率 在庫の評価減(百万ドル) 在庫日数
2022年9〜11月期(FQ1-23) 4,085 21.9% — 238.3日
2022年12月〜2023年2月期(FQ2-23) 3,693 −32.7% 1,430 151.0日
2023年3〜5月期(FQ3-23) 3,752 −17.8% 401 169.6日
2023年6〜8月期(FQ4-23) 4,010 −10.8% — 171.7日
2025年9〜11月期(FQ1-26) 13,643 56.0% — 124.5日

※米国会計基準、米国証券取引委員会(SEC)への提出書類のXBRL(財務データ)による。FQ1-23はマイクロンの2023年8月期の第1四半期(以下同じ)。四半期は木曜日締めで、月は目安。2023年8月期の評価減は通期で1,831百万ドルで、2022年12月〜2023年2月期と2023年3〜5月期の合計。2024年8月期・2025年8月期はゼロ。在庫日数=期末の在庫÷(売上高−売上総利益)×91(当ブログの計算)。

マイクロンは2023年8月期に、在庫の評価減を合計18.31億ドル計上しました。2022年12月〜2023年2月期が14.30億ドル、2023年3〜5月期が4.01億ドルです。2022年12月〜2023年2月期の粗利益率は−32.7%で、売上より売上原価のほうが大きくなっています。

時期にも注目です。TrendForce(台湾の調査会社)によると、DRAMの契約価格が底を打ったのは2023年7〜9月期でした。評価減が出たのはその手前で、TrendForceが2023年3月28日に、DRAMの平均販売価格が20%下落したと推計した2023年1〜3月期と重なる四半期です。

国内では、キオクシアが2023年1〜3月期の赤字の要因として「生産調整」「棚卸資産評価減」を挙げています(国際会計基準、金額の記載なし)。メモリーの値崩れは、メーカーの在庫の価値にも直接響くわけです。

パソコンを買うときは、10万円・20万円・30万円の3つの線がある

ここからは、値上がりの局面の話です。パソコンメーカーのHPのCEO(最高経営責任者)は、2025年11月下旬の決算説明会で、メモリーがパソコンのコストの15〜18%を占めると述べたと伝えられています(二次資料による)。

秋葉原の店頭では、DDR5-5600(DRAMの現行の規格DDR5の製品)の16GB×2枚組のメモリーが、2025年10月1日の約14,700円から11月2日の約32,700円へ、約2.22倍に上がったと報じられました(二次資料による)。

同じ記事によると、秋葉原のパソコンSHOPアークは2025年11月1日から、メモリーなどの購入制限を始めていました。パソコン1台の値段が上がれば、取得価額の線をまたぐかどうかで税金の処理が変わります。

取得価額 使える人 処理 上限 期限 根拠
10万円未満(または使用可能期間1年未満) すべての法人・個人 事業に使った期に全額を損金(法人は損金経理)、個人は必要経費 なし なし 法人税法施行令第133条第1項、所得税法施行令第138条
20万円未満(一括償却資産) すべての法人・個人 合計額を3年で均等に損金(法人は損金経理、36で割って事業年度の月数を掛ける)・必要経費 なし なし 法人税法施行令第133条の2第1項、所得税法施行令第139条
30万円未満(中小企業者等の少額減価償却資産の特例) 青色申告の中小企業者等(常時使用する従業員500人以下、特定法人は300人以下)、従業員500人以下の青色申告の個人 全額を損金(損金経理)・必要経費 年300万円(1年未満の事業年度は月割) 2026年3月31日までの取得・事業供用 租税特別措置法第67条の5第1項・第28条の2第1項、同施行令第39条の28第1項・第18条の5第1項

※2026年1月31日時点の法令。3つとも、貸付け(主要な事業として行うものを除く)の用に供した資産は対象外。中小企業者等に当たるかどうかの細かな要件は、この回では立ち入らない。

10万円未満なら、どの会社も個人も、事業に使った期に全額を経費にできます。20万円未満は、合計額を3年で均等に経費にする一括償却資産です。法人は合計額を36で割って事業年度の月数を掛けるので、12か月の事業年度なら毎年3分の1ずつになります(当ブログの計算)。この二つは、期限のない恒久の制度です。

30万円未満の特例は、青色申告の中小企業者等が使える制度で、年300万円までという上限と、2026年3月31日までの取得・事業供用という期限があります。法人の場合は、損金経理が条件です。

個人事業主も、常時使用する従業員が500人以下で青色申告なら、同じ30万円未満の特例を使えます(租税特別措置法第28条の2)。年300万円の上限は、業務を始めた年や廃止した年は月割になります。白色申告の個人事業主が使えるのは、10万円未満と20万円未満の二つです。

例で確かめます。10万円・20万円の線は、会社の消費税の経理方式(税抜か税込か)で計算した額で判定します(国税庁の個別通達「消費税法等の施行に伴う法人税の取扱いについて」9)。税抜で1台32万円のパソコンは、2026年1月31日時点の法令では30万円以上なので特例の対象外で、通常の減価償却になります。1台25万円のパソコンを10台、合計250万円なら、年300万円の上限の内側なので、特例で全額を損金にできます(当ブログの計算例)。

大家業でいえば、管理に使うパソコンや複合機を入れ替えるときに、1台の値段がどの線に入るかで経費の落ち方が変わるのと同じ構図です。ただし3つの制度とも、貸付けの用に供した資産は対象外(主要な事業として行うものを除く)なので、賃貸物件の設備への当てはめは、顧問の税理士と個別に確かめてください。

用語メモ:取得価額=資産を買うのにかかった金額。減価償却=建物や機械などの取得価額を、使う年数に分けて費用にすること。一括償却資産=20万円未満の資産の合計額を、3年で均等に費用にする制度。青色申告=帳簿をつけるなどの条件を満たし、税務署長の承認を受けて行う申告。

令和8年度大綱は「40万円未満・3年延長・400人超を除外」の方向で、法律ではない

令和8年度税制改正大綱は、30万円未満の特例について、次のように書いています。「中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例について、対象となる減価償却資産の取得価額を40万円未満(現行:30万円未満)に引き上げる(所得税についても同様とする。)。」

別の項目では、「次の措置を講じた上、その適用期限を3年延長する(所得税についても同様とする。)。」とし、措置の一つとして「対象となる法人から常時使用する従業員の数が400人を超える法人を除外する。」を挙げています。

どちらにも「所得税についても同様とする」とあるので、青色申告の個人事業主も、40万円未満と3年延長の方向に含まれています。一方、年300万円の上限や、10万円・20万円の制度については、大綱に変更の記載がありません。

項目 2026年1月31日時点の法令 令和8年度大綱(2025年12月26日閣議決定、方向性)
取得価額 30万円未満 40万円未満(所得税も同様)
期限 2026年3月31日までの取得・事業供用 3年延長(2029年3月31日になる、当ブログの読み)
対象の法人 常時使用する従業員500人以下(特定法人は300人以下)の中小企業者等 常時使用する従業員が400人を超える法人を除外
年300万円の上限 あり 変更の記載なし
40万円をいつの取得から使うか — 大綱に書かれていない
10万円・20万円の制度 期限なし 変更の記載なし

※大綱は方向性を示したもので、2026年1月31日時点では法律ではない。内容は今後の法改正で決まる。

ここで大切なのは、大綱はまだ法律ではないという一点です。冒頭の東雲さんの1台32万円のパソコンも、税抜で32万円なら、2026年1月31日時点の法令では特例の対象外です。40万円未満への引き上げが法律になったとしても、いつ以後の取得から使えるかは、大綱には書かれていません。

従業員の数にも注意が要ります。現行の法令では、常時使用する従業員が500人以下の法人なら特例を使えますが、大綱の方向では400人を超える法人が外れます。従業員401〜500人の法人は、現行では対象でも、大綱の方向では対象外になります(特定法人は現行でも300人以下)。

40万円の線を前提に購入の計画を立てるなら、改正法の条文と、その適用開始日を確かめてからにしたいところです。大綱の段階で数字だけを先取りすると、東雲さんのように「セーフ」と思った買い物が、通常の減価償却になる可能性があります(当ブログの見方)。

投資の目線では、在庫の評価減と在庫日数が、下落局面の決算を読む手がかりになる

ここからは、この回の税と会計の話を、メモリー関連の株を持っている人や眺めている人、パソコンを買う会社の目線でまとめます。売買の判断ではなく、決算を読むときの確かめる点の話です。

まず、メーカーの在庫の評価減は、価格の下落局面の決算に出てきます。マイクロンでは、2023年8月期に18.31億ドルが計上され、2024年8月期と2025年8月期はゼロでした。次の下落局面で評価減が出るかどうか、どの四半期に出るかは、値崩れの深さを映す手がかりになると私は見ています(当ブログの見方)。

次に、在庫日数の読み方です。マイクロンの在庫日数は、2022年9〜11月期の238.3日から、次の四半期に151.0日へ縮みました。在庫が大きく減ったからではなく、評価減で売上原価が膨らみ、計算上の日数が見かけの上で短くなったものです。評価減のある四半期は、在庫日数を前後と単純に比べないほうが安全です。

日本の会計基準で決算を出す会社なら、評価減がどこに入っているかも確かめたい点です。第17項のとおり原則は売上原価で粗利益率を押し下げますが、臨時かつ多額なら特別損失になり、粗利益率には表れません。第18項の注記や内訳の開示を見て、評価減の額と置き場所を確かめてから、前後の四半期と比べるのが安全です(当ブログの見方)。

会社の経営者の目線でいえば、税務の評価方法の違いは、決算書の利益ではなく税金を払う時期の違いとして表れます。会計では原価法の会社も切下げが必要で、税務の原価法では評価損を申告書で加算し、売ったり廃棄したりした期に減算するからです(当ブログの整理)。値崩れの年の資金繰りを考えるうえで、知っておきたい差です。

株価との関係も、知っておく価値があります。2021〜23年の下落局面で、マイクロンの株価の月末終値の安値は2022年12月の49.98ドルで、評価減を載せた四半期報告書(10-Q)が提出されたのは2023年3月29日でした。株価は、評価減を載せた報告書が出る前に安値をつけていたことになります。株価が価格より先に動く話は、メモリー株のサイクルを取り上げる回で詳しく見ます。

いまの水準も確かめておきます。マイクロンは2025年12月17日の決算説明会で、全社の在庫日数を126日、DRAMは120日未満と説明しました(第三者の書き起こしによる)。在庫の評価減は、2024年8月期・2025年8月期ともゼロでした。

確かめる点 2026年1月時点の数字 当ブログの見方
メーカーの在庫評価減 マイクロン 2024年8月期・2025年8月期はゼロ(2023年8月期は18.31億ドル) 次の下落局面で、評価減の有無と時期が深さの手がかりになる
在庫日数 マイクロン 全社126日・DRAM120日未満(2025年12月17日の会社説明、第三者の書き起こし) 評価減の四半期は日数が見かけ上短くなる。前後と単純に比べない
パソコンの部品代 DDR5-5600 16GB×2枚組 約14,700円→約32,700円(2025年10月1日→11月2日、秋葉原の店頭、二次資料) 1台の価格が30万円の線をまたぐと、税の処理が変わる
特例の期限と大綱 法令は2026年3月31日までの取得・事業供用。大綱は40万円未満・3年延長の方向 改正法の成立と、40万円の適用開始日を確かめる

パソコンを買う会社にとっては、メモリー価格の上昇が、1台の値段を通じて税金の処理にまで響くことになります。何台を、いくらで、いつ事業に使い始めるか。年300万円の上限と2026年3月31日の期限を、購入の計画と同じ表の上で確かめるのが実務的だと思います。

なお、メモリー株を売ったときの税金や、外国株の配当にかかる税金は、海外のメモリーメーカーを取り上げる別の連載のテーマです。

値崩れの前に評価方法を、値上がりの中では取得価額の線を確かめておく

この回で確かめたことを振り返ります。原価法の会社では、相場の下落だけで在庫の評価損は損金になりません(法人税基本通達9-1-6)。低価法を選んでいれば期末の時価との差が損金になりますが、原価法からの変更は、事業年度開始の日の前日までの申請が必要です。

値上がりの局面では、パソコンの取得価額が10万円・20万円・30万円のどの線に入るかで処理が変わります。30万円未満の特例は年300万円まで、2026年3月31日までの取得・事業供用が期限です。大綱の40万円未満・3年延長・400人超の法人の除外は方向性で、法律ではありません。

これから見ていきたいのは、大綱の内容を盛り込んだ改正法の行方と、40万円の線の適用開始日です。在庫を持つ会社は、自社の評価方法の届出の内容と、次の事業年度の開始日も確かめておきたいところです。

この連載は、シリコンサイクルの約4年の波から、暴落の年表、2016年からの3つの波、2025年からの高騰、天井のサイン、次の暴落と回復のシナリオ、メモリー株の動き、そして税金までを順に読む全9回です。どの回も、相場の日付を当てるより、波が来たときに慌てない準備のための材料です。

大家業を長く続けていると、家賃相場の波そのものより、波が来る前に整えておいた契約や保険や資金繰りのほうが、結果を大きく左右すると感じます。税金も同じで、評価方法や取得価額の線は、相場が動く前に確かめておくほど効いてきます。シリコンサイクルとは何かを取り上げる回、次の暴落の時期を3つのシナリオで考える回、メモリー株のサイクルを取り上げる回もあわせてどうぞ。

 

※本記事は公表資料をもとにした情報提供を目的としたもので、特定の銘柄や商品の売買を勧めるものではありません。メモリー価格の時期やシナリオは、過去のデータに当ブログが置いた前提を当てはめた試算で、将来の価格・業績・株価を予想・保証するものではありません。

※数値は各社の決算資料・米国証券取引委員会(SEC)への提出書類・WSTS(世界半導体市場統計)・調査会社の公表資料などをもとに当ブログが集計・計算したもので、四捨五入の関係で合計が合わない場合があります。数値は2026年1月31日までに公表されたもので、時点は本文・表に記載しています。税制は2026年1月31日時点の法令にもとづき、令和8年度税制改正大綱の内容は今後の法改正で決まります。

出典・参考

  • 法人税法 第33条(e-Gov法令検索、2026年1月31日時点の版)https://laws.e-gov.go.jp/api/2/law_data/340AC0000000034?asof=2026-01-31&elm=MainProvision-Article_33&response_format=json
  • 法人税法施行令 第68条(e-Gov法令検索、2026年1月31日時点の版)https://laws.e-gov.go.jp/api/2/law_data/340CO0000000097?asof=2026-01-31&elm=MainProvision-Article_68&response_format=json
  • 法人税法施行令 第28条(e-Gov法令検索、現行の条文を参照)https://laws.e-gov.go.jp/api/1/articles;lawNum=昭和四十年政令第九十七号;article=28
  • 法人税法施行令 第29条(e-Gov法令検索、現行の条文を参照)https://laws.e-gov.go.jp/api/1/articles;lawNum=昭和四十年政令第九十七号;article=29
  • 法人税法施行令 第30条(e-Gov法令検索、現行の条文を参照)https://laws.e-gov.go.jp/api/1/articles;lawNum=昭和四十年政令第九十七号;article=30
  • 法人税法施行令 第31条(e-Gov法令検索、現行の条文を参照)https://laws.e-gov.go.jp/api/1/articles;lawNum=昭和四十年政令第九十七号;article=31
  • 法人税法施行令 第133条(e-Gov法令検索、2026年1月31日時点の版)https://laws.e-gov.go.jp/api/2/law_data/340CO0000000097?asof=2026-01-31&elm=MainProvision-Article_133&response_format=json
  • 法人税法施行令 第133条の2(e-Gov法令検索、2026年1月31日時点の版)https://laws.e-gov.go.jp/api/2/law_data/340CO0000000097?asof=2026-01-31&elm=MainProvision-Article_133_2&response_format=json
  • 租税特別措置法 第67条の5(e-Gov法令検索、2026年1月31日時点の版)https://laws.e-gov.go.jp/api/2/law_data/332AC0000000026?asof=2026-01-31&elm=MainProvision-Article_67_5&response_format=json
  • 租税特別措置法 第28条の2(e-Gov法令検索、2026年1月31日時点の版)https://laws.e-gov.go.jp/api/2/law_data/332AC0000000026?asof=2026-01-31&elm=MainProvision-Article_28_2&response_format=json
  • 租税特別措置法施行令 第39条の28(e-Gov法令検索、2026年1月31日時点の版)https://laws.e-gov.go.jp/api/2/law_data/332CO0000000043?asof=2026-01-31&elm=MainProvision-Article_39_28&response_format=json
  • 租税特別措置法施行令 第18条の5(e-Gov法令検索、2026年1月31日時点の版)https://laws.e-gov.go.jp/api/2/law_data/332CO0000000043?asof=2026-01-31&elm=MainProvision-Article_18_5&response_format=json
  • 所得税法施行令 第99条(e-Gov法令検索、2026年1月31日時点の版)https://laws.e-gov.go.jp/api/2/law_data/340CO0000000096?asof=2026-01-31&elm=MainProvision-Article_99&response_format=json
  • 所得税法施行令 第138条(e-Gov法令検索、2026年1月31日時点の版)https://laws.e-gov.go.jp/api/2/law_data/340CO0000000096?asof=2026-01-31&elm=MainProvision-Article_138&response_format=json
  • 所得税法施行令 第139条(e-Gov法令検索、2026年1月31日時点の版)https://laws.e-gov.go.jp/api/2/law_data/340CO0000000096?asof=2026-01-31&elm=MainProvision-Article_139&response_format=json
  • 法人税基本通達 第9章第1節第2款 棚卸資産の評価損(国税庁、日付表示なし)https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/09/09_01_02.htm
  • 4 棚卸資産の評価の方法(法人税基本通達5-2-11の趣旨説明)(国税庁、日付表示なし)https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/hojin/7081/04.htm
  • 棚卸資産の評価に関する会計基準 第2回(EY新日本、2018年2月15日)https://www.ey.com/ja_jp/technical/corporate-accounting/commentary/inventories/commentary-inventories-2018-02-15-02
  • 令和8年度税制改正の大綱(3/9)三 法人課税(財務省、2025年12月26日閣議決定)https://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/fy2026/08taikou_03.htm
  • 令和8年度税制改正の大綱(財務省、2025年12月26日)https://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/fy2026/20251226taikou.pdf
  • Micron XBRL: InventoryWriteDown(米国証券取引委員会、2023年3月29日・6月29日の10-Q、2023年10月6日の10-Kの提出分)https://data.sec.gov/api/xbrl/companyconcept/CIK0000723125/us-gaap/InventoryWriteDown.json
  • Micron XBRL: RevenueFromContractWithCustomerExcludingAssessedTax(米国証券取引委員会、2018年12月〜2025年12月の提出分)https://data.sec.gov/api/xbrl/companyconcept/CIK0000723125/us-gaap/RevenueFromContractWithCustomerExcludingAssessedTax.json
  • Micron XBRL: GrossProfit(米国証券取引委員会、2015年1月〜2025年12月の提出分)https://data.sec.gov/api/xbrl/companyconcept/CIK0000723125/us-gaap/GrossProfit.json
  • Micron XBRL: InventoryNet(米国証券取引委員会、2015年1月〜2025年12月の提出分)https://data.sec.gov/api/xbrl/companyconcept/CIK0000723125/us-gaap/InventoryNet.json
  • MU Q1 2026 Earnings Call Transcript(platformaeronaut.com、第三者による書き起こし、2025年12月17日)https://transcripts.platformaeronaut.com/transcripts/MU-1Q26-transcript
  • 株価:Yahoo Finance MU monthly history(Yahoo Finance、2022年12月の月末終値を参照)https://finance.yahoo.com/quote/MU/history/?period1=1420070400&period2=1769904000&frequency=1mo
  • DRAM Products May Experience Steeper Price Decline of 5% QoQ in 4Q18 Due to Oversupply and Weak Demand, Says TrendForce(TrendForce、2018年9月26日)https://www.trendforce.com/presscenter/news/20180926-10055.html
  • Decline in Q4 DRAM Contract Prices Lessens as Buying Momentum Recovers, Says TrendForce(TrendForce、2019年11月11日)https://www.trendforce.com/presscenter/news/20191111-10197.html
  • DRAM Prices Projected to Decline by 3-8% QoQ in 4Q21 Due to Rising Level of Client Inventory, Says TrendForce(TrendForce、2021年9月22日)https://www.trendforce.com/presscenter/news/20210922-10947.html
  • Decline in DRAM ASP Narrows to 10~15% in 2Q23 with No End in Sight, Says TrendForce(TrendForce、2023年3月28日)https://trendforce.com/presscenter/news/20230328-11626.html
  • Contract Prices Bottom Out in Q3, Reigniting Buyer Momentum and Boosting DRAM Revenue by Nearly 20%, Says TrendForce(TrendForce、2023年12月4日)https://www.trendforce.com/presscenter/news/20231204-11942.html
  • 2023年3月期 連結決算概要(キオクシアホールディングス、2023年5月12日)https://www.kioxia-holdings.com/content/dam/kioxia-hd/shared/about/asset/Financial-Results-FY2022-4Q-ja.pdf
  • HP Q4 2025 earnings call quote(Enrique Lores)(ai、日付表示なし)https://ceointerviews.ai/quote/memory-costs-are-currently-15-to-18-of-MTA0NzcwMg/
  • メモリ、SSD、HDDの価格が急上昇でまとめ買い続出。一部ショップで購入制限が始まる(エルミタージュ秋葉原、2025年11月2日)https://www.gdm.or.jp/crew/2025/1102/610321
  • 消費税法等の施行に伴う法人税の取扱いについて(法令解釈通達)(国税庁、1989年3月1日、2023年12月27日最終改正)https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/hojin/890301/index.htm