東雲結子:石井先生、確定申告の準備で取引所の取引履歴をダウンロードしたら、CSVが数千行もありました。マウスのホイールのほうが、先に音を上げそうです。
税理士石井:ははは、ホイールにも繁忙期があったんですね。それにしても、何をそんなに取引したんですか?
東雲結子:ビットコインでイーサリアムを買って、それをまた別のコインに替えて……。でも、円に戻していない分は利益じゃないので、ノーカウントですよね?
税理士石井:うーん、そこが一つ目の落とし穴です。国税庁のFAQでは、暗号資産Aで暗号資産Bを買うと、Aを手放したことになるので、Aの利益を計算する必要があります。円に戻していなくても、です。
東雲結子:えっ、コインからコインへの乗り換えにも、ちゃんと改札があったんですか……。
税理士石井:ありました。しかも今のルールでは、利益は原則として雑所得で、給与などと合算する総合課税です。所得税と復興特別所得税、住民税を合わせた最高の税率は55.945%になります。
東雲結子:ごじゅうご……。でも大丈夫です。秋からの値下がりで損も出したので、お給料と相殺して取り返します!
税理士石井:おっと(汗)、そこが二つ目の落とし穴です。暗号資産の雑所得で出た損失は、給与所得など他の所得から差し引けません。翌年に繰り越すこともできないんです。大家さんの不動産所得の赤字が、原則として給与と損益通算できるのとは対照的です。
東雲結子:損だけ置いてきぼり……。CSVの数千行が、急に重たく見えてきました。
税理士石井:そこで令和8年度の税制改正大綱は、登録された暗号資産を申告分離課税の20%にして、損失の3年繰越も認める方向を示しました。ただし金融商品取引法の改正が前提で、いつから使えるかは2026年1月31日の時点では決まっていません。今のルールと大綱の方向を分けて、順番に見ていきましょう。
連載の第9回は、仮想通貨(暗号資産)の税金です。この連載ではビットコイン(BTC)の値動きを過去のサイクルから読み解いていますが、手元に残るお金は、税金を引いたあとの金額で決まります。しかも仮想通貨の税金は、暴落の年と回復の年とで、効き方がまったく違います。
この回では、2026年1月31日時点の法令と国税庁のFAQ(2025年12月26日版)にもとづく「今のルール」と、2025年12月26日に閣議決定された令和8年度税制改正大綱の「方向」を、はっきり分けて整理します。大綱は法律ではなく、内容は今後の法改正で決まります。最後に、仮想通貨や関連株を持つ人の投資の目線でも、税引き後の数字を読み直します。
税の判断は、所得の全体や取引の中身によって変わります。ここで示す例や計算は、しくみを理解するための当ブログの説明です。実際の申告は、ご自身の数字で確かめてください。
| この記事の要点 | 根拠となる数字 |
| 今は原則として雑所得の総合課税。最高税率は55.945%で、暗号資産どうしの交換も利益を計算する対象になる | 45%×(1+2.1%)+10%=55.945%(課税所得4,000万円超の部分)。国税庁FAQ 1-3(2025年12月26日版) |
| 暴落の年の損失は、給与など他の所得と通算できず、翌年に繰り越すこともできない | FAQ 2-11、所得税法69条1項。繰り越せないことは、所得税法2条1項25号・70条1項からの当ブログの読み方 |
| 令和8年度大綱は、特定暗号資産を申告分離20%・損失の3年繰越とする方向。適用開始日は2026年1月31日時点で未定 | 復興特別所得税込みで20.315%(15%×1.021+5%)。「金融商品取引法の改正法の施行の日の属する年の翌年の1月1日」以後の譲渡等 |
| 投資の目線:利益のうち税引き後に残る割合は、今の最高税率なら44.055%、大綱の分離課税なら79.685%。損失の扱いの差は、暴落と回復をまたぐときに大きく効く | 100%−55.945%、100%−20.315%(当ブログの計算)。税率の差は最大35.63ポイント |
仮想通貨の税金は、今は原則として雑所得の総合課税
国税庁のFAQは、暗号資産の取引で生じた利益について、「原則として雑所得(その他雑所得)に区分されます。」としています(FAQ 2-2)。ただし、その年の暗号資産の取引の収入金額が300万円を超える場合は、帳簿書類の保存があれば「原則として、事業所得」、保存がなければ「原則として、雑所得(業務に係る雑所得)」とされます。
雑所得は、給与所得や不動産所得などと合算して税率をかける総合課税です。所得税は課税所得が増えるほど税率が上がる累進課税で、そこに復興特別所得税(所得税額の2.1%)と住民税(標準税率で10%)が加わり、最高税率は55.945%になります。
| 課税総所得金額 | 所得税 | 復興特別所得税を含む | 住民税10%を加えた合計 |
| 195万円以下 | 5% | 5.105% | 15.105% |
| 195万円超〜330万円以下 | 10% | 10.21% | 20.21% |
| 330万円超〜695万円以下 | 20% | 20.42% | 30.42% |
| 695万円超〜900万円以下 | 23% | 23.483% | 33.483% |
| 900万円超〜1,800万円以下 | 33% | 33.693% | 43.693% |
| 1,800万円超〜4,000万円以下 | 40% | 40.84% | 50.84% |
| 4,000万円超 | 45% | 45.945% | 55.945% |
※数値は、所得税法89条1項、復興財源確保法13条、地方税法35条1項・314条の3第1項(いずれも2026年1月31日時点)をもとに当ブログが計算した限界税率の目安。住民税は翌年度に前年の所得にかかり、所得控除の額も所得税と違うため、実際の負担とは一致しない。
最高税率は、45%×(1+2.1%)=45.945%に、住民税の10%を足して55.945%です。大綱では、2027年以後は防衛特別所得税1%と復興特別所得税1.1%の組み合わせになる方向で、この部分は45%×(1+1%+1.1%)=45.945%と、合計は変わらない計算です(当ブログの計算)。
比べると、上場株式の譲渡益は、申告分離課税で一律20.315%(所得税15%と復興特別所得税、住民税5%)です。仮想通貨の利益は、ほかの所得とあわせた全体の大きさで税率が決まるので、所得の多い人ほど負担が重くなる。ここが株式との大きな違いです。
証拠金を使った暗号資産の取引(暗号資産証拠金取引)も、FAQ 2-12で「総合課税の対象になります。」とされています。現物でも証拠金取引でも、今のルールでは総合課税の枠の中にいる、ということです。
用語メモ:総合課税=給与や不動産所得など、ほかの所得と合算して累進税率をかける方式。申告分離課税=ほかの所得と分けて、決まった税率で計算する方式。限界税率=所得が1円増えたときに、その1円にかかる税率。
売ったときだけでなく、暗号資産どうしの交換でも利益を計算する
CSVが数千行になる人がまず確かめたいのが、交換の扱いです。FAQ 1-3は、「保有する暗号資産Aを他の暗号資産Bと交換した場合、暗号資産Aで暗号資産Bを購入したことになりますので」としていて、このとき暗号資産Aの譲渡の所得を計算する必要があります。
円に戻していなくても、交換のたびに、手放した側の利益や損失が生まれるわけです。値上がりしたビットコインで別の銘柄に乗り換えれば、その時点でビットコインの利益が出ます。

図は、個人が仮想通貨を売ったり、別の仮想通貨と交換したり、支払いに使ったりして(商品の購入はFAQ 1-2「暗号資産で商品を購入した場合」)所得(利益)が出たときの流れを、左に今のルール、右に大綱の方向として並べたものです。左の列は、所得の区分が「原則として雑所得(その他雑所得)」、税金のかけ方が総合課税で最高55.945%、損失は他の所得と通算できず繰越もできない(赤い枠)、と続きます。その下に、給与所得者の20万円の基準と住民税の申告、年間取引報告書の扱いを添えました。
右の列は、対象が「特定暗号資産」を暗号資産取引業(仮称)を行う者に譲渡等した場合で、他の所得と分離して20%(復興特別所得税込みで20.315%)、損失は3年の繰越控除が可能(緑の枠)、適用は「金融商品取引法の改正法の施行の日の属する年の翌年の1月1日」以後で、2026年1月31日時点では未定、という流れです。左右の枠の色の違いは、暴落の年に出た損失の行き先の違いを表しています。
交換や売却の利益を計算するには、手放した暗号資産の取得価額が要ります。FAQ 2-5は、「「総平均法」又は「移動平均法」のいずれかの評価方法」で計算し、暗号資産の種類ごとに選ぶとしています。初めて取得した年分の確定申告期限(原則として翌年3月15日)までに届出書を出さなければ、評価方法は総平均法になります。
大家業でいえば、物件ごとの取得費の記録にあたるのが、この取得価額です。ただ、仮想通貨は同じ銘柄を何度も少しずつ買い足し、ほかの銘柄にも乗り換えます。1単位あたりの取得価額をどの方法で決めるかが、数千行のCSVを利益に変える計算の土台になります。
年間取引報告書についても、誤解がよくあります。国税庁は、暗号資産交換業者に対して「年間取引報告書」の交付を「お願いしています」(FAQ 2-7)という立場で、法律で義務づけられたものではありません(当ブログの読み方)。報告書の数字は、国税庁の「暗号資産の計算書(総平均法用)」に入力して計算に使えます(FAQ 2-8)。
用語メモ:総平均法=1年間に持っていた同じ暗号資産について、年初の分と1年間に買った分の取得価額の合計を、数量の合計で割った平均の単価を使う方法。移動平均法=買うたびに、それまでの分と合わせた平均の単価を計算し直す方法。
暴落の年は、損失を給与と通算できず、翌年にも繰り越せない
暴落の年に、いちばん効いてくるのがこのルールです。FAQ 2-11は、「雑所得の金額の計算上生じた損失については、給与所得など他の所得から差し引く(通算する)ことはできません。」と書いています。所得税法69条1項で、他の所得と通算できる損失は、不動産所得・事業所得・山林所得・譲渡所得の損失に限られているためです。
翌年への繰越もできません。FAQは繰越に触れていませんが、所得税法で繰り越せるのは、損益通算をしてもなお控除しきれない「純損失」(2条1項25号)のうち、青色申告の年のもの(70条1項)などです。雑所得の損失は、そもそも69条の損益通算の対象外なので純損失にならず、繰り越せない。これが条文からの当ブログの読み方です。
一方で、同じ年の雑所得の中であれば、暗号資産の利益と損失は差し引きできます(当ブログの導出)。ある銘柄で出た利益と、別の銘柄を手放して出た損失を、同じ年のうちに相殺することは可能です。
| 例(説明のための数字) | 1年目:暗号資産で100万円の損失 | 2年目:暗号資産で100万円の利益 |
| 今のルール(雑所得・総合課税) | 給与など他の所得と通算できず、繰り越せない | 100万円がそのまま課税の対象 |
| 大綱の方向(特定暗号資産・申告分離) | 一定の要件の下で、翌年以後3年内に繰越控除 | 繰り越した損失と相殺し、課税の対象は0円 |
※ほかの暗号資産の取引や所得控除は考えない単純な例。大綱の方向は、適用開始日以後に行う特定暗号資産の譲渡等が対象で、2026年1月31日時点では法律ではない。
2年を通した損益はゼロでも、今のルールでは2年目の100万円にまるごと税金がかかります。その100万円が最高税率の段階にかかる人なら、税額は約55.9万円です(100万円×55.945%、当ブログの計算)。空室だらけの年の赤字は持ち越せず、満室に戻った年の黒字にだけ税金がかかる物件を想像してみてください。暴落と回復をまたいだ人ほど、税引き後の手取りが削られる構造です。
大綱の注には、もう一つ大事な点があります。分離課税(①)と繰越控除(③)は、「適用開始日」以後に行う特定暗号資産の譲渡等について適用する、とされています。適用開始日より前に出た損失を、新しい繰越の対象に含める書き方にはなっていません(当ブログの読み方)。
適用開始日は、改正法の施行の日が属する年の翌年の1月1日です。施行がどれだけ早くても、2026年中に売って出た損失は、今のルールで扱われる計算になります(当ブログの読み方)。次の底をシナリオで考える回の、底の時期の目安(2026年10〜11月)も、この中に入ります。
給与所得者の「20万円」と、住民税の申告は分けて考える
会社員などの給与所得者には、「20万円以下なら確定申告は不要」という話がよく知られています。所得税法121条1項1号では、給与等の金額が2,000万円以下で、1か所から給与を受けて年末調整を済ませている人が、給与所得と退職所得以外の所得金額が20万円以下なら、確定申告を要しないとされています。判定は、収入ではなく所得、つまり利益で行います。
この基準は、思った以上に多くの人に関わります。国内の交換業者の口座は「延べ1,300万口座を超え」、利用者の預託金残高は「5兆円以上」(2025年10月時点、日本暗号資産等取引業協会のデータ)。一方で、「個人口座の預かり資産額は8割以上が10万円未満」(同協会の2024年度の年間報告)です(いずれも金融審議会のワーキング・グループ報告による)。少額で持つ人が多いからこそ、20万円の基準と住民税の申告の区別は、身近な論点です。
ただし、ここで終わりではありません。住民税の申告が要らないのは、地方税法317条の2第1項で、前年に給与所得以外の所得がなかった人などに限られています。暗号資産の利益があれば、住民税の申告は必要になる、というのが条文からの当ブログの読み方です。
医療費控除などで確定申告をするなら、20万円以下の暗号資産の所得も含めて申告することになる、と当ブログでは読んでいます(所得税法120条からの導出で、国税庁のページでは確認できていません)。
大家さんの場合は、不動産所得も「給与所得及び退職所得以外の所得」に入ります。暗号資産の利益と不動産所得を合わせて20万円の基準を判定するので、不動産所得だけで20万円を超える人は、暗号資産の利益の大小にかかわらず、この基準には当てはまりません(条文からの当ブログの読み方)。
令和8年度大綱は、特定暗号資産を申告分離20%にする方向を示した
2025年12月26日に閣議決定された令和8年度税制改正大綱は、暗号資産の課税を大きく変える方向を示しました。冒頭に置かれているのは、「金融商品取引法等の改正を前提に、次の措置を講ずる。」という一文です(大綱の22ページ)。
| 項目 | 大綱の内容(原文・要点) | 大綱の頁 |
| 対象 | 暗号資産取引業(仮称)を行う者に対する「特定暗号資産」(金融商品取引業者登録簿に登録されている暗号資産等)の譲渡等 | 23ページ① |
| 税率 | 「他の所得と分離して20%(所得税15%、個人住民税5%)の税率により課税する。」 | 23ページ① |
| 損失の繰越 | 「翌年以後3年内の各年分の特定暗号資産に係る譲渡所得等の金額からの繰越控除を可能とする。」 | 23ページ③ |
| デリバティブ | 特定暗号資産のデリバティブ取引を、先物取引の分離課税と損失の繰越の対象に加える | 23ページ④ |
| 投資信託 | 「特定暗号資産を投資の対象とする投資信託の受益権」を一般株式等に加える | 23ページ⑤ロ |
| それ以外の暗号資産 | 総合課税の譲渡所得になる暗号資産は、特別控除なし、5年超保有の2分の1課税なし、他の総合課税の所得との損益通算なし | 23〜24ページ⑥ |
| 報告制度 | 暗号資産取引業者が、取引した人の氏名・住所・個人番号等を、翌年1月31日までに税務署長へ提出 | 23ページ② |
| 適用開始日 | 「金融商品取引法の改正法の施行の日の属する年の翌年の1月1日」以後の譲渡等 | 24ページ注1 |
※大綱は2026年1月31日時点で法律ではない。復興特別所得税を含む税率は、15%×1.021+5%=20.315%(当ブログの計算)。
いちばん大きいのは、税率と損失の扱いです。大綱どおりに法律になれば、総合課税で最高55.945%だった税率が、特定暗号資産については一律20.315%の税率になり、損失は翌年以後3年内の利益から差し引けるようになる。株式の譲渡益に近い扱いへの転換です。
ただし、対象は「特定暗号資産」に限られます。金融商品取引業者登録簿に登録された暗号資産等を、暗号資産取引業(仮称)を行う者に譲渡等した場合です。どの暗号資産が登録の対象になるかは、金商法の改正を待つ必要があります。報道では、金融庁は国内の交換業者が取り扱う105銘柄を金商法上の金融商品として扱う方針とされていますが(ビットバンクプラス、2025年11月16日)、これが大綱の「特定暗号資産」の範囲とどう対応するかは、2026年1月31日の時点では示されていません(当ブログが確かめた範囲)。
それ以外の暗号資産のうち、総合課税の譲渡所得になるものは、特別控除や5年超保有の2分の1課税、他の総合課税の所得との損益通算を適用しない方向です(⑥、改正金商法の施行の日の属する年の翌年分以後の所得税から)。分離課税の外に残る暗号資産は、譲渡所得の特例を使えないことも、あわせて押さえておきたい点です。
証拠金を使ったデリバティブ取引も、大綱では変わる方向です。特定暗号資産に係るものは、先物取引と同じ分離課税と損失の繰越の対象に加える方向です(④、適用開始日以後の差金等決済から)。今は、FAQ 2-12のとおり総合課税ですから、ここも大きな転換になります。
もう一つ、見落とせないのが報告制度です。暗号資産取引業者が、特定暗号資産を取引した人の氏名、住所、個人番号などを、翌年1月31日までに税務署長に提出する仕組みで(②)、適用開始日の属する年の翌年1月1日以後の取引が対象とされています。今の年間取引報告書が国税庁の「お願い」にとどまるのと比べると、取引の記録が税務署に届く仕組みが、法律の上で整う方向です。
投資信託については、大綱の文言は「特定暗号資産を投資の対象とする投資信託の受益権」で、ETF(上場投資信託)という言葉は使われていません。金融庁の要約資料は「暗号資産ETF等については、投信法施行令の改正を前提に、分離課税とする。」と書いています。日本取引所グループの山道CEOは2025年11月20日の会見で、暗号資産は「ETF、あるいは投資信託等の対象資産にはならない、なれない」と、今の制度では扱えないことを説明していました。
そして、いつから使えるか。大綱の注は、分離課税と繰越控除の適用を「金融商品取引法の改正法の施行の日の属する年の翌年の1月1日」以後の譲渡等としています。改正法の施行日が決まらない限り、適用開始日も決まりません。仮に施行が2027年中なら2028年1月1日から、という計算例はありますが、予測ではありません。
改正案の提出時期について、2026年1月31日までに、金融庁や大臣が時期を示した一次資料は見つかっていません。大和総研は2026年1月26日のレポートで、「2026年の国会に金商法の改正法案が提出される見込みである」と書いています(二次資料)。その土台となる金融審議会のワーキング・グループの報告(2025年12月10日)は、暗号資産を「有価証券とは別の規制対象として金商法に位置付けることが適当」とし、インサイダー取引規制の創設も示しました。
用語メモ:大綱=与党と政府がまとめる、翌年度以降の税制改正の方針。法案として国会に出され、成立して初めて法律になります。金商法=金融商品取引法。特定暗号資産=大綱が分離課税の対象とする、金融商品取引業者登録簿に登録された暗号資産等。
法人で持つ場合は、期末の時価評価が暴落の年に効いてくる
法人で暗号資産を持つ場合は、ルールががらりと変わります。法人税法61条では、活発な市場がある暗号資産(市場暗号資産)を自己の計算で持っている法人は、期末に時価で評価し、評価益や評価損をその事業年度の益金・損金に入れます。時価は、価格等公表者が公表した期末日の最終の売買の価格です。
国税庁のFAQ 3-1-3は、この評価損益は「翌事業年度で洗替処理をすることになります。」としています。暴落の年に期末を迎えると、売っていなくても評価損が損金になります。逆に、回復の年に期末を迎えれば、売っていない評価益が益金に入ります。売却や交換のときに利益を計算する個人の雑所得とは、税金が動くタイミングが違うわけです。
譲渡原価の計算方法も、個人と逆です。法人は移動平均法が法定の方法で、総平均法を使うなら届出が要ります(FAQ 3-1-2)。個人は、届出がなければ総平均法でした。
令和6年度の改正で、他者が発行した暗号資産のうち、譲渡についての制限などの条件が付され、その公表の手続がとられた「特定譲渡制限付暗号資産」は、時価法と原価法を選べるようになりました(届出がなければ原価法、法人の令和6年4月1日以後に終了する事業年度から)。自分で発行して持ち続ける暗号資産を期末の時価評価から外す令和5年度の改正もありますが、こちらの適用時期は当ブログでは確認できていません。
法人の欠損金は、法人税法57条で、一定の要件の下、10年以内に開始した事業年度の分を繰り越して控除できます(大法人などは所得の50%まで)。個人の雑所得の損失が繰り越せないのとは対照的です。ただ、法人で持つかどうかは、会社を持つこと自体の手間や費用も含めた別の検討が要ります(当ブログの見方)。
会計では、企業会計基準委員会の実務対応報告第38号が、活発な市場がある暗号資産は市場価格で評価し、差額を当期の損益にするとしています。日本の会計基準で決算をする、ビットコインを大量に持つ上場企業の利益がビットコインの値動きで大きく振れるのは、このためです。詳しくは、メタプラネットの決算を読む別の連載で扱っています。
用語メモ:洗替え=期末に時価で評価した差額を、翌事業年度に元の帳簿価額に戻して計算し直すこと。市場暗号資産=継続的に売買の価格が公表され、十分な数量と頻度で取引されているなどの要件を満たす暗号資産(法人税法施行令118条の7で定める)。
暴落の年と回復の年に、気をつけておきたいこと
ここまでのルールを、相場の局面に当てはめてみます。以下は当ブログの見方で、個々の判断は所得の全体や取引の中身で変わります。
暴落の年は、個人の場合、損失が「その年の雑所得の中」でしか生きません。同じ年に暗号資産の利益があれば差し引けますが、残った損失は翌年に持ち越せない。損と益の出る年がずれると、税の上では損失が消えてしまう。この一点を知っているだけでも、取引の記録の見え方が変わるはずです。
回復の年は、利益が総合課税で、給与や不動産所得と合算されます。大家さんで、不動産所得や給与がすでに大きい人ほど、暗号資産の利益には高い税率がかかります。課税所得4,000万円超の部分なら55.945%で、手元に残るのは44.055%です(当ブログの計算)。
交換も利益を計算する対象になるので、円に戻していなくても、乗り換えのたびに利益や損失が積み上がります。取引所のCSVと年間取引報告書は、数字が膨らむ前にそろえておくと、申告の時期に慌てずに済みます。
そして、移り変わりの時期です。大綱の方向が法律になれば、適用開始日を境に扱いが変わります。適用開始日より前の損失は、新しい繰越の対象として書かれていません。移行の時期をまたいで売買する人ほど、成立した法律の条文と施行日を、自分の目で確かめる必要があります。
仮想通貨の税金を、投資の目線で読み直す:税引き後に残るのは44%か80%か
ここからは、仮想通貨やその関連株を持つ人、眺めている人にとって、税の違いが何を意味するかを考えます。どれを選ぶべきかではなく、性格の違いの整理です。
まず、税引き後の手取りです。課税所得4,000万円超の部分にかかる今の最高税率55.945%なら、利益のうち手元に残るのは44.055%。大綱の分離課税の20.315%なら79.685%です(当ブログの計算)。税率の差は最大で35.63ポイントで、値動きのシナリオで見た上昇率も、税引き後では大きさがずいぶん変わって見えます。
次に、損失の扱いの非対称です。今のルールでは、暴落の年の損失は他の所得と通算できず、繰り越すこともできません。値動きの大きい資産ほど、損と益の年がずれやすく、税引き後の成績は税引き前より見劣りしやすい構造です。過去のサイクルのように、底から前の天井の回復まで469〜721日をまたぐ道では、この非対称が効いてきます(当ブログの見方)。
関連株との違いも見ておきます。ストラテジー(旧マイクロストラテジー)やメタプラネット、コインベースのような上場株式の譲渡益は、申告分離課税の20.315%です。上場株式等の譲渡損失は、申告分離課税を選んだ上場株式等の配当と損益通算でき、確定申告をすれば翌年以後3年間繰り越せます(売却のない年も申告が必要)。外国株は、円に換算した譲渡益にかかるので、為替の動きも利益や損失に入ります。
一方で、NISA(少額投資非課税制度)の口座で買った上場株式の損失は、なかったものとみなされます。ビットコインとの値動きのつながりが似た銘柄でも、税の性格は直接持つ場合とまったく違う、ということです。こうした会社そのものは、米国の暗号資産関連株を読む別の連載や、メタプラネットの決算を読む別の連載で詳しく扱っています。
| 確かめる点 | 2026年1月時点の数字 | 当ブログの見方 |
| 今の最高税率 | 55.945%(課税所得4,000万円超の部分) | 所得の多い人ほど、暗号資産の利益の手取りは薄い |
| 大綱の税率 | 20.315%(申告分離、特定暗号資産) | 法律になるまでは、今のルールで計算する |
| 適用開始日 | 未定(金商法の改正法の施行日の属する年の翌年1月1日以後) | 施行日が決まるまで、移行の時期は読めない |
| 金商法の改正案 | 提出時期を示した一次資料はなし(大和総研は2026年の国会に提出の見込み、2026年1月26日) | 報道より、国会への提出と成立の公表で確かめる |
| 暗号資産のETF | 日本では扱えない(2025年11月20日の日本取引所グループCEOの会見) | 大綱は投資信託の受益権を一般株式等に加える方向。前提の法令改正を待つ |
値動きのシナリオを眺めるときに、税引き後の数字を横に並べておく。それだけで、同じ+58.68%(1月31日の終値から天井の回復まで)でも、今のルールの最高税率と大綱の分離課税とでは、手元に残る割合が違って見えてくるはずです。
仮想通貨の税金は「今のルール」で計算し、「大綱の方向」は施行日が決まってから
仮想通貨の税金は、2026年1月31日時点では、原則として雑所得の総合課税で、最高税率は55.945%になります。暗号資産どうしの交換も利益を計算する対象で、暴落の年に出た損失は給与など他の所得と通算できず、翌年に繰り越すこともできません。
令和8年度税制改正大綱は、特定暗号資産を申告分離20%(復興特別所得税込みで20.315%)にして、損失の3年繰越を認める方向を示しました。ただ、適用開始日は金商法の改正法の施行日しだいで、2026年1月31日の時点では決まっていません。
この連載が読み解いている過去のサイクルでは、ビットコインは天井から364〜406日で底をつけ、底から469〜721日で前の天井を取り戻してきました。損と益が別々の年に出やすいこの値動きと、損失を持ち越せない今の税のルールは、相性がよいとは言えない、というのが当ブログの見方です。
これから見ていきたいのは、金商法の改正案の国会への提出と成立、その施行日、特定暗号資産の範囲、そして国税庁のFAQの改訂です。
大家として確定申告を毎年くり返していると、相場の上げ下げより、損と益がどの年に出るかのほうが、手元のお金を左右する場面が少なくないと感じます。税の判断は一人ひとり違いますので、実際の申告はご自身の数字で確かめてください。次の底の時期と水準をシナリオで考える回、その次の上昇の時期を2028年の半減期から考える回、4年サイクルの仕組みを取り上げる回もあわせてどうぞ。
※本記事は公表資料をもとにした情報提供を目的としたもので、暗号資産(仮想通貨)や特定の銘柄の売買を勧めるものではありません。価格の時期やシナリオは、過去のデータに当ブログが置いた前提を当てはめた試算で、将来の価格を予想・保証するものではありません。暗号資産は価格の変動が大きく、投資した金額を大きく下回ることがあります。
※価格は暗号資産のデータ提供サイトの日足終値(協定世界時)などの公表資料をもとに当ブログが集計・計算したもので、四捨五入の関係で合計が合わない場合があります。数値は2026年1月31日までに公表・観測されたもので、時点は本文・表に記載しています。税制は2026年1月31日時点の法令にもとづき、令和8年度税制改正大綱の内容は今後の法改正で決まります。
出典・参考
- 暗号資産等に関する税務上の取扱いについて(FAQ)(国税庁、2025年12月26日)https://www.nta.go.jp/publication/pamph/pdf/virtual_currency_faq_03.pdf
- 所得税法 第2条・第69条・第70条・第89条・第120条・第121条(e-Gov法令検索、2026年1月31日時点の版)https://laws.e-gov.go.jp/api/2/law_data/340AC0000000033?asof=2026-01-31&elm=MainProvision-Article_89&response_format=json
- 東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置法 第13条(e-Gov法令検索、2026年1月31日時点の版)https://laws.e-gov.go.jp/api/2/law_data/423AC0000000117?asof=2026-01-31&elm=MainProvision-Article_13&response_format=json
- 地方税法 第35条・第314条の3・第317条の2(e-Gov法令検索、2026年1月31日時点の版)https://laws.e-gov.go.jp/api/2/law_data/325AC0000000226?asof=2026-01-31&elm=MainProvision-Article_35&response_format=json
- 法人税法 第61条(e-Gov法令検索、2026年1月31日時点の版)https://laws.e-gov.go.jp/api/2/law_data/340AC0000000034?asof=2026-01-31&elm=MainProvision-Article_61&response_format=json
- 法人税法 第57条(e-Gov法令検索、2026年1月31日時点の版)https://laws.e-gov.go.jp/api/2/law_data/340AC0000000034?asof=2026-01-31&elm=MainProvision-Article_57&response_format=json
- 法人税法施行令 第118条の7(e-Gov法令検索、2026年1月31日時点の版)https://laws.e-gov.go.jp/api/2/law_data/340CO0000000097?asof=2026-01-31&elm=MainProvision-Article_118_7&response_format=json
- 令和8年度税制改正の大綱(閣議決定、財務省、2025年12月26日)https://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/fy2026/20251226taikou.pdf
- 令和8(2026)年度税制改正について(金融庁、2025年12月)https://www.fsa.go.jp/news/r7/sonota/20251226-2/01.pdf
- 令和6年度 税制改正の解説 法人税法の改正(財務省、2024年)https://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/fy2024/explanation/PDF/p0327-0381.pdf
- 令和5年度税制改正の大綱(財務省、2022年12月)https://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/fy2023/05taikou_03.htm
- ASBJ、実務対応報告第38号「資金決済法における仮想通貨の会計処理等に関する当面の取扱い」を公表(EY、2018年3月19日)https://www.ey.com/ja_jp/technical/corporate-accounting/accounting-topics/2018/accounting-topics-2018-03-19
- 金融審議会「暗号資産制度に関するワーキング・グループ」報告(金融庁、2025年12月10日)https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20251210/01.pdf
- 大和のクリプトナビ6 暗号資産制度WG報告と今後の注目点(大和総研、2026年1月26日)https://www.dir.co.jp/report/research/law-research/securities/20260126_025553.html
- 金融庁、国内交換業者が取り扱う105銘柄を金商法上の金融商品として扱う方針(ビットバンクプラス、2025年11月16日)https://bitbank.cc/knowledge/breaking/article/ggyx6cswz4e
- 定例記者会見 要旨(日本取引所グループ 山道CEO、2025年11月20日)https://www.jpx.co.jp/corporate/news/press-conference/t13vrt0000004etg-att/20251120_JP.pdf
- 租税特別措置法 第37条の11(上場株式等に係る譲渡所得等の課税の特例)(e-Gov法令検索、2026年1月31日時点の条文で確認)https://laws.e-gov.go.jp/law/332AC0000000026
- 租税特別措置法 第37条の12の2(上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除)(e-Gov法令検索、2026年1月31日時点の条文で確認)https://laws.e-gov.go.jp/law/332AC0000000026
- 新NISAの概要(国税庁、日付表示なし)https://www.nta.go.jp/users/gensen/nisa/pdf/shinnisa.pdf
- ビットコイン価格(日足、2026年1月):Yahoo Finance「BTC-USD」履歴データ(CoinMarketCapのデータ、2026年1月31日の終値まで)https://finance.yahoo.com/quote/BTC-USD/history/?frequency=1d&period1=1767225600&period2=1769904000
- ビットコイン価格(月足、2014年9月〜2025年12月):Yahoo Finance「BTC-USD」履歴データ(天井・底・回復の日数の計算に使用)https://finance.yahoo.com/quote/BTC-USD/history/?frequency=1mo&period1=1388534400&period2=1767225600































