東雲結子:石井先生、今夜は事務所の屋上で星空観察会です! ニコンの双眼鏡も用意しました。ニコンって、カメラと双眼鏡の会社ですよね?

税理士石井:うーん、半分は正解です。決算書を開くと、星ではなく半導体の回路を相手にするレンズの機械が出てきます。露光装置をつくる「精機事業」で、2025年3月期の売上の28.2%を占めています。

東雲結子:えっ、私が双眼鏡で夜空をのぞいている間に、本業がこっそり別の星座へ引っ越していたんですか?

税理士石井:ははは、引っ越したわけではありません。2021年3月期には売上の約4割を占めていた、大きな部屋なんです。ところが、その部屋の利益率は、2022年3月期の18.7%から2025年3月期には0.8%まで下がりました。

東雲結子:0.8%……。この双眼鏡の倍率でも見えない明るさです。

税理士石井:しかも会社が2025年11月に示した見通しでは、2026年3月期の半導体露光装置は29台で、そのうちArF液浸という機種は0台です。

東雲結子:0台! 星座から一等星がまるごと抜けたみたいな……。でも、中間期の精機事業は30億円の黒字ですよね? 回復の兆しでは!

税理士石井:おっと(汗)、そこが落とし穴です。その30億円には、事業の一部をSCREENに売った譲渡益が約30億円入っています。大家業でいえば、家賃で黒字になったのではなく、敷地の一部を売った代金で通帳が黒字に見えている状態ですね。

東雲結子:家賃の通帳だと思ったら、売却代金の通帳だった……。望遠鏡の向きを逆にのぞいていました。

税理士石井:ふふ、向きを直せば大丈夫です。ニコン全体をざっと眺めたあと、精機事業を、台数、利益、区分の組み替え、会社の説明の順に、ピントを合わせて読んでいきましょう。

連載の第10回は、ニコン(証券コード7731、3月決算)です。カメラや双眼鏡のイメージが強い会社ですが、この連載で読みたいのは、半導体露光装置とFPD(フラットパネルディスプレイ)露光装置を手がける精機事業です。ニコンの露光装置は、決算書の上では5つある事業の区分(セグメント)の一つ、精機事業の中にあります。

会計基準はIFRS(国際会計基準)です。この回では、まずグループ全体の5年間の業績、財務の安全性、キャッシュフローと株主還元、2026年1月30日時点の株価指標を手短に確かめます。そのうえで精機事業に絞り、機種別の販売台数、セグメント利益、区分の組み替え、会社自身の説明をじっくり読んでいきます。

最新の決算は、2025年11月6日に公表された2026年3月期の中間期(2025年4〜9月)です。単位は断りがなければ億円で、会社が百万円で開示した値を四捨五入しています。同じく露光装置をつくるキヤノンは、キヤノンの半導体露光装置を取り上げる回で詳しく見ます。

後半では、決算の数字を株式投資の銘柄選びにどうつなげるかも、アナリストの目線で整理します。ニコンの株価は精機だけでなく会社全体の値段なので、その中で露光装置がどれほどの重さかも数字で確かめます。

この記事の要点 根拠となる数字
精機事業の利益率は3年で大きく下がった 18.7%(2022年3月期・新区分)→0.8%(2025年3月期)
2026年3月期の半導体露光装置は29台、うちArF液浸は0台の予想 2025年11月6日の会社予想。2024年3月期の実績は46台
中間期の精機の利益30億円は、ほぼ事業の譲渡益 譲渡益約30億円を除くと約0.7億円(当ブログの計算)
銘柄選びの目線:利益予想の大きな伸びは小さな前期からの反動、株価は純資産並み 2026年3月期の当期利益予想+226.6%(61億円→200億円)、PBR0.98倍、2025年の株価+6.4%

※利益率はセグメント利益÷外部売上収益(当ブログの計算)。区分の組み替えは本文で説明します。

ニコンの露光装置は精機事業に入り、売上の28.2%を占める

ニコンの報告セグメントは、映像、精機、ヘルスケア、コンポーネント、デジタルマニュファクチャリング(DM)の5つです。露光装置を扱うのが精機事業で、半導体露光装置とFPD露光装置のほか、半導体の後工程向けのデジタル露光装置DSP-100なども含みます。

2025年3月期(億円) 外部売上収益 構成比 セグメント利益
映像 2,954 41.3% 413
精機 2,020 28.2% 15
ヘルスケア 1,165 16.3% 67
コンポーネント 741 10.4% 72
デジタルマニュファクチャリング 234 3.3% −152
連結 7,153 100.0% 営業利益24

※2025年3月期(2024年4月〜2025年3月)、IFRS・連結。構成比は連結の売上収益に対する比率で、当ブログの計算。5つのセグメントの外部売上の合計は連結より40億円少なく、差の中身はこの回では確認できていません。精機のセグメント利益は、減損損失79億円を差し引いた後の値です。

2025年3月期は、売上の4割強を占める映像事業がセグメント利益413億円を稼いだ一方、精機事業の利益は15億円にとどまりました。売上の28.2%を占めながら、利益への貢献はわずかです。2022年3月期(新区分)には、精機の利益395億円が映像の191億円を上回っていたことを思うと、景色は大きく変わりました。

精機の売上の比率も、2021年3月期の40.9%から2025年3月期には28.2%まで下がり、2026年3月期の中間期(2025年4〜9月)は22.3%(前年同期は24.5%)でした(いずれも当ブログの計算)。大家業でいえば、5棟を持つ大家さんの、かつての稼ぎ頭の一棟に、手取りがほとんど残らなくなっている状態です。

ですから、ニコン株は露光装置だけの銘柄ではありません。株価も全体の利益も、この一棟だけでは決まらないことを、最初に押さえておきましょう。

用語メモ:露光装置=半導体やFPDの製造で、回路などのパターンを基板に写し取る装置。FPD=フラットパネルディスプレイ(薄型の表示パネル)。IFRS=国際会計基準。セグメント=会社が事業ごとに分けて開示する区分で、セグメント利益はその区分の利益です。

ニコン全体の5年:売上は7,000億円台に乗ったが、営業利益率は0.3%に

億円 2021年3月期 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期
売上収益 4,512 5,396 6,281 7,172 7,153
売上総利益率 34.6% 43.7% 46.0% 43.2% 43.6%
研究開発費 588 599 676 711 746
研究開発費の対売上比 13.0% 11.1% 10.8% 9.9% 10.4%
営業利益 −562 499 549 398 24
営業利益率 −12.5% 9.3% 8.7% 5.5% 0.3%
親会社の所有者に帰属する当期利益 −345 427 449 326 61
ROE −6.4% 7.5% 7.4% 5.0% 0.9%

※各年3月期(前年4月〜その年の3月)、IFRS・連結。研究開発費は決算短信の値で、会社が別に示す「研究開発投資」(2025年3月期801億円)とは定義が違います。営業利益は、2021年3月期に減損損失261億円(うち精機38億円)、2025年3月期に減損損失108億円(うち精機79億円)を含みます。ROEは2021年3月期のみ会社公表値で、ほかは当ブログの計算。

売上収益は2021年3月期の4,512億円から2024年3月期の7,172億円まで伸び、2025年3月期も7,153億円とほぼ同じ水準でした。ところが営業利益は、5年の中では2023年3月期の549億円が最も大きく、2025年3月期は24億円。営業利益率は0.3%まで下がり、ROE(自己資本利益率)も0.9%です。

研究開発費は2025年3月期に746億円で、5年を通じて売上の1割前後を使い続けています。2025年3月期の営業利益を押し下げたものの一つが減損損失108億円で、そのうち79億円が精機事業の分でした。

会社は2022〜2025年度の中期経営計画で、最終年度の2026年3月期に、売上収益7,000億円、営業利益率10%以上、ROE8%以上を目標に掲げていました。ニコンレポート2025で会社は、売上以外の目標は未達の見込みと説明しています。

2026年3月期は中間期が営業赤字、通期予想は2回引き下げられた

億円 2025年3月期 中間期(2024年4〜9月) 2026年3月期 中間期(2025年4〜9月)
売上収益 3,328 3,129
営業利益 58 −48
親会社の所有者に帰属する中間利益 30 54
精機 外部売上収益 816 699
精機 セグメント利益 9 30
営業CF 385 −54

※IFRS・連結。2025年11月6日公表の中間期決算短信による。

2026年3月期の中間期は、売上収益が前年同期比6.0%減の3,129億円で、営業損益は48億円の赤字でした。それでも中間利益は54億円の黒字です。会社は、Nikon Metrology NV(ベルギーの子会社)の清算に関連する繰延税金の効果を主な理由に挙げています。

税理士の目で見ると、ここは「本業の損益」と「税金の計算上の効果」を分けて読みたいところです。繰延税金の効果は帳簿上の税金費用を軽くしますが、本業の稼ぐ力が戻ったことを示すものではありません(当ブログの見方)。営業CF(営業活動によるキャッシュ・フロー)も54億円のマイナスでした。

公表日 売上収益 営業利益 親会社帰属の当期利益 予想EPS(円)
2025年5月8日(期初) 7,100 360 300 91.23
2025年8月7日 7,000 210 270 82.08
2025年10月31日 6,800 140 200 60.78

※2026年3月期(2025年4月〜2026年3月)の会社予想、億円。10月31日の予想は、11月6日の決算短信でも据え置かれています。年間配当の予想は50円(中間25円は支払い済み)。

8月7日の修正について、会社は「上期の修正及び下期に見込まれる米国関税影響を反映し」と説明しました。10月31日の修正の理由は、「精機事業やデジタルマニュファクチャリング事業で販売が下振れる見通しのため」です。

最新の予想でも、営業利益率は約2.1%にとどまります(当ブログの計算)。中期計画で掲げた10%以上とは、大きな開きがあります。

財務の安全性:ネットキャッシュはマイナスに転じ、棚卸資産は3,387億円

億円 2021年3月末 2022年3月末 2023年3月末 2024年3月末 2025年3月末 2025年9月末
現金及び現金同等物 3,518 3,703 2,113 2,066 1,636 1,606
社債及び借入金 1,341 1,301 1,340 1,667 1,936 2,235
ネットキャッシュ 2,177 2,402 773 399 −300 −629
棚卸資産 2,358 2,390 2,773 2,852 3,075 3,387
前受金 1,631 1,393 998 719 682 755
のれん及び無形資産 441 494 1,395 1,586 1,655 1,738
親会社所有者帰属持分比率 54.3% 57.5% 58.6% 59.6% 57.4% 56.6%

※IFRS・連結。ネットキャッシュは当ブログの計算。前受金は会社の表示科目で、契約負債という科目の表示はありません。

自己資本にあたる親会社所有者帰属持分の比率は、2025年9月末で56.6%と、5割台後半を保っています。ただ、手元資金から借入を引いたネットキャッシュは2025年3月末にマイナスへ転じ、9月末は629億円のマイナスでした。借入は、2021年3月末の1,341億円から2,235億円に増えています。

のれん及び無形資産は、2022年3月末の494億円から2023年3月末の1,395億円へ増えました。この期の投資CF(投資活動によるキャッシュ・フロー)が1,121億円の流出と大きくなったのは、主にドイツの金属3DプリンターメーカーSLM Solutionsの買収(子会社の取得による支出769億円)によるものです。現金及び現金同等物もこの期に3,703億円から2,113億円へ減っており、大家業でいえば、手元の資金で新しい物件を買い足した形です。

棚卸資産は、2021年3月末の2,358億円から2025年9月末の3,387億円まで増えました。2025年3月期の棚卸資産回転日数は278.3日で、売上原価のおよそ9か月分を在庫として持っている計算です(当ブログの計算)。グループ全体の値なので、精機事業だけの在庫がどれだけあるかは、この回の資料からは分かりません。

前受金は、製品の代金を納入より前に受け取ったお金で、大家業でいえば入居前に受け取る前家賃に近いものです。ニコンの前受金は2021年3月末の1,631億円から2025年3月末の682億円まで減り、9月末は755億円でした。どの事業の前受金が減ったのか、会社の説明はこの回で参照した資料では確認できませんでした。

用語メモ:ネットキャッシュ=現金及び現金同等物から社債及び借入金を引いた値(リース負債は含めない)。棚卸資産回転日数=期末の棚卸資産÷売上原価×365。前受金=商品やサービスを提供する前に受け取った代金で、負債に計上されます。

キャッシュフローは5年のうち4年でFCFがマイナス

億円 2021年3月期 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期 2026年3月期 中間期
営業CF 50 314 0 308 483 −54
設備投資(有形固定資産の取得) 170 180 231 392 522 187
FCF −120 134 −231 −84 −39 −241
配当金の支払額+自己株式の取得 74 110 445 173 473 82

※IFRS・連結。FCF=営業CF−有形固定資産の取得(当ブログの計算)。会社は営業CFと投資CFの合計をFCFとしており、定義が違います。2023年3月期の営業CFは15百万円。

FCF(フリー・キャッシュ・フロー)がプラスだったのは、5年のうち2022年3月期だけでした。2025年3月期は営業CFが483億円に増えた一方、設備投資も522億円に膨らみ、FCFは39億円のマイナスです。会社が示す設備投資の額は、2025年3月期が693億円(本社の建設費を含む)、2026年3月期の計画が800億円です。

2026年3月期の中間期は、営業CFが54億円のマイナスとなり、FCFは241億円のマイナスでした。同じ半年で棚卸資産は3,075億円から3,387億円に増えており、在庫の積み上がりと現金の流出が重なった形です(当ブログの見方)。

大家業でいえば、返済と修繕を払ったあとに通帳に残るお金がマイナスで、その分を借入で埋めている状態に近いと思います。実際、9月末の社債及び借入金は、3月末から299億円増えました(当ブログの計算)。

株主還元:2025年3月期は利益の7倍超を配当と自社株買いに回した

会社は中期計画の期間中の目標として総還元性向40%以上を掲げ、配当は「2024年度及び2025年度は年間50円に据え置くこととしました」と説明しています。2024年10月31日には上限3,000万株・300億円の自社株買いを決議し、約300億円で取得した17,891,000株を2025年3月31日に消却しました。

その結果、2025年3月期に株主へ払ったお金は、キャッシュフロー計算書で配当173億円と自社株買い300億円の合計473億円です。純利益61億円に対する総還元性向は、772.9%に達します(当ブログの計算)。会社公表の配当性向も280.0%でした。

大家業でいえば、家賃収入が細った年に、出資者への分配を据え置き、さらに持分の買い戻しまで行ったようなものです。その間に手元資金は減り、借入は増えました。還元の厚さと財務の余力の釣り合いを、次の中期計画で会社がどう示すかを見ておきたいところです(当ブログの見方)。

用語メモ:総還元性向=配当と自社株買いの合計÷純利益。ここではキャッシュフロー計算書の支払額で計算しています。

株価指標の見え方:2026年1月30日の終値で予想PER31.9倍、PBR0.98倍

項目 値 前提
株価(2026年1月30日終値) 1,940.5円 Yahoo!ファイナンス(二次資料)
時価総額 約6,387億円 自己株式を除く株数329,161,830株(2025年9月末)
予想PER 31.9倍 2026年3月期の会社予想EPS60.78円(2025年10月31日公表)
PBR 0.98倍 2025年9月末の親会社所有者帰属持分から計算した1株あたり1,984.91円
予想配当利回り 2.58% 年間配当予想50円
2025年の株価騰落率 +6.4% 2024年12月30日の終値1,639.5円→2025年12月30日の1,744円

※当ブログの計算。グループ全体の値で、精機事業だけを評価した数字ではありません。

PER(株価収益率)31.9倍は、逆に見ると、株価に対する予想利益の割合が約3.1%ということです(当ブログの計算)。ただし分母の予想EPS(1株あたり利益)60.78円は、当期利益200億円の会社予想にもとづいた値で、営業利益の予想は140億円にとどまります。利益が小さい年のPERは高く出やすい点に注意が必要です。

PBR(株価純資産倍率)は0.98倍で、株価が帳簿上の1株あたり持分をわずかに下回る水準です。どちらも「今の利益の低さ」と「資産の厚み」を同時に映した数字で、これだけで割安・割高を決めるものではない、というのが当ブログの立場です。

なお、予想配当利回り2.58%は税金を引く前の数字です。個人投資家が受け取る配当や売却益にかかる税金は、10社を比べる回でまとめて取り上げます。

精機事業の利益率は18.7%から0.8%へ。区分の組み替えに注意

精機事業(億円) 外部売上収益 セグメント利益 利益率
2021年3月期(旧区分) 1,848 −6 −0.3%
2022年3月期(旧区分) 2,112 277 13.1%
2022年3月期(新区分) 2,112 395 18.7%
2023年3月期 2,033 244 12.0%
2024年3月期(2025年3月期の区分に組み替え) 2,194 152 6.9%
2025年3月期 2,020 15 0.8%
2025年3月期 中間期(2024年4〜9月) 816 9 1.2%
2026年3月期 中間期(2025年4〜9月) 699 30 4.4%
2026年3月期 会社予想(2025年11月6日) 1,630 50 3.1%

※利益率=セグメント利益÷外部売上収益(当ブログの計算)。新区分は、次世代プロジェクト本部を精機から全社の損益へ移した後の値。2026年3月期 中間期の利益は、事業の譲渡益約30億円を含みます。

精機事業の数字を年をまたいで比べるときは、区分の組み替えに注意が必要です。2023年3月期に、それまで精機に含まれていた次世代プロジェクト本部が全社の損益へ移り、2022年3月期の精機の利益は277億円から395億円に組み替えられました。精機の外に出た損益の分だけ、利益が117億円大きく見えるようになった計算です(当ブログの計算)。

その後、2024年3月期にはデジタルマニュファクチャリング事業が報告セグメントになり、2025年3月期には産業機器事業部がDMからコンポーネントへ移りました。表の2024年3月期は2025年3月期の区分に組み替えた値ですが、組み替え前の説明会資料の2,193億円・151億円と1億円ずつ違うのは会社資料の端数処理によるもので、精機の値は組み替えの前後で変わっていません。2021年3月期は旧区分の値しかありません。

同じ新区分どうしで比べると、精機の利益率は2022年3月期の18.7%から2025年3月期の0.8%まで下がりました。売上は2,000億円前後で大きくは変わっていないので、崩れたのは主に利益の側です。

2025年3月期の15億円には、精機の減損損失79億円が含まれます。足し戻しても約94億円、利益率約4.7%の水準で(当ブログの計算)、2024年3月期の152億円を下回っていました。減損だけで利益が消えたわけではない、ということです。

精機(億円) 2024年4〜6月 7〜9月 10〜12月 2025年1〜3月 4〜6月 7〜9月
売上収益 331 484 434 770 338 360
セグメント利益 −21 30 −15 21 18 12

※会社の参考資料に載っている四半期の値(億円)。合計は丸めの関係で上の表と1億円ずれることがあります。

四半期で並べると、2025年3月期は1〜3月期だけで売上770億円と、年間の約4割が最後の3か月に集中していました(当ブログの計算)。露光装置の売上は、納入や据付の時期しだいで四半期ごとに大きく振れることが、この並びからも読み取れます(当ブログの見方)。

中間期の精機の利益30億円は、SCREENへの事業譲渡益がほとんど

2026年3月期の中間期、精機事業の外部売上収益は前年同期比14.3%減の699億円でした。セグメント利益は30億円と、前年同期の9億円から増えています。ただしこの利益には、半導体ウェハ接合のR&D(研究開発)事業をSCREENに約30億円で譲渡した、譲渡益29.78億円が含まれます。

譲渡益を除くと、精機の中間期の利益は約0.7億円です(当ブログの計算)。同じ半年には、精機で構造改革関連費用8.9億円も計上されています。冒頭のたとえのとおり、家賃ではなく敷地の一部を売った代金で黒字になった半年、と読むのが実態に近いと思います(当ブログの見方)。

台数で見ると、中間期の半導体露光装置は9台(新品8台、中古1台)で、前年同期の10台(新品4台、中古6台)から1台減りました。新品の割合は高まっています。FPD露光装置は16台から15台でした。

ニコンの露光装置の台数は46台から28台へ、2026年3月期予想は29台でArF液浸0台

半導体露光装置(台) 2021年3月期 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期 2026年3月期予想(8月7日時点) 2026年3月期予想(11月6日時点)
ArF液浸 6 3 4 11 3 3 0
ArF 7 3 8 8 5 4 4
KrF 4 5 6 4 2 3 3
i線等 17 24 27 23 18 24 22
合計 34 35 45 46 28 34 29
うち新品 23 17 27 31 18 27 23
FPD露光装置(合計) 29 46 29 16 38 35 33

※台数は新品と中古の合計。機種別の内訳は、会社資料のグラフに書かれた数字を当ブログが読み取って並べ直したもので、どの年も合計は会社の公表値と一致します。予想は2026年3月期(2025年4月〜2026年3月)の会社予想。

半導体露光装置の販売台数は、2024年3月期の46台から2025年3月期は28台へ、18台減りました。目立つのはArF液浸で、11台から3台に減り、2026年3月期の最新の予想では0台です。台数の6割強はi線等が占めています(2025年3月期は28台中18台、当ブログの計算)。

用語メモ:ArF液浸・ArF・KrF・i線=ニコンが半導体露光装置の台数を示すときの機種の区分で、会社資料では光源の種類ごとに分けて示しています。i線等にはミニステッパーを含みます。

会社は11月6日の説明会で、「一部顧客の投資先送りなどにより装置の納入が繰延となり、半導体露光装置の販売台数は新品・中古装置合わせて8月予想から5台減の29台となる見込みです。」と説明しました。ArF液浸の予想は、8月時点の3台から0台になっています。

精機事業全体については、「精機事業は、北米主要顧客の業績不振により厳しい状況ですが、将来に向けた取り組みが進展しています。」と述べています。顧客の名前は示されていませんが、限られた大口顧客の投資計画で台数が大きく動く構造が読み取れます(当ブログの見方)。

FPD露光装置は、2025年3月期に38台と、前の期の16台から増えました。世代別(パネルをつくるガラス基板の大きさによる区分)では7/8世代が22台、5/6世代等が16台で、10.5世代は0台です(世代別もグラフからの読み取り)。2026年3月期の予想は33台です。

図の上段は、半導体露光装置の販売台数を、下からi線等、KrF、ArF、ArF液浸の順に積み上げたものです(新品と中古の合計)。2023年3月期の45台、2024年3月期の46台から2025年3月期は28台に減り、斜線で示した2026年3月期の会社予想は29台で、ArF液浸の層がありません。

下段は精機事業のセグメント利益です。新区分の2022年3月期の395億円から、244億円、152億円、15億円と3年続けて減り、斜線の2026年3月期の会社予想は50億円です。左端の−6億円は2021年3月期の旧区分の値で、右の吹き出しのとおり、中間期の30億円にはほぼ同じ額の事業譲渡益が入っています。

据付が来期にずれれば、台数も売上も来期にずれる

FPD露光装置の予想について、会社は「FPD露光装置の販売台数は2台の据付完了が来期にずれ込むため、33台となる見込みです。」と説明しています。税理士として目が留まるのは、据付の完了という言葉です。

販売台数の計上が、出荷ではなく据付の完了と結びついていることがうかがえます(当ブログの見方。収益認識の会計方針の注記は、この回では確認していません)。据付の完了が3月末を越えれば、その台数と売上は次の期にずれます。大家業でいえば、入居日が月をまたげば、その月の家賃収入にはならないのと同じです。

精機の通期予想は、8月時点の売上1,850億円・利益120億円から、11月に1,630億円・50億円へ引き下げられました。会社の言葉では「FPD露光装置及び半導体露光装置の来期への販売繰延等」によるものです。

新しい通期予想から中間期の実績を引くと、下期は売上約931億円、利益約20億円という計算です。前の期の下期(2024年10月〜2025年3月)の売上は、約1,204億円でした(いずれも当ブログの計算)。

繰り延べた分が次の期にきちんと入ってくるのか、それとも需要そのものが細っているのか。それは、次の期の台数で確かめるしかありません。

次の一手は次世代ArF液浸と、後工程向けのDSP-100

会社は、主要半導体メーカーと共同で新しいプラットフォームのArF液浸露光装置を開発しており、「2028年度のプロトタイプ納入に向け、開発は順調に進捗しています。」と説明しています。足元の予想が0台のArF液浸に、会社は次の柱を置こうとしている、と読めます(当ブログの見方)。

後工程では、デジタル露光装置DSP-100の受注を始め、「多くのお客様から引き合いをいただいております」と述べています。会社はこの装置を、AI・データセンター向けの大型チップレットの先端パッケージング向けと位置づけています。

足元の手当てとしては、「半導体装置事業では、今後の顧客の動向を見極めるとともに、生産・サポート体制の最適化を引き続き進め、損益分岐点を引き下げる」としています。次の中期経営計画(2026年4月〜2031年3月)については、「短期業績の回復」と「長期成長のための投資」の両立を目指すと述べており、計画は策定中です。

中国や輸出規制については、11月の説明会資料とスクリプトに、精機事業に関する記述はありませんでした。全社の売上に占める中国(顧客の所在地別)の比率は、2021年3月期から順に26.8%、28.4%、20.5%、17.2%、23.7%ですが、精機事業だけの地域別は開示されていません。

用語メモ:後工程=ウェーハに回路をつくり込んだ後、チップを切り出して組み立て・検査する工程。チップレット=複数の小さなチップを組み合わせて一つの製品にする方式。

銘柄選びの目線では、ニコン株は「利益の谷からの戻り」をグループごと待つ株

ここからは、ここまでの数字を株式投資の銘柄選びにつなげてみます。まず確かめたいのは、ニコンの株価は、映像やヘルスケアも含めた5つの事業の合計の値段だという点です。露光装置に期待してニコン株を見るなら、その期待はほかの事業と一緒に買うことになります。

その中での精機の重さは、年によって大きく変わります。2025年3月期(2024年4月〜2025年3月)の精機は、外部売上の28.2%を占めながら、セグメント利益は15億円で、映像の413億円と大きな差がありました。2022年3月期(新区分)には、精機の395億円が映像の191億円を上回っていました。

しかも精機にはFPD露光装置も入っているので、半導体露光装置だけの重さはさらに小さくなります。ニコン株は、半導体の投資の波に乗る株というより、利益の谷にいるグループがどこまで戻るかを待つ株と見るのが実態に近いと思います(当ブログの見方)。

株価と利益の関係を見てみます。ニコンの株価は2025年に6.4%、2026年1月に11.3%上がりました。一方、会社が2025年10月31日に示した2026年3月期(2025年4月〜2026年3月)の当期利益の予想は200億円で、2025年3月期の61億円から226.6%の増加です(当ブログの計算)。

ただ、この3倍強の伸びは、前の期の利益が61億円と小さかったことによるベース効果です。予想の200億円は、2024年3月期の326億円にも届きません。中間期に計上した繰延税金の効果も含み、営業利益の予想140億円より大きい数字です。しかも期初の300億円から2回引き下げられた後の値です。株価が伸び率ほど大きく動いていないのは、こうした中身を映しているようにも見えます(当ブログの見方)。

なお、暦年の株価の騰落率と3月期の予想は、期間が3か月ずれています。並べて見るのは、あくまで目安です。

株式投資の目線では、ニコン株は純資産並みでも、ROEは0.9%と低い

今の株価の水準を、この連載で取り上げる上場9社の中央値と比べます(当ブログの計算)。予想PER31.9倍は中央値の38.8倍より低く、益回りは3.13%(中央値は2.58%)です。ただ、分母は利益が細った年の予想です。利益が小さい年のPERは、成長への期待より利益の落ち込みを映しやすく、9社と同じ物差しでは比べにくい数字です。

PBR0.98倍は、9社で最も低い値です。PBRをPERで割った予想EPS÷BPS(1株あたり純資産)は3.1%、2025年3月期のROEは0.9%でした。これほど利益が低いのに株価が純資産をわずかに下回る程度なのは、今の利益より、資産の厚みや利益の戻りをある程度前提にした水準と読めます(当ブログの見方)。PBRの低さだけでは得な値段とは言えず、ROEが戻るかどうかが読みどころです。

現金の面では、2025年3月期のFCFはマイナス39億円で、時価総額6,387億円に対するFCF利回りはマイナス0.61%と、9社で唯一のマイナスです。一方、配当173億円と自社株買い300億円の合計473億円で計算した株主還元利回りは7.41%に達し、9社の中央値1.69%を大きく上回ります(いずれも当ブログの計算)。

大家業でいえば、手取りがマイナスの年に、出資者へ厚い分配を返した物件です。しかも300億円の自社株買いは2024年10月31日に決めた1回分で、7.41%は毎年続くと決まった数字ではありません。ネットキャッシュは2025年3月末のマイナス300億円から、9月末のマイナス629億円へ広がっています。

景気の波への強さを見ると、5期の前年比で営業利益が最も落ちたのは2025年3月期です。売上は0.3%減とほぼ横ばいだったのに、営業利益は93.9%減りました(減損損失108億円を含む)。2021年3月期には、562億円の営業赤字も経験しています。売上があまり動かなくても、利益は大きく振れる姿です(当ブログの見方)。

精機も、売上が2,000億円前後のまま、セグメント利益は395億円から15億円まで減りました。大家業でいえば、入居者の数より、少数の大口テナントの出入りで手取りが大きく変わる物件です。この景気敏感株の性格は、ニコン株を見るうえで外せない点です(当ブログの見方)。

用語メモ:益回り=1株あたり利益÷株価で、PERの逆数。FCF利回り=FCF÷時価総額。株主還元利回り=(配当金の支払額+自己株式の取得額)÷時価総額で、ここでは最新の通期の実額で計算しています。ベース効果=比べる元の年の数字が小さいために、伸び率が大きく出ること。景気敏感株=業績が景気や顧客の投資の波で大きく動きやすい株。

株価が動くきっかけになりそうなのは、まず次の決算です。2026年3月期の予想はすでに2回引き下げられているので、営業利益140億円と年間配当50円の予想が保たれるかが一つ目の見どころです。次に、来期への販売繰延と説明された露光装置の台数が、次の期に入ってくるか。そして策定中の次の中期経営計画で、還元と財務の釣り合いをどう示すかです。

下振れのリスクとして、記事の数字から言えるのは四つです。会社が「北米主要顧客の業績不振により厳しい状況」と説明する精機事業の落ち込み、2025年9月末に3,387億円まで積み上がった棚卸資産、FCFのマイナスと、マイナス幅が広がるネットキャッシュ、そして2021年3月期と2025年3月期に計上した減損の前例です。のれん及び無形資産も、9月末に1,738億円あります。

銘柄選びで確かめる点 この会社の数字(時点) 当ブログの見方
半導体の比重 精機は外部売上の28.2%、セグメント利益15億円(映像は413億円、2025年3月期) 精機の重さは年で大きく変わり、FPDも含む
株価と利益の関係 2025年の株価+6.4%、2026年3月期の当期利益予想+226.6%(61億円→200億円) 伸び率は小さな前期からのベース効果
予想PER・益回り 31.9倍・3.13%(9社の中央値は38.8倍・2.58%、2026年1月30日) 利益が細った年の予想で計算した値
PBRとROE PBR0.98倍・予想EPS÷BPS3.1%(2026年1月30日)、ROE0.9%(2025年3月期) 純資産並みの株価は、利益の戻りをある程度前提にした水準
現金と還元 FCF利回り−0.61%、株主還元利回り7.41%(2025年3月期の実額) 還元は稼いだ現金を上回った
台数と予想 2026年3月期の半導体露光装置29台(ArF液浸0台)、通期予想は2回下方修正 繰り延べた台数が戻るかが分かれ目

配当の利回りを重視するなら、予想配当利回り2.58%は、予想のある8社の中央値1.25%の2倍を超えます。ただ、年間50円は2024年度と2025年度(2025年3月期と2026年3月期)に据え置くと決めた額で、2025年3月期の配当性向は280.0%でした。

半導体の成長をはっきり取りに行きたい人にとって、精機の重さが年ごとに揺れるニコン株は、直接的な選び方ではありません。利益の戻りを待つ時間と値動きを受け入れられるかが、この株を選ぶかどうかの分かれ目になります(当ブログの見方)。

今の株価の水準が妥当かどうかは、利益が谷から戻るか、繰り延べた台数が次の期に入ってくるか、そして厚い還元と財務の余力をどう釣り合わせるかという、前提をどう判断するかしだいです。

露光装置の利益は「台数」「区分」「一過性」を確かめてから読む

ニコンの精機事業は、2025年3月期に売上2,020億円、セグメント利益15億円でした。利益率は同じ新区分で見て3年で18.7%から0.8%へ下がり、2026年3月期の中間期の利益30億円は、ほぼ事業の譲渡益でした。半導体露光装置の台数は46台から28台へ減り、最新の予想ではArF液浸が0台です。

次の決算でまず確かめたいのは、精機の下期の売上が約931億円(当ブログの計算)の水準に届くか、そして29台・33台という台数の見込みが保たれるかです。構造改革と損益分岐点の引き下げがどこまで進んだか、全社の営業利益140億円と年間配当50円の予想がどうなるかも、あわせて見ておきたいところです。

大家業を続けていると、満室の年もあれば、退去が重なる年もあります。大事なのは、空室が一時的な入れ替えなのか、街から人が減っているのかを見分けることです。ニコンの露光装置も、繰り延べと説明された台数が次の期に戻ってくるかどうかが、その見分けどころだと私は考えています。

キヤノンの半導体露光装置を取り上げる回、10社を比べる回もあわせてどうぞ。

 

※本記事は公表資料をもとにした情報提供を目的としたもので、特定の銘柄の売買を勧めるものではありません。業績や株価に関する記述は当ブログの見方や試算で、将来の業績や株価を予想・保証するものではありません。

※数値は各社の決算短信・決算説明資料などの公表資料をもとに当ブログが集計・計算したもので、四捨五入の関係で合計が合わない場合があります。数値は2026年1月31日までに公表されたもので、時点は本文・表に記載しています。税制は2026年1月31日時点の法令にもとづき、令和8年度税制改正大綱の内容は今後の法改正で決まります。

出典・参考

  • 2026年3月期 第2四半期(中間期)決算短信〔IFRS〕(連結)(ニコン、2025年11月6日)https://www.jp.nikon.com/company/ir/ir_library/result/pdf/2026/26_2qf_c_j.pdf
  • 2026年3月期 第2四半期 決算説明会資料(ニコン、2025年11月6日)https://www.jp.nikon.com/company/ir/ir_library/result/pdf/2026/26second_all.pdf
  • 2026年3月期 第2四半期 参考資料(ニコン、2025年11月6日)https://www.jp.nikon.com/company/ir/ir_library/result/pdf/2026/26second_3.pdf
  • 2026年3月期 第2四半期決算報告 説明会資料(ノート付き)(ニコン、2025年11月6日)https://www.jp.nikon.com/company/ir/ir_library/result/pdf/2026/26second_all_script.pdf
  • 2026年3月期連結業績予想の修正に関するお知らせ(ニコン、2025年10月31日)https://www.jp.nikon.com/company/news/2025/20251031_01_j.pdf
  • 2026年3月期連結業績予想の修正に関するお知らせ(ニコン、2025年8月7日)https://www.jp.nikon.com/company/news/2025/20250807_01_j.pdf
  • 2025年3月期 決算短信〔IFRS〕(連結)(ニコン、2025年5月8日)https://www.jp.nikon.com/company/ir/ir_library/result/pdf/2025/25_4qf_c_j.pdf
  • 2023年3月期 決算短信〔IFRS〕(連結)(ニコン、2023年5月11日)https://www.jp.nikon.com/company/ir/ir_library/result/pdf/2023/23_4qf_c_j.pdf
  • 2022年3月期 決算短信〔IFRS〕(連結)(ニコン、2022年5月12日)https://www.jp.nikon.com/company/ir/ir_library/result/pdf/2022/22_4qf_c_j.pdf
  • ニコンレポート2025(ニコン、2025年)https://www.jp.nikon.com/company/ir/management/nikon-report/pdf/2025/25nikonreport_j.pdf
  • 2024年3月期 決算報告(ニコン、2024年5月9日)https://jp.nikon.com/company/ir/ir_library/result/pdf/2024/24_2.pdf
  • Notice Regarding Repurchase of Shares of Common Stock and Cancellation of Treasury Stock(ニコン、2024年10月31日)https://nikon.com/company/news/2024/20241031_02_e.pdf
  • Notice Regarding the Status and Conclusion of Repurchase of Shares of Common Stock, and Cancellation of Treasury Stock(ニコン、2025年3月17日)https://nikon.com/company/news/2025/20250317_01_e.pdf
  • Yahoo!ファイナンス ニコン【7731】株価時系列(2026年1月30日の終値)https://finance.yahoo.co.jp/quote/7731.T/history?from=20260126&to=20260130