東雲結子:石井先生、聞きました? サイファーって会社、ビットコインのマイナーから「大家さん」になったそうです。ついに私たちの業界に仲間が!

税理士石井:ははは。仲間といっても、入居者さんがアマゾンのAWSですけどね。

東雲結子:アマゾンさんが入居……。家賃の振込が遅れる心配はなさそうです。

税理士石井:ええ。AWSとは300MW・15年で約55億ドル。もう一社のFluidstackとは当初10年で約38億ドルの契約で、こちらはグーグルが最大17.3億ドルまで支払いを保証しています。

東雲結子:保証人がグーグル! うちのアパートの保証会社さん、ちょっと肩身が狭くなりそうです。

税理士石井:そのかわり、建物はこれから建てるんです。賃料が入り始めるのは2026年からで、2025年1〜9月の売上約1.64億ドルは、まだ全部がマイニングでした。

東雲結子:えっ、入居者さんは決まっているのに、建物はまだ……。完成予想図だけで満室なんですね。

税理士石井:そうなんです。大家業でいえば、大手と長期の一括借上げを結んだうえで、借入で新築している段階です。株価は2025年に約3.2倍になりましたが、ここからは工事と借入が山場です。

東雲結子:なるほど。入居者の信用力と、建てきる力は別の話なんですね!

税理士石井:そういうことです。今回はサイファーの決算書と契約の中身を、大家の目線で順番に確かめていきましょう。

第10回は、テキサス州で採掘を営むサイファー・マイニング(ティッカーCIFR、米ナスダック上場、12月決算)です。2021年8月27日に、SPAC(特別買収目的会社)のGood Works Acquisitionとの統合を完了して上場企業になりました。CIFRの株価は2025年12月31日の終値で14.76ドル、2025年の騰落率は+218.1%。暦年の騰落率を比べられるこの連載の7社の中で、最も高い上昇率です(ビットマインは2025年6月の上場のため暦年の数字がありません)。時価総額は約58.3億ドル(1ドル156.56円で換算すると約9,130億円)。

株価を押し上げたのは、2025年9月から11月にかけて結んだAI向けデータセンターの長期リースだったと私は見ています(当ブログの見方)。Fluidstack(グーグルが支払いを一部保証)とアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)が入居者です。ビットコイン・マイナーが、計算機を置く建物と電力を貸す「データセンターの大家」へと業態を広げつつある。これがサイファーの2025年でした。

ただし、賃料が入り始めるのは2026年からです。2025年12月31日の時点で、売上はまだ全額がビットコインのマイニングで、建設資金は社債で集めた段階にあります。今回は、拠点と採掘の現状、損益、二つのリースの条件、資金調達と希薄化、そして株価のシナリオを順番に見ていきます。マイナーがAI・HPCへ転換することの損得は、ビットコイン・マイニングの経済学を取り上げる回でも扱っています。

テキサスに点在する拠点と、3.2GWのパイプライン

拠点 規模(MW) 状況(2025年12月31日まで)
オデッサ 207 自社100%で稼働中。Luminantとの電力契約は1kWhあたり約2.7セント(少なくとも2027年7月まで)
アルボルズ・ベア・チーフ 各40 WindHQとの合弁(持分49%)。アルボルズは風力の電力だけで稼働
ブラックパール(ウィンクラー郡) 300 自社。第1期(マイニング最大150MW)を2025年9月までに完成
バーバーレイク(コロラドシティ) 300 自社のHPCキャンパス。2025年11月20日以降、全300MWをFluidstackにリース(クリティカルIT 207MW)
スティングレイ 100 計画中(2026年上期に通電予定)
レベリー(コチュラ) 70 計画中(2027年上期に通電予定)
コルキス(西テキサス、合弁) 1,000 2025年10月20日に過半数の持分を20百万ドルで取得(約95%を保有する見込み)。電力会社AEPと1GWの直接接続契約、2028年の通電が目標

※2024年12月期の年次報告書(10-K)と2025年の発表による。ほかに2024年10月に取得した3拠点のオプション(各最大500MW、24か月以内に行使可能)。会社が示すパイプラインは2025年2月の2.8GWから11月3日には3.2GWへ。

用語メモ:HPC=高性能計算。AIの学習や推論に使う大量の計算。クリティカルIT=サーバーなどIT機器そのものに使える電力容量で、冷却などを含む施設全体の電力より小さくなります。

サイファーは電力の大半を固定価格で買い、市場の電力価格が買値を上回るとERCOT(テキサスの電力系統)へ電力を売り、高値のときは採掘を止める運用をしています。この電力の売却は2024年12月期に5.4百万ドル、2023年12月期に9.9百万ドルで、売上ではなく営業費用の中に表示されています。

主力のオデッサの電力契約は、207MWのうち66.7%以上を毎年引き取る義務(テイク・オア・ペイ)があり、毎年自動で更新される形です。安い電力を固定価格で長く買える契約は、大家でいえば低い固定金利のローンのようなもの。ただ、開示されているのは「少なくとも2027年7月まで」という期限だけで、その先の条件は分かりません。

採掘は23.6EH/sに増えたが、1EH/sあたりの売上は半減期で約半分に

時点 自社のハッシュレート(EH/s) 機械の効率(J/TH) 保有BTC(枚)
2022年末 2.8 — 約394
2023年末 7.2 — 約796
2024年末 13.5 18.9 1,339(うち担保345)
2025年9月末 23.6 16.8 1,493

※ハッシュレートは月末の稼働値(合弁の持分を除く)。2022年末・2023年末の保有BTCは月次報告の概数。最新の月次報告は2025年9月分(10月7日公表)で、10月・11月分は確認できず、11月3日の7〜9月期の業績発表にもハッシュレートの記載はない。

用語メモ:EH/s(エクサハッシュ毎秒)=採掘の計算力の単位。J/TH=1テラハッシュの計算に使う電力量(ジュール)で、小さいほど省エネです。

ブラックパールの第1期が完成し、自社のハッシュレートは2024年末の13.5EH/sから2025年9月末には23.6EH/sに増えました。効率も18.9J/THから16.8J/THへ改善しています。

それでも、2024年4月20日の半減期の影響は大きく、当ブログの計算では、期首と期末の平均ハッシュレートで割った1EH/sあたりの年間売上は、2023年の25.4百万ドルから2025年1〜9月(年率換算)は11.8百万ドルへ、7〜9月期(年率換算)でも12.2百万ドルと、約半分になっています。2025年はハッシュレートが急に増えたので、期首と期末の平均で割るこの計算は粗い目安です。

BTCの持ち方には、決まった保有方針がありません。会社は予測と市場の動きを見て、持つか、ヘッジするか、売るかを判断するとしていて、実際には生産の大半を売っています。2025年9月は251BTCを採掘し、158BTCを売りました(採掘数には電力の売却分の換算と合弁の分を含む)。9月末の1,493BTCは、12月31日の価格で時価総額の2.2%にすぎません。年間の採掘量の合計や、会社定義の「1BTCを掘るコスト」も、今回読んだ資料では開示が確認できませんでした。

損益は赤字、会社の「調整後利益」は黒字。違いは減価償却とワラントの時価

項目(百万ドル) 2021年(11か月) 2022年 2023年 2024年 2025年1〜9月 直近12か月
売上高(全額マイニング) 0.0 3.0 126.8 151.3 164.2 206.5
営業利益 −72.2 −37.4 −20.1 −43.7 −120.9 −103.9
BTCの未実現評価損益 — — 3.3 11.3 −2.9 11.2
純利益 −72.2 −39.1 −25.8 −44.6 −88.0 −70.5
希薄化後EPS(ドル) −0.33 −0.16 −0.10 −0.14 −0.23 −0.17
Adjusted Earnings(会社定義) — −64.9 46.2 106.7 76.8 127.3
営業キャッシュフロー −31.7 −20.9 −94.2 −87.5 −153.5 −182.5
設備投資 120.0 227.9 54.4 302.5 263.0 337.8
FCF(営業CF−設備投資) −151.6 −248.8 −148.6 −390.0 −416.5 −520.3

※2021年は11か月の決算。直近12か月=2024年10月〜2025年9月。BTCの売却による実現益は別に計上(2023年7.7、2024年51.5、2025年1〜9月16.1)。減価償却費は2024年102.4、2025年1〜9月147.1。BTCの売却代金(2024年148.9、2025年1〜9月150.2)は投資キャッシュフローに計上。設備投資=有形固定資産の取得+設備の前払金。

用語メモ:EPS=1株あたり利益。Adjusted Earnings(調整後利益)=サイファーが独自に定義する指標で、減価償却費、株式報酬、ワラントやデリバティブの時価の変動などを除いたもの。調整後EBITDAではありません。FCF(フリー・キャッシュ・フロー)=営業キャッシュフローから設備投資を引いた、自由に使えるお金。

サイファーの売上は、上場以来すべてビットコインのマイニングです。2025年1〜9月は164.2百万ドルと前年同期の109.0百万ドルから伸びましたが、営業利益は−120.9百万ドルと赤字が広がりました。最大の理由は減価償却で、2025年1〜9月の147.1百万ドルは売上の約9割にあたります(当ブログの計算)。新しい機械を一気に入れた年は、減価償却が家賃のほとんどを食う。新築したばかりのアパートと同じ構図です。

純利益には、もう一つ大きな揺れの要因があります。「ワラント負債」512.6百万ドルと、0%転換社債に組み込まれた「デリバティブ負債」414.3百万ドル(いずれも2025年9月末)の時価の変動です。株価が上がるとこれらの負債の時価も上がり、その分が損失として計上されやすくなります。会社が重視するAdjusted Earningsは、こうした項目や減価償却を除いた数字で、2025年1〜9月は76.8百万ドルの黒字でした。どちらも事実ですが、Adjusted Earningsは減価償却という「機械の買い替え費用」を除いた数字だという点は、頭に置いておきたいところです。

営業キャッシュフローはマイナスが続いています。採掘したBTCを売った代金は投資キャッシュフローに計上されるためで、2025年1〜9月は150.2百万ドルのBTCを売っています。

Fluidstack(グーグルが一部保証)とAWS、二つの長期リースの中身

条件(会社の発表) Fluidstack(当初) Fluidstack(拡張) AWS
発表日 2025年9月25日 2025年11月20日 2025年11月3日(契約は10月29日)
場所 バーバーレイク バーバーレイク 非開示
規模 クリティカルIT 168MW(総244MW) クリティカルIT+39MW(総+56MW) 300MW
期間 10年+5年の延長2回 10年+5年の延長2回 15年
契約額 当初期間で約30億ドル(延長込み約70億ドル) 当初期間で約8.3億ドル(延長込み約20億ドル) 約55億ドル
引渡し・賃料 2026年9月までに引渡し 2027年1月までに引渡し 2026年7月開始、10〜12月期に完了の2段階。賃料は2026年8月から
信用の補強 グーグルがリース債務のうち14億ドルを保証(バックストップ) 保証を3.33億ドル上乗せし計17.3億ドル —

※Fluidstackとの契約は全体で、バーバーレイクの全300MW、当初10年の契約収益が計約38億ドル、延長込みで約90億ドル。年次の賃料の引き上げ(エスカレーター)付きの修正グロス・リースで、会社はサイトのNOIマージンを85〜90%と見込み、建設費はクリティカルIT 1MWあたり9〜10百万ドルと説明。11月3日時点のAI向けの契約総額は、リース料ベースで約85億ドル(拡張の前)。

図の上段は、二つの契約の当初期間の総額(会社発表の概数、割引前)で、Fluidstackが約38億ドル、AWSが約55億ドル、合わせて約93億ドルです。下段は、それを1年あたりにならした金額と、直近12か月(2024年10月〜2025年9月)の採掘売上約2.1億ドルを並べています。

用語メモ:修正グロス・リース=賃料の中に建物の運営費の一部を含め、大家側が負担する形のリース。NOI=賃料などの収入から運営費を引いた純営業収益(減価償却・支払利息・税金の前)。バックストップ=入居者が払えない場合に、第三者が一定額まで支払いを肩代わりする約束。

大家の目線で、この二つの契約を読んでみます。

まず、入居者の信用力です。AWSは言うまでもなく大手です。Fluidstackは、AI向けのクラウドを手がける新興企業で、ここをグーグルの保証が補っています。保証の上限は計17.3億ドルで、当初10年の契約収益約38億ドルの約46%にあたります(当ブログの計算)。全額ではないものの、当初10年の賃料の半分近くまで、家賃保証会社がついているような形です。あわせて、グーグルはサイファーの株を1株0.01ドルで買えるワラント24,178,576株(会社の説明では約5.4%)を受け取りました。保証料を株で払った形だと私は理解しています(当ブログの見方)。

次に、契約の長さと賃料の規模です。当ブログの単純計算で、Fluidstackの当初10年の約38億ドルを10で割ると年約3.8億ドル、AWSの約55億ドルを15で割ると年約3.7億ドル。全容量が引き渡された後の年平均は合計で約7.5億ドルになり、直近12か月の採掘売上206.5百万ドルの約3.6倍です。実際の賃料は2026年7月から2027年1月にかけての引渡しに合わせて立ち上がり、エスカレーターで上がっていくので、2026年の賃料はこれより少なく、あくまで平均の目安です。

最後に建築費です。会社の説明する1MWあたり9〜10百万ドルを、バーバーレイクのクリティカルIT 207MWに掛けると、約18.6億〜20.7億ドル(当ブログの単純計算)。Fluidstackの年平均賃料約3.8億ドルに、会社が見込むNOIマージン85〜90%を当てはめると、NOIは年約3.2億〜3.4億ドルです。大家業の感覚でいえば、建築費に対して1割台半ばから後半のNOI利回りを見込む新築計画で、条件どおりに建ち、条件どおりに賃料が入れば、かなり良い利回りです(当ブログの見方)。問題は、その「条件どおり」を実現できるかにあります。

建設資金は0%転換社債と7.125%の担保付社債。現金は12億ドル

資金調達の主な項目 金額(百万ドル) 条件
現金(2025年9月末) 1,207.4 ほかに制限付き13.8
1.75%転換社債(2030年5月満期) 172.5 転換価格4.45ドル。2025年5月ごろ発行
0%転換社債(2031年10月1日満期) 1,300.0 転換価格約16.03ドル。2025年9月30日に発行
7.125%担保付社債(2030年11月15日満期) 1,733 子会社Cipher Computeが2025年11月に条件を決定。14億ドル(額面、11月5日)+追加3.33億ドル(発行価格100.250%、11月20日)

※0%転換社債は8億ドルの予定を11億ドルに増額し、追加の2億ドルも全額行使。転換価格は11.66ドルに対し37.5%上乗せ。キャップドコール(株価が上限23.32ドルまで上がる範囲で、転換による希薄化を抑える取引。費用約82.7百万ドル)付き。2029年10月1日に社債の保有者が償還を求める権利があり、2028年10月5日以降は条件付きで会社が償還できる。ほかにCoinbaseからの借入枠(上限25百万ドル)とTwoPrimeの与信枠(上限100百万ドル)があるが、9月末の借入はいずれもゼロ。

用語メモ:転換社債=決められた価格で株に替えられる社債。株に替わるまでは返済義務のある借入です。ワラント=決められた価格で新株を買える権利。ATM(At-The-Market)=市場で少しずつ新株を売って資金を集める方法。

2025年9月末の時点では、転換社債の元本1,472.5百万ドルに対して現金1,207.4百万ドルがあり、差し引きの借入は265.1百万ドルでした。そこへ11月、バーバーレイクの建設資金として、子会社のCipher Computeが7.125%の担保付社債を計17.33億ドル発行することを決めました(受け渡しは11月13日と24日の予定と発表)。担保は、発行体と保証人(Cipher Barber Lake)の実質的な全資産、発行体の持分、Fluidstackが開設した場合のFluidstack側の指定口座(ロックボックス口座)、そして完工までは、グーグルが持つサイファーのワラントの質権です。社債の総額は、グーグルの保証の総額17.3億ドルとほぼ一致します。

大家業でいえば、その物件の賃料と建物そのものを担保にした「プロジェクト型のローン」です。会社全体ではなく物件ごとに借りるので、ほかの事業と切り分けられる半面、利率は7.125%と、0%の転換社債よりずっと高くなります。17.33億ドルの利息は年約1.23億ドル(当ブログの計算)。先ほどのNOIの目安(年約3.2億〜3.4億ドル)でまかなえる水準ですが、賃料が入る前の工事期間は、この利息を賃料以外の資金でまかなう必要があります(当ブログの見方)。

株主の持分が薄まる要因も多い会社です。発行済株式数は2021年12月末の249,279,420株から2025年10月31日の395,092,054株へ、約1.58倍。2025年1〜9月にはATMで29,334,701株を平均の手取り4.00ドルで売り、純額117.4百万ドルを調達しました。2025年1月にはソフトバンクグループから約1,040万株・50百万ドルの出資(PIPE=特定の投資家に新株を直接割り当てる私募)を受け、10月30日には発行できる株の上限を5億株から10億株へ倍増しています。Fluidstackとの拡張分の建設資金の一部も、サイファー自身が約118百万ドルを出資(エクイティ拠出)して用意する計画です(新株の発行によるかどうかは発表に書かれていません)。

潜在的な株数は、グーグルのワラント24,178,576株、上場しているワラント8,613,935株(行使価格11.50ドル)、2030年満期の転換社債で約3,880万株、2031年満期で約8,109万株。合計すると約1.53億株で、発行済株式数の約39%にあたります(当ブログの計算。2031年満期分の一部はキャップドコールで手当て済み)。12月31日の株価14.76ドルに対して、2030年満期の転換価格4.45ドルは大きく下回り、2031年満期の約16.03ドルはわずかに上回っています。

CIFRの株価は、リース契約にどこまで先回りしているのか

指標(2025年12月31日) サイファー 計算・注記
株価 14.76ドル 終値
時価総額 5,832百万ドル 395,092,054株(10月31日)×株価。約9,130億円
EV(企業価値、9月末の財務で計算) 6,097百万ドル 時価総額+転換社債1,472.5−現金1,207.4。11月の担保付社債は含まない
EV(担保付社債を足した場合) 7,830百万ドル 社債で得た現金は差し引いていない上限の値
売上高倍率(P/S、直近12か月) 28.2倍 売上は全額マイニング
リース契約総額÷EV 153% 当初期間の合計9,300百万ドル(割引前)。上限の値のEVでは119%
年平均賃料÷直近12か月の採掘売上 3.6倍 約747÷206.5(全容量の引渡し後)
EV÷ハッシュレート 258.3百万ドル 1EH/sあたり。AIデータセンターの価値を含むため、採掘の物差しとしては参考外

用語メモ:EV(企業価値)=時価総額に借入を足し、現金を引いた「会社を借入ごと買う値段」。P/S=時価総額÷売上高。

PER(株価収益率)は、直近12か月が赤字のため計算できません。売上高倍率28.2倍という数字も、まだ賃料が1ドルも入っていない会社には意味が薄く、市場は2026年以降の賃料を見て値段をつけていると考えるのが自然です(当ブログの見方)。

大家の物差しで、ざっくり見てみます。年平均の賃料約7.5億ドルを、担保付社債まで足したEV約78.3億ドルで割ると約9.5%(当ブログの単純計算)。表面利回りのような数字ですが、AWS向けの建設費の残りや、電力などの運営費、税金は引いていません。それでも、リースの総額(割引前で93億ドル)がEVを上回っていることから、市場は「契約は取れた、あとは建てきれるか」を見極めながら値段をつけている段階だと私は読んでいます(当ブログの見方)。

ビットコインの周期の中で見ると、2025年のサイファーの株価はBTCから離れた

年 CIFR年末終値(ドル) CIFR騰落率 BTC騰落率
2021年 4.63 — +59.7%
2022年 0.56 −87.9% −64.3%
2023年 4.13 +637.5% +155.4%
2024年 4.64 +12.3% +121.1%
2025年 14.76 +218.1% −6.3%

※騰落率は年末終値から当ブログが計算(価格のみ)。2020年末はSPACの株価のため、2021年の騰落率は示していません。

2022年の下落局面では、BTCの−64.3%に対してCIFRの株価は−87.9%。当時のサイファーは採掘を始めたばかりで、2022年12月期の売上は3.0百万ドルでした。2023年はBTCの回復で+637.5%と跳ね返し、半減期の2024年はBTCが+121.1%だったのに+12.3%にとどまりました。ここまでは、BTCに大きく振り回される小型のマイナー株の動きです。

2025年は違いました。株価は4月4日に年間の安値2.10ドルをつけた後、8月末の7.64ドルから、Fluidstackとの契約を発表した9月の末には12.59ドルへ。10月末は18.65ドル、AWSとの契約を発表した2日後の11月5日に年間の高値24.71ドルをつけました。年末は14.76ドルで、高値からは−40.3%です(当ブログの計算)。

2025年の月次の騰落率で計算したベータは1.12ですが、BTCとの相関は0.34と低く、ベータの当てはまりはよくありません。BTCより、AIデータセンターの契約のニュースで動いた一年だったと私は見ています(当ブログの見方)。

用語メモ:ベータ=BTCが1%動いたとき、株価が平均して何%動いたかを示す値(2025年の12か月分の記述統計で、予想ではありません)。相関=動きの向きがどれだけそろっているか。

BTCの周期でいえば、2024年4月20日の半減期から534日後の2025年10月6日に、終値で過去最高の124,752.53ドルをつけたところです。過去3回は山から約1年で−76.63%〜−84.53%下げましたが、今回の高値が山かどうかは年末の時点ではまだ分かりません。

CIFRの株価のシナリオ:賃料はBTCに連動しないが、計算の当てはまりは悪い

ここからは当ブログの試算です。予想や目標株価ではありません。BTCの水準は連載で共通の4つを使います。

2026年末(当ブログの試算) S1 過去3回の周期をなぞる S2 高値の半値 S3 横ばい S4 高値を回復
BTC 23,053ドル(−73.7%) 62,376ドル(−28.7%) 87,509ドル(0.0%) 124,753ドル(+42.6%)
CIFRの株価:2022年の実例を当てはめ 1.79ドル(−87.9%) — — —
CIFRの株価:ベータ1.12で換算 2.62ドル(−82.3%) 10.03ドル(−32.1%) 14.76ドル(0.0%) 21.78ドル(+47.5%)
参考:2022年の比率1.37で換算 0.74ドル(−95%の下限) 8.96ドル(−39.3%) — —

※S1=2025年の終値の高値124,752.53ドル×(1−過去3回の平均下落率81.52%)。過去の最大・最小の下落率を使うと19,301〜29,149ドルで、ベータ換算の株価は1.91〜3.77ドル。S2=高値の半値、S3=2025年12月31日と同じ、S4=2025年の高値。ベータ換算=12月31日の終値×(1+ベータ×BTCの変化率)。2022年の比率=2022年のCIFRの騰落率÷BTCの騰落率(−95%を下限)。

S1では、2022年に実際に起きた−87.9%を「過去の実例」として主に見ると、株価は1.79ドルです。ベータ換算では2.62ドルですが、相関が0.34と低いので、この数字には大きな幅があると考えてください。

そのうえで、サイファーの場合は二つの方法の両方に限界があります。2022年のサイファーは売上3.0百万ドルの採掘専業で、BTCに連動しない賃料はありませんでした。2026年からは、BTCの価格とは関係なく、全容量の引渡し後には年平均で約7.5億ドルの賃料が入る予定です。BTCが下がっても賃料は変わらないので、S1・S2の数字はBTCとの連動を強めに見積もっている可能性があります(当ブログの見方)。採掘については会社定義のコストが開示されていないため、ほかのマイナーのようにハッシュプライスとコストを並べることはできません。

逆に、シナリオを崩す要因もはっきりしています。建設の遅れや建設費の上振れ、入居者側の事情、そして新株の発行による希薄化です。BTCの暴落で暗号資産関連の株が一斉に売られる局面では、資金調達の環境も厳しくなりやすいでしょう(当ブログの見方)。S4の21.78ドルも、2025年11月5日の高値24.71ドルには届かない水準です。

次の決算で確かめたいことと、残るリスク

次の決算(2025年10〜12月期と通期)で最初に確かめたいのは、工事の進み具合です。AWS向けは2026年7月に引渡しを始め、10〜12月期に完了、賃料は8月から。バーバーレイクは2026年9月まで(拡張分は2027年1月まで)に引き渡す約束です。建設費が1MWあたり9〜10百万ドルの範囲に収まっているか、追加の資金調達やATMの使い方とあわせて見ておきましょう。

次に、入居者の広がりです。コルキスの1GWなど、3.2GWのパイプラインに新しい契約がつくか。逆に、FluidstackとAWSの2社に収入が集中する形は当面続きます。一棟借上げの物件が、借主の事情ひとつで大きく揺れるのと同じリスクです。

採掘の側では、ハッシュレートと売上の推移、そしてオデッサの電力契約の「2027年7月」という期限の先をどうするか。会計面では、ワラント負債とデリバティブ負債の時価の変動が、引き続き純利益を大きく揺らすはずです。なお、MSCIが2025年10月に公表した「デジタル資産を多く持つ会社」の暫定リストには、サイファーは載っていませんでした。

サイファーは「入居者の決まった新築」。家賃が入るまでの工事と借入を見届けたい

サイファーの決算書から見えてきたのは、採掘で苦しい数字を出しながら、電力つきの土地という強みを、AIデータセンターの長期リースに変えようとしている会社の姿でした。入居者はAWSと、グーグルが一部を保証するFluidstack。当初期間の契約総額は約93億ドルで、全容量の引渡し後の年平均賃料は、いまの採掘売上の約3.6倍です。株価の3倍超の上昇は、その未来を先取りしたものだと私は見ています。

大家業をしていると、良い入居者と長期契約を結べた瞬間がいちばんうれしいものです。けれども本当の勝負は、そのあと予算どおりに建て、約束の日に引き渡し、借入を返しながら賃料を受け取り続けることにあります。サイファーの2026年は、まさにその工事の一年です。2025年末の時点でテナントが決まっていなかったライオットを取り上げる回、8社を並べて比較する回もあわせてどうぞ。

 

※本記事は公表資料をもとにした情報提供を目的としたもので、特定の銘柄や暗号資産の売買を勧めるものではありません。株価のシナリオは当ブログが置いた前提による試算で、将来の株価を予想・保証するものではありません。投資の判断はご自身の責任でお願いします。

※数値は各社の決算資料・開示資料をもとに当ブログが集計・計算したもので、四捨五入の関係で合計が合わない場合があります。株価・暗号資産の価格は2025年12月31日の終値、円換算は1ドル156.56円(三菱UFJ銀行の2025年最終公表日の仲値)です。

出典・参考

  • Cipher Mining Provides Third Quarter 2025 Business Update(Cipher Mining、2025年11月3日)https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1819989/000181998925000110/nov3_earningspressreleasex.htm
  • Cipher Mining Signs 168 MW, 10-Year AI Hosting Agreement with Fluidstack(Cipher Mining、2025年9月25日)https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1819989/000095010325012168/dp234624_ex9901.htm
  • Cipher Mining Signs Additional 56 MW, 10-Year AI Hosting Agreement with Fluidstack(Cipher Mining、2025年11月20日)https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1819989/000095010325015073/dp237633_ex9901.htm
  • Cipher Mining Form 10-Q(2025年9月期)表紙 R1(Cipher Mining、2025年11月)https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1819989/000181998925000112/R1.htm
  • Cipher Mining Form 10-Q(2025年9月期)社債の条件・与信枠 R67(Cipher Mining、2025年11月)https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1819989/000181998925000112/R67.htm
  • Cipher Mining Form 10-Q(2025年9月期)ワラント R70(Cipher Mining、2025年11月)https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1819989/000181998925000112/R70.htm
  • Cipher Mining Form 10-Q(2025年9月期)BTCの数量 R48(Cipher Mining、2025年11月)https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1819989/000181998925000112/R48.htm
  • Cipher Mining Form 10-Q(2025年9月期)株主資本・ATM R22(Cipher Mining、2025年11月)https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1819989/000181998925000112/R22.htm
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  • Cipher Mining Inc. Announces Pricing of $333 Million of Additional Senior Secured Notes(Cipher Miningの発表文をiTigerが掲載、2025年11月20日)https://www.itiger.com/hant/news/2585689761
  • Cipher Mining Form 10-K(2024年12月期)本文(Cipher Mining、2025年)https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1819989/000181998925000005/cifr-20241231.htm
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  • Cipher Mining Form 10-K(2024年12月期)株式数 R4(Cipher Mining、2025年)https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1819989/000181998925000005/R4.htm
  • Cipher Mining Q4 and FY2024 Business Update(Cipher Mining、2025年2月25日)https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1819989/000181998925000003/cifr-20250225xex991.htm
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  • Cipher Mining Announces September 2025 Operational Update(Cipher Miningの発表文をNasdaqが掲載、2025年10月7日)https://www.nasdaq.com/press-release/cipher-mining-announces-september-2025-operational-update-2025-10-07
  • Cipher Mining Announces December 2024 Operational Update(Cipher Miningの発表文をStockTitanが掲載、2025年1月6日)https://www.stocktitan.net/news/CIFR/cipher-mining-announces-december-2024-operational-sh39o2bw08zy.html
  • Cipher Mining Announces December 2023 Operational Update(Cipher Miningの発表文をStockTitanが掲載、2024年1月2日)https://www.stocktitan.net/news/CIFR/cipher-mining-announces-december-2023-operational-rat3ja7e7ayp.html
  • Cipher Mining Announces December 2022 Operational Update(Cipher Miningの発表文をSeeking Alphaが掲載、2023年1月10日)https://seekingalpha.com/pr/19078066-cipher-mining-announces-december-2022-operational-update
  • Cipher Mining Announces $50 Million PIPE Investment from SoftBank Group(Cipher Mining、2025年1月30日)https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1819989/000119312525017265/d896808dex991.htm
  • MSCI: Consultation on Digital Asset Treasury Companies(MSCI、2025年10月)https://www.msci.com/downloads/web/msci-com/indexes/index-resources/consultation-on-digital-asset-treasury-companies-2025.pdf
  • 株価:Yahoo Finance「Cipher Mining (CIFR) Historical Prices」(2025年12月31日までの終値)https://finance.yahoo.com/quote/CIFR/history/?frequency=1mo&period1=1577836800&period2=1767225600
  • ビットコイン価格:Yahoo Finance「Bitcoin USD (BTC-USD) Historical Prices」(2025年12月31日までの終値)https://finance.yahoo.com/quote/BTC-USD/history/?frequency=1mo&period1=1388534400&period2=1767225600