東雲結子:石井先生、大家仲間の方から寒中見舞いが届きました!「厳寒の候、城南のワンルームの利回りは3.7%まで冷え込んでおります」ですって。はがきまで利回りで冷えています。

税理士石井:ふふ、季節のあいさつに期待利回りを書いてくるとは、筋金入りの大家さんですね。日本不動産研究所の2025年10月の調査の数字です。

東雲結子:でも先生、3.7%って、10年国債の2.070%より1.6ポイント以上も高いんですよ。国債より多くもらえるなら、不動産はもう買うしかないですよね!

税理士石井:うーん、その1.6ポイントは、不動産の手間や値下がりの心配を引き受ける「ごほうび」の厚みなんです。2013年10月の調査では、同じ城南のワンルームが5.2%、その年の国債の平均は0.69%で、差は4.5ポイントありました。ごほうびは12年で3分の1ほどに薄くなっています。

東雲結子:えっ、ごほうびが3分の1……。寒中見舞いのはがきが、いつの間にか切手のサイズになっていました。

税理士石井:ははは。しかも気をつけたいのは、その差を広げる方向に利回りが動く場合です。家賃が同じまま、求められる利回りが3.7%から4.2%へ0.5ポイント上がると、価格は11.9%下がる計算になります。

東雲結子:0.5ポイントで1割以上!? 利回りって、上がるとうれしいものだと思っていました……。

税理士石井:これから買う人にはうれしく、いま持っている人には冷たい。それが利回りです。大家業でいえば、家賃が一円も変わらなくても、買い手の求める利回りが上がれば、売るときの値段は下がる、ということですね。

東雲結子:持っている側としては、急にストーブがほしくなってきました。家賃を上げれば温まりますか?

税理士石井:いい質問ですね。0.5ポイントの上昇を家賃だけで打ち消すには、13.5%の値上げが要ります。キャップレートとイールドギャップの推移、J-REIT、価格の計算、そして大家さんの借入のスプレッドまで、順番に確かめていきましょう。

投資用不動産の値段は、家賃と「投資家が求める利回り」で決まります。この利回りをキャップレート(還元利回り。純収益を価格で割った利回り)といい、キャップレートと金利の関係は、金利が不動産価格に効く経路のなかで、直接的なものの一つです。日本の10年国債の利回りは2025年12月30日の終値で2.070%、12月22日の日中には一時2.100%をつけ、共同通信は1999年2月以来の高い水準と報じました。一方、日本不動産研究所の不動産投資家調査(2025年10月1日時点)では、東京・丸の内、大手町のAクラスオフィスビルの期待利回りは3.2%、城南地区(目黒区・世田谷区)のワンルームタイプの賃貸住宅一棟は3.7%で、国債の利回りが上がるなかでも低いままです。

この記事では、期待利回りと10年国債利回りの差(イールドギャップ)がどこまで縮んだのか、J-REITの分配金利回りでも同じことが起きているのか、そしてキャップレートが0.25〜1.0ポイント上がると価格は何%下がるのかを、表で確かめます。後半では、大家さんが物件を借入で買うときの「利回り−借入金利」のスプレッドと、金融機関の不動産向けの融資の状況も見ていきます。

キャップレートが「いつまで3%台か」は、誰にも言い当てられません。ただ、何が変われば動くのか、動いたら価格がどのくらい変わるのかは、数字で前もって知ることができます。住宅ローンの返済額と借りられる額は住宅ローン金利を取り上げる回で、2026年以降のシナリオは今後の不動産価格を取り上げる回で詳しく見ます。

キャップレートは「純収益÷価格」。金利が上がると価格が下がるしくみ

キャップレートの考え方は、大家さんにはなじみのある計算です。1年間の家賃などの収入から、管理費や修繕費、固定資産税などの費用を差し引いた純収益を、物件の価格で割ったものが利回りです。裏を返せば、価格は「純収益÷利回り」で決まります。

用語メモ:期待利回り(キャップレート)…日本不動産研究所の不動産投資家調査で、投資家に、対象の物件をどのくらいの利回りなら買うかを答えてもらい、その標準的な水準をまとめたものです。4月1日と10月1日の年2回調べています。純収益は、家賃などの収入から運営の費用などを差し引いた、手元に残る収益のことです。

たとえば、純収益が年370万円の物件を、投資家が3.7%の利回りで評価すれば、価格は1億円です。求められる利回りが4.2%に上がると、価格は約8,810万円、11.9%下がります(370万円÷4.2%、当ブログの計算)。家賃は1円も変わっていません。変わったのは、買う人が求める利回りだけです。

用語メモ:イールドギャップ…不動産の利回りと、10年国債の利回りとの差です。国債は国が元本と利息を払う債券で、運用の利回りを比べるときの基準としてよく使われます。不動産は空室や修繕、値下がりの心配がある分、国債より高い利回りが求められ、その上乗せの厚みがイールドギャップです。

金利が上がると、国債で運用しても得られる利回りが上がります。それなのに不動産の利回りが変わらなければ、不動産を持つことの上乗せ(イールドギャップ)は薄くなります。上乗せを元に戻そうとして利回りが上がれば、価格は下がる。キャップレートと金利の関係は、この一本の線でつながっています。

丸の内オフィス3.2%、城南ワンルーム3.7%。期待利回りは国債が上がっても動いていない

日本不動産研究所の調査で、期待利回りと10年国債利回りの推移を並べます。

調査時点 丸の内・大手町 Aクラスオフィス 城南 ワンルーム(一棟) 10年国債利回り 国債の値の基準 ギャップ(オフィス) ギャップ(ワンルーム)
2007年10月 3.8% ― 1.616% 2007年10月 2.18pt ―
2009年10月 4.5% ― 1.404% 2009年10月 3.10pt ―
2013年10月 ― 5.2% 0.590% 2013年10月 ― 4.61pt
2019年10月 3.5% 4.2% −0.150% 2019年10月 3.65pt 4.35pt
2022年4月 3.3% 4.0% 0.215% 2022年4月 3.09pt 3.79pt
2022年10月 3.2% 3.9% 0.245% 2022年10月 2.96pt 3.66pt
2023年10月 3.2% 3.8% 0.950% 2023年10月 2.25pt 2.85pt
2024年10月 3.2% 3.8% 0.935% 2024年10月 2.27pt 2.87pt
2025年4月 3.2% 3.7% 1.310% 2025年4月 1.89pt 2.39pt
2025年10月 3.2% 3.7% 1.655% 2025年10月 1.55pt 2.05pt
2025年末 3.2%(10月調査) 3.7%(10月調査) 2.070% 12月30日の終値 1.13pt 1.63pt

※期待利回りは日本不動産研究所「不動産投資家調査」(各年4月1日・10月1日時点)。2007年10月・2009年10月はニッセイ基礎研究所の資料、2013年10月は二次資料(LIFULL HOME’S 不動産投資のコラム)による。10年国債利回りは、調査月のOECD(経済協力開発機構)の月次値(米セントルイス連銀のデータベースFRED経由。月末値か月平均かは出典に明記がない)、2025年末は新発10年債の終値(共同通信)。「2025年末」の行は、利回り(10月調査)と国債(12月30日)の時点が違う。ギャップ(ptは%ポイント)は当ブログの計算。

オフィスの3.2%について、同研究所は2022年10月の調査で「1999年の本調査開始以来の最も低い水準を更新」と書き、その後2025年10月まで横ばいが続いています。城南のワンルームは、2022年10月の調査で3.9%と「本調査開始以来、初めて4%を下回った」とされ、その後3.8%、3.7%と下がりました。3.7%は、当ブログが確認できた範囲で、この系列のいちばん低い水準です(同研究所の資料が「過去最低」という言葉を使っているわけではありません)。

図は、2007年から2025年までの期待利回り(城南ワンルームと丸の内オフィス)と10年国債利回りを、同じ目盛りに重ねたものです。国債の線は、2021年までは各年12月の値、2022年1月から2025年11月までは毎月の値、右端は12月30日の終値2.070%で、調査月の値を使った上の表とは時点が少し違います。期待利回りは、調査の値が1年以上抜けた期間は線をつないでいません(ワンルームの2023年4月は値がなく、前後の調査をつないでいます)。中ほどの縦の矢印は2022年4月のワンルームと国債の差3.8ポイント(4.0%−0.215%)、右端の二本の矢印は2025年末の差で、ワンルームは1.6ポイント(3.7%−2.070%)、オフィスは1.1ポイント(3.2%−2.070%)です(10月の国債1.655%で測ればワンルームは2.0ポイント)。2022年からの4年足らずで、国債の線が下から期待利回りの線に近づいてきた様子が見てとれます。

この表と図で、私がいちばん驚いたのは2023年10月から2025年10月までの2年間です。10年国債利回りは0.950%から1.655%へ0.705ポイント上がりましたが、オフィスの期待利回りは3.2%のまま、ワンルームは3.8%から3.7%へむしろ0.1ポイント下がりました(当ブログの計算)。金利が上がれば利回りも上がる、という教科書どおりの動きは、少なくともこの調査の数字には、まだ表れていないのです。

なぜ動かなかったのか。調査そのものは理由を示していません。日銀の金融システムレポート(2025年10月号)は、不動産価格の上昇について「資材価格の高騰や人手不足の影響などによる供給要因が寄与しているとみられるほか、景気が緩やかに回復するもとで物件需要が堅調であることや、投資用マンション取引や海外投資家による商業用不動産取引などの需要も寄与している可能性がある」と書いています。私は、これに加えて、家賃の上昇への期待と、物価を差し引いた実質の金利がまだマイナスであることも、投資家が低い利回りを受け入れ続けている背景にあると見ています(当ブログの見方)。2025年12月30日の10年国債利回り2.070%から、2025年11月の消費者物価(生鮮食品を除く総合)の前年比3.0%を引くと、実質ではマイナス0.93ポイントです(当ブログの計算)。

イールドギャップは、オフィスで1.1ポイント、ワンルームで1.6ポイントまで縮んだ

表の右の2列が、イールドギャップです。ワンルームは2013年10月の4.61ポイントから、2025年10月の調査時点で2.05ポイント、12月30日の国債で測れば1.63ポイントまで縮みました。オフィスは2019年10月の3.65ポイントから、1.55ポイント、1.13ポイントへ。どちらも、上乗せの厚みは2019年ごろの半分以下です。

比べておきたいのが2007年10月です。オフィスの期待利回りはこのとき3.8%で、ニッセイ基礎研究所の資料によれば、2008年の世界的な金融危機の前の最も低い水準でした。同じ月の国債(1.616%)との差は2.18ポイント。2025年末の1.13ポイントは時点のずれた参考値ですが、10月の国債で測った1.55ポイントでも、そのときより薄い上乗せです(当ブログの計算)。

その後、オフィスの期待利回りは2009〜2010年の調査で4.5%まで上がりました。3.8%から0.7ポイントの上昇で、純収益が変わらないとすれば、価格では15.6%の下落にあたります(3.8÷4.5−1、当ブログの計算)。実際の価格の動きは家賃の変化も含むので、この数字と同じではありません。それでも、利回りの「上乗せ」が薄い時期に外からの衝撃が来ると、利回りは短い間に大きく動きうる、ということは心に留めておきたいところです(当ブログの見方)。

日銀も、この上乗せの薄さに注意を向けています。2025年4月号の金融システムレポートは「商業用不動産価格は賃料対比でみて上昇を続けており、不動産投資にかかる期待利回りやリスクプレミアムも低下している」とし、2025年10月号は「賃料は上昇してきているものの、不動産リスクプレミアムを示唆するイールドスプレッドの低下傾向は続いており、先行きの不動産需要等に関する市場参加者の見方が変化する場合には、不動産価格が調整する可能性も考えられる」と書いています。

J-REITの分配金利回りと国債の差も、4ポイント超から約2.4ポイントへ

同じことは、上場している不動産の市場でも起きています。J-REIT(不動産投資信託。投資家から集めたお金でオフィスや住宅などを持ち、家賃などからの利益を分配する上場の投資商品)です。

項目 値 時点 出典
平均予想分配金利回り 4.46%(1年前より0.62ポイント低下) 2025年11月末 不動産証券化協会(ARES)
東証REIT指数(2003年3月31日=1,000) 2,023.80(年初来+22.44%、配当込みでは+27.86%) 2025年11月末 同
分配金利回り−10年国債利回り 4ポイント超(利回りは5%超) 2024年末 マネクリ(二次資料)
同 約2.4ポイント 2025年12月24日 同
同(世界的な金融危機の前) 最大1.8ポイント(指数2,000ポイント時の利回りは約3.4%) 2007年1〜8月 同

J-REITの分配金利回りは、分配金を投資口の価格で割ったものです。価格が上がれば利回りは下がり、国債利回りが上がれば、その差はさらに縮みます。2025年は東証REIT指数が11月末までに22.44%上がり、10年国債利回りも上がったので、両方の向きから差が縮んだと考えられます(当ブログの見方)。マネクリ(マネックス証券)の関大介氏の2025年12月25日の記事は、差が12月24日に約2.4ポイントまで縮んだとしています。

2007年を振り返ると、差が最大1.8ポイントしかなかった年に、東証REIT指数は2007年5月31日に2,612.98の高値をつけ、2008年10月28日には704.46(複数の資料による)まで、73.0%下がりました。この下落は世界的な金融危機の時期と重なっており、差が薄かったこと自体が下落の原因だったとはいえません。ただ、上乗せが薄いほど、悪いことが起きたときの価格の下げ幅を吸収する余地も小さい。2007年の数字は、そのことを教えてくれます(当ブログの見方)。この局面は、2006〜2008年の利上げとリーマン・ショックを取り上げる回で詳しく見ます。

キャップレートが0.5ポイント上がると、価格は1割以上下がる

では、キャップレートが上がったら、価格はどれだけ下がるのか。価格の変化率は「(1+家賃の変化)×もとの利回り÷新しい利回り−1」で計算できます。城南のワンルーム(3.7%)と丸の内のオフィス(3.2%)で計算しました。

城南ワンルーム 3.7%から 家賃0% 家賃+2% 家賃+5% 家賃だけで打ち消すのに必要な上昇
+0.25ポイント(3.95%) −6.3% −4.5% −1.6% +6.8%
+0.5ポイント(4.20%) −11.9% −10.1% −7.5% +13.5%
+1.0ポイント(4.70%) −21.3% −19.7% −17.3% +27.0%

 

丸の内オフィス 3.2%から 家賃0% 家賃+2% 家賃+5% 家賃だけで打ち消すのに必要な上昇
+0.25ポイント(3.45%) −7.2% −5.4% −2.6% +7.8%
+0.5ポイント(3.70%) −13.5% −11.8% −9.2% +15.6%
+1.0ポイント(4.20%) −23.8% −22.3% −20.0% +31.3%

※当ブログの試算。家賃は純収益の変化として扱い、費用の変化は考えていない。打ち消すのに必要な家賃の上昇=利回りの上昇幅÷もとの利回り。

表から読み取れることは三つあります。

まず、0.5ポイントの上昇で、ワンルームは11.9%、オフィスは13.5%下がります。もとの利回りが低いほど、同じ上昇幅でも価格の下がり方は大きくなります。3.2%から0.5ポイント上がるのは、利回りが約16%増えることだからです。利回りが低い時代ほど、価格は利回りの変化に敏感になる、ということです。

次に、家賃が2%上がっても、0.5ポイントの利回りの上昇はほとんど打ち消せません。ワンルームで打ち消すには13.5%の家賃の上昇が必要で、毎年2%ずつ上がったとしても、届くのは7年目です(1.02の7乗≒1.149、当ブログの計算)。家賃が利回りの上昇に追いつくには、時間がかかります。

そして、利回りが1.0ポイント上がると、価格は2割以上下がります。10年国債利回りが1ポイント上がったとき、キャップレートがどれだけ動くかは、期待利回りの表の2023〜2025年のように、ほとんど動かないこともありえますし、まとめて動くこともありえます。国債の動きのどこまでが利回りに移るかの仮定を変えたシナリオは、今後の不動産価格を取り上げる回で示します。

大家の借入は「利回り−借入金利」のスプレッドで見る

ここからは、借入で物件を買う大家さんの目線です。物件の利回りと借入金利の差を、ここではスプレッドと呼びます。このスプレッドがプラスなら、借入は自己資金に対する利回りを押し上げる方向に働き、薄くなるほどその効果は小さくなります。

物件の利回り 利回り 借入1.0% 借入1.5% 借入2.0% 借入2.5% 借入3.0%
城南ワンルーム 期待利回り 3.70% +2.70pt +2.20pt +1.70pt +1.20pt +0.70pt
丸の内オフィス 期待利回り 3.20% +2.20pt +1.70pt +1.20pt +0.70pt +0.20pt
東京23区 区分マンション 表面利回り(募集) 5.23% +4.23pt +3.73pt +3.23pt +2.73pt +2.23pt
首都圏 一棟マンション 表面利回り(募集) 6.55% +5.55pt +5.05pt +4.55pt +4.05pt +3.55pt

※借入金利は例示。期待利回りは日本不動産研究所の2025年10月調査、表面利回りは健美家「収益物件 市場動向 四半期レポート(2025年4月〜6月期)」の募集物件の平均(二次資料。区分マンションは平均価格3,105万円、一棟マンションは20,798万円)。表面利回りは費用を引く前の家賃を価格で割ったもので、期待利回りとは物差しが違う。スプレッドは当ブログの計算。

表面利回りの数字は大きく見えますが、管理費や修繕費、固定資産税、空室を差し引く前の数字です。比べるなら、期待利回りの行と借入金利を並べるのが筋です。そうすると、借入金利が3.0%になれば、ワンルームのスプレッドは0.7ポイント、オフィスは0.2ポイントまで細ります。

スプレッドだけでは見えないのが、元本の返済です。仮に、純収益が年370万円(利回り3.7%)の1億円の物件を、8,000万円の借入(35年、元利均等返済)で買ったとします。

借入金利 年間の返済額(元金+利息) 純収益370万円から返済を引いた残り 純収益に占める返済の割合
1.0% 271.0万円 99.0万円 73.2%
1.5% 293.9万円 76.1万円 79.4%
2.0% 318.0万円 52.0万円 85.9%
2.5% 343.2万円 26.8万円 92.8%
3.0% 369.5万円 0.5万円 99.9%

※当ブログの試算。借入金利は35年間一定、ボーナス払いなし、税金は考えていない。年間の返済額は毎月の返済額(円未満四捨五入)×12。

金利1.0%なら年99.0万円残るお金が、3.0%では5,440円とほぼゼロになります。借入金利3.0%は、ワンルームの期待利回り3.7%をまだ下回っていますが、元本の返済まで含めると、手元にはほとんど何も残りません。スプレッドがプラスであることと、お金が残ることは別の話なのです。

税金の面でも注意が要ります。賃貸している建物等を取得するための借入金の利子は不動産所得の必要経費になりますが、返済額のうち元本に相当する部分は必要経費になりません(国税庁「令和5年分 収支内訳書(不動産所得用)の書き方」)。手元に残るお金と、税金の計算の上の所得は一致しないということです。借入金の利子と損益通算の制限は、住宅ローン金利を取り上げる回で条文に沿って詳しく見ます。

参考までに、2025年末の借入金利の目安を挙げておきます。日銀の統計では、国内銀行の新規貸出の約定平均金利(総合)は2025年11月に1.139%、うち長期は1.425%でした(2025年12月30日公表。貸出先を分けない「総合」の平均で、賃貸用ローンの金利そのものではありません)。長期プライムレート(長プラ。銀行が長期の貸出の基準にする金利)は2025年12月10日から2.60%、短期プライムレート(短プラ。短期の貸出の基準にする金利)は最頻値1.875%で、三菱UFJ銀行は2.125%への引き上げを2025年12月19日に発表しています(2026年2月2日適用の予定)。賃貸用ローンの金利は、金融機関と借り手の条件によって大きく違います。ご自身の借入の金利で、この表を一度引き直してみてください。

金融機関の不動産向け融資は伸びが続き、日銀は価格の調整の可能性に触れている

キャップレートを動かすもう一つの力が、お金の出し手です。日銀の金融システムレポート(2025年10月号)は、不動産業向け貸出について「高めの伸びが続いている」とし、大手行では、利ざやが比較的厚い不動産ファンド(図ではSPC=特別目的会社)向けや、REITを含む中小企業等向けを中心に貸出の増加が続いていると説明しています。2025年4月号は、「金融機関の不動産関連エクスポージャーが趨勢的に増加していることも踏まえると、不動産価格の動向には引き続き注意が必要である」と書いていました(エクスポージャーは、融資や投資を通じて抱えているリスクの大きさのことです)。

信用金庫についても、信金中央金庫 地域・中小企業研究所の資料(2025年7月29日)によれば、不動産業向け貸出の残高は2024年度末に19兆1,408億円で、24年連続で前年度末を上回り、過去最高になりました(二次資料)。

お金を貸してくれる人が多いうちは、買い手も多く、利回りは上がりにくい。裏を返せば、貸出の姿勢が変われば、金利の水準以上に利回りが動くこともありえます(当ブログの見方)。1990年の総量規制のように、お金の出し手の側の変化が、不動産の市場の大きな転換点と重なった例もあります。その時代のことは、バブルの崩壊を取り上げる回で詳しく見ます。

キャップレート3%台が続くかどうかは、国債より家賃とお金の出し手しだい

タイトルの問いに戻ります。キャップレート3%台はいつまで続くのか。正直に言えば、時期は誰にもわかりません。ただ、ここまでの数字から、何を見ればよいかは整理できます。

一つ目は、家賃です。日銀の金融システムレポートが書いているように、賃料は上がってきています。家賃が上がり続ければ、利回りが少し上がっても、価格の下がり方はその分やわらぎます。ただし表で見たとおり、0.5ポイントの利回りの上昇を打ち消すには、ワンルームで13.5%の家賃の上昇が要ります。

二つ目は、国債との差です。2025年末のイールドギャップは、オフィスで1.13ポイント、ワンルームで1.63ポイント。2007年10月のオフィスの2.18ポイントより薄く、J-REITの差も約2.4ポイントまで縮んでいます。国債利回りがさらに上がって、それでも利回りが動かなければ、上乗せはもっと薄くなります。

三つ目は、お金の出し手です。不動産向けの融資の伸びと、金融機関の貸出の姿勢です。日銀は12月19日の声明で、経済・物価の見通しが実現していくとすれば、経済・物価情勢の改善に応じて、引き続き政策金利を引き上げていく考えだと説明しています。借入金利が上がれば、大家さんのスプレッドは細り、同じ返済額で借りられる額も小さくなります。

具体的には、日本不動産研究所の次の調査(2026年4月1日時点)の期待利回り、J-REITの分配金利回りと国債利回りの差、10年国債利回り、短期プライムレートの改定を受けた借入金利、そして自分の物件の家賃の動きです。この五つを並べて見ておけば、利回りが動き始めたときに、価格への影響の目安をすぐに計算できるはずです。

利回りは「金利との差」と「家賃の伸び」で読む

2025年10月の調査で、丸の内オフィスの期待利回りは3.2%と1999年の調査開始以来の最も低い水準のまま、城南ワンルームは3.7%と、当ブログが確認できた範囲でこの系列の最も低い水準にあります。10年国債利回りは12月30日に2.070%まで上がり、イールドギャップはオフィスで1.13ポイント、ワンルームで1.63ポイントまで縮みました。J-REITでも、分配金利回りと国債の差は2024年末の4ポイント超から約2.4ポイントになっています。

利回りが0.5ポイント上がれば、価格はワンルームで11.9%、オフィスで13.5%下がる計算で、家賃2%の上昇ではほとんど打ち消せません。借入で買う大家さんにとっては、借入金利の上昇がスプレッドを細らせ、元本の返済まで含めると、手元に残るお金はさらに早く減ります。

大家を長く続けていると、物件の値段は「家賃」と「その家賃をいくらの利回りで評価するか」の掛け算だということを、何度も思い知らされます。家賃は自分の努力である程度守れますが、利回りは市場が決めます。だからこそ、金利との差と家賃の伸びを、いつも両方の目で見ておきたい。寒中見舞いの3.7%は、いまの市場が不動産にどれだけの上乗せを求めているかを映す数字です。その数字が動いたとき、慌てずに計算できる準備をしておきましょう。住宅ローン金利を取り上げる回、2026年以降のシナリオを取り上げる回もあわせてどうぞ。

 

※本記事は公表資料をもとにした情報提供を目的としたもので、特定の不動産や金融商品の売買、借入を勧めるものではありません。価格や金利のシナリオは当ブログが置いた前提による試算で、将来の価格や金利を予想・保証するものではありません。

※数値は各機関の公表資料をもとに当ブログが集計・計算したもので、四捨五入の関係で合計が合わない場合があります。金利・価格は2025年12月31日までに公表された値で、時点は本文・表に記載しています。税制は2025年12月31日時点の法令にもとづき、令和8年度税制改正大綱の内容は今後の法改正で決まります。

出典・参考

  • 第53回 不動産投資家調査(2025年10月現在)(日本不動産研究所、2025年11月27日)https://www.reinet.or.jp/wp-content/uploads/2025/11/published-document_main_the-japanese-real-estate-investor-survey_202510.pdf
  • 第52回 不動産投資家調査(2025年4月現在)(日本不動産研究所、2025年5月28日)https://www.reinet.or.jp/wp-content/uploads/2025/05/published-document_main_the-japanese-real-estate-investor-survey_202504.pdf
  • 第51回 不動産投資家調査(2024年10月現在)(日本不動産研究所、2024年11月27日)https://reinet.or.jp/pdf/REIS/publication_data51th.pdf
  • 第50回 不動産投資家調査(2024年4月現在)(日本不動産研究所、2024年5月)https://www.reinet.or.jp/pdf/REIS/publication_data50th.pdf
  • 第47回 不動産投資家調査(2022年10月現在)(日本不動産研究所、2022年11月25日)https://www.reinet.or.jp/pdf/REIS/publication_data47th.pdf
  • 第41回 不動産投資家調査(2019年10月現在)(日本不動産研究所、2019年11月25日)https://www.reinet.or.jp/wp-content/uploads/2019/11/1aba19b0b5308902bf592eae58443b732.pdf
  • 不動産投資市場の現状と見通し(ニッセイ基礎研究所 松村徹、2009年12月4日)https://www.nli-research.co.jp/files/topics/38503_ext_18_0.pdf?site=nli
  • 『不動産調査』375 御旅屋徹「日本の不動産市場の概要」(日本不動産研究所、2010年)https://www.reinet.or.jp/pdf/lib_375.pdf
  • 第30回不動産投資家調査が発表されました(LIFULL HOME’S 不動産投資 猪俣淳、2014年7月14日)https://toushi.homes.co.jp/column/research/market_trend/inomata11/
  • Long-Term Government Bond Yields: 10-Year: Main (Including Benchmark) for Japan, monthly and annual(OECD Main Economic Indicators、FRED、2025年11月までの値)https://fred.stlouisfed.org/data/IRLTLT01JPM156N.txt
  • 長期金利上昇2・070%(共同通信、OANDA Lab 転載、2025年12月30日)https://www.oanda.jp/lab-education/market_news/kn_2025123001000819/
  • 長期金利、一時2・100%(共同通信、OANDA Lab 転載、2025年12月22日)https://www.oanda.jp/lab-education/market_news/kn_2025122201000427/
  • 統計メールニュース1820(全国CPI 2025年11月分)(総務省統計局、2025年12月19日)https://www.stat.go.jp/info/mail/pdf/20251219_no1820.pdf
  • 金融システムレポート(2025年4月号)(日本銀行、2025年4月23日)https://www.boj.or.jp/research/brp/fsr/fsr250423.htm
  • 金融システムレポート(2025年10月号)(日本銀行、2025年10月23日)https://www.boj.or.jp/research/brp/fsr/data/fsr251023a.pdf
  • ARESマンスリーレポート(2025年12月)(不動産証券化協会、2025年12月)https://www.ares.or.jp/action/monthly/ares_monthly_report_202512.pdf
  • 長期金利上昇下での2026年のJ-REIT価格見通し(マネクリ 関大介、2025年12月25日)https://media.monex.co.jp/articles/-/28482
  • J-REITの市場動向(情報提供資料)(アセットマネジメントOne、2025年12月)https://www.am-one.co.jp/pdf/report/15638/251225_JREITShijouDoukou.pdf
  • 東証REIT(リート)指数とは?(楽天カード みんなのマネ活、2023年8月15日、2024年9月11日更新)https://www.rakuten-card.co.jp/minna-money/securities/stock/article_2308_00209/
  • 収益物件 市場動向 四半期レポート(2025年4月〜6月期)(健美家、2025年7月10日)https://lifull.com/doc/2025/07/9fd2d8f34f4dc1669e20fded96a7ed2e.pdf
  • 貸出約定平均金利(月次)(日本銀行 時系列統計データ、2025年11月分は2025年12月30日公表)https://www.stat-search.boj.or.jp/ssi/mtshtml/ir04_m_1.html
  • 長・短期プライムレート(主要行)の推移(日本銀行、2025年12月31日までの改定)https://www.boj.or.jp/statistics/dl/loan/prime/prime.htm
  • 円預金金利及び短期プライムレートの改定について(三菱UFJ銀行、2025年12月19日)https://www.bk.mufg.jp/news/news2025/pdf/news1219_1.pdf
  • 金融市場調節方針の変更について(日本銀行、2025年12月19日)https://www.boj.or.jp/mopo/mpmdeci/state_2025/k251219a.htm
  • 信用金庫の不動産業向け貸出残高(信金中央金庫 地域・中小企業研究所、2025年7月29日)https://www.scbri.jp/reports/.assets/newstopics_20250729-2.pdf
  • 令和5年分 収支内訳書(不動産所得用)の書き方(国税庁・税務署、令和5年10月1日現在の法令)https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/tebiki/2023/pdf/019.pdf