東雲結子:石井先生、すごい裏ワザを見つけました! ストラテジーの株を買うと、ビットコインが2倍楽しめるそうなんです。お年玉が倍になる計算です。
税理士石井:うーん、たしかに2025年の月ごとの動きで見ると、ビットコインが1%動くと、株価は平均で約1.5%動いていました。ただ、倍になるのは楽しさだけではないんです。2025年の1年間で、ビットコインは−6.3%、ストラテジーの株価は−47.5%でした。
東雲結子:えっ……。ビットコインがちょっとつまずいただけなのに、株のほうは階段のいちばん上から転がり落ちています。お年玉が、お年賀のタオル1枚になりました。
税理士石井:ははは、タオルが残っただけ、まだ救いがあります。実はその「階段」が、この会社を読むカギなんです。ストラテジーは約67万枚のビットコインを持っていますが、その上に転換社債と優先株で約162億ドルの請求が乗っていて、普通株の株主が受け取るのはその後の残りです。
東雲結子:大家さんでいうと、物件を売ったら、まず銀行のローンを返して、残りが自分の手取り、というのと同じですか?
税理士石井:そうですね。しかも株価には、物件の評価額に対する「上乗せ」のような部分があります。会社の指標でいうmNAVです。
東雲結子:上乗せって、人気の物件に買い手の行列ができて、相場より高く売れるあれですね。私はいつも、行列の最後尾でプラカードを持つ係です。
税理士石井:ふふ、その行列が2025年の1年で短くなったんです。12月31日のmNAVは当ブログの計算で約1.04倍、ほぼ評価額どおりでした。
東雲結子:なるほど……。ビットコインの値下がりと、上乗せのしぼみが重なったんですね。2倍楽しむつもりが、2倍考え込む会社でした。
税理士石井:考え込むのは大事なことです。何を持ち、誰からお金を集め、毎年いくら払うのか。決算書で順番に確かめてから、ビットコインの値段ごとに株価の幅を試算してみましょう。
連載の第2回は、ストラテジー(Strategy Inc.、旧マイクロストラテジー、ティッカーMSTR、米ナスダック上場)です。2025年12月28日時点で持っているビットコインは672,497BTC。2025年12月31日の終値(1BTC=87,508.83ドル)で約588億ドル、1ドル156.56円で換算すると約9.2兆円にのぼります。一方で、ストラテジー(MSTR)の株価は2024年末の289.62ドルから2025年末の151.95ドルへ47.5%下がり、1年の最後の取引日が終値ベースで年間の最安値でした。
ビットコインを大量に持つ会社の株は、ビットコインそのものとは別の商品です。大家業でいえば、物件を持つことと、物件を持つ会社に出資することの違いでしょうか。出資者の手取りは、物件の値段だけでなく、ローンの残高や、優先して配当を受け取る出資者の存在、新しい出資者をどんな値段で迎えるかで変わります。
材料は、2025年7〜9月期の決算発表と四半期報告書(10-Q)、2024年12月期の年次報告書(10-K)、毎週の8-K(米国の臨時報告書。12月29日提出分まで)です。年末の発行済株式数は未公表のため、当ブログの推計(12月28日時点で310,683,533株=10-Qの表紙の株数に、その後の8-Kで報告された新株の売却数を足したもの。株式報酬などによる増加は含まない)を使います。
2025年、ビットコインは−6.3%、ストラテジー(MSTR)の株価は−47.5%
| 項目(2025年12月31日時点) | 数字 | 補足 |
| 株価(終値) | 151.95ドル | 2025年は−47.5%。年間の高値(終値)は7月16日の455.90ドル |
| 時価総額 | 47,208百万ドル(約7.4兆円) | 310,683,533株(12月28日、推計)×株価 |
| 保有ビットコイン | 672,497BTC | 12月28日時点(12月29日の8-K) |
| 取得原価の合計(平均単価) | 504.4億ドル(1BTCあたり74,997ドル) | 手数料込み、会社の発表 |
| 保有ビットコインの時価 | 58,849百万ドル | 672,497BTC×12月31日の終値 |
| ドルの準備金(USDリザーブ) | 2,190百万ドル | 12月21日時点 |
| 転換社債(元本) | 8,213.75百万ドル | 6本の合計 |
| 優先株(想定元本) | 7,943.2百万ドル | 12月28日、当ブログの推計。STRFなどは清算時の優先額が想定元本を上回る |
| mNAV | 1.04倍 | 当ブログの計算(会社は12月1日の資料で1.2倍) |
※時価総額と円換算は当ブログの計算。円換算は1ドル156.56円。
用語メモ:mNAV(エムナブ)=ストラテジーが使う会社定義の指標。企業価値(時価総額に借入と優先株を足し、現金を引いたもの)が、保有ビットコインの時価の何倍かを表します。定義は後ほど原文で紹介します。
年間の高値は7月16日で、ビットコインの高値(終値ベースで10月6日の124,752.53ドル)より82日早い日付でした。ビットコインがまだ上がっていた夏のうちに、株価は先に下りはじめていたのです。この「ずれ」の正体を探っていきます。
本業のソフトウェアより、67万枚のビットコインが会社の中身
ストラテジーには、もともとのソフトウェア事業(サブスクリプションやライセンス)があり、2025年1〜9月の売上高は354.2百万ドルでした。ただ、会社の中身の大半はビットコインです。保有量の推移を、各年の最後の発表で並べてみます。
| 時点 | 保有BTC | 取得原価の合計 | 平均取得単価 |
| 2020年12月21日 | 70,470 | 1.125十億ドル | 15,964ドル |
| 2021年12月29日 | 124,391 | 3.750十億ドル | 30,159ドル |
| 2022年12月27日 | 132,500 | 4.030十億ドル | 30,397ドル |
| 2023年12月26日 | 189,150 | 5.895十億ドル | 31,168ドル |
| 2024年12月31日 | 447,470 | 27.968十億ドル | 62,503ドル |
| 2025年12月28日 | 672,497 | 50.44十億ドル | 74,997ドル |
※会社の発表(8-K・プレスリリース)による。2024年は貸借対照表の日付。取得原価は手数料込み。
2025年の1年で、保有量は225,027BTC増えました。取得原価は224.7億ドル増え、2025年に買った分の平均は1BTCあたり約99,860ドルです(当ブログの計算)。年末の価格87,508.83ドルは、全体の平均取得単価74,997ドルは上回るものの、2025年に買った分の平均は下回ります。全体では約84億ドルの含み益(588億ドル−504.4億ドル、当ブログの計算)でも、2025年の買い増し分だけなら含み損です。
大家業でいえば、昔安く買った物件の含み益で全体はまだ黒字なのに、直近で買い増した物件は買値より評価が下がっている状態です。全体の数字だけでは、この「新しく買った分の重さ」に気づきにくいんですよね。
2025年の買い増しは、普通株の売り出しが資金の中心だった
では、買い増しのお金はどこから来たのでしょうか。2025年の中心は普通株でした。
| 調達の方法 | 2025年1〜9月 | 10月〜12月28日 | 中身 |
| 普通株(クラスA)のATM | 11,865.9 | 約4,205.4 | 市場で少しずつ新株を売る |
| 優先株 | 5,888.5 | STREの手取り約703.9ほか | 5種類。新規発行とATM |
| 転換社債 | 2,000 | なし | 2030年満期・利率0%(2030B債) |
※百万ドル。1〜9月は10-Qのキャッシュフロー計算書の受取額。10月以降の普通株は各週の8-Kの売却額の合計(当ブログの集計)。STREは1ユーロ=1.1561ドルでの手取りの概算。
用語メモ:ATM(アット・ザ・マーケット)=あらかじめ決めた上限の範囲で、市場の株価で少しずつ新株を売って資金を集める方法。
1〜9月の財務キャッシュフローは19,476.8百万ドルの入金、ビットコインの購入は19,382.9百万ドルの支出で、集めたお金がほぼそのままビットコインに替わっています。優先株は2月のSTRKから11月のユーロ建てのSTREまで、2025年に5種類が発行されました。
流れが変わったのは11月下旬です。11月17〜30日の2週間に買ったビットコインは130BTCだけで、その間に普通株を約14.8億ドル売り、12月1日に14.4億ドルのドルの準備金(USDリザーブ)を作りました。目的は優先株の配当と社債の利払いで、会社は「21か月分の配当をまかなう」と説明し、少なくとも12か月分、目標は24か月分以上としています。12月15〜21日の週はビットコインを買わず、普通株の売却747.8百万ドルを準備金に回し、21日時点で2,190百万ドルになりました。10月以降の普通株の売却約42億ドルのうち、約半分が準備金に回った計算です(当ブログの計算)。ビットコインを買うための増資から、固定費を払うための増資へ。性格の変化が表れているように私には見えます(当ブログの見方)。
ビットコインの上に積み上がる「資本の階段」
図の左の棒は、会社が持っているもの(ビットコイン588.5億ドルとドルの準備金21.9億ドル、計610億ドル)。右の棒は、お金の出し手の取り分を、先に返す順に下から積んだものです。転換社債82.1億ドル、優先株79.4億ドル、その上に普通株の時価総額472.1億ドル。赤い点線までの「先に返す分」161.6億ドルは、ビットコインの時価の27%にあたります。普通株の株主は、この階段のいちばん上に立っているわけです。
| 転換社債 | 元本 | 利率 | 満期 | 転換価格 | 保有者が買い取りを求められる日 |
| 2028年債 | 1,010 | 0.625% | 2028年9月15日 | 183.19ドル | 2027年9月15日 |
| 2029年債 | 3,000 | 0% | 2029年12月1日 | 672.4ドル | 2028年6月1日 |
| 2030年債A | 800 | 0.625% | 2030年3月15日 | 149.77ドル | 2028年9月15日 |
| 2030年債B | 2,000 | 0% | 2030年3月1日 | 433.43ドル | 2028年3月1日 |
| 2031年債 | 603.75 | 0.875% | 2031年3月15日 | 232.72ドル | 2028年9月15日 |
| 2032年債 | 800 | 2.25% | 2032年6月15日 | 204.33ドル | 2029年6月15日 |
| 合計 | 8,213.75 |
※百万ドル。元本は2025年9月30日時点で、12月31日までの8-Kでは変化なし。
転換社債は、決められた価格(転換価格)で株に替えられる権利がついた社債です。ただし、株に替わるまでは借金で、元本を返す義務があります。転換価格のほとんどは12月31日の株価151.95ドルを上回っています。
もう一つ目を引くのは、保有者が満期より前に買い取りを求められる日(プット)です。2030年債B、2029年債、2030年債A、2031年債の4本は、その日が2028年中に来ます。元本の合計は6,403.75百万ドル(当ブログの集計)。そのときの株価が転換価格を下回っていれば、保有者は買い取りを求めやすいでしょう(当ブログの見方)。大家業でいえば、借入の更新時期が同じ年に集中している状態で、金利が低くても、それ自体がリスクになります。
| 優先株 | 配当率 | 払えなかった配当 | 支払い | 想定元本(11月28日) | 同(12月28日、推計) | 年間配当(推計) |
| STRF | 10.00% | 累積(複利) | 四半期・現金 | 1,268 | 1,284.3 | 128.4 |
| STRC | 変動(12月は10.75%) | 累積 | 毎月・現金 | 2,959 | 2,959.0 | 318.1 |
| STRE(ユーロ建て) | 10.00% | 累積(四半期複利) | 四半期・現金 | 900 | 900.0 | 90.0 |
| STRK | 8.00% | 累積 | 四半期・現金または普通株 | 1,397 | 1,397.7 | 111.8 |
| STRD | 10.00% | 非累積 | 四半期・現金 | 1,255 | 1,402.2 | 140.2 |
| 合計 | 7,779 | 7,943.2 | 788.6 |
※百万ドル。11月28日は会社資料の数字。12月28日の残高と年間配当は当ブログの推計(12月のATMでの売却分を加え、STRCは10.75%で計算)。STRKは1株を普通株0.1株に転換できます。
用語メモ:優先株=普通株より先に配当や残余財産を受け取れる株。ストラテジーの5種類は満期のない「永久優先株」です。累積型は、払えなかった配当が消えずに積み上がります。非累積型(STRD)は積み上がりません。
STRCの配当率は、発行時の9.00%から9月10.00%、10月10.25%、11月10.50%、12月10.75%と毎月のように引き上げられてきました。配当率が動く優先株は、変動金利のローンに少し似ています。
先に返す分から準備金を引いても13,966.95百万ドルで、ビットコインの時価の約24%です。1株あたりに直すと、1株が持つビットコインは0.002165BTC、12月31日の価格で189.42ドル。そこから準備金を差し引いた後の「先に並ぶ請求」1株あたり約44.96ドルを引くと、144.46ドルが残ります(当ブログの計算)。株価151.95ドルは、この残りをわずかに上回る水準でした。
優先配当と利息で、年約8.2億ドルの固定費
階段には、毎年の支払いというもう一つの顔があります。転換社債の利息は年約34.6百万ドル、優先株の配当は12月時点の残高と配当率で年約788.6百万ドル、合わせて年約823.2百万ドルです(当ブログの推計)。会社も12月1日の資料で「1日あたり220万ドル」(1年で約8.0億ドル)と示しています。
一方、払う側の財布はどうでしょう。ソフトウェア事業の売上総利益は2024年12月期で334.0百万ドル、2025年1〜9月で246.5百万ドル。営業キャッシュフローは2025年1〜9月で45.6百万ドルのマイナスでした。本業の稼ぎでは固定費をまかなえず、実質的には資本市場から集めたお金が支払いの原資になっています(当ブログの見方)。
大家業に置きかえると、家賃収入では利払いをまかなえないため、新しい出資者から集めたお金を「返済準備口座」に積み立てている状態です。準備金2,190百万ドルは、固定費の約32か月分にあたります(当ブログの計算)。
用語メモ:優先株の配当は、法律上は借入の利息ではありません。それでも毎年ほぼ決まった額を払い続ける点で、大家にとっての「ローンの利払い」に近い固定費として見ておくのが実務的だと私は考えています。
では、準備金が減っていったらどうするのか。会社は12月1日の資料で、準備金をつくるお金の出どころについて「Above 1x mNAV: Issue Common Equity」(mNAVが1倍を上回れば普通株を発行)、「Below 1x mNAV: Sell Bitcoin」(1倍を下回ればビットコインを売る)という方針を示しました。この一文は、後の株価の試算を読むうえで大切な前提になります。
mNAVは1倍に近づいた。会社の定義と当ブログの計算
ここでmNAVの定義を、会社の言葉で確認しておきます。2025年7〜9月期の決算資料には、こう書かれています。
“mNAV represents a multiple of Bitcoin NAV, calculated by dividing Enterprise Value (as defined below) by Bitcoin NAV”(mNAVはBitcoin NAVの倍率で、企業価値をBitcoin NAVで割って計算する)
企業価値(EV、会社を借入や優先株ごと買うとしたときの値段)は、基本株式の時価総額に負債と永久優先株の想定元本を足し、現金を引いたもの。Bitcoin NAV(NAV=保有資産の価値)は、保有ビットコインの枚数×価格です。会社は、伝統的な意味での純資産価値ではないという趣旨の注意書きもつけています。12月31日の数字を当てはめてみました。
| 項目 | 金額 | 中身 |
| 時価総額 | 47,208 | 151.95ドル×310,683,533株(推計) |
| +転換社債の元本 | 8,213.75 | 6本の合計 |
| +優先株の想定元本 | 7,943.2 | 12月28日の推計 |
| −ドルの準備金 | 2,190 | 12月21日時点 |
| =企業価値(EV) | 61,175 | |
| Bitcoin NAV | 58,849 | 672,497BTC×87,508.83ドル |
| mNAV | 1.04倍 | EV÷Bitcoin NAV |
※百万ドル。当ブログの計算で、会社の発表値ではありません。会社が12月1日の資料で示したmNAVは1.2倍で、時点と株価、株数の前提が違います。
mNAVが大切なのは、それがこの会社の「増資のエンジン」の燃料だからです。1倍を上回っているとき、新株を売れば、借入と優先株を差し引いた1株あたりの正味の取り分が増えます。物件でいえば、ローンを引いた正味の持分の評価額より高い値段で新しい出資者に共有持分を買ってもらうようなもので、1口あたりの正味の持分(物件からローンを引いた分)がかえって増えます。1倍を下回ると逆に、既存の出資者の取り分が薄まります。
ただし、1株あたりのビットコインそのものが増えるのは、株価が1株あたりのビットコインの時価を上回る値段で売れたときだけです。12月31日は株価151.95ドルに対し、1株あたりのビットコインの時価は約189ドル(推計の株数ベース、当ブログの計算)で、この値段での増資は1株あたりのビットコインを減らす水準でした(当ブログの見方)。
会社もこの点を意識していて、7月31日には「4.0倍を超えれば積極的に普通株を発行する」という目安を示し、12月1日の資料では「平均mNAV 1.17倍で普通株を売った」と説明しています。
会社が重視する「BTC Yield」の定義は”BTC Yield is a KPI that represents the percentage change in BPS from the beginning of a period to the end of a period.”(期間のはじめから終わりまでの、1株あたりビットコイン(BPS)の変化率)。BPSの分母は、転換社債などをすべて株に替えたと仮定した会社定義の株数(ADSO)です。2025年のBTC Yieldは12月28日までで23.2%でした(目標は2月の15%以上から5月に25%、7月に30%へ引き上げられ、12月1日に22.0〜26.0%へ引き下げられていました)。
| 2024年12月31日 | 2025年12月28日 | |
| 保有BTC | 447,470 | 672,497 |
| 会社定義の希薄化後株数(ADSO) | 281,735千株 | 343,641千株 |
| 1株あたりBTC(BPS) | 0.001588 | 0.001957 |
| ビットコインの終値 | 93,429.20ドル | 87,508.83ドル(12月31日) |
| 1株あたりBTCの時価 | 約148ドル | 約171ドル |
| 株価(終値) | 289.62ドル | 151.95ドル(12月31日) |
※BPSと時価は当ブログの計算。BPSの伸びは23.2%で、会社のBTC Yieldと一致します。
ここに、タイトルの問いへの答えがあります。1株あたりのビットコインは23.2%増え、ビットコインの値下がり(−6.3%)を差し引いても、1株あたりのビットコインの時価は約15%増えました。それなのに、株価は47.5%下がった。株価を1株あたりのビットコインの時価で割ると、2024年末の約1.95倍から2025年末の約0.89倍へ縮んでいます(当ブログの計算。ADSOは転換社債を株として数えるため、借入として差し引くmNAVの1.04倍とは物差しが違います)。
つまり2025年の下げの大部分は、ビットコインの値下がりではなく、株価に乗っていた上乗せが消えたことによるもの、というのが当ブログの見方です。行列ができているうちは評価額より高く持分を売って買い増せるのに、行列が短くなると、その仕組みそのものが回りにくくなる。そんな1年でした。
公正価値会計で、純利益は四半期ごとに数十億ドル振れる
次は損益計算書です。ストラテジーの純利益は、ビットコインの値段で大きく振れます。
| 2021年12月期 | 2022年12月期 | 2023年12月期 | 2024年12月期 | 2025年1〜9月 | |
| 売上高 | 510.8 | 499.3 | 496.3 | 463.5 | 354.2 |
| 売上総利益 | 418.9 | 396.3 | 386.3 | 334.0 | 246.5 |
| BTCの減損損失(旧基準) | 830.6 | 1,286.3 | 115.9 | 1,789.9 | ― |
| BTCの未実現評価益(新基準) | ― | ― | ― | ― | 12,032.4 |
| 営業利益 | −784.5 | −1,275.7 | −115.0 | −1,853.0 | 12,001.4 |
| 純利益 | −535.5 | −1,469.8 | 429.1 | −1,166.7 | 8,588.5 |
| 希薄化後EPS(ドル) | −5.34 | −12.98 | 2.64 | −6.06 | 27.71 |
| 営業キャッシュフロー | 93.8 | 3.2 | 12.7 | −53.0 | −45.6 |
※百万ドル(EPSを除く)。12月決算。2021年12月期のEPSは2024年8月の10対1の株式分割で調整した値(発表値−53.44ドル÷10、当ブログの計算)。
用語メモ:EPS=1株あたり利益。希薄化後EPSは、転換社債などが株に替わった場合の株数も考えた1株あたり利益です。
2024年までは「減損」の会計で、価格が帳簿価額を下回れば損失を出し、上がっても売るまで利益は出しませんでした。2024年はビットコインが121.1%上がったのに、減損損失1,789.9百万ドルで営業赤字です。物件の評価が上がっても帳簿は買値のまま、下がったときだけ評価損を出す、片側だけの会計でした。
2025年1月1日からは、米国の会計基準の改正(ASU 2023-08)で、期末の時価で評価して、評価損益を損益計算書に入れる公正価値会計に変わりました。切り替えの日に、ビットコインの帳簿価額は178.81億ドル増え、期首の利益剰余金に127.464億ドルが足し込まれています。それまで21.669億ドルの累積赤字だった利益剰余金が、105.795億ドルの黒字に変わったわけです。
| 2025年 | 1〜3月期 | 4〜6月期 | 7〜9月期 | 1〜9月 |
| BTCの未実現評価損益 | −5,906.0 | 14,047.5 | 3,890.8 | 12,032.4 |
| 純利益 | −4,217 | 10,020 | 2,785.0 | 8,588.5 |
| 希薄化後EPS(ドル) | −16.49 | 32.60 | 8.42 | 27.71 |
※百万ドル(EPSを除く)。
純利益は四半期ごとに数十億ドル単位で行ったり来たりしています。1〜9月の税引前利益11,934.6百万ドルから評価益12,032.4百万ドルを引くと、約97.8百万ドルの赤字です(当ブログの簡易計算)。法人税等3,346.1百万ドルもほとんどが評価益に対する繰延税金で、その分の現金は出ていません。9月末には、評価益に対する繰延税金負債が約7.43十億ドル積み上がっていました。
税理士として強調しておきたいのは、未実現の評価益は現金ではないということです。売らない限り、1ドルも口座には入りません。そして評価益は、価格が下がれば同じ速さで消えていきます。仮に12月28日の保有量を12月31日の終値で評価すると、10〜12月期だけで約174億ドルの評価損になる計算です(672,497BTC×87,508.83ドル−9月末の時価73,205.7百万ドル−10〜12月の購入額3,088.8百万ドル、当ブログの概算。実際の数字は10〜12月期の決算で示されます)。1〜9月の評価益は、年間では帳消しを超えてマイナスになりうるのです。
会社の2025年12月期の純利益の見通しも、7月31日には年末のビットコインを15万ドルと置いて約240億ドル、12月1日には85,000〜110,000ドルと置き直して−55億ドル〜+63億ドルでした。
税金ではCAMT(決算書の利益をもとに課税する米国の法人最低税)の論点もありました。9月30日に米国の財務省・内国歳入庁(IRS)が暫定的な指針を出し、会社は10月1日の8-Kで、ビットコインの評価益によってCAMTの対象になるとは見込まなくなったと発表しています。帳簿上の利益に現金の税金がかかる心配は、いったん遠のいた形です。
ビットコインの周期の中で見ると、2022年と2025年の下げはビットコインより深かった
ここで少し引いて、ビットコインの4年周期の中にストラテジーを置いてみます。
| 年 | 年末の株価 | 株価の騰落率 | BTCの騰落率 | 年末の保有BTC |
| 2020年 | 38.85ドル | ― | ― | 70,470(12月21日) |
| 2021年 | 54.45ドル | +40.2% | +59.7% | 124,391 |
| 2022年 | 14.16ドル | −74.0% | −64.3% | 132,500 |
| 2023年 | 63.16ドル | +346.0% | +155.4% | 189,150 |
| 2024年 | 289.62ドル | +358.5% | +121.1% | 447,470 |
| 2025年 | 151.95ドル | −47.5% | −6.3% | 672,497(12月28日) |
※株価は10対1の分割調整後の終値。騰落率は年末終値から当ブログが計算。保有BTCは各年の最後の発表時点。
一つ前の周期の天井だった2021年(ビットコインの山は11月8日)は、株価の上昇がビットコインより小さい年でした。ところが2022年は、ビットコインの−64.3%に対して株価は−74.0%。2023〜2024年はビットコインの2〜3倍の上昇率で、2025年はビットコインが小幅安なのに株価は半値近くまで下がりました。上乗せが膨らむ局面と、しぼむ局面で振れ幅が大きくなると見るのが実態に近いと思います(当ブログの見方)。
2022年の年末には、12月22日に704BTCを約1,180万ドルで売り、24日に810BTCを買い直しています。税務上の損失を確定させるための売却で、税理士として思わず目が留まった一行です(日本の個人投資家とは税の仕組みが違います)。
用語メモ:半減期=ビットコインの採掘報酬が約4年ごとに半分になる仕組み。直近は2024年4月20日(1ブロック6.25BTC→3.125BTC)。ストラテジーは採掘会社ではないので、価格を通じて保有資産の価値が動きます。
過去3回の周期では、山から1年ほどで−76.63〜−84.53%の谷をつけました(終値ベース)。今回は、2024年4月20日の半減期から534日後の2025年10月6日に終値の高値124,752.53ドルをつけ、12月31日は高値から−29.85%です。この高値が今回の天井かどうかは、2025年末の時点ではまだわかりませんし、周期は過去3回の記述統計で法則ではありません。周期そのものは、仮想通貨関連株とビットコインの4年周期を取り上げる回で詳しく見ます。
2025年の月ごとの動きでは、株価のビットコインに対するベータ(BTCが1%動いたとき株価が平均何%動いたか)は1.47、相関は0.82でした(12か月の記述統計で予測ではありません)。11月はビットコインの−17.5%に対して株価が−34.3%です。2024年1月11日に米国で現物のビットコインETF(上場投資信託)の取引が始まり、株の口座でビットコインを持つ手段が増えたことも、上乗せが縮む背景の一つだったのかもしれません(当ブログの見方)。
MSCIの除外案と、指数に入るか入らないか
株価の外側からも風が吹きました。指数会社のMSCIが2025年10月、保有するデジタル資産が総資産の50%以上を占める会社を同社の指数から除外する案について、意見募集を始めたのです。意見の締め切りは2025年12月31日。2025年12月31日時点では、判断は2026年1月15日までの予定と発表されていました。10月29日時点のデータによる暫定リストには、ストラテジーのクラスA株(大型株)が入っています。
報道では、JPモルガンが、MSCIの除外だけで約28億ドル、ほかの指数も追随すれば、それらの指数から約88億ドルの資金流出がありうると推計していました(The Blockの2025年11月20日の報道による、二次資料)。ストラテジーは12月10日、除外案に反対する意見書を出したと報じられています。
ほかの指数では、S&P500(米国の代表的な株価指数)の9月と12月の定期入替で、ストラテジーは採用されませんでした。一方、ナスダック100(米ナスダック上場の大型株100社の指数)の12月の年次入替では残留が報じられています(12月22日発効、二次資料)。10月27日には、S&Pグローバル・レーティングが発行体格付け「B-」をつけました。いわゆる投資適格の水準より下の格付けです。
指数に入るかどうかは、物件でいえば、大口の買い手の「買ってよい物件のリスト」に載るかどうかに近い話です(当ブログの見方)。物件そのものは何も変わらなくても、リストから外れれば買い手が減ります。
ストラテジー(MSTR)の株価を、ビットコインの4つの水準で試算する
では、2026年末にビットコインがどこにいれば、ストラテジーの株価はどのくらいになりうるのか。シリーズ共通の4つの水準で試算します。以下はすべて当ブログの試算で、株価の予想ではありません。
| シナリオ | 2026年末のBTC | 12月31日比 | 置いた前提 |
| S1 過去3回の周期をなぞる | 23,053ドル(幅19,301〜29,149ドル) | −73.7% | 2025年の終値高値124,752.53ドル×(1−過去3回の平均下落率81.52%)。幅は過去3回で最大の84.53%と最小の76.63%で計算 |
| S2 下げが過去より浅い | 62,376ドル | −28.7% | 2025年の終値高値の半値 |
| S3 横ばい | 87,509ドル | 0.0% | 2025年12月31日の終値と同じ |
| S4 2025年の高値を回復 | 124,753ドル | +42.6% | 2025年の終値高値 |
ストラテジーは、保有資産から計算するNAV方式を主に使います。計算式は、株式価値=672,497BTC×シナリオのBTC価格+準備金2,190−転換社債8,213.75−優先株7,943.2(推計)(百万ドル)。これを310,683,533株(推計)で割ったものを「mNAV 1.0倍の株価」とし、12月31日のmNAV 1.04倍がそのまま続いた場合の株価も並べました(企業価値=1.04×BTCの時価として、借入と優先株を差し引き、準備金を足す)。
| シナリオ | BTCの時価 | 株式価値 | mNAV 1.0倍の株価 | 12月31日比 | 1.04倍の株価 | 12月31日比 |
| S1下限 | 12,980 | −987(ゼロ以下) | 0ドル | −100% | 0ドル | −100% |
| S1 | 15,503 | 1,536 | 4.94ドル | −96.7% | 6.92ドル | −95.4% |
| S1上限 | 19,603 | 5,636 | 18.14ドル | −88.1% | 20.63ドル | −86.4% |
| S2 | 41,948 | 27,981 | 90.06ドル | −40.7% | 95.40ドル | −37.2% |
| S3 | 58,849 | 44,882 | 144.46ドル | −4.9% | 151.95ドル | 0.0% |
| S4 | 83,896 | 69,929 | 225.08ドル | +48.1% | 235.75ドル | +55.2% |
※百万ドル(株価を除く)。当ブログの試算。株式価値がゼロ以下のときは株価を0と表示。保有BTC・株数・転換社債・優先株・準備金は12月末の水準で固定。
まず、ビットコインの値動きが株価では大きくなります。S3の株式価値44,882百万ドルは、ビットコインの時価58,849百万ドルの約76%。先に並ぶ請求の額は動かないので、ビットコインが10%動くと、株式価値は約13%動く計算です(当ブログの計算)。S2でビットコインが−28.7%なら、1.0倍の株価は−40.7%になります。
次に、S1の深さです。株式価値がゼロになるビットコインの価格は計算上約20,769ドルで、S1の幅の下端(19,301ドル)では普通株の取り分がなくなります。参考までに、2022年の実際の株価の騰落率(−74.0%)を12月31日の株価に当てはめると39.52ドルです(過去の実例で、予想ではありません)。ただ、優先株5種類はすべて2025年の発行で、2022年には優先株はありませんでした。階段の形が違うので、目安にとどめてください。
それぞれのシナリオが外れる条件もはっきりさせておきます。S1のような深い下げでは、会社は「1倍を下回ればビットコインを売る」としているので、固定費の支払いで保有量が減り、表より厳しくなりえます。逆に株式価値が薄くても、将来の回復への期待で株価が表を上回ることもあるでしょう(当ブログの見方)。S2・S3では、mNAVが1倍を割り込めば表の「1.0倍」より下に、S4では上乗せが広がれば表より上に行きます。ただ、上乗せが広がる局面では普通株の発行も増えやすく、1株あたりの数字は変わってきます。どのシナリオも、株数と優先株の残高は推計で、準備金が配当の支払いで減っていくことは織り込んでいません。
次の決算では、評価損の大きさと準備金の減り方を見る
次の決算は、2025年10〜12月期と通期の数字です(前年の10〜12月期は2025年2月5日に発表)。まず、10〜12月期の評価損の大きさと繰延税金の動き。次に、ドルの準備金がどれだけ積み増され、取り崩されたか。そしてmNAVが1倍を下回ってビットコインを売る場面があったか。会社の「1倍」の方針の運用は、普通株の株主にとっていちばん大事な情報だと思います。
そのうえで、10-Kの表紙に載る発行済株式数と優先株の残高を、この回の推計(310,683,533株、7,943.2百万ドル)と比べてみてください。MSCIの判断も、株価の上乗せに直接かかわります。2025年5月16日に起こされた証券集団訴訟や、1株10票のクラスB株の大半をマイケル・セイラー氏が持つ議決権の構造も、長く持つなら頭に入れておきたい点です。
ストラテジーの株は、ビットコインから「先に並ぶ請求」を引いた残りを買うもの
ストラテジーは、普通株の売り出しを中心に、優先株と転換社債も組み合わせて、2025年だけでビットコインを225,027BTC買い増した会社です。12月28日の保有は672,497BTC。その上には転換社債と優先株で約162億ドルの請求が並び、年約8.2億ドルの固定費を、本業の稼ぎではなく資本市場とドルの準備金で払っています。そして2025年の株価の下げは、ビットコインの値下がりよりも、株価に乗っていた上乗せ(mNAV)が1倍近くまでしぼんだことで説明できる部分が大きい、というのが当ブログの見方です。
大家業を長く続けていると、物件価格が上がる局面で借入と出資を増やして買い進めるのが、いちばん気持ちのいい瞬間だと感じます。でも、その仕組みが本当に試されるのは、評価額が下がったときや、出資してくれる人の行列が短くなったときです。ストラテジーの決算書は、その「試される局面」の入口を映しているように私には見えました。
この株を考えるときは、ビットコインの値段に加えて、mNAVが1倍の上か下か、準備金が何か月分あるか、2028年に集中する転換社債の請求日を、セットで眺めておきたいところです。米国株を持つときの日本での税金は、当ブログの「エアビーの株を買う前に! 日本に住む私たちが払う「米国株の税金」完全ガイド【全8回・第8回】」(2025年12月8日)で整理しています。イーサリアムを集めるビットマインを取り上げる回や、8社を比べる回もあわせてどうぞ。
※本記事は公表資料をもとにした情報提供を目的としたもので、特定の銘柄や暗号資産の売買を勧めるものではありません。株価のシナリオは当ブログが置いた前提による試算で、将来の株価を予想・保証するものではありません。投資の判断はご自身の責任でお願いします。
※数値は各社の決算資料・開示資料をもとに当ブログが集計・計算したもので、四捨五入の関係で合計が合わない場合があります。株価・暗号資産の価格は2025年12月31日の終値、円換算は1ドル156.56円(三菱UFJ銀行の2025年最終公表日の仲値)です。
出典・参考
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- Strategy Announces Third Quarter 2025 Financial Results(Strategy、2025年10月30日)https://www.strategy.com/press/strategy-announces-third-quarter-2025-financial-results_10-30-2025
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- Strategy Form 8-K(Strategy、2025年5月19日)https://assets.contentstack.io/v3/assets/bltf8d808d9b8cebd37/bltfba7ca0af6a9f6a8/682a9fc86555216ab73157fb/form-8-k_05-19-2025.pdf
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- Consultation on Digital Asset Treasury Companies(MSCI、2025年10月)https://www.msci.com/downloads/web/msci-com/indexes/index-resources/consultation-on-digital-asset-treasury-companies-2025.pdf
- JPMorgan says Strategy could face billions in outflows if MSCI and other major indices remove it(The Block、2025年11月20日)https://theblock.co/post/379778/jpmorgan-strategy-billions-outflows-msci-other-indices-remove
- Strategy urges MSCI to keep DATs in indexes(Bitcoin Magazine、2025年12月10日)https://bitcoinmagazine.com/featured/strategy-msci-keep-dats-in-indexes
- Strategy (MSTR) survives Nasdaq 100 reshuffle — can it endure an MSCI ban?(Yahoo Finance、2025年12月15日)https://finance.yahoo.com/news/strategy-mstr-survives-nasdaq-100-144128393.html
- AppLovin, Robinhood Markets and Emcor Group Set to Join S&P 500(S&P Dow Jones Indices、2025年9月5日)https://press.spglobal.com/2025-09-05-AppLovin,-Robinhood-Markets-and-Emcor-Group-Set-to-Join-S-P-500-Others-to-Join-S-P-100,-S-P-MidCap-400-and-S-P-SmallCap-600
- CRH, Carvana and Comfort Systems USA Set to Join S&P 500(S&P Dow Jones Indices、2025年12月5日)https://press.spglobal.com/2025-12-05-CRH,-Carvana-and-Comfort-Systems-USA-Set-to-Join-S-P-500-Others-to-Join-S-P-MidCap-400-and-S-P-SmallCap-600
- 株価・暗号資産の価格:Yahoo Finance「MSTR」「BTC-USD」の価格履歴 https://finance.yahoo.com/quote/MSTR/history/ 、https://finance.yahoo.com/quote/BTC-USD/history/































