東雲結子:先生、今年の目標が決まりました。事務所のパソコンでビットコインを掘ります! 夜のあいだ回しておけば、朝には小判がザクザクです。

税理士石井:うーん、朝いちばんにザクザク届くのは、たぶん電気料金のお知らせのほうですね。

東雲結子:えっ、でもブロックを1つ掘れば3.125BTCですよね? 1BTCが年末の終値で87,509ドルなら……電卓のほうが先に熱くなってきました!

税理士石井:その前に、競争相手を見てください。年末近くの世界全体の計算力は、7日平均で1,099EH/s(EH/sは計算力の単位。二次資料による)。この連載で取り上げる3社でいちばん計算力の大きいマラでさえ、2025年7〜9月期に手にしたのは報酬全体の5.0%です。

東雲結子:……事務所のパソコン、宝くじ売り場の行列の最後尾に並んだら、列が地球を一周していた感じですね(汗)。

税理士石井:ははは、いい表現です。しかも2024年4月の半減期で、1ブロックの報酬は6.25BTCから3.125BTCに半分になりました。大家業でいえば、ある朝、家賃が契約書ごと半額に書き換えられていたようなものです。

東雲結子:家賃半額の大改定……。プロのマイナーは、それでどうやって食べているんですか?

税理士石井:計算力1PH/sあたりの1日の稼ぎを「ハッシュプライス」といいますが、これが2025年11月22日に35.06ドルと過去最低になりました(二次資料による)。だから各社は、掘ったビットコインを売るか、持つか、それとも電気と建物をAIのデータセンターとして貸すかで、道が分かれています。

東雲結子:電気と建物を貸す……それ、ほとんど大家さんじゃないですか!

税理士石井:そうなんです。今日は、マイニングの採算がどう決まるのかと、その3つの道の損得を、マラ、ライオット、サイファーの決算書で確かめていきましょう。

この連載で取り上げる8社のうち3社は、ビットコイン(BTC)を「掘る」会社、マイナーです。マラ・ホールディングス(MARA)、ライオット・プラットフォームズ(RIOT)、サイファー・マイニング(CIFR)。どの会社も、決算書の売上のほとんどがマイニングから来ています(2024年12月期の売上に占める採掘の割合は、マラ95.2%、ライオット85.2%、サイファー100%)。

今回は1社ずつの決算ではなく、その手前にある「ビットコイン・マイニングの採算はどう決まるのか」を整理します。2024年4月の半減期でマイナーが受け取る新規発行の報酬は半分になり、2025年には、計算力1単位あたりの稼ぎであるハッシュプライスが過去最低を更新しました(二次資料による)。そのなかで3社は、掘ったビットコインを売る、持つ、そして設備をAI向けに貸す、という別々の道を選んでいます。

大家として物件を持っていると、家賃は相場で決まり、ローンの返済や修繕費は待ってくれない、という当たり前のことを何度も思い知らされます。マイニングも同じ構造です。収入は自分では決められず、電気代と設備の更新は確実にやってくる。その差がどこで決まるのかを、数字で確かめていきます。

ビットコイン・マイニングの採算は「計算力の取り分×報酬×価格」で決まる

マイニングは、世界中のコンピューターが計算の速さを競い、勝った人がビットコインの取引記録のまとまり(ブロック)を追加できる仕組みです。勝者は、新しく発行されるビットコイン(2024年4月20日以降は1ブロック3.125BTC)と、そのブロックに含まれる取引手数料を受け取ります。ブロックはおおむね10分に1つ、1日にすると約144個作られます。

手数料は、新規発行に比べると小さな存在です。たとえば2025年12月29日に掘られたブロック930,000の手数料は0.0721BTCで、新規発行の3.125BTCと比べるとわずかでした(ブロックの記録による)。マラの2024年12月期の売上を見ても、取引手数料は3,288万ドルで、ブロック報酬など5億5,985万ドルの約6%でした(当ブログの計算)。

1社のマイナーが1日に受け取れるビットコインの量は、ざっくり言えば「自社の計算力÷世界全体の計算力」×「1日のブロック数」×「1ブロックの報酬」です。世界全体の計算力が増えると、ブロックを見つける難しさ(難易度)が引き上げられ、ブロックの間隔がおよそ10分に保たれます。つまり、ライバルが機械を増やせば、自社の機械が同じでも取り分は減っていくのです。そして、受け取ったビットコインに価格を掛けたものが売上になり、そこから電気代、設備の減価償却、人件費などを引いたものが利益になります。

図は、この流れを1枚にまとめたものです。上段で、自社のハッシュレート(マラ60.4EH/s、サイファー23.6EH/sは9月30日、ライオット36.6EH/sは11月30日)を世界全体の1,099EH/sで割ったものが、自社の取り分です。難易度は年末に148.26Tで、約2週間ごとに見直されます。この取り分に1ブロックの報酬と手数料を掛けると掘れるビットコインの量が決まり、さらに価格(12月31日の終値87,509ドル)を掛けると収入になります。そこから電力と設備のコストを引いた利益をどう使うか。下段の3つの箱が、3社の選んだ道です。ライオットは掘ったビットコインを毎月売り(9〜11月の3か月で1,310BTCを掘り、1,248BTCを売却。月次報告の合計)、マラはため込み、サイファーは設備をAI向けに長期で貸す方向へ進んでいます。

用語メモ:ハッシュレート=マイニングの計算力(1秒間に計算できる回数)。EH/s(エクサハッシュ毎秒)は1秒間に100京回、PH/s(ペタハッシュ毎秒)は1,000兆回で、1EH/s=1,000PH/s。難易度=ブロックを見つける難しさ。世界全体の計算力に合わせて見直される。ハッシュプライス=計算力1PH/sあたりで1日に得られる採掘収入の目安(ドル)。

ハッシュプライスは2025年11月に過去最低、年末は1PH/sあたり1日37.18ドル

指標(ネットワーク全体) 値 時点
ハッシュプライス(2025年の高値) 63.80ドル/PH/日 2025年7月11日
ハッシュプライス(7月の平均) 59.38ドル/PH/日 2025年7月
ハッシュプライス(11月の平均) 39.82ドル/PH/日 2025年11月
ハッシュプライス(過去最低) 35.06ドル/PH/日 2025年11月22日
ハッシュプライス(年末近く) 37.18ドル/PH/日 2025年12月29日
難易度(過去最高) 155.97T 2025年10月29日の調整(+6.31%)後
難易度(年末) 148.26T 2025年12月24日の調整(+0.04%)後
計算力(7日平均) 1,099EH/s 2025年12月29日
計算力が初めて1,000EH/sを超えた日(7日平均) 2025年9月2日 ―

 

※Luxor社のHashrate Index(二次資料)による。難易度の調整日は米国時間(世界標準時では11月26日・12月10日・12月24日の調整はそれぞれ翌日)。2025年の高値63.80ドルは、当ブログが確認した月次レビュー(1・7・8・11月)の中での最高値で、すべての月を確かめたものではない。Tは1兆。

マイナーの採算を見るときによく使われる物差しが、ハッシュプライスです。1PH/sの計算力が1日でいくら稼げるかを表すので、マイナーにとっての「1部屋あたりの家賃相場」と考えると分かりやすいと思います。ハッシュプライスは、ビットコインの価格が下がっても、難易度が上がっても下がります。

2025年はこの両方が重なりました。ハッシュプライスは7月の平均が59.38ドルでしたが、11月の平均は39.82ドルまで下がり、11月22日には35.06ドルと過去最低を記録しています(二次資料による)。難易度は10月29日の調整で155.97Tと過去最高になり、11月の2回の引き下げ(11月12日−2.37%、11月26日−1.95%)、12月10日の引き下げ(−0.74%)、12月24日のわずかな引き上げ(+0.04%)を経て、年末は148.26Tでした。計算力の7日平均は、9月2日に初めて1,000EH/sを超え、12月29日には1,099EH/sです。

年末近くのハッシュプライス37.18ドルを1EH/s(1,000PH/s)に直すと、1日約3.7万ドル。この水準が1年続けば、1EH/sあたり年約1,357万ドルの採掘収入になる計算です(当ブログの計算。ビットコイン価格と難易度が年末のまま続くと仮定した単純計算)。家賃相場が7月から年末までに4割近く下がった物件を想像してみてください。ローンの返済額は変わらないのに、です。

半減期でマイニングの「家賃」は半分に。1EH/sあたりの採掘量は7〜8割減った

会社 物差し(当ブログの計算) 半減期前 2025年 変化
マラ 四半期のBTC生産÷期末のEH/s 171.7BTC(2023年10〜12月期) 35.5BTC(2025年7〜9月期) −79%
マラ 年換算の売上÷期末のEH/s 2,540万ドル(同) 1,670万ドル(同) −34%
ライオット 年間のBTC生産÷平均EH/s 599.6BTC(2023年12月期) 171.1BTC(2025年1〜9月を年換算) −71%
ライオット 採掘売上÷平均EH/s(年あたり) 1,710万ドル(同) 1,743万ドル(同) +2%
サイファー 売上÷平均EH/s(年あたり) 2,540万ドル(同) 1,180万ドル(同) 約−53%

 

※会社の開示値をもとに当ブログが計算。マラは期末、ライオットとサイファーは期首と期末の平均のハッシュレートで割っているため、会社どうしの水準は比べられない。ライオットは夏の大規模な稼働停止(電力の需要対応)で、設置済みの計算力あたりの生産が低めに出る。サイファーは2025年に計算力が急増しており、平均は粗い近似。

この表が、半減期の重さをいちばんよく物語っています。同じ1EH/sの計算力で掘れるビットコインは、マラで−79%、ライオットで−71%。2024年4月の半減期で報酬そのものが半分になったうえに、世界全体の計算力が増えて、1社あたりの取り分も薄まったためです。

それでも売上の落ち込みは、量ほどには大きくありません。ライオットの採掘売上は1EH/sあたりでほぼ横ばい、マラは−34%、サイファーは約−53%でした。ビットコインの価格が上がったことで、量の減少をある程度埋め合わせたのです。大家業でいえば、貸せる部屋数が大きく減ったのに、家賃の単価が上がったおかげで、何とか売上を保っているような状態です。裏を返せば、価格が下がれば、その支えはすぐに外れます。

もう一つの物差しが、マラの開示する「受け取れた報酬のシェア」です。2023年12月期の3.6%から、2024年12月期は4.1%、2025年4〜6月期は5.7%まで上がりましたが、7〜9月期は5.0%に下がっています(会社の発表による)。マラの計算力は6月末の57.4EH/sから9月末の60.4EH/sへ増えていますから、世界全体の計算力の伸びがそれを上回ったことが一因と読めます(当ブログの見方)。走り続けないと、同じ場所にもとどまれない。それがマイニングの競争です。

コストの物差しは会社ごとに違う。マラは「1PH/日あたり」、ライオットは「1BTCあたり」

マラ(会社定義) 2023年12月期 2024年12月期 2024年7〜9月期 2025年4〜6月期 2025年7〜9月期
1PH/sを1日動かすコスト(ドル) 46.4 38.6 37.0 28.7 31.3
自社サイトの購入電力コスト(ドル/BTC) ― 28,801 32,433 33,735 39,235

 

ライオット(会社定義、ドル/BTC) 2023年12月期 2024年12月期 2024年1〜9月 2025年1〜9月 2025年7〜9月期
1BTCを掘るコスト(減価償却を除く) 3,831 32,216 27,733 46,311 46,324
1BTCを掘るコスト(減価償却込み) ― ― 55,849 86,985 89,074

 

※ライオットのコストは「(採掘の売上原価−電力カーテイルメント・クレジット)÷生産したBTC」。2023年12月期は、2024年12月期の決算発表で示された現在の定義による値(2023年12月期の決算発表時の定義では7,539ドル)。サイファーは会社定義の採掘コストを開示していない。

マイナーのコストは、電気代と設備がほとんどです。ただ、その測り方は会社ごとに違います。マラは「1PH/sの計算力を1日動かすのにいくらかかるか」で、2025年7〜9月期は31.3ドルでした。2023年12月期の46.4ドルから下がってきたのは、計算の効率が良い新しい機械への入れ替えが進んだためと考えられます(当ブログの見方)。実際、機械全体の電力効率は、2023年12月期の24.5J/THから2025年9月末の18.6J/THへ改善しています(J/THは1兆回の計算に使う電力量で、小さいほど省エネ)。ただし、自社サイトで買った電力のコストを、掘ったビットコイン1枚あたりに直すと、2024年12月期の28,801ドルから2025年7〜9月期は39,235ドルに上がっています。電力の単価は1kWhあたり0.039ドル(2024年12月期)から0.04ドル(2025年7〜9月期)とほぼ同じですから、1枚を掘るのに必要な電気の量が、世界全体の計算力の増加などで増えていると読めます(当ブログの見方)。

年末近くのハッシュプライス37.18ドルと、マラの7〜9月期のコスト31.3ドルを並べると、差は約5.9ドル(当ブログの計算。時点と定義が違う参考値)。家賃からランニングコストを引いた手取りが、家賃の2割に満たない物件です。

ライオットは「1BTCを掘るのにいくらかかるか」で開示しています。2025年1〜9月は、減価償却を除くと46,311ドル、減価償却まで含めると86,985ドルでした。年末のビットコイン価格87,509ドルと比べると、現金で出ていくコストでは余裕があるように見えても、機械の減価償却まで含めると、ほぼとんとんです。11月に売ったビットコインの平均価格は96,560ドルでした(会社の発表による)。

ここで、大家として一言だけ言わせてください。減価償却を除いたコストだけで採算を判断するのは、建物がいつまでも新築のままだと考えて利回りを計算するのと同じです。マイニングの機械は、建物よりはるかに早く古くなり、新しい機械に負けていきます。減価償却は、いずれ必ずやってくる「建替え費用」の積立てだと考えたほうが、現実に近いと私は思います。

もう一つの特徴が、ライオットの「電力カーテイルメント・クレジット」です。電力の需給が厳しいときに採掘を止めて電気を使わない代わりに受け取るお金で、ライオットはこれを採掘のコストから差し引いて計算しています。2023年12月期は7,121.5万ドルと大きく、1BTCあたりのコストが3,831ドルまで下がりました。2025年7〜9月期は3,063.4万ドルで、控除後の採掘コスト6,513.1万ドルの半分近くにあたります(当ブログの計算)。混み合う時期に自分の部屋をあえて空け、その分の対価を受け取るような仕組みですが、毎年同じ額が入る保証はありません。サイファーは会社定義の採掘コストを開示していませんが、主力のオデッサ拠点では、少なくとも2027年7月まで1kWhあたり約2.7セントで電力を買う契約を結んでいます。

掘ったビットコインを「売る」か「持つ」か。ライオットは売り、マラはため込んだ

会社 保有BTC 2025年の方針 2025年の動き
マラ 52,850BTC(9月30日。うち17,357BTCは貸出・運用口座・担保) 2024年に全量保有を採用。2025年は保有分を貸出や運用、借入れの担保に活用 6月は売却ゼロ、9月は純売却(数量は非開示)。1〜9月のデジタル資産の売却収入は182.4百万ドル
ライオット 19,368BTC(11月30日。うち制限付き3,977BTC) 2024年に取得・保有の方針。2025年4月から毎月の生産のほぼ全量を売却 9月465BTC、10月400BTC、11月383BTCを売却
サイファー 1,493BTC(9月30日) 固定の保有方針はなく、生産の大半を売却 9月は採掘251BTC(売電相当分と共同事業の持分を含む)のうち158BTCを売却

 

掘ったビットコインをどうするか。ここで3社の道が分かれます。

マラは、2024年に「掘ったビットコインはすべて持つ」方針をとり、市場からの買い増しも合わせて、2025年9月30日には52,850BTCを持っていました。年末の価格で評価すると、時価総額の136.2%にあたります(当ブログの計算。保有量は9月30日時点)。ただし、そのうち約3分の1にあたる17,357BTCは、貸出、外部の運用口座、借入れの担保に回っています。会社自身が、ビットコインが1万ドル動くと利益が約5.3億ドル動くと開示しているほど、業績はビットコインの価格に敏感です。

ライオットも2024年には取得・保有の方針を掲げていましたが、2025年4月からは、毎月の生産のほぼ全量を売る運用に変えました。2025年1〜9月には2,762BTCを2.91億ドルで売っています。サイファーは固定の保有方針を持たず、生産の大半を売ってきました。

大家業にたとえると、マラは「家賃をビットコインという現物で受け取り、換金せずに金庫にためていく大家」です。ところが、電気代や機械の代金は現金で払わなければなりません。そこで必要になるのが、外からの資金調達です。

2025年1〜9月(百万ドル) マラ ライオット サイファー
売上高 705 495 164.2
純利益 398 28 −88.0
うちBTCの評価損益(未実現) 1,025 396 −2.9
純利益−評価損益(簡易) −628 −368 −85.1
営業キャッシュフロー −578 −467 −153.5
設備投資 458 257 263.0
FCF(営業CF−設備投資) −1,036 −724 −416.5

 

※当ブログの集計。マラの評価損益は営業利益に含まれる分と、貸出・担保に回したBTCの分の合計。「純利益−評価損益」は税金の影響を調整しない簡易な値。設備投資は有形固定資産の取得と機械の前払金の合計(ライオットは土地の取得を除く)。FCF(フリー・キャッシュ・フロー)は会社が自由に使える現金の目安。

この表は、マイナーの決算書を読むうえで、いちばん大事な表かもしれません。マラの2025年1〜9月の純利益は3.98億ドルの黒字ですが、ビットコインの評価益(未実現)を除くと約6.3億ドルの赤字です。評価益は、保有するビットコインの値上がりを帳簿に載せたもので、現金ではありません。

営業キャッシュフローも3社そろってマイナスです。マイナーは、掘ったビットコインを売上として計上しても、その時点では現金が入ってきません。売ったときの代金は「投資活動」のキャッシュフローに入るため、営業キャッシュフローは構造的にマイナスになりやすいのです。それでも、持つ方針のマラは売る代金そのものが少なく、そのぶん外部の資金に頼る度合いが大きくなります。マラは2025年1〜9月に新株の売り出しで5.719億ドルを集め、7月には利率0%の転換社債10.25億ドルを発行しました。

こうした資金調達を重ねた結果、2021年末から最新の四半期報告書の表紙までに、発行済株式数はマラが1億273万株から3億7,818万株(3.68倍)、ライオットが1億1,675万株から3億7,181万株(3.18倍)、サイファーが2億4,928万株から3億9,509万株(1.58倍)に増えました。共有名義の物件で、知らないうちに共有者が3倍以上に増えていたら、1人あたりの持分はそれだけ薄まります。マラは保有するビットコインの量を増やしてきましたが、株主1人あたりで見るなら、株数の増え方と並べて評価する必要があります。

用語メモ:転換社債=あらかじめ決めた価格で株式に転換できる社債。転換されるまでは借入れ(負債)で、満期には元本を返す必要がある。ATM=市場で少しずつ新株を売り出して資金を集める仕組み。

AIデータセンターへの転換は、マイナーが「データセンターの大家」になる話

会社 2025年12月31日までの動き
サイファー テキサス州のバーバーレイク拠点をFluidstackに賃貸(IT設備の容量207MW、当初10年で約38億ドル、グーグルが最大17.3億ドルを保証)。アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)と300MW・15年・約55億ドルの賃貸契約(賃料は2026年8月から、拠点は非開示)
ライオット テキサス州コルシカナ拠点の1GWのうち約600MWを、AI・高性能計算向けに使う検討を開示。2025年10月の決算発表で、最初の2棟(IT設備の容量112MW)の建屋の開発に着手したと発表。2025年末時点でテナントは発表されていない
マラ 2025年2月にAI向けホスティング施設の建設を「戦略的に一時停止」。7〜9月期の株主レターで、グランベリー拠点へのAIの推論用設備の導入を報告。8月にフランスのExaionへの出資で合意(2025年末時点で手続き中)。11月にMPLXと、西テキサスでのガス火力発電所とデータセンターをめぐる協業で基本合意(法的拘束力なし)

 

※会社の発表による。MW(メガワット)は電力の容量。

3社が同じように口にしているのが、AI・HPC(高性能計算)への転換です。マイナーは、大量の電力を引き込める土地と、変電設備と、建物を持っています。その「電気が来ている箱」を、AIの計算をしたい会社に貸せば、ビットコインの価格に左右されない家賃が入る。考え方はシンプルです。

3社の中でいちばん先に進んでいるのがサイファーです。Fluidstackとの契約は、当初10年の契約収益が約38億ドル、延長を含めると約90億ドルで、グーグルが最大17.3億ドル分の支払いを保証しています。AWSとの契約は15年で約55億ドル。2つを合わせた当初期間の契約総額は約93億ドル(割引前)で、全容量の引渡し後の年平均にならすと約7.47億ドルです。2024年10月〜2025年9月のマイニング売上2.065億ドルの約3.6倍にあたります(当ブログの単純計算)。

大家の目線で見ると、この契約の強みは2つあります。1つは「テナントの信用力」で、グーグルの保証やAWSという借り手は、マイニングのビットコイン相場よりはるかに読みやすい家賃をもたらします(当ブログの見方)。もう1つは「期間の長さ」で、10年、15年という契約は、次の半減期(2028年4月頃の推計)をまたいで続きます。

一方で、弱みもはっきりしています。まず建設の負担です。会社は、IT設備の容量1MWあたり900万〜1,000万ドルのプロジェクト費用を見込んでいて、バーバーレイクの207MWに当てはめると約18.6億〜20.7億ドルになります(当ブログの単純計算)。その資金として、2025年11月に子会社が、バーバーレイクの資産などを担保にした年7.125%の担保付社債、合計17.33億ドルの条件を決めました(11月5日と11月20日)。単純に計算すると、利息だけで年約1.2億ドルです(当ブログの計算)。次に引渡しの期限です。Fluidstack向けは2026年9月までと2027年1月までの2段階、AWS向けは2026年7月から10〜12月期にかけて引き渡す予定で、完成するまで家賃は入りません。新築の一棟物件で、竣工まではローンの利息だけが出ていくのと同じ構図です。

ライオットは、建物の工事に入った段階で、2025年末時点ではテナントの名前も条件も発表されていませんでした。マラは、自らデータセンターを建てて貸すことにはいったん慎重な姿勢を示しつつ、発電やAIの推論といった別の形を探っています。同じ「AI転換」という言葉でも、契約まで済んだ会社、建物を建て始めた会社、組み方を探っている会社で、段階はまったく違います。

マイナー株は、ビットコイン以上に揺れる

会社 2025年の騰落率 2025年の月次ベータ 相関係数 2022年の騰落率
マラ(MARA) −46.5% 1.38 0.84 −89.6%
ライオット(RIOT) +24.1% 1.29 0.61 −84.8%
サイファー(CIFR) +218.1% 1.12 0.34 −87.9%
ビットコイン(BTC) −6.3% ― ― −64.3%

 

※ベータと相関係数は、2025年の月次の騰落率12本をビットコインの月次の騰落率と比べた記述統計(当ブログの計算)。予測ではない。騰落率は前年12月31日の終値との比較。

用語メモ:ベータ=ビットコインが1%動いたときに、株価が平均して何%動いたか。相関係数=値動きの方向がどれだけ揃っていたか(1に近いほど揃う)。

2022年、ビットコインが−64.3%だった年に、3社の株価は約85〜90%下げました。マイナー株は、ビットコインの値動きに、設備と借入れの重さが上乗せされて動きます。

2025年は、3社の成績がきれいに分かれました。いちばんビットコインに近い動きをしたのはマラで、相関係数は0.84。ビットコインをため込む会社らしい結果です。サイファーは株価が3倍以上になりましたが、ビットコインとの相関係数は0.34と低く、ベータの数字はほとんど当てになりません。株価を動かしたのは、ビットコインよりも、9月以降に相次いだデータセンターの契約だったと見るのが自然でしょう(当ブログの見方)。ライオットはその中間です。

2026年末のシナリオ:ハッシュプライスと株価の試算

シナリオ(2026年末のBTC) ハッシュプライス(ドル/PH/日) マラ:コスト31.3ドルとの差 ライオット:減価償却を除くコストとの差(ドル/BTC) ライオット:減価償却込みコストとの差(ドル/BTC)
S1 23,053ドル(−73.7%) 9.83 −21.47 −23,258 −63,932
S2 62,376ドル(−28.7%) 26.60 −4.70 16,065 −24,609
S3 87,509ドル(0.0%) 37.32 6.02 41,198 524
S4 124,753ドル(+42.6%) 53.21 21.91 78,442 37,768

 

※当ブログの試算で、予想ではない。ハッシュプライス=2025年12月29日のビットコイン建てのハッシュプライス(1PH/sあたり1日0.00042649BTC)×シナリオのBTC価格。難易度や手数料が年末のまま変わらないと置いた単純化。S3が実際の37.18ドルとわずかにずれるのは、37.18ドルが12月29日のビットコイン価格をもとにした値のため。コストはマラが2025年7〜9月期、ライオットが2025年1〜9月の会社定義の値。

株価の試算(ドル) 12月31日終値 S1(2022年の実例) S1(ベータ、参考) S2 S3 S4
マラ 8.98 0.93 0.45※ 5.41 8.98 14.27
ライオット 12.67 1.92 0.63※ 7.96 12.67 19.64
サイファー 14.76 1.79 2.62 10.03 14.76 21.78

 

※当ブログの試算で、予想ではない。S2〜S4は12月31日の終値×(1+2025年の月次ベータ×BTCの変化率)。S1(2022年の実例)は、ビットコインが−64.3%だった2022年の各社の実際の騰落率を、12月31日の終値に当てはめた値。S1をベータで計算すると、マラとライオットは計算の下限(−95%、※)に張りつくため参考扱い。

シナリオの置き方は、この連載で共通です。2026年末のビットコインを、過去3回の周期をなぞるS1(23,053ドル)、高値の半値のS2(62,376ドル)、横ばいのS3(87,509ドル)、2025年の高値を回復するS4(124,753ドル)の4つに置きます。

まず採算です。難易度が年末のままだとすると、ハッシュプライスはS1で9.83ドル、S2で26.60ドル。マラの7〜9月期のコスト31.3ドルを、S2の時点で下回ります。ライオットは、減価償却を除いた現金ベースのコストならS2でも1BTCあたり16,065ドルの余裕がありますが、減価償却まで含めると、S3でようやくとんとん(524ドルの差)です。つまりライオットの場合、ビットコインが年末の水準を割り込むと、少なくとも会社定義のコストで見る限り、機械の更新費用まで賄うのは難しくなる計算です。

株価の試算では、S1の主な値として、2022年の実際の下落率を当てはめた「過去の実例」を示しています。マラ0.93ドル、ライオット1.92ドル、サイファー1.79ドル。いずれも年末の株価から8〜9割下の水準です。大きな下げにベータを直線で当てはめると、マラとライオットは計算上−95%の下限に張りついてしまうため、ベータの値は参考にとどめました。上向きのS4では、マラ14.27ドル(+58.9%)、ライオット19.64ドル(+55.0%)、サイファー21.78ドル(+47.6%)です(12月31日比、当ブログの計算)。

あわせて、1株あたりの保有ビットコインの価値も見ておきます。マラは、S1で3.22ドル、S3で12.23ドル、S4で17.43ドル。S3では年末の株価8.98ドルを上回ります。ただし、マラには転換社債などで約36.5億ドルの借入れがあり、手元の現金8.3億ドルを差し引いても約28.2億ドルが残ります(9月30日、当ブログの計算)。ビットコインの価値だけで株価を測るのは早計です。ライオットはS3で4.56ドルと、株価の4割弱にとどまります。

最後に、この試算が外れる道筋を書いておきます。いちばん大きいのは「難易度は年末のまま」という置き方です。ビットコインが下がって採算の合わない機械が止まれば、世界全体の計算力と難易度が下がり、ハッシュプライスは試算ほどには下がらないかもしれません。逆に、各社が機械を増やし続ければ、試算より下がります(当ブログの見方)。また、サイファーはビットコインとの相関が低く、2026年8月からはAWSの賃料が入り始める予定です。2022年のように純粋なマイナーとして売られるとは限らず、S1の実例はとくに当てはまりにくいと考えています。

マイナー株を見るときは、ハッシュプライス、コスト、そして「何を売る会社か」

ここまでの話を、決算や月次の発表を読むときの順番に並べ直してみます。

まず確かめたいのは、ハッシュプライスと会社のコストの差です。年末近くのハッシュプライスは37.18ドルでした。マラなら1PH/sあたりのコスト(7〜9月期31.3ドル)、ライオットなら減価償却込みの1BTCあたりのコスト(2025年1〜9月86,985ドル)と並べて、手取りがどれだけ残っているかを見てください。次の決算(2025年10〜12月期)では、ハッシュプライスが過去最低をつけた11月を含む四半期のコストが出てきます。

次に、掘ったビットコインの行き先です。マラは9月に純売却があり、2025年1〜9月のデジタル資産の売却収入は182.4百万ドルでした。月次の生産報告は9月分を最後に、四半期ごとの開示に切り替えると表明しています。ライオットは11月まで毎月ほぼ全量を売っていました。保有量と売却量の変化は、会社の資金繰りの温度計になります。そして、外部からの資金調達、つまり新株の売り出しと転換社債で株数がどれだけ増えたかも、四半期ごとに確かめておきたいところです。

3つ目は、AI・HPCへの転換の進み具合です。サイファーは、AWS向けの引渡しが2026年7月から、Fluidstack向けが2026年9月まで、その後2027年1月までの予定です。ライオットはコルシカナのテナントが決まるかどうか。マラはExaionへの出資の手続きが完了するか、MPLXとの基本合意が正式な契約になるか。発表の見出しより、契約の相手、期間、金額、引渡しの時期を一つずつ確かめるのが大家流の読み方です。

半減期は、次は2028年4月頃(推計)に来て、報酬は1.5625BTCになります。マイナーにとって、家賃の大規模改定はこれで終わりではありません。ビットコイン相場の波に身を任せるのか、長期の賃貸契約という別の収入源を持つのか。3社の選択の違いは、そのまま株価の性格の違いになっています。マラ、ライオット、サイファーをそれぞれ取り上げる回、そして8社を比較する回もあわせてどうぞ。

 

※本記事は公表資料をもとにした情報提供を目的としたもので、特定の銘柄や暗号資産の売買を勧めるものではありません。株価のシナリオは当ブログが置いた前提による試算で、将来の株価を予想・保証するものではありません。投資の判断はご自身の責任でお願いします。

※数値は各社の決算資料・開示資料をもとに当ブログが集計・計算したもので、四捨五入の関係で合計が合わない場合があります。株価・暗号資産の価格は2025年12月31日の終値、円換算は1ドル156.56円(三菱UFJ銀行の2025年最終公表日の仲値)です。

出典・参考

  • MARA Q3 2025 Shareholder Letter(MARA Holdings、2025年11月4日)https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1507605/000150760525000026/q325shareholderletter.htm
  • MARA Q4/FY2024 Shareholder Letter(MARA Holdings、2025年2月26日)https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1507605/000149315225008402/ex99-1.htm
  • MARA Form 10-K(2024年12月期)売上の内訳(MARA Holdings、2025年3月)https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1507605/000150760525000003/R59.htm
  • MARA Form 10-Q(2025年7〜9月期)キャッシュフロー計算書(MARA Holdings、2025年11月)https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1507605/000150760525000028/R6.htm
  • Riot Announces April 2025 Production and Operations Updates(Riot Platforms、2025年5月5日)https://www.riotplatforms.com/riot-announces-april-2025-production-and-operations-updates/
  • MARA Q4/FY2023 Results(MARA Holdings、2024年2月28日)https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1507605/000149315224008232/ex99-1.htm
  • MARA Announces Bitcoin Production and Mining Operation Updates for September 2025(MARA Holdings、2025年10月3日)https://ir.mara.com/news-events/press-releases/detail/1410/mara-announces-bitcoin-production-and-mining-operation-updates-forseptember-2025
  • MARA Reports June 2025 Bitcoin Production and Mining Operations Update(MARA Holdings、2025年7月1日)https://ir.mara.com/news-events/press-releases/detail/1398/mara-reports-june-2025-bitcoin-production-and-mining-operations-update-issues-mid-year-outlook
  • MARA Form 8-K(Exaionへの投資契約)(MARA Holdings、2025年8月11日)https://ir.mara.com/sec-filings/all-sec-filings/content/0001641172-25-023015/0001641172-25-023015.pdf
  • MPLX and MARA Announce Collaboration on Integrated Power Generation and Data Center Campuses in West Texas(MARA Holdings、2025年11月4日)https://ir.mara.com/news-events/press-releases/detail/1412/mplx-and-mara-announce-collaboration-on-integrated-power-generation-and-data-center-campuses-in-west-texas
  • Riot Platforms Q3 2025 Financial Results and Strategic Highlights(Riot Platforms、2025年10月30日)https://www.riotplatforms.com/riot-platforms-reports-third-quarter-2025-financial-results-and-strategic-highlights/
  • Riot Platforms Form 10-Q(2025年7〜9月期)損益計算書(Riot Platforms、2025年10月30日)https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1167419/000110465925104466/R4.htm
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  • Riot Announces November 2025 Production and Operations Updates(Riot Platforms、2025年12月4日)https://www.globenewswire.com/news-release/2025/12/04/3199866/0/en/Riot-Announces-November-2025-Production-and-Operations-Updates.html
  • Riot Announces October 2025 Production and Operations Updates(Riot Platforms の発表を Finviz が掲載、2025年11月4日)https://finviz.com/news/216681/riot-announces-october-2025-production-and-operations-updates
  • Cipher Mining Q3 2025 Business Update(Form 8-K Exhibit 99.1)(Cipher Mining、2025年11月3日)https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1819989/000181998925000110/nov3_earningspressreleasex.htm
  • Cipher Mining とFluidstackの168MW契約の発表(Form 8-K Exhibit 99.1)(Cipher Mining、2025年9月25日)https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1819989/000095010325012168/dp234624_ex9901.htm
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  • Cipher Mining 担保付社債14億ドルの条件決定(Form 8-K Exhibit 99.1)(Cipher Mining、2025年11月5日)https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1819989/000095010325014401/dp237015_ex9901.htm
  • Cipher Mining Form 10-K(2024年12月期)(Cipher Mining、2025年2月25日)https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1819989/000181998925000005/cifr-20241231.htm
  • Cipher Mining Announces September 2025 Operational Update(Cipher Mining、2025年10月7日)https://www.nasdaq.com/press-release/cipher-mining-announces-september-2025-operational-update-2025-10-07
  • Hashrate Index Roundup (December 29, 2025)(Luxor/Hashrate Index、2025年12月29日)https://hashrateindex.com/blog/hashrate-index-roundup-december-29-2025/
  • Hashprice At All Time Lows(Luxor/Hashrate Index、2025年11月24日)https://hashrateindex.com/blog/hashprice-at-all-time-lows/
  • Luxor Hashrate Lookback Series – November 2025(Luxor/Hashrate Index、2025年12月5日)https://hashrateindex.com/blog/luxor-hashrate-lookback-series-november-2025/
  • Luxor Hashrate Lookback Series – July 2025(Luxor/Hashrate Index、2025年8月4日)https://hashrateindex.com/blog/luxor-hashrate-lookback-series-july-2025/
  • Luxor Hashrate Lookback Series – August 2025(Luxor/Hashrate Index、2025年9月5日)https://hashrateindex.com/blog/luxor-hashrate-lookback-series-august-2025/
  • com Explorer:Bitcoin block 840,000/930,000 https://www.blockchain.com/explorer/blocks/btc/930000
  • 株価・ビットコイン価格:Yahoo Finance 各銘柄(MARA・RIOT・CIFR)とBTC-USDの価格データ(2025年12月31日まで)https://finance.yahoo.com/quote/MARA/history/?frequency=1mo&period1=1577836800&period2=1767225600