東雲結子:石井先生、7社をPERの低い順に並べ替えました! いちばん上の会社を買えば、初売りのお買い得品を手に入れたも同然ですよね。

税理士石井:うーん、スーパーの見切り品なら、それでいいんですけどね。株の値札には、ときどき「一時的な要因」というシールが貼ってあるんです。

東雲結子:えっ、値札の上にもう一枚シールが……。はがしたら値段が変わるんですか?

税理士石井:変わります。メタはそのままのPERだと29.2倍ですが、一時的な税金費用を除くと約23倍。逆にアルファベットは、30.9倍が約36倍になります。

東雲結子:おっと(汗)。シールをはがしたら、同じ会社なのに値札がずいぶん違って見えます。

税理士石井:ええ。もう一つ大事なのは、7社とも、通常のPERで計算した益回りやFCF利回りが、米国10年国債の4.18%を下回っていることです。

東雲結子:国債より利回りが低いのに、みんな買っているんですか? 家賃が必ず入る物件の隣で、もっと利回りの低い物件に行列ができているみたいです。

税理士石井:いいたとえですね。行列ができるのは、並んでいる人たちが「これから家賃が上がる」と見込んでいるからです。

東雲結子:なるほど……。じゃあ読むべきなのは、値札の数字より、値札に込められた「期待」なんですね!

税理士石井:そのとおりです。今日は、今の株価が何を前提にしているのかを、7社まとめて確かめていきましょう。

比較編の最終回は、株価の値札(バリュエーション)とリスクです。どんなに良い会社でも、高すぎる値段で買えば投資はうまくいきません。7社の値札を同じ物差しで並べて、「今の株価が何を前提にしているか」を確かめます。

物件を買うときも、同じことを毎回感じます。立地も建物も申し分ない物件ほど、値段が先に上がっていて、利回りで見ると驚くほど低い。良い物件であることと、良い買い物であることは、別の話なんです。今日は7社の値段が「良い買い物」なのかを、少し疑い深く眺めてみたいと思います。

株価は2025年12月31日の終値、業績は各社の直近12か月(アップルは2025年9月期、エヌビディアは2024年11月〜2025年10月、ほかの5社は2024年10月〜2025年9月)です。

一時的な要因を除くと、PERがいちばん低いのはメタ

会社 PER PER(一時的な要因を除く) EV/FCF FCF利回り 株式報酬控除後のFCF利回り
メタ 29.2倍 約23倍 36.8倍 2.70% 1.57%
アルファベット 30.9倍 約36倍 50.4倍 1.95% 1.32%
アマゾン 32.6倍 約38倍 230倍 0.43% マイナス
マイクロソフト 34.4倍 約33倍 45.3倍 2.17% 1.83%
アップル 36.4倍 ― 40.3倍 2.46% 2.14%
エヌビディア 46.3倍 ― 57.9倍 1.71% 1.57%
テスラ 312倍 ― 214倍 0.46% 0.29%

PER=株価÷直近12か月の1株利益(希薄化後)。一時的な要因:メタは2025年7〜9月期の税金費用159.3億ドル、アルファベットとアマゾンは保有株式の評価益など(税率21%で概算)、マイクロソフトはOpenAI関連の損失。EV(企業価値)=時価総額−ネットキャッシュ(リース債務は含めない)。当ブログ計算。

一時的な要因を除いたPERで見ると、メタが約23倍で最も低く、テスラを除く6社は23〜46倍の範囲に収まっています。

PERは、不動産の言葉に直すと「物件価格が、年間の利益(家賃から経費や税金を引いた残り)の何年分か」にあたります。PER30倍なら、今の利益がそのまま続いたとして、30年分の利益でようやく株価に届く計算です。逆数をとって利回りに直すと、メタの29.2倍で約3.4%、エヌビディアの46.3倍で約2.2%。テスラの312倍に至っては、1%にも届きません。

表の右端の列も見ておきましょう。前回お話しした株式報酬を差し引くと、FCF利回りはどの会社も一段下がり、アマゾンはマイナスになります。同じ物件でも、表面利回りで見るか、修繕費まで引いた実質利回りで見るかで、印象はまるで変わりますよね。値札は、何を引いた後の数字なのかを確かめてから読むものです。

PERは、2022年の「底」から切り上がってきた

各年末のPERを並べると、2022年末が多くの会社で最も低かったことが分かります(アップル21倍、アルファベット19倍、メタ14倍)。2022年は米国の金利が急上昇し、ハイテク株が大きく売られた年でした。

今振り返ると、メタの14倍は目を疑うような値札です。ただ、当時の空気の中で、それを「買い」と判断できた人がどれだけいたでしょう。値札がいちばん安いときは、たいてい、いちばん買いにくい空気に包まれている。長く大家業をしていると、物件でもそう感じることが少なくありません。

2025年末のPERは、5年前と比べると、エヌビディア(75倍→46倍)やアマゾン(78倍→33倍)のように利益の急成長で下がった会社もあれば、アルファベット(30倍→31倍)のように横ばいの会社もあります。テスラは利益の減少で、PERが198倍(2024年末)→312倍(2025年末)へ上がりました。

PERが下がる理由は「株価が下がったから」だけではありません。エヌビディアやアマゾンは、利益が株価を上回るペースで伸びたことで、値札がむしろ軽くなりました。家賃が大きく上がった物件なら、値段が上がっていても利回りは改善している、というのと同じ構図です。

7社の利回りは、すべて米国債を下回っている

PERの逆数(益回り)や、FCF利回りで見ると、7社とも米国10年国債の利回り(4.18%)を下回っています。国債は利回りが保証されていますが、株は保証されません。それでも株を国債より低い利回りで買うのは、「これから利益が伸びて、利回りも上がっていく」と市場が見込んでいるからです。

※図の益回り(1株利益÷株価)は、一時的な要因を除かない通常の1株利益で計算しています。メタを一時的な要因を除いたPER(約23倍)で計算すると約4.3%となり、米国10年国債をわずかに上回ります。

大家の目線で言えば、これはなかなか勇気のいる買い物です。保証された4.18%という選択肢があるのに、それより低い利回りのものを、わざわざリスクを取って買う。それが割に合うのは、家賃がこれから上がっていくと信じられる場合だけです。

米国の政策金利は、2025年12月10日の利下げで3.50〜3.75%になりました(米連邦準備制度理事会)。金利が下がると、将来の利益の「今の価値」が上がるため、成長株には追い風になりやすいとされます。

株価に織り込まれた成長率を、逆DCFで逆算する

今の株価が「今後10年間、利益が年何%で伸びる」ことを前提にしているかを、逆DCFで逆算しました(割引率9%)。

逆DCFという言葉は難しく聞こえますが、考え方は大家さんにとってなじみ深いものです。今の家賃に比べてかなり高い値段で売りに出ている物件を見て、「この値段で割に合うには、家賃が毎年何%上がっていく必要があるのか」と逆算したことはありませんか。逆DCFは、それを株価でやる計算です。

会社 織り込まれた利益成長率(年率) 直近12か月の売上の伸び 見方(当ブログ)
メタ 6.3% +21.3% 期待は控えめ。費用の急増を警戒か
マイクロソフト 11.4% +15.6% 実績に近い期待
アルファベット 12.2% +13.4% 実績に近い期待
アップル 12.5% +6.4% 実績より高い期待
アマゾン 13.2% +11.5% 実績よりやや高い期待(FCFベースでは測りにくい)
エヌビディア 15.7% +65.2% 実績よりはるかに低い。「成長の持続性」への疑問を反映か
テスラ 41.5% -1.6% 新事業への大きな期待

当ブログの簡易計算。起点は直近12か月の純利益(一時的な要因を除く概算を含む)。10年後以降は年3%成長と仮定し、企業価値(時価総額−ネットキャッシュ)と一致する成長率を逆算。割引率を8%にすると各社とも2〜4ポイント程度低く、10%にすると2〜3ポイント程度高くなります。

この表から見える「値札の性格」を、1社ずつ言葉にしてみます。

いちばん目を引くのはメタです。成長率に比べて期待が最も控えめで、数字の上では「割安候補」。ただし、2026年の費用と設備投資の増加をこなせるかが条件です。

マイクロソフトとアルファベットは、今の成長が続けば「妥当」な水準です。これに対してアップルは、成長率(+6%台)に比べて期待が高め。安定性と株主還元に「プレミアム(上乗せ)」がついている形です。物件でいえば、劇的な家賃の上昇は見込めなくても、空室の心配が少ない物件に少し高めの値段がつくのに似ています。

エヌビディアは、PER46倍でも、成長率に比べれば期待は控えめです。ただし「AI投資ブームがいつまで続くか」という不確実性が大きい。売上が+65.2%伸びているのに織り込まれた成長率が15.7%にとどまっているのは、市場が身構えている表れかもしれません。そしてテスラには、今の事業では説明できない、新事業への大きな期待が乗っています。売上は-1.6%なのに、織り込まれた成長率は41.5%です。

逆DCFは「正解」を出す道具ではなく、「今の株価が何を前提にしているか」を知るための道具です。前提を少し変えるだけで、数字は大きく動きます。

物件の収支計算でも、求める利回りを少し変えるだけで、出せる値段が大きく変わりますよね。ですから私は、数字そのものより、「どの会社の期待が高めで、どの会社が控えめか」という並び方のほうに意味があると考えています。

7社に共通する最大のリスクは「AIへの期待の剥落」

リスク 特に影響が大きい会社 中身
AI投資の回収 マイクロソフト、アルファベット、アマゾン、メタ、エヌビディア 4社は巨額投資の回収と減価償却費の増加。エヌビディアは、お客さんの投資が鈍れば売上が急減
規制・訴訟 アップル、アルファベット、メタ 米国の独占禁止法訴訟、EUのデジタル市場法、子どもの安全をめぐる訴訟など
中国・地政学 エヌビディア、アップル、テスラ 輸出規制、中国での売上・生産、関税、中国メーカーとの競争
取引先への依存 エヌビディア、マイクロソフト 少数の大口顧客、OpenAIとの関係
経営者への依存 テスラ、メタ CEO個人の影響力、創業者への議決権の集中

この表を大家の言葉に置きかえると、ずいぶん身近に感じられます。AI投資の回収は、大規模な建替えのあと、それに見合う家賃が本当に取れるかという問題。規制・訴訟は、民泊新法や自治体の条例のように、自分ではコントロールできないルールの変化。取引先への依存は、1棟まるごと1社に借り上げてもらっている物件のようなもので、その1社が出ていけば一気に空室になります。

7社に共通する最大のリスクは、やはり「AIへの期待が剥落するシナリオ」です。AI関連の投資が一斉に鈍れば、設備投資を減らす4社は減価償却費だけが残り、エヌビディアは売上が落ち込み、株価の前提となっている成長率も見直されます。7社の時価総額の合計はS&P500の約3分の1を占めるため、7社の株価の下落は、市場全体の下落につながりやすい点も意識しておきましょう。

自分の投資スタイルに合うのは、どのタイプの値札か

最後に、銘柄選びの目線で7社をタイプ分けしてみます。

タイプ 会社 どんな人に向く?(当ブログの見方)
安定・還元重視 アップル、マイクロソフト 値動きの安定と株主還元を重視する人。ただし値札は割安ではない
成長と割安さのバランス メタ、アルファベット 数字の上では割安感があるが、AI投資と規制のリスクを受け入れられる人
投資回収待ち アマゾン AWSの再加速と、数年後の投資回収を待てる人
AIの成長に賭ける エヌビディア 値動きの大きさを受け入れて、AI需要の持続に賭ける人
将来の夢に賭ける テスラ 自動運転やロボットという「まだ決算書にない事業」に賭ける人

上のタイプ分けは当ブログの見方で、特定の銘柄の売買を勧めるものではありません。

物件選びと同じで、どのタイプが正解ということはありません。大事なのは、自分がどのタイプの値札を払っているのかを自覚しておくことです。開発予定地を買っておきながら、来月の家賃を待ってしまう。それがいちばん苦しい買い方だと私は思います。

値札を確かめるときに、順番に見ておきたいこと

まずPERは、そのままの数字だけでなく「一時的な要因を除いた数字」でも確認してください。アルファベットとマイクロソフトのように、除くかどうかで並び順が入れ替わることもあります。次に、益回りやFCF利回りを米国債の利回りと比べて、どれだけ成長への期待が乗っているかをつかみます。そのうえで、逆DCFで「株価に織り込まれた成長率」を出し、実際の成長率と見比べてみる。

あとは、7社に共通するリスク、つまりAI投資・規制・中国を理解したうえで、自分の投資のスタイルに合うタイプの銘柄を考えること。値札とリスクの地図の両方を手にして、はじめて「この値段で、自分は買うのか」という問いに答えられるのだと思います。

割安かどうかは、値札の数字より「前提」で決まる

一時的な要因を除いたPERは、メタ約23倍からエヌビディア46倍まで。テスラは312倍でした。通常のPERで計算した益回りとFCF利回りは、7社とも米10年国債(4.18%)を下回っていて、成長への期待込みの値段がついています。逆DCFで見ると、メタとエヌビディアは成長率の割に期待が控えめ、アップルとテスラは期待が高め。そして最大の共通リスクは「AIへの期待の剥落」で、7社はS&P500の約3分の1を占めています。

物件の値段に「相場」はあっても「正解」はないように、株の値札にも絶対の答えはありません。見えてきたのは、どの会社が安いかよりも、それぞれの値段がどんな未来を前提にしているか、ということでした。その前提に、自分が納得できるかどうか。値札を読むとは、結局そういうことなのだと思います。

明日の第13回はいよいよ最終回。日本に住む私たちが7社に投資するときの税金とNISAを、会計事務所らしく、とことん整理します!

 

※本記事は情報提供を目的としたもので、特定の銘柄の売買を勧めるものではありません。投資の判断はご自身の責任で行ってください。 ※理論値や逆算した成長率は、当ブログが一定の前提で計算した参考値であり、将来の株価や業績を示すものではありません。

出典・参考

  • 各社のForm 10-K・10-Q・決算発表資料(第2回〜第8回の出典欄を参照)
  • 米財務省「Daily Treasury Par Yield Curve Rates」https://home.treasury.gov/resource-center/data-chart-center/interest-rates/daily-treasury-rates.csv/2025/all?type=daily_treasury_yield_curve
  • 米連邦準備制度理事会 FOMC声明(2025年12月10日)https://federalreserve.gov/newsevents/pressreleases/monetary20251210a.htm
  • 株価:Yahoo Finance、digrin