東雲結子:先生、いいことに気づきました! アマゾンやマイクロソフトがAIのデータセンターに巨額のお金を使っていますけど、設備投資ってすぐには費用にならないんですよね。つまり利益は減らない。安心して株を持てます!

税理士石井:うーん、それは「1年分の定期券を買ったから、来月からの通勤はタダ」と言っているのに近いですね。

東雲結子:えっ……定期代って、あとから毎月の交通費に割り振られるんですか。

税理士石井:割り振られます。サーバーやデータセンターも、何年かかけて少しずつ減価償却費として費用になります。4社の設備投資は直近12か月で約3,298億ドル、1ドル156.56円で約52兆円。しかも今の設備投資は、減価償却費の約1.7〜4倍あるんです。

東雲結子:52兆円が、何年もかけて少しずつ費用に……。毎年きちんと届くのに、ちっともおめでたくない年賀状みたいですね。

税理士石井:ははは。大家さんならピンとくる話です。建物を建てても、その代金は一度に経費にはならず、減価償却費として何年にも分けて経費になりますよね。

東雲結子:あっ、たしかに……。今の大きな投資は、これから先の「経費の予約」でもあるんですね。

税理士石井:そういうことです。だから本当の問題は、その経費を上回る家賃、つまりクラウドの売上がきちんと入ってくるかどうかなんです。

東雲結子:なるほど。じゃあ今日は、入居の申込みがどれだけ来ているかまで確かめるんですね!

税理士石井:ええ。受注残という「申込書の束」も開きながら、4社の巨額投資が本当に回収できるのかを、決算書から追いかけていきましょう。

比較編の2回目は、いま世界の株式市場で最も注目されているテーマ、AIへの設備投資です。アマゾン、マイクロソフト、アルファベット、メタの4社は、AIのためのデータセンターに、かつてない規模のお金をつぎ込んでいます。その金額と、回収の見通しを決算書から追いかけます。

用語メモ:ハイパースケーラー=巨大なクラウド・データセンターを運営する会社。この記事ではアマゾン(AWS)、マイクロソフト(Azure)、アルファベット(グーグル・クラウド)、メタの4社を指します。

大家にとって、大きな投資の判断ほど悩ましいものはありません。新築を1棟建てるかどうかだけでも、何度も電卓をたたいて迷うものです。ハイパースケーラーの4社は、それとは桁違いの規模で投資の判断を続けています。数字の大きさに圧倒されそうになりますが、見るべき順番は大家の投資判断と変わりません。いくら使っているのか、そのお金はどこから来ているのか、いつ経費になるのか、そして本当に回収できるのか。この順番で、4社の決算書を開いていきます。

4社の設備投資は、1四半期で約973億ドルに膨らんだ

4社の設備投資の合計は、2022年10〜12月期の約395億ドルから、2025年7〜9月期には約973億ドルへ、3年で約2.5倍になりました。直近12か月の合計は約3,298億ドル(1ドル156.56円で約52兆円)です。

直近12か月の設備投資 金額
アマゾン 1,201.31億ドル
アルファベット 778.72億ドル
マイクロソフト 690.22億ドル(ファイナンス・リースによる取得は含まない)
メタ 627.33億ドル
4社合計 3,297.58億ドル

設備投資はキャッシュフロー計算書の「有形固定資産の取得」(アマゾンは総額)。

図の点線は、エヌビディアのデータセンター向けの売上です。4社の設備投資と歩調を合わせるように伸びていることが分かります。4社の投資の相当部分が、GPUなどの形でエヌビディアの売上になっている――「お客さんの設備投資=エヌビディアの売上」という構図です。

不動産の世界でも、新築ラッシュになると、まず潤うのは建てる側の工務店や資材の会社ですよね。大家が建てれば建てるほど、建てる側の売上が増える。図の棒と点線は、その関係をそのまま映しているように見えます。裏を返せば、大家が建てるのをやめたとき、真っ先に影響を受けるのも建てる側です。

2026年は、さらに増える見通し

会社 2025年の設備投資の見通し 2026年の方向性
アマゾン 約1,250億ドル(現金ベース。決算説明会でのCFOの発言) さらに増える
アルファベット 910億〜930億ドル 大きく増える(決算説明会でのCFOの発言)
マイクロソフト ―(6月期決算) 2026年6月期の伸び率は2025年6月期より高くなる
メタ 700億〜720億ドル(ファイナンス・リースの元本返済を含む) 増加額が2025年より著しく大きくなる

いずれも2025年10月下旬の決算発表・決算説明会での会社の説明。

4社とも、2026年はさらに投資を増やすと説明しています。各社は「AIの需要に、データセンターの能力が追いついていない」と口をそろえています。

入居待ちの行列ができている物件を前にすれば、大家なら誰でも「もう1棟建てよう」と考えます。その判断は自然です。ただ、私が大家として少し気になるのは、同じエリアの大家が全員同時に同じことを考えたときです。需要に供給が追いつくのはいつか。その問いは、データセンターにもいずれ向けられるのではないかと感じています。

アマゾンは、稼いだ現金のほとんどを投資に回している

設備投資÷営業キャッシュフローで見ると、アマゾンは92%と、稼いだ現金のほとんどを投資に回しています。メタ(58%)、アルファベット(51%)、マイクロソフト(47%)も半分前後です(工場を持つテスラも57%)。一方、アップル(11%)とエヌビディア(7%)は、設備投資が少ない「持たざる経営」です。

大家でいえば、アマゾンは家賃収入のほとんどを、次の新築の建築費に回している状態です。手元にはほとんど現金が残りませんが、建てた物件が埋まれば、将来の家賃は大きく増えます。反対に、アップルやエヌビディアは、自分では物件をあまり持たずに稼ぐ形に近いでしょうか。どちらが良い悪いではなく、お金の使い方の「型」がまったく違うのです。

見えにくい投資は、リースと「貸借対照表の外」にある

AI投資の規模を正しくつかむには、キャッシュフロー計算書の設備投資だけでは足りません。

会社 設備投資以外の「見えにくい投資」
マイクロソフト ファイナンス・リースによる取得が2025年7〜9月期に111億ドル。まだ始まっていないリース契約が1,062億ドル(2025年9月末)
メタ Hyperionデータセンターの合弁会社(総額約270億ドル、メタ持分20%)。まだ始まっていないリース契約が581.4億ドル(2025年9月末)
アルファベット 2025年5月(50億ドル+67.5億ユーロ)と11月(175億ドル+65億ユーロ)に社債を発行
メタ 2025年10月に総額300億ドルの社債の発行を決定
アマゾン 2025年11月に総額150億ドルの社債を発行

用語メモ:ファイナンス・リース=実質的に資産を買うのと同じような長期の賃貸借契約。会計上は資産と負債に計上されるが、現金の設備投資には入らない。

「まだ始まっていないリース契約」は、建築中の建物について、完成したら借りる約束だけを先に結んである状態にたとえられます。今のキャッシュフロー計算書には出てきませんが、約束そのものはもう済んでいます。決算書の本表だけを見ていると、こうした約束は目に入りにくいものです。

これまで「借金をほとんどしない」と言われてきた巨大IT企業が、社債やリース、外部の資金を使ってまで投資を急いでいる――これが2025年の大きな変化です。自己資金だけで堅実に買い増してきた大家さんが、ある年から急に融資を使って何棟も建て始めたとしたら、周りは「よほどの勝算があるのだろう」と思う一方で、少し身構えますよね。私がこの表を見て感じたのも、まさにその両方の気持ちでした。

これから効いてくるのが「減価償却費」

直近12か月 設備投資 減価償却費 倍率
アルファベット 778.72億ドル 193.01億ドル 4.0倍
メタ 627.33億ドル 176.65億ドル 3.6倍
アマゾン 1,201.31億ドル 619.16億ドル 1.9倍
マイクロソフト 690.22億ドル 398.31億ドル 1.7倍

設備投資は、すぐに費用にはなりません。サーバーやデータセンターは、何年かかけて少しずつ減価償却費として費用になります。今の設備投資は減価償却費の約1.7〜4倍。つまり、今後数年、減価償却費は大きく増え、利益を押し下げることになります。

ここは、建物の減価償却と向き合ってきた大家さんほど実感しやすいところだと思います。大きな投資をした年に一度に経費になるのではなく、その後の何年にもわたって、経費がじわじわと積み上がっていく。今の4社は、まさにその「積み上がり」の入り口に立っています。

すでにその兆しは出ています。

会社 減価償却費などの増え方
アルファベット 2025年7〜9月期の減価償却費は前年同期比+40.8%
マイクロソフト 2025年7〜9月期の「減価償却費など」は前年同期比+77%。マイクロソフト・クラウドの粗利益率は72%(2024年6月期)→68%(2025年7〜9月期)
メタ 2026年の費用の伸びは、インフラ(減価償却費・クラウド費用)が主な要因と説明

会計事務所目線のポイント:減価償却費は、資産を何年で償却するか(耐用年数)の見積りによっても大きく変わります。各社の10-Kの「有形固定資産」の注記で、サーバーなどの耐用年数の変更がないかもチェックしておきたいところです。

耐用年数の話は、大家さんにとっても他人事ではありませんよね。同じ建物でも、何年で償却するかによって、毎年の経費の額がまるで変わります。会社の場合は、耐用年数を会社自身が見積もるので、その見積りが変われば、同じ投資でも利益の見え方が変わってしまいます。注記の小さな一行こそ、会計事務所の人間がいちばん目を凝らすところです。

回収の手がかりは、クラウドの伸びと受注残

では、この巨額投資は回収できるのでしょうか。手がかりになるのが、クラウド事業の伸びと受注残です。

会社 クラウドの売上の伸び(2025年7〜9月期) 受注残(2025年9月末)
マイクロソフト Azureなど +40% 法人向けの受注残 3,920億ドル(+51%)
アルファベット グーグル・クラウド +33.5% 1,550億ドル(クラウドのバックログ)
アマゾン AWS +20.2% 約2,000億ドル(主にAWS)

各社の開示。受注残の定義は会社ごとに違うため、合計や単純比較には注意。

3社の受注残を単純に足すと7,000億ドルを超えます。クラウドの売上はどの会社も伸びが加速しており、少なくとも今のところは「作ったデータセンターが売上になっている」状態です。

建てた部屋に、ちゃんと入居者が入っている。しかも申込書の束も分厚い。大家としては、ひとまず胸をなでおろせる数字です。

ただし、受注残の中には、OpenAIなど一部のAI開発会社との大型契約も含まれていると見られます。その会社自身が赤字で、巨額の資金調達に頼っている場合、契約が計画どおりに続くかどうかは注意が必要です(当ブログの見方)。

大口のテナントが一括で借りてくれる契約は、大家にとってありがたいものです。けれど、そのテナント自身の資金繰りが厳しければ、契約書があっても安心はできません。申込書の厚さだけでなく、誰が申し込んでいるのかまで目を配る。この視点は、物件でもデータセンターでも同じだと私は考えています。

一枚の表にすると、AI投資は「ハイリスク・ハイリターンの賭け」

視点 ポイント
投資の規模 4社で1四半期約973億ドル、直近12か月で約3,298億ドル。2026年はさらに増える
現金への影響 アマゾンは営業CFの92%を投資に。FCFが急減
見えにくい投資 リース、合弁会社、社債など、キャッシュフロー計算書の外の資金も活用
利益への影響 減価償却費が今後数年で大きく増え、利益率を押し下げる可能性
回収の手がかり クラウドの伸びの加速と、7,000億ドル超の受注残

AI投資は、「成功すれば巨大なリターン、失敗すれば巨大な減価償却費」という、ハイリスク・ハイリターンの賭けです。そして、その賭けの「胴元」のような立場にいるのがエヌビディア。4社の設備投資の伸びが鈍れば、エヌビディアの売上にも直接響きます。

四半期ごとに、確かめておきたいこと

まず、4社の設備投資の規模、直近12か月で約3,298億ドルという数字と、2026年はさらに増えるという方向性をつかんでおいてください。そのうえで、設備投資÷営業CFで、各社の「投資の重さ」を比べてみる。アマゾンのように稼いだ現金のほとんどを投じている会社と、半分前後の会社とでは、同じ投資でも体にかかる負担が違います。

次に、ファイナンス・リースや合弁会社など、キャッシュフロー計算書の外にある見えにくい投資にも目を配ること。そして、減価償却費がこれから増え、利益を押し下げる可能性を頭に入れておくこと。最後に、クラウドの伸びと受注残で、投資の回収の手がかりを確かめます。

投資家としては、クラウドの売上の伸び、受注残、減価償却費と利益率、各社の設備投資の見通し――この4つを四半期ごとに追いかけていくのがおすすめです。

AI投資の答え合わせは、これから四半期ごとに届く

大家業を長く続けていると、建てた直後の物件ほど、評価が難しいものだと感じます。満室で始まっても、本当の実力が見えてくるのは、何年か経営を続けてからです。4社の巨額投資も、今はまだ「建てたばかり」の段階にあります。だからこそ、決算のたびに少しずつ答え合わせをしていく姿勢が大切なのだと思います。

次回の第11回は、株主還元と「株式報酬」の話です。どうぞお楽しみに!

 

※本記事は情報提供を目的としたもので、特定の銘柄の売買を勧めるものではありません。投資の判断はご自身の責任で行ってください。 ※数値は各社の開示資料をもとに当ブログが集計・計算したもので、四捨五入の関係で合計が合わない場合があります。円換算は三菱UFJ銀行の2025年最終公表日の仲値(1ドル156.56円)。

出典・参考

  • 各社のForm 10-K・10-Q・決算発表資料(第3回〜第7回の出典欄を参照)
  • アルファベット 2025年第3四半期 決算説明会の記録(2025年10月29日)https://s206.q4cdn.com/479360582/files/doc_events/2025/Oct/29/2025_Q3_Earnings_Transcript.pdf
  • アマゾンの設備投資の見通し:The Futurum Group(2025年11月4日)https://futurumgroup.com/insights/amazon-q3-fy-2025-earnings-aws-reaccelerates-retail-and-ads-grow
  • マイクロソフト 2026年6月期 第1四半期 決算説明会 https://www.microsoft.com/en-us/investor/events/fy-2026/earnings-fy-2026-q1
  • アルファベットの社債:Form 8-K(2025年5月1日)https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1652044/000119312525110020/d884388d8k.htm 、(2025年11月6日)https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1652044/000119312525269979/d56115d8k.htm
  • アマゾンの社債:Form 8-K(2025年11月20日)https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1018724/000110465925114647/tm2530638d3_8k.htm
  • メタ「Hyperion」データセンターの合弁会社の発表 https://investor.atmeta.com/investor-news/press-release-details/2025/Meta-Announces-Joint-Venture-with-Funds-Managed-by-Blue-Owl-Capital-to-Develop-Hyperion-Data-Center/default.aspx