東雲結子:先生、7社の数字を表計算ソフトに並べて、ランキングを作りました! 1位はアップル、ROEは152%。預けたお金が1年で倍以上になる銀行みたいです!
税理士石井:うーん、そんな銀行があったら、私も今すぐ通帳を作りに走ります。
東雲結子:えっ、違うんですか? 表計算ソフトは計算を間違えないはずなんですけど……。
税理士石井:計算は合っています。ただ、アップルは巨額の自社株買いで、割り算の「分母」の株主資本が小さくなっているんです。
東雲結子:あっ……分母がこっそりダイエットしていたんですね。
税理士石井:ふふ、そういうことです。大家業でも、自己資金をほとんど残していない物件は、「自己資金に対する利回り」がとても高く見えますよね。
東雲結子:たしかに……。利回りの高さに見とれる前に、何で割っているかを見ないといけないんですね。
税理士石井:ええ。今日は、伸びる力・稼ぐ力・現金を生む力を、7社横並びで比べます。売上の伸びはエヌビディアが+65.2%で断トツ、テスラは-1.6%と唯一のマイナスでした。
東雲結子:同じ「大型テック」でも、並べるとまるで違う顔をしているんですね。
税理士石井:そうなんです。物差しをそろえて、1社ずつでは見えなかった違いを一緒に確かめていきましょう。
第2回から第8回まで、7社を1社ずつ見てきました。今日からの4回は、7社を横に並べて比べる比較編です。1社だけを見ていると気づかないことも、並べると一目瞭然。第9回は、銘柄選びの基本である「成長性」「収益性」「キャッシュフロー」を比べます。
物件選びでも、1棟だけなら「悪くない」と思えたのに、同じエリアの物件と並べたとたん、見え方が変わることがありますよね。今日はその比較の力を借りて、7社の「得意」と「不得意」を浮かび上がらせてみます。
比べる期間は、各社の「直近12か月」(最新の4四半期の合計)です。アップルは2025年9月期、エヌビディアは2024年11月〜2025年10月、ほかの5社は2024年10月〜2025年9月。
伸びる力はエヌビディアが断トツ、テスラは唯一のマイナス
直近12か月の売上の伸び率は、エヌビディアが+65.2%で断トツ。メタ(+21.3%)、マイクロソフト(+15.6%)が続きます。テスラは-1.6%と、7社で唯一のマイナスでした。

2020年度からの「何倍になったか」で見ると、エヌビディアは約11倍。ほかの6社は1.5〜3倍です。家賃収入が約11倍になったアパートなど、大家の世界ではまず聞いたことがありません。テスラは約3倍と2番目ですが、ここ2年ほどは売上が横ばいになっています。

営業利益率は5%から59%まで。同じ売上でも、残るお金はまるで違う
同じ「売上100ドル」でも、手元に残る利益は会社によってまったく違います。
| 会社 | 営業利益率 | 稼ぎの特徴 |
| エヌビディア | 59% | AI向けのデータセンター製品が売上の約9割 |
| マイクロソフト | 46% | ソフトウェアとクラウドの利用料 |
| メタ | 43% | 広告。原価が小さい |
| アルファベット | 32% | 広告とクラウド |
| アップル | 32% | 製品(粗利益率37%)とサービス(同75%)の組み合わせ |
| アマゾン | 11% | 通販は薄利、AWSと広告が稼ぐ |
| テスラ | 5% | 自動車の値下げで利益率が低下 |
粗利益率は会社ごとに費用の区分が違う(例:アマゾンは物流センターの運営費を売上原価に含めない)ため、単純比較には注意が必要です。
売上100ドルのうち、エヌビディアには59ドルの営業利益が残り、テスラには5ドルしか残りません。営業利益率は、大家でいえば、家賃から管理費・修繕費・固定資産税・減価償却費などを引いた利益の割合です。同じ家賃でも、手のかからない月極駐車場と、清掃や備品が欠かせない家具付きの部屋とでは、残る割合がまるで違いますよね。
「伸び」と「稼ぎ」の地図で見ると、右上はエヌビディアの指定席
横軸に売上の伸び、縦軸に営業利益率をとると、7社の位置関係がよく分かります。
右上、つまり伸びも稼ぎも高い場所では、エヌビディアが別格です。メタとマイクロソフトも上のほうにいます。真ん中にいるのがアルファベットとアップルで、利益率はどちらも32%前後ですが、伸びはアルファベットが上。そして下の、稼ぎが小さいところにいるのがアマゾンとテスラです。ただしアマゾンは、部門別に見るとAWSが利益率35%の高収益事業でした(第5回)。全体の利回りは低くても、1棟だけ抜群に稼ぐ物件を持つ大家さんのようです。
一般に、右上にいるほど株価の評価(PERなど)は高くなりやすいもの。人気エリアの物件ほど利回りが低い、つまり値段が高いのと同じです。ただし、高い成長がいつまで続くかは誰にも分かりません。「今の位置」だけでなく、「これからどちらに動きそうか」を考えるのが銘柄選びのポイントです。
利益と現金は、いつも同じではない
FCFマージン(FCF÷売上高)は、エヌビディア41%、マイクロソフト27%、アップル24%、メタ24%、アルファベット19%、テスラ7%、アマゾン2%(直近12か月)。先ほどの「売上100ドルあたりの稼ぎ」の図の、いちばん右の列のとおりです。
FCFは、大家でいえば、家賃などで入ってきたお金から大規模修繕や設備の入れ替えを払ったあとに残るお金です(借入金の返済は、FCFの計算では差し引きません)。もう一つ見ておきたいのが、営業キャッシュフローと純利益の関係です。
| 会社 | 営業CF÷純利益 | 主な理由 |
| テスラ | 310% | 純利益が小さく、減価償却費(現金の出ない費用)の比重が大きい |
| メタ | 184% | 純利益に、現金の出ない一時的な税金費用159億ドルが含まれる |
| アマゾン | 171% | 減価償却費が大きい(直近12か月で619億ドル) |
| マイクロソフト | 140% | 減価償却費が大きいことに加え、純利益にOpenAI関連の損失(現金の出ない費用)が含まれる |
| アルファベット | 122% | 純利益に株式の評価益(現金の入らない利益)が含まれる一方、減価償却費も大きい |
| アップル | 100% | 利益とほぼ同じ現金が入る |
| エヌビディア | 84% | 急成長で売掛金・在庫にお金が回っている |
当ブログ計算。営業CF÷純利益が100%を大きく下回る状態が続く場合は、売掛金の回収や在庫に注意。逆に大きく上回る会社は、減価償却費が大きい(=過去に多額の設備投資をしている)ことが多いです。
減価償却費が大きいと利益より営業CFが大きくなるのは、建物の減価償却を経験している大家さんにはおなじみの感覚でしょう。帳簿の上では経費でも、その年に現金が出ていくわけではありません。反対に、エヌビディアの84%は、請求はしたのにまだ入金されていない未収家賃が積み上がっている状態に少し似ています。
ROE152%は、アップルの「自社株買いのマジック」
| 会社 | ROE(純利益÷株主資本) | 株主資本(直近の期末) |
| アップル | 152% | 737億ドル |
| エヌビディア | 83% | 1,189億ドル |
| アルファベット | 32% | 3,869億ドル |
| メタ | 30% | 1,941億ドル |
| マイクロソフト | 29% | 3,631億ドル |
| アマゾン | 21% | 3,696億ドル |
| テスラ | 6% | 800億ドル |
用語メモ:ROE=Return On Equity(自己資本利益率)。株主のお金でどれだけ利益を上げたかを示す指標。当ブログの簡易計算で、期首と期末の平均ではなく直近の期末の株主資本で割っています。
アップルのROEが152%と飛び抜けているのは、巨額の自社株買いで株主資本(分母)が小さくなっているためです。ROEは「稼ぐ力」と「株主還元の多さ」の両方の影響を受けるので、自社株買いの多い会社のROEは、少し割り引いて見る必要があります。
冒頭の東雲さんの表も、計算は正しかったのです。ただ、分母の事情を知らずに順位だけを見ると、見誤ります。数字がどう生まれたかを確かめることが、会計の仕事でいちばん大切だと私は感じています。
メタは、売上の28%を研究開発に回している
| 会社 | 研究開発費(直近12か月) | 売上高に占める割合 |
| アマゾン | 1,026.93億ドル | 14.9% |
| アルファベット | 556.31億ドル | 14.4% |
| メタ | 524.17億ドル | 27.7% |
| アップル | 345.50億ドル | 8.3% |
| マイクロソフト | 330.90億ドル | 11.3% |
| エヌビディア | 166.99億ドル | 8.9% |
| テスラ | 59.04億ドル | 6.2% |
アマゾンは「テクノロジーとインフラ」の費用で、AWSのデータセンターの運営費などを含むため、ほかの会社の研究開発費とは中身が違います。
研究開発費は、今年の利益を削って将来の稼ぎの種をまくお金です。大家業でいえば、次の物件の調査や新しい間取りの試作にかけるお金に近いでしょうか。メタは売上の4分の1を超える金額をここに回しながら、営業利益率43%を保っています。
並べてみると、エヌビディアが「伸び・稼ぎ・現金」の三冠
| 物差し | トップ | 最下位 |
| 伸びる力(売上の伸び率) | エヌビディア(+65.2%) | テスラ(-1.6%) |
| 稼ぐ力(営業利益率) | エヌビディア(59%) | テスラ(5%) |
| 現金を生む力(FCFマージン) | エヌビディア(41%) | アマゾン(2%) |
数字を並べると、エヌビディアが「伸び・稼ぎ・現金」の三冠。マイクロソフトとメタがそれに続き、アマゾンとテスラは別の理由(巨額の投資/利益率の低下)で現金が残りにくい状態です。
横に並べたときに、確かめておきたいこと
まず、売上の伸び率と営業利益率の「地図」で、7社の位置関係をつかんでください。そのうえで、FCFマージンが低い会社は、その理由が「赤字」なのか「投資」なのかを区別します。同じ低さでも、意味はまったく違うからです。
利益と現金のズレは営業CF÷純利益で確かめ、ROEは自社株買いの影響を受けることも覚えておく。この四つを押さえれば、ランキングの順位に振り回されにくくなります。
FCFが小さい理由が「投資」なら、問われるのはその先の回収
アマゾンやメタ、アルファベットのFCFが利益に比べて小さく見えるのは、AIのデータセンターに巨額の投資をしているから。この投資が将来どれだけの利益を生むかが、2026年以降の最大のテーマです。
大家でいえば、手元の現金を次の新築に回している時期です。通帳が寂しいのは当然で、本当の勝負は、建てた物件に入居者がきちんと入るかどうか。投資の時期と回収の時期を分けて考える大切さは、大家業を続けるほど身にしみます。
次回の第10回は、その「AI設備投資競争」を数字で追いかけます。どうぞお楽しみに!
※本記事は情報提供を目的としたもので、特定の銘柄の売買を勧めるものではありません。投資の判断はご自身の責任で行ってください。 ※数値は各社の開示資料をもとに当ブログが集計・計算したもので、四捨五入の関係で合計が合わない場合があります。
出典・参考
- 各社のForm 10-K・10-Q・決算発表資料(第2回〜第8回の出典欄を参照)































