東雲結子:石井先生、すごい計算をしてしまいました。メタのアプリは1日に35.4億人が使っているんですよね。全員から1ドルずつ集めたら、それだけで35.4億ドルです!
税理士石井:うーん、30億人以上の玄関を一軒ずつ回って集金するのは、さすがのメタでも骨が折れそうですね。
東雲結子:えっ、じゃあ、どうやって稼いでいるんですか?
税理士石井:いい質問ですね。お金を払っているのは広告主なんです。直近12か月の売上の97.6%が広告で、営業利益率は43.2%もあります。
東雲結子:43%! それなら、あとは寝ていても広告費が振り込まれる、夢の自動販売機じゃないですか。
税理士石井:ところがですね、その稼ぎを大胆につぎ込んでいるんです。メタバースのReality Labsは、2020年から2025年9月までの累計の営業損失が776億ドル。そこへ今度は、AIのデータセンターへの巨額投資が加わっています。
東雲結子:あっ……夢の自動販売機の隣で、とんでもなく大きな工事が始まっていました(汗)。
税理士石井:大家業でいえば、満室の優良アパートの家賃で、まだ入居者の決まっていない大型の新築を次々に建てているような状態ですね。
東雲結子:なるほど……。優良アパートの家賃だけ見て「安泰」と言うのは、半分しか見ていないんですね。
税理士石井:そういうことです。今日は、メタの「高収益マシン」と「次の賭け」の両方を、決算書で一緒に確かめていきましょう。
第6回は、Facebook・Instagram・WhatsAppを運営するメタ・プラットフォームズです。社名を「フェイスブック」から「メタ」に変えたのは2021年。仮想空間「メタバース」に大きく賭けたものの、2022年には株価が大きく下がり、そこから劇的に復活しました。決算書には、その復活の理由と、次の大きな賭けがはっきり表れています。
一度大きくつまずいた会社が、どうやって立ち直ったのか。そして立ち直った今、稼いだお金をどこへ向けているのか。この2つは、空室や修繕で苦しい時期をくぐり抜けてきた大家さんなら、きっと他人事とは思えないはずです。年明けの落ち着いた今のうちに、一緒に数字を追ってみましょう。
この記事で使う決算
| 資料 | 対象期間 | 公表日 |
| 2024年12月期 決算発表・Form 10-K | 2024年1〜12月 | 2025年1月29日(決算発表) |
| 2025年7〜9月期 決算発表・Form 10-Q | 2025年7〜9月 | 2025年10月29日(決算発表) |
営業利益率は25%から43%へ。「効率化の年」が効いた
直近12か月の売上高は1,895億ドル(+21.3%)、営業利益は819億ドル(営業利益率43.2%)。2025年7〜9月期の売上は前年同期比で26.2%増と、7社の中でエヌビディアに次ぐ伸びです。
2022年に営業利益率が25%まで落ちたのは、広告の単価が下がったうえに、メタバースへの投資で費用が膨らんだため。2023年の「効率化の年」と呼ばれた人員削減などで費用を抑え、利益率が急回復しました。
収入が落ちたところに、支出が膨らむ。賃貸経営でいえば、家賃の値下げを迫られた年に大規模修繕が重なったような苦しさです。そこからの立て直しで効いたのが費用を抑えることだった、というのは、大家としてとても腑に落ちます。家賃は相手のあることですが、費用は自分で決められる部分が大きいからです。
広告の「アプリ事業」が、Reality Labsの赤字を埋めている

| セグメント | 中身 | 直近12か月の営業利益 |
| アプリ事業(Family of Apps) | Facebook、Instagram、Messenger、WhatsAppなど | 1,000.33億ドル |
| Reality Labs | VRゴーグル「Quest」、AIグラスなどメタバース関連 | -181.38億ドル |
メタの稼ぎは、ほぼすべてがアプリ事業の広告収入です(直近12か月の売上の97.6%が広告)。一方、Reality Labsは2021年以降、毎年100億ドルを超える赤字で、2020年から2025年9月までの累計の営業損失は776億ドルにのぼります。
物件ごとの収支表にたとえるなら、直近12か月で1,000.33億ドルを稼いだ超優良物件と、181.38億ドルの赤字を出した物件を、同じ大家さんが持っている形です。776億ドルという累計の赤字を見て「失敗だ」と言うのは簡単です。けれど、これだけの赤字を抱えながら、会社全体の営業利益率は43.2%。そのこと自体が、アプリ事業の稼ぐ力の大きさを物語っているとも言えます。
広告は「表示回数」と「単価」の両輪で伸びる
広告の売上は「表示回数×単価」で決まります。家賃収入が「部屋数×1部屋あたりの家賃」で決まるのと同じ形ですね。どちらか一方だけでは伸びに限界がありますが、両方がそろうと、収入は掛け算で伸びていきます。
2022年は、アップルのプライバシー規制(ATT、アプリをまたいだ追跡に利用者の許可を求める仕組み)などで単価が大きく下がりました。大家でいえば、自分ではどうにもできない外のルール変更で、相場ごと家賃が下がったようなものです。しかし2024年以降は単価が上向き(会社は、AIを使った広告の配信やおすすめの精度向上の効果と説明)、2025年7〜9月期は表示回数+14%、単価+10%と、両方がそろって伸びています。
| 主な指標(2025年9月) | 数字 |
| 1日あたりのアプリの利用者数(Family DAP) | 35.4億人 |
| 従業員数 | 78,450人 |
用語メモ:DAP=Daily Active People。Facebook・Instagram・Messenger・WhatsAppのどれかを1日1回以上使った人の数(重複を除いた会社の推計)。
35.4億人という数字は、もはや「入居者」の数というより、巨大な街そのものです。その街に看板を出せる場所を持っていることこそが、メタの強さの源だと私は見ています。
次の賭けは、AIデータセンターへの巨額投資
メタは今、AIのデータセンターに巨額の投資をしています。
| 項目 | 内容 |
| 2025年の設備投資の見通し | 700億〜720億ドル(ファイナンス・リースの元本返済を含む、2025年10月29日時点) |
| 2026年の見通し | 設備投資の「増加額」が2025年より著しく大きくなる。費用の伸びも2025年を大きく上回る |
| Scale AIへの出資 | 2025年6月、AI向けデータ会社Scale AIに出資(投資額として137.9億ドルを計上) |
| Hyperion(ハイペリオン)データセンター | 2025年10月21日、運用会社Blue Owlのファンドとの合弁会社(メタ20%・Blue Owl 80%)で、総額約270億ドルのデータセンターを開発すると発表 |
| 社債の発行 | 2025年10月30日に総額300億ドルの社債の発行を決定(11月に発行) |
2026年の見通しで目を留めたいのは、「設備投資が増える」ではなく「増加額が2025年より著しく大きくなる」という言い方です。去年より増えるだけでなく、増える幅そのものが広がる、ということですね。

直近12か月の営業キャッシュフロー1,076億ドルのうち、設備投資が627億ドル(58%)。残りから自社株買いと配当に315億ドルを回しています。大家でいえば、手元に入ってくる現金の6割近くを新しい建物に回しながら、出資者への分配も続けている状態。それだけの余力が、まだ残っているということです。
会計事務所目線のポイント:Hyperionの合弁会社は、メタの持分が20%。メタは完成後の施設をオペレーティング・リース(当初4年+延長オプション)で借り、残存価値の保証(最初の16年間)を負います。合弁会社を連結するかどうかは、持分の大きさではなく「事業の重要な意思決定を誰が指図するか」で決まります。連結しなければ、メタの貸借対照表に載るのは主にリースの部分で、建設費の多くは載りません(具体的な会計処理は10-Qの注記で確認したいポイントです)。貸借対照表の外にある「実質的な負担」にも目を配りたいところです。
大家の立場から読むと、この仕組みはとても興味深いものです。建物を開発するのは合弁会社で、メタは完成した施設を借りる側に回り、そのうえ最初の16年間は残存価値まで保証する。貸す側から見れば、これほど心強い借り手はいません。裏を返せば、合弁会社を連結しない場合、借りる側のメタは、貸借対照表の数字だけでは見えにくい約束を背負っている、ということです。
7〜9月期の「純利益激減」は、現金の出ていかない税金費用だった
2025年7〜9月期の純利益は27.09億ドルと、前年同期(156.88億ドル)から大きく減りました。見出しだけ見ると、思わず身構えてしまう数字です。でも、慌てる必要はありません。
| 2025年7〜9月期 | 実際の数字 | 一時的な税金費用を除くと(会社の説明) |
| 純利益 | 27.09億ドル | 約186.4億ドル |
| 1株あたり利益(希薄化後) | 1.05ドル | 7.25ドル |
| 実効税率 | 87% | 14% |
原因は、現金の支払いを伴わない一時的な税金費用159.30億ドルです。米国の税制改正(One Big Beautiful Bill Act)の影響で、将来の税金を減らせる「繰延税金資産」の一部について、回収できない可能性に備える「評価性引当金」を計上したためです(会社の説明)。
用語メモ:繰延税金資産=将来の税金を減らせる効果を資産として計上したもの。回収できる見込みが低くなると、評価性引当金を積んで資産を減らし、その分が税金費用になります。日本の税効果会計と同じ考え方です。
繰延税金資産は、言ってみれば「将来の税金の割引券」です。使える見込みが薄くなれば、その割引券の価値を帳簿から減らす。減らした分は費用になりますが、実際に税金を現金で払ったわけではありません。帳簿上の費用と、通帳から出ていくお金は別物。大家さんが毎年、建物の減価償却で経験していることと、根っこは同じです。見出しの数字に驚いたら、まず注記で「なぜ」を探す。決算書を読むときの、いちばん大事な習慣かもしれません。
配当と自社株買い、両方で株主に報いる
| 項目 | 内容 |
| 直近12か月の自社株買い | 262.48億ドル |
| 直近12か月の配当 | 52.56億ドル |
| 四半期配当 | 0.525ドル(2024年2月に配当を開始、2025年2月に0.50ドルから5%増配) |
| 発行済株式数 | 25.21億株(2025年10月24日。クラスA 21.78億株、クラスB 3.43億株) |
クラスB株は1株10票で、主に創業者のマーク・ザッカーバーグCEOが保有しています。
配当を始めてまだ2年ほどですが、すでに増配も経験しています。還元の中心は自社株買いで、これは共有で持っている建物の持分を、会社がほかの共有者から買い戻すようなものです。共有者が減れば、残った人1人あたりの持分はそのぶん増えます。
もう一つ、表の下の注記も見逃せません。1株10票のクラスB株を主に創業者が持っているということは、経営の大きな方針に創業者の考えが強く反映されやすい仕組みだということ。共有物件でいえば、持分の割合以上に発言力の大きい共有者がいる状態です。投資する側としては、その前提を知ったうえで付き合いたいところです。
値札はPER29倍。一時的な税金費用を除けば約23倍

| 指標(2025年12月31日) | メタ | 補足 |
| 株価 | 660.09ドル | 2025年は+12.7% |
| 時価総額 | 約1.66兆ドル | |
| PER | 29.2倍 | 一時的な税金費用を除くと約23倍(7社で最も低い) |
| FCF利回り | 2.70% | 7社で最も高い |
| 株式報酬控除後のFCF利回り | 1.57% | 株式報酬は187.99億ドル(売上の9.9%) |
約23倍というPERを不動産の利回りに置きかえると、利益÷株価で約4.3%。FCF利回りの2.70%も、7社で最も高い水準です。
| 割引率 | 利益ベース(一時的な税金費用を除く) | FCFベース |
| 8% | 年3.9% | 年10.3% |
| 9% | 年6.3% | 年13.0% |
| 10% | 年8.5% | 年15.3% |
当ブログの簡易計算(逆DCF)。利益ベースの起点は、一時的な税金費用を除いた直近12か月の純利益(744.58億ドル)。
売上が+20%以上伸びているのに、利益ベースでは年6%程度の成長しか織り込まれていない計算です。数字の上では7社の中で割安に見えます。ただし市場は、2026年に費用と設備投資が大きく増え、利益の伸びが鈍ることを警戒していると考えられます(当ブログの見方)。
FCFベースのほうが高い成長率が必要になるのは、設備投資がかさんで、FCFが利益より小さくなっているためです。大家の感覚でいえば、相場より利回りの高い物件には、たいてい何かしらの理由があるものです。大規模修繕の予定が控えている、といったように。数字の割安さと、その理由の両方を見ておきたいところです。
リスクの中心は、費用の急増と規制・訴訟
| リスク | 2025年12月末時点の状況 |
| AI投資と費用の急増 | 2026年は費用・設備投資とも大きく増える見通し。投資の回収が見えるかが焦点 |
| Reality Labsの赤字 | 年180億ドル規模の営業損失が続く |
| FTCの独占禁止法訴訟 | 2025年11月18日、裁判所はメタの主張を認め、InstagramやWhatsAppの分離は命じられず。FTCは判決後「あらゆる選択肢を検討している」とコメント |
| EUの規制 | 2025年4月23日、デジタル市場法(DMA)違反で2億ユーロの制裁金(メタは上訴)。欧州の広告の仕組みの変更が売上に影響する可能性 |
| 子どもの安全をめぐる訴訟 | 会社は「2026年に若者に関する複数の裁判が予定されている」とし、重大な損失につながる可能性に言及 |
FTCの訴訟では、InstagramやWhatsAppの分離は命じられず、ひとまず大きな山を越えたように見えます。それでもFTCは「あらゆる選択肢を検討している」とコメントしており、気は抜けません。EUの規制は、大家業でいえば民泊新法や条例のようなもの。地域ごとのルールが、商売のやり方そのものを変えてしまうことがあります。
次の決算(2025年10〜12月期、例年1月下旬に発表)で見たいポイントは、次のとおりです。この記事が出る1月中旬から見れば、もうすぐです。
| チェック項目 | 会社の見通し(2025年10月29日) |
| 売上高 | 560億〜590億ドル |
| 2025年の費用の合計 | 1,160億〜1,180億ドル |
| 2026年の費用と設備投資の見通し | 具体的な金額が示されるか |
私がいちばん気にしているのは、3行目です。2026年の費用と設備投資に具体的な金額が示されるかどうか。値札の議論も、リスクの議論も、結局はここに行き着きます。
通信簿の△はリスクだけ。だからこそ、そこを見ておく
第1回の6つの物差し(機械的に判定)に、当ブログの主観によるリスクを加えた7項目で採点すると、メタは成長性と収益性が◎、稼ぐ現金・財務の安全性・株主還元・割安度が○。△がついたのは、リスクの1項目だけでした。
数字の面では、ほとんど文句のつけようのない成績です。だからこそ、残る△の中身、つまりAI投資と費用の急増、Reality Labsの赤字、子どもの安全をめぐる訴訟が、この会社を見るうえでの宿題になります。優良物件ほど、買う前に修繕計画と周辺の開発計画だけは丁寧に確かめておきたい。大家の感覚でいえば、そんなところでしょうか。
メタの決算書で、押さえておきたいこと
まず、売上の約98%が広告で、稼ぎはほぼすべてアプリ事業から生まれていることを確かめてください。そのうえで、広告の表示回数と単価がそろって伸びているかどうか。この「両輪」が回っている限り、本業の足腰は強いと見てよさそうです。
一方で、Reality Labsの累計損失(776億ドル)と、AIへの巨額投資の大きさも、数字で把握しておきたいところです。2025年7〜9月期の純利益の急減が一時的な税金費用によるものだと理解しておけば、見出しの数字に慌てずに済みます。そして、Hyperionの合弁会社のような、貸借対照表の外にある負担にも目を配る。ここまで見られれば、メタの決算書の要点はほぼ押さえられています。
高収益マシンが、「賭け」の費用をこなせるか
メタは、30億人以上が毎日使うアプリから広告で稼ぐ高収益マシンです。売上は+20%台で伸び、営業利益率も40%台。値札は、一時的な要因を除けば7社の中で最も割安な水準にあります。
その一方で、稼いだお金をAIのデータセンターとメタバースに大胆につぎ込む「賭け」の会社でもあります。2026年の費用の増加をこなして利益を伸ばせるかが、株価のカギになりそうです。
大家業でも、1棟目が軌道に乗ると、次の大きな物件に踏み出したくなるものです。その一歩が吉と出るか凶と出るかは、まだ決算書のどこにも書かれていません。それを四半期ごとに確かめていけることも、この会社を追いかける楽しみだと思います。
明日の第7回は、AIブームの主役エヌビディアです。どうぞお楽しみに!
※本記事は情報提供を目的としたもので、特定の銘柄の売買を勧めるものではありません。投資の判断はご自身の責任で行ってください。 ※数値は会社開示資料をもとに当ブログが集計・計算したもので、四捨五入の関係で合計が合わない場合があります。理論値や逆算した成長率は一定の前提にもとづく参考値です。
出典・参考
- Meta 2025年第3四半期 決算発表(8-K Exhibit 99.1)https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1326801/000162828025047114/meta-09302025xexhibit991.htm
- Meta Form 10-Q(2025年9月期)https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1326801/000162828025047240/meta-20250930.htm
- Meta 2024年第4四半期 決算発表 https://investor.atmeta.com/investor-news/press-release-details/2025/Meta-Reports-Fourth-Quarter-and-Full-Year-2024-Results/default.aspx
- Meta 2022年第4四半期 決算発表 https://investor.atmeta.com/investor-news/press-release-details/2023/Meta-Reports-Fourth-Quarter-and-Full-Year-2022-Results/default.aspx
- Meta「Hyperion」データセンターの合弁会社の発表(2025年10月21日)https://investor.atmeta.com/investor-news/press-release-details/2025/Meta-Announces-Joint-Venture-with-Funds-Managed-by-Blue-Owl-Capital-to-Develop-Hyperion-Data-Center/default.aspx
- Meta 8-K(300億ドルの社債)https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1326801/000119312525262593/d75422d8k.htm
- Meta 増配の発表(2025年2月13日)https://investor.atmeta.com/investor-news/press-release-details/2025/Meta-Announces-Increase-in-Quarterly-Cash-Dividend/default.aspx
- FTC訴訟の判決:NPR(KJZZ、2025年11月18日)https://www.kjzz.org/npr-top-stories/2025-11-18/judge-sides-with-meta-in-antitrust-trial-will-not-spin-off-whatsapp-and-instagram
- EUの制裁金:Digital Policy Alert https://digitalpolicyalert.org/event/29249-european-commission-fined-meta-eur-200-million-for-its-consent-or-pay-model-non-compliance-with-digital-markets-act
- 株価:Yahoo Finance、digrin。米10年国債:米財務省































