東雲結子:石井先生、あけましておめでとうございます! 今年の目標は「マグニフィセント7を全部買って、あとは寝て待つ」に決めました!
税理士石井:おめでとうございます。うーん、初夢にしては、ずいぶん具体的な銘柄リストですね。
東雲結子:だって「壮大な7社」ですよ? 名前からして、もう負ける気がしません。
税理士石井:えーっと、その呼び名の由来は西部劇の『荒野の七人』なんです。映画のほうは、7人全員が最後まで無事というわけではなくて……。
東雲結子:おっと(汗)。縁起の話はいったん置いておきましょう。でも、2025年も7社はみんな絶好調だったんですよね?
税理士石井:そこが今日の本題です。2025年にS&P500の上昇率(+16.4%)を上回ったのは、7社のうちアルファベットとエヌビディアの2社だけでした。
東雲結子:えっ、7人のうち5人が平均点に届いていない……。それ、私の中学時代の通知表より厳しい結果です。
税理士石井:ははは。大家業でも、「人気エリアの物件だから全部安心」とはいきませんよね。1棟ずつ、家賃と修繕費と借入を見て決めるはずです。
東雲結子:たしかに……。じゃあ7社も、1社ずつ「通帳と修繕計画」を見るんですね!
税理士石井:そうです。会社の場合、それが決算書です。この連載では、7社の決算書を1冊ずつ一緒に開いていきましょう。
新年最初の連載は、米国株の主役ともいえる「マグニフィセント7」の7社を、決算書からとことん読み解く全13回のシリーズです。
会計事務所の人間が、なぜ米国のハイテク株を? と思われるかもしれません。でも、決算書の読み方は、私たち大家が毎月向き合っている賃貸経営の数字とほとんど同じなんです。家賃収入にあたる売上、管理費や修繕費にあたる費用、借入れの返済、そして最後に手元に残るお金。世界最大級の企業の通信簿も、結局はこの延長線上にあります。だからこそ、不動産と同じ目線で、冷静に、そして少し意地悪に数字を見ていきたいと思っています。
「名前は聞くけど、実際どれくらい稼いでいるの?」「どの会社が割高なの?」――そんな疑問に、数字で答えていきます。前回のAirbnb(エアビーアンドビー)の連載と同じく、株式投資の銘柄選びの目線で、図と表をたっぷり使ってお届けします。
マグニフィセント7は、どんな7社なのか
マグニフィセント7(Magnificent 7、「壮大な7社」)は、米国株式市場をけん引する大型テック7社の通称です。2023年ごろから広く使われるようになった呼び名で、西部劇の名作『荒野の七人』(原題 The Magnificent Seven)が由来とされています。
| 会社(ティッカー) | 本社 | 主な事業 | 決算期末 |
| アップル(AAPL) | カリフォルニア州 | iPhone・Mac・サービス(App Storeなど) | 9月 |
| マイクロソフト(MSFT) | ワシントン州 | クラウド(Azure)・Microsoft 365・Windows | 6月 |
| アルファベット(GOOGL・GOOG) | カリフォルニア州 | グーグル検索・YouTube・クラウド | 12月 |
| アマゾン・ドット・コム(AMZN) | ワシントン州 | ネット通販・AWS(クラウド)・広告 | 12月 |
| メタ・プラットフォームズ(META) | カリフォルニア州 | Facebook・Instagram・WhatsAppの広告 | 12月 |
| エヌビディア(NVDA) | カリフォルニア州 | AI向け半導体(GPU) | 1月 |
| テスラ(TSLA) | テキサス州 | 電気自動車(EV)・蓄電池 | 12月 |
7社とも、米国のナスダック市場に上場しています。アルファベットは議決権のあるクラスA株(GOOGL)と、議決権のないクラスC株(GOOG)の2種類が上場しています。
こうして並べてみると、ひとくくりに「ハイテク株」と呼ばれていても、稼ぎ方はまるで違います。iPhoneという「モノ」を売る会社もあれば、広告枠という「場所」を売る会社も、クラウドという「時間貸しのサーバー」を売る会社もあります。賃貸でいえば、ワンルーム、ファミリー向け、店舗、駐車場をすべて同じ物差しで測るようなもので、ここを押さえずに株価だけを見ると、判断を誤りやすいと私は感じています。
時価総額は合計約21.6兆ドル。でも「値段」と「稼ぎ」の順位はそろわない

2025年12月31日時点の7社の時価総額(株価×発行済株式数)は、合計で約21.6兆ドル。1ドル156.56円で換算すると約3,370兆円という、とんでもない規模です。7社だけで、米国の代表的な株価指数S&P500(約500銘柄)の時価総額のおよそ3分の1(2025年11月末時点で35.0%)を占めています(詳しくは第13回)。
面白いのは、時価総額の順位と、売上・利益の順位がバラバラなことです。売上がいちばん大きいのはアマゾンですが、時価総額は5番目。逆に、エヌビディアは売上ではアマゾンの約4分の1なのに、時価総額は1位です。
不動産に置きかえると、イメージしやすいかもしれません。今いちばん家賃を稼いでいる物件が、いちばん高く売れるとは限りませんよね。駅前の再開発が決まった街の土地は、今の家賃が安くても値段が先に上がります。株価も同じで、今の稼ぎよりも「これから先、どれだけ稼げそうか」という期待に値段がつきます。このズレこそが、株式市場が各社の将来の成長をどう見ているかの表れで、この連載のメインテーマでもあります。
2025年、7社中5社がS&P500に届かなかった
2025年のS&P500は+16.4%(配当を含まない)。これを上回ったのは、アルファベット(+65.3%)とエヌビディア(+38.9%)の2社だけでした。ほかの5社は、S&P500の上昇率に届いていません。
「7社をまとめて買っておけば安心」とは限らない1年だったわけです。正直に言うと、私もこの数字を初めて並べたときは、少し意外でした。ニュースでは「マグニフィセント7が相場をけん引」と毎日のように聞いていましたから。でも、指数を上回ったのは7社全員ではなく、一部の会社だったということです。

月ごとに見ると、7社とも3〜5月に年間の安値をつけています。2025年4月には米国の関税政策をきっかけに世界的に株価が急落し、そこからの戻り方で明暗が分かれました。テスラは3月末に2024年末より3割以上安い水準まで下げたあと、年末には+11%まで戻しています。
大家業でいえば、どんなに良い物件でも、空室が続く季節や金利が上がる局面は必ずやってきます。そのときに慌てて手放すのか、持ちこたえられるのか。株も同じで、下がった局面でどう振る舞えるかは、買う前に決めておく必要があります。
5年で見ると、エヌビディアだけが別の世界にいる
一方、5年という長い目で見ると、2020年末に100ドル分買ったエヌビディア株は約1,429ドルになりました。AI(人工知能)ブームの主役として、ほかの6社を大きく引き離しています。7社のうち最も伸びが小さいアマゾンでも、5年で約1.4倍です。
ただ、この数字を見て「やっぱりエヌビディアを買っておけば」と思うのは、後から振り返るから言えることでもあります。5年前の時点で、ここまでの伸びを確信できた人はほとんどいなかったはずです。だからこそ、この連載では過去の株価の結果より、決算書の中身から「今の株価が何を前提にしているか」を確かめることに重きを置いています。
過去の株価の動きは、将来の成果を保証するものではありません。
決算書はどこで読めるのか。「10-K」は米国版の有価証券報告書
この連載では、各社が米国証券取引委員会(SEC)に提出した書類をもとに分析します。

10-Kは、日本の有価証券報告書と同じく、事業の内容からリスク、財務諸表まで載っている年1回の報告書です。株式投資の目線で読むなら、特に次の4か所が大事です。
| 10-Kの項目 | 日本の有価証券報告書で近いところ | 銘柄選びで見るポイント |
| Item 1 Business(事業) | 事業の内容 | 何で稼いでいる会社か |
| Item 1A Risk Factors(リスク要因) | 事業等のリスク | 会社自身が認めるリスク |
| Item 7 MD&A(経営者による財政状態・経営成績の分析) | 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 | 売上・利益が増減した理由 |
| Item 8 Financial Statements(財務諸表と注記) | 経理の状況 | 損益計算書・貸借対照表・キャッシュフロー計算書、セグメント情報、訴訟などの注記 |
用語メモ:MD&A=Management’s Discussion and Analysis(経営者による分析)。
私がいちばん時間をかけて読むのは、実はItem 1Aのリスク要因です。物件を買うときも、パンフレットの「駅近・南向き」より、重要事項説明書の「この先、何が起こり得るか」のほうが大事ですよね。会社が自分で書いたリスクの一覧は、いわば会社版の重要事項説明書です。
書類のダウンロードは無料で、登録もいりません。SECのウェブサイト(sec.gov)の「Company Search」(EDGARの会社検索)で、会社名やティッカー(例:AAPL)を入力し、提出書類の一覧から「10-K」(年次)や「10-Q」(四半期)を選びます。本文はブラウザでそのまま読めますし、提出書類のページにある「Interactive Data」ボタンから財務諸表を表で確認でき、Excel形式(Financial_Report.xlsx)でも保存できます。
各社の投資家向けサイト(IR)にも、10-Kや決算発表資料のPDFが置かれています。英語なので最初は身構えるかもしれませんが、数字の表は世界共通です。慣れると意外と読めますよ。
この連載で使う決算と「6つの物差し」
決算期が会社ごとにバラバラなので、この連載では2025年12月31日までに公表された最新の決算を使い、7社を比べるときは「直近12か月」(最新の4四半期の合計)にそろえます。
| 物差し | 使う指標 | 計算方法 |
| 成長性 | 売上高の伸び率 | 直近12か月の売上高÷その1年前の12か月の売上高−1 |
| 収益性 | 営業利益率 | 営業利益÷売上高 |
| 稼ぐ現金 | FCFマージン | (営業キャッシュフロー−設備投資)÷売上高 |
| 財務の安全性 | 借入の重さ | (借入金+ファイナンス・リース)÷営業キャッシュフロー |
| 株主還元 | 総還元利回り | (自社株買い+配当)÷時価総額 |
| 割安度 | PER(株価収益率) | 株価÷1株あたり純利益 |
用語メモ:FCF=Free Cash Flow(フリーキャッシュフロー。本業で稼いだ現金から設備投資を差し引いた、自由に使えるお金)。PER=Price Earnings Ratio。
6つのうち、私が大家として特に大事にしているのはFCFです。賃貸経営でも、帳簿上の利益が出ていても、大規模修繕や設備の入れ替えでお金が出ていけば、手元にはあまり残りません。「利益は意見、現金は事実」という言葉がありますが、会社の実力を見るときも、最後はいくら現金が残るかに行き着きます。
PERも、不動産の利回りに置きかえると感覚がつかみやすくなります。PER30倍は、利益÷株価に直すと約3.3%です。つまり「経費を引いた後の実質利回りが約3.3%の物件を買う」のに近い感覚で、それでも買われているのは、市場が将来の利益の伸びを見込んでいるからです。この「見込み」が妥当かどうかを、第12回でじっくり検証します。
7社の通信簿
6つの物差しで機械的に評価すると、7社の個性がくっきり出ます。
エヌビディアは、成長性・収益性・稼ぐ現金・財務がすべて◎という、ほとんど優等生のような成績です。ただし、株価の値札であるPERは46倍と高めで、期待もそれだけ大きく背負っています。マイクロソフトとメタは収益性が◎で、メタは売上の伸びも20%を超えています。アップルは株主還元が◎ですが、売上の伸びは+6%と、7社で下から2番目にとどまりました。アマゾンは、AIのための巨額の設備投資で、FCFがほとんど残っていません。そしてテスラは、財務こそ健全ですが、利益がとても小さく、PERは300倍を超えています。
もちろん、これは決算と株価の「スナップショット」にすぎません。成績表の数字だけで人を判断しないのと同じで、会社にもそれぞれの事情があります。第2回から第8回で、1社ずつその中身を詳しく見ていきます。
読み進める前に、心にとめておきたいこと
まず、7社それぞれが「何で稼いでいる会社なのか」を、自分の言葉で説明できるようになることが出発点です。そのうえで、時価総額の順位と売上・利益の順位が違うのは、市場の将来への期待が値段に乗っているからだ、ということを意識しておいてください。2025年に5社がS&P500に届かなかったように、「7社をまとめて買えば安心」とは限りません。
決算書を自分で開くなら、10-K(米国版の有価証券報告書)のItem 1・1A・7・8の4か所を、まず押さえておきましょう。そして、決算期が会社ごとに違うので、比べるときは「直近12か月」にそろえる。この2つを覚えておくだけで、ニュースの見出しに振り回されにくくなります。
7社は「まとめて1つ」ではない
マグニフィセント7は、時価総額の合計が約21.6兆ドルという巨大な7社ですが、稼ぎ方も、成長のスピードも、株価の評価も、まったく違う会社の集まりです。2025年の株価も、アルファベットの+65%からアマゾンの+5%まで大きく差がつきました。
大家業を長く続けていると、「みんなが買っているから」で買った物件ほど、あとで苦労するものだと身にしみて感じます。株も同じで、名前の響きではなく、1社ずつの決算書と向き合うことが、遠回りに見えていちばんの近道だと思います。
第2回は、時価総額4兆ドル超えのアップルから。iPhoneとサービスの「二刀流」と、世界最大級の自社株買いを、決算書から読み解きます。どうぞお楽しみに!
※本記事は情報提供を目的としたもので、特定の銘柄の売買を勧めるものではありません。投資の判断はご自身の責任で行ってください。 ※数値は各社の開示資料をもとに当ブログが集計・計算したもので、四捨五入の関係で合計が合わない場合があります。株価は2025年12月31日終値、円換算は三菱UFJ銀行の2025年最終公表日の仲値(TTSとTTBの平均、1ドル156.56円)を使用しています。
出典・参考
- 各社のForm 10-K・10-Q・決算発表資料(第2回〜第8回の出典欄に個別に記載)
- 米国証券取引委員会(SEC)EDGAR https://www.sec.gov/edgar/search/
- S&P Dow Jones Indices「Market Attributes: U.S. Equities(2025年11月)」(2025年12月2日公表)https://www.spglobal.com/spdji/en/documents/commentary/market-attributes-us-equities-202511.pdf
- 株価:Yahoo Finance https://finance.yahoo.com/ 、digrin https://www.digrin.com/
- 為替:三菱UFJリサーチ&コンサルティング「外国為替相場」































