東雲結子:先生、見てください、この広告!「1万円から大家さんに。家賃のように分配金が届きます」ですって。私も大家さんデビューです。夜中の水漏れの電話も、退去立会いもなし!
税理士石井:うーん、夜中の電話がないのは、たしかに魅力ですね。ただ、税金の上では「大家さん」になれないこともあるんです。匿名組合型の商品だと、分配金は家賃(不動産所得)ではなく、原則として雑所得になります。
東雲結子:えっ、家賃のように届くのに、家賃じゃない……。名札だけ大家さん、ですか?
税理士石井:ふふ、そんな感じです。しかも分配金からは、受け取る時点で20.42%の所得税と復興特別所得税が差し引かれます。1万円の分配なら2,042円が先に引かれて、手取りは7,958円です。
東雲結子:おっと(汗)。でも、もう差し引かれたなら、税金はそれで終わりですよね?
税理士石井:それがですね、雑所得は総合課税なので、確定申告で家賃や給与と合算して精算します。しかも差し引かれたのは所得税だけで、住民税は別。大家さんなら、申告書にきちんと載せる必要があるんです。
東雲結子:分配金の明細、冷蔵庫に貼っておきます……。じゃあ「任意組合型」なら、本物の大家さんになれますか?
税理士石井:ええ、任意組合型なら不動産所得になります。ただし、組合の業務に関与しない「特定組合員」だと、損失が出ても生じなかったものとみなされて、ご自分のアパートの家賃とも差し引けません。
東雲結子:本物の大家さんなのに、赤字のときだけ他人行儀……。
税理士石井:ははは、言い得て妙です。二つの型の税金の違いと、現物の大家として見ておきたいリスクを、順に整理していきましょう。
「1万円から不動産投資ができるなら、手間のかかるアパートより気楽かもしれない」
そう感じている方は少なくないと思います。国土交通省のハンドブックによると、不動産特定共同事業の電子取引業務(いわゆる不動産クラウドファンディング)の出資額は、平成30年度(2018年度)の12.7億円から、令和6年度(2024年度)には1,763.4億円(875件)に増えました。件数で見ても、平成30年度の26件から、令和5年度の530件、令和6年度の875件へと、ここ数年で一気に広がっています。年末に資産配分を見直すなかで、不動産クラウドファンディングの税金が気になっている方もいらっしゃるでしょう。
ところが、不動産クラウドファンディングの税金は、同じ「不動産」の名がついていても、現物の大家とはかなり違います。分配金が家賃のように届いても、匿名組合型なら税金の上の区分は原則として雑所得。しかも、商品の「型」によって、所得の区分も、源泉徴収も、損失の扱いも変わります。
この記事では、匿名組合型と任意組合型の二つに分けて、不動産クラウドファンディングの税金を整理します。後半では、税理士大家として、現物の物件と比べたときのリスクの見方もお伝えします。
※この記事は2025年12月時点の法令と国税庁・国土交通省の公表資料にもとづいています。
不動産クラウドファンディングの税金は、匿名組合型か任意組合型かで決まる
この記事で取り上げる不動産クラウドファンディングは、不動産特定共同事業法にもとづく仕組みです。国土交通省の「不動産特定共同事業の利活用促進ハンドブック」(令和7年7月)によると、平成29年の法改正で、クラウドファンディングに対応するため、インターネット上での手続に関する許可制度(電子取引業務)が整備されました。
出資の契約には主に二つの型があり、税金の扱いが大きく違います。
| 項目 | 匿名組合型 | 任意組合型 |
| 契約の根拠 | 匿名組合契約(商法535条) | 任意組合契約(民法667条) |
| 所得の区分 | 原則として雑所得(総合課税) | 不動産所得 |
| 分配を受けるとき | 20.42%(所得税・復興特別所得税)を源泉徴収 | 持分の収入と経費を自分の不動産所得として計算 |
| 確定申告 | 家賃などと合算し、源泉徴収税額を差し引いて精算 | 自分の物件の不動産所得と合わせて申告 |
| 損失 | 雑所得の損失は、ほかの所得と損益通算できない | 特定組合員なら、損失は生じなかったものとみなされる |
匿名組合契約は、出資者が事業者(営業者)の営業のために出資し、その営業から生じる利益の分配を受ける契約です。物件を持ち、運営するのは事業者で、出資者は利益の分配を受ける立場にとどまります。任意組合契約は、出資者がそれぞれ出資して共同の事業を営む契約で、出資者は組合の事業である不動産の賃貸に、持分に応じて参加する形になります。
この違いを、図にまとめました。左の列が匿名組合型、右の列が任意組合型で、契約、所得の区分、分配を受けるとき、確定申告、損失が出たときの五つの点を並べています。匿名組合型は原則として雑所得で、分配のときに20.42%が源泉徴収され、住民税は差し引かれません。任意組合型は不動産所得ですが、特定組合員なら損失は生じなかったものとみなされます。図の下には、特定組合員の意味と、どちらの型にも共通する注意点を添えました。

匿名組合型の分配金は原則として雑所得。20.42%は「前払い」にすぎない
所得税基本通達36・37共-21は、「匿名組合契約に基づく営業者から受ける利益の分配は雑所得とする」としています。ただし、匿名組合員が営業者の営業に係る重要な業務執行の決定を行っているなど、組合事業を営業者と共に経営していると認められる場合は、営業者の営業の内容に従って事業所得などになります。インターネットで出資するクラウドファンディングの出資者が事業の重要な決定に関わることは、ふつうは考えにくいので、多くは雑所得になると私は考えています。
分配金を受け取るときには、事業者が20.42%の所得税及び復興特別所得税を源泉徴収します(所得税法210条・211条)。20.42%は、所得税20%と、その2.1%にあたる復興特別所得税0.42%を合わせた率です。
管理会社が家賃から管理料を差し引いて送金してくるのに少し似ていますが、源泉徴収は「最後に精算する前提の前払い」です。大切なのは、この20.42%で課税が終わるわけではないことです。雑所得は総合課税なので、確定申告で家賃や給与などと合算して税額を計算し、源泉徴収された税額を差し引いて精算します。さらに、源泉徴収されるのは所得税と復興特別所得税だけで、住民税(所得割10%)は別にかかります。
用語メモ:源泉徴収とは、お金を支払う側が、支払いの際に税金を差し引いて国に納める仕組みです。差し引かれた税額は、確定申告で最終的な税額から差し引いて精算します。
数字で確かめてみます。匿名組合型の商品に100万円を出資し、想定どおり年4%、4万円の分配を受けた場合です。源泉徴収は4万円×20.42%=8,168円で、手取りは31,832円。これを確定申告で精算すると、その人の所得税率によって最終的な負担が変わります(分配金を加えても所得税率の帯が変わらない前提の概算です)。
| その人の所得税率 | 確定申告での所得税+復興特別所得税 | 源泉徴収との差 | 住民税(10%) | 負担の合計 |
| 5% | 2,042円 | 6,126円の還付 | 4,000円 | 6,042円 |
| 20% | 8,168円 | 0円 | 4,000円 | 12,168円 |
| 33% | 13,477円 | 5,309円の追加納付 | 4,000円 | 17,477円 |
不動産所得のある大家さんは、すでに高い税率の帯にいることが多いと思います。所得税率33%の帯にいる方なら、4万円の分配にかかる税金は合計17,477円で、分配金の4割を超えます。国土交通省のハンドブックの事例にも、利回りを「想定・税引前」と書いたものがあります。広告の利回りが税引前の数字なら、税引後でいくら残るのかは、ご自分の税率で計算し直してみてください。
匿名組合型で元本割れしても、家賃とは相殺できない
匿名組合型で、物件の売却損などから損失の分配を受け、出資した元本を割り込んだ場合はどうなるでしょうか。
匿名組合型の所得は雑所得です。しかも国税庁の情報(平成18年1月27日)は、契約の途中で分担する損失は「計算上の分担」で、損失の額は契約の終了時に確定するため、その年の所得の計算で必要経費にはできないとしています。損失で出資が減った後に利益が出ても、まず出資の欠損の穴埋めにあてられ、所得になるのは穴埋めの後に分配を受ける利益です。そのうえ所得税法で、ほかの所得と損益通算できる損失は、不動産所得・事業所得・山林所得・譲渡所得の損失に限られます(所得税法69条)。ですから、雑所得の損失は、家賃(不動産所得)とも給与とも差し引けません。
利益が出れば総合課税で合算され、損失が出ても家賃とは相殺できない。大家さんから見ると、ここは割に合わないと感じるところかもしれません。不動産所得の赤字と損益通算の基本は、当ブログの「不動産所得の赤字100万円、給与と通算できるのは70万円だけ? 「土地の借入金利子」の制限を会社員大家さんの数値例で計算しました(2025年分)」(2025年12月16日)で取り上げています。
任意組合型は不動産所得。ただし特定組合員の損失は「なかったもの」に
任意組合型では、組合の事業(不動産の賃貸)から生じた利益や損失が、分配割合に応じて各組合員に帰属します(所得税基本通達36・37共-19)。計算は、原則として、組合の収入金額・支出金額・資産・負債などを分配割合に応じて各組合員のものとして計算します(同36・37共-20)。この原則の方法によることが難しい場合には、継続して適用することを条件に、より簡便な計算方法も認められています。組合の事業が不動産の賃貸なので、出資者の所得は不動産所得です。
不動産所得になるということは、持分に応じた減価償却費や管理費なども経費として計算するということです。事業者から届く計算書などをもとに、ご自分の物件の収支と一緒に申告書に載せることになります。必要経費の考え方は、当ブログの「確定申告の準備に:不動産所得の必要経費「なるもの・ならないもの」一覧。按分が必要な費用と、「5棟10室」の事業的規模で変わる5つの扱い」(2025年12月18日)もご覧ください。
ここで注意したいのが、特定組合員の損失の制限です。国税庁のタックスアンサー(No.1391)によると、特定組合員とは、個人組合員のうち、組合事業に係る重要な業務の執行の決定に関与し、かつ、契約を締結するための交渉等を自ら執行する組合員以外の者をいいます。特定組合員の組合事業から生じた不動産所得の損失は、生じなかったものとみなされます(租税特別措置法41条の4の2)。
たとえば、ある年の持分の収支が、賃料収入5万円、管理費や減価償却費などの経費6万円で、1万円の赤字だったとします(仮定)。特定組合員なら、この1万円の損失は生じなかったものとされ、ご自分のアパートの不動産所得から差し引くことも、給与と損益通算することもできません。
クラウドファンディングの出資者は、ふつうは業務の執行に関与しないので、多くの場合は特定組合員に当たると私は考えています。ただ、最終的には契約の内容しだいです。出資する前に、契約書や契約成立前の書面で確かめておきましょう。
用語メモ:損益通算とは、ある所得の赤字を、ほかの所得の黒字から差し引くことです。どの所得の赤字を差し引けるかは、所得税法などで決まっています。
確定申告は、大家さんなら必ず合算する
給与の年間収入金額が2,000万円以下で、給与を1か所から受けていて、その全部が源泉徴収の対象になっている会社員は、給与所得・退職所得以外の所得の合計額が20万円以下なら、所得税の確定申告は不要です(国税庁タックスアンサーNo.1900、所得税法121条)。
確定申告をしない会社員の方は、匿名組合型の分配金については、源泉徴収された20.42%で所得税の負担が終わった形になります。ただし住民税は差し引かれていないので、原則として、お住まいの市区町村への住民税の申告が必要です(地方税法317条の2)。所得税率が5%や10%の帯の方なら、確定申告をすれば差額が戻ってくることもありますが、その場合は申告書に給与以外の所得をすべて含めて計算します。
ただし、これは確定申告をしない場合の話です。不動産所得で確定申告をする大家さんは、匿名組合型の分配金も、任意組合型の持分の収支も、金額にかかわらず申告書に含めます。匿名組合型で源泉徴収された税額は、申告書で差し引くのを忘れないようにしてください。事業者から届く支払の明細や計算書は、2025年分の確定申告(期限は2026年3月16日(月))まで大切に保管しておきましょう。会社員の大家さんの確定申告と住民税の申告は、別の記事で詳しく扱います。
現物の大家と比べると、税金の「使い勝手」がまるで違う
ここまでの話を、現物のアパートを持つ大家さんの立場から並べ直してみます。
現物の物件なら、家賃は不動産所得で、減価償却費や修繕費、借入金の利子などを自分で積み上げて経費にします。大きな修繕や購入直後の減価償却で赤字になった年は、一定の制限はありますが給与などと損益通算でき、青色申告なら通算しきれない赤字を翌年以後3年間繰り越せます(所得税法69条・70条)。
匿名組合型は、黒字なら雑所得として総合課税で合算され、赤字になっても損益通算も繰越しもできません。任意組合型は不動産所得になるものの、特定組合員なら赤字は生じなかったものとされ、こちらも通算や繰越しの出番はありません。つまり、どちらの型でも、利益が出た年は家賃と同じように税金がかかり、損失が出た年は税金の上で助けてもらえない、という「片側だけ」の形になりやすいのです。
だからといって、不動産クラウドファンディングが劣っているという話ではありません。手間をかけずに少額から分散できるのは、現物にはない良さです。ただ、税金の面での使い勝手が現物とは違うことは、出資額を決める前に知っておいてほしいと思います。
大家目線で見る、不動産クラウドファンディングのリスク
ここからは、税理士大家としての私の見方です。
まず、分配金も元本も、約束されたものではないということです。不動産特定共同事業法は、利益を生ずることが確実であると誤解させるような断定的判断の提供を禁じています(国土交通省ハンドブック)。ハンドブックに載っている事例でも、利回りは「想定」と書かれています。家賃が下がる、空室が続く、修繕費がかさむ、売却価格が見込みを下回る。現物の大家が日々向き合っているリスクは、クラウドファンディングの物件にも同じようにあります。
次に、事業者のリスクです。ハンドブックは、第1号事業では運用事業者が自ら物件を所有していて、倒産隔離がされていないと説明しています。平成25年の法改正では、倒産隔離型のスキーム(特例事業)が導入されました。また、平成29年の改正では、登録制の小規模不動産特定共同事業も創設されました。ハンドブックは、小規模の事業は出資額等に制限を受ける一方で、1号事業に比べて資本金要件等が緩和されていて参入しやすいと説明しています。参入しやすいことは市場の広がりにつながる一方で、出資する側から見れば、事業者の規模や体力がさまざまだということでもあります。出資する前に、その商品が誰の名義で物件を持つ仕組みなのか、事業者の財務状況はどうかを、契約成立前の書面で確かめることが欠かせないと私は考えています。
ハンドブックの事例には、匿名組合出資を「優先」と「劣後」に分けたものも載っています。私の理解では、優先劣後は、損失が出たときに劣後部分から先に負担する設計です。ただ、優先部分がどこまで守られるかは、劣後部分の割合と損失の大きさしだいです。「優先だから安心」と決めつけず、商品ごとに契約成立前の書面で仕組みと割合を確かめてください。
そして何より、現物の大家とは、決められることの範囲が違います。現物なら、修繕の時期も、家賃の設定も、売る時期も、自分で判断できます。クラウドファンディングでは、それをすべて事業者に任せる代わりに、手間がかかりません。どちらが良い悪いではなく、「任せる」ことの対価として何を手放しているのかを知ったうえで選ぶ。私は、それがいちばん大切だと思います。
任意組合型の小口化商品の考え方は、当ブログの「小口化不動産は相続税対策に使えるのか?」(2025年7月17日)でも取り上げています。
年内に確かめておきたいのは、型と、2025年に受け取った分配金
まずは、出資している商品が匿名組合型なのか任意組合型なのかを、契約書や事業者のサイトで確かめてください。ここで、所得の区分も申告のしかたも決まります。
次に、2025年中に受け取った分配金と源泉徴収税額を、事業者の明細で集計しておきます。匿名組合型なら、ご自分の所得税率によって、確定申告で還付になるのか追加で納めるのかが変わります。任意組合型なら、持分の収入と経費の計算書を手元にそろえておきましょう。
そして、損失が出ている商品がないかも確認を。匿名組合型の損失も、特定組合員の任意組合型の損失も、家賃の黒字とは相殺できません。資金計画は、それを前提に立てておくと安心です。
不動産クラウドファンディングは、「型」を確かめてから税金を考える
匿名組合型の分配金は、原則として雑所得です。受け取るときに20.42%が源泉徴収されますが、確定申告で家賃などと合算して精算し、住民税は別にかかります。損失が出ても、家賃や給与とは相殺できません。
任意組合型は不動産所得ですが、組合の業務に関与しない特定組合員の損失は、生じなかったものとみなされます。
「1万円から大家さん」という言葉は、半分は本当で、半分は違うと私は思います。手軽に不動産に関われるのは本当。けれど、税金の区分も、リスクを自分で管理できる範囲も、現物の大家とは別物です。分配金の明細を手に、ご自分の税率で手取りを計算してみるところから始めてみてください。
当事務所では、不動産クラウドファンディングの分配金を含めた大家さんの確定申告をお手伝いしています。お気軽にご相談ください。
※本記事は公表資料をもとにした情報提供を目的としたもので、特定の銘柄の売買や特定の投資商品への投資を勧めるものではありません。税務の取扱いは個別の事情によって変わるため、実行の前に税理士などの専門家にご確認ください。
出典・参考
- 国土交通省「不動産特定共同事業の利活用促進ハンドブック」(令和7年7月)https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/content/001900530.pdf
- 国税庁 所得税基本通達36・37共-19・36・37共-20・36・37共-21 https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shotoku/05/16.htm
- 国税庁「源泉徴収のあらまし」(令和6年版)「匿名組合契約等の利益の分配に対する源泉徴収」https://www.nta.go.jp/publication/pamph/gensen/aramashi2024/pdf/08.pdf
- 国税庁 タックスアンサー1391「不動産所得が赤字のときの他の所得との通算」、No.1900「給与所得者で確定申告が必要な人」(タックスアンサーはいずれも2025年12月時点の内容を参照)https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1391.htm
- 所得税法第69条・第121条・第210条・第211条、租税特別措置法第41条の4の2、地方税法第317条の2、商法第535条、民法第667条
- 国税庁 個人課税課情報第2号「平成17年度税制改正及び有限責任事業組合契約に関する法律の施行に伴う任意組合等の組合事業に係る利益等の課税の取扱いについて(情報)」(平成18年1月27日)https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/shotoku/shinkoku/060117/pdf/21.pdf































