東雲結子:先生、実家の押し入れから、祖母の形見の金の延べ棒が出てきました! ニュースで「金が過去最高値」と言っていたので、高いうちに売ろうと思います。おばあちゃん、ありがとう!
税理士石井:それは大切なものが出てきましたね。うーん、ただ、売る前に税金の話を少しだけ。金地金の売却益は、原則として家賃や給与と合算する、総合課税の譲渡所得なんです。
東雲結子:えっ、形見なのに税金が……。しかも相続したばかりだから、「買ってすぐ売った」扱いで、むしろ重くなるのでは?
税理士石井:そこは逆なんです。相続で受け継いだ金は、おばあさまが買った時からずっと持っていたものとして数えます。5年を超えていれば長期譲渡所得で、特別控除50万円を引いた後の2分の1だけが課税の対象です。
東雲結子:おばあちゃん、税金の上でもまだ守ってくれている……! じゃあ念のため、200万円以下ずつ何回かに分けて売ります。目立たないように。
税理士石井:おっと(汗)。たしかに買取業者は、200万円を超える代金を支払う買取りについて、支払調書を税務署に出します。でも、同じ年のうちに分けて売っても、税金そのものは1円も変わりません。申告すべき所得は、申告すべき所得です。
東雲結子:小分けにしても、カロリーは同じ……。ケーキと一緒ですね。
税理士石井:ははは、名言です。もう一つ大事なのが取得費。おばあさまがいくらで買ったか分からないと、売却代金の5%を取得費にするしかなく、税金が増えることがあります。古いアパートを売るときに、購入時の契約書が見つからないのと同じ悩みですね。
東雲結子:押し入れに、昔の領収書も一緒に眠っていないか探してきます!
税理士石井:それが、いちばん効く準備かもしれません。計算の順番と、金ETFや純金積立との違いを、数字で整理していきましょう。
「金がこれだけ値上がりしたなら、売ったらどれくらい税金がかかるんだろう?」
2025年は、金の価格がたびたびニュースになった年でした。手元の金地金や金貨、親から受け継いだ延べ棒を、売るかどうか考えている方もいらっしゃると思います。金を売却したときの税金は、原則として総合課税の譲渡所得です。ただ、そこには特別控除50万円、所有期間5年超なら2分の1という、株や不動産とは違う独特のルールがあります。
しかも、「金」と名のつく商品でも、金ETFや金貯蓄口座のように、まったく別の課税になるものがあります。相続で受け継いだ金なら、亡くなった方の取得費と取得時期を引き継ぐことも大事なポイントです。
この記事では、国税庁のタックスアンサーをもとに、金を売ったときの税金を、相続した金の延べ棒の数値例とあわせて整理します。
※この記事は2025年12月時点の法令と国税庁の公表資料にもとづいています。金価格は報道と田中貴金属工業の公表値にもとづく参考情報です。
金を売却したときの税金は、原則として総合課税の譲渡所得
まず、金に関する主な商品の課税の違いを表にまとめます。
| 売ったもの | 所得の区分と課税方法 | 主なポイント |
| 金地金・金貨 | 譲渡所得(総合課税) | 特別控除50万円、5年超は2分の1 |
| 純金積立(積み立てた金の売却) | 譲渡所得(総合課税)(業者の案内による) | 購入日ごとに5年超かを判断 |
| 金投資口座・金貯蓄口座など | 金融類似商品の収益、源泉分離課税 | 一律20.315%で課税が完結 |
| 金ETF(上場投資信託) | 上場株式等の譲渡所得(申告分離課税) | 一律20.315%、上場株式などと通算 |
| 営利目的で継続的に売買 | 事業所得または雑所得 | 実態に応じて判断 |
国税庁のタックスアンサー(No.3161)は、金地金の売却益について、原則として「譲渡所得として、給与所得など他の所得と合わせて総合課税の対象となります」としています。不動産所得のある大家さんなら、家賃の所得と合算して税率が決まります(所得税法22条・33条)。
ただし、「金地金の譲渡が営利を目的として継続的に行われている場合には、その実態に応じて事業所得または雑所得」になります。値動きを見ながら頻繁に売り買いしているなら、譲渡所得ではない可能性があるということです。
5年を超えているかは「取得の日から売った日まで」で数える
総合課税の譲渡所得は、所有期間で短期と長期に分かれます。国税庁のタックスアンサー(No.3152)は、所有期間が5年以内なら短期譲渡所得、5年を超えていれば長期譲渡所得としています。所有期間は、取得したときから売ったときまでで数えます。
ここは、大家さんほど勘違いしやすいところかもしれません。土地や建物を売ったときは、売った年の1月1日現在で所有期間が5年を超えているかで長期・短期を判定します(当ブログの「2020年に買った賃貸物件、年内に売ると税率39.63%、2026年に売れば20.315%。「1月1日で5年超」の数え方と、減価償却で小さくなる建物の取得費」(2025年12月14日))。金地金は分離課税の土地建物とは別の仕組みなので、この「1月1日」の数え方はしません。
用語メモ:取得費とは、売った資産を手に入れたときにかかった金額(購入代金や購入手数料など)のことです。譲渡費用は、売るときにかかった手数料などをいいます。
特別控除50万円と2分の1は、この順番で計算する
金地金の譲渡所得は、次の順番で計算します。
譲渡益 = 売却代金 −(取得費+譲渡費用)
売るときに買取業者へ払う手数料などがあれば、譲渡費用として売却代金から差し引けます。短期の場合は、譲渡益から特別控除50万円を差し引いた全額が、ほかの所得と合算されます。長期の場合は、譲渡益から50万円を差し引いた後、その2分の1が合算の対象です。
特別控除の50万円は、その年の総合課税の譲渡所得(短期と長期の合計)全体で50万円です。売るたびに50万円ずつ使えるわけではありません。短期と長期の両方がある年は、先に短期の譲渡益から50万円を差し引きます。同じ年にゴルフ会員権など、ほかの総合課税の譲渡所得がある場合も、この50万円を分け合うことになります。
大家さんの場合、同じ年にアパートや土地を売ることもあるかもしれません。土地や建物の譲渡所得は、金地金とは別の分離課税(租税特別措置法31条・32条)で計算するので、この50万円の特別控除を使うことはなく、金の50万円と取り合いになることもありません。物件の売却と金の売却は、同じ「譲渡所得」という名前でも、計算の箱が別々だと覚えておくと整理しやすいと思います。
この流れを、フローチャートにまとめました。上から順に、売ったのが金ETFなど上場している金融商品か、金投資口座・金貯蓄口座など(金融類似商品)からの利益か、金の売買を営利を目的として継続的に行っているかを確かめます。三つとも「いいえ」なら、金地金・金貨・純金積立の売却益として総合課税の譲渡所得になり、最後に、取得から売却まで5年を超えているかで、右の「(譲渡益−50万円)×1/2」の長期か、下の「(譲渡益−50万円)の全額」の短期かに分かれます。相続・贈与で受け継いだ金は、前の持ち主の取得時から数えることも添えています。
相続した金は、取得時期も取得費も引き継ぐ
相続(限定承認を除きます)や贈与で受け継いだ資産は、前の持ち主が引き続き持っていたものとみなされます(所得税法60条1項)。ですから、相続した金地金を売るときは、亡くなった方が買った日から所有期間を数え、亡くなった方が買ったときの金額を取得費にします。
冒頭の東雲さんのように、相続したばかりの延べ棒を売っても、おばあさまが5年を超えて持っていたなら長期譲渡所得です。「相続したときの値段」が取得費になるわけではない点にも注意してください。
相続税を納めた方には、もう一つ確認したい特例があります。国税庁のタックスアンサー(No.3267)によると、相続や遺贈で取得した「土地、建物、株式などの財産」を、相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに売った場合は、相続税額のうち一定額を取得費に加算できます(租税特別措置法39条)。確定申告で手続をする必要があるので、相続税を納めた方は、売る時期とあわせて確かめておきましょう。
取得費が分からないと、売却代金の5%になる
古い金地金では、いくらで買ったのか記録が残っていないこともよくあります。その場合、所得税基本通達38-16は、土地建物等以外の資産について、売却代金の100分の5に相当する金額を取得費として計算していれば、これを認めるとしています。
ただし、5%はあくまで「分からないときの目安」です。実際の購入代金が5%より大きいなら、購入時の領収書や購入記録、当時の取引明細を探して、実際の金額で計算したほうが税金は少なくなります。
大家業でも、何十年も前に先代が買った土地を売るとき、購入時の契約書がないと取得費の証明に苦労します。金も同じです。形見を整理するときは、一緒に出てきた書類を捨てずに取っておいてください。

相続した金の延べ棒1kgを2,000万円で売ると、課税の対象は875万円
数字で確かめてみます。次の仮定で計算します。
大家さんのBさんは、祖母から相続した金地金1kgを、2025年に2,000万円で売りました(1グラム2万円で売れたと仮定)。祖母はこの金地金を200万円で買っていて(仮定)、Bさんの所有期間は祖母の取得時から数えて5年を超えています。譲渡費用はないものとします。Bさんの不動産所得などによる課税所得金額は600万円で、所得控除は変わらないものとします。
| 項目 | 取得費が分かる場合 | 取得費が分からない場合(5%) |
| 取得費 | 200万円 | 2,000万円×5%=100万円 |
| 譲渡益 | 2,000万円−200万円=1,800万円 | 2,000万円−100万円=1,900万円 |
| 特別控除後 | 1,800万円−50万円=1,750万円 | 1,900万円−50万円=1,850万円 |
| 長期なので2分の1 | 875万円 | 925万円 |
| 課税所得金額 | 600万円+875万円=1,475万円 | 600万円+925万円=1,525万円 |
| 増える所得税+復興特別所得税 | 2,612,700円 | 2,781,200円 |
| 増える住民税(所得割10%の概算) | 875,000円 | 925,000円 |
| 増える税額の合計 | 3,487,700円 | 3,706,200円 |
※所得税は、課税所得金額1,475万円・1,525万円に33%を掛けて1,536,000円を差し引いた額に復興特別所得税(2.1%)を加えて100円未満を切り捨て、600万円のときの788,700円との差を計算。住民税は調整控除などを考慮しない概算です。
2,000万円で売れても、2分の1のおかげで、合算されるのは875万円です。それでも、家賃の所得に上乗せされるので所得税率33%の帯にかかり、増える税額は約349万円になります。取得費が分からず5%で計算すると、差は218,500円。押し入れの領収書を探す価値は、十分にありそうです。
もしこれが短期譲渡所得だったら、2分の1にならず、1,750万円の全額が合算されます。
自分で買って5年以内に売ると、2分の1にならない
もう一つ、ご自分で買った金の例です。2023年に金地金100gを100万円で買い、2025年に230万円で売ったとします(いずれも仮定。譲渡費用なし)。所有期間は5年以内なので短期譲渡所得で、230万円−100万円=130万円の譲渡益から50万円を差し引いた80万円の全額が、ほかの所得と合算されます。同じ譲渡益でも、5年を超えて持っていれば、合算されるのは半分の40万円でした。
金を自分で買ってから5年以内に売るのか、5年を超えてから売るのかで、課税の対象は倍も違ってきます。値上がりのニュースを見て売りたくなったときこそ、購入日を一度確かめてみてください。ただ、税金だけを理由に売る時期を決めると、その間の値動きという別のリスクを抱えることになります。どちらを優先するかは、ご自身の資金計画しだいです。
200万円を超える買取りは支払調書。同じ年に分けて売っても税金は変わらない
所得税法224条の6・225条1項14号と所得税法施行令350条の7により、平成24年(2012年)1月1日以降、金地金等(金・白金地金、金貨・白金貨)の売買を業として行う者が、国内で金地金等を買い取り、200万円超の対価を支払う場合には、「金地金等の譲渡の対価の支払調書」を税務署に提出することが義務付けられています。
支払調書が出ても出なくても、売却益があれば申告が必要なことに変わりはありません。200万円以下に分けて売っても、その年の譲渡所得は合計で計算するので、税金は同じです。国税庁は金地金等の譲渡所得について調査の状況を公表してきました。申告すべきものを正しく申告するのが、結局はいちばん安心だと私は思います。
金ETF・純金積立・金貯蓄口座は、同じ「金」でも税金が違う
金ETFは、証券取引所に上場している投資信託などです。国税庁のタックスアンサー(No.1463)は、上場株式等に「いわゆるETF」を含めています。ですから、金ETFを売った利益は上場株式等の譲渡所得として、一律20.315%(所得税15%、復興特別所得税、住民税5%)の申告分離課税です。上場株式などの損益との通算もできますが、金地金のような特別控除50万円や2分の1の扱いはありません。
純金積立は、毎月一定額で金を買い、業者に保管してもらう仕組みです。たとえば楽天証券は、売却時の税金は譲渡所得で、年間50万円までの特別控除があり、毎月の購入日から5年を超えた分の所得は2分の1になると案内しています。毎月買い足していく分、「どの月に買った分が5年を超えたか」を数える必要があるわけです。長く積み立ててきた金をまとめて売ると、古い月の分は長期、最近の月の分は短期と、一度の売却の中に両方が混ざることがあります。短期と長期が混ざる年は、先に短期の譲渡益から50万円を差し引くという、先ほどの順番がここで効いてきます。
一方、国税庁は、金投資口座や金貯蓄口座などからの利益は「金地金の現物の譲渡とは異なり、実態は金融取引に近い」として、金融類似商品の収益として一律20.315%(所得税及び復興特別所得税15.315%、地方税5%)の源泉分離課税になるとしています。同じ「金の積立」に見える商品でも、契約の中身によって課税が変わりますから、売る前に商品の説明書や取引報告書で確認してください。
金のネックレスや指輪は、1個30万円以下なら課税されないことも
形見の整理では、延べ棒だけでなく、金のネックレスや指輪が出てくることもあると思います。家具や衣服などの生活に通常必要な動産を売った所得は非課税です。ただし国税庁のタックスアンサー(No.3105)は、「貴金属や宝石、書画、骨とうなどで、1個または1組の価額が30万円を超えるもの」の譲渡による所得は、この非課税から除くとしています。
身につけていた宝飾品は、1個(1組)30万円以下なら課税されない可能性があります。一方、金地金や金貨の売却益は、前に見たとおり、国税庁が原則として総合課税の譲渡所得としています。どちらに当たるか迷うものは、個別に確認してください。
2025年の金価格の高さは、税金の重さにもつながる
報道によると、田中貴金属工業が公表する金の店頭小売価格は、2025年9月29日に初めて1グラム2万円を超え、10月17日に1グラム2万3,254円、10月21日には2万3,370円と最高値を更新しました(いずれも税込。2025年11月30日までの最高値は10月21日の値です)。
価格が上がるほど、売ったときの譲渡益も大きくなります。金そのものは家賃のような収益を生みませんから、私は、金は「持っている間は静かで、手放すときに税金の話が一気に出てくる資産」だと感じています。売るか持ち続けるかは、税金だけで決めるものではありません。相続税の申告や遺産分割、ご家族の資金計画も含めて考えたいところです。
年内に確かめておきたいのは、取得の記録と所有期間
まずは、手元の金の取得の記録を探してください。購入時の領収書、保証書、取引明細などです。相続した金なら、亡くなった方の書類の中にあるかもしれません。取得費が分かるかどうかで、税金は大きく変わります。
次に、所有期間です。自分で買った金なら購入日から、相続した金なら亡くなった方の購入日から数えて、5年を超えているかを確かめます。2025年中に売れば2025年分の譲渡所得として、2026年3月16日(月)までの確定申告に含めます。ほかに総合課税の譲渡所得がある年は、特別控除50万円を分け合うことも計算に入れておきましょう。
そして、売ったものが金地金なのか、金ETFなのか、金貯蓄口座なのか。同じ「金」でも申告の要否から変わりますから、商品の種類をはっきりさせておいてください。
金の税金は「何を売ったか」と「いつから持っていたか」で決まる
金地金・金貨の売却益は、原則として総合課税の譲渡所得です。譲渡益から特別控除50万円を差し引き、所有期間が5年を超えていれば、その2分の1が家賃などほかの所得と合算されます。相続した金は、取得の時期も取得費も前の持ち主から引き継ぎ、取得費が分からなければ売却代金の5%で計算します。200万円を超える買取りには支払調書が出ますが、同じ年のうちに分けて売っても税金は変わりません。
金ETFは上場株式等として申告分離課税、金貯蓄口座などは源泉分離課税と、同じ「金」でも扱いはさまざまです。
形見の金を手放すのは、数字だけでは割り切れない決断だと思います。だからこそ、税金の部分は事前にきちんと計算して、気持ちの整理に集中できるようにしておきたいものです。
当事務所では、相続した金や不動産を売ったときの譲渡所得の計算と確定申告をお手伝いしています。お気軽にご相談ください。
※本記事は公表資料をもとにした情報提供を目的としたもので、特定の銘柄の売買や特定の投資商品への投資を勧めるものではありません。税務の取扱いは個別の事情によって変わるため、実行の前に税理士などの専門家にご確認ください。
出典・参考
- 国税庁 タックスアンサー3161「金地金の譲渡による所得」、No.3152「譲渡所得の計算のしかた(総合課税)」、No.3267「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」、No.3105「譲渡所得の対象となる資産と課税方法」、No.1463「株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)」(タックスアンサーはいずれも2025年12月時点の内容を参照)https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3161.htm
- 所得税法第22条・第33条・第60条・第224条の6・第225条、所得税法施行令第25条・第350条の7、所得税基本通達38-16、租税特別措置法第39条・第41条の10
- 大阪国税局「金地金等に係る譲渡所得調査等の状況」(報道発表資料、平成27事務年度)https://www.nta.go.jp/about/organization/osaka/release/hodo/h27/shotoku_shohi/09.htm
- 楽天証券「楽天証券ではじめる はじめての純金積立」https://www.rakuten-sec.co.jp/web/gold/pdf/20200317.pdf
- 共同通信「金価格、初の1グラム2万3千円」(2025年10月17日、OANDA証券マーケットニュース掲載)https://www.oanda.jp/lab-education/?p=98502
- 北海道新聞「<おうちの経済>史上最高値を更新する金 長期的視点で積み立てを」(2025年10月7日)https://www.hokkaido-np.co.jp/article/1221120/
- 田中貴金属工業「過去の金価格(2025年)」店頭小売価格(税込)https://gold.tanaka.co.jp/commodity/souba/d-archive-gold.php?year=2025































