東雲結子:先生、裏ワザを聞きました! iDeCoを60歳で先に一時金で受け取って、5年空けてから会社の退職金をもらえば、退職所得控除がまるまる2回使えるんですって。控除のおかわり自由です!

税理士石井:うーん、そのお店、2026年からメニューが変わるんです。2026年1月1日以後に受け取るiDeCoの一時金は、5年ではなく10年空けないと、退職金の控除から重なった期間の分が差し引かれるようになります。

東雲結子:えっ、10年ですか? 60歳でiDeCoを受け取ったら、70歳まで会社にいないといけないんですね。会社の定年より先に、私の体力が定年を迎えます……。

税理士石井:ははは。この記事の例で、勤続40年で退職金2,500万円、iDeCoの掛金を20年納めて一時金900万円の方が、5年空けて受け取るとします。調整がなければ、税金は合わせて約30万円。2026年以後に受け取った一時金だと、約131万円になります。

東雲結子:約101万円の差……。おかわりのつもりが、追加料金でした(汗)。じゃあ逆に、退職金を先にもらって、iDeCoを後にすれば?

税理士石井:それがですね、その順番にはもともと「19年」のルールがあって、むしろ調整を避けにくいんです。

東雲結子:前から行っても後ろから行っても、ふさがれていました……。

税理士石井:賃貸でいえば、同じ部屋を同じ期間に二人へ貸すことはできませんよね。働いた期間と掛金を納めた期間が重なっていれば、その期間の控除も一度きり、というのが基本の考え方なんです。

東雲結子:なるほど……。受け取る順番と年を、早めに設計しておかないといけないんですね。

税理士石井:そういうことです。退職所得控除の計算から、2026年からの改正、資産管理法人の役員退職金まで、順に確かめていきましょう。

「iDeCoは一時金で先に受け取って、5年空けてから退職金をもらうのが得」

iDeCo(個人型確定拠出年金)を続けてきた方なら、一度はこの「5年ルール」を耳にしたことがあると思います。iDeCoの一時金も会社の退職金も、どちらも退職所得として課税され、勤続年数などに応じた退職所得控除を差し引けます。受け取る年を5年以上離せば、それぞれの控除をまるまる使えた、というのがその中身です。

ところが、令和7年度の税制改正で、この期間が変わりました。2026年1月1日以後に受け取るiDeCoの一時金については、退職金を受け取る年の前年以前9年内まで、重なった期間の調整の対象になります。いわば「5年ルール」が「10年ルール」になったわけです。iDeCoと退職金の受取順を考えている方にとって、計画を見直すきっかけになる改正だと私は受け止めています。

この記事では、退職所得控除の計算と調整の仕組みを条文で確かめたうえで、iDeCoの一時金900万円と退職金2,500万円の例で税金を比べます。資産管理法人から役員退職金を受け取る大家さんの注意点にも触れます。

※この記事は2025年12月時点の法令と国税庁・財務省の公表資料にもとづいています。2026年1月1日以後の取扱いは、2025年3月31日に公布済みの政令(令和7年政令第120号)によるものです。

退職所得は「控除を引いて2分の1」、iDeCoの一時金も同じ計算になる

退職金は、所得税では退職所得として、ほかの所得と分けて課税されます。退職所得の金額は、その年の退職手当等の収入金額から退職所得控除額を差し引き、その残りの2分の1です(所得税法30条2項)。

勤続年数 退職所得控除額
20年以下 40万円×勤続年数(80万円に満たないときは80万円)
20年超 800万円+70万円×(勤続年数−20年)

※障害者になったことに直接基因して退職した場合は、100万円を加算します(所得税法30条3項・6項)。

iDeCoを一時金で受け取った場合も、退職手当等とみなされ、この計算の対象になります。このときの「勤続年数」は、会社に勤めた年数ではなく、iDeCoの掛金を納めた期間です(所得税法施行令69条1項2号)。1年未満の端数は1年として数えます(同条2項)。

用語メモ:退職所得控除とは、退職金などから差し引ける控除で、長く勤めるほど大きくなります。勤続20年を超えると、1年あたりの控除額が40万円から70万円に増えるのが特徴です。

2分の1にならない場合もあります。役員等としての勤続年数が5年以下の人が受け取る「特定役員退職手当等」は、控除後の金額がそのまま退職所得になります。役員以外で勤続年数が5年以下の「短期退職手当等」は、控除後の金額のうち300万円を超える部分は2分の1になりません(所得税法30条2項・4項・5項)。資産管理法人の役員退職金で、この5年の線が効いてくることは後で触れます。

なお、退職金を受け取るときに「退職所得の受給に関する申告書」を支払者に出していれば、支払者が退職所得の税額を計算して支払いの際に源泉徴収するので、原則として確定申告は不要です。出していないと、支払金額の20.42%が源泉徴収され、確定申告で精算することになります(国税庁 タックスアンサーNo.1420)。

「5年ルール」の正体は、前年以前4年内の調整規定

退職所得控除には、前に受け取った退職手当等との重なりを調整する規定があります(所得税法30条6項1号、所得税法施行令70条1項2号)。2025年12月時点の条文では、その年の前年以前4年内に退職手当等を受け取っていて、今回の退職手当等の勤続期間の一部が、前の退職手当等の勤続期間と重なっている場合、重なっている期間を勤続年数とみなして計算した控除額を、今回の控除額から差し引きます。

ポイントは「前年以前4年内」です。たとえば2025年にiDeCoの一時金を受け取り、2030年に退職金を受け取るなら、2030年から見た前年以前4年内は2026年から2029年まで。2025年はその外にあるので、調整はかかりません。受け取る年を5年離せば調整を避けられる。これが「5年ルール」と呼ばれてきたものの正体です。

一方、同じ条文には、その年にiDeCoなどの一時金を受け取る場合は「19年内」とする定めがあります。退職金が先で、iDeCoの一時金が後になる順番では、前年以前19年内の退職金が調整の対象になるということです。

2026年1月1日以後に受け取るiDeCoの一時金は「前年以前9年内」に

令和7年度の税制改正の大綱は、退職金など(老齢一時金を除く退職手当等)を受け取る年の前年以前9年内に老齢一時金(確定拠出年金の老齢給付金として受け取る一時金)を受け取っている場合を、勤続期間等の重複排除の特例の対象にするとしました。あわせて、老齢一時金に係る「退職所得の受給に関する申告書」の保存期間を、7年から10年にするとしています。

この改正は、2025年3月31日に公布された政令(所得税法施行令等の一部を改正する政令、令和7年政令第120号)で決まり、2026年1月1日から施行されます。改正後の施行令70条1項2号は、次の三つの場合に分けて書かれています。

先に受け取るもの 後に受け取るもの さかのぼる範囲(後に受け取る年から見て)
退職金など(下の2行に当たるものを除く) 退職金など 前年以前4年内
iDeCoなどの一時金(2026年1月1日以後に受け取ったものに限る) 退職金など 前年以前9年内
退職金など iDeCoなどの一時金 前年以前19年内

 

二つ目の行の「2026年1月1日以後に受け取ったものに限る」という部分は大切です。2025年中にすでに受け取った一時金は、9年内の対象にはならず、これまでどおり4年内で判定されます。反対に、2026年以後に一時金を受け取るなら、退職金との間を10年空けないと調整がかかる。これが「10年ルール」です。

受け取る年の組み合わせごとに、調整がかかるかどうかを図にまとめました。横軸は2021年から2036年までの年です。上の段は、2025年にiDeCoの一時金、2030年に退職金を受け取る場合で、2030年から見た「前年以前4年内」の窓(2026年〜2029年)の外に一時金の年があるので、調整はかかりません。真ん中の段は、2026年に一時金、2031年に退職金を受け取る場合で、「前年以前9年内」の窓(2022年〜2030年)の中に一時金の年が入り、調整がかかります。下の段は、2026年に退職金、2031年にiDeCoの一時金を受け取る逆の順番で、「前年以前19年内」の窓(2012年〜2030年)の中に退職金の年が入ります。

図の窓は、後から受け取る年からさかのぼって数えます。窓の中に先の受取りがあり、しかも勤続期間とiDeCoの掛金を納めた期間が重なっていれば、重なった年数分の控除が差し引かれます。窓の長さが4年から9年に延びただけで、5年空ける計画がそのまま窓の中に入ってしまう。図にすると、改正の影響の大きさが見えてくると思います。

iDeCoの一時金900万円と退職金2,500万円で、税金は約101万円変わる

具体的な数字で比べてみます。Aさんは25歳で入社し、65歳で退職する予定です。勤続40年で、退職金は2,500万円。iDeCoには40歳から60歳まで20年間掛金を納め、一時金で900万円を受け取ります。掛金を納めた20年間は、すべて会社に勤めていた期間と重なっています。

退職所得控除は、iDeCoが40万円×20年=800万円、退職金が800万円+70万円×(40年−20年)=2,200万円です。

受け取り方 退職所得の合計 所得税+復興特別所得税 住民税 税金の合計
調整なし(2025年に一時金、2030年に退職金のように5年空けた場合) 200万円 102,100円 200,000円 302,100円
2026年に一時金、5年後の2031年に退職金(9年内で調整あり) 600万円 712,147円 600,000円 1,312,147円
同じ年に両方を受け取る 600万円 788,722円 600,000円 1,388,722円
65歳で退職金、その後に一時金(19年内で調整あり) 560万円 477,317円 560,000円 1,037,317円

※所得税は速算表、復興特別所得税は所得税額の2.1%、住民税は退職所得の10%(市町村民税6%・道府県民税4%)で計算し、「退職所得の受給に関する申告書」を出している前提です。年齢は計算のための仮定です。

調整がない場合、iDeCoの退職所得は(900万円−800万円)÷2=50万円、退職金は(2,500万円−2,200万円)÷2=150万円です。

2026年以後に一時金を受け取って5年後に退職金を受け取ると、退職金の控除から、重なった20年分の控除800万円が差し引かれます。控除は2,200万円−800万円=1,400万円になり、退職所得は(2,500万円−1,400万円)÷2=550万円。所得税は550万円×20%−427,500円=672,500円、復興特別所得税を加えて686,622円、住民税は550,000円です。iDeCoの分と合わせた税金は1,312,147円で、調整がない場合より1,010,047円、約101万円増えます。

表の3行目のとおり、同じ年に両方を受け取ると、勤続年数は長いほうの40年で計算され(所得税法施行令69条1項3号)、重なった期間の控除は一度しか使えません。退職所得の合計は2行目と同じ600万円ですが、1年にまとめて課税されるぶん、税金はさらに多くなります。

一つ補足しておきます。先に受け取った一時金の額が、その一時金の退職所得控除額より少なかった場合は、差し引く控除が小さくなる調整があります(所得税法施行令70条2項)。たとえば掛金20年(控除800万円)で一時金が500万円なら、500万円÷40万円=12.5で、12年分の480万円を差し引く計算になります。控除を使い切っていない分まで二重に差し引かれるわけではありません。

退職金が先なら「19年」、順番を入れ替えても逃げにくい

それなら、退職金を先に受け取り、iDeCoの一時金を後にすればいいのでは、と考える方もいるでしょう。けれど、この順番には以前から「前年以前19年内」の規定があります。

iDeCoの老齢給付金は、請求しないまま75歳に達したときに支給される仕組みになっています(確定拠出年金法34条。iDeCoには同法73条で準用)。60歳で退職金を受け取った人が、75歳まで一時金の受け取りを遅らせても、その差は15年。前年以前19年内の窓からは出られません。表の4行目は、65歳で退職金、その後にiDeCoの一時金を受け取った例です。iDeCoの控除800万円から、重なった20年分の800万円が差し引かれて0円になり、最低保障の80万円(所得税法30条6項2号)だけが残ります。

つまり、改正後は、iDeCoの一時金と退職金のどちらを先にしても、勤めた期間と掛金を納めた期間が重なっている限り、少なくとも10年は離さないと調整がかかり、退職金が先なら20年離す必要がある、と考えておいたほうがよさそうです。正直に言うと、iDeCoを一時金で受け取って控除を二度使う、という作戦の余地は、かなり狭くなったと私は感じています。

もっとも、調整がかかるのは、期間が重なっている部分だけです。会社を辞めて独立してからiDeCoの掛金を納めた期間のように、勤続期間と重ならない期間は、調整の対象になりません。

たとえば、40歳から60歳までiDeCoの掛金を納めた人が、55歳で会社を辞めて退職金を受け取っていたとします。重なっているのは40歳から55歳までの15年なので、60歳で受け取るiDeCoの一時金の控除800万円から差し引かれるのは、40万円×15年=600万円です(55歳で受け取った退職金の額が、その退職所得控除額以上だった場合)。残りの200万円は、独立後の5年間に対応する控除として使えます。重なりの長さしだいで、調整の重さはずいぶん変わるのです。ご自分の勤続期間と掛金を納めた期間を、年表にして並べてみることをおすすめします。

資産管理法人の役員退職金も、同じ「重なり」の計算に入る

大家さんの中には、会社員として働きながら、資産管理法人の役員を務めている方もいらっしゃいます。資産管理法人から受け取る役員退職金も退職手当等ですから、ここまでの計算と無関係ではありません。

まず、役員としての勤続年数が5年以下だと、特定役員退職手当等として2分の1の計算がなくなります。法人を設立して数年で役員を退任し、退職金を受け取る計画は、この5年の線を必ず確かめてください。

次に、重なりの問題です。資産管理法人の役員を務めていた期間が、会社に勤めていた期間と重なっていれば、会社の退職金と法人の役員退職金のうち、後から受け取るほうの年から見て前年以前4年内にもう一方を受け取っていると、重なった期間の控除が差し引かれます。同じ年に受け取れば、勤続年数は最も長い期間をもとに計算されます。さらに、2026年以後にiDeCoの一時金を受け取っていれば、その後9年内に受け取る法人の役員退職金も、期間が重なる限り調整の対象です。この場合、後から受け取る会社の退職金から見ると、2026年以後に受け取った退職手当等は、iDeCoの一時金に限らず前年以前9年内のものが調整の対象になります(所得税法施行令70条1項2号ロ)。会社の退職金、iDeCoの一時金、法人の役員退職金という三つの受取りを、一つの年表の上で設計する必要があるということです。

法人の側では、役員退職金のうち不相当に高額な部分は損金になりません(法人税法34条2項)。長年働いてきた親に資産管理法人から退職金を払うときの考え方は、当ブログの「最後の役員報酬が0円。長年働いた父の退職金も、0円なのでしょうか?」(2025年9月26日)で、iDeCoそのものの注意点は「NISAにはない、iDeCoの欠点とは?」(2025年7月24日)で取り上げています。役員退職金を払う年と、法人の益金が立つ年の組み合わせ方は、倒産防止共済を取り上げる記事でも扱います。

年内に確かめておきたいのは、受け取る予定の年と、重なっている期間

まずは、iDeCoの一時金と退職金を、それぞれ何年に受け取る予定かを書き出してみてください。2026年1月1日以後にiDeCoの一時金を受け取るなら、その後9年内に受け取る退職金は調整の対象になりえます。すでに2025年中に一時金を受け取った方は、これまでどおり4年内で判定されます。

次に、期間の重なりを確かめます。会社の勤続期間、iDeCoの掛金を納めた期間(掛金を出していない期間は数えません)、資産管理法人の役員の期間を、1本の年表に並べてみましょう。重なっていない期間は調整されないので、ここが計画の出発点になります。

退職金やiDeCoの一時金を、繰上返済や次の物件の頭金に充てようと考えている大家さんもいらっしゃるでしょう。その場合は、税金だけでなく、お金が手元に入る時期も計画の一部になります。調整を避けるために受け取りを何年も遅らせると、そのぶん返済や購入の計画もずれていきます。税金の差と、お金を使いたい時期の両方を並べて決めるのが、大家業らしい考え方だと私は思います。

そして、受け取り方の選択肢を比べることです。一時金で受け取るのか、年金として受け取るのか、両方を組み合わせるのかで、税金のかかり方は変わります。退職金の額や勤続年数の見込みを会社の規程で確かめたうえで、どの組み合わせがよいかを試算しておくと安心です。

iDeCoと退職金は、金額より先に「受け取る年」を設計する

退職所得は、退職所得控除を引いた残りの2分の1に課税されます。iDeCoの一時金も同じ計算で、勤続年数は掛金を納めた期間です。2025年12月時点のルールでは、iDeCoの一時金を先に受け取って5年空ければ、退職金の控除の調整はかかりません。2026年1月1日以後に受け取る一時金からは、この期間が前年以前9年内に延び、5年空けても調整がかかります。退職金が先の場合は、もともと前年以前19年内の規定があります。

この記事の例では、調整の有無で税金が約101万円変わりました。iDeCoは長い時間をかけて積み立てるものだからこそ、最後の受け取り方で取りこぼしたくはありません。物件の売却時期を、保有期間や家族の予定と並べて考えるのと同じように、退職金とiDeCoも、受け取る年を年表に置いてから金額を考える。その順番を大切にしていただければと思います。

当事務所では、会社の退職金、iDeCoの一時金、資産管理法人の役員退職金を一つの年表にまとめ、受け取る年と方法ごとの税金を試算するお手伝いをしています。お気軽にご相談ください。

 

出典・参考

  • 所得税法 第30条(退職所得)(e-Gov法令検索)https://laws.e-gov.go.jp/law/340AC0000000033
  • 所得税法施行令 第69条(退職所得控除額に係る勤続年数の計算)・第70条(退職所得控除額の計算の特例)(e-Gov法令検索。2026年1月1日施行の改正は令和7年政令第120号)https://laws.e-gov.go.jp/law/340CO0000000096
  • 令和7年度税制改正の大綱 一 個人所得課税(財務省、令和6年12月27日閣議決定)https://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/fy2025/07taikou_01.htm
  • タックスアンサー1420「退職金を受け取ったとき(退職所得)」(国税庁、2025年12月時点の内容を参照)https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1420.htm
  • タックスアンサー2260「所得税の税率」(国税庁、2025年12月時点の内容を参照)https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2260.htm
  • 退職手当等に係る市・県民税の計算方法(柏市、2022年10月17日更新)https://www.city.kashiwa.lg.jp/shiminzei/zeikin/kojin/taishokushotoku.html
  • 確定拠出年金法 第33条・第34条・第73条(e-Gov法令検索)https://laws.e-gov.go.jp/law/413AC0000000088
  • 法人税法 第34条(役員給与の損金不算入)(e-Gov法令検索)https://laws.e-gov.go.jp/law/340AC0000000034