東雲結子:石井先生、お年玉の準備をしていて思いついたんです。うちの父、アパートを持っているでしょう? あれを私にお年玉でくれたら、家賃も毎月、私のお小遣いになりますよね!
税理士石井:ふふ、ずいぶん大きなポチ袋が要りそうですね。
東雲結子:アパートが入る袋……。でも、贈与税ってすごく高いんですよね?
税理士石井:うーん、暦年課税だと重くなりがちです。そこでよく検討されるのが、相続時精算課税です。2024年から毎年110万円の基礎控除ができて、そのうえ累計2,500万円までは特別控除で贈与税がかかりません。たとえば評価額700万円の建物なら、贈与税は0円です。
東雲結子:0円! じゃあ土地も建物もまとめて、今年のうちにもらっちゃいます!
税理士石井:おっと(汗)、そこは慎重に。建物だけを贈与して土地は親のまま、という形もよく考えられますが、建物と一緒に、入居者から預かっている敷金を返す義務もついてきます。敷金の分の現金を一緒に渡さないと「負担付贈与」になって、建物が通常の取引価額で評価されるおそれがあるんです。
東雲結子:お年玉袋の中に、入居者さんへの借用書まで入っていたなんて……。
税理士石井:ははは、うまいたとえです。しかも精算課税は一度選ぶと撤回できず、親が亡くなったときには、贈与した財産の価額(毎年の基礎控除の分を除く)を相続財産に足し戻して、相続税を計算します。税金が消えるのではなく、後で精算する仕組みなんです。
東雲結子:ただのお年玉じゃなくて、「精算書つきのお年玉」だったんですね。
税理士石井:そういうことです。建物だけを贈与する方法、敷金の扱い、届出の期限、暦年課税との違いを、一つの数値例で確かめていきましょう。
「アパートを子どもに渡しておけば、これからの家賃は子どものものになる。相続税も軽くなるのでは?」
親が大家さんのご家族から、よく聞く考えです。実際、賃貸アパートの建物だけを子に贈与し、土地は親が持ったままにする方法は、相続時精算課税とあわせて検討されることが少なくありません。建物の評価は貸家として下がり、贈与の後の家賃は子の収入になるからです。
ただ、この方法には、敷金の扱い、届出の期限、土地や小規模宅地等の特例への影響、登録免許税や不動産取得税といったコストなど、確かめておくべき点がいくつもあります。この記事では、相続時精算課税の仕組みを確認したうえで、アパートの建物だけを贈与する場合の流れを、ひとつの数値例で追いかけていきます。
※この記事は2025年12月時点の法令と国税庁などの公表資料にもとづいています。贈与の時期や方法は、ご家族の財産全体や相続の見通しによって向き不向きが分かれますので、実行の前に税理士などの専門家にご確認ください。
相続時精算課税は「贈与税を、相続のときに精算する」仕組み
相続時精算課税は、親などからの贈与について、贈与のときは軽い贈与税で済ませ、親が亡くなったときに相続税で精算する制度です。2025年12月時点の主な内容を、暦年課税と並べてみます。
| 比べるところ | 相続時精算課税 | 暦年課税 |
| 使える人 | 贈与の年の1月1日に60歳以上の父母・祖父母などから、18歳以上の子・孫(推定相続人である直系卑属または孫)への贈与 | 精算課税を選んでいない個人からの贈与 |
| 毎年の基礎控除 | 110万円(2024年1月1日以後の贈与) | 110万円 |
| そのほかの控除 | 特別控除2,500万円(累計) | なし |
| 税率 | 控除を超える部分に一律20% | 10%〜55%(父母・祖父母から18歳以上への贈与は特例税率) |
| 相続のときの加算 | 贈与時の価額から基礎控除を引いた額を、期間の制限なく加算 | 相続開始前7年以内の贈与を加算(2024年1月1日以後の贈与。経過措置あり) |
| 選ぶ手続 | 贈与の翌年2月1日〜3月15日に、選択届出書を提出。撤回できない | 手続は不要 |
相続時精算課税の中身は、相続税法21条の9以下と、租税特別措置法70条の3の2に定められています。受け取る人は、選択届出書を、贈与税の申告と同じ期間(贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日まで)に税務署へ出します(相続税法21条の9第2項・28条1項)。そして、「相続時精算課税適用者は、第二項の届出書を撤回することができない」(同条6項)。一度選ぶと、その親からの贈与は、以後ずっと精算課税で計算することになります。
精算課税の基礎控除は、法律の本則では60万円ですが(相続税法21条の11の2)、租税特別措置法70条の3の2で110万円とされています。基礎控除以下の金額は、親が亡くなったときにも相続財産に加算されません。2024年以後の精算課税は、「少額なら申告も加算もいらない」使いやすい制度に変わったわけです。なお、同じ年に、精算課税を選んだ二人以上の親から贈与を受けた場合、110万円はそれぞれの贈与額に応じて分けて使います。
用語メモ:相続時精算課税…60歳以上の父母・祖父母などから18歳以上の子・孫への贈与で選べる制度です。累計2,500万円の特別控除と毎年110万円の基礎控除があり、贈与者が亡くなったときに、贈与財産(基礎控除の分を除く)を相続財産に加えて相続税を計算します。
アパートの「建物だけ」を贈与すると、家賃が子どもの収入になる
賃貸アパートは、土地と建物で成り立っています。このうち建物だけを子に贈与し、土地は親が持ち続ける。この形がよく検討されるのには、二つの理由があります。
一つは、建物の評価が比較的小さく収まりやすいことです。相続税・贈与税では、家屋は固定資産税評価額に1.0を掛けた金額で評価し(タックスアンサーNo.4602)、人に貸している家屋(貸家)は、そこからさらに借家権の分を差し引きます。築年数のたった建物なら、固定資産税評価額自体も小さくなっていることが多いでしょう。
もう一つは、贈与の後の家賃が子の収入になることです。入居者がいる建物の所有者が変わると、賃貸人の地位は新しい所有者に移ります(民法605条の2第1項)。贈与の後の家賃は子が受け取り、子の不動産所得として申告します。
この「家賃の行き先が変わる」効果は、長い目で見るとかなり大きくなります。たとえば、家賃から経費を引いた手取り(不動産所得)が年200万円のアパートなら、単純計算で10年分の2,000万円が、親ではなく子のもとに入ることになります(所得税などは考えない場合)。親の手元に家賃がたまり続けて、相続財産がふくらんでいく。その流れを、早い段階で子のほうへ向け直すわけです。
ただし、子が引き継いだ建物の減価償却は、贈与で評価した金額から計算し直すのではありません。贈与で取得した減価償却資産の取得価額は、取得した人が引き続き持っていたものとみなした場合の取得価額とされています(所得税法施行令126条2項)。相続で取得した場合の考え方は、当ブログの「相続したアパートの減価償却は 相続税評価額から計算するのか」(2025年9月3日)もご覧ください。
建物の評価は「貸家」として、借家権の分を差し引く
人に貸している建物(貸家)の評価は、財産評価基本通達93で次のように計算します。
貸家の評価額=家屋の固定資産税評価額×(1−借家権割合×賃貸割合)
借家権割合は、国税局長が定める割合です(財産評価基本通達94)。国税庁の財産評価基準書(令和7年分)では、たとえば東京都の借家権割合は100分の30(30%)とされており、この記事の例も30%で計算します。お住まいの地域の割合は、財産評価基準書で確認してください。
賃貸割合は、各部屋の床面積のうち、贈与のとき(課税時期)に実際に貸している部屋の床面積の割合です。満室なら100%で、借家権割合30%なら、評価は固定資産税評価額の7割になります。空室があると賃貸割合が下がり、そのぶん評価は上がります。たとえば、同じ床面積の6室のうち1室が空いていれば、1,000万円×(1−30%×5/6)=750万円です。
なお、国税庁は、貸家建付地の評価について、継続的に貸している部屋の一時的な空室(例えば課税時期の前後1か月程度)は、賃貸されているものとして扱ってよいとしています(タックスアンサーNo.4614)。空室の期間や募集の状況は、記録を残しておきましょう。
敷金を返す義務も子へ移る。現金も一緒に渡せば負担付贈与にならない
アパートの建物を贈与するときに、いちばん見落としやすいのが敷金です。
民法605条の2第4項は、賃貸人の地位が新しい所有者に移ったときは、敷金を返す債務も新しい所有者が引き継ぐ、と定めています。つまり、建物を贈与すると、子は将来、入居者が退去するときに敷金を返す義務を負うことになります。
国税庁の質疑応答事例「賃貸アパートの贈与に係る負担付贈与通達の適用関係」は、この点を取り上げています。父が長男に賃貸アパート(建物)を贈与し、同時に、入居者から預かった敷金に相当する現金200万円も贈与したケースについて、国税庁は、法形式上は負担付贈与に当たるが、敷金に相当する現金の贈与を同時に行っている場合には、実質的な負担はないと認定でき、「負担付贈与通達の適用はありません」と回答しています。
裏を返せば、敷金を返す義務だけを子に引き継がせ、敷金に相当するお金を渡さないと、負担付贈与になるおそれがあります。負担付贈与で取得した家屋は、「当該取得時における通常の取引価額に相当する金額によって評価する」とされています(平成元年3月29日付の負担付贈与通達)。固定資産税評価額をもとにした貸家としての評価ではなく、通常の取引価額での評価になるわけですから、評価が大きく変わる可能性があります。
用語メモ:負担付贈与…もらう人に、借金を引き受けるなどの一定の負担をさせる贈与です。土地や建物を負担付贈与で取得すると、相続税評価額ではなく、通常の取引価額で評価されます。
大家業の目線でいえば、敷金は「預かっているお金」で、大家さんの財産ではありません。建物を渡すなら、預かっているお金も一緒に渡す。そう考えると、この取扱いはとても自然なものだと私は感じます。贈与契約書には、建物と敷金相当額の現金をあわせて贈与することを、はっきり書いておきましょう。
数値例:評価額700万円の建物と敷金60万円を、相続時精算課税で贈与すると
ここで、具体的な数字で確かめてみます。前提は次のとおりです。
父(2025年1月1日に72歳)が、長男(同45歳)に、2025年中に賃貸アパートの建物だけを贈与します。築20年の木造で全6室が入居中、建物の固定資産税評価額は1,000万円、入居者から預かっている敷金は合計60万円です。敷金に相当する現金60万円も同時に贈与し、長男は相続時精算課税を選びます。借家権割合は30%として計算します。
| 項目 | 計算 | 金額 |
| 建物(貸家)の評価額 | 1,000万円×(1−30%×100%) | 700万円 |
| 敷金に相当する現金 | 同時に贈与 | 60万円 |
| 引き継ぐ敷金の返還債務 | 負担額として差し引く | −60万円 |
| 贈与税の課税価格 | 700万円+60万円−60万円 | 700万円 |
| 基礎控除後 | 700万円−110万円 | 590万円 |
| 贈与税 | 590万円は特別控除2,500万円の範囲内 | 0円 |
| 特別控除の残り | 2,500万円−590万円 | 1,910万円 |
| 父の相続のときに加算する額 | 贈与時の価額700万円−基礎控除110万円 | 590万円 |
| (参考)暦年課税なら | 590万円×20%−30万円(特例税率) | 88万円 |
この例では、子が引き継ぐ敷金の返還債務60万円を負担額として差し引き(相続税法基本通達21の2-4)、同時に贈与する現金60万円と見合いになるものとして計算しています。国税庁の質疑応答事例は課税価格の計算までは示していないため、実際の申告は税理士にご確認ください。
精算課税なら、2025年分の贈与税は0円です。ただし、父が亡くなったときには、590万円を相続財産に加えて相続税を計算します。基礎控除の110万円の分は加算されません。
同じ贈与を暦年課税でした場合、基礎控除後の590万円に特例税率(600万円以下の区分で20%、控除額30万円)を当てはめて、贈与税は88万円になります。一度に大きな財産を渡すときに、精算課税が選ばれやすい理由が、この差に表れています。
もう一つ、精算課税で相続財産に加算されるのは「贈与時の価額」だという点も押さえておきましょう。贈与の後、建物の価値が下がっても、加算するのは贈与のときの評価額です。その一方で、贈与の後の家賃は子の収入になっていきます。建物の価値の目減りと、家賃の行き先。この二つを一緒に見ることが、精算課税で収益物件を渡すかどうかを考えるときのポイントだと、私は考えています。
相続時精算課税の届出は、2025年中の贈与なら2026年3月16日まで
ここまでの判断の流れを、一枚のフローチャートにまとめました。上から、①贈与の年の1月1日に、親が60歳以上、もらう人が18歳以上の子・孫(推定相続人または孫)か(いいえなら暦年課税だけ)、②この親からの今後の贈与をすべて精算課税にしてよいか(一度選ぶと撤回できない。いいえなら暦年課税で贈与)、③入居者から預かっている敷金があるか(あれば敷金相当の現金も同時に贈与)、とたどり、最後に「相続時精算課税で贈与」の枠にたどり着きます。枠の中には、基礎控除と特別控除、届出の期限、相続のときの加算、そしてこの記事の数値例を入れています。

期限については、少し補足します。選択届出書の提出期間は、贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までです。2025年中の贈与なら、本来の期限は2026年3月15日ですが、この日は日曜日にあたるため、国税に関する書類の提出期限が日曜日などにあたるときはその翌日とする国税通則法10条2項により、2026年3月16日(月)が期限になります。
贈与額が基礎控除の110万円を超えれば、贈与税の申告書もあわせて提出します。110万円以下の贈与で精算課税を選ぶ場合も、届出書の提出は必要です。贈与の時期は「年内か年明けか」で、届出や申告の年がまるごと1年ずれます。贈与契約をいつ結び、いつ登記をするかは、年末に慌てて決めないようにしたいところです。
精算課税で贈与した後の土地と、小規模宅地等の特例に注意
建物だけを贈与すると、土地は親のまま、子がその土地を無償で使う形(使用貸借)になるのが一般的です。ここにも、確かめておきたい点があります。
まず、使用貸借による土地の借受けそのものは、国税庁の使用貸借通達で、使用権の価額を零として扱うとされています。子が土地を無償で使うことについて、借地権の贈与として課税されるわけではありません。
一方で、親が亡くなったときの土地の扱いは、贈与の前とは変わってくる可能性があります。使用貸借通達は、使用貸借に係る土地を相続などで取得した場合は、その土地が自用のものであるとした場合の価額で評価するとしています。親が自分で貸していたときの「貸家建付地」としての評価減が、そのまま使えるとは限りません。贈与の前から住んでいる入居者がいる場合の扱いなど、細かな論点もありますので、実行の前に確認が必要です。
さらに、小規模宅地等の特例です。国税庁のタックスアンサーNo.4124は、「相続時精算課税に係る贈与によって取得した宅地等」は特例の対象外としています。土地まで精算課税で贈与すると、その土地には特例が使えません。
建物だけを贈与した場合も、安心はできません。貸付事業用宅地等は、相続開始の直前に「被相続人等」の貸付事業に使われていた宅地等で、被相続人等とは、被相続人または被相続人と生計を一にしていた親族です。生計を別にしている子が、親の土地を無償で使って自分のアパート経営をしている場合、その土地は「被相続人等の貸付事業」に使われていたことにならず、貸付事業用宅地等には当たりません。子と生計を一にしているかどうかで、結論が変わりうるところです。貸付事業用宅地等の要件は、当ブログの「アパートの敷地は200㎡まで評価50%減。小規模宅地等の特例(貸付事業用宅地等)は「相続前3年以内の新規貸付け」と「申告期限まで貸し続けること」に要注意」(2025年12月16日)で詳しく整理しています。
登録免許税2%と不動産取得税3%。相続なら不要なコストも計算に入れる
贈与には、相続にはないコストもあります。
建物の名義を子に変える登記には、登録免許税がかかります。贈与による所有権の移転登記の税率は1,000分の20(2%)で、課税標準は固定資産課税台帳の価格(タックスアンサーNo.7191)。数値例の建物なら、1,000万円×2%=20万円です。相続による登記なら1,000分の4(0.4%)ですから、贈与のほうが重くなります。
不動産取得税もかかります。東京都主税局の案内では、住宅の税率は3%(2027年3月31日までの取得)、課税標準は固定資産課税台帳に登録されている価格で、贈与で取得したときは課税されますが、相続による取得は非課税です。数値例の建物なら、1,000万円×3%=30万円です。
合わせて50万円ほどのコストが、贈与のときに出ていきます。精算課税で贈与税が0円でも、手元のお金はかかる。資産管理法人に建物を売る場合のコストとの比較は、当ブログの「資産管理法人に物件を移す3つの方法を比較。建物だけ売るなら「時価」「登録免許税2%・不動産取得税3%(住宅)」「土地の無償返還届出」の3点を押さえましょう」(2025年12月19日)で取り上げています。
暦年課税との違いを、大家さんの目線で考える
ここからは、当ブログの見方を交えて、精算課税と暦年課税の違いを考えてみます。
暦年課税は、毎年110万円の基礎控除の範囲で、少しずつ長く贈与を続ける形に向いています。ただし、2024年1月1日以後の贈与は、相続開始前7年以内のものが相続財産に加算されます(タックスアンサーNo.4161。経過措置があり、加算の期間は段階的に延びていきます)。親が高齢になってから始めると、贈与した分の多くが加算の対象になってしまうかもしれません。
精算課税は、基礎控除110万円を超えた部分は、期間の制限なく相続財産に加算されます。相続税そのものを小さくする効果は、基礎控除の部分を除けば、限られています。それでも、収益物件を渡す場面では、贈与時の価額で加算額が決まることと、贈与の後の家賃が子の収入になることに意味があると、私は考えています。
もう一つ、精算課税を選ぶと、その親からの贈与は、以後ずっと精算課税になります。将来、同じ親から現金を少しずつもらうときも、暦年課税の110万円は使えません(精算課税の110万円は使えます)。親が二人いれば、父からは精算課税、母からは暦年課税、というように、親ごとに選ぶことはできます。
物件を渡すタイミング、ほかの財産とのバランス、子の所得税の負担。精算課税が向いているかどうかは、こうした要素を並べてみてはじめて見えてきます。家族への暦年贈与で気をつけたい点については、当ブログの「小学生の孫に贈与して大丈夫? 通帳より先に決めたい「受け取り役」」(2025年9月19日)や「配偶者の通帳に650万円。 家賃の「引っ越し」で持ち主まで変わりますか?」(2025年9月20日)もあわせてご覧ください。
年内に、家族で確かめておきたいこと
まずは、親と子の年齢を確かめてください。贈与の年の1月1日時点で、親が60歳以上、子が18歳以上であることが、精算課税を選ぶ条件です。
次に、贈与する建物の固定資産税評価額と、入居状況(賃貸割合)、入居者から預かっている敷金の合計額を、課税明細書と賃貸借契約書で確認します。敷金に相当する現金も一緒に贈与するよう、贈与契約書を整えましょう。
そのうえで、土地をどうするか、親と子が生計を一にしているか、小規模宅地等の特例への影響を、相続全体の見通しの中で確かめます。登録免許税と不動産取得税の資金も、あらかじめ用意しておきたいところです。そして、贈与が2025年中なら、選択届出書(と、110万円を超えるなら贈与税の申告書)の期限は2026年3月16日です。
親が元気なうちに財産の管理を家族に任せる仕組みは、家族信託と成年後見を取り上げる記事で詳しく扱います。また、すでに相続が起きている土地・建物の名義の手続は、相続登記の義務化を取り上げる記事で整理します。
相続時精算課税は、税金を消すのではなく「時間」を味方にする制度
相続時精算課税を使えば、年110万円の基礎控除と累計2,500万円の特別控除の範囲で、贈与税をかけずに賃貸アパートの建物を子に渡すことができます。数値例では、評価額700万円の建物と敷金相当の現金60万円を贈与して、贈与税は0円、相続のときに加算する額は590万円でした。
ただし、選択は撤回できず、親が亡くなったときには、基礎控除の分を除いて相続財産に加算されます。敷金は返す義務も子へ移るので、敷金に相当する現金も同時に贈与しておくこと。土地の評価や小規模宅地等の特例への影響、登録免許税2%と不動産取得税3%のコストも、あわせて確かめておく必要があります。
精算課税は、相続税をなくす魔法ではありません。けれど、建物を早めに渡すことで、そこから生まれる家賃を次の世代が受け取り、経営を学ぶ時間をつくることはできます。大家業を子に引き継ぐ準備として、税金の損得だけでなく、その「時間」の価値も一緒に考えていただけたらと思います。
当事務所では、賃貸物件の贈与の試算から、相続時精算課税選択届出書と贈与税の申告、贈与後のお子さまの不動産所得の申告までお手伝いしています。お気軽にご相談ください。
出典・参考
- 相続税法 第21条の9・第21条の11の2・第28条(e-Gov法令検索)https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC0000000073
- 租税特別措置法 第70条の3の2(e-Gov法令検索)https://laws.e-gov.go.jp/law/332AC0000000026
- 国税庁 タックスアンサー「参考 相続時精算課税制度のあらまし」(2025年12月時点の内容を参照)https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4103_sankou.htm
- 国税庁 タックスアンサー4408「贈与税の計算と税率(暦年課税)」(2025年12月時点の内容を参照)https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4408.htm
- 国税庁 タックスアンサー4161「贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)」(2025年12月時点の内容を参照)https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4161.htm
- 国税庁 タックスアンサー4124「相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)」(2025年12月時点の内容を参照)https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4124.htm
- 国税庁 質疑応答事例「賃貸アパートの贈与に係る負担付贈与通達の適用関係」https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/sozoku/14/08.htm
- 国税庁「負担付贈与又は対価を伴う取引により取得した土地等及び家屋等に係る評価並びに相続税法第7条及び第9条の規定の適用について」(平成元年3月29日)https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/sozoku/890329/01.htm
- 国税庁「使用貸借に係る土地についての相続税及び贈与税の取扱いについて」(昭和48年11月1日)https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/sozoku/731101/01.htm
- 国税庁 財産評価基本通達 第3章 家屋及び家屋の上に存する権利(93・94)https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/sisan/hyoka_new/03/01.htm
- 国税庁 タックスアンサー4602「土地家屋の評価」、No.4614「貸家建付地の評価」(2025年12月時点の内容を参照)https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hyoka/4614.htm
- 国税庁「令和7年分 財産評価基準書 東京都 借家権割合」https://www.rosenka.nta.go.jp/main_r07/tokyo/tokyo/others/d220100.htm
- 国税庁 相続税法基本通達21の2-4(負担付贈与に係る贈与財産の価額)https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/sisan/sozoku2/02/10.htm
- 国税庁 タックスアンサー7191「登録免許税の税額表」(2025年12月時点の内容を参照)https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/inshi/7191.htm
- 東京都主税局「不動産取得税」(令和6年度版ガイド)https://www.tax.metro.tokyo.lg.jp/documents/d/tax/fudosan2024_02
- 民法 第605条の2(e-Gov法令検索)https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
- 所得税法施行令 第126条(e-Gov法令検索)https://laws.e-gov.go.jp/law/340CO0000000096
- 国税通則法 第10条(e-Gov法令検索)https://laws.e-gov.go.jp/law/337AC0000000066































