東雲結子:石井先生、年末の帰省の準備をしているんですが、最近、父が電話で同じ話を3回もするんです。アパートを2棟持っているので、ちょっと心配で……。でも大丈夫です。実印と通帳を預かっておけば、私が代わりに何でもできますから!
税理士石井:うーん、実印は「本人の意思」を証明する道具であって、本人の代わりに意思をつくる道具ではないんです。
東雲結子:えっ、ハンコには意思がないんですか?
税理士石井:ふふ、ハンコは黙って押されるだけですから。民法では、意思能力のない人がした契約は無効です。お父さんがご自分で判断できなくなると、代わりに押しても、修繕の契約も、売却も、借入れも進められなくなります。
東雲結子:じゃあ屋根が雨漏りしても、父のアパートは「判断待ち」のまま、雨だけが先に入居してくるんですか……。
税理士石井:そうならないために、家庭裁判所が後見人を選ぶ法定後見があります。ただ、2024年に後見人などに選ばれたのは、親族が17.1%で、親族以外が82.9%。しかも後見人の仕事は本人の財産を守ることなので、相続税対策のための贈与などは原則としてできません。
東雲結子:8割以上……。家族会議に、初めましての専門家の席を用意することになるかもしれないんですね。
税理士石井:ええ。だから選択肢になるのが、元気なうちに結んでおく任意後見と家族信託です。家族信託なら、受託者になった子どもが修繕や売却を進められます。ただし、信託したアパートで出た赤字は「なかったもの」とされ、ほかのアパートの黒字とも相殺できない、という税金の落とし穴もあります。
東雲結子:便利な道具ほど、取扱説明書が分厚いんですね。
税理士石井:そういうことです。三つの制度で賃貸経営がどう変わるかと、信託の税金のルールを、順番に見ていきましょう。
年末年始は、離れて暮らす親と久しぶりに顔を合わせる季節です。「最近、物忘れが増えたかな」と感じても、なかなか口に出しにくいものですよね。けれど、親が大家さんである場合、親の判断能力の低下は、家族の心配ごとであると同時に、賃貸経営そのものの問題になります。
アパートは、入居者の募集、修繕、更新、ときには売却や建替えと、契約の連続で成り立っています。親が認知症などで判断能力を失うと、その契約を親自身が結べなくなります。それに備える制度は、法定後見、任意後見、家族信託の三つ。このうち任意後見と家族信託は、親が元気なうちにしか準備できません。どれを選ぶかで、アパートの修繕や売却をだれがどこまで進められるかが大きく変わり、家族信託には独特の税金のルールもあります。
この記事では、親が大家さんであるご家族に向けて、三つの制度の違いを賃貸経営の場面から比べ、家族信託の税務(損益通算の制限、信託の計算書と明細書)までを整理します。
※この記事は2025年12月時点の法令と、法務省・裁判所・国税庁の公表資料にもとづいています。家族信託や後見の具体的な設計は、司法書士・弁護士・税理士などの専門家にご相談ください。
親の判断能力がなくなると、アパートの契約は止まる
出発点になるのは、民法3条の2です。「法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする」。契約の内容を理解して判断する力(意思能力)がない状態で結んだ契約は、無効になります。
賃貸経営に置きかえると、影響はかなり広い範囲に及びます。外壁や屋根の修繕を工務店に頼む契約、空室に新しい入居者を迎える賃貸借契約、管理会社との契約の見直し、物件の売却、建替え、そのための借入れ。どれも、物件の持ち主である親が当事者です。親が判断できない状態になれば、これらを親の名前で進めることはできません。
冒頭の東雲さんのように、「実印と通帳を預かっておけば何とかなる」と考える方は少なくありません。けれど、実印は本人の意思で押されたことを示すためのものです。本人の意思がないところで家族が押しても、本人の意思にもとづく契約にはなりません。むしろ、後になって契約の有効性が争われる火種を残すことになります。
家賃は入ってきても、修繕や入れ替えの判断ができない。建物は毎年古くなっていくのに、手を入れられない。大家業の目線でいえば、これは「経営の時間が止まる」状態です。だからこそ、判断能力があるうちに、だれがどうやって経営を引き継ぐかを決めておくことが大切になります。
法定後見では、家庭裁判所が選んだ後見人が「守るために」管理する
親がすでに判断能力を失っている場合に使えるのが、法定後見です。判断能力の程度に応じて後見・保佐・補助の3つがありますが、ここでは、判断能力を欠く人のための「後見」を中心に見ていきます。
家庭裁判所が後見開始の審判をすると、後見人が選ばれます。後見人は、本人の財産を管理し、その財産に関する法律行為について本人を代表します(民法859条)。本人がした契約は、日用品の購入など日常生活に関する行為を除いて、取り消すことができます(民法9条)。家庭裁判所は、いつでも後見人に事務の報告や財産目録の提出を求めることができ(民法863条)、後見人は家庭裁判所の監督のもとで仕事をします。
賃貸経営の目線で特に知っておきたいのは、次の三つです。
ひとつめは、だれが後見人になるかです。東京家庭裁判所の案内は、「後見人等として誰を選任するかは,家庭裁判所の裁量に委ねられています」とし、候補者ではなく第三者の専門職を後見人に選ぶことがあると説明しています。最高裁判所の「成年後見関係事件の概況(令和6年1月〜12月)」の数字を見てみましょう。
| 項目(2024年) | 数字 |
| 申立件数(1月〜12月) | 41,841件 |
| 成年後見制度の利用者数(12月31日時点) | 253,941人 |
| 後見人などに親族が選ばれた件数 | 7,077件(17.1%) |
| 後見人などに親族以外が選ばれた件数 | 34,245件(82.9%) |
| 申立ての動機で最も多いもの | 預貯金等の管理・解約(92.7%) |
親族が選ばれたのは2割に届きません。後見人は、申立てにより、家庭裁判所の審判で本人の財産から報酬を受け取ることができます(前橋家庭裁判所「成年後見人Q&A」)。また、後見開始の申立ては、家庭裁判所の許可がなければ取り下げることができず、申立てのきっかけになった用事が済んでも、後見人の職責は続きます(東京家庭裁判所の案内)。
ふたつめは、後見人の仕事が「本人の財産を守ること」だという点です。前橋家庭裁判所の「成年後見人Q&A」は、元本保証のない投機的な運用(株式購入、投資信託、外貨預金など)は「絶対に避けてください」とし、本人の財産からの贈与は、原則として本人自身のための支出に限られ、「相続税対策を目的とする贈与等についても同様です」と説明しています。家族の将来を見すえた相続対策や、攻めの物件の買い替えは、後見のもとでは難しいと考えておくべきでしょう。
みっつめは、本人の自宅の扱いです。後見人が、本人が住む建物やその敷地(居住用不動産)について、売却、賃貸、賃貸借の解除、抵当権の設定などの処分をするには、家庭裁判所の許可が必要です(民法859条の3)。裁判所の案内によれば、処分には「売却、抵当権の設定、賃貸借契約の締結・解除、建物取り壊し等」があり、許可を得ないでした処分は無効になります。いまは入院や施設に入っていても、戻る可能性がある場合なども対象です。賃貸併用住宅のように、親が自分のアパートの一室に住んでいる場合は、その自宅部分が関係してきます。
私は、法定後見を「最後のセーフティーネット」だと受け止めています。判断能力を失った人の財産を、家庭裁判所の監督のもとで守る。その役割はとても大切です。ただ、賃貸経営を「続けて、育てる」ための仕組みではない。この違いは、家族全員で共有しておきたいところです。
用語メモ:法定後見…判断能力が不十分になった人のために、家庭裁判所が後見人・保佐人・補助人を選ぶ制度です。判断能力が衰える前に本人が自分で頼む人を決めておく「任意後見」と合わせて、成年後見制度と呼ばれます。
任意後見は、元気なうちに「だれに・何を」頼むかを決めておく
任意後見は、本人に十分な判断能力があるうちに、将来、判断能力が落ちたときに頼む人(任意後見人)と、その人に任せる仕事の内容を、契約で決めておく制度です(法務省「成年後見制度・成年後見登記制度Q&A」)。
契約は、法務省令で定める様式の公正証書でしなければなりません(任意後見契約に関する法律3条)。そして、契約を結んだだけでは、まだ効力は生じません。本人の判断能力が低下したときに、家庭裁判所が任意後見監督人を選任した時から効力が生じます。法務省のQ&Aは、任意後見人となる人は、本人の判断能力が低下した場合には、速やかに任意後見監督人の選任の申立てをすることが求められる、としています。
法定後見との大きな違いは、だれに頼むかを本人が自分で選べることです。一方で、任意後見監督人が選ばれて、任意後見人の仕事を見守る形になります。任意後見契約で任せられるのは、本人の「生活、療養看護及び財産の管理に関する事務」の全部または一部です(同法2条1号)。財産の管理だけでなく、介護サービスや施設入所の契約のような、本人の暮らしに関わる手続も頼める点が、任意後見の特徴です。
家族信託なら、アパートの修繕や売却を受託者の子どもが進められる
家族信託は、信託法の「信託」の仕組みを、家族の財産管理に使うものです。信託は、信託契約、遺言、自己信託のいずれかの方法でします(信託法3条)。親が元気なうちに結ぶのは、ふつうは信託契約です。
アパートで考えると、次のような形になります。
| 役割 | 例 | すること |
| 委託者 | 父 | 自分のアパートを信託する |
| 受託者 | 長女 | アパートの名義人になり、信託の目的に沿って管理・処分する |
| 受益者 | 父 | アパートから生じる家賃などの利益を受け取る |
受託者は、「信託財産に属する財産の管理又は処分及びその他の信託の目的の達成のために必要な行為をする権限」を持ちます。ただし、信託行為(信託契約など)でその権限に制限を加えることもできます(信託法26条)。つまり、修繕や入居者との契約、売却、建替えなどを受託者がどこまでできるかは、信託契約の書き方で決まります。
不動産を信託するときは、親から受託者への所有権の移転の登記と同時に、信託の登記をします(不動産登記法98条1項)。信託の登記は、受託者が単独で申請することができます(同条2項)。登記簿を見れば、そのアパートが信託財産であることがわかる仕組みです。
家族信託の強みは、親が判断能力を失った後も、受託者が契約で決めた範囲で、修繕や入居者の入れ替え、売却などを進められることです。家庭裁判所が後見人を選ぶ法定後見と違って、だれに任せるかを親が自分で決められます。
ただし、注意点もあります。家族信託は、あくまで財産の管理・処分の仕組みです。介護サービスや施設入所の契約のような、親の暮らしに関わる手続は対象になりません。そこは任意後見と組み合わせることも考えられます。また、受託者が物件の修繕資金などを借り入れる場面を想定しているなら、金融機関によって対応がまちまちだと私は感じています。借入れの予定があるなら、信託契約をつくる前に、取引のある金融機関に相談しておくのが安心です。
用語メモ:受託者…信託された財産の名義人となり、信託の目的に沿って管理や処分をする人です。家族信託では、子どもなど親族が務めることが多く、財産から生じる家賃などの利益を受けるのは受益者です。
家族信託・任意後見・法定後見を、賃貸経営の場面で比べる
ここまでの三つの制度を、アパート経営の場面にあてはめて並べてみます。
| 比べるところ | 法定後見 | 任意後見 | 家族信託 |
| 始めるとき | 判断能力が不十分になった後に、家庭裁判所に申し立てる | 元気なうちに公正証書で契約し、判断能力が落ちたら任意後見監督人の選任を申し立てる | 元気なうちに信託契約を結び、信託の登記をする |
| だれが担うか | 家庭裁判所が選ぶ後見人(2024年は親族以外が82.9%) | 本人が契約で選んだ任意後見人 | 本人が契約で選んだ受託者 |
| 家庭裁判所との関わり | 後見人の事務を監督する | 任意後見監督人を選任し、監督人が見守る | 原則として関わらず、信託契約と信託法にしたがって受託者が管理する |
| 修繕・入居者との契約 | 後見人が本人を代表して行う | 契約で決めた代理権の範囲で行う | 受託者が信託契約の範囲で行う |
| 売却・建替え | 本人のための管理が前提。本人の自宅の処分は家庭裁判所の許可が必要 | 契約で決めた代理権の範囲で、監督のもとで行う | 信託契約で認めた範囲で受託者が行う |
| 介護・施設の契約 | 後見人が本人を代表して行う | 契約で任せておけば行える | 対象外 |
どれが「いちばん良い」というものではありません。親の判断能力の状態、家族の関係、アパートの今後の計画(持ち続けるのか、建て替えるのか、売るのか)によって、合う形は変わります。
その判断の順番を、一枚のフローチャートにまとめました。上から、①親は今、契約の内容を自分で判断できるか(できなければ法定後見)、②アパートの修繕・売却・建替えを家族が親に代わって進められるようにしたいか(そうなら家族信託)、③判断能力が落ちたときの財産管理や介護・施設の契約を任せる人を決めておきたいか(そうなら任意後見)、という三つの質問をたどります。いちばん下は「当面は親が自分で管理」で、判断能力が失われると家族信託も任意後見も契約できず、法定後見を使うことになる、と添えています。

図の注記にもあるとおり、家族信託は介護や施設の契約を対象にしないため、家族信託と任意後見を組み合わせる形も考えられます。そしてもう一つ、図の下に書いた税金のルールが、家族信託を選ぶ前にぜひ知っておいてほしいところです。ここからは税理士としての本題に入ります。
家族信託をしても、家賃は親(受益者)の不動産所得のまま
信託をすると、アパートの登記上の名義は受託者の子どもに変わります。では、家賃の税金はだれが払うのでしょうか。
所得税法13条1項は、信託の受益者は、信託財産に属する資産と負債を持っているものとみなし、信託財産に帰せられる収益と費用は受益者の収益と費用とみなす、と定めています。父が受益者なら、アパートの家賃収入も、修繕費や減価償却費などの経費も、これまでどおり父のものとして、父の不動産所得を計算します。名義を持つ子どもの所得になるわけではありません。
贈与税も気になるところです。相続税法9条の2第1項は、信託の効力が生じたときに、適正な対価を負担せずに受益者等となる者があるときは、その者が委託者から贈与(委託者の死亡が原因なら遺贈)により信託に関する権利を取得したものとみなす、と定めています。父が委託者であり受益者でもある形なら、父以外に新しく受益者となる人はいないので、信託をしただけでこの規定による贈与税の問題は生じません。反対に、受益者を最初から子どもにするなど、委託者と受益者が異なる設計にすると、贈与税の課税関係が生じます。
信託の赤字は「なかったもの」になる。家族信託でいちばん見落としやすい税金のルール
ここが、家族信託の税務でいちばんの落とし穴です。
租税特別措置法41条の4の2第1項は、信託の受益者(特定受益者)である個人が、信託から生ずる不動産所得を有する場合に、その年分の不動産所得の計算上、その信託による不動産所得の損失の金額があるときは、その損失の金額に相当する金額は、所得税法26条2項(不動産所得の計算)と69条1項(損益通算)などの適用については「生じなかつたものとみなす」と定めています。損失の金額は、信託ごとに、収入が必要経費に足りない部分です(同法施行令26条の6の2第4項)。
つまり、信託したアパートで赤字が出ても、その赤字は、信託していないアパートの黒字とも、給与所得とも差し引けず、翌年以後に繰り越すこともできません。具体的な数字で見てみましょう。
父(受益者)が、アパートA(信託財産。受託者は長女)と、アパートB(信託していない)を持っているとします。2025年分、Aは大規模修繕をしたため家賃収入300万円・必要経費450万円で150万円の赤字、Bは家賃収入400万円・必要経費200万円で200万円の黒字でした。
| 項目 | Aを信託していない場合 | Aを信託している場合 |
| アパートA(収入300万円−経費450万円) | △150万円 | △150万円(生じなかったものとみなす) |
| アパートB(収入400万円−経費200万円) | 200万円 | 200万円 |
| 父の不動産所得 | 50万円 | 200万円 |
同じ修繕をしても、信託しているかどうかで、父の不動産所得が150万円違ってきます。信託していなければ、Aの赤字はBの黒字と差し引きされますが、信託していると、Aの赤字は最初からなかったことになり、Bの200万円がそのまま所得になるのです。
この制限は、不動産所得の赤字のうち土地の借入金利子に当たる部分が通算できないルールとは別のものです。そちらの仕組みは、当ブログの「不動産所得の赤字100万円、給与と通算できるのは70万円だけ? 「土地の借入金利子」の制限を会社員大家さんの数値例で計算しました(2025年分)」(2025年12月16日)で詳しく計算しています。
大家業を長く続けていると、大規模修繕や建物の取壊しで、どうしても赤字になる年があります。家族信託を設計するときは、どの物件を信託に入れるのか、大きな修繕はいつ、どちらの物件で予定しているのか。こうした点を、信託契約をつくる前に税理士と一緒に確かめておくことを、強くおすすめします。
受託者は「信託の計算書」、受益者は「明細書」を出す
家族信託を始めると、毎年の手続も増えます。
受託者(信託会社以外)は、信託の計算書を毎年1月31日までに税務署長に提出しなければなりません(所得税法227条)。計算書には、前年12月31日現在の信託財産の資産・負債と、前年中の収益・費用などを記載します。ただし、受益者ごとの信託財産に帰せられる収益の額の合計額が3万円(計算期間が1年未満なら1万5千円)以下のときは、提出しなくてかまいません(所得税法施行規則96条2項)。アパートを信託していれば、家賃収入で3万円を超えるのがふつうでしょう。
2025年分の信託の計算書は、本来の期限の2026年1月31日が土曜日にあたるため、2026年2月2日(月)が期限になります。国税に関する書類の提出期限が土曜日・日曜日・休日などにあたるときは、これらの日の翌日が期限とみなされ、2026年は1月31日(土)と2月1日(日)が続くからです(国税通則法10条2項、同法施行令2条2項)。
受益者である親の側では、確定申告書に、信託から生ずる不動産所得の金額の計算に関する明細書を添付しなければなりません(租税特別措置法施行令26条の6の2第6項)。信託したアパートの収支を、ほかのアパートとは分けて計算しておく必要がある、ということです。親が判断能力を失った後は、この申告の準備も家族が担うことになりますから、帳簿は物件ごと、信託ごとに分けておきましょう。
このほか、受益者が変わったときや信託が終わったときなどに、受託者が「信託に関する受益者別(委託者別)調書」を、その事由が生じた日の属する月の翌月末日までに税務署へ提出する必要がある場合もあります(相続税法59条3項)。父が委託者と受益者を兼ねる形なら、信託の効力が生じたときの提出は要しないとされています(相続税法施行規則30条7項)。どの場合に提出が必要かは、信託の内容によって変わるので、信託を始める段階で税理士に確認しておくと安心です。
帰省のときに、家族で確かめておきたいこと
まずは、親がどんな物件を持ち、それぞれに借入れがあるか、管理会社や修繕の予定はどうなっているかを、家族で共有するところから始めてください。ここがわからないと、どの制度を選ぶかも決められません。
次に、親自身が、これから先アパートをどうしたいと考えているかを聞いておきましょう。持ち続けたいのか、いずれ建て替えたいのか、売ってしまいたいのか。家族信託でも任意後見でも、その意向を契約の中身に落とし込むことになります。そして、その話し合いができるのは、親が自分で判断できるうちだけです。
そのうえで、家族信託を検討するなら、信託する物件の範囲、受託者がどこまで売却・建替え・借入れをできるようにするか、そして信託した物件の赤字が「なかったもの」になるルールを踏まえて、修繕の計画と物件の組み合わせを確かめます。介護や施設の契約まで見すえるなら、任意後見との組み合わせも考えておきたいところです。
親から子へ物件を早めに渡す方法としては、相続時精算課税で建物を贈与する方法もあり、別の記事で詳しく扱います。また、相続が起きた後の登記の手続は、相続登記の義務化を取り上げる記事で整理します。
親のアパートへの備えは、親が元気なうちにしかできない
親が判断能力を失うと、アパートの修繕や売却、借入れの契約は、親自身では結べなくなります。そのときに使える法定後見では、家庭裁判所が後見人を選び(2024年は親族以外が82.9%)、後見人は本人の財産を守る立場から管理します。相続税対策のための贈与などは原則としてできません。
任意後見と家族信託は、親が元気なうちにしか準備できない仕組みです。任意後見は公正証書で契約し、任意後見監督人の選任から効力が生じます。家族信託なら、受託者の子どもが信託契約の範囲で修繕や売却を進められます。ただし、信託したアパートの赤字は生じなかったものとみなされ、ほかの所得と差し引けません。受託者は信託の計算書(2025年分は2026年2月2日まで)、受益者は確定申告で明細書の添付が必要です。
実家の玄関で「最近どう?」と声をかけるのは、少し照れくさいものです。それでも、アパートの話をきっかけに、親がこれからどう暮らしたいかを聞くことは、家族にとっての大切な準備になると、私は思います。帰省の時間の一部を、ぜひその話に使ってみてください。
当事務所では、家族信託を検討している大家さんとご家族のために、信託する物件の選び方や信託後の申告、信託の計算書の作成をお手伝いしています。司法書士など他の専門家とも連携しながら進めますので、お気軽にご相談ください。
出典・参考
- 民法 第3条の2・第9条・第859条・第859条の3・第863条(e-Gov法令検索)https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
- 裁判所「居住用不動産処分の許可」https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_25_04/index.html
- 東京家庭裁判所「成年後見・保佐・補助開始申立セット(申立前にお読みください)」https://www.courts.go.jp/tokyo-f/vc-files/tokyo-f/file/150515moushitatemaeni-oyomikudasai.pdf
- 前橋家庭裁判所「成年後見人Q&A」(令和2年度)https://www.courts.go.jp/maebashi/vc-files/maebashi/R3/kouken/04seinenkouken_qanda.pdf
- 最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況 ―令和6年1月~12月―」(2025年3月)https://www.mhlw.go.jp/content/12000000/001580731.pdf
- 法務省「成年後見制度・成年後見登記制度Q&A」Q16〜Q20(任意後見制度について)https://www.moj.go.jp/MINJI/a03.html
- 任意後見契約に関する法律 第3条(e-Gov法令検索)https://laws.e-gov.go.jp/law/411AC0000000150
- 信託法 第3条・第26条(e-Gov法令検索)https://laws.e-gov.go.jp/law/418AC0000000108
- 不動産登記法 第98条(e-Gov法令検索)https://laws.e-gov.go.jp/law/416AC0000000123
- 所得税法 第13条・第227条、所得税法施行規則 第96条(e-Gov法令検索)https://laws.e-gov.go.jp/law/340AC0000000033
- 相続税法 第9条の2・第59条(e-Gov法令検索)https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC0000000073
- 租税特別措置法 第41条の4の2、同法施行令 第26条の6の2(e-Gov法令検索)https://laws.e-gov.go.jp/law/332AC0000000026
- 国税通則法 第10条、同法施行令 第2条(e-Gov法令検索)https://laws.e-gov.go.jp/law/337AC0000000066
- 国税庁「信託に関する受益者別(委託者別)調書(同合計表)」https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/hotei/23100063.htm































