東雲結子:石井先生、聞いてください! 電気代も修繕費も上がっているので、アパートの家賃を1月分から5,000円上げますと入居者さんに通知したんです。そうしたら返事はひと言、「拒否します」でした……。

税理士石井:うーん、通知の紙一枚で家賃が上がるなら、大家業はずいぶん楽な商売になりますね。

東雲結子:だったら作戦変更です。値上げに応じてくれるまで、家賃を受け取らずに待つことにします!

税理士石井:おっと(汗)、それは逆効果です。大家さんが受け取りを拒むと、入居者さんは家賃を法務局に供託できます。家賃が大家さんの通帳を素通りして、よそで待機することになるんです。

東雲結子:えっ、家賃が法務局へ家出するんですか……。

税理士石井:ははは。借地借家法32条では、話し合いがまとまらなければ、裁判が確定するまで、入居者さんは自分が「相当と認める額」、たとえば今までの家賃を払えば足ります。しかも、訴える前に、まず調停を申し立てるのが決まりです。

東雲結子:でも、裁判で値上げが認められたら、待っていた分は丸ごと戻ってくるんですよね。待てば待つほど増える、定期預金みたいに!

税理士石井:半分正解です。不足分には年1割の利息が付きます。ただ、認められるのは「相当」な額で、請求した5,000円がそのまま通るとは限りません。総務省の統計では、2025年10月の消費者物価は前年同月より3.0%上がりましたが、民営家賃は0.5%の上昇でした。物価だけでなく、近くの同じような部屋の家賃や、税金などの負担の変化も根拠として見られます。

東雲結子:物価のグラフ一枚を握りしめて、裁判所に乗り込むところでした……。

税理士石井:大事なのは、根拠をそろえて、できれば話し合いで決めることです。法律が用意している順番と、もめている間のお金と税金の扱いを、一緒に確かめていきましょう。

物価が上がり、修繕費や管理のコストもじわじわ増えています。「そろそろ家賃の値上げをしたい」と考えている大家さんは多いのではないでしょうか。ところが、家賃の値上げは、大家さんが一方的に決められるものではありません。借地借家法32条は、家賃が「不相当」になったときに増額を請求できると定める一方で、入居者が応じない場合の進め方も細かく決めています。

この流れを知らずに値上げを切り出すと、受け取りを拒んで供託される、更新を断ると言ってこじれる、といった遠回りをしかねません。逆に、流れを知っていれば、話し合いの段階で何をそろえるべきかが見えてきます。

この記事では、普通借家(期間が来ても原則として更新される、ふつうの賃貸借契約)を前提に、家賃の値上げの法律上のルール、入居者が拒否したときの話し合い→調停→訴訟の流れ、確定までの家賃と年1割の利息、そして、もめている間の家賃をいつの収入にするかを、個人と法人に分けて整理します。

※この記事は2025年12月時点の法令と、総務省・法務省・国税庁などの公表資料にもとづいています。個別の交渉や手続は、弁護士などの専門家にもご相談ください。

物価は3.0%上がっても、民営家賃は0.5%。家賃は物価を追いかけにくい

まず、数字で今の状況を確かめておきます。総務省統計局が2025年11月21日に公表した2025年10月分の消費者物価指数(全国)では、前年同月と比べて次のようになっています。

項目(全国、2025年10月) 前年同月比
総合 3.0%
住居 0.9%
民営家賃 0.5%
民営家賃(木造) 0.2%
民営家賃(非木造) 0.7%
設備修繕・維持 3.3%

 

物価全体は3.0%上がっているのに、民営家賃は0.5%。修繕や設備の維持にかかる費用は3.3%上がっていますから、大家さんの目線では「出ていくお金のほうが、入ってくるお金より速く増えている」ことになります。

大家業を続けていると、この感覚は数字を見る前から肌でわかります。給湯器の交換、外壁の補修、共用部の電気代。どれも数年前の見積りでは収まりません。一方で、家賃は入居中の方との契約で決まっていて、物価に合わせて自動的に動いてはくれない。だからこそ、家賃の値上げをどう進めるかは、これからの賃貸経営で避けて通れないテーマだと私は考えています。

ただし、この表は全国の平均です。あなたの物件の家賃が不相当かどうかは、この数字ではなく、物件の周りの状況で決まります。そのルールを次に見ていきます。

家賃の値上げは、借地借家法32条の「増額請求」で決まる

借地借家法32条1項は、建物の家賃(借賃)が、次のいずれかの理由で「不相当となったとき」に、契約の条件にかかわらず、当事者が「将来に向かって」家賃の増額や減額を請求できると定めています。

32条1項が挙げる理由 大家さんの立場で考えられる例
土地や建物に対する租税その他の負担の増減 固定資産税・都市計画税などの負担が増えた
土地や建物の価格の上昇・低下その他の経済事情の変動 地価や建物の価格が上がった、物価が上がったなど
近傍同種の建物の借賃との比較 近くの同じような建物の家賃と比べて安くなっている

 

国土交通省の「賃貸住宅標準契約書」も、第4条第3項で、これと同じ三つの場合に「協議の上、賃料を改定することができる」としています。標準契約書をもとにした契約書を使っている大家さんは、手元の契約書の家賃の条項を一度読み返してみてください。

ここで押さえておきたいのは、二つの言葉です。ひとつは「将来に向かって」。過去にさかのぼって家賃を上げることはできません。もうひとつは「不相当となったとき」。条文が挙げているのは、税金などの負担、経済事情の変動、近くの家賃との比較という、物件をとりまく事情です。「資金繰りが苦しいから」という大家さん側の説明だけでは、入居者の納得は得にくいでしょう。

用語メモ:増額請求…借地借家法32条にもとづいて、家賃の増額を相手に求める意思表示です。請求は入居者・大家さんのどちらからもでき、入居者からは減額を請求できます。

「一定期間は値上げしない」特約は有効、「値下げしない」特約でも減額請求は止められない

契約書に家賃の特約を入れている場合はどうなるでしょうか。

32条1項のただし書は、「一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う」としています。たとえば「契約から2年間は家賃を上げない」という特約があれば、大家さんはその期間中、増額を請求できません。

反対に、「家賃は下げない」という特約については、条文に同じような定めがありません。最高裁は平成15年10月21日の判決(いわゆるサブリースの事件。3年ごとに賃料を10%ずつ上げる「賃料自動増額特約」があった事案)で、32条1項は強行法規であって、この特約によってもその適用を排除できないと述べています。条文が「その定めに従う」としているのは増額しない特約だけですから、「下げない」と書いておいても、経済事情が変われば、入居者からの減額請求そのものを止めることはできないと考えられます。ただし同じ判決は、特約が付された事情なども、相当な家賃の額を判断するときに考慮すべきだとしています。

大家さんにとっては少し不公平に感じるかもしれませんが、私はここに、入居者の住まいを守るという借地借家法の考え方がはっきり出ていると受け止めています。値上げのルールを知ることは、裏を返せば、値下げを求められたときの備えにもなります。

なお、定期借家契約(期間が来たら更新されずに終わる契約)で、家賃の改定についての特約を定めた場合は、32条は適用されません(38条9項)。家賃の改定について特約で決めた内容が、増減請求よりも優先されるということです。定期借家契約の要件は、定期借家契約を取り上げる記事で詳しく扱います。

入居者が値上げを拒否したら、確定までは「相当と認める額」でよい

冒頭の東雲さんのように、値上げを通知して「拒否します」と返されたら、どうなるのでしょうか。

32条2項は、増額について話し合いがまとまらないときは、請求を受けた入居者は、増額を正当とする裁判が確定するまでは、自分が「相当と認める額」の家賃を払えば足りる、と定めています。実際には、今までどおりの家賃を払い続ける形になることが多いでしょう。

ここで大切なのは、入居者が従来の家賃を払っているかぎり、条文の上では「払うべきものを払っている」状態だということです。増額分が入ってこないからといって、滞納として扱い、契約の解除や督促を急ぐのは筋が違います。値上げの話が、いつのまにか明渡しの争いにすり替わってしまえば、大家さんにとっても大きな遠回りです。

用語メモ:相当と認める額…増額の裁判が確定するまでの間、入居者が自分で相当と考えて支払う家賃の額です(借地借家法32条2項)。確定した額との差額は、後で精算します。

では、大家さんが「値上げ後の金額でなければ受け取らない」と受け取りを拒んだら、どうなるか。法務省の「供託制度の概要」は、弁済供託ができる場合の例として、「地代・家賃の値上げや土地・建物の明渡要求などの理由で受領を拒否された場合」を挙げています。入居者は家賃を法務局などの供託所に供託でき、大家さんは還付請求という手続で受け取ることになります。手間が増えるだけで、値上げが早く決まるわけではありません。

私なら、従来の額でもまず受け取り、そのうえで、増額の請求は引き続き求めていることを書面で伝えておきます。お金の流れを止めずに、話し合いの道を残しておく。そのほうが、結果的に早く着地することが多いと感じています。

話し合い→調停→訴訟。家賃の値上げは「まず調停」が決まり

話し合いでまとまらない場合の流れを、一枚の図にまとめました。上から、①大家さんが増額を請求する、②話し合いで新しい家賃に合意できたか、確定までの間は入居者が「相当と認める額」を払えば足りること、③訴える前にまず調停を申し立て、調停で合意できたか、そして最後に、訴訟で増額を正当とする裁判が確定したら不足額に年1割の利息を付けて精算する、という順に並んでいます。いちばん下の枠には、この記事の数値例(月3,000円の増額が12か月分なら、不足額36,000円+利息1,950円)も入れています。

図の③が、家賃の争いならではの決まりです。民事調停法24条の2は、借地借家法32条の家賃の増減の請求について訴えを起こそうとする人は、「まず調停の申立てをしなければならない」と定めています(調停前置)。調停をせずにいきなり訴えても、裁判所は原則として事件を調停に回します。

用語メモ:調停前置…家賃や地代の増減をめぐる争いでは、訴訟の前に、まず裁判所の調停で話し合うことが法律で求められている、という仕組みです(民事調停法24条の2)。

調停の申立て先は、原則として物件の所在地を管轄する簡易裁判所で、当事者が合意すれば、その所在地を管轄する地方裁判所にすることもできます(同法24条)。調停では、調停委員会が間に入って、双方の言い分を聞きます。合意が成立して調書に記載されると、その記載は「裁判上の和解と同一の効力」を持ちます(同法16条)。

調停にはほかにも、家賃の争いのための仕組みがあります。合意できる見込みがなくても、当事者が「調停委員会の定める調停条項に服する」と書面で合意していれば(調停の申立て後にしたものに限ります)、申立てにより、調停委員会が事件の解決のために適当な調停条項を定めることができます(同法24条の3)。また、裁判所が、調停に代わる決定をすることもあります(同法17条)。それでもまとまらなければ調停は不成立となり(同法14条)、訴訟で決着をつけることになります。

話し合いは「力比べ」ではなく、「根拠の出し合い」です。調停も訴訟も、最後は32条の三つの理由に沿って、相当な家賃がいくらかを判断する場です。だからこそ、最初の話し合いの段階から、その三つの理由に沿った資料を用意しておくことが、いちばんの近道になります。

裁判で確定したら、不足分に年1割の利息が付く

訴訟で増額を正当とする裁判が確定すると、精算に進みます。32条2項のただし書は、すでに払われた額に不足があるときは、入居者は「その不足額に年一割の割合による支払期後の利息を付して」支払わなければならないと定めています。

具体的な数字で確かめてみましょう。次の前提を置きます。

月額家賃は80,000円。大家さんは月5,000円の増額(85,000円)を請求しましたが、入居者は話し合いに応じず、従来の80,000円を払い続けました。請求した月の翌月分から12か月たったところで、月3,000円の増額(83,000円)を正当とする裁判が確定し、その時点で精算したとします。利息は、各月の不足額が支払期から確定時まで何か月たったかで、月単位に概算しています(実際の計算は日割りです)。

項目 金額
請求した増額 月5,000円(家賃の6.25%)
裁判で確定した増額 月3,000円(家賃の3.75%)
不足額(3,000円×12か月) 36,000円
利息(年1割、各月の経過月数の合計78か月) 3,000円×10%×78÷12=1,950円
入居者が精算で支払う額 37,950円

ここから見えてくることが二つあります。

ひとつは、請求した額がそのまま認められるとは限らないことです。この例では、請求した月5,000円に対して、確定したのは月3,000円。年間でいえば、思い描いていた60,000円の増収が、36,000円になっています。

もうひとつは、年1割の利息は、確定するまで待った入居者の側にとって負担になる、ということです。争いが長引くほど、不足額にも利息にも重みが出てきます。同じ前提で24か月かかったとすると、不足額は72,000円、利息は7,500円、合わせて79,500円です。入居者にとっても、早めに相当な額で合意することに意味がある。この数字は、話し合いの場で冷静に共有しておく価値があると思います。

なお、立場が逆の減額請求では、32条3項により、大家さんは減額の裁判が確定するまで相当と認める額を請求でき、確定後に受け取りすぎがあれば、超過額に年1割の利息を付けて返すことになります。年1割は、大家さんにも同じように効いてくる数字です。

更新のときの値上げも「合意」が前提。決まらなければ従前の条件で更新される

「更新のタイミングなら、家賃を上げやすいのでは」と考える方もいるでしょう。たしかに、更新は条件を見直すきっかけになります。ただ、更新のときも、新しい家賃は入居者との合意で決まります。

借地借家法26条1項は、期間満了の1年前から6か月前までに、更新しない旨の通知や、条件を変更しなければ更新しない旨の通知をしなかったときは、「従前の契約と同一の条件で」更新したものとみなす、と定めています(法定更新)。つまり、値上げに合意できないまま期間が終わると、原則として、今までの家賃のまま更新されることになります。

では、「値上げに応じないなら更新しない」と伝えればよいかというと、そうはいきません。大家さんからの更新拒絶には、28条の「正当の事由」が必要です。正当事由は、大家さんと入居者のそれぞれが建物を必要とする事情、これまでの経過、建物の利用状況や現況、立退料などの申出を考慮して判断されます。家賃の値上げに応じないことだけで、更新を断れるわけではありません。

更新のときに合意できなかった場合も、32条の増額請求は別に行えます。更新は「交渉の窓」、32条は「法律の扉」と考えておくとわかりやすいかもしれません。更新の手続そのものについては、当ブログの「賃貸借契約の合意更新と法定更新(法定更新で更新料をもらうとっておきの方法)」(2025年8月13日)もご覧ください。また、値上げをしたときに、退去による空室で収入がどう変わるかの計算は、「家賃3,000円アップで本当に儲かる? 値上げより怖い「1人退去」の算数」(2025年10月5日)で取り上げています。

もめている間の家賃は、いつの収入? 個人と法人で扱いが違う

ここからは税理士としての本題です。家賃の値上げで争いになっている間、確定していない差額を、いつの収入にすればよいのでしょうか。

個人の大家さんは、差額と利息を「判決・和解などの日」の収入に

個人の不動産所得について、国税庁の所得税基本通達36-5は、家賃の収入時期を次のように定めています。

受け取るお金 収入にする日
毎月受け取っている家賃(従来の額) 契約や慣習で決まった支払日(支払日の定めがなければ、支払を受けた日)
判決・和解などで受け取ることになった、過去の期間の家賃相当額(差額)と遅延利息など その判決・和解などのあった日
家賃の額の争いで、家賃の弁済のために供託された金額 契約や慣習で決まった支払日(支払日の定めがなければ、支払を受けた日)

通達36-5(2)は、賃貸借契約の存否の係争等(未払賃貸料の請求に関する係争を除きます)に係る判決・和解等で受け取ることになった過去の期間の賃貸料相当額は、供託されていなかったものや遅延利息その他の損害賠償金も含めて、判決・和解等のあった日の収入とし、ただし書で、賃貸料の額に関する係争の場合に家賃の弁済のため供託された金額は、通常の支払日の収入としています。国税庁のタックスアンサーNo.1376も同じ内容です。

先ほどの数値例でいえば、毎月の80,000円はそれぞれの支払日の収入です。裁判で決まった差額36,000円と利息1,950円は、判決・和解などのあった日の収入として、その年分にまとめて計上する形になります。争いが年をまたいだ場合、差額のうち前の年に対応する部分も、判決・和解などのあった年の収入になるわけです。

また、通達の注書きは、計算の基礎になった期間が3年以上の場合、その家賃相当額にかかる所得は「臨時所得」に当たるとしています。何年にもわたる争いの末に、まとめて受け取るケースでは、確定申告で臨時所得としての扱い(平均課税)を検討する余地があります。どの条件に当てはまるかは、受け取った金額の中身によって変わりますので、実際の申告の前に税理士や税務署に確認してください。

資産管理法人は、確定を待たずに「合理的に見積もる」

法人の場合は、考え方が異なります。法人税基本通達2-1-29の注書きは、使用料等の額の増減に関して係争がある場合には、「契約の内容、相手方が供託をした金額等を勘案してその使用料等の額を合理的に見積もるものとする」としています。

つまり、資産管理法人が家賃の値上げで争っている場合は、判決や和解を待って一度に計上するのではなく、各事業年度で、相当と見込まれる家賃の額を合理的に見積もって計上する考え方です。どこまでを見積もるかは、請求の根拠や相手の支払・供託の状況によって変わります。決算の前に、顧問の税理士と見積りの根拠をすり合わせておきましょう。

個人と法人で、同じ争いでも収入にするタイミングが変わる。家賃の収入時期の基本的な考え方は、当ブログの「12月に受け取った「1月分の家賃」は2025年の収入? 敷金・礼金・更新料・保証金の“収入にする年”を、国税庁の通達どおりに整理しました」(2025年12月14日)でも整理しています。

値上げを切り出す前に、そろえておきたい根拠と順番

ここまでの内容を踏まえて、実際に家賃の値上げを考えるときの準備を、順番に見ていきます。

まずは、契約書を読み返してください。一定期間は増額しないという特約がないか、普通借家か定期借家か、家賃の改定についてどんな条項があるか。ここで、そもそも今の時点で請求できるのかが決まります。

次に、32条の三つの理由に沿って、根拠を集めます。固定資産税・都市計画税の課税明細書で負担の推移を確かめ、近くの同じような物件の募集家賃や成約の情報を集めます。物価や地価の動きも、経済事情の変動を示す資料になります。「物価が上がったから」の一言ではなく、この部屋の家賃がなぜ不相当になったのかを、数字で説明できるようにしておきたいところです。

そのうえで、増額の請求は、金額と理由と、いつの分からかをはっきりさせて、記録に残る形で伝えます。入居者から疑問が出たら、根拠を示して話し合う。それでもまとまらなければ、調停という次の段階があります。そして、話し合いの間も、従来の家賃は受け取り続ける。この順番を守るだけで、こじれるリスクはずいぶん小さくできます。

最後に、税金と資金計画です。個人なら差額と利息は判決・和解などのあった日の収入、法人なら見積りでの計上。どちらの場合も、争いの間は家賃の増収が手元に入ってこないことを、修繕や返済の計画に織り込んでおきましょう。

家賃の値上げは、法律の順番と根拠の数字で決まる

家賃の値上げは、借地借家法32条の増額請求によって行います。租税などの負担、経済事情の変動、近くの家賃との比較で家賃が不相当になったときに、将来に向かって請求できます。一定期間増額しない特約があればそれに従い、減額しない特約では減額請求を止められません。

入居者が拒否したら、確定までは入居者が相当と認める額を払えば足ります。訴える前にはまず調停。裁判で増額が確定したら、不足分に年1割の利息を付けて精算します。更新のときも新しい家賃は合意が前提で、合意できなければ従前の条件で更新されます。税務では、個人は差額と利息を判決・和解などのあった日の収入に、法人は係争中も合理的に見積もって計上します。

家賃は、入居者の暮らしの土台であり、大家さんの経営の土台でもあります。だからこそ、値上げは「通知」ではなく「対話」から始まるのだと、私は思います。根拠となる数字をそろえ、順番を守って話し合えば、入居者に納得してもらえる可能性はぐっと高まります。

当事務所では、家賃の改定を考えている大家さんの収支の試算や、係争中の家賃の申告・決算での扱いのご相談をお受けしています。お気軽にご相談ください。

 

出典・参考

  • 借地借家法 第26条・第28条・第32条・第38条(e-Gov法令検索)https://laws.e-gov.go.jp/law/403AC0000000090
  • 民事調停法 第2条・第14条・第16条・第17条・第24条・第24条の2・第24条の3(e-Gov法令検索)https://laws.e-gov.go.jp/law/326AC0000000222
  • 最高裁判所第三小法廷 平成15年10月21日判決(平成12年(受)第573号)https://www.courts.go.jp/hanrei/52299/detail2/index.html
  • 法務省「供託制度の概要」(2025年11月20日更新)https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07.html
  • 国土交通省「賃貸住宅標準契約書」(平成30年3月版)第4条 https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/torikumi/keiyaku/kei01.html
  • 総務省統計局「2020年基準 消費者物価指数 全国 2025年(令和7年)10月分」(2025年11月21日)https://www.e-stat.go.jp/stat-search/file-download?statInfId=000040367873&fileKind=2
  • 国税庁 所得税基本通達36-5(不動産所得の総収入金額の収入すべき時期)https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shotoku/05/01.htm
  • 国税庁 タックスアンサー1376「不動産所得の収入計上時期」(2025年12月時点の内容を参照)https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1376.htm
  • 国税庁 法人税基本通達2-1-29(賃貸借契約に基づく使用料等の帰属の時期)https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/02/02_01_05.htm