東雲結子:石井先生、賃貸物件を相続した方のために、手続の一覧表を作っていました。……作っているうちに、机の上が書類で見えなくなってしまって。

税理士石井:おつかれさまです。相続のあとは、気持ちの整理がつかないうちから、期限のある手続が続きますからね。一覧にしておくのは、ご家族にとっても大きな助けになると思います。

東雲結子:いちばん大事なのは、10か月の相続税ですよね。それまでは、ご家族に少しゆっくりしていただいても……。

税理士石井:うーん、そう思いたいところなんですが、実はその手前にも山があるんです。亡くなった方の所得税の準確定申告は、相続の開始を知った日の翌日から4か月以内。相続放棄を考えるなら、自分が相続人になったことを知った時から3か月以内です。

東雲結子:えっ、10か月より前に、3か月と4か月の山が……。一覧表の紙が、もう一枚増えました。

税理士石井:それから、青色申告の承認は人ごとです。亡くなった方が青色申告者でも、相続人は自分で申請しないといけません。12月2日に亡くなった例なら、期限は2026年2月16日です。

東雲結子:青色申告って、アパートと一緒に引き継がれるものだと思っていました。私の一覧表、さっそく書き直しです……。

税理士石井:ふふ、書き直せるうちに気づけたのが何よりです。もう一つ、遺産分割がまとまるまでの家賃は、口座に入っている人が全部申告するのではなく、各相続人が相続分に応じて申告します。

東雲結子:なるほど……。家賃が入ってくる口座と、申告する人は別なんですね。

税理士石井:そうなんです。管理会社の口座に家賃が入っても、それが管理会社の収入にはならないのと少し似ていますね。期限の早いものから、ひとつずつ整理していきましょう。

「父が亡くなって、アパートの家賃はいま長男の私の口座に入っています。税金はどうすればいいのでしょう?」

大切なご家族を見送ったあと、気持ちが落ち着く間もなく、こうした疑問が次々に浮かんでくるのだと思います。賃貸物件を相続すると、相続税だけでなく、亡くなった人(被相続人)の所得税の申告、相続人が賃貸経営を引き継ぐための届出、消費税の判定など、期限のある手続が続きます。遺産分割がまとまるまでの家賃を誰が申告するのかも、迷いやすいところです。

しかも賃貸物件は、相続のあとも入居者の暮らしが続き、毎月の家賃が入ってきます。止めることのできない「動いている財産」を引き継ぐぶん、考えることが多くなりがちです。

この記事では、賃貸物件を相続したあとの手続と期限、そして準確定申告のポイントを、具体的な日付の例とあわせて整理します。一度に全部を覚える必要はありません。期限の早いものから、順番に見ていきましょう。

※この記事は2025年12月時点の法令と国税庁の公表資料にもとづいています。

賃貸物件を相続したら、相続税の10か月より前に「4か月」の山がある

手続 期限・ポイント
準確定申告(被相続人の所得税・消費税) 相続の開始を知った日の翌日から4か月以内。1月1日から亡くなった日までの家賃収入などを申告
青色申告の承認申請(相続人) 被相続人が青色申告者なら、亡くなった日に応じて「4か月以内」「その年の12月31日」「翌年2月15日」。白色なら業務を引き継いだ日から2か月以内
消費税 住宅の家賃は非課税。被相続人の基準期間の課税売上高が1,000万円を超えていると、相続人が年の途中から課税事業者になる。被相続人がインボイスの登録事業者なら、相続人は最長4か月、登録事業者とみなされる
遺産分割前の家賃 各相続人が相続分(遺言がなければ法定相続分)に応じて申告。後で分割が決まっても、さかのぼって直さない
相続放棄・相続税 相続放棄は3か月以内、相続税の申告は10か月以内

相続というと、どうしても相続税の申告に目が向きがちです。でも表を見ると、その手前にいくつもの期限が並んでいることがわかります。とくに、亡くなった方の所得税を締めくくる準確定申告と、相続人が青色申告を続けるための承認申請。この二つは、相続税よりずっと早くやってきます。

12月に亡くなった場合、期限は年明けの2月から次々にやってくる

2025年12月2日(火)に亡くなった場合の例です。期限が土日祝日に当たるときは、翌日(休日明け)が期限になります。

手続 期限
青色申告の承認申請(被相続人が白色で、相続人が新たに貸付けを始める場合) 2026年2月2日(月)
青色申告の承認申請(被相続人が青色申告者だった場合) 2026年2月16日(月)※2月15日が日曜日のため
相続人自身の2025年分の確定申告(亡くなった後の家賃など) 2026年2月16日(月)〜3月16日(月)
相続放棄・限定承認(家庭裁判所) 2026年3月2日(月)
準確定申告(所得税・消費税) 2026年4月2日(木)
相続税の申告・納付 2026年10月2日(金)

同じ表を、横棒グラフにしたのが下の図です。左端の点線が亡くなった日(相続の開始)で、棒の右端がそれぞれの期限を表しています。青色申告の承認申請が2月に二本、相続人自身の確定申告が2月16日〜3月16日、相続放棄・限定承認が3月2日、準確定申告が4月2日。そして、いちばん長い棒の先にあるのが、10月2日の相続税の申告・納付です。

こうして並べてみると、年末に亡くなった場合は、年明けの数か月に期限が集中することがよくわかります。ご親族とのやり取りや、さまざまな手続が続く時期とも重なるでしょう。図の下の注にもあるとおり、開業・廃業の届出などは、この図とは別に確認が必要です。

準確定申告では、1月1日から亡くなった日までの家賃を申告する

相続人(包括受遺者を含む)が、被相続人の死亡当時の納税地の税務署に申告します。相続人が複数なら、全員が連署して1通で出すことも、各人が別々に出すこともできます。別々に出すときは、ほかの相続人の氏名を書き添え、申告した内容をほかの相続人に知らせます。

大家さんならではのポイントは三つあります。

一つめは、家賃です。契約上の支払日が亡くなった日までに来ている家賃は、被相続人の収入です。それ以後に支払日が来る家賃は、相続人の収入になります。分かれ目は、賃貸借契約で決められた支払日です。まずは契約書を手元に用意して、支払日を確かめるところから始めてください。

二つめは、固定資産税です。亡くなった時点で納税通知書が届いている年度分は、その税額の全額、亡くなった日までに納期が来た額、亡くなった日までに実際に納めた額のいずれかを、被相続人の必要経費にできます。準確定申告で経費にした分は、相続人の申告では経費にしません。どれを選ぶかで、亡くなった方の申告と相続人の申告の両方に影響が出ます。同じ経費を二度数えないように、相続人のあいだで話を合わせておくと安心です。

三つめは、所得控除です。医療費・社会保険料などは亡くなった日までに被相続人が支払った分が対象で、扶養控除などは亡くなった日の現況で判定します。

被相続人が消費税の課税事業者だった場合は、消費税の準確定申告も同じく4か月以内に行い、「個人事業者の死亡届出書」を速やかに出します。

準確定申告は、亡くなった方が1年の途中まで続けてきた賃貸経営を、最後にきちんと締めくくる申告です。帳簿や通帳を開くのがつらい時期かもしれませんが、ご家族で手分けしながら、一つずつ進めていただけたらと思います。

青色申告の承認は人ごと。相続人は自分で申請する

青色申告の承認は人ごとです。被相続人が青色申告者でも、相続人が自動的に青色申告になるわけではありません。相続した年から青色申告にするには、次の期限までに承認申請書を出します。

被相続人 亡くなった日 相続人の申請期限
青色申告者だった 1月1日〜8月31日 亡くなった日から4か月以内
青色申告者だった 9月1日〜10月31日 その年の12月31日
青色申告者だった 11月1日〜12月31日 翌年2月15日
白色申告者だった(相続人が新たに業務を始める) 1月16日以後 業務を引き継いだ日から2か月以内

すでに自分の不動産所得などで青色申告の承認を受けている相続人は、改めて申請する必要はありません。遺産分割が決まるまでは相続人それぞれが不動産所得を申告することになるので、青色申告にしたい人は、それぞれ申請します。

物件も入居者も、そのまま引き継がれていく。だからこそ、青色申告も一緒に引き継がれるような気がしてしまうのだと思います。けれど承認は、物件ではなく人についているもの。亡くなった方が続けてきた青色申告を続けたいなら、相続人が自分の名前で手続をする必要があります。

開業を届け出て、建物の減価償却は被相続人の計算を引き継ぐ

事業的規模の貸付けを引き継いだ相続人は「個人事業の開業・廃業等届出書」で開業を届け出ます。被相続人の廃業も同じ様式で届け出ます。提出期限を国税庁の手続案内で確認し、青色申告の承認申請と一緒に準備すると漏れがありません。

建物の減価償却は、被相続人の取得価額・耐用年数・経過年数・未償却残高を引き継いで計算します(限定承認をした場合を除きます)。中古資産として耐用年数を見積もり直すことはできません。また、相続も「取得」にあたるため、相続した建物の償却方法は定額法です。

つまり、亡くなった方が付けてきた減価償却の記録が、そのまま相続人の計算の出発点になります。取得価額や未償却残高がわからないと、相続人の申告が組み立てられません。過去の決算書や固定資産の台帳は、処分せずに大切に保管しておいてください。

住宅の家賃は非課税でも、消費税の判定は必要になる

住宅の家賃は消費税が非課税なので、消費税の判定に使う課税売上高に入るのは、駐車場や店舗・事務所の家賃などです。

時期 相続人が課税事業者になる場合
相続した年 被相続人の基準期間(2025年に相続したなら2023年)の課税売上高が1,000万円を超える場合、相続のあった日の翌日から12月31日まで
翌年・翌々年 相続人の基準期間の課税売上高と、被相続人の基準期間の課税売上高の合計が1,000万円を超える場合

遺産分割前で相続人が複数いる場合は、被相続人の課税売上高を法定相続分で分けて、相続人ごとに判定します。課税事業者になるときは、「消費税課税事業者届出書」に「相続・合併・分割等があったことにより課税事業者となる場合の付表」を付けて速やかに出します。

住宅だけのアパートなら、ここはほとんど関係ないかもしれません。気にかけてほしいのは、駐車場や店舗・事務所を一緒に貸していた場合です。亡くなった方の課税売上高が、相続人の判定にまで持ち込まれるからです。駐車場や店舗の家賃と消費税の関係は、賃貸経営と消費税を取り上げる記事でも整理します。

被相続人がインボイスの登録事業者なら、相続人も一定の期間は登録事業者とみなされる

被相続人がインボイス(適格請求書)の登録事業者だった場合は、相続人が「適格請求書発行事業者の死亡届出書」を出します。事業を引き継いだ相続人は、亡くなった日の翌日から最長4か月(その間に登録を申請していれば、結果の通知が届くまで)登録事業者とみなされ、その期間は課税売上高が1,000万円以下でも消費税の納税義務が免除されません。12月2日の例なら、駐車場や店舗などの課税される家賃があれば、相続人にも2025年分(12月3日以後)の消費税の申告(期限は2026年3月31日(火))が必要になります。引き続き適格請求書を発行するには、相続人自身の登録が必要です。

ここは、ご家族がいちばん気づきにくいところだと感じます。相続人ご自身は、それまで消費税の申告をしたことがなくても、亡くなった方の登録を通じて、申告が必要になることがあるのです。駐車場や店舗の借主から適格請求書を求められている場合は、相続人自身の登録をどうするかも、早めに決めておきましょう。

遺産分割前の家賃は、口座の名義ではなく相続分に応じて申告する

最高裁判所は平成17年9月8日の判決で、遺産分割までの間に賃貸物件から生じる家賃は遺産とは別の財産で、各相続人が相続分に応じて確定的に取得し、後の遺産分割の影響を受けないと判断しました。国税庁も、遺産分割が確定するまでは、特定の人が家賃を管理していても、各相続人が法定相続分に応じて申告するとしています。

相続人が配偶者・長男・二男で、2026年の1年間、遺産分割が決まらなかった場合の例です(家賃収入1,200万円、必要経費500万円)。

相続人 法定相続分 収入 必要経費 不動産所得
配偶者 2分の1 600万円 250万円 350万円
長男 4分の1 300万円 125万円 175万円
二男 4分の1 300万円 125万円 175万円

長男の口座に家賃が入っていても、長男が全額を申告するわけではありません。その後に「アパートは長男が相続する」と分割が決まっても、そのことを理由に、分割前の期間の申告について更正の請求や修正申告をすることはできません。分割が決まった後の家賃から、取得した人の収入になります。生前に家族が家賃を管理していた場合の考え方は、当ブログの「母の不動産収入を子供が管理している場合、誰の収入として申告するのか?」(2025年8月26日)もご覧ください。

冒頭のご質問に戻ると、家賃が長男の方の口座に入っていても、遺産分割が決まるまでは、相続人それぞれが相続分に応じて申告する、ということになります。家賃を受け取って管理している方と、申告する方が一致しない。ここは、ご家族のあいだで誤解が生まれやすいところです。誰がいくら申告するのかを、早い段階で相続人どうし共有しておくことが、あとの話し合いを穏やかに進めるためにも大切だと私は思います。

相続放棄は3か月、相続税は10か月。分割の時期が特例の使い方にも響く

相続放棄や限定承認は、自分が相続人になったことを知った時から3か月以内に家庭裁判所で手続します。それまでに相続財産を処分すると、単純承認したものとみなされることがあるため、放棄を考えている人は家賃の扱いを専門家に相談しましょう。

入ってきた家賃をどう扱うかは、放棄を考えている方にとって、思った以上に繊細な問題です。迷いがあるうちは、自己判断で動かす前に、まず相談していただくのが安心です。

相続税の申告と納付は、亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内です。それまでに遺産分割がまとまらないと、法定相続分で申告し、小規模宅地等の特例などを使えない申告になります。このとき申告書と一緒に「申告期限後3年以内の分割見込書」を出しておけば、申告期限から3年以内に分割したときに、分割があったことを知った日の翌日から4か月以内の更正の請求で特例を使えます。

10か月は長いようでいて、話し合いが続けばあっという間です。分割見込書は、話し合いに時間がかかったときのための大切な備えになります。アパートの敷地にかかわる小規模宅地等の特例については、その要件と注意点を取り上げる記事で詳しく扱います。

まずは、賃貸借契約書と入金記録を集めるところから

これから確かめておきたいことを、順番にたどってみます。

最初に、賃貸借契約書と入金記録を集めて、亡くなった日までに支払日が来た家賃を確認してください。準確定申告の期限、つまり相続の開始を知った日の翌日から4か月の日付は、手帳にメモしておきましょう。

次に、被相続人が青色申告者だったかどうかを確かめ、相続人の承認申請の期限を確認します。被相続人の基準期間の課税売上高(駐車場・店舗などの家賃)と、インボイスの登録の有無もあわせて確かめておきたいところです。

遺産分割が決まるまでの家賃を、誰がいくら申告するかは、相続人のあいだで共有しておきます。そして、相続放棄を考えている方がいれば、3か月の期限と家賃の扱いを専門家に相談してください。

期限の早いものから並べれば、相続のあとの手続は一つずつ進められる

準確定申告は、相続の開始を知った日の翌日から4か月以内です。家賃は、契約上の支払日で被相続人と相続人に分けます。青色申告の承認は人ごとで、相続人は亡くなった日に応じた期限までに自分で申請します。

住宅の家賃は非課税でも、駐車場・店舗の家賃が多い場合は消費税の判定と届出が必要です。遺産分割前の家賃は、各相続人が相続分に応じて申告し、後の分割でさかのぼって直すことはしません。そして、相続放棄は3か月、相続税は10か月。遺産分割の時期が、特例を使えるかどうかにも関わってきます。

相続のあとの手続は、一度に目の前に並ぶと、とても多く感じられます。けれど、期限の早いものから順番に並べてみると、今やるべきことは意外と限られているものです。亡くなった方が大切に守ってきた賃貸経営を、ご家族が無理なく引き継いでいけるように。そのための一歩として、この記事が少しでもお役に立てばうれしく思います。

相続直後は、手続の期限が重なります。当事務所では、賃貸物件を相続した方の準確定申告・青色申告の承認申請・消費税の判定から、相続税の申告までをまとめてお手伝いしています。お気軽にご相談ください。

 

出典・参考

  • 国税庁 タックスアンサー2022「納税者が死亡したときの確定申告(準確定申告)」、No.2070「青色申告制度」、No.1399「新たに不動産の貸付けを始めたときの届出など」(タックスアンサーはいずれも2025年12月時点の内容を参照)
  • 国税庁 タックスアンサー1376「不動産所得の収入計上時期」、同Q&A「未分割遺産から生じる不動産所得」(2025年12月時点の内容を参照)
  • 国税庁 タックスアンサー4205「相続税の申告と納税」、No.4208「相続財産が分割されていないときの申告」(2025年12月時点の内容を参照)
  • 国税庁 質疑応答事例(所得税)「死亡した父親が所有していた賃貸用不動産に係る固定資産税の必要経費算入」「平成19年4月1日以降に相続により減価償却資産を取得した場合」「相続により取得した減価償却資産の耐用年数」
  • 国税庁 税務手続の案内「相続・合併・分割等があったことにより課税事業者となる場合の付表」「個人事業者の死亡届出手続」「適格請求書発行事業者の死亡届出手続」(同届出書の記載要領)「相続税の申告書の提出期限から3年以内に分割する旨の届出手続」
  • 最高裁判所第一小法廷 平成17年9月8日判決(民集59巻7号1931頁)
  • 所得税法第125条・第144条、所得税基本通達144-1、消費税法第10条・第45条・第57条・第57条の3、消費税法基本通達1-5-5、民法第915条・第921条、国税通則法第10条