東雲結子:石井先生、確定申告の準備をしてきました! スーツにゴルフ、忘年会のレシートまで、1年分をぜんぶ集めました。大家さんの経費として、まとめて入れちゃいましょう!

税理士石井:おお、立派な束ですね。うーん、ただ、それを全部通すのは、入居審査なしで全室に申込みを受け付けるようなものです。一枚ずつ、「家賃収入を得るために必要か」を審査しましょう。

東雲結子:えっ、レシートにも入居審査が……。ゴルフのレシートが、そっと目をそらしています。

税理士石井:ははは。審査の基準は所得税法37条です。収入を得るために直接かかった費用と、業務の費用。自宅の光熱費や家族の食事代のような生活費(家事費)は、ここで落ちます。

東雲結子:じゃあ、毎年いちばん大きな出費の所得税と住民税は、さすがに通りますよね?

税理士石井:残念ながら、所得税・住民税も、借入金の元本の返済も、経費にはなりません。そのかわり、固定資産税、損害保険料、修繕費、減価償却費、借入金の利子、管理委託費、税理士報酬などは、きちんと通ります。

東雲結子:自宅と兼用のものは、どうなるんでしょう? 半分だけ入居、みたいな……。

税理士石井:いい表現ですね。業務の部分だけが経費です。賃貸部分が床面積の60%の賃貸併用住宅で、固定資産税が20万円なら、経費は12万円。それから、貸付けが「5棟10室」の事業的規模かどうかで、扱いが変わるものが5つあります。

東雲結子:レシートの審査に、物件の規模まで関わってくるんですね……。

税理士石井:そうなんです。「なるもの・ならないもの」「按分するもの」「規模で変わるもの」に分けて、年末のうちに仕分けておきましょう。

「この領収書、経費に入れていいんでしたっけ?」

年末年始は、1年分の領収書や通帳を整理するのにちょうどよい時期です。2025年分の確定申告は、2026年2月16日(月)から3月16日(月)まで。今のうちに「経費になるもの」と「ならないもの」を仕分けしておくと、申告がぐっと楽になります。

大家業を長く続けていると、経費の判断で迷うのは、大きな工事よりも、むしろ日々の細かな支払いのほうだと感じます。一枚一枚は小さくても、迷ったまま年を越すと、申告の直前に箱いっぱいの「保留」が残ってしまうのです。

この記事では、不動産所得の必要経費を一覧にしました。経費になるもの・ならないもの、自宅用・私用と分けて計算する(按分する)もの、そして貸付けが「事業的規模」かどうかで扱いが変わるもの。この三つに分けて、国税庁の資料と法令にもとづいて整理しています。

※この記事は2025年12月時点の法令と国税庁の公表資料にもとづいています。

不動産所得の必要経費は、五つの観点で仕分けると迷いにくい

ポイント 内容
必要経費になるもの 家賃収入を得るために必要な費用。固定資産税、損害保険料、修繕費、減価償却費、借入金の利子、管理委託費、税理士報酬など
ならないもの 所得税・住民税、延滞税・加算税、罰金、借入金の元本、生活費(家事費)、生計を一にする親族への家賃・給与(例外あり)
按分が必要なもの 自宅や私用と共用の費用は、業務の部分だけ。長期の前払いは期間に応じて
事業的規模で変わるもの 青色事業専従者給与、資産損失、貸倒れ、青色申告特別控除、延納の利子税
いつの経費か 支払った年ではなく、原則として債務が確定した年(減価償却費などを除く)

迷ったら、「家賃収入を得るために必要か」を上から順に問いかける

所得税法では、不動産所得の必要経費を、収入を得るために直接かかった費用と、その年に生じた一般管理費その他の業務の費用としています(所得税法37条)。迷ったら、次の流れで考えてみてください。

図は、上から順に問いを当てはめていく流れになっています。家賃収入を得ることと関係のない支出か。所得税・住民税や延滞税・加算税、罰金・科料・過料か。借入金の元本の返済か。生計を一にする親族に払う家賃・給与か。建物・設備・備品など、長く使う資産の購入か。自宅や私用と共用の費用か。どこかで「はい」になったら、右側の箱が答えです。最後まで「いいえ」が続いたものが、必要経費になります。

右側の箱を見ると、「ならない」で終わるものばかりではありません。借入金の返済でも利子の部分は経費、長く使う資産は減価償却で数年に分けて経費、共用の費用も業務の部分だけは経費です。「全部か、ゼロか」ではなく、「どの部分が、いつ」経費になるのか。その目で領収書を見ていくと、仕分けがずいぶん楽になります。

固定資産税から税理士報酬まで、家賃収入のための費用は必要経費になる

費用 ポイント 根拠
固定資産税・都市計画税 貸している土地・建物の分。自宅部分は除く 所基通37-5、No.2210
不動産取得税・登録免許税 賃貸に使う資産の分 所基通37-5、No.2215
個人事業税 全額が必要経費 No.2210
損害保険料(火災・地震保険など) 1年を超える期間の分を前払いしたときは、期間に応じて按分 所基通37-30の2
修繕費 価値を高める部分(資本的支出)は減価償却 所基通37-10〜37-14
減価償却費 建物・設備などを耐用年数に応じて経費に 所得税法49条
借入金の利子 賃貸物件の取得のための借入金の利子 所基通37-27
管理委託費・清掃費・共用部分の電気代や水道代 管理会社への手数料など 所得税法37条
入居者募集の広告料・仲介手数料 賃貸の業務の費用 所得税法37条
税理士報酬 不動産所得の記帳や申告にかかる分 所得税法37条
家賃の督促・訴訟などの弁護士費用 業務に関連する紛争の費用 所基通37-25
立退料 売却や、取り壊した後の土地の売却のためのものを除く 所基通37-23

※所基通は所得税基本通達、No.は国税庁タックスアンサーの番号です。

こうして並べてみると、大家業の1年がそのまま表になっているようです。固定資産税の納付、保険の更新、退去のあとの修繕、空室の募集、ときには家賃の督促まで。どれも、家賃収入を得るために避けて通れない支出です。

ただ、「ポイント」の列には条件がついているものもあります。修繕費と資本的支出の分かれ目は修繕費か資本的支出かの判定を取り上げる記事で、立退料の扱いは立退料を目的別に整理する記事で、それぞれ詳しく見ます。

入居者用のエアコンや照明は、1つの金額で扱いが分かれる

入居者用のエアコンや照明などは、1つ(1台)の金額で次のように扱います(所得税法施行令138条・139条、租税特別措置法28条の2。判定の単位は所基通49-39)。

1つの取得価額 扱い
10万円未満 全額をその年の必要経費にできる
20万円未満 3年間で均等に必要経費にする方法も選べる
30万円未満 青色申告をしている中小事業者は全額を必要経費にできる(年300万円まで、2026年3月31日までに取得して事業に使ったもの)

貸付けの用に供した資産はこれらの特例の対象外とされていますが、不動産貸付業を営む人が入居者に家具や電気機器などを貸し付けることは「主要な業務として行われる貸付け」の例とされ、原則として対象外にはなりません(所基通49-39の3)。

「貸付けの用に供した資産は対象外」という一文だけを読んで、ひやりとした大家さんもいるかもしれません。ここは、後半の「原則として対象外にはなりません」までをセットで読んでください。

土地の借入金の利子は、赤字の年だけ計算が必要になる

土地の取得のための借入金の利子にあたる部分から生じた不動産所得の赤字は、給与所得など他の所得と相殺(損益通算)できません(租税特別措置法41条の4)。利子そのものは必要経費ですが、赤字のときは計算が必要です。

気をつけたいのは、不動産所得が赤字になる年です。給与と赤字を相殺して税金が戻ってくるはず、と思っていたら、土地の分は相殺できなかった……ということが起こり得ます。会社員大家さんの数値例は、土地の借入金利子の制限を取り上げる記事で計算します。

所得税・住民税や元本の返済は、どれだけ大きくても経費にならない

費用 理由・ポイント 根拠
所得税・住民税 所得にかかる税金は経費にならない 所得税法45条、No.2210
延滞税・加算税・延滞金 法律で必要経費にならないと定められている 所得税法45条
罰金・科料・過料 同上 所得税法45条、No.2210
借入金の元本の返済 費用ではなく借金の返済。建物代は減価償却で経費になる 所得税法37条・49条
生活費(家事費) 自宅の光熱費、家族の食事代など 所得税法45条
生計を一にする親族への家賃・給与 原則ならない(受け取った親族の所得にもならない)。青色事業専従者給与などは例外 所得税法56条・57条、No.2210
国民健康保険料・国民年金保険料・生命保険料 必要経費ではなく、所得控除(社会保険料控除・生命保険料控除)で差し引く 所得税法74条・76条

この表でいちばん実感と食い違いやすいのが、借入金の元本の返済だと思います。毎月の返済額のうち、経費になるのは利子の部分だけ。だからこそ、帳簿の上では黒字なのに、手元にお金が残らない、ということが起こります。建物代は、元本の返済としてではなく、減価償却という形で少しずつ経費になっていくのです。

なお、生計を一にする親から業務のために借りた土地・建物について、子が負担した固定資産税は、子の必要経費になります(No.2210)。絵画などの美術品が経費になるかについては、当ブログの「儲かりすぎた大家さん、美術品は経費に出来るのか?」(2025年8月23日)もご覧ください。

自宅や私用と共用の費用は、業務の部分だけを按分して経費にする

自宅や私用と共用の費用(家事関連費)は、業務の遂行上必要な部分を明らかに区分できる場合に、その部分だけが必要経費になります(所得税法施行令96条)。国税庁の通達では、業務に必要な部分が50%を超えるかどうかで判定し、50%以下でも明らかに区分できる場合は、その部分を必要経費にしてよいとされています(所基通45-2)。

費用 按分の方法の例
賃貸併用住宅の固定資産税・減価償却費・借入金の利子・火災保険料 床面積の割合など
自宅で管理の事務をする場合の電気代・通信費 使用時間や使用割合など
自家用と兼用の車の費用 走行距離の割合など
一括で払った長期の保険料・保証料 期間に応じて

たとえば、賃貸部分が床面積の60%の賃貸併用住宅で、固定資産税が20万円なら、必要経費は12万円です。按分の割合は、図面や走行記録など根拠を残しておきましょう。

按分でいちばん大切なのは、割合そのものより「なぜその割合なのか」を説明できることだと私は思います。床面積なら図面、車なら走行記録。数字の裏づけになる資料が手元にあれば、あとで聞かれたときにも落ち着いて答えられます。賃貸併用住宅の経費の按分は、住宅ローン控除や相続のことまで含めて、賃貸併用住宅の税金を一つの数値例で整理する記事でも取り上げます。

「5棟10室」の事業的規模かどうかで、5つの扱いが変わる

建物の貸付けは、アパートなどは貸せる部屋がおおむね10室以上、独立した家屋はおおむね5棟以上なら、原則として「事業として」の貸付け(事業的規模)とされます(所基通26-9、No.1373)。いわゆる「5棟10室基準」です。

項目 事業的規模 それ以外(業務的規模) 根拠
青色事業専従者給与・事業専従者控除 使える 使えない 所得税法57条
資産損失(取壊し・除却・滅失) 全額が必要経費 損失を差し引く前の不動産所得の金額が限度 所得税法51条
貸倒れ(回収できない未収家賃) 回収不能になった年の必要経費 収入に計上した年にさかのぼって所得を計算し直す 所得税法51条・64条
青色申告特別控除 55万円(正規の簿記などの要件あり。e-Taxでの申告または優良な電子帳簿の保存なら65万円) 最高10万円 租税特別措置法25条の2
確定申告税額の延納の利子税 不動産所得に対応する部分は必要経費 必要経費にならない 所得税法45条、所得税法施行令97条、所基通45-4・45-5

「おおむね」「原則として」という言葉がついているとおり、5棟10室はあくまで目安です。それでも、この線の手前か向こうかで、これだけ多くの扱いが変わります。家族への給与、取壊し、滞納家賃、控除の額。どれも、大家業を続けていればいつか向き合う場面ばかりです。回収できない家賃の処理は、滞納家賃と貸倒れを取り上げる記事で、個人と法人に分けて詳しく整理します。

古いアパートを取り壊すと、規模の違いで経費にならない100万円が生まれる

取り壊した建物の未償却残高(帳簿価額)が300万円、取壊し前の不動産所得が200万円の場合です。

  事業的規模 業務的規模
必要経費になる資産損失 300万円 200万円(限度)
不動産所得 −100万円(他の所得と損益通算できる) 0円(残りの100万円は経費にならない)

※損益通算は、土地の取得のための借入金の利子にあたる部分を除きます。

同じ建物を同じように取り壊しても、業務的規模なら、残りの100万円はどこにも行き場がなくなってしまいます。

建替えや取壊しを考えている方は、工事の段取りと一緒に、ご自分の貸付けがどちらの規模にあたるのかを、ぜひ先に確かめておいてください。

12月に完了した修繕工事は、支払いが1月でも2025年分の経費になる

必要経費になるのは、その年の12月31日までに、①債務が成立し、②支払の原因となる事実(工事の完了など)が発生し、③金額を合理的に計算できるものです(No.2210)。

ケース 2025年分の経費?
12月に修繕工事が完了し、支払は2026年1月 なる(未払金として計上)
12月に支払ったが、工事は2026年1月 ならない(2026年分)
12月に、その日から1年間の保険料を一括で支払った 支払った日から1年以内に提供を受ける分なので、毎年継続して支払った年の経費にしていれば、なる(短期前払費用、所基通37-30の2)
固定資産税(納期が分けられている) 通知があった年のほか、各納期の開始日や実際に納付した日の年分にもできる(所基通37-6)

表の上の二行は、ちょうど裏返しの関係です。お金を払ったかどうかではなく、工事が終わったかどうか。年末に「今年のうちに払っておけば今年の経費になる」と考えて前払いをしても、工事が年明けなら、その経費は2026年分です。反対に、12月に完了した工事の支払が年明けになる場合は、未払金として2025年分に入れることを忘れないでください。

収入の側にも、同じように「いつの収入か」という問題があります。12月に受け取った1月分の家賃などの扱いは、敷金・礼金・更新料などを“収入にする年”で整理する記事で詳しく扱います。

年明けまでに、領収書と通帳を物件ごとに仕分けておく

確定申告までに確かめておきたいことを、順番にたどってみます。

まず、2025年1月〜12月の領収書・請求書・通帳を、物件ごとに整理してください。そのうえで、12月に完了した工事や12月分の管理費など、まだ支払っていない経費を拾い出します。手元に領収書がないぶん、いちばん漏れやすいところです。

自宅・私用と共用の費用があれば、按分の割合と根拠をメモしておきましょう。所得税・住民税、元本の返済、生活費が経費に入っていないかも、ここで見直します。家族に家賃や給与を払っている方は、生計を一にしているかどうか、青色事業専従者給与の届出があるかどうかを確認してください。

取壊しや、未収家賃の回収不能がある年は、ご自分の貸付けが事業的規模かどうかの確認が欠かせません。最後に、10万円未満・20万円未満・30万円未満の備品を一覧にしておけば、どの扱いを選ぶかを落ち着いて考えられます。

経費かどうかの物差しは、いつも「家賃収入のためか」に戻ってくる

必要経費になるのは、家賃収入を得るために必要な費用です。固定資産税、保険料、修繕費、減価償却費、借入金の利子、管理費、税理士報酬などがこれにあたります。反対に、所得税・住民税、罰金、借入金の元本、生活費、生計を一にする親族への家賃・給与(例外あり)は経費になりません。

自宅・私用と共用の費用は、業務の部分を明らかに区分して按分します。青色事業専従者給与、資産損失、貸倒れ、青色申告特別控除、利子税は、事業的規模かどうかで扱いが変わります。そして、経費になる年は、原則として債務が確定した年です。

細かなルールはたくさんありますが、迷ったときに立ち返る場所は一つです。この支出は、家賃収入を得るために必要だろうか。その問いを一枚ずつの領収書に投げかけていけば、年明けの申告はきっと落ち着いて迎えられるはずです。

当事務所では、大家さん・地主さんの確定申告を、領収書の整理の段階からお手伝いしています。「これは経費になる?」という疑問があれば、お気軽にご相談ください。

 

出典・参考

  • 所得税法第37条、第45条、第49条、第51条、第56条、第57条、第64条、第74条、第76条、所得税法施行令第96条・第97条・第138条・第139条
  • 租税特別措置法第25条の2、第28条の2、第41条の4
  • 国税庁 所得税基本通達26-9、37-5、37-6、37-10〜37-14、37-23、37-25、37-27、37-30の2、45-1、45-2、45-4、45-5、49-39、49-39の3
  • 国税庁 タックスアンサー2210「必要経費の知識」、No.1373「事業としての不動産貸付けとそれ以外の不動産貸付けとの区分」、No.2215「固定資産税、登録免許税又は不動産取得税を支払った場合」(タックスアンサーはいずれも2025年12月時点の内容を参照)