東雲結子:石井先生、ニュース速報です! スマホに「令和8年度税制改正大綱」の通知が来ました。基礎控除が62万円、青色申告特別控除が75万円ですって。さっそく今度の確定申告から使いましょう!

税理士石井:うーん、速報の通知は速いんですが、税金はそこまで速く走ってくれないんです。大綱は、来年の国会に出す法案や、通達の見直しの方針。ここに書かれているのは、すべて「改正案」なんですよ。

東雲結子:えっ、まだ決まっていないんですか? 見出しの文字は、あんなに大きかったのに……。

税理士石井:ふふ、見出しの大きさと決まり具合は比例しないんです。しかも案どおりに進んだとしても、基礎控除は2026年分から、青色申告特別控除は2027年分からの案。いま準備している2025年分の申告には関係しません。

東雲結子:おっと(汗)。じゃあ、法律が決まるまで、のんびり待っていればいいですね。

税理士石井:それがですね、待っているだけだと困る項目もあるんです。たとえば、相続や贈与の前5年以内に買った・建てた一定の賃貸物件を、「通常の取引価額」で評価する案。2027年1月1日以後の相続・贈与からの案で、2億円で買った賃貸マンションを5年以内に相続した場合、地価などの変動がなければ、評価額の目安は1億6,000万円です。

東雲結子:1億6,000万円……。相続税の評価では割安に見えていた物件に、いきなり新しい値札が付いた気分です。

税理士石井:ええ。分譲マンションでいえば、長期修繕計画の「案」が配られたようなものですね。総会で決まるまでは案ですが、いつ・いくらかかりそうかを知っておけば、積立ての準備は今から始められます。

東雲結子:なるほど……。決まったと思い込まずに、案のうちに「うちには関係あるか」を確かめておくんですね。

税理士石井:そういうことです。大家さん・資産管理法人のオーナー・地主さんに関係する項目だけを、大綱に書かれた適用時期とあわせて整理していきましょう。

「税制改正大綱って毎年ニュースになりますけど、大家に関係あるのはどこですか?」

12月19日、与党の自由民主党と日本維新の会が「令和8年度税制改正大綱」を公表しました。所得税・相続税・消費税から固定資産税まで項目はたくさんありますが、この記事では、大家さん・資産管理法人のオーナー・地主さんに関係するものだけを、大綱に書かれた適用時期とあわせて整理します。

なお、大綱は「来年の国会に出す法案や、通達の見直しの方針」です。内容が確定するのは法律の成立や通達の改正の後なので、ここで紹介するのは、すべて改正案です。

大綱のニュースは、見出しだけを追っていると、もう決まったことのように感じてしまいがちです。それでも、読み流してしまうのはもったいないと私は思います。相続対策や家族への給与、帳簿の仕組みのように、何年もかけて組み立てていくものほど、案の段階で方向を知っておく価値があるからです。物件と長く付き合う大家業だからこそ、「決まる前」の情報との付き合い方が大切になります。

※この記事は2025年12月時点の法令と、2025年12月19日に自由民主党・日本維新の会が公表した「令和8年度税制改正大綱」にもとづいています。大綱は改正案で、法律の成立や通達の改正はこれからです。

令和8年度税制改正大綱で、大家さんに関係する改正案と適用時期

項目 改正案のポイント 適用時期(大綱)
基礎控除・給与所得控除 基礎控除58万円→62万円、給与所得控除の最低保障額65万円→69万円。2026・2027年は特例でさらに上乗せ 2026年分から
青色申告特別控除 55万円→e-Tax(電子申告)を要件に加えて65万円、65万円→帳簿の電子保存などで75万円 2027年分から
少額減価償却資産の特例(中小企業者等) 対象を取得価額30万円未満→40万円未満に。適用期限を3年延長 期限を3年延長
貸付用不動産の相続税・贈与税の評価 相続や贈与の時(課税時期)の前5年以内に買った・建てた一定の賃貸物件は「通常の取引価額」で評価 2027年1月1日以後の相続・贈与
不動産小口化商品の評価 取得時期にかかわらず「通常の取引価額」で評価 2027年1月1日以後の相続・贈与
低未利用土地の100万円特別控除 適用期限を3年延長 現行の期限は2025年12月31日
教育資金の一括贈与の非課税 延長せずに終了(それまでに拠出した分は引き続き非課税) 2026年3月31日まで

表の右の列は、どれも「大綱に書かれた」適用時期です。内容が確定するのは法律の成立や通達の改正の後ですから、その前提を頭の片隅に置いたうえで、ご自分に関係のありそうな行から読み進めてみてください。

基礎控除は2026年分から62万円、2026・2027年分は最大104万円に上がる案

改正案では、基礎控除の本則を58万円から62万円に、給与所得控除の最低保障額を65万円から69万円に引き上げます。さらに2026年分・2027年分は、所得に応じた基礎控除の上乗せを拡充し、給与所得控除の最低保障額も5万円上乗せする案です。

本人の合計所得金額 2025年分(現行) 2026・2027年分(改正案)
132万円以下 95万円 104万円
132万円超〜336万円以下 88万円 104万円
336万円超〜489万円以下 68万円 104万円
489万円超〜655万円以下 63万円 67万円
655万円超〜2,350万円以下 58万円 62万円

※2,350万円超の控除額(48万円・32万円・16万円・0円)は変わりません。2028年分以後の上乗せは、合計所得金額132万円以下の人の37万円だけになる案です。

表で目を引くのは、合計所得金額489万円以下の三つの段が、そろって104万円になっているところです。今は95万円・88万円・68万円と分かれている段が、改正案では2026・2027年分について一つにまとまります。そのぶん、489万円を超えたところで67万円へと下がる段差が、はっきり目立つようになります。

給与収入だけの人なら、2026・2027年分は、所得税がかからない上限が160万円から178万円(給与所得控除74万円+基礎控除104万円)に上がる案です。大家さん本人の基礎控除は不動産所得を含めた合計所得金額で決まり、家族に給与を払っている資産管理法人は、扶養の所得要件の引上げもあわせて確認が必要です。

ここは、大家さんならではの注意点があるところです。不動産所得は、家賃から減価償却費や修繕費などを差し引いた後の金額ですから、大きな修繕をした年と、そうでない年とで上下します。会社員として給与もある大家さんなら、給与所得と不動産所得を合わせた合計所得金額で段が決まります。段の境目の近くにいる方は、2026年分の見込みを早めに出しておくと、慌てずに済むと思います。

青色申告特別控除は2027年分から75万円・65万円に組み替える案

現行 改正案
65万円(事業的規模・複式簿記などに加え、e-Taxまたは優良な電子帳簿) 75万円(改正後の65万円の要件に加え、仕訳帳・総勘定元帳の電子保存などの要件)
55万円(事業的規模・複式簿記・期限内申告など) 65万円(確定申告書や決算書をe-Taxで期限内に提出することを要件に追加)
10万円 10万円(ただし、事業的規模で簡易な簿記の人のうち、前々年の不動産所得の収入金額が1,000万円を超える人は対象外)

家賃収入が年1,000万円を超える事業的規模の大家さんで、簡易な簿記のままの人は、2027年分から控除がなくなるおそれがあります(2027年分は、前々年の2025年の家賃収入で判定)。複式簿記に切り替える準備を始めておきましょう。なお、e-Taxを使わずに書面で提出する場合の控除額は、大綱の文言からははっきりしません。法案で確認が必要です。

見落とさないでいただきたいのは、判定に使うのが「前々年」だという点です。改正案どおりなら、事業的規模で簡易な簿記の方が2027年分に10万円の控除を使えるかどうかは、まさに今年、2025年の家賃収入で判定されます。「まだ先の話」と思っているうちに、判定の材料になる1年は、もう締めくくりを迎えようとしているわけです。

反対に、すでに複式簿記とe-Taxで65万円の控除を受けている方にとっては、75万円へ上がる余地のある改正案です。上乗せの要件は、仕訳帳・総勘定元帳の電子保存など。今お使いの会計ソフトがどこまで対応しているかを年内に一度確かめておけば、法案が固まったときに落ち着いて動けます。

少額減価償却資産の特例は、40万円未満への引上げと3年延長の案

取得価額が一定額未満の資産を、取得した年に全額経費(損金)にできる特例です。大綱では、対象を30万円未満から40万円未満に引き上げ、適用期限を3年延長する案になっています(個人の青色申告者も同様)。従業員が400人を超える法人は、対象から外す案です。

現行法では、貸付け(主要な事業として行うものを除く)に使う資産は対象外で、大綱はこの点に触れていません。いつ取得したものから40万円未満になるかも、法案で確認が必要です。

金額の枠が広がるのはうれしい話ですが、大家さんにとって本当に気になるのは、「貸付けに使う資産」の扱いのほうかもしれません。そこに大綱が触れておらず、いつ取得したものから対象になるのかもまだわからない以上、「40万円未満」という数字だけを見て設備の買い替えを決めるのは早すぎます。法案を待ってから判断しても、遅くはないはずです。

買ってから5年以内の賃貸物件と小口化商品を、「通常の取引価額」で評価する案

相続税の評価額と市場価格の差が大きい賃貸物件を使った対策への見直しです。改正案の柱は二つあります。

ひとつは、被相続人などが、相続や贈与の時(課税時期)の前5年以内に対価を払って取得または新築した一定の貸付用不動産を、通常の取引価額で評価するというものです。課税上の弊害がない限り、取得価額をもとに地価の変動などを考慮した価額の80%で評価できるとしています。

もうひとつは、不動産特定共同事業契約や信託受益権を使った、いわゆる不動産小口化商品です。対象の不動産は、取得時期にかかわらず通常の取引価額で評価する案になっています。

どちらも2027年1月1日以後の相続・贈与から適用する案です。ただし、通達で定める日までに、その日の5年前から持っている土地に新築した家屋(その日に建築中のものを含む)は、5年以内の見直しの対象外とされています。

たとえば2億円で買った賃貸マンションを5年以内に相続した場合、地価などの変動がなければ、2億円×80%=1億6,000万円が評価額の目安になります。

評価額と市場価格の差が大きいことを利用して、相続の前に賃貸物件を買う。そうした対策に、はっきりと線を引こうとする改正案だと私は受け止めています。裏を返せば、ひとつめの見直しの対象は、課税時期の前5年以内に取得・新築したものです。ここ数年で物件を買い増した方と、同じアパートを長く持ち続けている方とでは、影響の大きさがまるで違ってきます。小口化商品は取得時期を問わない点も、あわせて押さえておいてください。

具体的な計算方法は、今後、国税庁の通達で定められます。小口化商品の考え方は、当ブログの「小口化不動産は相続税対策に使えるのか?」(2025年7月17日)もご覧ください。

住宅ローン控除から買換え特例まで、そのほかの改正案も大家さんに関わる

ここからは、そのほかの大家さん・地主さんに関係する改正案を、表にまとめました。

項目 改正案
住宅ローン控除 適用期限を5年延長(2030年12月31日までの入居)。床面積40㎡以上50㎡未満も対象に(合計所得金額1,000万円超の年は除く)
防衛特別所得税 2027年分から所得税額の1%を課税。復興特別所得税は2.1%→1.1%に下げ、課税期間を2047年まで延長
極めて高い所得の負担の適正化 対象を基準所得金額1億6,500万円超(現行3億3,000万円超)にし、税率を30%(現行22.5%)に。2027年分から
インボイス制度の経過措置 免税事業者からの仕入れの控除割合を、2026年10月〜2028年9月は70%、その後50%・30%に。免税事業者から登録した個人事業者は、2027・2028年を含む課税期間に、納付税額を売上の消費税額の3割にできる特例(いわゆる3割特例)
非居住者向けの役務提供 国内の不動産に関する役務の提供を、消費税の輸出免税の対象外に(2026年10月1日以後。2026年3月31日までに結んだ契約に基づくものを除く)
登録免許税・固定資産税 土地の売買の登録免許税の軽減を3年延長。新築住宅の固定資産税の減額を5年延長(床面積の上限を280㎡→240㎡など)
事業用資産の買換え特例 適用期限を3年延長。長期所有の土地・建物等からの買換えは、買換資産の建物を「特定施設」用のものに限定

下の図は、ここまでの改正案のうち主なものを、大綱に書かれた適用時期にそって横棒で並べたものです。いちばん上の教育資金の一括贈与の非課税は、2026年3月31日で終わる短い帯。その下に、2026年分からの基礎控除62万円・給与所得控除69万円など、2026年10月から2028年9月までのインボイスの70%控除、2026年10月1日以後の非居住者向け国内不動産の役務提供が続きます。2027年からは、貸付用不動産・小口化商品の評価、青色申告特別控除の見直し、防衛特別所得税と復興特別所得税、極めて高い所得の負担の適正化の帯がそろって始まり、いちばん下が、2030年12月31日までの入居を対象とする住宅ローン控除の延長です。低未利用土地の100万円特別控除と少額減価償却資産の特例の3年延長は、図の下に注記しています。

こうして並べると、2026年に始まるものと2027年に始まるものとで、改正案の山が二つに分かれているのが見えてきます。

防衛特別所得税と復興特別所得税の見直し案は、毎年の税率を合わせると所得税額の2.1%で今と同じです。ただし、復興特別所得税の課税期間は2037年から2047年まで10年延びる案です。土地を売って大きな譲渡益が出る年は、極めて高い所得の見直しの影響も確認しましょう。

消費税の項目にも、目を通しておいてください。インボイスの経過措置は、免税事業者からの仕入れの控除割合と、免税事業者から登録した個人事業者の3割特例の、二本立ての改正案です。非居住者向けの役務提供の見直しは、2026年3月31日までに結んだ契約に基づくものを除く案なので、契約をいつ結んだかがポイントになりそうです。

年内に確かめておきたいのは、2026年分の所得の見込みと、5年以内に買った物件

まずは、2026年分のご自分とご家族の合計所得金額の見込みから、基礎控除がどの段階に当たりそうかを確かめてください。家族への給与や専従者給与の金額を見直すかどうかも、この見込みとあわせて予定を立てておくと、年が明けてから慌てずに済みます。

次に、2027年分の青色申告特別控除に向けて、e-Taxと会計ソフトの電子保存の対応を確認しましょう。前々年の家賃収入が1,000万円を超える事業的規模の大家さんは、複式簿記への切替えも検討しておきたいところです。

相続の備えとしては、過去5年以内に買った・建てた賃貸物件と、不動産小口化商品を一覧にしておくこと。そして、教育資金の一括贈与を考えている方は、2026年3月31日の期限を確かめておいてください。どれも、改正案が固まる前にできる準備ばかりです。

改正案は、決まる前に読んでおくほど打てる手が増える

基礎控除は、2026年分から62万円(2026・2027年分は所得に応じて最大104万円)に上がる案です。給与だけの人の所得税がかからない上限は、2026・2027年分は178万円になる案です。青色申告特別控除は2027年分から75万円・65万円になる案で、家賃収入1,000万円超で簡易な簿記の事業的規模の大家さんは、10万円控除も使えなくなる案になっています。

相続や贈与の前5年以内に買った・建てた賃貸物件と、不動産小口化商品(取得時期を問わない)は、2027年1月1日以後の相続・贈与から「通常の取引価額」で評価する案です。低未利用土地の100万円特別控除と少額減価償却資産の特例は3年延長、教育資金の一括贈与は2026年3月31日で終了の案です。

案は、まだ決まったルールではありません。けれど、物件の購入も、家族への給与も、相続の準備も、大家業の判断は何年も先を見ながら組み立てるものです。案の段階で方向を知っておけば、法律が決まったときには、もう次の一手を考え始められます。年末のひとときに、ご自分に関係する行だけでも眺めてみてください。

改正案は、来年の国会審議や通達の改正で内容が固まっていきます。当事務所では、大家さんごとの影響の試算と、2026年以後の申告・相続対策の見直しをお手伝いしています。お気軽にご相談ください。

 

出典・参考

  • 自由民主党・日本維新の会「令和8年度税制改正大綱」(2025年12月19日)
  • 自由民主党「『強い経済』への決断と実行 令和8年度与党税制改正大綱を決定」(2025年12月19日)
  • 国税庁 タックスアンサー2070「青色申告制度」、No.2072「青色申告特別控除」、No.3226「低未利用土地等を譲渡した場合の長期譲渡所得の特別控除」(タックスアンサーはいずれも2025年12月時点の内容を参照)
  • 租税特別措置法第28条の2(中小事業者の少額減価償却資産)・第67条の5(中小企業者等の少額減価償却資産)
  • 国税庁「令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について」