東雲結子:石井先生、ついに海外赴任の辞令が出ました! 来年の春から3年間です。マンションは会社の社宅として貸したままにするので、空港からは身軽に飛び立てます!

税理士石井:おめでとうございます。ただ、うーん、身軽に飛び立てるのは東雲さんだけかもしれません。1年以上の予定で海外に転勤すると、一般的には出国の翌日から「非居住者」です。そうなると、社宅として借りている会社のほうに、家賃から20.42%を源泉徴収して納める義務が生じるんです。

東雲結子:えっ、私が飛行機に乗ると、借りている会社の経理の方にお仕事が増えるんですか?

税理士石井:ええ。月20万円の家賃なら、毎月40,840円を差し引いて、東雲さんに届くのは159,160円。1年分なら、源泉徴収される税額は490,080円になります。

東雲結子:おっと(汗)。私より先に、家賃のほうが税関で足止めされています……。

税理士石井:ふふ、足止めされた分も、置き去りにはなりません。翌年に日本で確定申告をすれば、源泉徴収された税金は精算されます。記事の例では、その大部分が還付で戻ってきます。

東雲結子:よかった! じゃあ確定申告は、3年後に帰国してからまとめて……。

税理士石井:ははは、それだと申告書が3年分、空港の手荷物受取所でぐるぐる回り続けますね。非居住者になっても、日本の家賃収入は、翌年に日本で確定申告が必要です。だから出国の前に、日本に住む「納税管理人」を決めて、税務署に届け出ておくんです。

東雲結子:なるほど……。マンションに管理会社がいるように、税金にも日本での窓口役が要るんですね。

税理士石井:そういうことです。借主の源泉徴収から、翌年の確定申告、出国する年の申告と住民税まで、出国前に決めておきたいことを順番に整理していきましょう。

「来年の春から3年間、海外赴任が決まりました。マンションは会社の社宅として貸したままにするつもりです」

荷造りや家族の手続に追われるなかで、日本に残すマンションの税金まで気が回らないのは、無理もないことだと思います。けれど、ここを出国前に整えておくかどうかで、赴任してからの手間がまるで違ってきます。

大家さんが海外に住むことになると、日本の家賃収入の税金は「誰が」「いつ」「どうやって」払うのかが変わります。しかも、手続が必要になるのは大家さんだけではありません。借りている側(借主)にも、家賃から税金を差し引いて納める義務が生じることがあります。海外赴任で日本を離れる大家さんの家賃は、借主しだいで必要になる源泉徴収、翌年の確定申告、出国する年の申告と住民税が、ひと続きにつながっているのです。

この記事では、海外に住む大家さん(非居住者)に家賃を払う借主の源泉徴収と、非居住者になった大家さんの確定申告、源泉徴収された税金の精算、そして海外赴任の前に決めておきたい納税管理人と、出国する年の申告、住民税を、具体的な数字で整理します。出国してからでは手が届きにくいことばかりですから、辞令が出たら、荷造りのリストと並べて読んでいただけたらうれしいです。

※この記事は2025年12月時点の法令と国税庁・総務省の公表資料にもとづいています。

源泉徴収は借主しだい、確定申告は大家さん。海外赴任で役割はこう分かれる

誰が・どんな場面 ポイント
借主が法人、または事業用に借りる個人 非居住者の大家さんに払う家賃から20.42%を源泉徴収し、支払った月の翌月10日までに納付
借主が、自分や親族の住まいとして借りる個人 源泉徴収は不要
非居住者の大家さん 日本の家賃収入は、翌年に日本で確定申告(ほかの所得と合算する総合課税)。源泉徴収された税金は申告で精算
海外赴任の前 納税管理人を決めて、税務署に届け出る
住民税 1月1日に日本に住所があるかどうかで、その年度の課税が決まる

同じ「家賃」でも、借主がどんな相手で、どう使っているかによって、源泉徴収が必要かどうかが分かれます。大家さんの側でやることは、翌年の確定申告と、出国前の納税管理人の届出。そして住民税だけは、所得税とは別の物差しである「1月1日の住所」で決まります。表の上から順に、ひとつずつ見ていきましょう。

海外転勤が1年以上の予定なら、一般的には出国の翌日から「非居住者」

所得税では、国内に住所がある人、または現在まで引き続き1年以上居所がある人を「居住者」、それ以外の人を「非居住者」といいます。会社員が1年以上の予定で海外の支店などに転勤すると、一般的には国内に住所がないと推定され、出国の翌日から非居住者になります。

ここで押さえておきたいのは、「いつから非居住者か」が、大家さん自身の税金だけでなく、借主が源泉徴収を始めるタイミングにもつながることです。後で見るとおり、借主が法人などの場合は、途中で大家さんが非居住者になれば、その後に支払う家賃から源泉徴収が必要になります。辞令に書かれた赴任期間と、出国の予定日。この二つが、すべての手続の起点です。

なお、国家公務員・地方公務員の本人は海外勤務中も居住者として扱われますが、一緒に出国する配偶者は公務員でなければ非居住者になります。国税庁の質疑応答事例では、公務員の夫と出国した妻が持つ建物を事務所として借りている法人は、家賃の源泉徴収が必要とされています。

この事例は、物件の名義が誰になっているかで結論が変わることを教えてくれます。ご夫婦で海外へ行く場合は、「赴任するのは誰か」だけでなく、「物件を持っているのは誰か」も、一緒に確かめておいてください。

借主が法人なら、社宅として貸していても家賃から20.42%を源泉徴収する

非居住者から日本国内の土地や建物を借りて、国内で賃料を払う人は、個人・法人を問わず、支払のときに所得税と復興特別所得税(合計20.42%)を差し引いて納めなければなりません(所得税法161条1項7号、212条1項)。

借主と使い方 源泉徴収
法人(事務所・店舗、社員の社宅として借上げ、転貸用の借上げなど) 必要
個人(店舗・事務所など事業用) 必要
個人(自分や親族の住まい) 不要

ポイントは、社宅(実際に住むのは社員)でも、借主が法人なら源泉徴収が必要になることです。源泉徴収が不要になるのは、借主が個人で、自分や親族の住まいとして借りる場合に限られます(所得税法施行令328条)。

「人が住んでいるのだから、住まいの扱いになるのでは」と考えたくなるところですが、ここでまず見るのは「誰が借りているか」です。部屋で暮らしているのが社員さんでも、契約の相手が会社なら、源泉徴収が必要になります。赴任前に借主の顔ぶれを思い浮かべて、法人や事業用の借主がいないかを確かめておきましょう。

月20万円の家賃なら、毎月40,840円が差し引かれる

項目 金額
毎月の家賃 200,000円
源泉徴収する税額(20万円×20.42%) 40,840円
大家さんに支払う額 159,160円
1年間の源泉徴収税額 490,080円

大家さんの目線で見ると、この表は「毎月の手取りが変わる」という話でもあります。口座に届くのは159,160円。物件のローンを家賃から返済している方は、返済に回せるお金がそのぶん少なくなります。源泉徴収された分は翌年の確定申告で精算できますが、それまでのあいだの資金繰りは、手取りの金額で組んでおくと安心です。

下の図は、この月20万円の例で、お金と税金がどう流れるかをまとめたものです。左上の借主(法人や、事業用に借りる個人)は、家賃から20.42%を差し引いた159,160円を、右上の海外に住む大家さんに支払います。差し引いた40,840円は、支払った月の翌月10日までに借主が税務署へ納めます(年間では490,080円)。大家さんは申告・納税の手続を国内の納税管理人に任せ、納税管理人が翌年の確定申告で、源泉徴収税額との差額を還付または追加納付で精算します。図の上の枠にあるとおり、個人が自分や親族の住まいとして借りる場合は源泉徴収は不要で、家賃は全額が大家さんに届きます。

源泉徴収した税金は、原則として支払った月の翌月10日までに納めます。給与などで使われる「納期の特例」(半年ごとにまとめて納付)は、給与・退職金や税理士などの報酬に限られているため、家賃の源泉徴収税額は毎月納めます。また、国内に住所や事務所がある借主が国外で支払う場合も源泉徴収が必要で、その場合の期限は支払った月の翌月末日です。

借主の会社にとっては、毎月の納付がひとつ増えることになります。長くお付き合いのある借主さんほど、こちらから早めにひと声かけておきたいところです。

出国日は、大家さんの側から借主に知らせておく

借主が法人のときには、気をつけたいことがいくつかあります。

まず、途中で大家さんが非居住者になった場合、その後に支払う家賃から源泉徴収が必要です。とはいえ、借主の側からは、大家さんがいつ出国したのかは見えにくいものです。大家さん側から、出国日を借主に知らせておきましょう。

源泉徴収をしないまま、借主が税金を納めた場合は、原則としてその後の家賃から差し引くか、大家さんに請求できます。知らせ忘れると、借主さんに手間をかけたうえ、後から家賃が差し引かれたり請求されたりする形で、大家さんの側に戻ってくることがあるわけです。

それから、管理会社が家賃を集金して大家さんに送金する形の場合、誰が源泉徴収の手続をするかは契約の形によって確認が必要です。「管理会社に任せているから大丈夫」と思い込まず、出国前に一度、管理会社とも話をしておいてください。

大家さんは翌年に日本で確定申告して、源泉徴収された税金を精算する

非居住者になっても、日本にある不動産を貸して得た所得は、日本で確定申告が必要です。不動産所得の計算方法は、日本に住んでいたときと同じです。源泉徴収された税金は、確定申告で差し引いて精算します。

1年を通じて非居住者の場合、使える所得控除は基礎控除・雑損控除・寄附金控除に限られます。2025年分の基礎控除は、合計所得金額2,350万円以下なら58万円です。所得に応じて基礎控除を最大95万円まで上乗せする特例は、居住者だけが対象です。

日本に住んでいたころに使えていた控除の多くが、使えなくなるということです。同じ感覚で税額を見積もっていると、計算が合わなくなりますから、ここは頭を切り替えておきましょう。

月20万円の社宅の例では、源泉徴収された税金の大部分が戻ってくる

すでに海外に住んでいる大家さんの例です。2025年を通じて非居住者、家賃収入は年240万円、必要経費(減価償却費・固定資産税・管理費など)は100万円、ほかに日本の所得はないものとします。

項目 金額
不動産所得(240万円−100万円) 1,400,000円
基礎控除 580,000円
課税所得 820,000円
所得税(5%) 41,000円
復興特別所得税(所得税の2.1%) 861円
年税額 41,861円
源泉徴収された税額 490,080円
還付される額 448,219円

※ほかの所得控除や、住んでいる国での課税は考慮していません。

この例では、申告をすれば源泉徴収された税金の大部分が戻ってきます。反対に、借主が個人の住まい用で源泉徴収がない場合は、申告して納税します。2025年分の確定申告期間は、2026年2月16日(月)から3月16日(月)までです。

なぜこれほど戻ってくるのか。源泉徴収の20.42%は、家賃の額そのものにかかっています。ところが確定申告では、家賃から減価償却費や固定資産税、管理費などの必要経費を引き、さらに基礎控除を差し引いた課税所得に税率がかかります。表の年税額が41,861円にとどまるのは、そのためです。

裏を返せば、申告をしなければ、448,219円は戻ってきません。必要経費が多いほど課税所得は小さくなるので、領収書をきちんと残しておくことが、そのまま還付の額を支えることにもなります。

海外赴任の前に、納税管理人を決めて税務署に届け出る

非居住者が確定申告書の提出や、税務署からの書類の受取り、納税・還付金の受取りをするには、日本国内に住む人の中から納税管理人を定めます(国税通則法117条)。納税管理人は、家族などの個人でも、税理士法人などの法人でもかまいません。決めたら、納税地の税務署に納税管理人の届出書を出します。届出をすると、税務署からの書類は納税管理人に届くようになります。

遠方の物件に地元の管理会社が欠かせないように、海外にいながら申告や還付の手続を進めるには、日本側の窓口が欠かせません。ご家族にお願いするにしても、税理士法人に頼むにしても、書類をどう受け渡すかまで、出国前に話し合っておくと心強いと思います。

出国する年の申告は、納税管理人を決めてから出国するかどうかで変わる

納税管理人を定めて出国した 納税管理人を定めずに出国した
1月1日〜出国日の所得 翌年2月16日〜3月15日に、出国後の家賃とまとめて申告 出国の時までに申告(準確定申告)
出国の翌日〜12月31日の家賃 上と同じ申告に含める 出国後に納税管理人を定め、翌年の申告期間に、出国前の所得とあわせて申告

翌年の申告では、出国前(居住者の期間)のすべての所得と、出国後(非居住者の期間)の日本の家賃などの所得を合計して税額を計算します。出国前の慌ただしい時期に申告まで済ませるのは大変です。家賃収入が続くなら、出国前に納税管理人を決めておくのが現実的です。

表の右の列のとおり、納税管理人を決めずに出国すると、出国の時までに準確定申告をしたうえで、出国後も家賃が入るなら、翌年にもう一度申告することになります。荷造りに追われる時期に、年の途中で帳簿を締めて申告書を仕上げるのは、正直なところ、かなりの負担です。

住民税は、1月1日にどこに住んでいるかで決まる

個人住民税は、その年の1月1日に住所がある市区町村で、前年の所得に対して課税されます。たとえば2026年3月に出国する場合、2026年1月1日には日本に住んでいるので、2026年度の住民税(2025年の所得分)は課税され、出国後も納付が続きます。納め方は市区町村に確認しておきましょう。2027年1月1日に海外に住んでいれば、2027年度の住民税の所得割は課税されません。

住民税は「前年の所得に対して、その年度に」かかる税金なので、日本を離れたあとにも納付が続く年度があります。所得税とは時間の流れ方が少し違うのです。出国後に届く通知に慌てないよう、納め方は出国前に確かめておくと安心です。

なお、非居住者から不動産を「買う」ときの源泉徴収については、当ブログの「不動産の売主が外国人だった場合の盲点」(2025年8月21日)で解説しています。

出国前の準備は、出国日と借主の一覧づくりから

まずは、出国の予定日と、赴任期間が1年以上になるかを確かめてください。非居住者になるのか、なるならいつからなのか。ここが決まらないと、ほかの手続も決められません。

次に、借主ごとに、法人か個人か、事業用か住まいかを一覧にします。法人や事業用の借主がいれば、その借主と管理会社に、出国日と源泉徴収が必要になることを伝えておきましょう。

そのうえで、納税管理人を決め、税務署に届け出る準備を進めます。出国する年の申告を、出国前に行うのか、翌年に納税管理人が行うのかも、ここで決めておきたいところです。住民税の納め方は、市区町村に確認を。そして最後に、必要経費の領収書や源泉徴収の明細を、納税管理人と共有できるようにしておいてください。ここまで整えば、海外にいても、翌年の申告を落ち着いて迎えられるはずです。

日本側の窓口を出国前に整えれば、家賃の税金は海外からでも回る

非居住者の大家さんへの家賃は、借主が法人や事業用の個人なら20.42%を源泉徴収し、翌月10日までに納付します。個人が自分や親族の住まいとして借りる場合は、源泉徴収は不要です。大家さんは翌年に日本で確定申告し、源泉徴収された税金を精算します。多すぎた分は還付です。海外赴任の前には納税管理人を届け出ておきましょう。出国する年の申告方法は、納税管理人の有無で変わります。そして住民税は、1月1日の住所で課税が決まります。

大家さんが日本を離れても、物件は日本に残り、入居者さんの暮らしも、家賃の税金も、そのまま続いていきます。借主・管理会社・納税管理人という日本側の窓口を出国前に整えておけば、赴任先での新しい仕事と暮らしに、安心して集中できるはずです。

海外赴任が決まったら、出国前の準備が肝心です。当事務所では、海外に住む大家さんの納税管理人の引受けや確定申告、借主側の源泉徴収のご相談をお受けしています。お気軽にご相談ください。

 

出典・参考

  • 国税庁 タックスアンサー2880「非居住者等に不動産の賃借料を支払ったとき」、No.2875「居住者と非居住者の区分」、No.2505「源泉所得税及び復興特別所得税の納付期限と納期の特例」(2025年12月時点の内容を参照)
  • 国税庁 タックスアンサー1926「海外勤務中に不動産所得などがある場合」、No.1923「海外勤務と納税管理人の選任又は解任」(2025年12月時点の内容を参照)
  • 国税庁 リーフレット「非居住者等から不動産を『借りた』場合の源泉徴収」(令和7年9月、令和7年9月1日現在の法令にもとづく)
  • 国税庁 質疑応答事例(源泉所得税)「外国に居住する公務員の妻に支払う家賃」
  • 国税庁「令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について」
  • 所得税法第161条第1項第7号・第164条・第165条・第212条・第213条、所得税法施行令第328条、国税通則法第117条
  • 総務省「個人住民税」(やさしい地方税)