東雲結子:石井先生、年末に帰省したら、実家で家族会議を開くことになりました。議題は、父のアパートが建っている土地のことです。資料の表紙は、もう完成しています!
税理士石井:表紙から仕上げるところが、東雲さんらしいですね。中身はどうなっていますか?
東雲結子:一枚目に大きく「小規模宅地等の特例で、自宅と同じく8割引き!」と書きました。これで家族みんなが笑顔です。
税理士石井:うーん、その一枚で会議を終えると、あとで笑顔が少し引きつるかもしれません。アパートの敷地は「貸付事業用宅地等」という区分で、減額は50%、面積は200㎡までなんです。
東雲結子:えっ、8割引きのつもりが半額に……。しかも200㎡で売り切れですか。
税理士石井:ええ。それでも計算例では、相続税の総額が1,064万円少なくなる大きな特例です。ただ、相続開始前3年以内に新たに貸し始めた土地は原則として対象外。相続したあとも、土地を取得した親族が申告期限まで貸付事業を続けて、土地を持ち続ける必要があります。
東雲結子:あっ……。資料の最後に「相続したらすぐ売って、みんなで分けよう」というページを作ってしまいました。
税理士石井:ははは、そのページは会議の前に、そっとしまっておきましょう。貸付事業用宅地等は、「貸し出し中」の札がかかった土地にだけつく割引のようなものです。札をかけたばかりでも、早々に外してしまっても、割引から外れるおそれがあります。
東雲結子:なるほど……。割引を受けるには、「貸している」状態をきちんと続けることが大事なんですね。
税理士石井:そういうことです。評価額の計算から、3年以内の制限と例外、自宅と組み合わせるときの調整式まで、家族会議に持っていける形で整理していきましょう。
「アパートの敷地も、自宅の土地と同じように8割引きになるんですよね?」
相続のご相談で、こんな質問をいただくことがあります。答えは「割引はあるけれど、50%で、面積は200㎡まで」。しかも、貸し始めた時期や相続後の使い方によっては、まったく使えないこともあります。
この記事では、小規模宅地等の特例のうち、アパート・貸家・駐車場などの敷地が対象になる「貸付事業用宅地等」を取り上げます。評価額がいくら下がり、相続税がどれくらい変わるのかを計算例で確かめたうえで、相続開始前3年以内に貸し始めた土地の制限とその例外、自宅の土地と組み合わせるときの面積の調整、そして同族会社に貸している土地の扱いを、順に整理していきます。
相続の話は、親子のあいだでも切り出しにくいものです。けれど、この特例は相続が起きた日だけで決まるものではありません。その前に土地をどう使ってきたか、その後に家族がどう使うかで、使えるかどうかが分かれます。家族が元気に集まれるうちに、この記事を一緒に眺めていただけたらうれしいです。
※この記事は2025年12月時点の法令と国税庁の公表資料にもとづいています。
貸付事業用宅地等は200㎡まで50%減。要件は相続の前にも後にもある
| ポイント | 内容 |
| 減額の内容 | 貸付事業に使っていた土地のうち、200㎡までの部分の評価額を50%減額 |
| 対象になる貸付け | 不動産貸付業・駐車場業・自転車駐車場業と、事業といえない規模でも相当の対価を得て継続的に行う貸付け(準事業)。無償の使用貸借は対象外 |
| 3年以内の制限 | 相続開始前3年以内に新たに貸し始めた土地は対象外(2018年4月1日以後の相続から)。ただし、3年を超えて事業的規模の貸付けを続けていた場合は対象 |
| 相続後の要件 | 取得した親族が、相続税の申告期限まで貸付事業を続け、土地を持ち続ける |
| ほかの区分との併用 | 自宅(特定居住用、330㎡・80%)や事業用(特定事業用等、400㎡・80%)と併用するときは、調整式で面積を計算 |
表の中で、まず目を留めてほしいのは「対象になる貸付け」の行です。不動産貸付業や駐車場業だけでなく、事業といえない規模でも、相当の対価を得て継続的に行う貸付け(準事業)なら対象になります。部屋数がそれほど多くない大家さんにとっても、無縁の特例ではないということです。
ところが、同じ行の最後には「無償の使用貸借は対象外」とあります。地代をもらわずに土地を使ってもらう形は、貸付事業には当たりません。同族会社のところで、あらためて触れます。
路線価40万円・300㎡のアパート敷地の例では、特例による減額は3,280万円
評価額が実際にどれくらい下がるのか、数字で確かめてみましょう。前提は、アパートの敷地300㎡、路線価40万円/㎡(補正はないものとします)です。借地権割合は60%、借家権割合は30%で、満室(賃貸割合100%)とします。
| 項目 | 計算 | 金額 |
| 自用地としての評価額 | 300㎡×40万円 | 1億2,000万円 |
| 貸家建付地の評価額 | 1億2,000万円×(1−60%×30%×100%) | 9,840万円 |
| 特例による減額 | 9,840万円×200㎡/300㎡×50% | 3,280万円 |
| 特例適用後の評価額 | 9,840万円−3,280万円 | 6,560万円 |
計算は二段階です。まず、人に貸しているアパートの敷地なので、1億2,000万円が貸家建付地として9,840万円になります。そのうえで、特例が使えるのは200㎡までなので、300㎡のうち200㎡にあたる部分だけを50%減額します。
貸家建付地の式の最後にある「×100%」は賃貸割合で、ここでは満室を前提にしています。式の形からわかるとおり、この割合が小さくなれば、下がり幅も小さくなります。日ごろ気にかけている稼働率は、こんなところにも顔を出しているのです。
相続税の総額では、1,064万円の差になる
この土地を含めた遺産の課税価格の合計が2億5,000万円、相続人は子2人(法定相続分どおりに取得)とします。
| 特例なし | 特例あり | |
| 課税価格の合計 | 2億5,000万円 | 2億1,720万円 |
| 基礎控除(3,000万円+600万円×2人) | 4,200万円 | 4,200万円 |
| 課税遺産総額 | 2億800万円 | 1億7,520万円 |
| 子1人分(法定相続分2分の1) | 1億400万円×40%−1,700万円=2,460万円 | 8,760万円×30%−700万円=1,928万円 |
| 相続税の総額 | 4,920万円 | 3,856万円 |
※ほかの特例・税額控除、端数処理は考慮していない概算です。
相続税の総額は1,064万円少なくなります。減額の3,280万円で課税価格の合計が下がり、子1人分の計算で使う税率も40%から30%の段階に下がっているのが、表から読み取れます。
家族にとって、決して小さな金額ではありません。だからこそ、ここから先の「使えなくなる条件」を先に知っておいてほしいのです。
相続開始前3年以内に貸し始めた土地は、原則として対象外
2018年4月1日以後の相続から、相続開始前3年以内に新たに貸付事業に使い始めた土地は、原則として対象外になりました。たとえば、亡くなる2年前に空き地にアパートを建てて貸し始めた場合は、この制限に当たります。
「相続税対策にアパートを建てよう」と考えるとき、目はつい利回りや借入れの条件に向かいます。けれど、この特例では建てる時期そのものが、使えるかどうかを左右します。
ここでいう「新たに」は、空き地のように何も利用していなかった土地や、貸付け以外に使っていた土地を、貸付けに使い始めた場合を指します。賃貸借契約の更新は「新たに貸し始めた」ことにはなりません。入居者の退去後すぐに次の入居者を募集し、その間ほかの用途に使っていない場合の一時的な空室も同様です。
更新や退去、次の入居者の募集は、大家業の日常そのもの。そのたびに数え直しにならないのは、ほっとできるところです。ただし、空室の間に物置として使うなど、ほかの用途に回してしまうと、この「一時的な空室」の説明には当てはまらなくなります。
なお、すでに賃貸中の物件を3年以内に買った場合の扱いは、個別にご確認ください。
例外は、3年を超えて「事業的規模」で貸していた場合
被相続人等(被相続人と、被相続人と生計を一にしていた親族)が、相続開始の日まで3年を超えて特定貸付事業(準事業以外の貸付事業)を続けていた場合は、3年以内に貸し始めた土地も対象になります。
特定貸付事業は、つまり事業的規模の貸付けのことです。所得税の考え方と同じく、アパートなどはおおむね10室以上、独立した家屋はおおむね5棟以上が目安です(実質で判定します)。
ここで数えるのは、新しく貸し始めた土地の年数ではなく、被相続人等が事業的規模の貸付けをどれだけ続けてきたか、という期間です。長年コツコツと賃貸経営を続けてきた方の新しい土地まで、一律に締め出すわけではない、ということですね。
| 被相続人等の貸付けの規模 | 3年以内に貸し始めた土地 |
| 3年を超えて事業的規模(特定貸付事業)で貸していた | 対象になる |
| 事業的規模になってから3年以内 | 対象外 |
| 事業的規模に満たない(準事業) | 対象外 |
「おおむね」「目安」という言葉がついているとおり、事業的規模かどうかは実質で判定されます。部屋数がぎりぎりのところにある方は、早めに確かめておくと安心です。
ここまでの流れを、4つの質問のフローチャートにまとめました。上から「はい」「いいえ」でたどってみてください。2つ目の質問(3年以内の新たな貸付け)で「はい」になると、右側の例外の枠に進み、3年を超えて事業的規模の貸付けを続けていたかどうかで分かれます。3つ目と4つ目は、相続のあとの要件です。

相続のあとは、申告期限まで「貸し続け」「持ち続ける」
特例を使うには、土地を取得した親族について、相続後にも要件があります。
| 土地の使い方 | 要件 |
| 被相続人が貸していた土地 | 申告期限までに被相続人の貸付事業を引き継ぎ、申告期限まで続けること、申告期限まで土地を持ち続けること |
| 生計を一にする親族が貸していた土地 | その親族が相続開始前から申告期限まで自分の貸付事業を続けること、申告期限まで土地を持ち続けること |
相続税の申告期限は、亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内です。それまでに売却したり、建物を取り壊して更地にしたりすると、要件を満たせなくなるおそれがあります。
10か月というのは、思っているよりずっと短い時間です。相続のあと、「古くなったアパートを建て替えたい」「売ってきれいに分けたい」という声が家族から出ることもあるでしょう。そのときは、動き出す前に一度、申告期限と特例の要件との関係を確かめてください。
また、申告期限までに遺言や遺産分割で土地を取得する人が決まっていないと、特例を使わずにいったん申告します。このとき申告書と一緒に「申告期限後3年以内の分割見込書」を出しておけば、申告期限から3年以内に分割したときに、分割があったことを知った日の翌日から4か月以内に更正の請求をして特例を使えます。見込書を出していないと、後から特例を使えなくなるおそれがあります。
話し合いに時間がかかるのは、どのご家庭にも起こりうることです。まとまらないこと自体を責める必要はありません。ただ、見込書を出しておくかどうかが、後から特例を使える道を残せるかどうかに関わってきます。ここは、ぜひ覚えておいてください。
自宅の土地と組み合わせるなら、調整式で200㎡の枠を分け合う
貸付事業用宅地等を使う場合、ほかの区分とあわせて、次の式で面積が200㎡以内に収まるように選びます。
特定事業用等の面積×200/400+特定居住用の面積×200/330+貸付事業用の面積≦200㎡
式だけを見ると身構えてしまいますが、200㎡という一つの枠を、ほかの区分と分け合うイメージです。特定事業用等は200/400、特定居住用は200/330の重みで、この枠を使っていきます。
たとえば、自宅の敷地165㎡に特定居住用(80%減額)を使うと、165㎡×200/330=100㎡なので、貸付事業用で使えるのは残りの100㎡です。
先ほどのアパート(1㎡あたり32.8万円)と、路線価30万円/㎡・165㎡の自宅で比べると、次のようになります。
| 選び方 | 減額される金額 |
| アパートの敷地だけ(200㎡×32.8万円×50%) | 3,280万円 |
| 自宅の敷地だけ(165㎡×30万円×80%) | 3,960万円 |
| 自宅165㎡+アパート100㎡(100㎡×32.8万円×50%=1,640万円) | 5,600万円 |
この例では、どちらか一方だけを選ぶより、自宅の165㎡に使ったうえで残りの100㎡をアパートの敷地に使うほうが、減額が大きくなりました。
1㎡あたりの評価額と減額割合によって、どの土地から使うと有利かが変わります。特定居住用には配偶者や同居親族が取得するといった別の要件もあるので、使えるかどうかを確認したうえで組み合わせを比べましょう。
物件ごとの収支を並べて、どこに修繕費をかけるといちばん効くかを考えるときと、少し似ています。家族会議の場でも、この表のような比較が一枚あるだけで、話がぐっと具体的になるはずです。
資産管理法人に貸している土地は、「80%減額」とは限らない
資産管理法人などの同族会社に土地を貸している場合は、法人がその土地を何に使っているかで区分が変わります。
| 法人の使い方 | 区分 |
| 法人の事業(不動産貸付業・駐車場業などを除く)に使っている | 特定同族会社事業用宅地等(400㎡・80%)。申告期限に取得者がその法人の役員であることなどが必要 |
| 法人の不動産貸付業などに使っている(法人がアパートを持っている場合など) | 特定同族会社事業用宅地等にはならず、貸付事業用宅地等(200㎡・50%) |
| 地代を受け取らず、無償で貸している | 貸付事業ではないため、特例の対象外 |
ここでいう同族会社は、相続開始の直前に、被相続人とその親族などが発行済株式の50%超を持っている法人です。資産管理法人は不動産貸付業を営んでいることが多いので、「80%減額になる」と思い込まないよう注意しましょう。無償で土地を貸す場合のほかの注意点は、当ブログの「土地の無償貸与のデメリット」(2025年8月18日)もご覧ください。
土地は個人が持ち、その上のアパートは法人が持って賃貸経営をしている。よく見かける形ですが、これは表の2行目にあたり、区分は貸付事業用宅地等(200㎡・50%)です。もし地代を受け取っていなければ、3行目のとおり特例の対象外になってしまいます。「家族の会社だから」と地代をあいまいにしてきた方は、この機会に取り決めを見直してみてください。
家族会議の前に、土地ごとの「履歴書」をつくっておく
まず、貸している土地ごとに、いつから貸付けに使っているかを書き出してみてください。3年以内の制限に当たるかどうかは、この日付から始まります。あわせて、被相続人等の貸付けが事業的規模(おおむね5棟10室)か、いつから事業的規模なのかも確認しておきましょう。例外が使えるかどうかは、ここで見えてきます。
同族会社に貸している土地があれば、地代の有無と法人の事業内容を確かめます。そのうえで、自宅・事業用・貸付用の土地の1㎡あたりの評価額を比べ、どの組み合わせが有利か試算してみてください。
数字の準備ができたら、いよいよ家族の出番です。相続後も申告期限まで貸付けを続け、土地を持ち続けられるかを、家族で話し合っておきましょう。そして、遺言や遺産分割の方針を決め、申告期限までに取得者が決まるよう準備しておくこと。間に合わない場合は、分割見込書を出すことも忘れないでください。
特例は「どの土地に、いつまで、どう使うか」で効き方が変わる
貸付事業用宅地等は、200㎡までの部分の評価額を50%減額できる特例です。計算例では、相続税が約1,064万円少なくなりました。ただし、相続開始前3年以内に新たに貸し始めた土地は対象外で、3年を超えて事業的規模で貸付けを続けていれば例外になります。相続のあとは、申告期限まで貸付事業を続け、土地を持ち続けることが条件です。自宅や事業用の土地と併用するときは調整式で面積を計算し、同族会社の不動産貸付業に使う土地は、50%減額の区分になります。
実家の土地は、数字だけでは語れない思い出がつまった場所でもあります。だからこそ、税金の話で家族の気持ちがすれ違わないよう、早めに「土地ごとの事情」を共有しておくことが、何よりの備えになると私は思います。
小規模宅地等の特例は、どの土地にどう使うかで相続税が大きく変わります。当事務所では、地主さん・大家さんの土地ごとの評価と、特例の組み合わせの試算をお手伝いしています。お気軽にご相談ください。
出典・参考
- 国税庁 タックスアンサー4124「相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)」、同「小規模宅地等の特例に関するQ&A」(事業的規模でない不動産貸付けの場合)(タックスアンサーはいずれも2025年12月時点の内容を参照)
- 国税庁 タックスアンサー4208「相続財産が分割されていないときの申告」、No.4152「相続税の計算」、No.4155「相続税の税率」、No.4614「貸家建付地の評価」、No.1373「事業としての不動産貸付けとそれ以外の不動産貸付けとの区分」(2025年12月時点の内容を参照)
- 租税特別措置法第69条の4、租税特別措置法施行令第40条の2、租税特別措置法関係通達(相続税法の特例関係)69の4-24の3〜69の4-24の5
- 国税庁 税務手続の案内「相続税の申告書の提出期限から3年以内に分割する旨の届出手続」(申告期限後3年以内の分割見込書)
- 東京国税局 文書回答事例「市街地再開発事業により中断した貸付事業を相続開始前3年以内に再開した場合の小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例(租税特別措置法第69条の4)の適用について」































