東雲結子:石井先生、温泉旅館のパンフレットをもらってきました! アパートの1年目は赤字100万円の見込みなので、確定申告で税金がたっぷり戻ってきます。その還付金で、春は家族旅行です!
税理士石井:いいですね。うーん、ただ、宿のお部屋のランクは、申告が終わるまで決めないほうがいいかもしれません。赤字100万円の全部を、給与と差し引けるとは限らないんです。
東雲結子:えっ、赤字なのに、全部は使わせてもらえないんですか?
税理士石井:ええ。赤字のうち「土地を買うための借入金の利子」に当たる部分は、給与と損益通算できないルールがあるんです。この記事の会社員大家さんの例だと、土地の分の利子が30万円。通算できるのは、100万円から30万円を引いた70万円です。
東雲結子:おっと(汗)。土地の利子だけ、旅行に連れていけないんですね……。じゃあ、その30万円は来年の旅行用に取っておきます!
税理士石井:それがですね、通算できなかった部分は「なかったもの」とされるので、翌年以後に繰り越すこともできないんです。
東雲結子:お留守番どころか、最初からいなかったことに……。パンフレットの「露天風呂付き客室」に、そっと付箋を貼り直します。
税理士石井:ははは。この例では、制限がない場合に比べて、税金の減り方が9万1,300円小さくなります。賃貸でいえば、満室想定の家賃だけで返済計画を立てるようなもの。見込みは、引かれるものを引いてから立てるのが安心です。
東雲結子:なるほど……。でも、土地と建物をまとめてローンで買ったら、どこまでが土地の分かなんて、分けようがない気がします。
税理士石井:いい質問ですね。一つの契約で同じ売主から買って区分が難しいときは、借入金を「まず建物に充てた」として計算できます。大家さんに有利な計算で、この例では按分より通算できる赤字が6万円多くなるんです。旅行の予算を決める前に、数字で確かめていきましょう。
「アパートを買って最初の年は、減価償却費とローンの利息で赤字。その赤字を給与と差し引けば、源泉徴収された税金が戻ってくるんですよね?」
はい、不動産所得の赤字は、給与所得などと差し引きできます(損益通算)。ただし、赤字の全部ではありません。赤字のうち「土地を買うための借入金の利子」に当たる部分は、差し引けないルールがあるからです。
会社員として働きながら物件を持つ大家さんにとって、不動産所得の赤字と給与の損益通算は、いちばん身近な税金の話題かもしれません。ところが、この土地の借入金利子の制限は、物件を買う前の収支のシミュレーションでは見落とされがちです。土地付きの物件をローンで買った方なら、赤字の年には誰にでも関係しうる話なのに、です。
この記事では、会社員の大家さんを例に、2025年分の確定申告で損益通算できる金額と、税金への影響を計算してみます。
※この記事は2025年12月時点の法令と国税庁の公表資料にもとづいています。
不動産所得の赤字は給与と通算できる。ただし土地の利子の分は除かれる
| ポイント | 内容 |
| 損益通算 | 不動産所得の赤字は、給与所得などの黒字から差し引ける(所得税法69条) |
| 通算できない部分 | 赤字のうち、土地等を取得するための借入金の利子に相当する部分(租税特別措置法41条の4) |
| 土地と建物を一括で借入れ | 借入金は「まず建物の購入に充てた」として計算できる(租税特別措置法施行令26条の6第2項) |
| 国外の中古建物 | 2021年分以後、簡便法などで計算した減価償却費に相当する赤字は通算できない |
| 通算しても残る赤字 | 青色申告なら翌年以後3年間繰り越せる |
表の中で、計算の結果をいちばん大きく左右するのは、2行目と3行目です。通算できない部分がある一方で、借入金の充て方しだいで、その部分を小さくできる。この記事の数値例は、まさにこの2行の話です。最後の行の繰越しは、青色申告が前提になっていることも覚えておいてください。
赤字かどうかは、すべての物件を合算してから判断する
不動産所得は、すべての物件の収入から必要経費を差し引いて計算します。物件ごとに黒字と赤字があっても、まず不動産所得の中で合算し、それでも赤字が残れば、給与所得などと差し引きできます(所得税法69条)。
物件ごとの収支を見ていると「このアパートは赤字だから」と考えたくなりますが、税金の上では、まずすべての物件の財布をひとつにまとめる。そのうえで、なお赤字が残ったときにはじめて、給与との差し引きの話になります。
ただし、次の2点に注意しましょう。
ひとつは、別荘のように、主に趣味・娯楽・保養などの目的で持っている不動産の貸付けによる赤字は、損益通算できないことです。人に貸していても、持っている目的がそちらにあるなら、給与などとは差し引けません。
もうひとつは、青色申告特別控除です。青色申告特別控除(65万円・55万円・10万円)は、不動産所得や事業所得などの黒字の合計額が限度です。ほかに事業所得などの黒字がなければ、不動産所得が赤字の年は控除できません。控除で赤字を増やすこともできません。ほかに事業所得などの黒字がない大家さんは、せっかく帳簿をきちんとつけていても、赤字の年には、この控除の出番がないということです。
不動産所得の赤字のうち、土地の借入金利子に当たる部分は通算できない
不動産所得の赤字のうち、必要経費に入れた「土地等を取得するために要した負債の利子」に相当する部分は、なかったものとみなされます(租税特別措置法41条の4)。計算は次のとおりです。
| 赤字と土地の利子の関係 | 損益通算できる金額 |
| 赤字 ≦ 土地等の借入金利子 | 0円(赤字の全部が通算できない) |
| 赤字 > 土地等の借入金利子 | 赤字 − 土地等の借入金利子 |
国税庁の「収支内訳書(不動産所得用)の書き方」でも、赤字が100、土地等の借入金利子が90なら、申告書第一表の不動産所得の欄には差額の△10を書く、という例が示されています。
赤字の9割が、給与との差し引きから外れてしまう。数字にしてみると、この制限の重さが実感できると思います。
ポイントは、制限されるのは「不動産所得の赤字」の部分だけということです。黒字の物件と赤字の物件があれば、土地の利子も含めて不動産所得の中では差し引きできます。また、通算できなかった部分は「なかったもの」とされるので、翌年以後に繰り越すこともできません。
「なかったもの」という言葉は、少し冷たく響きますね。ただ、裏を返せば、不動産所得が黒字であるかぎり、土地の利子もほかの経費と同じように不動産所得の計算の中で働いている、ということでもあります。問題になるのは、赤字を給与などほかの所得と差し引こうとする場面だけです。
判定の流れを、フローチャートにまとめました。上から順に、不動産所得(すべての物件の合計)が赤字か、別荘など主に趣味・娯楽・保養の目的で持つ不動産の貸付けによる赤字か、必要経費に土地等を取得するための借入金の利子が入っているか、赤字が土地等の借入金利子以下か、という4つの質問をたどります。最後まで進むと「赤字−土地等の借入金利子」を通算できる、という答えにたどり着き、そこには、この記事の数値例と同じ「赤字100万円、土地の分の利子30万円なら70万円」という例も添えています。

土地と建物を一括で借りたら、借入金は「建物から先に」充てられる
中古アパートを土地付きで買い、その代金をまとめて借り入れた場合、借入金のうちどこまでが土地の分かは、普通は区分できません。
そこで、一つの契約で同じ売主から土地と建物を買い、借入金を区分するのが難しい場合は、借入金はまず建物の購入に充て、残りを土地の購入に充てたものとして計算できます(租税特別措置法施行令26条の6第2項)。建物の分を先に埋めるので、土地の分の借入金が少なくなり、大家さんに有利な計算です。
土地等の借入金利子=その年の借入金利子×(借入金−建物の購入代金)÷借入金
イメージとしては、借入金という水を、まず「建物」のコップに注ぎ、あふれた分だけが「土地」のコップに入る、という順番です。土地のコップに入る水が少ないほど、通算できない利子も小さくなります。この計算を使えるかどうかは、売買契約書と金銭消費貸借契約書で、契約の形と借入金の使い道を確かめるところから始まります。
会社員大家さんAさんの2025年分で、通算できる赤字を計算する
Aさんは会社員で、給与収入は1,000万円(給与所得805万円)、社会保険料は150万円、ほかの所得控除は基礎控除だけです。2023年に中古アパートを土地3,000万円・建物2,000万円で一括購入し、代金のうち4,000万円を借り入れました(土地と建物の区分なし)。2025年の家賃収入は360万円、必要経費は460万円(減価償却費250万円、借入金利子60万円、管理費・修繕費・固定資産税など150万円)です。不動産所得は360万円−460万円=△100万円になります。
赤字の内訳を見ると、いちばん大きいのは減価償却費です。その年にお金が出ていかない経費が大きいので、手元のお金の感覚と申告書の数字がずれやすい。購入して間もない会社員大家さんには、よくある形だと思います。
土地の分の利子は、特例なら30万円、按分なら36万円
| 計算方法 | 土地の分の借入金 | 土地等の借入金利子 | 通算できる赤字 |
| 建物から先に充てる(特例) | 4,000万円−2,000万円=2,000万円 | 60万円×2,000/4,000=30万円 | 100万円−30万円=70万円 |
| 購入代金の割合で按分 | 4,000万円×3,000/5,000=2,400万円 | 60万円×2,400/4,000=36万円 | 100万円−36万円=64万円 |
特例を使うと、通算できる赤字が6万円多くなります。
同じ物件、同じ借入金、同じ利子でも、計算のしかたひとつで差が出る。数字の大小はケースしだいですが、一括で借り入れた方は、両方の計算を並べて確かめておく価値があります。
特例で70万円を通算すると、通算しない場合との税金の差は212,900円
| 通算しない場合 | 特例で70万円を通算 | 按分で64万円を通算 | (参考)制限がなかったら100万円 | |
| 合計所得金額 | 805万円 | 735万円 | 741万円 | 705万円 |
| 課税所得金額(所得税) | 597万円 | 527万円 | 533万円 | 497万円 |
| 所得税+復興特別所得税 | 782,500円 | 639,600円 | 651,900円 | 578,300円 |
| 住民税(所得割、10%) | 612,000円 | 542,000円 | 548,000円 | 512,000円 |
| 通算しない場合との差 | - | 212,900円 | 194,600円 | 304,200円 |
※所得税の基礎控除は、どのケースも合計所得金額655万円超のため58万円。住民税の基礎控除は43万円。調整控除・税額控除は考慮していない概算です。
土地の利子の30万円が通算できないことで、制限がない場合に比べて税金の減り方が9万1,300円小さくなっています。給与の源泉徴収税額が戻ってくる金額を見込むときは、この制限を忘れないようにしましょう。
表のいちばん下の「通算しない場合との差」は、所得税(復興特別所得税を含む)と住民税の差を合わせた金額です。右端の参考の列と見比べてみると、土地の利子の分だけ、税金の減り方が小さくなっていることがよくわかります。物件を買う前の収支計画で「赤字の分だけ税金が戻る」と見込んでいた方は、ここで一度、計算をやり直してみてください。
国外の中古建物は、減価償却費の部分も通算できない
2021年分以後、国外にある中古建物の貸付けで不動産所得が赤字になった場合、その赤字のうち、耐用年数を簡便法などで計算した減価償却費に相当する部分は、なかったものとみなされます(租税特別措置法41条の4の3)。国内の物件の黒字とも、給与とも差し引けません。
その代わり、その建物を売ったときは、取得費から差し引く減価償却費の累計額から、通算できなかった金額を除いて計算します。海外の中古物件を持っている方は、売却まで見すえて記録を残しておきましょう。
土地の利子の制限では、不動産所得の中での差し引きまでは認められています。国外の中古建物は、国内の物件の黒字とも差し引けない点で、さらに一歩踏み込んだ制限です。何年も先の売却のときに必要になる数字ですから、毎年の申告書の控えと一緒に、通算できなかった金額をきちんと残しておいてください。
通算しきれない赤字は、青色申告なら翌年以後3年間繰り越せる
損益通算をしてもなお引ききれない赤字(純損失)は、青色申告をしていれば、翌年以後3年間繰り越して、各年の所得から差し引けます(所得税法70条)。前年も青色申告をしていて、赤字の年の確定申告書を期限内に出していれば、繰り越す代わりに前年分に繰り戻して所得税の還付を受けることもできます(所得税法140条)。白色申告では、繰り越せるのは災害による損失など一部に限られます。
まだ白色申告の方が2026年分から青色申告にするには、「青色申告承認申請書」を2026年3月16日(月)までに税務署に出します(原則は3月15日ですが、2026年は日曜日のため)。事業的規模にした場合のメリットは、当ブログの「賃貸経営を事業的規模にするメリット」(2025年7月31日)もご覧ください。
ここで大切なのは、繰越しの対象になるのは「損益通算をしてもなお引ききれない赤字」だということです。土地の利子の分のように「なかったもの」とされた部分は、そもそも繰越しの対象になりません。そのうえで、白色申告のままでは、災害による損失など一部を除いて、引ききれなかった赤字を翌年に持ち越せない。赤字が続きそうな方ほど、青色申告への切り替えを早めに考えておきたいところです。
年内に、返済予定表と契約書で利子の内訳を確かめる
まずは、2025年分の不動産所得が赤字になりそうか、年末までの収入と経費で見込みを立ててみてください。あわせて、借入金の返済予定表から、2025年中に支払った利子を確認します。
次に、土地と建物の購入代金、借入金の額と使い道(土地・建物の区分)を、売買契約書と金銭消費貸借契約書で確かめましょう。一括で借り入れた場合は、「建物から先に充てる」計算と按分の計算を並べて比べます。
あわせて、別荘など、損益通算できない貸付けがないかも確認を。国外の中古建物を持っている方は、簡便法の減価償却費の部分を分けて計算しておきます。そして、赤字が続きそうなら、2026年分からの青色申告(申請期限は2026年3月16日)を検討してください。
通算できる赤字は、購入代金と借入金の内訳で変わる
不動産所得の赤字は給与所得などと損益通算できますが、土地等を取得するための借入金の利子に相当する部分は通算できません。土地と建物を一括で借り入れて区分できないときは、借入金を建物から先に充てる計算ができ、通算できる赤字が増えます。国外の中古建物は、簡便法などによる減価償却費の部分の赤字も通算できません(2021年分以後)。そして、通算しきれない赤字の繰越しは、青色申告が条件です。
還付金の使い道を考えるのは、楽しいものです。その楽しみを春になってしぼませないためにも、年内のうちに、土地の利子がいくらになるのかを一度計算しておいてください。返済予定表と契約書を机に並べれば、答えはきちんと出てきます。
物件の購入代金と借入金の内訳によって、通算できる赤字は変わります。当事務所では、大家さんの確定申告で、損益通算の金額の計算や青色申告への切り替えをお手伝いしています。お気軽にご相談ください。
出典・参考
- 所得税法第69条(損益通算)、第70条(純損失の繰越控除)、第140条(純損失の繰戻しによる還付の請求)
- 租税特別措置法第41条の4(不動産所得に係る損益通算の特例)、同法施行令第26条の6、租税特別措置法第41条の4の3(国外中古建物の不動産所得に係る損益通算等の特例。売却したときの取得費の計算を含む)
- 国税庁 タックスアンサー1391「不動産所得が赤字のときの他の所得との通算」、No.2070「青色申告制度」、No.2072「青色申告特別控除」(タックスアンサーはいずれも2025年12月時点の内容を参照)
- 国税庁「令和6年分 収支内訳書(不動産所得用)の書き方」「令和6年分 青色申告決算書(不動産所得用)の書き方」































