東雲結子:石井先生、年末の帳簿づけ、ひとつ片づけました! 半年ずっと家賃の入金がないお部屋があるんですけど、入金ゼロなら収入もゼロ。そこは空欄にしておきますね。

税理士石井:うーん、東雲さん。通帳が空欄でも、税金の帳簿は空欄にしてくれないんです。家賃は、契約で決めた支払日の年分の収入。入金がなくても、支払日が2025年中に来ていれば、2025年分の収入に入れます。

東雲結子:えっ、もらってもいない家賃に税金がかかるんですか? お財布より先に、申告書だけがお金持ちになっていきます……。

税理士石井:ははは、申告書のほうは遠慮というものを知りませんからね。しかも、滞納家賃の支払を求めて裁判になっても、収入に入れる時期は支払日のままなんです。

東雲結子:おっと(汗)。じゃあ、結局回収できなかったら、税金だけ払い損ですか?

税理士石井:いいえ、そのための「貸倒れ」の処理があります。ただ、個人の大家さんは規模で道が分かれるんです。事業的規模なら、回収できなくなった年の必要経費。そうでなければ、収入にした年分にさかのぼって「なかったもの」にして、申告済みの年分なら、事実が生じた日の翌日から2か月以内に更正の請求です。

東雲結子:2か月……。お正月休みをはさんだら、うっかり過ぎてしまいそうです。

税理士石井:ええ、そこがこわいところです。それに「払ってもらえそうにない」だけでは、貸倒れにはできません。退去のときも、まず敷金を滞納家賃に充てて精算しますよね。税金の処理にも、ああいう順番があるんです。

東雲結子:なるほど……。まずは帳簿にきちんと載せて、回収できないと決まってから、正しい出口から出すんですね。

税理士石井:そういうことです。未収家賃の計上から、貸倒れと認められる場面、資産管理法人の場合まで、順番に見ていきましょう。

「半年分の家賃を払わないまま、入居者と連絡が取れなくなった。もらってもいない家賃に、税金までかかるんですか?」

滞納はそれだけでも大きな痛手ですが、税金の面でも「払ってもらえなかった家賃」をどう処理するかは、知らないと損をしやすいところです。しかも個人の大家さんは、貸付けの規模(事業的規模かどうか)で処理の方法がまったく違います。

大家業を長く続けていると、滞納は「いつか一度は向き合うもの」だと感じます。電話がつながらない、郵便受けに督促の封筒がたまっていく。そんな落ち着かない時期に、税金のことまで考える余裕はなかなかありません。それでも、滞納家賃が貸倒れになったときの処理には、順番と期限を押さえておけば使える仕組みが用意されています(事業的規模でない場合は、取り消せる金額に上限があります)。この記事では、未収家賃の収入計上から、回収できなくなったときの「貸倒れ」の処理まで、個人と法人に分けて整理します。

※この記事は2025年12月時点の法令と国税庁の公表資料にもとづいています。

未収の家賃はまず収入に。回収できなくなったら、規模に合った処理へ

ポイント 内容
未収の家賃 支払日が来た家賃は、受け取っていなくてもその年の収入
回収できなくなったら(事業的規模) 回収できなくなった年の必要経費(貸倒損失)
回収できなくなったら(事業的規模でない) 収入にした年分にさかのぼって「なかったもの」にする。申告済みの年分は、事実が生じた日の翌日から2か月以内に更正の請求
貸倒れと認められる場面 法的な手続などで切り捨てられた、全額回収できないことが明らかになった、取引をやめて1年以上支払がない など
法人 同じ考え方で損金に算入。中小法人は貸倒引当金も使える

表を上から読んでいくと、流れが見えてきます。まず、収入に入れる。回収できなくなったら、個人は規模によって「その年の経費にする」か「さかのぼって取り消す」かに分かれ、法人は損金にする。そして、そのあいだに挟まっている「貸倒れと認められる場面」が、実務ではいちばん判断に迷うところです。

受け取っていない家賃も、支払日が来たら収入

家賃は、契約で決めた支払日の年分の収入です(所得税基本通達36-5)。入金がなくても、支払日が2025年中に来ていれば、2025年分の収入に入れます。

通帳の残高と申告書の数字がずれるので、最初は違和感があるかもしれません。帳簿は「入ってきたお金」ではなく、「契約で約束された家賃」を記録していくもの。そう考えると、少し腑に落ちやすくなると思います。

滞納家賃の支払を求めて裁判になった場合でも、計上時期は支払日のままです。通達は、判決や和解の日に収入とする取扱いから「未払賃貸料の請求に関する係争」を除いているためです(判決・和解の日に収入とするのは、賃貸借契約があるかどうかなどを争った場合です)。

裁判になると、「決着がつくまでは保留にしておこう」と考えたくなるのが人情です。けれども、争っているのが「払われていない家賃を払ってほしい」という請求である限り、収入に入れる年は支払日の年のまま動きません。ここは誤解されやすいところなので、ぜひ覚えておいてください。

「まだもらっていないから、収入から外しておこう」とすると、後で回収できたときに申告漏れになります。まずは年末時点の未収家賃を一覧にし、収入に入れたうえで、回収できなくなった段階で次の処理をします。

滞納家賃が貸倒れになったときの処理は「規模」で分かれる

個人の場合、アパートなどおおむね10室以上、独立した家屋おおむね5棟以上(いわゆる5棟10室基準)の貸付けは、原則として「事業的規模」とされます(所得税基本通達26-9)。規模によって、貸倒れの処理が次のように変わります。

  事業的規模 事業的規模でない(業務的規模)
根拠 所得税法51条2項 所得税法64条1項
処理 回収できなくなった年の必要経費(貸倒損失) 収入にした年分にさかのぼって、その収入が「なかったもの」とみなす
申告の方法 その年の確定申告で経費に入れる 申告済みの年分なら更正の請求(所得税法152条)
期限 その年の確定申告 事実が生じた日の翌日から2か月以内

事業的規模なら、話は比較的シンプルです。回収できなくなった年の必要経費(貸倒損失)として、その年の確定申告で差し引きます。

手間がかかるのは、事業的規模でない場合です。回収できなくなった家賃は、収入にした年分にさかのぼって「なかったもの」とみなします。その年分をすでに申告していれば、更正の請求で直すことになり、期限は事実が生じた日の翌日から2か月以内です。次の確定申告の時期まで待っていたら、期限が過ぎていた、ということも起こりえます。部屋数の少ない大家さんほど、この「2か月」は、手帳の目立つところに書いておいてほしいと思います。

事業的規模でない場合の「上限」に注意

事業的規模でない場合、「なかったもの」にできる金額には上限があります。次の3つのうち、最も低い金額までです(所得税法施行令180条2項、所得税基本通達64-2の2)。

ひとつ目は、回収できなくなった金額そのもの。ふたつ目は、その年分の総所得金額・退職所得金額・山林所得金額の合計額(損益通算後の金額で、赤字の所得は0とします)。そして三つ目が、その年分の不動産所得の金額です。

そのため、その年分の不動産所得が赤字なら、なかったものとみなされる金額は生じません。国税庁の質疑応答事例も同じ結論で、この場合は更正の請求はできないとしています。

家賃は入ってこないうえに、税金の上でも取り消しができない。正直に言って、つらい結論です。だからこそ、滞納家賃を収入に入れた年分の不動産所得が黒字だったのか赤字だったのかを、早めに確かめておくことが大切になります。

家賃8万円の部屋で6か月分の滞納。規模で処理はこう変わる

具体的なケースで考えてみます。

家賃月8万円の部屋で、2024年7月〜12月の6か月分(48万円)が未払いになりました。大家さんは、2024年分の確定申告で、この未収家賃48万円を収入に入れています。2025年に入居者が退去し、預かっていた敷金16万円を滞納家賃に充てたので、残りは32万円です。そして2025年11月20日、入居者に財産がなく行方も分からないことから、全額回収できないことが明らかになりました。

規模 処理
事業的規模 32万円を2025年分の必要経費(貸倒損失)にする
事業的規模でない 2024年分の収入から32万円を「なかったもの」にする。更正の請求の期限は2026年1月20日(火)

事業的規模でない場合は、すでに申告した2024年分にさかのぼるので、更正の請求が必要です。年末年始をまたぐ2か月なので、慌ただしさにまぎれて、気づいたら期限が目の前ということになりかねません。

事業的規模でない場合は、2024年分の不動産所得によって結果が変わります(ほかの所得は十分にあるものとします)。

2024年分の不動産所得 なかったものにできる金額 理由
50万円 32万円(全額) 回収できなくなった金額(32万円)が最も低い
20万円 20万円まで その年分の不動産所得の金額(20万円)が最も低い
△30万円(赤字) 0円(更正の請求はできない) 不動産所得が赤字

同じ32万円の滞納でも、その年の不動産所得しだいで、結果がこれだけ変わります。赤字の年分では、更正の請求そのものができないのです。

ここまでの流れを、一枚のフローチャートにまとめました。いちばん上にあるのは、「支払日が来た家賃は、未収でもその年の収入に計上」という前提です。そこから、敷金の充当や連帯保証人・家賃保証会社から支払を受けられるか、貸倒れと認められる場面に当たるか、大家さんが法人か、個人なら貸付けが事業的規模か、と上から順に進むと、どの処理になるかにたどり着きます。途中で「まだ貸倒れにできない」に行き着いたら、督促と回収を続ける段階です。

「貸倒れ」と認められるのはどんなとき?

「払ってもらえそうにない」だけでは、貸倒れにはできません。個人の事業的規模の場合は所得税基本通達51-11〜51-13で判定します。事業的規模でない場合も、所得税基本通達64-1により、51-11〜51-16の取扱いに準じて判定します。

場面 内容 計上できる金額
① 法律上の切捨て 更生計画・再生計画の認可決定、債権者集会の協議決定など。債務超過が相当期間続き支払を受けられないと認められる場合に、書面で債務免除を通知したときも含む 切り捨てた(免除した)金額
② 全額回収できないことが明らか 相手の資産状況・支払能力などからみて、全額が回収できないことが明らかになった。担保物がある場合は処分した後 全額
③ 取引停止後1年以上 継続的な取引の相手について、取引を停止した時(最後の弁済期や弁済の時が後ならその時)から1年以上たった(担保物がある場合を除く)。取立ての費用のほうが多く、督促しても支払がない場合も 備忘価額(1円など)を残した額

表の右端の列も見ておいてください。どの場面に当たるかで、計上できる金額まで変わってきます。

実務では、次の順番で確認しましょう。まず、預かっている敷金を、滞納家賃に充てます。次に、連帯保証人や家賃保証会社から支払を受けられるかを確認します(受けられる分は回収できるお金です)。そして、督促の記録(内容証明郵便など)を残しておきます。それでも回収できない部分について、上の①〜③のどれに当たるかを判断する、という流れです。

この順番には意味があります。敷金や保証で埋まる分は、そもそも「回収できたお金」です。督促の記録は、手を尽くしたけれど回収できなかった、という経緯をあとから示すための大切な記録になります。

②は「全額」が回収できないことが条件なので、一部でも回収の見込みがあれば使えません。滞納者への法的な対応については、当ブログの「夜逃げした滞納者への対応策となるか?」(2025年8月27日)もご覧ください。

資産管理法人でも、同じ考え方で損金に算入する

法人の未収家賃も、収入(益金)に計上したうえで、回収できなくなったら損金に算入します。判定の考え方は個人と同じで、法人税基本通達9-6-1(切捨て)、9-6-2(全額回収不能)、9-6-3(取引停止後1年以上など)にあります。9-6-2と9-6-3は、決算で損金として経理することが前提です。

決算を締めてから「そういえば、あの滞納は……」と思い出しても、9-6-2と9-6-3は決算での経理が前提なので、間に合わないことがあります。決算の準備に入る前に、未収家賃の一覧を一度見直しておくと安心です。

中小法人は貸倒引当金も使える

資本金1億円以下の法人など(大法人の100%子会社などを除く)は、まだ貸倒れになっていない未収家賃などについても、決算で貸倒引当金を繰り入れて損金にできます(法人税法52条)。期末の債権全体に一定の率を掛ける「一括評価」では、中小法人は過去の貸倒れの実績による率のほか、業種ごとの法定繰入率を使えます。不動産賃貸業は「その他の事業」の1,000分の6です。

たとえば、期末の未収家賃などが300万円なら、300万円×6/1,000=1万8,000円まで繰り入れられます。金額は大きくありませんが、決算前に確認しておきたい項目です。

まだ起きていない貸倒れに、決算の段階で少しずつ備えておく。貸倒引当金は、そんな仕組みです。

消費税がかかる家賃は消費税の調整も

店舗・事務所など消費税がかかる家賃が貸倒れになった場合は、消費税の計算でも貸倒れに係る税額の控除があります(消費税法39条)。住宅の家賃は非課税なので、この調整はありません。

1階に店舗が入っているアパートのように、住宅とテナントが同じ建物にある大家さんは、どちらの家賃が滞納になったのかで、確認することが一つ増えるかどうかが変わります。

年内に、未収家賃の一覧と期限のメモを作っておく

年末にやっておきたいことを、順に見ていきます。まず、年末時点の未収家賃、つまり支払日が来ているのに未入金の家賃を一覧にして、2025年分の収入に入れてください。そのうえで、滞納者ごとに、敷金の充当や、連帯保証人・家賃保証会社への請求がどこまで進んでいるかを確認します。督促の記録(内容証明郵便や、やりとりの記録)も、捨てずに保存しておきましょう。

次に、ご自分の貸付けが事業的規模かどうか(5棟10室基準)を確かめます。事業的規模でない場合は、回収不能になった日と、更正の請求の期限(翌日から2か月以内)を、手帳やカレンダーにメモしておいてください。資産管理法人をお持ちの方は、貸倒損失の計上と、貸倒引当金の繰入れを、決算前に検討しておきましょう。

受け取っていない家賃も収入。取れなくなったら、規模に合った出口から

支払日が来た家賃は、受け取っていなくても収入です。裁判で請求していても、計上時期は変わりません。回収できなくなったら、事業的規模なら回収不能になった年の必要経費、それ以外なら収入にした年分にさかのぼって「なかったもの」にします。

事業的規模でない場合の更正の請求は、事実が生じた日の翌日から2か月以内。不動産所得が赤字の年分は対象になりません。そして、貸倒れにできるのは、切捨て・全額回収不能・取引停止後1年以上などの場合です。まずは敷金と保証人から、という順番も忘れないでください。法人も同じ考え方で損金に算入し、中小法人なら貸倒引当金も使えます。

滞納は、お金だけでなく、気持ちの面でも大家さんをすり減らします。だからこそ、回収の手続と税金の処理を同時に進めることが大切です。片方だけを先に進めると、もう片方の期限を見落としやすくなるからです。当事務所では、大家さんの未収家賃の管理から、貸倒れの判断、更正の請求までお手伝いしています。お気軽にご相談ください。

 

出典・参考

  • 国税庁 所得税基本通達36-5(不動産所得の総収入金額の収入すべき時期)、26-9(建物の貸付けが事業として行われているかどうかの判定)、51-11〜51-13(貸金等の貸倒れ)、64-1(回収不能等の判定)、64-2の2(なかったものとみなされる金額)、64-3(総所得金額の意義)
  • 所得税法第51条第2項、第64条第1項、第152条、所得税法施行令第180条第2項
  • 国税庁 質疑応答事例「事業に至らない規模の不動産貸付において未収家賃が回収不能となった場合」(令和7年8月1日現在の法令・通達等にもとづくもの)
  • 国税庁 タックスアンサー1373「事業としての不動産貸付けとそれ以外の不動産貸付けとの区分」(2025年12月時点の内容を参照)
  • 国税庁 法人税基本通達9-6-1〜9-6-3(金銭債権の貸倒れ)
  • 国税庁 タックスアンサー5501「一括評価金銭債権に係る貸倒引当金の設定」(2025年12月時点の内容を参照)、法人税法第52条、租税特別措置法第57条の9、同法施行令第33条の7
  • 消費税法第39条(貸倒れに係る消費税額の控除等)