東雲結子:石井先生、通帳を記帳してきました! 12月のうちに、もう1月分の家賃まで振り込まれています。今年は1か月分おまけつき。売上アップです!
税理士石井:ふふ、通帳の上では、たしかに1か月分多く見えますね。うーん、ただ家賃をどの年の収入にするかは、振り込まれた日ではなく、契約や慣習で決まっている「支払日」で決まるんです。
東雲結子:えっ、通帳にちゃんと印字されているのに、今年の売上とは限らないんですか?
税理士石井:ええ。契約が「翌月分を毎月25日までに支払う」なら、支払日は12月25日なので2025年分。でも「当月分を毎月5日までに支払う」契約で、入居者さんが12月26日に早めに振り込んでくれたのなら、支払日は1月5日なので2026年分です。
東雲結子:同じ12月の入金なのに、契約書の一行で年をまたいでしまうんですね。じゃあ、入居のときに預かった敷金は、受け取った年の売上に……!
税理士石井:それがですね、敷金はもともと退去のときに返すお金、つまり預り金なので、受け取っただけでは収入になりません。収入になるのは、返さなくてよい部分だけです。
東雲結子:よかった。じゃあ敷引きの分は、退去のときに収入にすればいいので、それまではのんびりできますね。
税理士石井:おっと(汗)、そこがいちばん間違えやすいところです。「家賃1か月分は退去時に償却する」という敷引きは、何年住んでも返さないことが契約の時点で決まっています。だから入居(引渡し)の年の収入なんです。預かった敷金の封筒の中に、最初から「返さない分」と書いた仕切りが入っているようなものですね。
東雲結子:あっ……。封筒を開けるのは退去の日でも、中身の仕分けは入居の日に終わっていたんですね。
税理士石井:そういうことです。家賃、礼金、更新料、敷金・保証金。それぞれの「収入にする年」を、国税庁の通達どおりに一つずつ整理していきましょう。資産管理法人だと、結論が逆になる場面もありますよ。
「12月のうちに、1月分の家賃が振り込まれてきた。これは来年の収入でいいんですよね?」
年末が近づくと増えるのが、この「いつの収入?」というご相談です。家賃・礼金・更新料・敷金は、お金を受け取った日ではなく、それぞれ別のルールで「収入にする年」が決まります。特に敷金は、契約書の書き方ひとつで、入居した年の収入になったり、退去した年の収入になったりします。
12月に受け取った1月分の家賃を「来年の収入」と考える方もいれば、通帳を見て「今年の売上が増えた」と喜ぶ方もいます。実は、どちらも契約書を開くまでは答えが出ません。通帳はお金が動いた日を教えてくれますが、収入にする年を教えてくれるのは契約書のほうなのです。
この記事では、国税庁の所得税基本通達36-5〜36-7(不動産所得の収入にする時期のルール)にそって、個人の大家さんの扱いを整理し、最後に法人(資産管理法人)の違いにも触れます。
※この記事は2025年12月時点の法令と国税庁の公表資料にもとづいています。
家賃は支払日、礼金は引渡しの日、敷金は返さなくてよいと決まった時
| 受け取るお金 | 個人の大家さんが収入にする時期 |
| 毎月の家賃・地代・共益費 | 契約や慣習で決まっている支払日。支払日の定めがなければ、実際に受け取った日 |
| 12月に受け取る1月分の家賃 | 契約上の支払日が12月なら2025年分、1月なら2026年分 |
| 礼金・権利金・更新料など | 部屋(鍵)の引渡しの日。引渡しがないもの(更新料など)は契約の効力発生の日 |
| 敷金・保証金 | 預り金なので原則は収入ではない。返さなくてよい部分だけが収入。最初から返さない部分は引渡しの日など、期間の経過で返さなくなる部分はその日、退去時に決まる部分は貸付けが終了した日 |
四つの行を見比べると、「お金を受け取った日」がそのまま基準になるのは、支払日の定めがない家賃くらいだと気づくと思います。原則として、家賃は契約で決めた支払日、礼金は鍵を渡した日、敷金は返さなくてよいと決まった日。大家さんの手元にお金が届くタイミングと、収入にする年とは、別々に動いているのです。
12月に受け取った1月分の家賃は、契約上の支払日で年が決まる
家賃・地代・共益費は、契約や慣習で支払日が決まっていれば、その支払日の年分の収入です。支払日の定めがない場合は、実際に受け取った日(請求があったときに払う約束なら、その請求の日)になります。
そのため、同じ「12月に入金された1月分の家賃」でも、契約の定め方で結論が変わります。
| 契約の定め | 12月に入金された1月分の家賃 |
| 「翌月分を毎月25日までに支払う」 | 支払日は12月25日 → 2025年分の収入 |
| 「当月分を毎月5日までに支払う」(入居者が12月26日〔金〕に早めに振込) | 支払日は1月5日 → 2026年分の収入 |
| 支払日の定めがない | 受け取った12月 → 2025年分の収入 |
二行目は、年末年始の休みを前に、入居者さんが気をきかせて早めに振り込んでくれたケースです。ありがたい心づかいですが、税金の年までは動きません。契約で決めた支払日が1月5日である以上、2026年分の収入です。
ですから、まず確かめてほしいのは、賃貸借契約書の家賃の条項です。「翌月分」なのか「当月分」なのか、そして支払日は何日なのか。契約書によって書き方はさまざまなので、物件ごと、契約ごとに一度目を通しておくと安心です。
逆に、支払日が来ているのにまだ入金されていない家賃(未収家賃)も、支払日の年分の収入になります。滞納や回収できなくなった家賃の扱いは、家賃の滞納と貸倒れを取り上げる記事で、詳しく整理します。
一定の要件を満たせば、貸付期間に対応させて計上する方法もある
国税庁の個別通達(昭和48年直所2-78)では、一定の要件を満たす場合に限り、支払日ではなく「その年の貸付期間に対応する家賃」をその年の収入にする方法も認めています。
| 区分 | おもな要件 |
| 事業的規模の貸付け | 帳簿を備えて継続的に記帳していること、すべての賃貸料について継続して前受収益・未収収益を経理していること、1年を超える期間の賃貸料は前受収益・未収収益の明細書を確定申告書に添付すること |
| 事業的規模でない貸付け | 記帳の要件を満たし、1年以内の期間の賃貸料の全部について前受収益・未収収益の経理をしていること(1年以内の期間の賃貸料に限る) |
いずれも、所得税法67条(小規模事業者等の収入及び費用の帰属時期。いわゆる現金主義の特例)の適用を受けている人は対象外です(個別通達の本文では、旧条番号の「第67条の2」と表記されています)。また、礼金・権利金・更新料などはこの方法の対象外です。方法を変えた年は、前年以前の期間に対応する家賃を調整する必要があるので、切り替えるときは税理士に相談しましょう。
この方法なら、1月分の家賃は、いつ受け取っても1月を含む年の収入として考えることになります。感覚的にはすっきりしますが、表のとおり、継続して前受収益・未収収益を経理していることが前提です。「今年だけ都合のいいほうで」とはいかない点は、心に留めておいてください。
礼金は鍵の引渡しの日、更新料は更新契約の効力発生の日
礼金・権利金・頭金・名義書換料・更新料など、一時に受け取るお金は次のとおりです(所得税基本通達36-6)。部屋の引渡しが必要なものは、引渡しのあった日の年分の収入です。ただし、契約の効力発生の日の年分として申告することも認められています。引渡しが必要ないものは、契約の効力発生の日の年分です。
たとえば、2025年12月20日に契約を結んで礼金を受け取り、鍵の引渡しが2026年1月5日なら、原則は2026年分の収入です。契約の効力が12月20日に生じているなら、2025年分として申告することもできます。
年末に契約して、鍵を渡すのは年明け。そんな入居の礼金は、年をまたぐ境目にぴたりと乗ってしまいます。原則は鍵を渡した日。ただ、契約の効力発生の日で申告する道もある。契約書の日付と鍵の引渡しの記録を並べて、どちらの年分になるのかを確かめておきましょう。
更新料は、更新のときに新たな引渡しはないので、更新契約の効力発生の日の年分の収入です。12月に更新料を受け取っても、更新契約の効力が1月に生じるなら翌年分になります。いつ効力が生じるかは、更新合意書の定めを確認しましょう。なお、合意更新と法定更新の違いについては、当ブログの「賃貸借契約の合意更新と法定更新」(2025年8月13日)もご覧ください。
地主さんが借地権を設定して受け取る権利金は、金額が土地の時価の2分の1を超えるなど一定の場合、不動産所得ではなく譲渡所得になります(所得税法33条1項、所得税法施行令79条)。高額の権利金を受け取る予定があれば、事前にご相談ください。
敷金・保証金は、返さなくてよいと決まった時に収入になる
敷金や保証金は、本来は退去時に返すお金(預り金)なので、受け取っただけでは収入になりません。収入になるのは、返さなくてよい部分だけです。その時期は、返さなくてよいことがいつ決まるかによって、3つに分かれます(所得税基本通達36-7)。
| 返さなくてよい部分 | 例 | 収入にする日 |
| ① 貸付期間に関係なく、返さないことが決まっている部分 | 「敷金のうち家賃1か月分は、退去時に償却する(敷引き)」 | 礼金と同じ(引渡しの日、または契約の効力発生の日) |
| ② 貸付期間の経過に応じて、返さなくてよくなる部分 | 店舗の保証金「1年経過するごとに10%を償却する」 | 契約の定めにより返さなくてよくなった日 |
| ③ 貸付けが終わるまで、返さなくてよいかどうか決まらない部分 | 退去時に原状回復費用などを差し引いて返す敷金 | 貸付けが終了した日 |
ここでいちばん間違えやすいのが①です。敷引きは、実際には退去時に差し引かれますが、何年住んでも返さないことが契約の時点で決まっています。そのため、入居(引渡し)の年の収入になります。「退去したときに収入にすればいい」と考えていると、収入にする年がずれてしまいます。
お金の動きだけを追っていると、敷引きは「退去のときに差し引くもの」に見えます。けれど税金の上では、礼金とほとんど同じ顔をしている。表の「収入にする日」の列が、①は礼金と同じになっているのはそのためです。敷引きや償却の定めがある契約は、入居の年の申告で漏れていないか、ぜひ確かめてください。
③の退去時に確定する部分は、貸付けが終了した日の年分の収入です。12月末に退去して、精算書を1月に出す場合でも、貸付けが12月に終わっていれば2025年分です。
なお、敷金を滞納家賃に充てた分は、その家賃をすでに支払日の年分の収入にしていれば、もう一度収入にする必要はありません。原状回復費用に充てた分は、返さなくてよいことが確定した金額として収入にし、実際に業者に支払った修繕費を必要経費にするのが基本です。
ここまでの内容を、一本のタイムラインにまとめました。2025年12月20日に契約し、2026年1月5日に鍵を引き渡して、その後2年ごとに更新し、2029年3月31日に退去した、という個人の大家さんの例です。いちばん上の家賃・共益費は、契約上の支払日ごとに目盛りが並び、受け取っていなくても収入になること、2025年12月25日に払う1月分は2025年分であることが書き込まれています(「翌月分を毎月25日までに支払う」契約の例)。礼金・権利金と、敷金のうち最初から返さないと決まっている部分(敷引き・償却)は、どちらも鍵の引渡しの日に点が打たれています。その下に、更新契約の効力発生の日の更新料、店舗の例(1年ごとに10%)で返さなくてよくなった日ごとに並ぶ保証金、そしていちばん右、貸付けが終了した日に確定する敷金の精算が続きます。

点が打たれた場所が、お金の届いた日とずれている行があることに注目してみてください。一枚の契約から生まれるお金でも、収入にする年はこれだけ散らばります。
資産管理法人では、前受けの家賃は翌月分として計上する
法人は所得税ではなく法人税のルール(法人税基本通達)で判断します。個人との主な違いは次のとおりです。
| 受け取るお金 | 個人 | 法人 |
| 家賃 | 支払日の年分(一定の要件で期間対応も可) | 原則は貸付期間に対応して計上。支払日に計上することも認められるが、前受けの分は除く(2-1-29) |
| 12月に受け取った翌月分の家賃 | 支払日が12月なら2025年分 | 前受けなので、翌月分として計上(12月決算なら翌期) |
| 礼金・敷引きなど、契約の開始時から返金不要のもの | 引渡しの日など | 原則として取引開始の日の事業年度(2-1-40の2) |
| 期間の経過などで返さなくなる保証金・敷金 | 返さなくてよくなった日 | 返還しないこととなった日の事業年度(2-1-41) |
特に「12月に受け取った1月分の家賃」は、個人と法人で結論が逆になることがあります。個人から法人に物件を移したばかりの方は注意しましょう。
同じ物件、同じ入居者さん、同じ日の振込。それでも、持ち主が個人から法人に変わっただけで、処理が入れ替わることがあるのです。個人のころの感覚のまま法人の帳簿をつけると、ずれが生まれやすくなります。法人化した最初の決算では、前受けの家賃の扱いを、特に丁寧に確かめておきたいところです。
店舗や駐車場の賃料は、消費税の扱いも変わる
住宅の家賃は消費税が非課税です。店舗や駐車場の賃料などは課税されるので、扱いが変わります。詳しくは、賃貸経営と消費税を取り上げる記事で整理します。
年内に、契約書の支払日と敷金の定めを確かめておく
まずは、賃貸借契約書で、家賃の「支払日」が当月分か翌月分かを確認してください。そのうえで、12月中に入金された1月分の家賃が、2025年分か2026年分かを、契約書にもとづいて判定します。あわせて、年末時点の未収家賃(支払日が来ているのに未入金の家賃)を一覧にしておきましょう。
次に、一時に受け取ったお金です。2025年中に入居した部屋の礼金・敷引き(償却)を、引渡しの日(または契約の効力発生の日)の年分に入れているか。2025年中の更新で受け取った更新料を、更新契約の効力発生の日で判定しているか。2025年中に退去した部屋については、敷金の精算額(返さなかった金額)を確認しておきます。
資産管理法人の物件は、前受家賃を翌期分として処理しておきましょう。ここまで確かめておけば、年明けの申告準備はぐっと落ち着いて進められるはずです。
収入にする年を決めるのは、通帳ではなく契約書
家賃は、受け取った日ではなく、契約上の支払日の年分の収入です。未収でも収入になります。礼金・権利金は引渡しの日、更新料は更新契約の効力発生の日の年分の収入です。
敷金・保証金は、返さなくてよい部分だけが収入です。敷引きのように最初から返さないと決まっている部分は入居の年、退去時に決まる部分は退去の年。そして法人は、前受家賃を翌期に回すなど、個人とルールが違います。
通帳の入金を眺めていると、つい「入った日が収入の日」と思いたくなります。けれど、大家さんの収入の年を決めているのは、入居や更新のときに交わした契約書です。年末の帳簿づけの前に、その書類をもう一度開いてみてください。
収入にする年がずれると、修正申告や延滞税の原因になります。当事務所では、大家さんの賃貸借契約書を確認しながら、確定申告の収入の計上をお手伝いしています。年明けの申告準備の前に、お気軽にご相談ください。
出典・参考
- 国税庁 所得税基本通達36-5(不動産所得の総収入金額の収入すべき時期)、36-6(頭金、権利金等の収入すべき時期)、36-7(返還を要しなくなった敷金等の収入すべき時期)
- 国税庁 個別通達「不動産等の賃貸料にかかる不動産所得の収入金額の計上時期について」(昭和48年11月6日 直所2-78)
- 国税庁 タックスアンサー1376「不動産所得の収入計上時期」(2025年12月時点の内容を参照)
- 国税庁 法人税基本通達2-1-29(賃貸借契約に基づく使用料等の帰属の時期)、2-1-40の2(返金不要の支払の帰属の時期)、2-1-41(保証金等のうち返還しないものの額の帰属の時期)
- 所得税法第33条第1項、所得税法施行令第79条(借地権の設定の対価で譲渡所得となるもの)、所得税法第67条(小規模事業者等の収入及び費用の帰属時期)































