東雲結子:石井先生、不動産会社さんから査定書が届きました! 2020年6月に買ったアパート、買値より高く売れそうなんです。年内に売ってしまえば、今年のことは今年のうちに全部終わりますよね!

税理士石井:それはうれしい査定ですね。うーん、ただ年内に売っても、確定申告は2026年2月16日から3月16日まで。税金のお話は、きっちり年を越して続きます。しかも、その申告で使う税率が問題なんです。

東雲結子:税率ですか? 2020年6月に買ったので、もう5年たちました。長期の20.315%ですよね?

税理士石井:それがですね……「5年超」かどうかは、売った日ではなく、売った年の1月1日で数えるんです。2025年に売るなら、2025年1月1日の時点ではまだ5年以下。短期の39.63%になります。

東雲結子:えっ、ほぼ2倍! 査定書の金額だけじゃなく、税率まで一緒に値上がりしていました(汗)。

税理士石井:ははは、そちらの値上がりはうれしくありませんね。記事の数値例では、2025年11月に引き渡すか2026年2月に引き渡すかで、税金が約145万円違います。覚え方は「取得した年に6を足した年以後に売れば長期」です。

東雲結子:2020に6を足して、2026年……。じゃあ年明けまで待てば、買値より高く売れた分だけが利益ですね!

税理士石井:実はもう一つ落とし穴があります。建物の取得費は、買った金額から減価償却費の累計額を差し引いた金額なんです。毎年の確定申告で経費にしてきた分が、売るときには取得費から差し引かれている、というわけです。

東雲結子:あっ……。だから「買値より安く売ったのに、譲渡所得が出た」なんてことも起こるんですね。

税理士石井:そういうことです。長期・短期の数え方と、小さくなる建物の取得費。査定書の数字を、税金を払ったあとの数字に直していきましょう。

「買ったときより高く売れそうなので、年内に売ってしまおうかと思って」

賃貸物件の売却を考えている大家さん、ちょっと待ってください。土地や建物を売ったときの税金は、持っていた期間が5年を超えるかどうかで、税率がほぼ2倍違います。しかも、その「5年」を数える基準日は、売った日ではなく売った年の1月1日。この「5年超」の数え方を勘違いすると、思わぬ税金になります。

もう一つの落とし穴が、建物の取得費です。賃貸に使っていた建物は、買った値段から減価償却費を差し引いた金額しか取得費になりません。「買値より安く売ったのに、譲渡所得が出た」ということも起こります。

物件の売却は、大家業の中でもそう何度もあることではありません。だからこそ、買うときほどには税金の数字を確かめないまま、査定額の大きさに気持ちが先に動いてしまいがちです。この記事では、賃貸物件を売ったときの税金の計算を、数値例で整理します。売買契約の日付を決める前に、ぜひ一度、ご自分の物件に当てはめてみてください。

※この記事は2025年12月時点の法令と国税庁の公表資料にもとづいています。

売った年の1月1日に5年を超えるかどうかで、税率はほぼ2倍違う

ポイント 内容
計算のしかた 売却額 −(取得費+譲渡費用)= 譲渡所得。給与や家賃の所得とは分けて課税(分離課税)
建物の取得費 買った金額から減価償却費の累計額を差し引く。賃貸していた期間は、必要経費にしていなくても償却費を差し引く
取得費が分からないとき 売却額の5%を取得費にできる(実際の取得費が5%より少ないときも)
長期か短期か 売った年の1月1日に所有期間が5年を超えていれば長期。2020年に取得した物件は、2026年以後の売却で長期
税率 長期20.315%、短期39.63%(所得税・復興特別所得税・住民税の合計)
売却損が出たら 他の土地・建物の譲渡所得とは相殺できるが、給与や家賃などの所得とは相殺できず、繰り越しもできない

表の六つの行は、どれも売却の前に知っておきたいことばかりです。なかでも、大家さんが勘違いしやすいのは「建物の取得費」と「長期か短期か」の二つ。前者は売却益を思ったより大きくし、後者は税率そのものを変えてしまいます。順番に見ていきましょう。

譲渡所得は「売却額−取得費−譲渡費用」で、家賃とは分けて計算する

土地や建物を売ったときの所得(譲渡所得)は、次の式で計算します。

譲渡所得 = 売却額 −(取得費 + 譲渡費用)

この所得は、不動産所得や給与所得とは分けて税額を計算します。売却額には、買主から受け取った固定資産税・都市計画税の精算金(売った日以後の期間に対応する分)も含めます。

毎月の家賃収入とは別の財布で、売却だけの税金を計算する。そうイメージしておくとわかりやすいと思います。精算金は「払いすぎた税金が戻ってきた」ように感じますが、税金の計算では売却額の一部として扱う点にも気をつけてください。

建物の取得費は、減価償却費の累計額を差し引いて小さくなる

土地の取得費は、買ったときの代金に仲介手数料などを加えた金額です。一方、建物は使ったり時間がたったりすると価値が減るので、買ったときの金額から、持っていた期間の減価償却費を差し引いた金額が取得費になります。

大家さんは毎年の確定申告で、建物の減価償却費を必要経費にしてきたはずです。売るときには、その積み重ねが取得費の側に返ってきます。持っている間に経費として少しずつ受け取ってきたものを、売るときにまとめて精算する。そんなイメージです。

賃貸していた期間は、必要経費にしていない年があっても償却費を合計する

賃貸に使っていた期間は、毎年の減価償却費を合計して差し引きます。国税庁は、仮に減価償却費を必要経費にしていない年があっても、毎年の減価償却費を合計することに変わりはない、としています。「償却をしていなかったから取得費は買値のまま」とはならないので注意してください。

もし減価償却費を経費にし忘れていた年があると、その年は経費として使えなかったのに、売るときの取得費だけはしっかり小さくなっている、ということになります。売却の場面になって初めて気づくと、なんとも悔しい話です。

なお、売った年の1月から売った月までの減価償却費は、不動産所得の必要経費にしても差し支えないとされています(所得税基本通達49-54)。必要経費にしない場合は、その分が取得費に含まれます。

自宅として使っていた期間は、耐用年数の1.5倍で計算する

元は自宅だった建物を賃貸に回した場合など、賃貸に使っていなかった期間は、次の式で減価償却費相当額を計算します。

建物の取得価額 × 0.9 × 償却率 × 経過年数

償却率は、耐用年数の1.5倍の年数(1年未満切捨て)に対応する旧定額法の償却率です。経過年数は、6か月以上の端数は1年とし、6か月未満は切り捨てます。そして、差し引く金額は取得価額の95%が上限です。

建物の構造 償却率(非業務用)
木造 0.031
木骨モルタル 0.034
(鉄骨)鉄筋コンクリート 0.015
金属造(軽量鉄骨で骨格材の肉厚3mm以下) 0.036
金属造(軽量鉄骨で骨格材の肉厚3mm超4mm以下) 0.025

たとえば、2,000万円で建てた木造の自宅に10年住んでから賃貸にした場合、住んでいた期間の減価償却費相当額は、2,000万円×0.9×0.031×10年=558万円です。賃貸にしてからの期間は、実際の減価償却費を合計します。

転勤や住み替えをきっかけに、自宅をそのまま貸している大家さんもいらっしゃると思います。その場合は、住んでいた期間と貸していた期間とで、計算のしかたが二段構えになります。住んでいた年数と、貸し始めた時期。この二つを、売る前に整理しておきましょう。

取得費が分からないときは、売却額の5%を使える

相続した古い物件などで、買ったときの金額が分からない場合は、売却額の5%を取得費にできます(概算取得費)。実際の取得費が売却額の5%より少ない場合も、5%を使えます。

相続や贈与で取得した物件は、亡くなった人(贈与した人)の取得費と取得した日を引き継ぎます。

つまり、親御さんから相続した物件なら、親御さんが買ったときの書類が手がかりになります。書類箱の奥に、昔の売買契約書が眠っていないか。売却を考え始めたら、一度探してみる価値があります。

売るための仲介手数料や立退料は譲渡費用、修繕費や固定資産税はならない

譲渡費用になる 譲渡費用にならない
売るための仲介手数料 修繕費
売主が負担した売買契約書の印紙税 固定資産税など、持っている間の維持・管理の費用
貸家を売るために入居者に払う立退料 売った代金の取立てのための費用
土地を売るために建物を取り壊した費用と、その建物の損失額 -

左の列は「売るために」かかった費用、右の列は、持っている間の維持・管理の費用や、売った後の代金の取立ての費用です。この線引きを覚えておくと、迷ったときにも整理しやすくなります。表にあるとおり、立退料も、譲渡費用になるのは「売るために」払うものです。立退料の扱いは、立退料を目的別に整理する記事で詳しく取り上げます。

「5年超」の数え方は、売った日ではなく売った年の1月1日

売った年の1月1日に、所有期間が5年を超えていれば長期譲渡所得、5年以下なら短期譲渡所得です。覚え方は「取得した年に6を足した年以後に売れば長期」です。

取得した年 長期になる売却の年
2019年 2025年以後(今年の売却も長期)
2020年 2026年以後(今年の売却は短期)
2021年 2027年以後

下の図は、2020年6月に取得した物件を例に、所有期間を一本の帯で表したものです。帯の下の矢印のとおり、取得から5年がたつのは2025年6月。ところが、判定の基準になる2025年1月1日の時点では、所有期間はまだ5年以下です。そのため、2025年中に売ると短期で39.63%(図のピンクの部分)。2026年1月1日には5年を超えるので、2026年以後に売れば長期で20.315%(緑の部分)になります。

「買ってから5年たった」という実感と、税金の上での「5年超」とのあいだには、最大で1年近いずれが生まれます。図の右側、色が切り替わる2026年1月1日の線が、この記事でいちばん覚えておいてほしい場所です。

区分 所得税 復興特別所得税 住民税 合計
長期(5年超) 15% 0.315% 5% 20.315%
短期(5年以下) 30% 0.63% 9% 39.63%

※復興特別所得税は所得税額の2.1%です。

売った日(譲渡の日)は、原則として物件を引き渡した日ですが、売買契約の効力が生じた日を選ぶこともできます。契約が年内で引渡しが年明けなら、どちらの日を選ぶかで長期・短期が変わることがあります。詳しくは当ブログの「売却時期の判定は『売却時点』か『所有権移転時』か」(2025年8月19日)もご覧ください。

同じアパートでも、2025年11月と2026年2月の引渡しで税金は約145万円違う

次の前提で、2025年11月に引き渡す場合(短期)と、2026年2月に引き渡す場合(長期)を比べます。

2020年6月に、新築の木造アパートを土地4,000万円・建物2,400万円(仲介手数料などを含む)で購入し、同じ月から賃貸しているとします。建物は定額法(耐用年数22年、償却率0.046)で、年間の減価償却費は110万4,000円(2020年は7か月分で64万4,000円)です。売った年の減価償却費は必要経費にせず、取得費に含めます(前年末の未償却残高が取得費)。売却額は7,000万円、仲介手数料などの譲渡費用は240万円。消費税の免税事業者で、ほかの土地・建物の売却はないものとします。

  2025年11月に売る(短期) 2026年2月に売る(長期)
建物の減価償却費の累計額 506万円(2020〜2024年) 616万4,000円(2020〜2025年)
建物の取得費 1,894万円 1,783万6,000円
譲渡所得 7,000万円−(4,000万円+1,894万円)−240万円=866万円 7,000万円−(4,000万円+1,783万6,000円)−240万円=976万4,000円
所得税 2,598,000円 1,464,600円
復興特別所得税 54,558円 30,756円
住民税 779,400円 488,200円
税金の合計 3,431,958円 1,983,556円

長く持つほど減価償却が進んで取得費は小さくなり、譲渡所得は110万4,000円増えます。それでも税率の差のほうがずっと大きく、税金は約145万円少なくなります。なお、長期のケースでは、2025年分の減価償却費110万4,000円を、譲渡所得ではなく2025年の不動産所得から差し引くことになります(短期のケースでは、2025年1〜11月分は取得費に含まれ、譲渡所得を減らしています)。差し引く所得の種類と税率が違うので、税額への効果も変わります。

※端数処理をしない概算です(復興特別所得税は1円未満切捨て)。買主との価格交渉や、年明けまでの家賃収入・金利負担なども含めて判断してください。

この表を見ると、建物の取得費の行で、長期のほうが不利になっていることに気づくと思います。持っている期間が延びたぶん、減価償却が1年分進んだからです。それでも、税金の合計では長期が大きく下回る。それだけ、20.315%と39.63%の差は重いということです。

とはいえ、引渡しを数か月先に延ばすのは、買主さんの都合や、相場の動きも絡む話です。※にあるとおり、年明けまでの家賃収入や金利負担も含めて考える必要があります。税金の差だけで決めるのではなく、数字を並べたうえで、買主さんや仲介の担当者と日程を相談する。私は、それがいちばん後悔の少ない進め方だと考えています。

賃貸物件の売却損は、給与や家賃の所得とは相殺できない

土地・建物の売却で損が出た場合、その年のほかの土地・建物の譲渡所得から差し引くことはできます。しかし、給与所得や不動産所得など、ほかの所得とは相殺できず、翌年以後に繰り越すこともできません。

自宅を売ったときの譲渡損失には、ほかの所得と相殺できる特例(居住用財産の買換え等の譲渡損失の特例など)がありますが、賃貸物件は対象外です。同じ年に、値上がりした物件と値下がりした物件を売る予定があるなら、売る年をそろえると損益を相殺できます。

「売却で損が出たら、そのぶん今年の税金が軽くなるはず」と考えていると、ここで当てが外れます。複数の物件を持つ大家さんが、物件の入れ替えを考えるときこそ、どの物件をどの年に売るかを、まとめて設計しておきたいところです。

売る前に、消費税と合計所得金額、申告の時期も確かめておく

消費税の課税事業者(インボイス登録をしている場合を含む)は、建物の売却額に消費税がかかります(土地は非課税)。売買契約書で、土地と建物の金額を分けておきましょう。

合計所得金額にも気をつけてください。譲渡所得は分離課税でも、合計所得金額には特別控除前の金額で入ります。基礎控除などの判定に影響します。

そして確定申告です。2025年中に売った場合、申告期間は2026年2月16日から3月16日までです。年内に売って身軽になったつもりでも、申告という宿題は年明けまで残ります。

売買契約の前に、取得日と償却の累計額を申告書の控えで確かめる

まずは、物件の取得日を確認して、長期か短期かを判定してください。相続や贈与で取得した物件なら、前の所有者の取得日です。契約日と引渡日が年をまたぐ場合は、どちらを譲渡の日にするかも検討しておきましょう。

次に、建物の取得価額と、毎年の減価償却費の累計額を、確定申告書の控えで確認します。自宅として使っていた期間がある場合は、その期間の減価償却費相当額も計算しておきます。買ったときの契約書がない場合は、概算取得費(5%)と比べてみてください。

仲介手数料・印紙税・立退料など、譲渡費用になるものも整理しておきましょう。課税事業者の場合は、建物部分の消費税の試算もお忘れなく。ここまでそろえば、査定書の金額を「手元に残るお金」に置き換えて考えられるはずです。

売却の税金は、1月1日の数え方と小さくなった取得費で決まる

譲渡所得は「売却額−取得費−譲渡費用」です。建物の取得費は、減価償却費の累計額を差し引いた金額で、賃貸していた期間は、必要経費にしていない年があっても減価償却費を差し引きます。

売った年の1月1日に5年超なら長期(20.315%)、5年以下なら短期(39.63%)。2020年に取得した物件なら、2026年以後の売却で長期になります。そして、土地・建物の売却損は、給与や家賃などの所得とは相殺できません。

査定書の金額は、売却を考えるきっかけにすぎません。そこから取得費と譲渡費用を引き、税率をかけて、ようやく手元に残る金額が見えてきます。何年もかけて育ててきた物件だからこそ、最後の数字まで納得して手放していただきたいと思います。

売却のタイミングは、税金だけでなく、相場や金利、入居状況もあわせて決めるものです。当事務所では、売却前の税額試算から確定申告まで、大家さんの物件売却をお手伝いしています。売買契約の前に、お気軽にご相談ください。

 

出典・参考

  • 国税庁 タックスアンサー3202「譲渡所得の計算のしかた(分離課税)」、No.3252「取得費となるもの」、No.3255「譲渡費用となるもの」、No.3258「取得費が分からないとき」、No.3261「建物の取得費の計算」(タックスアンサーはいずれも2025年12月時点の内容を参照)
  • 国税庁 タックスアンサー3208「長期譲渡所得の税額の計算」、No.3211「短期譲渡所得の税額の計算」、No.3203「不動産を譲渡して譲渡損失が生じた場合」、No.3214「土地建物を売ったときの収入金額に含める金額」(タックスアンサーはいずれも2025年12月時点の内容を参照)
  • 国税庁 質疑応答事例「未経過固定資産税等に相当する額の支払を受けた場合」
  • 所得税基本通達 33-7(譲渡費用の範囲)、33-8(資産の譲渡に関連する資産損失)、49-54(年の中途で譲渡した減価償却資産の償却費の計算)
  • 所得税法 第33条、第38条、第60条、所得税法施行令 第85条、租税特別措置法 第31条、第31条の4、第32条
  • 国税庁 タックスアンサー2020「確定申告」(2025年12月時点の内容を参照)