東雲結子:先生、決済、無事に終わりました! ほら、もらった領収書の束がこんなに。諸費用だけで400万円以上です。これ、全部今年の経費ですよね?

税理士石井:おめでとうございます。うーん、ただその束は、税金の世界では行き先がばらばらなんです。取得価額に入って少しずつ経費になるもの、その年の経費になるもの、何年かに分けて経費にするもの、というふうに。

東雲結子:えっ、領収書にも引っ越し先があるんですか? 同じ日に、同じ封筒でもらったのに……。

税理士石井:ええ。この記事の例だと、12月1日に買った物件の諸費用473万円のうち、2025年分の経費になるのは143万7,500円です。

東雲結子:半分にも届かない……。でも、固定資産税の精算金は税金ですから、さすがに経費ですよね?

税理士石井:それがですね、精算金は「税金」ではなく「代金の一部」なんです。だから固定資産税としての経費にはならず、土地と建物の取得価額に入ります。

東雲結子:名前に「税」がついているのに……。税金の名札をつけた、物件代金だったんですね。

税理士石井:ふふ、うまいことを言いますね。もう一つ、登録免許税や不動産取得税は、個人と法人で扱いが違います。個人はその年の必要経費、法人は損金にするか取得価額に入れるかを選べるんです。

東雲結子:同じ領収書でも、個人のおうちに行くか、法人のおうちに行くかで、行き先が変わるんですね。

税理士石井:そういうことです。12月に買うときの注意点も含めて、束の中を一枚ずつ仕分けていきましょう。

「物件価格のほかに、諸費用で400万円以上。これって全部、今年の経費になりますか?」

賃貸物件を買うと、仲介手数料、登記の費用、税金の精算金、ローンの手数料……と、さまざまな費用がかかります。決済の日に受け取る領収書や精算書の多さに、少しくらっとした経験をお持ちの方も多いと思います。

ところが税金の世界では、こうした諸費用は三つに分かれます。物件の取得価額に入れて、減価償却で少しずつ経費にするもの(土地分は売るまで経費にならない)。その年の経費(個人は必要経費、法人は損金)にできるもの。そして、何年かに分けて経費にするもの。しかも、個人と法人で扱いが違う費用もあります。

同じ金額を払っていても、どこに入るかで1年目の経費は大きく変わります。年末に物件を買う予定の方は、2025年分の経費がいくらになるかを、ぜひ事前に確認しておきましょう。

※この記事は2025年12月時点の法令と国税庁の公表資料にもとづいています。

諸費用は、取得価額・その年の経費・期間で分ける経費に分かれる

ポイント 内容
取得価額に入るもの 購入代金、仲介手数料、固定資産税・都市計画税の精算金(土地分と建物分に分ける)
個人(すでに賃貸業をしている場合)は必要経費 登録免許税・登記費用、印紙税はその年の必要経費。不動産取得税は通知が届いた年の必要経費
法人なら選べるもの 登録免許税・登記費用、不動産取得税は、損金にするか取得価額に入れるかを選べる
ローン・保険の費用 借入金の利子・事務手数料は経費。一括で払う保証料や長期の火災保険料は、期間に応じて分けて経費にする
12月に買うと 減価償却は1か月分。不動産取得税は通知が届いた年の経費。2026年度の固定資産税は買主に課税

年末に物件を買う方にとって、いちばん大事なのは表の最後の行かもしれません。12月に買うと、減価償却は1か月分。不動産取得税は通知が届いた年の経費で、2026年度の固定資産税は、買主に課税されます。「年内に決済すれば、今年の経費がどっと増える」とは限らないのです。

その費用は、個人と法人でどこに入るのか

すでに賃貸業をしている個人(不動産所得の業務用の物件)と、法人に分けて整理します。

費用 個人 法人 根拠
購入代金 取得価額 取得価額 所得税法施行令126条(土地は所得税法38条)、法人税法施行令54条(土地は法基通7-3-16の2)
仲介手数料 取得価額(土地分・建物分に按分) 同左 同上
固定資産税・都市計画税の精算金 取得価額(税金としての経費にはならない) 同左 国税庁 質疑応答事例
所有権移転の登録免許税・司法書士報酬 必要経費 損金か取得価額かを選べる 所基通37-5・49-3、法基通7-3-3の2
不動産取得税 必要経費(通知が届いた年) 損金か取得価額かを選べる 所基通37-5・37-6、法基通7-3-3の2
売買契約書の印紙税 必要経費 通達の例示にはない(要相談) 所得税法37条、No.3252
抵当権設定の登録免許税・司法書士報酬 必要経費 損金 所基通37-5
借入金の利子 必要経費(使い始めるまでの分は取得価額に入れることもできる) 損金(使い始めるまでの分も取得価額に入れなくてよい) 所基通37-27、法基通7-3-1の2
ローンの事務手数料 必要経費 損金 所得税法37条、法人税法22条
一括払いの保証料 保証期間に応じて按分 同左 所基通37-30の2
火災保険料・地震保険料(長期一括) 保険期間に応じて按分。積立型の積立部分は資産 同左 所基通37-30の2・36・37共-18の2、法基通9-3-9

※所基通は所得税基本通達、法基通は法人税基本通達の略です。

一覧は少し細かく見えますが、まずは上の三行に注目してください。購入代金、仲介手数料、固定資産税・都市計画税の精算金は、個人も法人も取得価額に入ります。個人と法人で大きく違ってくるのは、所有権移転の登録免許税・司法書士報酬と、不動産取得税の行です。売買契約書の印紙税は、法人については通達の例示にないため「要相談」としています。根拠の欄には通達などの番号を載せていますので、気になる方は照らし合わせてみてください。

固定資産税の精算金は「税金」ではなく「代金の一部」

固定資産税・都市計画税は、その年の1月1日の所有者に1年分が課税されます。そこで売買契約で、引渡し日以後の期間の分を買主が売主に支払う「精算金」を取り決めることがあります。

国税庁の質疑応答事例は、この精算金について、税の負担期間のずれを調整するものであり、実質的には土地・建物の譲渡の対価の一部であるとして、売主の譲渡所得の収入金額に入るとしています。買主の側から見ると購入代金の一部なので、固定資産税として経費にはならず、土地分は土地の、建物分は建物の取得価額に入ります。消費税でも、精算金は資産の譲渡の対価に含まれるとされています(消費税法基本通達10-1-6)。

決済の精算書には、「固定資産税」という名前のまま精算金が並んでいるので、つい税金として経費に入れたくなります。でも、ここはぐっとこらえて取得価額へ。考えてみれば、精算金を払う相手は役所ではなく売主さんです。払っているのは税金そのものではなく、物件の値段の一部なのだと思えば、すっと腑に落ちるのではと思います。

登録免許税と不動産取得税は、個人と法人で扱いが違う

個人は、その年の必要経費になる

賃貸に使う資産の登録免許税(司法書士報酬など登記のための費用を含む)、不動産取得税は、不動産所得の必要経費になります(所基通37-5)。建物の登録免許税は、取得価額に入れないこととされています(所基通49-3)。土地の分も、取得価額ではなく必要経費です。

法人は、損金にするか取得価額に入れるかを選べる

法人は、不動産取得税、登録免許税その他登記のための費用を、固定資産の取得価額に入れないことができます(法基通7-3-3の2)。損金にすれば1年目の利益が小さくなり、取得価額に入れれば建物分は耐用年数にわたって償却され、土地分は売却まで経費になりません。

1年目の利益を小さくしたいのか、それとも決算の見え方を長い目で整えたいのか。どちらがよいかは法人の状況しだいなので、決済の前に方針を決めておくと迷わずにすみます。

不動産取得税は後から届くので、経費にする年に注意する

不動産取得税は、都道府県から届く納税通知書で納める税金です。個人は、その年の12月31日までに納付すべきことが確定した税金がその年分の必要経費になるので(所基通37-6)、通知が届いた年の必要経費になります。12月に取得して通知が年内に届かなければ、2025年分ではなく、通知が届いた年分の経費です。翌年以後の申告で入れ忘れないよう、メモしておきましょう。住宅用の軽減措置などについては、当ブログの「不動産取得税が掛かる孫と掛からない息子」(2025年7月19日)もご覧ください。

決済が終わってほっとしたころに、ひょっこり届く。不動産取得税は、そんな税金です。届いた年の経費になるからこそ、翌年の申告の準備をするときに、通知書の封筒を一緒に探せるようにしておいてください。

ローンの保証料や長期の保険料は、期間に応じて分けて経費にする

借入金の利子は、必要経費(法人なら損金)です。個人の場合、使い始めるまでの期間の利子は取得価額に入れることもできます。初めて賃貸物件を買う方で、賃貸業を始める前の期間の利子は、取得価額に入れる扱いになります(所基通37-27の注・38-8)。すでに大家業をしている方と、これから初めて大家になる方とで、扱いが分かれるところです。

一括で払う保証料は、保証期間にわたって受けるサービスの前払いです。前払費用は、まだサービスを受けていない部分をその年の経費にできないのが原則です(所基通37-30の2)。そのため、保証期間の月数などで按分します。何十年分もの保証料をまとめて払うのは、その期間の安心を先に買っておくようなもの。その年に受け取った分だけが、その年の経費になる、という考え方です。

長期の火災保険料・地震保険料も、保証料と同じく、保険期間に応じて按分します。満期返戻金のある積立型の保険は、積立部分は経費になりません。

12月1日に買うと、諸費用473万円のうち2025年分の経費は143万7,500円

次の条件で、2025年分の経費を計算してみます。

すでに賃貸業をしている個人が、2025年12月1日に中古の木造アパート(築15年)の決済・引渡しを受け、入居者付きのまま同日から賃貸する例です。売買代金は6,000万円(契約書で土地3,600万円・建物2,400万円。売主は個人で消費税なし)、建物の耐用年数は簡便法で10年(定額法の償却率0.100)とします。

費用 金額 2025年分の必要経費 取得価額に入る額
固定資産税・都市計画税の精算金 12万円 0円 土地7.2万円・建物4.8万円
仲介手数料(上限の範囲内の仮定の金額) 198万円 0円 土地118.8万円・建物79.2万円(6:4で按分)
所有権移転の登記費用(登録免許税・司法書士報酬) 80万円 80万円 -
抵当権設定の登記費用 25万円 25万円 -
印紙税(売買契約書・ローン契約書) 5万円 5万円 -
ローンの事務手数料 33万円 33万円 -
保証料(30年分を一括) 90万円 2,500円(360か月分の1か月) -
火災・地震保険料(5年分を一括) 30万円 5,000円(60か月分の1か月) -
諸費用の合計 473万円 1,437,500円 210万円
建物の減価償却費(建物の取得価額2,484万円×0.100×1/12) - 207,000円 -
2025年分の必要経費の合計 - 1,644,500円 -

※購入代金と合わせた取得価額は、土地3,726万円・建物2,484万円です。減価償却費207,000円のうち、諸費用(精算金と仲介手数料の建物分84万円)から来ている部分は7,000円で、残りの200,000円は購入代金(建物2,400万円)の分です。精算金は代金の比(6:4)で分けた仮定で、実際は固定資産税の課税明細の土地・建物の税額で分けます。

この内訳を、お金の行き先ごとに三つの箱に分けたのが下の図です。左の箱が「取得価額に入る」210万円(精算金と仲介手数料)、真ん中の箱が「2025年分の経費」143万7,500円(登記費用、印紙税、ローンの事務手数料、保証料・保険料の12月分)、右の箱が「2026年以後の経費」になる保証料と保険料の残り(合計1,192,500円)です。図の下には、建物の減価償却費207,000円を加えた2025年分の合計1,644,500円も示しています。

諸費用473万円のうち、2025年分の経費になるのは143万7,500円。建物の減価償却費207,000円を加えると、2025年分の必要経費は1,644,500円です。保証料と保険料の残り(合計1,192,500円)は、2026年以後に少しずつ経費になります。

473万円を払って、その年の経費になるのは3割ほど。決済の日の実感とは、ずいぶん違う数字ではないかと思います。ただ、残りが消えてなくなるわけではありません。減価償却や翌年以後の経費として、順番を待っているだけです(土地分は売るまで経費になりません)。

図の外にも、経費は控えています。2026年度の固定資産税(1月1日の所有者である買主に課税)は2026年分の経費。不動産取得税も、通知が年明けに届けば2026年分の経費になります。このほか、12月分の借入金の利子も2025年分の必要経費です。

なお、法人で登記費用80万円を取得価額に入れることを選んだ場合、2025年の損金はその分小さくなり、建物分は耐用年数にわたって償却されます。

決済日と賃貸を始める日から、年内の確認を始める

まずは、決済日(引渡し日)と、賃貸を始める日を確認してください。次に、売買契約書で土地と建物の内訳を確かめ、精算金の土地分・建物分も、固定資産税の課税明細などで確認しておきましょう。

登記費用の請求書は、所有権移転の分と抵当権設定の分に分けてもらいましょう。法人で所有権移転の分を取得価額に入れる場合など、ここが分かれていないと仕分けに困ることになります。保証料・火災保険料は、保証期間・保険期間を確認しておけば、按分の計算がすぐにできます。

不動産取得税の通知が届いたら、その年の経費に入れるようメモしておきます。そして法人の方は、登録免許税・不動産取得税を損金にするか取得価額に入れるか、方針を決めておいてください。

諸費用の分け方しだいで、1年目の経費は大きく変わる

仲介手数料と固定資産税の精算金は、取得価額に入ります。精算金は税金ではなく、代金の一部だからです。個人は、登録免許税・登記費用、不動産取得税をその年の必要経費にし、法人は、これらを損金にするか取得価額に入れるかを選べます。一括払いの保証料や長期の保険料は、期間に応じて按分します。そして12月の取得なら、2025年分の減価償却は1か月分。不動産取得税は通知が届いた年の経費です。

決済の日の領収書の束は、物件を手に入れた達成感と一緒に、少しの疲れも運んできます。それでも、一枚ずつ行き先を決めておけば、確定申告の時期にあわてずにすみます。束をそのまま引き出しにしまう前に、ほんの少しだけ、仕分けの時間をとってみてください。

物件の購入は、諸費用の分け方しだいで、1年目の経費が大きく変わります。当事務所では、決済前の資金計画と、取得した年の確定申告・決算をお手伝いしています。年内の決済を予定されている方は、お気軽にご相談ください。

 

出典・参考

  • 所得税法施行令第126条、法人税法施行令第54条
  • 国税庁 所得税基本通達36・37共-18の2、37-5、37-6、37-27、37-30の2、38-8、38-9、49-3
  • 国税庁 法人税基本通達7-3-1の2、7-3-3の2、7-3-16の2、9-3-9
  • 国税庁 質疑応答事例「未経過固定資産税等に相当する額の支払を受けた場合」(令和7年8月1日現在の法令・通達等にもとづくもの)
  • 国税庁 消費税法基本通達10-1-6
  • 国税庁 タックスアンサー2215「固定資産税、登録免許税又は不動産取得税を支払った場合」、No.3252「取得費となるもの」(タックスアンサーはいずれも2025年12月時点の内容を参照)