東雲結子:先生、このアパートの広告を見てください!「築25年の木造。建物は4年で償却できます」ですって。4年で経費にできるなら、もう税金なんて怖くありません!

税理士石井:ふふ、広告の「4年」は、条件を満たせば本当なんです。中古の建物は「簡便法」で耐用年数を短くできて、木造は築22年以上なら、法定耐用年数22年×20%=4.4年、切り捨てて4年になります。

東雲結子:やっぱり! じゃあ物件価格まるごと、4年で経費にしちゃいましょう。

税理士石井:おっと、そこが一つ目の落とし穴です。土地は減価償却しないので、経費になるのは建物の部分だけ。しかも、代金を土地と建物にどう分けるかで、毎年の経費が大きく変わります。

東雲結子:えっ、セット価格を自分で分けるんですか? お寿司の盛り合わせを、ネタごとに値付けし直すみたいな……。

税理士石井:ははは、近いです。ただし好きな値段はつけられなくて、契約書の内訳や消費税額からの逆算など、合理的な方法で分けます。この記事の例では、分け方の違いだけで毎年の減価償却費が51万円違ってきます。

東雲結子:51万円も……。じゃあ急いで12月に買って、今年の分からどーんと経費に!

税理士石井:それが二つ目の落とし穴ですね。減価償却は貸し始めた月からの月割りなので、12月に買っても、今年の分は1か月分だけです。12月に入居した方から、その年の家賃を1年分はいただけないのと同じですよ。

東雲結子:あっ……。広告の「4年」の後ろに、小さな字の注意書きがたくさん隠れていたんですね。

税理士石井:そういうことです。中古アパートの減価償却を、耐用年数の計算、土地と建物の按分、月割りの順に、数字で確かめていきましょう。

「築25年の木造アパートなら、建物代を4年で経費にできると聞いたのですが、本当ですか?」

中古物件を探していると、一度は耳にする話ですよね。答えは、はい、条件を満たせば本当です。中古の建物は、新築と同じ耐用年数ではなく、「簡便法」で計算した短い耐用年数で減価償却できます。

ただし、1年目にいくら経費にできるかは、耐用年数だけでは決まりません。購入代金のうち「建物」をいくらにするか(土地は減価償却しません)、そして何月から貸し始めたか。この二つで、結果は大きく変わります。

中古アパートの減価償却は、買う段階でその後の何年分もの形が決まります。だからこそ、契約の前に一度、数字で確かめておいてほしいのです。この記事では、中古の木造アパートと鉄筋コンクリート造(RC造)のマンションを例に、数字で確認します。

※この記事は2025年12月時点の法令と国税庁の公表資料にもとづいています。

1年目の経費は、耐用年数・按分・貸し始めた月で決まる

ポイント 内容
中古建物の耐用年数 残りの使用可能期間を見積もる(見積法)。見積りが難しければ簡便法で計算できる
簡便法の式 法定耐用年数を全部経過:法定耐用年数×20%/一部経過:(法定耐用年数−経過年数)+経過年数×20%。1年未満は切捨て、2年未満なら2年
簡便法が使えないとき 使い始めるまでの改修(資本的支出)が取得価額の50%超なら不可。再取得価額(新品の価額)の50%超なら法定耐用年数
償却方法 建物は定額法(1998年4月1日以後の取得)
土地と建物の按分 契約書の内訳、建物の消費税額からの逆算、固定資産税評価額の比など、合理的な方法で区分
年の途中の取得 業務に使い始めた月(貸付けの用に供した月)から12月までの月割り(1か月未満は1か月)。12月なら1か月分

表には、「何年で経費にするか」(耐用年数と償却方法)、「いくらを経費にするか」(土地と建物の按分)、「いつから経費にするか」(年の途中の取得)が並んでいます。その年の減価償却費は、この三つのかけ算。どれか一つを読み違えるだけで答えが変わるので、順番に見ていきましょう。

簡便法の出発点は、新築のときの法定耐用年数

まず、新築の場合の耐用年数(法定耐用年数)です。

構造 法定耐用年数 定額法の償却率
木造・合成樹脂造 22年 0.046
木骨モルタル造 20年 0.050
鉄骨鉄筋コンクリート造・鉄筋コンクリート造 47年 0.022
れんが造・石造・ブロック造 38年 0.027
金属造(骨格材の肉厚4mm超) 34年 0.030
金属造(骨格材の肉厚3mm超4mm以下) 27年 0.038
金属造(骨格材の肉厚3mm以下) 19年 0.053

構造は、登記事項証明書の「構造」欄などで確認します。鉄骨造は骨格材の厚みで年数が変わるので、建築時の資料で確かめておきましょう。

同じ「鉄骨造」でも、表のとおり骨格材の厚みによって19年から34年まで幅があります。中古の簡便法はこの法定耐用年数をもとに計算しますから、ここを読み違えると、その先の計算がすべてずれてしまいます。

簡便法なら、築25年の木造アパートの耐用年数は4年

中古の建物は、買った後に使える年数を見積もるのが原則ですが、見積りが難しい場合は次の簡便法が使えます。

区分 計算式
法定耐用年数を全部経過している 法定耐用年数×20%
法定耐用年数の一部を経過している (法定耐用年数−経過年数)+経過年数×20%
端数など 1年未満は切り捨て。2年に満たない場合は2年

経過年数は、新築されたときから買ったときまでの年数です。代表的な例で計算してみます(築年数がちょうどの年数の例です)。

物件 計算 耐用年数 定額法の償却率
木造・築10年 (22−10)+10×20%=14 14年 0.072
木造・築15年 (22−15)+15×20%=10 10年 0.100
木造・築25年 22×20%=4.4 4年 0.250
RC造・築20年 (47−20)+20×20%=31 31年 0.033
RC造・築50年 47×20%=9.4 9年 0.112

ここで、中古の建物の耐用年数がどう決まるのかを、一枚のフローチャートにまとめておきます。上から順に、使い始めるまでの改修(資本的支出)が再取得価額(新品の価額)の50%を超えるか、取得価額の50%を超えるか、そして買った後に使える年数を見積もれるか。この三つの質問をたどっていくと、法定耐用年数、算式による年数、見積法、簡便法のどれになるかが分かります。いちばん下の簡便法の枠には、計算式と、木造・RC造の例も添えました。

木造は築22年以上なら、どれだけ古くても4年。RC造は築47年以上なら9年です。「2年に満たない場合は2年」の決まりは、法定耐用年数6年の器具・備品(6年×20%=1.2年→2年)のように、もともと耐用年数が短い資産で効いてきます。

広告の「4年で償却できます」は、まさにこの計算から来ています。ただ、フローチャートの上にある二つの質問を飛ばしてしまうと、そもそも簡便法が使えなかった、ということも起こります。

貸す前の大規模な改修が取得価額の50%を超えると、簡便法は使えない

買った後、貸し始めるまでに大規模な改修(資本的支出)をした場合は注意が必要です。

使い始めるまでの資本的支出 耐用年数
取得価額の50%以下 簡便法を使える
取得価額の50%超、再取得価額の50%以下 簡便法は使えない。見積法か、次の算式による年数
再取得価額の50%超 法定耐用年数(新築と同じ)

算式は、(取得価額+資本的支出)÷{取得価額÷簡便法の耐用年数+資本的支出÷法定耐用年数}です(1年未満切捨て、耐用年数通達1-5-6)。国税庁の例(法定耐用年数22年・経過年数10年で簡便法なら14年、取得価額1,000万円、再取得価額2,200万円、資本的支出800万円)では、1,800万円÷(1,000万円÷14年+800万円÷22年)≈16.7年なので、16年になります。

この例の資本的支出800万円は、取得価額1,000万円の50%(500万円)を超えていて、再取得価額2,200万円の50%(1,100万円)以下なので、表の真ん中の行に当たります。築古の物件を手ごろな価格で買い、しっかり手を入れてから募集する。そんな再生型の投資を考えている方ほど、改修の見積書を手にした段階で、この50%のラインを一度確かめておいてください。

また、法人は、簡便法などによる耐用年数の計算を、その建物を事業に使い始めた事業年度にしなければならず、後の事業年度に計算し直すことはできません(耐用年数通達1-5-1)。個人の場合も、最初の年の申告で耐用年数を決めておきましょう。

中古アパートの減価償却費は、土地と建物の按分で決まる

土地は減価償却できないので、一括で買った物件は、購入代金を土地と建物に分ける必要があります。方法は次の順で検討します。

順番 方法 ポイント
1 売買契約書の土地・建物の内訳 内訳が合理的であればそれによる
2 建物の消費税額から逆算 土地の譲渡は消費税が非課税なので、消費税額÷10%が建物の税抜価額。売主が個人などで消費税がかからない取引では使えない
3 固定資産税評価額の比など 内訳も消費税額もない場合に、合理的な比で按分する

耐用年数が「何年で」を決めるものだとすれば、按分は「いくらを」を決める作業です。同じ物件でも、ここで建物の金額が変われば、毎年の減価償却費がそのまま変わります。具体的な数字で比べてみます。

例として、築15年の中古の木造アパート(簡便法で10年、償却率0.100)を考えます。売主は法人で、代金は5,000万円(税込)、契約書には「うち消費税額160万円」とあります。固定資産税評価額は、土地2,700万円・建物900万円(建物の割合25%)です。

  消費税額から逆算 固定資産税評価額の比
建物 160万円÷10%×110%=1,760万円 5,000万円×25%=1,250万円
土地 3,240万円 3,750万円
毎年の減価償却費 176万円 125万円

同じ物件でも、毎年の減価償却費が51万円違います。この例のように契約書から消費税額が分かる場合は、それにもとづく区分が契約上の区分になります。なお、建物の金額は、税込経理(または消費税の免税事業者)の場合で計算しています。

物件も家賃も同じなのに、分け方ひとつで経費になるペースがここまで違う。正直に言うと、私もこの差には毎回考えさせられます。売主が法人の物件なら、契約書の金額の欄は、価格交渉と同じくらい丁寧に読んでおきたいところです。

固定資産税評価額の比による按分は、一般には不合理とはいえないとされていますが、不動産鑑定で実際の価値の比が大きく異なると分かった事案で、鑑定評価額の比によるべきとした裁判例があります(東京地裁令和4年6月7日判決、売主の消費税の事案)。また、契約書の内訳であっても、時価とかけ離れていれば合理性が問われます。購入時の仲介手数料などの付随費用も、土地分と建物分に分けて取得価額に加えます。

「経費を増やしたいから建物を多めに」という発想は、合理性を問われたときに説明がつかなくなるおそれがあります。按分は節税の道具というより、物件の中身を正しく映すための作業だと考えておくのが安全です。

12月に買うと、その年の減価償却は1か月分しか経費にならない

減価償却費は、1年分の金額に「その年に業務に使っていた(貸付けの用に供していた)月数÷12」を掛けて計算します(1か月未満の端数は1か月)。

築25年の木造を4月に買うと、償却は5年分の申告にまたがる

まずは、木造・築25年(耐用年数4年)、建物1,200万円の物件を、2025年4月に購入して貸付けを始めた例です。

年分 計算 減価償却費
2025年 1,200万円×0.250×9/12 2,250,000円
2026年 1,200万円×0.250 3,000,000円
2027年 同上 3,000,000円
2028年 同上 3,000,000円
2029年 残り(帳簿価額1円を残す) 749,999円

新築の木造(22年)なら毎年552,000円ですから、中古の簡便法は「短期間に大きく経費にする」形になります。そのぶん、5年目の2029年分は749,999円に減り、6年目の2030年分以後は建物の減価償却費がなくなって所得が増える点も、計画に入れておきましょう。

耐用年数は4年でも、年の途中から始まるので、償却は2025年分から2029年分までの5回の申告にまたがります。そして見落としやすいのが、その後です。家賃収入は変わらないのに、ある年から経費が減って所得が増える。手元のお金が増えたわけではないのに、税金だけが重くなったように感じる時期が、いずれやってきます。経費の大きい最初の数年のうちに、その先の税金まで見込んでおくことが大切だと私は思います。

築20年のRC造を12月に買っても、2025年分は1か月分

次は、RC造・築20年(耐用年数31年)、建物7,000万円の物件を、2025年12月に購入して貸付けを始めた例です。

年分 計算 減価償却費
2025年 7,000万円×0.033×1/12 192,500円
2026年以後 7,000万円×0.033 2,310,000円

12月に買っても、2025年分の減価償却費は1か月分です。「年内に買えば、今年の所得が大きく減る」とはならないので注意してください。

年の瀬が近づくと、「今年のうちに決済を」と急ぎたくなる気持ちはよく分かります。でも、この例で2025年分の減価償却費は192,500円で、1年分の2,310,000円が丸ごと今年に入るわけではありません。

法人(資産管理法人)は、事業年度で月割りし、決算での計上が前提になる

耐用年数や償却率は個人と同じですが、月割りは事業年度で行います。また、法人は決算で減価償却費を計上(損金経理)した金額のうち、限度額までが損金になります。計上しなかった分が自動的に損金になるわけではありません。

契約書と登記事項証明書を手元に、年内に確かめておきたいこと

まずは、売買契約書に土地・建物の内訳、または建物の消費税額が書かれているかを確認してください。ここが按分の出発点になります。あわせて、建物の構造と新築の年月を、登記事項証明書などで確かめておきましょう。構造で法定耐用年数が決まり、新築の年月で経過年数が決まります。

そのうえで、簡便法で耐用年数を計算します(1年未満切捨て)。貸し始めるまでに改修をするなら、その改修費が取得価額の50%を超えないかも確認しておきたいところです。按分を比べられるよう、固定資産税評価額(評価証明書や課税明細書)も入手しておくと安心です。

12月に取得する場合は、2025年分の償却は1か月分であることを、資金計画に入れておいてください。そして最後に、償却が終わった後の所得の増え方も試算しておきましょう。最初の数年の経費の大きさに目が行きがちですが、長く大家業を続けていくうえでは、こちらも同じくらい大切です。

耐用年数と按分は、買う段階で決まり、何年も続く

中古建物は、簡便法で耐用年数を短くできます(木造は最短4年、RC造は最短9年)。ただし、使い始めるまでの改修が取得価額の50%を超えると、簡便法は使えません。

減価償却費の額は、土地と建物の按分で大きく変わります。契約書の内訳、消費税額からの逆算、固定資産税評価額の比などで、合理的に区分することが前提です。そして、年の途中で買ったら月割り。12月の取得なら、2025年分は1か月分です。

「4年で償却できます」という一行は、条件を満たせば嘘ではありません。けれど、その後ろには、建物をいくらにするか、いつから貸すか、償却が終わったあとをどう迎えるか、という大家さん自身の判断が控えています。広告の数字に背中を押される前に、ご自分の物件の数字で一度確かめてみてください。

中古物件の減価償却は、購入の段階で耐用年数と按分の方法が決まり、その後の何年もの税金に影響します。当事務所では、物件購入前の試算から、取得した年の確定申告までお手伝いしています。お気軽にご相談ください。

 

出典・参考

  • 減価償却資産の耐用年数等に関する省令 第3条(中古資産の耐用年数等)、別表第一、別表第八
  • 国税庁 耐用年数の適用等に関する取扱通達 1-5-1〜1-5-6
  • 国税庁 タックスアンサー5404「中古資産の耐用年数」と同QA「取得した中古資産を業務に使用するためにその取得価額の50%に相当する金額を超える資本的支出を行った場合」(タックスアンサーは2025年12月時点の内容を参照)
  • 国税庁「主な減価償却資産の耐用年数表」
  • 所得税法施行令第120条の2・第132条、法人税法施行令第48条の2・第59条
  • 消費税法第6条(土地の譲渡は非課税)、国税庁 消費税法基本通達10-1-5(売主側の土地・建物の対価の区分)
  • 東京地裁令和4年6月7日判決(令和元年(行ウ)第480号)