東雲結子:先生、外壁塗装の見積書をもらってきました! 年内に塗り直せば、全部今年の経費ですよね? 表紙にもちゃんと「修繕工事」って書いてあります!

税理士石井:うーん、見積書の表紙に「修繕」と書いてあっても、税金は表紙では決まらないんです。判定するのは、工事の中身です。

東雲結子:えっ、表紙で決まらないんですか? 立派なハンコまで押してあるのに……。

税理士石井:ふふ、ハンコは立派ですね。修理や改修の費用は、その年の経費になる「修繕費」と、減価償却で何年もかけて経費にする「資本的支出」に分かれます。同じ450万円の工事でも、今年の経費が80倍以上違うこともあるんです。

東雲結子:80倍! 外壁を塗ったつもりが、経費のほうが何年分にも薄く塗り広げられてしまうんですね。

税理士石井:うまいことを言いますね。従来と同程度の塗料で塗り替えるなら、修繕費が目安です。でも、性能の高い塗料や工法に変えるなら、通常の塗り替えを超える部分は資本的支出と考える余地があって、判断が分かれます。

東雲結子:じゃあ、見積書を部屋ごとに分けてもらって、全部20万円未満にしちゃえば……!

税理士石井:おっと(汗)。一つの計画で行う工事なら、見積書を分けても合計で判定します。家賃の振込先を部屋ごとに分けても、アパート全体の家賃収入が減らないのと同じですね。

東雲結子:あっ……。見積書は「金額で小分けにする」ものじゃなくて、「中身で分けてもらう」ものなんですね。

税理士石井:そのとおりです。今回は、国税庁の通達にもとづく判定の順番と、外壁塗装・給湯器・エアコン交換などの具体例を、個人の大家さんと資産管理法人の両方の目線で整理していきましょう。

「年内に外壁を塗り直したら、その工事代は全部、今年の経費にできますよね?」

年末が近づくと、こんなご相談をいただきます。答えは「工事の中身しだい」です。修理や改修の費用は、その年の経費になる「修繕費」と、減価償却で何年もかけて経費にする「資本的支出」に分かれ、同じ450万円の工事でも、今年の経費が80倍以上違うこともあります。

修繕費か資本的支出かの判定は、大家業を続けるかぎり何度も向き合うことになるテーマです。建物は年々古くなり、手を入れる場面は確実にやってきます。そのたびに「これはどっち?」と迷わずに済むよう、判定の順番そのものを手元に置いておくことが、いちばんの近道だと私は考えています。

この記事では、国税庁の通達にもとづく判定の順番と、外壁塗装・屋根・給湯器・エアコン・原状回復・間取り変更などの具体例を、個人の大家さんと資産管理法人の両方の目線で整理します。

※この記事は2025年12月時点の法令と国税庁・国税不服審判所の公表資料にもとづいています。

決め手は「修繕」という名目ではなく、工事の中身

ポイント 内容
判定の基本 「修繕」「改修」などの名目ではなく、工事の中身で判定。価値を高める・耐久性を増す部分は資本的支出、通常の維持管理や元の状態に戻す(原状回復)部分は修繕費
金額などで修繕費にできるもの 1つの工事が20万円未満、またはおおむね3年以内の周期で行う工事
区分がはっきりしないとき 60万円未満、または建物の前年末の取得価額のおおむね10%以下なら修繕費にできる
それでも決まらないとき 継続して適用することを条件に、「工事費の30%」と「前年末の取得価額の10%」の少ない方を修繕費、残りを資本的支出にできる
資本的支出になったら 2007年4月1日以後の支出は、元の建物と同じ種類・耐用年数の資産を新しく取得したものとして、支出した月から償却

考え方の基本は「中身で考える」こと。そのうえで、20万円・3年のように金額や周期で決まるものや、中身で決まらないときの目安が何段階も用意されています。迷ったときの逃げ場がきちんとあると思うと、少し気が楽になりませんか。

修繕費と資本的支出、そもそも何が違うのか

法令では、修理や改良のための支出のうち、資産の使用可能期間を延ばす部分や、資産の価値を高める部分が資本的支出とされています(両方にあたるときは多い方の金額)。それ以外の、通常の維持管理や壊れた部分を元に戻すための部分が修繕費です。

大家さんの言葉に置きかえるなら、「建物を前より長持ちさせる、前より良くする」のが資本的支出で、「傷んだところを元の状態に戻す、今の状態を保つ」のが修繕費。前者は建物そのものへの投資なので、建物と同じように減価償却で少しずつ経費にしていく、という考え方です。

通達は、それぞれ次のような例を挙げています。

区分 通達の例示
資本的支出(原則) 避難階段の取付けなど物理的に付け加えた部分/用途変更のための模様替えなど改造・改装に直接かかった費用/機械の部分品を特に品質・性能の高いものに取り替えたときの、通常の取替え費用を超える部分
修繕費 建物の移えい・解体移築(一定の場合)/地盤沈下した土地を沈下前の状態に戻す地盛り(一定の場合を除く)/水はけをよくするための砂利・砕石の敷設や、砂利の路面への補充 など
資本的支出でもない 増築は「建物の取得」そのもの

月極駐車場の砂利の補充は、通達に例示がある修繕費です。

修繕費か資本的支出かの判定は「7つの質問」を上から順に

国税庁が示す判定の流れに沿って、上から順に当てはめます。下のフローチャートでは、左の箱が質問、右の箱が「はい」のときの答えです。緑の箱が修繕費、オレンジの箱が資本的支出、7番目の青い箱が30%と10%の区分。7つすべてが「いいえ」なら、いちばん下の箱のとおり、工事の実質で判定することになります。

順番 質問 「はい」なら 個人/法人の通達
1 1つの工事の費用が20万円未満? 修繕費 所基通37-12/法基通7-8-3
2 おおむね3年以内の周期で行う工事? 修繕費 同上
3 明らかに価値を高める・耐久性を増す工事? 資本的支出 所基通37-10/法基通7-8-1
4 明らかに通常の維持管理・原状回復? 修繕費 所基通37-11/法基通7-8-2
5 区分が明らかでない金額が60万円未満? 修繕費 所基通37-13/法基通7-8-4
6 前年末の取得価額のおおむね10%以下? 修繕費 同上
7 30%と10%の区分を継続して使う? 少ない方を修繕費、残りを資本的支出 所基通37-14/法基通7-8-5

※所基通は所得税基本通達、法基通は法人税基本通達の略です。

ここで大事なのは、「上から順に」という点です。いきなり5番目の60万円から考え始めるのではなく、まず1番目と2番目で金額や周期を確かめ、次に3番目と4番目で工事の中身がはっきりしているかを見る。順番を守るだけで、判定はずいぶん迷いにくくなります。

「1つの工事」は分けて数えられない

20万円の判定は、同じ建物について一つの計画で行う工事ごとの金額で行います(2年にまたがるときは各年の金額)。見積書を部屋ごとに分けても、一つの計画なら合計で判定します。

10%の判定は「買ったときの金額」で

6番目の質問で使うのは、前年12月31日(法人は前期末)時点の取得価額です。減価償却した後の残高ではなく、買ったとき・建てたときの金額(過去の資本的支出を含む)です。たとえば、前年末の取得価額1,000万円の建物で、区分が明らかでない80万円の工事なら、10%(100万円)以下なので修繕費にできます。

築年数が進んで帳簿の残高が小さくなった建物でも、取得価額で判定できる。古い物件を持つ大家さんにとっては、心強いところです。

個人と法人の違い

  個人 法人
修繕費にする手続 修繕費として必要経費に算入して申告 決算で費用として処理(損金経理)
30%・10%の区分 継続して適用することが条件 継続して経理することが条件

資産管理法人で物件を持っている方は、「決算で費用として処理する」ことが前提になっている点を覚えておいてください。

外壁塗装・給湯器・エアコン交換、この工事はどっち?

工事 判定の目安 根拠
退去後のクロス・畳表の張替え、ハウスクリーニング 修繕費(原状回復・通常の維持管理) 所基通37-11
外壁の塗り替え(従来と同程度の塗料) 修繕費 所基通37-11、平成元年10月6日裁決
屋根の部分補修・雨漏りの修理 修繕費(原状回復) 所基通37-11
屋根の全面的な葺き替え・材質の変更 判断が分かれる -
故障した給湯器の交換 判断が分かれる(下で説明) -
ルームエアコンの交換 建物の修繕ではなく器具・備品の取得 耐用年数通達2-2-4
台所・浴室の全面的な取替え 資本的支出とされた裁決あり 平成26年4月21日裁決
事務所を住宅に変えるなどの用途変更 資本的支出 所基通37-10
住宅のままの間取り変更 判断が分かれる -

退去のたびに発生するクロスの張替えやハウスクリーニングは、原状回復・通常の維持管理として修繕費が目安です。一方で、表の中に「判断が分かれる」が3つもあることにも、目を向けておいてください。実務では、こうした「グレー」な工事こそが悩みの種になります。ここからは、迷いやすいものをひとつずつ見ていきましょう。

外壁塗装:同じ程度の塗り替えなら修繕費

国税不服審判所の平成元年10月6日の裁決(裁決事例集No.38・46頁)では、鉄筋コンクリート造の店舗共同住宅の外壁等の補修工事について、樹脂注入は建物全体に行ったものではなく、塗装は通常の維持管理に必要な修繕で、防水美装も特別に上質な塗装材を使ったものではないとして、修繕費とされています。性能の高い塗料や工法に変える場合は、通常の塗り替えを超える部分を資本的支出と考える余地があり、判断が分かれます(区分が難しければ5〜7番目の質問へ)。

塗装業者さんから「せっかくなら、長持ちする上位グレードの塗料にしませんか」と提案されることもあるでしょう。建物のためには良い選択かもしれません。ただ、税金の面では、その「せっかく」の部分が資本的支出に回る可能性があることを、頭の片隅に置いておいてください。

給湯器:考え方が2つある

給湯器を建物附属設備(給排水・衛生・ガス設備)の一部とみるなら、同程度の機種への交換は原状回復に近く、20万円未満なら1番目、区分が明らかでなくても60万円未満なら5番目の質問で修繕費にできます。一方、独立した器具・備品とみれば新しい資産の取得です。通達の例示にはないため、機種や設置の方法も含めて判断します。

給湯器の故障は入居者の暮らしに直結するので、交換は待ったなしです。慌ただしい中でも、機種や設置の方法がわかる見積書や写真を残しておくと、あとで判断するときの助けになります。

エアコン:建物とは別の「器具・備品」

ダクトで広い範囲を冷暖房する設備は建物附属設備ですが、ルームエアコンは器具・備品(耐用年数6年)です。1台が1つの資産なので、丸ごと取り替えると新しい資産の取得になり、金額も1台ごとに判定します。

1台の取得価額 扱い
10万円未満 全額をその年の経費にできる(少額の減価償却資産)
20万円未満 3年間で均等に経費にする方法(一括償却資産)も選べる
30万円未満 青色申告をしている中小事業者(個人)・中小企業者等(法人)なら全額を経費にできる(年300万円まで、2026年3月31日までに取得して事業に使ったもの)
上記以外 6年で減価償却

2022年4月以後、「貸付けの用に供した資産」はこれらの特例の対象外になりましたが、不動産貸付業を営む人が建物の入居者に家具や電気機器などを貸し付けることは「主要な業務(法人は主要な事業)として行われる貸付け」の例とされ、原則として対象外にはなりません(所基通49-39の3、法基通7-1-11の3)。

ルームエアコンを丸ごと取り替えるなら、建物の「修繕費か資本的支出か」ではなく、新しい器具・備品の取得として考える、というのがポイントです。何部屋分かをまとめて交換しても、金額の判定はあくまで1台ごと。部屋数の多いアパートほど、この考え方を知っているかどうかで、経費の計上のしかたが変わってきます。

台所・浴室の全面取替え:原状回復のつもりでも資本的支出に

平成26年4月21日の裁決では、築17年の賃貸マンションで台所と浴室を全面的に取り壊し、システムキッチンとユニットバスを新設した費用が、一部の補修や交換ではなく新設にあたるとして、全額が資本的支出とされました。原状回復のつもりでも、工事の規模によっては資本的支出になります。

大家さんの気持ちとしては「古くなったものを新しくしただけ」でも、取り壊して新しく据え付けるところまでいくと、「元に戻した」ではなく「新しく設けた」と見られることがあるのです。

間取り変更:工事項目ごとに分けて考える

用途変更の改装は、例示どおり資本的支出です。住宅のままの間取り変更(2DKを1LDKにするなど)は直接の例示がなく、判断が分かれます。壁や設備の新設など付け加える部分と、床や壁紙の張替えなど元に戻す部分を、見積書の段階で分けておきましょう。

450万円の外壁・屋根の改修、30%・10%の区分で数字を比べる

ここで、具体的な数字で比べてみましょう。新築で取得した木造アパート(耐用年数22年、定額法の償却率0.046)で、前年12月31日の取得価額は3,000万円とします。2025年10月に外壁と屋根の改修(450万円)を行い、修繕と改良の区分が明らかでないケースです。20万円以上、周期は3年超、60万円以上、10%(300万円)超なので、7番目の30%・10%の区分を使います。

  金額
工事費の30% 135万円
前年末の取得価額の10% 300万円
修繕費(少ない方) 135万円
資本的支出(残り) 315万円
資本的支出の2025年分の償却(10〜12月の3か月分) 315万円×0.046×3/12=36,225円
2025年分の経費の合計 1,386,225円

全額が資本的支出なら2025年分の経費は51,750円、全額が修繕費(明らかに維持管理の工事の場合)なら450万円。総額は同じでも、経費になる時期が大きく変わります。

同じ450万円を払っても、その年の経費は5万円あまりから450万円まで、これだけ幅があるのです。どれが正しいかは工事の中身で決まるものであって、大家さんが都合よく選べるわけではありません。それでも、見積書の段階で工事項目をきちんと分けておけば、本来修繕費にできる部分を、うっかり資本的支出に入れてしまうことは防げます。

資本的支出になったら、新しい資産として償却する

2007年4月1日以後の資本的支出は、元の建物と種類・耐用年数が同じ資産を新しく取得したものとして償却します。上の例の315万円は、2026年分からは毎年144,900円ずつ経費になります。2007年3月31日以前に取得した建物への資本的支出は、元の建物の取得価額に加算して償却する方法も選べます。

資本的支出になったからといって、その支出が消えてなくなるわけではありません。何年もかけて、少しずつ経費になっていくだけです。賃貸経営は長い目で見るものですから、どの年にどれだけ経費が出るかを把握しておくと、先々の税金の見通しも立てやすくなります。

なお、災害で壊れた建物の原状回復や、被災前の効用を保つための補強工事は修繕費にでき、区分が難しい場合は30%を修繕費とする特例があります(所基通37-12の2・37-14の2、法基通7-8-6)。

マンションの修繕積立金の扱いについては、当ブログの「マンションの修繕積立金は、いつの経費となるのか?」(2025年8月15日)もご覧ください。

年内に工事をするなら、見積書と台帳を先に確かめる

まずお願いしたいのは、工事の見積書を、元に戻す部分と、付け加える・性能を上げる部分に分けてもらうことです。あわせて、一つの計画の工事を分割して20万円未満にしていないかも確認しておきましょう。

次に、建物の前年12月31日(法人は前期末)の取得価額を、固定資産台帳で確認します。エアコンなど器具・備品の交換は、1台ごとの金額を確かめておいてください。30%・10%の区分を使う場合は、今後も継続して使う前提で選ぶことが大切です。

そして、工事の完了が年内か年明けかの確認です。経費になるのは原則として、完了して債務が確定した年。支払は翌年でも構いません。最後に、工事前後の写真、契約書、請求書を保存しておきましょう。あとから判定の理由を説明するとき、いちばん頼りになるのは、こうした記録です。

見積書の段階で「元に戻す部分」と「付け加える部分」を分けておく

修繕費か資本的支出かは、名目ではなく工事の中身で判定します。20万円未満・おおむね3年以内の周期なら修繕費。区分が明らかでなければ、60万円未満・前年末の取得価額のおおむね10%以下でも修繕費にできます。それでも決まらない部分は、継続適用を条件に30%と10%の少ない方を修繕費にできます。

ルームエアコンは建物とは別の資産で、台所・浴室の全面取替えは資本的支出とされた裁決があります。資本的支出は、元の建物と同じ耐用年数の新しい資産として、支出した月から償却します。

工事の判定は、工事が終わってから考えると、どうしても迷いが残ります。けれど、見積書の段階で中身を分けておけば、判定の多くは自然と決まっていきます。建物を大切に手入れすることと、税金をきちんと整理することは、実は同じ方向を向いている。私はそう感じています。

当事務所では、大家さん・資産管理法人の修繕の税務判定を、見積りの段階からお手伝いしています。年内の工事を予定されている方は、お気軽にご相談ください。

 

出典・参考

  • 所得税法施行令第127条・第138条・第139条・第181条、法人税法施行令第55条・第132条・第133条・第133条の2
  • 国税庁 所得税基本通達37-10〜37-15の3、49-39、49-39の3
  • 国税庁 法人税基本通達7-8-1〜7-8-10、7-1-11、7-1-11の3
  • 国税庁 耐用年数の適用等に関する取扱通達2-2-4、「主な減価償却資産の耐用年数表」
  • 国税庁 タックスアンサー1379「修繕費とならないものの判定」、No.2107「資本的支出を行った場合の減価償却」、No.2210「必要経費の知識」(タックスアンサーはいずれも2025年12月時点の内容を参照)
  • 国税不服審判所 平成元年10月6日裁決(裁決事例集38)、平成26年4月21日裁決
  • 租税特別措置法第28条の2・第67条の5(中小事業者・中小企業者等の少額減価償却資産の特例)