東雲結子:石井先生、いよいよ最終回ですね! 私、結論を出しました。PERがいちばん低いチョイス(14.2倍)を買います。ヒルトン(34.1倍)の半分以下で同じホテル株が買えるなんて、閉店セールです!

税理士石井:うーん、見切り品の棚の値札には、たいてい小さな字で理由が書いてありますよ。チョイスの株価は2024年末から30.6%下がっています。米国の客室売上が落ちているんです。

東雲結子:えっ……。では逆張りで、ヒルトンにします! 高いものには理由がある。デパ地下のメロンと同じです!

税理士石井:ははは。今度は反対側の売り場まで全力疾走ですね。メロンの値段は今日の甘さで決まりますが、株の値札には「来年も再来年も甘くなるはず」という期待まで入っています。ヒルトンのEV/EBITDAは20.0倍、チョイスの約2倍です。

東雲結子:期待まで値段に……。でも、どっちを買っても、配当だけは確実に私のものですよね?

税理士石井:そこにも落とし穴があるんです。米国株の配当100は、米国で10、日本で約18.3の税金が引かれて、何もしなければ手取りは71.7です。

東雲結子:28.3も消えた!? 配当が太平洋を渡るあいだに、すっかり痩せて帰ってきました……。

税理士石井:大家さんも、利回りの高い地方の物件と利回りの低い都心の物件を、表面利回りだけでは比べませんよね。空室のリスクも借入も税金も引いて、手取りで比べるはずです。

東雲結子:たしかに……。株の値札も、中身とリスクと税金をセットで見ないといけないんですね。

税理士石井:そのとおりです。最終回は、7社の値札の読み方と、その値札に入っているリスク、そして手取りを決める税金まで、まとめて片づけましょう。

全9回でお届けしてきた「世界のホテル株」の連載も、今日が最終回です。マリオット、ヒルトン、ハイアット、IHG、アコー、ウィンダム、チョイスの7社を、米国の10-K・10-Q、英国の年次報告書、フランスのURD(Document d’enregistrement universel)という海外版の有価証券報告書から読んできました。どの会社も、建物はほとんど持たず、看板と運営のノウハウを貸して手数料を受け取る会社でした。

今日はその仕上げです。7社の株価の「値札」はどれだけ違い、その差はどこから来るのか。値札が崩れるとしたら、何が起きたときか。そして、日本に住む私たちが持ったとき、手元にいくら残るのか。最後の問いは、税理士としていちばんお伝えしたかったところです。

この記事は7社を比べるためのもので、特定の株の売買をお勧めするものではありません。株価は2025年11月7日の終値、円換算は三菱UFJ銀行の2025年11月6日の仲値(1ドル154.04円、1ユーロ177.13円、1ポンド201.15円)で、2025年11月9日までに公表された情報だけを使っています。

7社の値札は「10〜12倍の3社」と「17〜20倍の4社」に分かれる

会社 株価(11月7日) 時価総額(円換算) EV/EBITDA PER FCF利回り 株主還元利回り 配当利回り
マリオット(MAR) 291.16ドル 約12.0兆円 17.4倍 29.1倍 2.6% 5.1% 0.9%
ヒルトン(HLT) 273.32ドル 約9.8兆円 20.0倍 34.1倍 2.9% 5.2% 0.2%
ハイアット(H) 155.34ドル 約2.3兆円 17.0倍 120.4倍(異常値) 3.1% 2.4% 0.4%
IHG 97.38ポンド 約3.0兆円 18.2倍 27.2倍 3.3% 6.0% 1.3%
アコー 45.45ユーロ 約1.9兆円 11.8倍 20.3倍 4.0% 7.7% 2.8%
ウィンダム(WH) 73.73ドル 約8,600億円 11.3倍 16.2倍 4.3% 6.8% 2.2%
チョイス(CHH) 98.53ドル 約7,000億円 10.3倍 14.2倍 3.8% 4.3% 1.2%

※倍率・利回りはすべて当ブログの計算。EV=時価総額+純有利子負債。FCF利回り=2024年12月期のFCF(営業CF−設備投資)÷時価総額。株主還元利回り=(配当+自社株買い)÷時価総額。配当利回り=直近の配当の年額÷株価。時価総額の円換算は当ブログの換算値(IHGはロンドンの株価による)。

用語メモ:EV(Enterprise Value、企業価値)=株式の時価総額に、借入から現金を差し引いた純有利子負債を足したもの。会社を借入ごと丸ごと買うときの値段です。EBITDA=利払い・税金・減価償却費を差し引く前の利益(ここでは各社が独自に定義する調整後EBITDA)。PER(株価収益率)=株価÷EPS(1株あたり利益)。FCF(フリーキャッシュフロー)=営業キャッシュフロー−設備投資。

EV/EBITDAで並べると、チョイス10.3倍、ウィンダム11.3倍、アコー11.8倍の3社と、ハイアット17.0倍、マリオット17.4倍、IHG18.2倍、ヒルトン20.0倍の4社に、はっきり分かれます。PERもほぼ同じ並びで、ハイアットの120.4倍だけは、後で説明する異常値です。

大家さんの言葉でいえば、EV/EBITDAはキャップレート(純収益÷物件価格)を裏返したような物差しです。20.0倍を利回りに直すと5.0%、10.3倍なら約9.7%(当ブログの計算)。同じ1ドルの稼ぎに、市場はヒルトンにはチョイスの約2倍の値段を払っていることになります。もちろん、調整後EBITDAは会社が定義した数字で、物件のNOI(純収益)とは中身が違い、設備投資やキーマネーを払う前の数字でもあります。

倍率の分母は、7社でそろっていない

比べる前に、ひとつ確かめておきたいことがあります。この表の倍率は、分母がそろっていないのです。

会社 EV/EBITDAの分母 PERの分母(EPS) 株主還元の分子
マリオット 2025年の調整後EBITDA見通しの中央値(5,367百万ドル) 2025年の調整後EPS見通しの中央値(10.02ドル) 2025年の計画(約4,000百万ドル)
ヒルトン 同(3,700百万ドル) 同(7.97〜8.06ドルの中央値) 2025年の計画(約3,300百万ドル)
ハイアット 同・Playa込みの連結(1,160〜1,195百万ドルの中央値) 2025年9月までの12か月の調整後EPS(1.29ドル) 2025年の計画(約350百万ドル)
IHG 2025年6月までの12か月の実績(1,259百万ドル) 2025年6月までの12か月の調整後EPS(471.0米セント、基本株数) 2025年の計画(約1,170百万ドル)
アコー 見通しの中央値から為替の影響(約−60百万ユーロ)を引いた値(約1,189百万ユーロ) 2025年6月までの12か月の希薄化EPS(2.24ユーロ) 2025年の配当+自社株買い(843百万ユーロ)
ウィンダム 2025年の調整後EBITDA見通しの中央値(720百万ドル) 2025年の調整後EPS見通しの中央値(4.55ドル) 2025年9月までの12か月の実績(376百万ドル)
チョイス 同(626百万ドル) 同(6.82〜7.05ドルの中央値) 2025年9月までの12か月の実績(197.9百万ドル)

※純有利子負債は、IHG・アコーが2025年6月末(IFRSのためリース負債を含む)、他の5社は2025年9月末(オペレーティング・リースを含まない)。

いちばん注意したいのはハイアットです。12か月の調整後EPSが1.29ドルまで落ちたのはPlaya(プラヤ)の買収に伴う費用のためで、Playaを除いた2025年の調整後EBITDAの見通しは、比較の基準(1,016百万ドル)に対して7〜9%の増加です。PER120.4倍は比較から外してください。EV/EBITDAも、売却予定のPlayaの不動産(帳簿上の純額)をEVから除き、Playaを除いた見通しの中央値(1,100百万ドル)で割ると16.6倍になります(当ブログの試算)。

IHGとアコーは半期ごとの開示なので、12か月の数字は2025年6月までです。IHGは数値の業績見通しを出さず、アコーには調整後EPSがないため、持分法で取り込むEssendi(旧AccorInvest)の損益で振れやすい希薄化EPSを使っています。さらに両社はIFRS(国際会計基準)で、リース費用がEBITDAの外に出て、リース負債は純有利子負債に入ります。アコーのハイブリッド債(991百万ユーロ)はIFRSでは資本の扱いで、借入に含めるとEV/EBITDAは12.6倍です(当ブログの試算)。米国会計基準の5社でも、チョイスはマーケティング基金の赤字を調整後EBITDAで足し戻し、ウィンダムは足し戻さないなど、中身は同じではありません。

満室想定の利回りと実績の利回りを、同じ列に並べないのと同じことです。倍率は「10倍台前半か、20倍近いか」くらいの粗さで読むのが安全だと思います(当ブログの見方)。

倍率の差は、成長の速さと客層と地域の差でもある

会社 EV/EBITDA NUG(直近12か月) 2025年のNUG見通し 2025年のRevPAR見通し(最新) 調整後EBITDAの伸び(FY2019→FY2024)
ヒルトン 20.0倍 6.5% 6.5〜7.0% 0〜+1% +48.6%
IHG 18.2倍 4.4%(Venetian調整後5.2%) 数値見通しなし 数値見通しなし —
マリオット 17.4倍 4.7% 5%に迫る +1.5〜2.5% +39.3%
ハイアット 17.0倍 12.1%(買収を除くと7.0%) 7.0〜7.7%(連結) +2〜2.5% +45.4%
アコー 11.8倍 2.5% 約3.5% +3〜4% +35.8%
ウィンダム 11.3倍 3.9% 4.0〜4.6% −3〜−2% +13.2%
チョイス 10.3倍 2.3% 約1% 米国 −3〜−2% +61.7%

※NUGはマリオット(MGM・Sonder)、ヒルトン(スモール・ラグジュアリー・ホテルズ・オブ・ザ・ワールド(SLH)との提携ホテル)、ハイアット(買収)を含む。RevPARはマリオット・ヒルトン・ハイアットが比較可能ホテルの為替一定ベース、アコーはユーロの既存店ベース、ウィンダムは為替一定、チョイスは米国のみ。ハイアット・ウィンダムのFY2019の調整後EBITDAは旧定義、アコーのFY2019は旧「EBITDA」。チョイスの伸びには2022年のRadisson Hotels Americas買収の効果を含む。IHGはFY2019の値がない。

用語メモ:RevPAR(レヴパー)=販売可能な客室1室あたりの売上。稼働率×平均客室単価で、ホテルの売上の勢いを表します。NUG(Net Unit Growth)=純客室増加率。開業した客室から退出した客室を引いた、客室数の伸び率です。

ここからは当ブログの見方です。まず、成長の速さ。ヒルトンのNUGは直近12か月で6.5%、2025年の見通しも6.5〜7.0%と、大手の中で高い水準です。手数料ビジネスでは、RevPARが横ばいでも客室が増えれば手数料は増えます。管理戸数を毎年6〜7%ずつ増やせる管理会社なら、高い値段でも欲しい人がいる、という理屈です。逆に、チョイスの2025年のNUGの見通しは約1%、アコーの直近は2.5%でした。

次に、客層と地域。2025年に弱かったのは米国の中価格帯から下で、7〜9月の米国RevPARはウィンダムが−5%、チョイスが−3.2%でした。チョイスは客室の77%が米国にあり、ウィンダムもロイヤルティ率が米国4.8%に対して海外2.6%と、手数料の稼ぎは米国に寄っています。一方、高価格帯は底堅く、1〜9月のRevPARはハイアットのラグジュアリーが+5.3%、アコーのラグジュアリー&ライフスタイル部門が+6.6%でした。

ただ、地域だけでは説明しきれません。ヒルトンも客室の64.5%が米国にあり、米国のRevPARは7〜9月に−2.3%だったのに、倍率は7社で最も高い。チョイスは調整後EBITDAの伸びが+61.7%と最も大きいのに、倍率は最も低い。市場は過去の伸びより、「これから客室を増やせるか」に値段をつけているように見えます。

アコーは、10月にEBITDAの見通しを上方修正し、RevPARの見通しも、見通しを出している6社で最も高いのに、倍率は低いままです。決算書から言えるのは、NUGが2.5%と低めなこと、ユーロ建てで為替の影響(2025年のEBITDAで約−60百万ユーロ)を受けること、持分法のEssendiで利益が振れやすいことです。2019年末からの株価指数の上昇率が、米国の代表的な株価指数であるS&P500の+108.3%に対して、フランスの代表的な株価指数であるCAC40は+33.0%だったように、上場市場の違いもあるのかもしれませんが、どれがどれだけ効いているかは、決算書だけでは切り分けられません。

FCF利回りを、米国10年国債の4.11%と並べてみる

会社 FCF利回り(FY2024) FCF利回り(直近12か月) 利益利回り(1÷PER) 株主還元利回り
マリオット 2.6% 2.5% 約3.4% 5.1%
ヒルトン 2.9% 3.6% 約2.9% 5.2%
ハイアット 3.1% 0.7% — 2.4%
IHG 3.3% — 約3.7% 6.0%
アコー 4.0% 5.5% 約4.9% 7.7%
ウィンダム 4.3% 5.3% 約6.2% 6.8%
チョイス 3.8% 2.7% 約7.0% 4.3%

※直近12か月はアコーが2025年6月まで、他は9月まで。IHGは四半期のキャッシュフローを開示しないため計算できない。利益利回りは当ブログの計算で、ハイアットは異常値のため省略。米国10年国債の利回りは2025年11月7日に4.11%(米財務省)。

この節は当ブログの見方です。米国10年国債の4.11%は、米国政府に10年間お金を貸したときの利回りです。株にはそれより大きなリスクがあるのに、FY2024のFCF利回りが4.11%を上回るのはウィンダム(4.3%)だけ。ヒルトンは2.9%、マリオットは2.6%で、しかもFCFは借入の元本返済を差し引く前のお金です。

それでも買われているのは、市場がFCFの伸びを見込んでいるからです。大家さんでいえば、ローン金利より低い利回りの物件を買うようなもので、家賃の上昇か値上がりを見込まなければ成り立ちません。ヒルトンやマリオットの値札は「これからの伸び」の値段、チョイスやウィンダムは「伸びをあまり期待されない分、今の利回りが高い」値段です。なお、アコーはユーロ建てなので、米国債との比較は目安にとどまります。

もう一つ、株主還元利回りがFCF利回りを上回る会社は、ハイアットを除く6社にのぼります。差は主に借入です。還元利回りは「必ずもらえる利回り」ではなく、「借入も使って配っている利回り」として読むのがよいと思います。

倍率が1倍動くと、株価はどれだけ動くか

EV/EBITDAが1倍動いたとき、借入が変わらなければ株価はどれだけ動くか。1倍分の調整後EBITDAを時価総額で割ると、チョイス約13.7%、ウィンダム約12.9%、アコー約10.9%、ハイアット約8.0%、マリオット約6.9%、IHG約6.4%、ヒルトン約5.8%です(当ブログの試算)。倍率が低く、時価総額に比べて借入の大きい会社ほど、倍率の見直し(リレーティング、デレーティング)が株価に大きく響きます。

見直しのきっかけは、会社ごとに違います(当ブログの見方)。ウィンダムとチョイスは、米国RevPARのマイナスが止まるか。ヒルトンは、NUG6.5〜7.0%を保てるか。ハイアットは、Playaの不動産の売却を終えて、手数料の会社として見てもらえるか。アコーは、10月に上場準備を承認したライフスタイル部門のEnnismore(エニスモア)に、市場がどんな値段をつけるかです。

2019年末からS&P500を上回ったのはヒルトンだけ

会社・指数 2019年末→2025年11月7日 2024年末→2025年11月7日
ヒルトン +146.4% +10.6%
マリオット +92.3% +4.4%
IHG(ADR、ドル建て) +89.6% +4.2%
ハイアット +73.2% −1.0%
ウィンダム +17.4% −26.8%
アコー(ユーロ建て) +8.9% −3.4%
チョイス −4.7% −30.6%
S&P500(米国) +108.3% +14.4%
FTSE100(英国) +28.4% +18.5%
CAC40(フランス) +33.0% +7.7%

※配当を含まない株価の騰落率(当ブログの計算)。上場市場の通貨のままで、円換算はしていない。

用語メモ:S&P500=米国の代表的な株価指数。FTSE100は英国、CAC40はフランスの代表的な株価指数です。

2019年末から約6年で、S&P500の+108.3%を上回ったのは「ヒルトンだけ」でした(+146.4%)。2025年はそのヒルトン(+10.6%)でもS&P500(+14.4%)に届かず、チョイス(−30.6%)とウィンダム(−26.8%)は年初から3割前後下げています。

株価の差を分解すると、面白いことがわかります。ヒルトンの調整後EPSは、FY2019の3.90ドルから2025年見通しの中央値の約8.02ドルへと約2倍になりました。しかも、2019年末の株価を2019年の調整後EPSで割ったPERは約28.4倍で、それが今は34.1倍です。利益の伸びと倍率の上昇が、掛け算で効いたわけです。チョイスは逆で、調整後EPSは4.32ドルから約6.9ドルに増えたのに、同じ計算のPERが約23.9倍から14.2倍に下がり、株価は2019年末を下回りました(いずれも当ブログの計算)。利益が減ったのではなく、倍率が下がったのです。

なお、この騰落率は配当を含まないので、配当利回りの高いアコー(2.8%)やウィンダム(2.2%)には少し不利です。通貨もそろっておらず、IHGはロンドン株(ポンド)が2024年末から−2.2%、ADR(ドル)は+4.2%と、主にポンドとドルの為替の動きで差がつきました。円で投資する私たちには、さらに円との為替が加わります。

用語メモ:ADR(American Depositary Receipt、米国預託証券)=外国企業の株式を、米国の取引所でドル建てで売買できるようにした証券。IHGのADRは1ADS(ADRの1単位)=普通株1株です。ホテル業界の「ADR(平均客室単価)」とは別物です。

RevPARは景気に敏感。2020年には調整後EBITDAが赤字になった会社もある

会社 調整後EBITDA FY2019 FY2020 増減 株主還元 2020年 2021年
マリオット 3,575 1,147 −67.9% 306 0
ヒルトン 2,308 842 −63.5% 338 0
ハイアット 754 −177 赤字 89 0
IHG — 329 — 0 0
アコー(百万ユーロ) 825 −391 赤字 — —
ウィンダム 613 327 −46.7% 103 189
チョイス 373.7 240.7 −35.6% 80.7 38.4

※百万ドル(アコーは百万ユーロ)。増減は当ブログの計算。ハイアット・ウィンダムのFY2019は旧定義、アコーのFY2019は旧「EBITDA」、チョイスのFY2019は組替後の値。IHGのFY2019、アコーの2020〜2021年の株主還元は比較できる値がない。

ホテル会社のリスクの根っこは、RevPARが景気と旅行需要に敏感なことです。マリオット、ヒルトン、ハイアット、ウィンダムの10-Kでも、リスク要因の筆頭は景気などによる旅行需要の悪化でした。建物を持たない手数料ビジネスでも、ロイヤルティはウィンダムなら客室売上の約5%、チョイスなら5〜6%というようにホテルの売上に連動するので、売上が落ちれば手数料も落ちます。

2020年には、調整後EBITDAがマリオットで−67.9%、ヒルトンで−63.5%となり、ハイアットとアコーは赤字になりました。自社株買いと配当は、マリオット、ヒルトン、ハイアット、IHGの4社で2021年にゼロです。最初の表で5社が5〜7%台だった株主還元利回りは、平時の数字なのです。

興味深いことに、2020年の落ち込みが比較的小さかったのは、エコノミーやミッドスケール中心のウィンダム(−46.7%)とチョイス(−35.6%)でした。ところが2025年は、その米国の中価格帯から下が弱い。不況の形によって、弱い会社は入れ替わります(当ブログの見方)。

2025年は米国が減速した。見通しの修正にそれが表れている

会社 RevPAR見通し(期初→最新) 7〜9月の米国RevPAR 調整後EBITDA見通し(期初→最新)
マリオット +2〜4%→+1.5〜2.5% −0.4%(米国・カナダ) 5,295〜5,435→5,352〜5,382
ヒルトン +2〜3%→0〜+1% −2.3% 3,700〜3,740→3,685〜3,715
ハイアット +2〜4%→+2〜2.5% −1.6% 1,100〜1,150→1,090〜1,110(Playa除く)
IHG 数値見通しなし −1.6% 数値見通しなし
アコー +3〜4%→+3〜4%(7月に初めて数値を公表) 米州 +7.1% 為替一定で+9〜10%→+11〜12%
ウィンダム +2〜3%→−3〜−2% −5% 745〜755→715〜725
チョイス 米国 +1〜2%→−3〜−2% −3.2% 625〜640→620〜632

※百万ドル。期初は2025年2月の各社発表、最新は10〜11月の7〜9月期の発表(アコーは7月→10月)。RevPARの定義は前の表の注と同じ。

見通しは年初から秋にかけて、米国を中心に引き下げられました。ウィンダムは全体のRevPARを+2〜3%から−3〜−2%へ、チョイスは米国を+1〜2%から−3〜−2%へと、プラスからマイナスに変えています。中身を見ると、IHGの7〜9月の米国の既存店の客室収入は、ビジネスが+2%なのに、レジャーは−5%、団体は−7%。マリオットは米国の下位の価格帯と政府関係の出張の弱さを挙げ、ヒルトンは10〜12月の見通しに米政府機関の閉鎖の影響を約1か月分織り込んでいます。

それでも、調整後EBITDAの見通しの中央値は、マリオットでほぼ横ばい(5,365→5,367百万ドル)、ヒルトンで−0.5%にとどまり、ウィンダムは750→720百万ドルで−4.0%でした(当ブログの計算)。客室の増加や経費の抑制で吸収できる大手と、米国の中価格帯に集中する専業との差に見えます(当ブログの見方)。地域の分散が効いたのはアコーで、欧州・北アフリカ(ENA)は7〜9月にパリ五輪の反動で−4.6%でしたが、米州は+7.1%でした。

借入とマイナス純資産は、利益が減ったときに重くなる

会社 純有利子負債÷調整後EBITDA 会社の目標・上限 純資産
マリオット 2.9倍 目標の記載なし(融資契約の上限は4.5倍) −3,119
ヒルトン 2.9倍 記載なし −4,905
ハイアット 4.7倍 投資適格の格付けを維持(数値なし) 3,808
IHG 2.7倍 2.5〜3.0倍 −2,308(2024年末)
アコー 2.7倍 数値なし(2023年の資料ではS&P方式で3倍未満) 4,771
ウィンダム 3.6倍 3〜4倍 583
チョイス 3.0倍 単独の目標なし 149.8(2024年末は−45.3)

※百万ドル(アコーは百万ユーロ)。倍率は直近12か月の調整後EBITDAで割った当ブログの計算(IHG・アコーは2025年6月末、他は9月末)。ヒルトン・IHG・チョイスは会社の公表値と一致し、ウィンダムの会社公表値は3.5倍。ハイアットはPlayaのつなぎ融資17億ドルを含む。アコーの純資産はハイブリッド債991百万ユーロを含む。

用語メモ:純有利子負債÷調整後EBITDA=借入から現金を引いた額が、1年分の稼ぎ(調整後EBITDA)の何年分にあたるかを示す、借入の重さの目安です。

マリオット、ヒルトン、IHGの純資産がマイナスなのは、主に赤字のせいではありません。長年の自社株買いで、株主資本を上回るお金を株主に返してきたからです。マリオットが買い戻した自己株式は取得原価で269億ドル(2025年9月末)、IHGの2003年以降の還元は約136億ドル(2022年2月時点の会社の説明)。自前で育てた看板の価値は帳簿に載らず、買収で得た看板も買ったときの値段のままなので、「債務超過=経営危機」と読むのは早計です。大家さんでいえば、物件の値上がりに合わせて借り増しをして、自己資金を回収し切った状態に近いでしょう。

ただ、利益が落ちると話が変わります。借入は景気で減りませんが、分母の調整後EBITDAは減ります。仮に3割減れば、2.9倍は約4.1倍です(2.9÷0.7、当ブログの試算)。マリオットの融資契約には4.5倍の上限があり(計算の定義は当ブログの倍率と同じではありません)、余裕は大きくありません。株価にも借入は効きます。借入の額が変わらないままEVが10%下がると、時価総額はヒルトンで約11.7%、ウィンダムで約14.6%下がる計算です(当ブログの試算)。時価総額に対する純有利子負債が、ヒルトンの約17%に対して、ウィンダムは約46%あるためです。

金利もつながっています。会社自身の借換えだけでなく、ホテルを建てたり改装したりするオーナーの資金繰りにも響きます。マリオットとヒルトンはオーナーの資金調達や借換えを、IHGはオーナーの投資余力の低下をリスクに挙げています。オーナーが動けなければホテルは開かず、NUGは伸びません。

手数料ビジネスの裏には、オーナーの懐具合とキーマネーがある

会社 FY2023 FY2024 2025年1〜9月
マリオット 221 341 301
ヒルトン 233 105 103
ハイアット 132 153 100
IHG 101 206 86(1〜6月)
ウィンダム 72 109 73
チョイス 98.3 112.2 62.4

※キーマネーの支払額、百万ドル。いずれも営業キャッシュフローの内側で支払われている。アコーは同じ基準の数字がないため除外。

用語メモ:キーマネー(key money)=ホテル会社が運営受託やフランチャイズの契約を取るために、ホテルのオーナーへ払う協力金。

キーマネーは、管理会社が「うちに任せてください」と大家さんに協力金を払うようなものです。マリオットはFY2023の221百万ドルからFY2024に341百万ドルへ、IHGは101百万ドルから206百万ドルへ増えました。良いホテルほど、ブランドどうしの取り合いになるのでしょう。

この連載のFCF(営業CF−設備投資)は、キーマネーを払った後の数字です。ところが、ウィンダムとチョイスの会社定義の「調整後FCF」はキーマネーを足し戻しており、会社定義のFCFで計算した利回りはチョイス8.6%、ウィンダム7.1%(IHGも4.2%)と、表の数字よりずっと高く見えます。何が足し戻されているかは、必ず確かめてください。

オーナーやフランチャイジーの体力も見ておきたいところです。ウィンダムは大口のフランチャイジー1社に、前渡金・貸付・売掛金の合計で約155百万ドルの与信を抱え、ヒルトンは2024年に運営受託ホテルの債務保証で50百万ドルの損失を出しました。チョイスはマーケティング基金の赤字(2025年1〜9月で44.2百万ドル)を調整後EBITDAで足し戻していますが、現金は先に出ていきます。看板を貸す商売でも、借り手が傾けば、しわ寄せは貸し手に及ぶのです。

会社ごとの宿題:Playa、Sonder、Venetian、Super 8中国

会社 2025年11月9日までに起きていること
ハイアット Playaの不動産14物件を、Tortugaへ20億ドル+最大1.43億ドルのアーンアウトで売る契約。11月6日に「年内に売却を完了し、つなぎ融資17億ドルを返済する予定」と説明。9月末の純有利子負債÷調整後EBITDAは4.7倍(当ブログ計算)
マリオット 11月9日、Sonderの債務不履行により契約が終了したと発表。9月末で140施設・7,688室、システムの約0.44%。財務への影響は開示されていない
IHG The Venetian(7,092室)が1月にシステムから退出し、報告ベースのNUGを約0.8ポイント押し下げ(9月末4.4%、調整後5.2%)。ロンドンの株価を2026年1月から米ドル建てにする方針
ウィンダム Super 8中国のマスターライセンスを2025年4〜6月期に客室数などの集計から除外(推定約69,400室、EBITDAへの寄与は3百万ドル未満)。大口フランチャイジー1社への与信が約155百万ドル
アコー Ennismoreの上場準備を承認(10月23日)。為替の影響で2025年のEBITDAに約−60百万ユーロ
チョイス 2025年の世界の客室純増は約1%の見通し。7〜9月期の米国会計基準の利益には、カナダの合弁会社の取得に伴う再測定益100百万ドル(一時的)が含まれる
ヒルトン 中国でのマスターライセンス契約の新規締結をやめると表明(10月22日)

Sonderの件は、NUGに数えられていた客室が一夜で消えることもある、という教訓です。マリオットのFY2024のNUG6.8%には、約9,000室のSonderと約38,000室のMGMが含まれていました。NUGは数字の大きさだけでなく、何が入っているかという「質」まで見ておきたいところです。

円で暮らす私たちは、ドル・ポンド・ユーロの値動きも一緒に持っている

7社のうち5社はドル建てです。IHGはドルで決算し、ロンドンではポンド(ペンス)、ニューヨークではADRがドルで取引され、アコーはユーロです。円で暮らす私たちは、株価に加えて為替の動きを丸ごと抱えます。外貨建ての家賃と同じで、家賃(株価)が上がっても、円高になれば円の手取りは減ります。為替は業績にも入り込み、アコーは為替の影響で2025年の経常EBITDAが約60百万ユーロ目減りすると見込んでいます(1ユーロ1.17ドルが前提)。

両替の値幅も見落とせません。2025年11月6日の三菱UFJ銀行の公表相場では、ドルのTTSが155.04円、TTBが153.04円で差は2円、ユーロは3円、ポンドは8円の開きでした。相場が動かなくても、この相場で買って売り戻せば、ドルで約1.3%、ユーロで約1.7%、ポンドで約3.9%が消える計算です(当ブログの計算)。

用語メモ:TTS=対顧客電信売相場(円を外貨に替えるときのレート)。TTB=対顧客電信買相場(外貨を円に替えるときのレート)。TTM=その中間の仲値。

配当には二度、税金がかかる。米国株・英国株・フランス株で手取りはこれだけ違う

ここからが、税理士としていちばん丁寧にお話ししたいところです。外国株の税金は「現地の税」と「日本の税」の二階建てで、国によって1階の高さが違います。

配当100の手取りは、英国株79.7、米国株71.7、フランス株69.5

ケース(配当10万円) 現地の税 日本の所得税・復興特別所得税 日本の住民税 手取り 合計の負担率
米国株(条約の10%) 10,000円 13,783円 4,500円 71,717円 28.28%
英国株(IHG) 0円 15,315円 5,000円 79,685円 20.315%
フランス株(12.8%で引かれた場合) 12,800円 13,354円 4,360円 69,486円 30.51%
フランス株(様式5000で条約の10%) 10,000円 13,783円 4,500円 71,717円 28.28%

※円換算後の配当10万円を日本の証券会社の課税口座で受け取り、確定申告をしない場合の当ブログの試算。国内の源泉税は円未満切り捨て。

米国株の配当には、日米租税条約により米国で10%がかかり、残りの90に日本で20.315%(所得税・復興特別所得税15.315%+住民税5%)がかかります。日本の証券会社を通すと、日本の源泉徴収は「外国の税金を引いた後の金額」にかかります(租税特別措置法9条の2)。ただ、これは課税の土台が小さくなるだけで、外国の税金が控除されるわけではありません。合計の負担は10%+90%×20.315%で、約28.3%です。

英国株のIHGは、英国が普通の会社の配当に源泉税をかけないため(英国歳入関税庁HMRCの説明による)、日本の20.315%だけで済みます。

フランス株のアコーは手間がかかります。フランスは非居住者の個人への配当に12.8%を源泉徴収しますが、日仏租税条約の上限は10%です。フランス税務当局(BOFiP)の説明では、条約の10%で引いてもらうには、日本の税務署の証明を受けた「様式5000」を、配当の支払い前にフランスの支払代理人へ出す必要があります。出さなければ12.8%で引かれ、差の2.8ポイントは様式5000と5001で還付を請求します(期限は源泉徴収の翌々年の12月31日)。この2.8ポイントは、日本の外国税額控除では取り戻せません。条約の上限を超えた部分は、控除の対象外だからです。そもそもSBI証券と楽天証券は、それぞれの資料を見る限り、パリ上場株を扱っていません。手続きを代行してくれるかも含め、証券会社ごとに確かめてください。

外国法人からの配当には、配当控除も使えません。総合課税を選んでも対象外です。

二重課税を取り戻す道は、確定申告の外国税額控除だけ

「特定口座(源泉徴収あり)なら二重課税は自動で調整される」は、よくある誤解です。口座の中で自動的に行われるのは「外国の税金を引いた後の金額に課税する」ことだけで、現地の10%を取り戻すには、確定申告で外国税額控除を受けるしかありません。口座の中で譲渡損失と配当が相殺されて日本の税が戻った場合も、外国の税金は残ります。

外国税額控除は、配当を総合課税か申告分離課税で申告に含めたときだけ受けられ、申告不要を選んだ配当では受けられません。限度額は、所得税で「所得税額×調整国外所得金額÷所得総額」、住民税ではその30%まで。限度額を超えた外国税も、使い残した限度額も、3年間繰り越せます。申告には「外国税額控除に関する明細書(居住者用)」と、証券会社の支払通知書や年間取引報告書など、外国税を納めたことがわかる書類を付けます。限度額は所得全体の所得税額を国外の所得の割合で按分した額なので、所得税の平均的な負担が軽い人ほど小さくなり、10%を控除しきれないこともあります(超えた分は3年間繰越)。控除しきれれば、米国株の負担は20.315%まで下がります。フランス株で12.8%のまま還付請求をしなければ、控除は10%分までで、負担は23.115%です。

申告するかどうかは、額と手間の兼ね合いです。ホテル株は配当利回りが低めで、仮に100万円ずつ持つと、利回り0.2%のヒルトンなら配当は約2,000円で米国の税は約200円、2.2%のウィンダムでも配当約22,000円に対して約2,200円です(当ブログの試算。利回りは株価と配当で変わります)。配当を申告すると合計所得金額が増え、国民健康保険料や扶養の判定などに影響することがあります。しかも令和6年度分(2023年分の所得)以後の住民税では、上場株式等の配当の課税方式を所得税とそろえることになったため、「所得税だけ申告して、住民税は申告不要」という使い分けはできません。ここはご自身のケースで要確認です。

NISAなら日本の税はゼロ。ただし外国の税は戻らない

NISAでは配当にも売却益にも日本の税はかかりませんが、米国の10%やフランスの10〜12.8%は引かれたままです。NISAの所得は申告しないので、外国税額控除も使えません(証券会社の説明も「外国税額控除の対象外です。」)。NISAの損失は「ないものとみなされます」ので、ほかの利益との相殺も繰越もできません。英国には源泉税がないので、IHGの配当はNISAの中ならまるごと非課税になる理屈です。お使いの証券会社のNISA口座で買えるかは、取扱いを確かめてください。

売却益は20.315%。円換算は「約定日」のTTSとTTBで

売却益は、外国の取引所の株でも日本の「上場株式等」として、申告分離課税で20.315%(所得税15%・住民税5%に、所得税額の2.1%の復興特別所得税)です。源泉徴収ありの特定口座なら申告不要にでき、損失は上場株式等の配当(申告分離課税)と相殺したり、確定申告で翌年以後3年間繰り越したりできます。

円換算は、売ったお金を売却の約定日のTTB、買った値段を取得の約定日のTTSで行います(措置法通達37の10・37の11共-6)。受渡日ではなく約定日で、証券会社が自分のレートを公表していればそのレートです。先ほどの値幅のとおり、株価も相場も動かなくても、円で計算した売却益はドルで約1.3%分小さくなります。日本で源泉徴収される配当は支払開始日などのTTBで換算し、差し引かれた外国税も同じレートで換算します(措置法通達〈源泉所得税関係〉9の2-2、所得税基本通達213-1・213-4・95-28)。海外の証券会社で受け取る配当など、日本で源泉徴収されないものは、取引日のTTM(仲値)が原則(所得税基本通達57の3-2)と考えられますが、個別に要確認です。

買うときの税:英国株の0.5%、フランス株の0.4%、そしてADRの手数料

IHGの普通株をロンドンで買うと、英国の印紙税(SDRT)が買い値の0.5%かかり、買い手が負担します。ニューヨークでADRを買うなら、預託証券の取引は免除されるので、SDRTはかかりません。

その代わり、ADRには預託銀行(J.P.モルガン)の手数料があります。IHGの2024年の年次報告書によると、現金配当1回につき1ADSあたり0.05ドル以下、さらに年1回まで1ADSあたり0.05ドルのサービス料などです。上限で計算すると、配当の手数料は2024年12月期の配当(中間53.2セント+期末114.4セント)の約6.0%ですが、11月7日のADRの株価130.18ドルに対しては、年2回分の0.10ドルでも約0.08%です(当ブログの試算)。

フランスの金融取引税(TTF)は、前年12月1日時点の時価総額が10億ユーロを超えるフランス企業の株を買うときにかかり、2025年4月1日以後の取得から税率が0.3%から0.4%に上がりました。アコーは2025年の対象リストに載っています。税率とリストは、二次資料(フランスの税務情報サイト)での確認です。TTFはフランス企業のADRにもかかるとされ、楽天証券は2012年、これを理由にフランス企業のADRの買付を停止しました。

用語メモ:SDRT(Stamp Duty Reserve Tax)=英国株の電子的な取引にかかる印紙税。TTF(Taxe sur les transactions financières)=フランスの金融取引税。

米国株を持ったまま相続が起きたら:米国遺産税

米国籍でも米国居住者でもない日本の居住者が亡くなっても、米国にある財産には米国の遺産税がかかります。マリオットやヒルトンなど米国法人の株は、日本の証券会社の口座で持っていても、米国の財産とされます。

米国の財産が6万ドル(1ドル154.04円で約924万円)を超えると、遺産税の申告(Form 706-NA)が必要で、この6万ドルは物価で調整されません。非居住者の税額控除は原則13,000ドルですが、日米の相続税条約により、米国人と同じ控除額を「米国の財産÷全世界の財産」の割合で使える仕組みがあります(米国内国歳入庁〈IRS〉の説明書による)。2025年の控除額そのものや、日本の相続税との調整は当ブログでは確かめていないので、要確認とさせてください。

相続は「いつか」ではなく「必ず」来るものです。米国株を持っていることをご家族が知らなければ、手続きの入り口にもたどり着けません。実際に相続が起きたら、日米の税務に詳しい専門家に必ず相談してください。

値札は期待の値段。リスクと税金を引いてから、手取りで比べる

9回にわたって7社の決算書を読んできて、私なりに見えてきた「それぞれの株が映しているもの」を、最後に書いておきます。あくまで当ブログの見方で、どれを買うべきかという話ではありません。

マリオットは、客室約175万室という7社で最大の看板と、提携クレジットカードなど客室売上以外の手数料を持ち、借入も使って還元を続ける、ホテル株の「物差し」のような存在です。ヒルトンは、客室の79.0%がフランチャイズで、客室を増やす速さと1株利益の伸びを値札に乗せた、7社でいちばん「期待」の値段が高い株。ハイアットは、ホテルを売って手数料の会社へ変わる途中にいて、Playaの不動産の売却がその仕上げです。IHGは、ドルで稼いでポンドで取引され、英国の源泉税がないという税の個性もある株。アコーは、ユーロ建てで欧州・中東・アジアに分散し、ラグジュアリーとライフスタイルが伸びているのに、倍率は低いまま。そしてウィンダムとチョイスは、米国の中価格帯の旅行の景気を最も直接に映す、フランチャイズ専業の2社です。

次の決算では、まず米国のRevPARのマイナスが続いているかを見てください。ウィンダムとチョイスの倍率は、ここで決まると私は見ています。そのうえで、NUGに何が含まれているか、キーマネーがどこまで膨らんでいるか、純有利子負債÷調整後EBITDAが会社の目標に収まっているか。ハイアットならPlayaの不動産の売却完了とつなぎ融資17億ドルの返済、アコーならEnnismoreの上場の行方です。倍率を比べるときは、分母が見通しか実績か、6月までか9月までかを、必ず確かめてください。

税金では、外国税額控除を申告で取り戻すかどうかを、配当の額とほかの所得をあわせて年に一度考えること。フランス株なら様式5000、英国株ならロンドンで買うかADRで買うか、米国株なら相続のときの遺産税まで、持つ前に一度見渡しておくと安心です。

大家業を長く続けていると、いちばん利回りの高い物件が、いちばん良い物件とは限らないことを何度も思い知らされます。値札の裏には必ず理由があり、手取りは税金を引くまでわかりません。ホテル株も、まったく同じでした。9日間、7社の決算書を一緒に開いてくださった皆さま、本当にありがとうございました。この連載が、ご自身の物差しで株を見るための小さな道具になれば、これ以上うれしいことはありません。

 

※本記事は公表資料をもとにした情報提供を目的としたもので、特定の銘柄の売買を勧めるものではありません。投資の判断はご自身の責任で行ってください。 ※数値は各社の決算資料(年次報告書・四半期報告書・決算発表資料)をもとに当ブログが集計・計算したもので、四捨五入の関係で合計が合わない場合があります。株価は2025年11月7日の終値、円換算は三菱UFJ銀行の2025年11月6日の仲値(1ドル154.04円)を使っています。

出典・参考

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  • タックスアンサー1240 居住者に係る外国税額控除(国税庁)https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1240.htm
  • タックスアンサー1331 上場株式等の配当等に係る申告分離課税制度(国税庁)https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1331.htm
  • タックスアンサー1463 株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)(国税庁)https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1463.htm
  • タックスアンサー1476 特定口座制度(国税庁)https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1476.htm
  • 措置法通達(株式等に係る譲渡所得等関係)37の10・37の11共-6(国税庁)https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/shotoku/sochiho/020624/sanrin/1273/37_10-11/01.htm
  • 措置法通達(源泉所得税関係)9の2-2〜9の2-4(国税庁)https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/shotoku/sochiho/880331/gensen/58/09/02.htm
  • 所得税基本通達 57の3-2(国税庁)https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shotoku/11a/01.htm
  • 所得税基本通達 95-28(国税庁)https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shotoku/17/02.htm
  • 所得税基本通達 213-1〜213-4(国税庁)https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shotoku/37/01.htm
  • 上場株式等の配当・譲渡・特定口座・NISAの課税(国税庁、2024年2月)https://WWW.NTA.GO.JP/users/gensen/nisa/pdf/0019009-091.pdf
  • 日米租税条約 統合条文(財務省)https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/international/tax_convention/USA_ST_jp.pdf
  • 日仏租税条約 統合条文(財務省)https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/international/tax_convention/SynthesizedTextforJapan_France_JP.pdf
  • Notes to form Japan 4 DT(HMRC)https://assets.publishing.service.gov.uk/media/6717bdd5e319b91ef09e3856/Japan-4-DT-Notes.pdf
  • Tax when you buy shares(UK)https://www.hmrc.gov.uk/tax-buy-shares/print
  • STSM031160 Scope of SDRT: reliefs and exemptions(HMRC)https://www.gov.uk/hmrc-internal-manuals/stamp-taxes-shares-manual/stsm031160
  • STSM057010 Depositary receipt and clearance services: exemptions(HMRC)https://www.gov.uk/hmrc-internal-manuals/stamp-taxes-shares-manual/stsm057010
  • BOI-RPPM-RCM-30-30-10-20(フランス財務省 BOFiP-Impôts、2022年6月29日版)https://bofip.impots.gouv.fr/doctrine/pgp/2674-PGP
  • BOI-INT-DG-20-20-20-20(フランス財務省 BOFiP-Impôts、2012年9月12日版)https://bofip.impots.gouv.fr/doctrine/BOI-INT-DG-20-20-20-20
  • Taxe sur les transactions financières : 0,4 % au 1er avril 2025(Legifiscal、2025年3月31日)https://www.legifiscal.fr/actualites-fiscales/4078-hausse-taxe-transactions-financieres-1ier-avril-2025.html
  • Taxe sur les transactions financières : liste des sociétés concernées au 1er décembre 2024(Legifiscal、2024年12月27日)https://www.legifiscal.fr/actualites-fiscales/3976-taxe-transactions-financieres-liste-societes-concernees-1er-decembre-2024.html
  • 米国上場ADR フランス籍企業発行銘柄の買付停止のお知らせ(楽天証券、2012年)https://www.rakuten-sec.co.jp/web/info/info20121122-03.html
  • 外国株式取引に関する説明書(インターネット取引)(SBI証券)https://search.sbisec.co.jp/v2/popwin/info/home/kouhu/foreign.pdf
  • 外国株式(楽天証券)https://www.rakuten-sec.co.jp/web/foreign/
  • 米国株式 配当金について(三菱UFJ eスマート証券、2025年8月28日更新)https://kabu.com/item/foreign_stock/us_stock/dividend.html
  • 米国株の配当でかかる税金と二重課税(マネックス証券)https://info.monex.co.jp/us-stock/caution/tax_3.html
  • 外国税額控除について(水戸証券、2023年7月12日)https://www.mito.co.jp/products/foreignstock/foreign_tax_credit.pdf
  • Instructions for Form 706-NA(Internal Revenue Service、2025年9月改訂)https://www.irs.gov/pub/irs-pdf/i706na.pdf
  • Estate tax for nonresidents not citizens of the United States(Internal Revenue Service)https://www.irs.gov/node/71231