東雲結子:石井先生、年末の旅行をエアビーで予約しました! エアビーって、世界中に物件を持つ「超・大家さん」なんですよね?

税理士石井:うーん、それがですね……エアビーは、自分では宿を持っていないんです。

東雲結子:えっ、物件なしで大家業ですか? 雨漏りの電話も、退去の立会いもなし……夢のアパート経営です!

税理士石井:ふふ、大家業というより、ゲストとホストをつなぐ「仲介役」ですね。その間で手数料をもらう商売です。

東雲結子:じゃあ、私が払った宿代も、ほとんどエアビーのお財布に……?

税理士石井:いい質問ですね。直近12か月の予約総額は約885億ドルですが、エアビーの売上になるのは、そのうち約13.5%だけ。残りの大半はホストへ渡ります。

東雲結子:あっ……私の宿代、ちゃんと大家さんの懐に届いていたんですね。ちょっと安心しました。

税理士石井:お金の流れでいえば、家賃を集めて手数料を引き、オーナーへ送金する管理会社に近い形です。ところがこの会社、業績は伸びているのに、株価は2025年の年初から約11%下がっています。

東雲結子:えっ、成績は上がっているのに値札は下がる……。セール中の優等生ですか?

税理士石井:そう見えるのか、それとも何か理由があるのか。大家の目線で、エアビーの決算書を8回かけてじっくり開いていきましょう。

こんにちは。いつもは大家さんの税金や確定申告の話が多いこのブログですが、今月は少し趣向を変えて、「株式投資の銘柄選び」の目線で、ひとつの会社の決算書をとことん読み込む連載をお届けします。

選んだのは、民泊でおなじみのエアビーアンドビー(Airbnb、米国ナスダック上場、ティッカー:ABNB)です。大家さんにとっては「ライバル」でもあり「集客の味方」でもある、なんとも不思議な距離感の会社ですよね。そんな身近な会社が、実際にはどうやって稼ぎ、どれくらい儲かっていて、株価は高いのか安いのか。会計事務所らしく、数字で冷静に見ていきます。

少しだけ打ち明けると、選んだ理由は「身近だから」だけではありません。エアビーの決算書には、お客さまからの預かり金、季節による売上の波、一時的な税金の益といった、大家業でもおなじみの「数字のクセ」が詰まっているからです。

この連載の前提:決算の数字は2025年9月期(第3四半期、2025年11月6日発表)までのもの、株価は2025年11月28日の終値(116.99ドル)を使っています。金額は特に断りがない限り米ドルです。

そもそもエアビーは、どんな会社なのか

項目 内容
会社名 Airbnb, Inc.(エアビーアンドビー)
創業 2008年(米国サンフランシスコ)
上場 2020年12月10日、米国ナスダック市場(公開価格68ドル)
主な事業 宿泊施設(民泊・住宅など)と旅行者をつなぐオンラインの仲介サービス。2025年からは「サービス」「体験」も強化
売上高(直近12か月) 約119億ドル(1ドル156.63円換算で約1.87兆円)
時価総額(2025/11/28) 約720億ドル(同 約11.3兆円)
配当 なし(無配)

換算レートは三菱UFJ銀行の2025年11月28日のTTS(157.63円)とTTB(155.63円)の中間値156.63円。円換算は目安です。

表を眺めて、私がまず目を留めたのは、いちばん下の「配当 なし(無配)」でした。毎月の家賃という「インカム」に慣れている大家さんほど、ここには少し戸惑うかもしれません。エアビーの場合、配当のかわりに株主へ返しているのは自社株買いです。それが本当に株主のためになっているのかは、第5回で確かめます。

宿を持たずに稼ぐ「手数料ビジネス」

エアビーは、自分で宿を持っているわけではありません。ゲストとホスト(物件の貸し手)をつなぎ、その間で手数料をもらうのが基本のビジネスです。

賃貸に置きかえるなら、物件は持たずに入居者とオーナーを結びつけ、お金の受け渡しまで引き受ける会社、というイメージです。建物を持たない以上、修繕や建替えのお金を自分で抱えることはありません。そのかわり、取り分は「仲介の手数料」に限られます。

まず驚くのは、取り分の小ささです。予約総額(GBV)は約885億ドル、そのうちエアビーの売上になるのは約13.5%だけ。残りの大半はホストへ渡ります。民泊ホストやゲストの立場から見れば、この手数料(ゲストとホストの双方から受け取る分の合計)は「集客と決済をまとめて外注する費用」のようなもの。会社の側から見ると、この取り分の割合こそが売上の蛇口になります。

次に、お金の「預かり方」です。ゲストの代金はいったんエアビーが預かり、チェックイン後にホストへ支払います。その「預かっている間」のお金が積み上がるので、貸借対照表には大きな「預かり資産」が載っています(第4回で詳しく)。大家さんの通帳にある敷金と同じで、手元にあっても自分のお金ではないのです。

そして、売上を計上するタイミング。売上はチェックインした時点で計上されます。予約が入った時点ではまだ売上にならないので、四半期ごとの数字には季節のクセが出ます(第2回で詳しく)。民泊を運営していると、カレンダーが埋まった日と、実際にゲストが鍵を開けた日とでは、安心感がまるで違いますよね。会社の売上も、後者の日付で数えられているわけです。

用語メモ:GBV=Gross Booking Value(予約総額。ゲストが支払う宿泊料金・手数料などの合計)。テイクレート=売上高÷GBV(取り分の割合)。

売上は年10%前後、借金はほぼなし。第一印象は「優等生」

指標 直近12か月(2024年10月〜2025年9月) 前年同期の12か月比
売上高 119.4億ドル +10.2%
予約泊数・体験数 5.22億 +8.9%
予約総額(GBV) 884.6億ドル +10.9%
純利益 26.3億ドル(純利益率 22.0%) ―
調整後EBITDA 42.8億ドル(マージン 35.8%) +6.5%
フリーキャッシュフロー(FCF) 45.5億ドル(マージン 38.1%) +11.7%
現金+短期投資(2025年9月末) 116.8億ドル ―
借入金(転換社債) 20億ドル(2026年3月満期) ―

用語メモ:調整後EBITDA=会社独自の利益指標で、純利益に税金・減価償却・株式報酬などを足し戻し、受取利息などを差し引いたもの(EBITDA=Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation and Amortization、利払い・税金・償却前の利益)。FCF=Free Cash Flow(営業キャッシュフローから設備投資を引いた、会社が自由に使える現金)。

売上の伸びは年10%前後、利益率は高く、借金はほぼない――第一印象は「優等生」です。

私がいちばんうらやましく感じたのは、表の下の2行です。現金と短期投資が116.8億ドルあるのに、借入金は転換社債の20億ドルだけ。ローンの返済表とにらめっこしている大家からすると、驚くほど身軽です。FCF(45.5億ドル)が純利益(26.3億ドル)を大きく上回っているのも少し不思議ですが、その理由は第4回で解きほぐします。

コロナ禍の2020年は売上が約3割減って大赤字でしたが、そこからV字回復。2022年に初めて通期で黒字になり、その後は安定して利益を出しています。旅行が止まれば、仲介の手数料も止まる。2020年は、このビジネスの弱点がいちばんはっきり表に出た年でもありました。

なお、2023年の純利益が飛び抜けて大きいのは、税金の会計処理による一時的な益(約28〜29億ドル)が入っているためで、「実力」ではありません。大家業でいえば、物件を売却した年の利益を、その年の家賃の実力と勘違いしてはいけないのと同じことです。こうした「数字のクセ」を見抜くのが、今回の連載の大きなテーマです。

業績は伸びているのに、株価は伸び悩んでいる

時点 株価 2025/11/28(116.99ドル)との比較
公開価格(2020年12月) 68.00ドル +72.0%
上場来高値(終値、2021年2月11日) 216.84ドル -46.0%
2022年末 85.50ドル +36.8%
2024年末 131.41ドル -11.0%

上場時に公開価格で買えた人はまだ利益ですが、上場直後の熱狂の中で買った人は含み損、という状況です。2025年は年初から約11%の下落。業績は伸びているのに株価は伸び悩んでいる――このギャップをどう読むかが、投資判断のカギになります。

不動産でも、似たことはよく起こります。家賃収入は少しずつ増えているのに、物件の売値は上がらない。買い手が求める利回りが上がれば、同じ家賃でも値段は下がるからです。株価も、今の稼ぎだけでなく「この先どれだけ伸びそうか」という期待で決まります。エアビーの場合、その期待が上場直後ほどは膨らんでいない、ということなのでしょう。なぜそうなったのかは、第2回の売上の分解と、第6回のバリュエーションで確かめていきます。

当ブログの通信簿は「強いけれど、注意書きつき」

全8回の分析結果を先取りして、7つの項目で評価してみました。

項目 ひとこと 詳しくは
成長性 全体は+10%前後。ただし北米は1桁台の伸びに 第2回
収益性 調整後EBITDAマージン約36%は業界でも高水準 第3回
利益の質 株式報酬が売上の約13%。「調整後」の数字には注意 第3回
財務の安全性 ネットキャッシュ(現金−借入)約97億ドル 第4回
株主還元 配当はゼロ、その代わり自社株買いが大きい 第5回
割安度 PER約27倍、FCF利回り約6.3% 第6回
リスク 都市ごとの規制、税務係争 第7回

用語メモ:PER=Price Earnings Ratio(株価収益率。時価総額÷純利益)。FCF利回り=FCF÷時価総額。

収益性と財務の安全性は、胸を張っていい成績です。ところが、「利益の質」と「リスク」の欄には注意書きがついています。株式報酬が売上の約13%もあるので、会社が強調する「調整後」の数字は慎重に見る必要があります(第3回)。そして、都市ごとの規制と税務係争(第7回)。日本で民泊を営む方なら、民泊新法や自治体の条例ひとつで、できることが大きく変わる怖さをよくご存じだと思います。エアビーは、その規制の違いを都市ごとに抱えながら商売をしている会社なのです。

割安度の欄は、大家の感覚に引き寄せると読みやすくなります。FCF利回り約6.3%は、物件でいえば「価格に対して、毎年自由に使えるお金がどれくらい残るか」に近い数字です。PER約27倍が高いか安いかは、第6回でじっくり検討します。

「数字のクセ」を見抜けば、エアビーの素顔が見えてくる

この連載で確かめたいことは、突きつめれば3つです。ひとつは「成長の質」。伸び率10%を支えているのは泊数か、単価か、手数料率か(第2回)。もうひとつは「利益の質」で、会社が強調する「調整後」の数字と、会計上の利益の差を確かめます(第3回)。そして最後が「株価の織り込み」。今の株価が、どれくらいの成長を前提にしているのか(第6回)。

大家業でも、販売図面の表面利回りだけで物件を買うと、あとで修繕費や空室に泣かされます。株も同じで、見出しの数字の裏にある「クセ」を知っておくことが、自分の資産を守るいちばんの方法だと私は思っています。

数字は少し多めですが、図と表でできるだけわかりやすくお届けします。年末の慌ただしい時期ですが、最後までお付き合いいただけたらうれしいです。明日(12月7日)の第2回では、売上を「泊数×単価×手数料率」に分解して、10%成長の中身をのぞいていきます。

 

※本記事は情報提供を目的としたもので、特定の銘柄の売買を勧めるものではありません。投資の判断はご自身の責任で行ってください。 ※数値は会社開示資料をもとに当ブログが集計・計算したもので、四捨五入の関係で合計が合わない場合があります。

出典・参考

  • Airbnb 2025年第3四半期 株主向けレター(8-K Exhibit 99.1)https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1559720/000119312525269432/d40503dex991.htm
  • Airbnb Form 10-Q(2025年9月期)https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1559720/000155972025000030/abnb-20250930.htm
  • Airbnb 2024年第4四半期 株主向けレター https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1559720/000119312525026054/d915198dex991.htm
  • Airbnb 新規株式公開の価格決定(2020年12月9日)https://investors.airbnb.com/press-releases/news-details/2020/Airbnb-Announces-Pricing-of-Initial-Public-Offering/default.aspx
  • 株価:Yahoo Finance https://au.finance.yahoo.com/quote/ABNB/history/ 、macrotrends https://www.macrotrends.net/stocks/charts/ABNB/airbnb/stock-price-history
  • 為替:三菱UFJリサーチ&コンサルティング(2025年11月28日の公表相場)https://www.murc-kawasesouba.jp/fx/past/index.php?id=251128