東雲結子:先生、来年の目標が決まりました。私も民泊を始めて、エアビーみたいに毎年10%成長します。作戦は簡単、毎年1泊の料金を10%ずつ値上げです!
税理士石井:うーん、その作戦だと、3年目あたりで予約カレンダーが真っ白になりそうですね。
東雲結子:えっ、でもエアビーの売上は10%伸びていますよね? てっきり値上げの成果かと思っていました。
税理士石井:実はですね、エアビーの単価(ADR)の伸びは年2%弱で、インフレ並みなんです。成長の大半は「泊数」、つまり泊まる人が増えたことでした。
東雲結子:おっと(汗)。私の作戦、根っこから逆でした。値上げするたびに、お客さんが増える前提で計算していました……。
税理士石井:ははは。それは、ゲストが値札を見ずに予約してくれる世界ですね。大家業でも、家賃収入は「部屋数×家賃×稼働率」の掛け算です。どこが伸びたかで、この先の伸びしろはまるで違います。
東雲結子:たしかに……。家賃を上げて空室が増えたら、掛け算の答えは小さくなりますもんね。
税理士石井:そうなんです。それともうひとつ。2024年の売上の約45%を占めた北米が、2025年1〜9月は+4%しか伸びていません。
東雲結子:えっ、いちばんの大口のお得意さまが、いちばんのんびり……。
税理士石井:そこが今日の核心です。10%成長の中身を、泊数・単価・手数料率、そして地域まで分解していきましょう。
第2回のテーマは「売上」です。売上が10%伸びた、と聞くと「順調だね」で終わりがちですが、プロのアナリストはここで必ず、何が伸びたのかを分解します。お客さんが増えたのか、値上げしたのか、それとも取り分を増やしたのか。中身によって、この先の伸びしろがまったく違ってくるからです。
大家業でも、まったく同じことが言えます。去年より家賃収入が増えたとき、それが満室に近づいたおかげなのか、家賃を上げたおかげなのか、物件を買い足したからなのか。理由が違えば、来年の見通しも変わります。民泊を運営している方なら、売上を「泊まった数×1泊の料金」で考える感覚は、もう体にしみついていると思います。エアビーの売上は、そこにもうひとつ「手数料率」を掛けたものです。
エアビーの売上は、3つの数字の掛け算でできている
エアビーの売上は、次の掛け算で説明できます。
売上高 = 泊数 × 1泊あたり単価(ADR) × 手数料率(テイクレート)
ひとつ目の「泊数」は、予約された宿泊数と体験の数です。会社の指標名は「Nights and Experiences Booked」で、2025年Q2からは「Nights and Seats Booked」になりました。ふたつ目の「ADR」は Average Daily Rate、つまり1泊あたりの平均予約額のことで、予約総額(GBV)を泊数で割って求めます。そして最後の「手数料率」は、売上高をGBVで割ったもの。ゲストとホストから受け取る手数料の割合です。
賃貸に置きかえれば、泊数は「埋まっている部屋の数」、ADRは「家賃の単価」、手数料率は管理会社が受け取る「管理手数料の率」にあたります。世界中の予約の総額を束ねて、ゲストとホストの双方から、その一部を手数料として受け取る。エアビーは、そういう立ち位置の会社なんです。
用語メモ:GBV=Gross Booking Value(予約総額)。Q1〜Q4=第1〜第4四半期(1〜3月、4〜6月、7〜9月、10〜12月)。
分解してみると、伸びのエンジンは「泊数」だった

| 期間 | 泊数 | ADR(単価) | 手数料率 | 売上高 |
| 2023年 | +13.8% | +1.9% | +1.8% | +18.1% |
| 2024年 | +9.7% | +1.8% | +0.3% | +11.9% |
| 直近12か月(2024年10月〜2025年9月) | +8.9% | +1.8% | -0.7% | +10.2% |
3つは掛け算の関係です(例:直近12か月は1.0893×1.0185×0.9931=約1.102)。ADRと手数料率は当ブログの概算。
表をじっと見ていると、浮かび上がってくる事実があります。成長の大半は「泊数」。単価の上昇は年2%弱で、インフレ並みにとどまっています。値上げで稼ぐ会社ではありません。大家として見ると、これはむしろ健全な伸び方だと感じます。家賃を無理に上げて作った増収は、退去が続けばすぐに崩れますが、入居者の数そのものが増えたのなら、土台はしっかりしているからです。
ただし、その泊数の伸びはじわじわ鈍化しています(+13.8%→+9.7%→+8.9%)。会社の規模が大きくなれば、伸び率が落ちるのは自然なことでもあります。1棟目が2棟目に増えれば規模は倍ですが、10棟目が11棟目になっても1割増にすぎません。分母が大きくなれば、同じ努力でも伸び率は小さく見えるものです。
そして、手数料率はほぼ横ばい〜やや低下。取り分を上げて利益を伸ばす余地は、今のところ大きくなさそうです。ホストの側から見れば、手数料率が上がらないのはありがたい話ですよね。でも投資家の側から見ると、「取り分を上げる」というカードは切りにくい、ということになります。同じ数字でも、立場が変われば評価が逆になる。ここがおもしろいところです。
四半期で見ると、伸びは「10%前後」に落ち着いてきた

| 四半期 | 泊数 | GBV | 売上高 |
| 2024年Q3 | +8% | +10% | +10% |
| 2024年Q4 | +12% | +13% | +12% |
| 2025年Q1 | +8% | +7% | +6% |
| 2025年Q2 | +7% | +11% | +13% |
| 2025年Q3 | +9% | +14% | +10% |
会社公表値(前年同期比、整数)。
2023年前半は20%近い伸びでしたが、2024年後半からは10%前後に落ち着いています。2025年Q3はGBVが+14%と強めでしたが、これには為替(ドル安で海外の予約額がドル換算で膨らむ効果)も含まれていて、会社は為替の影響を除くと+12%程度と説明しています。
外貨建てで家賃を受け取っている大家さんを想像すると、わかりやすいかもしれません。家賃そのものは同じでも、為替が動けば円に換算した収入は増えたり減ったりします。為替で膨らんだ分は、物件の実力とは別のもの。だからこそ、会社も「為替の影響を除くと」とわざわざ断っているわけです。
会社が示した2025年Q4(10〜12月)の見通しは次のとおりです。
| 項目 | 会社の見通し |
| 売上高 | 26.6億〜27.2億ドル(前年同期比 +7〜10%) |
| 泊数 | 1桁台半ばの伸び |
| GBV | 2桁台前半の伸び |
| 手数料率 | 前年並み |
| 調整後EBITDA | 前年並み〜やや減少 |
ちょうど今、私たちが過ごしているこの10〜12月の見通しです。泊数の伸びが控えめになっていく流れは、ここでも変わっていません。見通しどおりに着地するかどうかは、次の決算で確かめたいところです。
売上には、夏に偏る「季節のクセ」がある
エアビーの売上は夏(7〜9月)に集中します。売上は宿泊(チェックイン)時に計上されるため、旅行シーズンのQ3が毎年最大。2025年Q3の売上は40.95億ドルで、年間の3分の1以上をこの3か月で稼ぐ計算です。
投資家としての注意点:四半期の数字を前の四半期と比べても意味がありません。必ず「前年の同じ四半期」と比べましょう。イースター(復活祭)の日付(2024年は3月31日、2025年は4月20日)など、カレンダーのずれでもQ1・Q2の数字はぶれます。
民泊を運営している方なら、繁忙期と閑散期の差は身にしみていると思います。賃貸でも、春の引越しシーズンの申込み件数を前の月と比べて「急に伸びた」と喜ぶ大家さんはいませんよね。比べるなら、去年の同じ時期です。エアビーの決算も、まったく同じ目で見てください。
単価(ADR)はコロナ禍で一段上がり、その後はゆるやか
ADRはコロナ禍をきっかけに大きく上がりました(2019年116ドル→2021年156ドル)。ADRは「値上げ」だけでなく、どの地域・どんな物件が予約されたか(構成の変化)や為替でも動きます。その後の上昇はゆるやかで、2024年は166ドル、直近12か月は約169ドルです。
この「構成の変化」は、複数の物件を持つ大家さんほどピンとくるはずです。ワンルームばかり持っていた人がファミリー向けの物件を買い足せば、1戸あたりの平均家賃は上がります。でも、それは値上げではありません。エアビーのADRも同じで、単価が上がった=値上げした、と早合点しないことが大切です。
最大市場の北米が、+4%しか伸びていない


| 地域 | 2025年1〜9月の売上高 | 前年同期比 | 2024年の売上構成比 |
| 北米 | 40.50億ドル | +4.0% | 45.1% |
| 欧州・中東・アフリカ(EMEA) | 37.99億ドル | +13.7% | 37.2% |
| 中南米 | 8.09億ドル | +17.1% | 8.7% |
| アジア太平洋 | 8.05億ドル | +15.8% | 8.9% |
| 合計 | 94.63億ドル | +9.8% | 100% |
地域は物件の所在地ベース。出典:10-Q(2025年9月期)注記3、10-K(2024年12月期)。
ここが今回いちばん大事なポイントかもしれません。2024年の売上の約45%を占めた北米が、2025年1〜9月は+4%しか伸びていないのです。会社の説明でも、北米の泊数の伸びは「1桁台前半〜半ば」で、全泊数に占める北米の比率は約30%とされています。
少し不思議に思いませんか。泊数では約30%なのに、売上では約45%。北米は、1泊あたりで生む売上が大きい市場だということです。いちばん「稼ぎのいい」お得意さまの伸びが、いちばん鈍くなっている。だからこそ、ここは見過ごせません。
一方で、中南米やアジア太平洋は15%以上、欧州等も+13.7%の伸び。これからの成長は、北米以外がどこまで引っ張れるかにかかっています。
不動産でいえば、長年家賃を稼いでくれた看板エリアが満室に近づき、次の伸びは別のエリアに求めるしかなくなった状態に似ています。ただ、表の金額も見てください。中南米とアジア太平洋の売上は、それぞれ北米の約5分の1です。伸び率の高さだけでなく、金額の大きさもあわせて見ることが大切です。
宿泊の外にまく、新しい成長の種
エアビーは2025年5月13日、宿泊以外の新サービスを一気に発表しました。
| 取り組み | 中身(会社の説明) |
| Airbnb Services | 出張シェフ、写真撮影、マッサージなど10カテゴリーのサービスを予約できる |
| Airbnb Experiences(刷新) | 地元のホストが案内する体験ツアー。体験予約のほぼ半分は宿泊と紐づかない予約 |
| 新アプリ | アプリ経由の泊数が全体の62%(前年58%)に |
| Reserve Now, Pay Later | 2025年8月に米国で開始。予約時の支払いゼロで予約できる仕組み |
出典:2025年第2・第3四半期の株主向けレター。
民泊ホストの目で見ると、「体験予約のほぼ半分は宿泊と紐づかない」という点が興味深いところです。宿に泊まらない人にも、エアビーのアプリを開く理由をつくろうとしているのでしょう。北米の伸びが鈍るなかで、宿泊の外に次の柱を探そうとする意欲を、私はこの表から感じます。
会社は2025年に、こうした新事業へ約2億ドルを投資すると説明しています。まだ売上への貢献は小さく、今のところは「利益を削って種をまいている段階」です(第3回で詳しく)。大家業でも、新しい取り組みはたいてい持ち出しから始まります。芽が出るかどうかは、数字が教えてくれるまで待つしかありません。
売上の数字を見るときに、確かめておきたいこと
まず、売上の伸びは「泊数」「単価」「手数料率」のどれが主役なのかを確かめてください。エアビーの場合、主役は泊数でした。そのうえで、四半期の数字は必ず「前年同期比」で見ること。季節のクセが強い会社なので、前の四半期と比べると判断を誤ります。
次に気にかけておきたいのが、北米(2024年の売上の約45%)の伸びが、売上で+4%、泊数で1桁台前半〜半ばにとどまっていることです。そのぶん、北米以外、とくに中南米・アジア太平洋の伸びが続くかどうかを、次の決算で確認していく必要があります。そして、新事業(サービス・体験)が売上の柱に育つかは、まだ「様子見」。期待はしても、数字になるまでは計算に入れない。それくらいの距離感がちょうどよいと思います。
10%成長の主役は泊数。気がかりは、北米の成熟
エアビーの売上は、泊数の増加を主なエンジンに年10%前後で成長しています。ただ、その伸び率はゆるやかに鈍化していて、とくに最大市場の北米は成熟が見えてきました。株価が業績ほど伸びていない背景の一つは、この「成長の鈍化」への警戒だと考えられます。
満室の物件は安心ですが、満室になったあとは、家賃収入は大きくは伸びません。エアビーの北米は、少しそれに似た段階に来ているのかもしれません。それでも、値上げに頼らず泊まる人の数で伸びてきたという事実は、この会社の底力として素直に評価したいところです。
次回、来週末の第3回は「利益の質」。会社が強調する「調整後EBITDA」と、会計上の利益の間にある大きなギャップの正体に迫ります!
※本記事は情報提供を目的としたもので、特定の銘柄の売買を勧めるものではありません。投資の判断はご自身の責任で行ってください。 ※数値は会社開示資料をもとに当ブログが集計・計算したもので、四捨五入の関係で合計が合わない場合があります。
出典・参考
- Airbnb 2025年第3四半期 株主向けレター https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1559720/000119312525269432/d40503dex991.htm
- Airbnb 2025年第2四半期 株主向けレター https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1559720/000119312525174438/d17531dex991.htm
- Airbnb Form 10-Q(2025年9月期)https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1559720/000155972025000030/abnb-20250930.htm
- Airbnb 2024年第4四半期 株主向けレター https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1559720/000119312525026054/d915198dex991.htm
- Airbnb 2023年第4四半期 株主向けレター https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1559720/000119312524033706/d646462dex991.htm































