東雲結子:先生、聞いてください。今月の私の家計、大黒字でした! ……年末のカードの引き落としを除けば、ですけど。

税理士石井:うーん、それは家計簿というより「調整後・家計簿」ですね。

東雲結子:でも、エアビーだって「調整後EBITDA」をいちばん大きく出していますよ? マージン36%、とっても立派です。

税理士石井:そうですね。ただ、直近12か月の調整後EBITDAは42.8億ドル、会計上の営業利益は27.1億ドル。差の15.7億ドルのうち、約99%が株式報酬なんです。

東雲結子:株式報酬……社員さんのお給料を株で払うやつですね。現金が出ていかないなら、実質タダでは?

税理士石井:ははは。では、アパートの清掃スタッフさんに、お給料のかわりに建物の持分を少しずつ渡している場面を想像してみてください。

東雲結子:えーっと……通帳は減らないけど、気づいたら私のアパートの共有者がどんどん増えて……あれ?

税理士石井:ええ。現金は出ていかなくても、オーナー1人あたりの取り分は確実に薄まっていきます。

東雲結子:なるほど……。カードの引き落としと同じで、見ないことにしても消えてはくれないんですね。

税理士石井:そのとおりです。今日は「調整」の中身をひとつずつ外して、エアビーの本当の稼ぐ力を確かめていきましょう。

第3回は、会計事務所としていちばん語りたかったテーマ、利益の質です。

米国の成長企業の決算発表を見ると、会社が大きく打ち出しているのは「調整後EBITDA」や「調整後EPS(1株あたり利益)」といった会社独自の物差しであることがほとんど。エアビーも例外ではありません。でも、その「調整」の中身を知らずに数字を信じてしまうのは、ちょっと危険です。

物件の販売図面に書かれた「表面利回り」を思い出してください。満室を前提に、経費も空室も引く前の数字です。きれいに見えるのは当然で、買う側が自分で「引くべきもの」を引き直さなければ、本当の利回りはわかりません。会社が出す「調整後」の数字も、それとよく似ています。

用語メモ:GAAP=Generally Accepted Accounting Principles(米国で一般に公正妥当と認められた会計基準)。決算書の正式な数字は、このGAAPで作られます。会社独自の指標は「Non-GAAP(非GAAP)」と呼ばれます。

物差しを変えるだけで、利益率はこれほど違って見える

利益率(売上高に対する割合) 2022年 2023年 2024年 直近12か月
FCFマージン 40.5% 38.7% 40.4% 38.1%
調整後EBITDAマージン 34.6% 36.8% 36.4% 35.8%
GAAP営業利益率 21.5% 15.3% 23.0% 22.6%
純利益率 22.5% 48.3% 23.9% 22.0%

直近12か月=2024年10月〜2025年9月。FCF=フリーキャッシュフロー(営業キャッシュフロー−設備投資)。

一目でわかるのは、会社の物差し(調整後EBITDA)と会計の物差し(GAAP営業利益)の間に、売上の13%前後(2023年を除く)もの差があることです。直近12か月で見ると、調整後EBITDAは42.8億ドル、GAAP営業利益は27.1億ドル。その差は15.7億ドルにもなります。

同じ会社の、同じ12か月です。それなのに、物差しを替えるだけで利益率は22.6%にも35.8%にもなる。数字そのものに嘘はありませんが、どの物差しを「看板」に掲げるかで、受ける印象はずいぶん変わります。

差の正体は、ほぼ「株式報酬」だった

項目(直近12か月) 金額
GAAP営業利益 27.05億ドル
+株式報酬(SBC) +15.49億ドル
+減価償却費 +0.90億ドル
+その他(買収関連・宿泊税等の引当調整など) -0.68億ドル
=調整後EBITDA 42.76億ドル

SBC=Stock-Based Compensation(株式報酬。社員に給料の一部として自社株を渡すこと)。出典:株主向けレターの調整表(4四半期分を当ブログで合計)。

差額15.71億ドルのうち、株式報酬が15.49億ドル(約99%)。つまり調整後EBITDAとは、「社員に株で払った給料を、なかったことにした利益」とほぼ同じ意味なのです。

正直に言うと、ほとんど全部が株式報酬だとわかったときは、私も少し驚きました。「調整」と聞くと、いろいろな一時的な項目を少しずつ整えたものを想像しがちです。ところがエアビーの場合、中身はほぼ一つ。だからこそ、この株式報酬をどう考えるかで、エアビーの利益の見え方はがらりと変わります。

株式報酬は、現金が出ないだけの「本当のコスト」

会社側の言い分はこうです。「株式報酬は現金が出ていかない費用だから、本業の稼ぐ力を見るには除いたほうがいい」。たしかに現金は出ていきません。

でも、株主の立場から見ると話は別です。社員に株を渡せば、発行済株式数が増え、1株あたりの価値が薄まる(希薄化)。その希薄化を防ぐために自社株買いをすれば、結局は現金が出ていく。そもそも株で払わなければ、同じ人材を雇うために現金で給料を払う必要があるはずです。どの道をたどっても、タダにはなりません。

冒頭の会話のたとえを、もう少しだけ続けさせてください。アパートを何人かで共有していて、管理を手伝ってくれる人に、お礼として持分を少しずつ渡していくとします。通帳の残高は減りません。でも、家賃を分け合う人数が増えれば、あなたの取り分は確実に減っていきます。それを嫌って持分を買い戻そうとすれば、今度は現金が出ていく。株式報酬とは、まさにこういうことなのです。

会計のプロとしての結論は明快で、株式報酬は「実質的なコスト」として扱うべきです。米国の会計基準(GAAP)でも、株式報酬はきちんと費用として計上されています。

年 株式報酬(SBC) 売上高に対する割合
2021年 8.99億ドル 15.0%
2022年 9.30億ドル 11.1%
2023年 11.20億ドル 11.3%
2024年 14.07億ドル 12.7%
直近12か月 15.49億ドル 13.0%

株式報酬は毎年増えていて、売上の約13%。米国のIT企業では珍しくない水準ですが、決して小さな数字ではありません。直近12か月の純利益(26.3億ドル)と比べると、その約6割に相当します。

気になるのは、その割合の動きです。売上が伸びれば割合は下がっていきそうなものですが、2022年の11.1%から直近12か月の13.0%へ、むしろじわりと上がっています。会社が大きくなっても、株で払う給料は売上以上のペースで増えている。ここは、これからも見守り続けたい数字です。

費用の中身は、コロナ前より「筋肉質」になった

費用(売上高比) 2019年 2022年 2023年 2024年
売上原価 25% 18% 17% 17%
運営・サポート 17% 12% 12% 12%
製品開発 20% 18% 17% 19%
販売・マーケティング 34% 18% 18% 19%
一般管理 15% 11% 20% 11%

四捨五入。株式報酬は各費用に含まれています。

コロナ前の2019年は、販売・マーケティングに売上の34%も使っていました。それが2022年以降は18〜19%に。エアビーはコロナ禍以降、検索広告などの「お金で買う集客」を絞り、ブランド広告やアプリ経由の集客に力を入れる方針を説明してきました。この集客コストの低さが、高い利益率の源泉です。

賃貸の大家さんなら、客付けのための広告料を思い浮かべるとわかりやすいと思います。人気のない物件ほど、広告料を積まないと入居が決まりません。逆に、名前で問い合わせが来る物件は、広告にお金をかけなくても埋まっていきます。エアビーは、お金で集客を買う会社から、「名前で選ばれる会社」へ変わっていったのかもしれません。前回ご紹介した新アプリの取り組みも、この流れの延長線上にあるのでしょう。

ただし2024年は、製品開発と販売・マーケティングの比率がじわりと上がっています。2025年は新事業(サービス・体験)への投資もあり、利益率は横ばい〜やや低下というのが会社の見通しです。前回お話しした「種まき」の費用が、ここに表れてくるわけですね。なお、2023年の一般管理費だけが20%と跳ねている点は、次に見る「一時的な要因」の表とあわせて見てください。

一時的な要因を外すと、「実力」の純利益は年19億〜27億ドル程度と見られる

決算書には、たまにしか起きない「一時的な損益」が紛れ込みます。エアビーで特に大きいのは次の3つです。

時期 内容 利益への影響
2023年Q3 繰延税金資産の評価性引当金の取崩し(税金の一時的な益) 純利益を約28億ドル押し上げ
2023年Q4 ホストへの支払いに係る源泉税・宿泊税の引当など(一般管理費) 営業利益を約9.35億ドル押し下げ
2025年Q3 法人代替ミニマム税(CAMT)の税額控除に対する評価性引当金 税金を約2.13億ドル押し上げ(純利益を押し下げ)

用語メモ:評価性引当金=将来の税金を減らせる権利(繰延税金資産)のうち、使えそうにない部分を差し引いておく会計処理。会社の利益見通しが良くなると取り崩され、そのとき一時的な税金の益が出ます。CAMT=Corporate Alternative Minimum Tax(法人代替ミニマム税)。

評価性引当金という言葉は、税理士の私から見ても取っつきにくい用語です。ひと言でいえば、「将来の税金を減らせる権利」を、使えるかどうかわからないうちは帳簿から控えめにしておき、見通しが立ったら戻す、という処理です。戻した年には利益が大きく膨らみますが、それは本業でその年に稼いだお金ではありません。

2023年の純利益47.92億ドルは、Q3に計上された税金の一時的な益(約28億ドル)を除くと約20億ドル(概算)です(2023年Q4の一時的な費用約9.35億ドルは差し戻していません)。2022年の18.9億ドル、2024年の26.5億ドル、直近12か月の26.3億ドルと並べると、実力の純利益は年19億〜27億ドル程度で推移していると見るのが妥当だと私は考えています。

大家業でも、大規模修繕をした年の赤字だけを見て、物件の良し悪しを決めたりはしませんよね。逆に、臨時の収入があった年の黒字を、その物件の実力だと思い込むのも危険です。一時的な出来事をいったん脇に置いて「ふだんの年」の姿を探す。これは物件でも会社でも同じです。

税率は、これから下がる見込み

項目 内容(会社の説明)
2024年の実効税率 20.5%
2025年の実効税率(見込み) 約21%(CAMT関連の一時的な費用2.13億ドルなどを含む)
2026年以降の長期的な実効税率 10%台半ば〜後半(2025年7月成立の米国税制改正法「OBBBA」の影響)

OBBBA=One Big Beautiful Bill Act(2025年7月に成立した米国の大型税制・歳出法)。

税率が下がれば、同じ税引前利益でも純利益は増えます。これは投資家にとってプラス材料です。ただし、税務当局との係争(第7回で詳しく)もあるので、「税金の見通し」は常に注意が必要な項目でもあります。

税理士として正直に言えば、税金の見通しほど「見込み」の二文字が重い数字はありません。法律が変われば前提は変わりますし、税務当局と意見が分かれれば、決着までの道のりは読みにくくなります。うれしい材料であることは確かですが、私はこの数字を、いつも少しだけ割り引いて眺めるようにしています。

利益の質を確かめるときに、見ておきたいこと

まず、会社が強調する「調整後」の数字と、GAAPの数字を必ず両方確認してください。エアビーの場合、調整後EBITDAとGAAP営業利益の差の大部分は株式報酬でした。そこで次に、株式報酬が売上の何%なのかを押さえておきます。エアビーは約13%です。

そのうえで、税金の益や引当金のような一時的な損益を除いた「実力の利益」を、自分なりに考えてみること。そして最後に、税率の見通し(2026年以降は10%台半ば〜後半)も確認しておきましょう。この順番で見ていけば、見出しの数字に振り回されることは、ずいぶん少なくなるはずです。

調整後の36%は「お化粧後」。判断には株式報酬を引いた数字を

エアビーは集客コストの低さを武器に、高い利益率を稼ぐ会社です。ここは間違いなく強み。一方で、会社が強調する調整後EBITDAマージン36%は、株式報酬を足し戻した「お化粧後」の数字。会計上の営業利益率は約23%です。投資判断には、株式報酬を差し引いた数字を使う――これが第6回のバリュエーションでも大事になってきます。

お化粧が悪いわけではありません。素顔を知ったうえで見るなら、調整後の数字も会社の考え方を知る手がかりになります。大切なのは、表面利回りと実質利回りを見分けるのと同じように、どちらの数字を見ているのかを自分でわかっていることだと思います。

明日の第4回は、エアビーの決算書でいちばん面白いところ。「利益より現金のほうがたくさん入ってくる」不思議な仕組みと、貸借対照表の「預かり金」の正体です!

 

※本記事は情報提供を目的としたもので、特定の銘柄の売買を勧めるものではありません。投資の判断はご自身の責任で行ってください。 ※数値は会社開示資料をもとに当ブログが集計・計算したもので、四捨五入の関係で合計が合わない場合があります。

出典・参考

  • Airbnb 2025年第3四半期 株主向けレター https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1559720/000119312525269432/d40503dex991.htm
  • Airbnb Form 10-Q(2025年9月期)https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1559720/000155972025000030/abnb-20250930.htm
  • Airbnb 2024年第4四半期 株主向けレター https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1559720/000119312525026054/d915198dex991.htm
  • Airbnb 2023年第4四半期 株主向けレター https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1559720/000119312524033706/d646462dex991.htm
  • Airbnb 2023年第3四半期 株主向けレター https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1559720/000119312523268164/d481318dex991.htm
  • Airbnb Form 10-K(2024年12月期)XBRLデータ https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1559720/000155972025000010/Financial_Report.xlsx