東雲結子:先生、エアビーの貸借対照表を見ました! 現金が75.28億ドル、顧客からの預かり資産が72.09億ドル。お財布がパンパンです!
税理士石井:うーん、その72.09億ドルは、ゲストから預かった宿泊代金なんです。チェックイン後に、ホストへ支払うお金ですね。
東雲結子:えっ……。私、よそのお宅のお財布の中身まで数えていました(汗)。
税理士石井:ふふ。大家さんでいえば、通帳に入っている敷金を「自分の貯金」と数えてしまうようなものです。
東雲結子:あっ、敷金で年末旅行に行ったら、退去の立会いの日に青ざめるやつですね。
税理士石井:そういうことです。負債の側にも「顧客への支払予定額」として同じ金額が載っていて、ちょうど打ち消し合っています。
東雲結子:じゃあ、エアビー自身のお金は、実はそんなにないんですか?
税理士石井:いえいえ、それがですね……。現金と短期投資から借入を引いたネットキャッシュは、約97億ドルもあります。しかも直近12か月は、純利益26.3億ドルに対して、FCFが45.5億ドル。
東雲結子:利益より現金のほうが多い? うちの家計簿では、逆のことしか起きたことがありません……。
税理士石井:ははは。今日は、その不思議な仕組みと「預かり金」の正体を、キャッシュフローから解いていきましょう。
第4回は、エアビーの決算書の中でも特におもしろいところ、キャッシュフローと貸借対照表です。
「利益は意見、キャッシュは事実」という言葉があります。会計上の利益は、減価償却や引当金など、会計ルールの選び方で変わります。一方、現金の出入りはごまかしがききません。だからプロの投資家は、利益と同じくらい、いやそれ以上にキャッシュフロー(現金の流れ)を重視します。
この言葉は、大家さんほど身にしみているかもしれません。帳簿の上では黒字なのに、ローンの元金を返したら手元にほとんど残らない。反対に、建物の減価償却が大きい物件では、帳簿の利益は小さいのに通帳は意外と潤っている。賃貸経営の本当の成績表は、いつも通帳の側にあります。エアビーの通帳には、どんなお金の流れが記されているのでしょうか。
利益より「現金」がたくさん入ってくる会社

| 年 | 純利益 | FCF(フリーキャッシュフロー) | FCF÷売上高 |
| 2021年 | -3.52億ドル | 22.88億ドル | 38.2% |
| 2022年 | 18.93億ドル | 34.05億ドル | 40.5% |
| 2023年 | 47.92億ドル | 38.37億ドル | 38.7% |
| 2024年 | 26.48億ドル | 44.84億ドル | 40.4% |
| 直近12か月 | 26.31億ドル | 45.50億ドル | 38.1% |
FCF=営業キャッシュフロー−設備投資。2021年の営業CFは、2023年2月公表の2022年通期決算で会社が訂正した後の数字。
2023年(税金の一時的な益がある年)を除けば、FCFは毎年、純利益を大きく上回っています。直近12か月で見ると、純利益26.3億ドルに対してFCFは45.5億ドル。売上の約38%が「自由に使える現金」として残る計算です。
2021年の行にも目をとめてください。純利益は赤字なのに、FCFは22.88億ドルのプラス。帳簿が赤字の年でさえ、現金はしっかり残っていたのです。なぜこんなことが起きるのでしょうか。理由は主に2つあります。
ひとつ目の理由は、株式報酬が「現金の出ない費用」だから

| 2025年1〜9月 | 金額 |
| 純利益 | 21.70億ドル |
| +株式報酬(現金の出ない費用) | +11.81億ドル |
| +繰延税金(現金の支払いを伴わない税金費用) | +3.36億ドル |
| +前受手数料の増加(宿泊前に受け取った手数料) | +1.98億ドル |
| +その他 | +2.35億ドル |
| =営業キャッシュフロー | 41.20億ドル |
| -設備投資 | -0.28億ドル |
| =FCF | 40.92億ドル |
出典:10-Q(2025年9月期)のキャッシュフロー計算書、設備投資は株主向けレターの数字。
いちばん大きいのは株式報酬(11.81億ドル)です。第3回で見たとおり、株式報酬は会計上は費用ですが現金は出ていきません。だから、純利益に足し戻すと現金が増えて見えるのです。
大家さんにとってなじみ深い「現金の出ない費用」といえば、建物の減価償却ですよね。帳簿の上では費用でも、その年に現金が出ていくわけではありません。エアビーにとっての株式報酬は、ちょうどその役回りを演じています。ただ、減価償却が過去に払った建物代を少しずつ費用にしていくものなのに対して、株式報酬は株主の持分を少しずつ配っていくもの。現金が出ないからといってタダではないことは、第3回でお話ししたとおりです。
ここが重要:FCFが大きいのは「株で給料を払っているから」という面もあります。株式報酬を差し引いた「実質FCF」は、直近12か月で約30.0億ドル(45.50億−15.49億ドル)。第6回のバリュエーションでは、この数字も使います。
ふたつ目の理由は、「先にお金をもらう」ビジネスだから
もう一つの理由は、エアビーがゲストから先にお金を受け取り、ホストには後で払うビジネスだからです。お店でいえば「前払い制」。会社が大きくなるほど、手元に入ってくる現金が先に増えていきます。
賃貸でも、家賃は前の月のうちにいただく前払いが一般的ですよね。入居者が増えれば、先に入ってくるお金も増えていく。エアビーは、それを世界中の予約で行っているわけです。表にある「前受手数料の増加」1.98億ドルも、宿泊前に受け取った手数料が積み上がった分でした。

| 四半期 | 2023年 | 2024年 | 2025年 |
| Q1(1〜3月) | 15.87億ドル | 19.23億ドル | 17.89億ドル |
| Q2(4〜6月) | 9.09億ドル | 10.51億ドル | 9.75億ドル |
| Q3(7〜9月) | 13.25億ドル | 10.78億ドル | 13.56億ドル |
| Q4(10〜12月) | 0.63億ドル | 4.66億ドル | ― |
おもしろいのは、現金がいちばん入ってくるのは年初(1〜3月)だということ。夏休みの旅行の予約と支払いが年初から春にかけて集中するからです。売上が最大になる夏(Q3)とはずれています。これも「先にお金をもらう」ビジネスならではの特徴です。
逆に、2023年も2024年も、いちばん小さかったのは10〜12月。ちょうど今の季節です。四半期のキャッシュフローだけを見て「急に現金が減った」と慌てないためにも、売上と同じく、前年の同じ四半期と比べる習慣をつけておきたいところです。
貸借対照表の「預かり資産」は、会社のお金ではない

| 資産(2025年9月末) | 金額 | 負債・純資産 | 金額 |
| 現金 | 75.28億ドル | 顧客への支払予定額 | 72.09億ドル |
| 短期投資 | 41.56億ドル | 前受手数料 | 18.20億ドル |
| 顧客からの預かり資産 | 72.09億ドル | 転換社債(2026年3月満期) | 19.98億ドル |
| 繰延税金資産 | 21.46億ドル | 未払費用・その他 | 34.27億ドル |
| その他 | 20.25億ドル | 株主資本 | 86.10億ドル |
| 合計 | 230.64億ドル | 合計 | 230.64億ドル |
出典:10-Q(2025年9月期)。
ここで絶対に間違えてはいけないのが、「顧客からの預かり資産」72.09億ドルは会社のお金ではないということ。これはゲストから預かった宿泊代金で、チェックイン後にホストへ支払うものです。負債側に「顧客への支払予定額」として同じ金額が載っていて、ちょうど打ち消し合う関係になっています。
管理会社に家賃の集金をお願いしている大家さんなら、イメージしやすいはずです。入居者から集めた家賃は、オーナーへ送金されるまで管理会社の口座にあります。それを管理会社が自分のお金だと思って使ってしまったら、大問題ですよね。エアビーの72.09億ドルも、まさにその「送金待ちのお金」です。民泊ホストの側から見れば、チェックイン後に届く支払いの、その手前で待っているお金ということになります。
会社自身のお金は、次のように計算します。
| 項目 | 金額 |
| 現金 | 75.28億ドル |
| +短期投資 | 41.56億ドル |
| =現金+短期投資 | 116.84億ドル |
| -転換社債(借入) | 19.98億ドル |
| =ネットキャッシュ(実質的な手元資金) | 96.86億ドル |
時価総額(約720億ドル)の約13%に当たる約97億ドルのネットキャッシュ。財務の安全性は非常に高いといえます。
注意点:このネットキャッシュの中には、宿泊前に受け取った手数料(前受手数料18.20億ドル)や、ゲストから預かった宿泊税などの未払分も含まれています(10-Qによると、間接税の未払金と宿泊税・源泉税の見積債務は合計12.13億ドル)。すべてが「自由に使えるお金」とは限らない点は、頭の片隅に置いておきましょう。
この注意点は、税理士として少し強調しておきたいところです。お客さまから預かって、あとで納める税金は、通帳にあるあいだはつい自分のお金に見えてしまいます。でも、いずれ出ていくことが決まっているお金です。ネットキャッシュ約97億ドルという数字は頼もしいものの、そのすべてを「自由に使えるお金」と数えないこと。この慎重さが、決算書を読むときには大切だと私は思います。
借入金は「金利0%の転換社債」だけ
エアビーの借入金は、2021年に発行した利率0%の転換社債20億ドルだけです。2026年3月に満期を迎えるため、2025年9月末では1年以内に返す負債(流動負債)に分類されています。手元資金は約117億ドルあるので、返済に困ることはまず考えにくい水準です。
用語メモ:転換社債=一定の条件で株式に転換できる社債。転換されると株数が増える(希薄化する)可能性があります。
大家さんにとって、借入の満期や借換えの時期が重なる場面は、いちばん神経を使うところのひとつです。エアビーの場合、その満期が2026年3月にやってきますが、手元資金の厚みを見るかぎり、慌てる場面ではなさそうです。金利0%という条件も、金利の動きに一喜一憂しがちな大家からすると、うらやましいかぎり。ただし用語メモのとおり、転換されれば株数が増える可能性がある点は、第3回の「共有者が増える」話とつながっています。
資本効率もチェック。ROEは約3割
| 指標 | 計算 | 結果 |
| ROE(自己資本利益率) | 直近12か月の純利益26.31億ドル÷株主資本86.10億ドル(2025年9月末) | 約30.6%(概算) |
| 設備投資÷売上高 | 直近12か月の設備投資0.36億ドル÷売上高119.43億ドル | 約0.3% |
ROE=Return On Equity(株主のお金でどれだけ利益を上げたか)。期首と期末の平均ではなく期末の株主資本で計算した簡易値です。
ROEは、大家さんが物件を買うときに気にする「自己資金に対して、1年でどれだけの利益が出るか」という考え方に近い指標です。株主のお金に対して、1年で約3割の利益を上げている計算になります。
そして設備投資は売上のわずか0.3%。工場もホテルも持たない「持たざる経営」(アセットライト)の典型で、稼いだ現金のほとんどを株主還元に回せる体質です(次回、第5回で詳しく)。大家業は、その正反対の商売です。建物を持つ以上、屋根も外壁も給湯器も、いつか必ず交換の時期が来ます。稼いだ家賃の一部を、修繕のために残しておかなければなりません。その「修繕の積立」がほとんどいらない会社だと思うと、エアビーの現金の残り方にも納得がいきます。
キャッシュフローと財務で、押さえておきたいこと
まず、純利益とFCFを並べて、FCFのほうが大きい理由を確かめてください。エアビーの場合、その理由は株式報酬と「先にお金をもらう」仕組みでした。だからこそ、株式報酬を差し引いた「実質FCF」(直近12か月で約30億ドル)も、あわせて計算しておきたいところです。
貸借対照表では、「顧客からの預かり資産」を会社の現金と混同しないこと。そのうえで、ネットキャッシュ(約97億ドル)と借入金(転換社債20億ドル、2026年3月満期)を把握しておきます。そして、季節によって現金の入り方が大きく違う(1〜3月に最大)ことも、頭に入れておいてください。四半期の数字に一喜一憂しなくてすむようになります。
現金はたっぷり。ただし一部は「株の給料」と「預かりもの」
エアビーは、設備投資がほとんどいらず、お客さんから先にお金を受け取るという、キャッシュを生みやすいビジネスモデルを持っています。ネットキャッシュは約97億ドル、借入は金利0%の転換社債だけと、財務はとても健全です。
ただし、FCFの大きさの一部は「株で給料を払っている」ことによるもの。そして貸借対照表の「預かり資産」は会社のお金ではない――この2点を押さえておけば、エアビーの財務を正しく読めます。
敷金を自分のお金と数えない。減価償却で浮いた現金を、そのまま「もうけ」と思い込まない。大家さんが日々の経営で気をつけていることは、そのまま世界的な企業の決算書を読むときの心得にもなります。年末は、ご自身の通帳と向き合う機会も増える季節です。エアビーの数字を眺めながら、ご自分の物件のお金の流れも見直してみると、思わぬ発見があるかもしれません。
来週末の第5回は、この潤沢なキャッシュの使い道。「自社株買い」は本当に株主のためになっているのかを検証します!
※本記事は情報提供を目的としたもので、特定の銘柄の売買を勧めるものではありません。投資の判断はご自身の責任で行ってください。 ※数値は会社開示資料をもとに当ブログが集計・計算したもので、四捨五入の関係で合計が合わない場合があります。
出典・参考
- Airbnb Form 10-Q(2025年9月期)https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1559720/000155972025000030/abnb-20250930.htm
- Airbnb 2025年第3四半期 株主向けレター https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1559720/000119312525269432/d40503dex991.htm
- Airbnb 2024年第4四半期 株主向けレター https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1559720/000119312525026054/d915198dex991.htm
- Airbnb 2022年第4四半期 株主向けレター(2021年CFの訂正)https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1559720/000119312523039008/d451233dex991.htm
- Airbnb Form 10-K(2024年12月期)https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1559720/000155972025000010/abnb-20241231.htm































