東雲結子:先生、クリスマスケーキを予約してきました! ところでエアビーって、配当を一度も出していないんですね。サンタさんが来ない家みたいで、ちょっと寂しいです。

税理士石井:ふふ、サンタさんは来ていますよ。プレゼントの渡し方が違うだけなんです。

東雲結子:えっ、どんな渡し方ですか?

税理士石井:稼いだ現金で、自分の会社の株を買い戻しているんです。2024年は、FCF44.84億ドルのうち約9割にあたる40.60億ドルを、自社株買いと「株式報酬の源泉税の納付」に使いました。

東雲結子:9割も! ケーキを分ける人数が減れば、1人分が大きくなる。完璧な作戦です!

税理士石井:うーん、そこまでは正解です。ところがこのパーティーには、株式報酬という招待状を持った社員さんが、毎年あとから席に加わってくるんです。

東雲結子:帰る人もいれば、来る人もいる……。ケーキ係の私、ナイフを持ったまま固まっています(汗)。

税理士石井:ははは。共有で持っている物件でいえば、ほかの共有者の持分を買い取って自分の取り分が増えたと思ったら、知らないうちに共有者が増えていた、という話です。

東雲結子:なるほど……。じゃあ最後に、テーブルに何人残っているかを数えればいいんですね!

税理士石井:ええ。それと、席を譲ってもらうのに「いくら払ったか」もです。今日は株数の差し引きと、買い戻した値段の両方を、決算書で確かめていきます。

第5回のテーマは株主還元です。前回見たとおり、エアビーは年間45億ドルものFCF(フリーキャッシュフロー)を稼ぎます。では、そのお金はどこへ行っているのでしょうか。

答えは、ほぼ自社株買いです。エアビーは上場以来、配当を一度も出していません。その代わりに、稼いだ現金の大半を使って自分の会社の株を買い戻しています。

仲間数人で共有している1棟の物件を思い浮かべてみてください。家賃から返済と修繕を払って残ったお金を、毎年みんなで分ける。これが配当です。残ったお金で、抜けたい人の持分を買い取り、残った人の取り分を厚くする。こちらが自社株買いです。どちらが正しいという話ではありません。ただ、選んだ道によって、株主が気をつけて見るべき数字が変わってきます。今日はその数字を、一つずつ追いかけていきます。

稼いだ現金の大半は、「株を減らす」ほうへ流れている

年 FCF 自社株買い 株式報酬の源泉税の納付 両方の合計 株式報酬費用(参考)
2022年 34.05億ドル 15.00億ドル 6.07億ドル 21.07億ドル 9.30億ドル
2023年 38.37億ドル 22.52億ドル 12.24億ドル 34.76億ドル 11.20億ドル
2024年 44.84億ドル 34.30億ドル 6.30億ドル 40.60億ドル 14.07億ドル
2025年1〜9月 40.92億ドル 26.94億ドル 4.31億ドル 31.25億ドル 11.81億ドル

出典:10-K・10-Qのキャッシュフロー計算書(2025年1〜9月のFCFは株主向けレター)。

2024年は、FCF44.84億ドルのうち約9割(40.60億ドル)を、自社株買いと「株式報酬の源泉税の納付」に使いました。

用語メモ:「株式報酬の源泉税の納付」(net share settlement)=社員に株を渡すとき、社員が払うべき税金の分だけ株を差し引いて渡し、その税金を会社が現金で納める仕組み。株数の増加を抑える効果があり、実質的には自社株買いに近いお金の使い方です。

用語メモのとおり、源泉税の納付も実質は自社株買いの仲間なので、2つを合わせて見る意味があります。

大家さんの感覚に置きかえると、手元に残ったお金の大半を、次の物件の購入ではなく「持分の買い戻し」に充てているようなものです。規模を広げるより、今ある物件の1人あたりの取り分を厚くする。成長企業としては、かなり株主寄りのお金の使い方だと私は感じています。

株数が減れば、利益が同じでも1株の取り分は増える

自社株買いは、会社が市場から自分の株を買い戻すことです。買い戻した株は消却(消滅)されるので、残った株主1人あたりの「取り分」が増えます。

項目 自社株買いの前 自社株買いで株数が5%減ると
会社の利益 100 100
株数 100株 95株
1株あたり利益 1.00 約1.05(+5.3%)

つまり、会社の利益が増えなくても、株数が減れば1株あたりの価値は上がるわけです。

株数は5%減なのに、1株あたり利益は5.3%増。100を95で割るので、減った割合より少しだけ大きく効いてくるんです。共有物件でも、1人分の持分を買い取れば、家賃の総額は変わらなくても残った人の取り分はそれぞれ増えますよね。利益が横ばいの年でも、株主の「自分の分」は増やせる。自社株買いの魅力は、ここにあります。

アクセルとブレーキを同時に踏んでいる。だから見るべきは「差し引き」

ここで第3回の話がつながります。エアビーは毎年、社員に株式報酬として株を渡しています(直近12か月の株式報酬費用は15.49億ドル)。

つまり、自社株買いで株数を減らす一方で、株式報酬で株数が増えていく。アクセルとブレーキを同時に踏んでいるような状態なのです。

共有物件にたとえるなら、抜けたい人の持分を買い取りながら、管理を手伝ってくれた人にはお礼として新しく持分を渡している、という格好です。買い取った分より渡した分が多ければ、自分の取り分はかえって薄まってしまいます。大事なのは「差し引きで株数が減っているか」です。

時点 発行済株式数(クラスA+B) 完全希薄化後株式数
2022年3月末 6.36億株 7.06億株
2023年12月末 6.38億株 6.76億株
2024年12月末 6.23億株 6.58億株
2025年9月末 6.08億株 6.46億株
2022年3月末→2025年9月末 -4.4% -8.5%

完全希薄化後株式数=発行済株式に、まだ渡していない株式報酬(将来渡す予定の株)などを加えた会社定義の株数。出典:各四半期の株主向けレター。

答えは、減っているです。完全希薄化後で見ると、3年半で約8.5%減りました。自社株買いが株式報酬による希薄化を上回っている、ということです。

正直に言うと、第3回で株式報酬の大きさを見たときは、差し引きで株が増えていてもおかしくないと身構えていたので、この表には少しほっとしました。しかも、発行済株式数では-4.4%なのに、完全希薄化後では-8.5%と、減り方がさらに大きい。まだ渡していない株まで含めた「将来の頭数」で数えても減っているのは、株主にとって心強い材料です。

1株あたりFCFは株数減少でさらに伸びる

指標 1年前(2023年10月〜2024年9月) 直近12か月(2024年10月〜2025年9月) 伸び
FCF 40.72億ドル 45.50億ドル +11.7%
完全希薄化後株式数(期末) 6.65億株 6.46億株 -2.9%
1株あたりFCF 約6.12ドル 約7.04ドル +15.0%

当ブログ計算。完全希薄化後株式数は各期末(2024年9月末・2025年9月末)の会社公表値。

会社全体のFCFは+11.7%ですが、株数が減った分、1株あたりのFCFは+15.0%と、より大きく伸びています。これが自社株買いの効果です。

物件全体の手取りが1割ちょっと増えただけでも、持分が増えていれば、自分の取り分はそれ以上に増えます。ニュースで目にするのは会社全体の数字ですが、株主として本当に気にしたいのは、この「1株あたり」のほうです。

自社株買いは「量」より「値段」。2023〜2024年は割高な買い物に

自社株買いが株主のためになるのは、株を「お値打ち価格」で買い戻したときです。高すぎる値段で買えば、むしろ株主の価値を減らしてしまいます。エアビーの過去の買い付け単価を計算してみました。

年 自社株買いの金額 買い戻した株数 平均買付単価(概算)
2022年 15.00億ドル 1,380万株 約109ドル
2023年 22.52億ドル 1,790万株 約126ドル
2024年 34.30億ドル 2,450万株 約140ドル
参考:2025年11月28日の株価 ― ― 116.99ドル

金額÷株数で当ブログが計算した概算値。

2025年11月28日の株価(116.99ドル)は、2024年に買い戻した株の平均単価(約140ドル)より約16%低い水準です。結果だけ見れば、2023〜2024年の自社株買いは「割高な買い物」になってしまっているともいえます。2022年の平均単価(約109ドル)は今の株価を下回っているので、この年の分は、今のところお値打ちだった計算です。

もちろん、長い目で見て株価が上がれば評価は変わりますが、自社株買いの「量」だけでなく「値段」も見るのがプロの視点です。

大家さんなら、すぐにぴんとくるところだと思います。共有者の持分を、あとから見れば高すぎる値段で買い取っていたなら、残った人の財布から余分にお金が出ていったのと同じこと。株数をきちんと減らしてきた規律には敬意を払いつつ、この値段の点だけは、少し残念に感じました。

配当はなくても、時価総額の約5%を毎年買い戻している

項目 内容
自社株買いの残り枠(2025年9月末) 約66億ドル
直近12か月の自社株買い(株主向けレター) 35.02億ドル(FCFの約77%)
時価総額に対する直近12か月の自社株買い 約4.9%

時価総額は2025年11月28日の株価116.99ドル×クラスA・B・H株の合計(約6.155億株)=約720億ドルで計算。

残り枠は約66億ドル。今のペースなら2年弱分です。配当はなくても、時価総額の約5%を毎年買い戻している計算になり、株主還元の規模としては決して小さくありません。

共有物件でいえば、毎年、全体の約5%分の持分を買い取っているイメージです。通帳にお金が振り込まれるわけではないので実感は薄いかもしれませんが、還元は持分という形で積み上がっています。ただし、この約5%は直近12か月の実績を今の時価総額で割った数字で、来年も同じ規模で続くと決まっているわけではありません。

日本の投資家には、配当より自社株買いのほうが「税金的に」有利?

ここは会計事務所らしいポイントです。米国株の配当には、米国で10%、日本で20.315%の税金が二重にかかります(第8回で詳しく)。一方、自社株買いで株の価値が上がっても、その場では税金はかかりません。税金がかかるのは、株を売って利益が出たときだけです。

還元の方法 税金がかかるタイミング 米国株を持つ日本の個人投資家の場合(特定口座)
配当 受け取るたびに毎回 米国10%+日本20.315%(確定申告で外国税額控除を使えば一部調整可)
自社株買い 株を売ったときだけ 日本20.315%(米国では原則かからない)

税金の支払いを先送りできるという意味で、自社株買い中心の還元は、長く持つ投資家にとって効率的といえます(なお会社側には、米国で自社株買いに対する1%の物品税がかかります)。

受け取るたびに税金で目減りしていくお金と、売るまで会社の中で働き続けるお金。持つ期間が長いほど、この違いはじわじわ効いてきます。

ただ、これはあくまで「先送り」です。表のとおり、株を売って利益が出たときには日本で20.315%がかかります。税金が消えるのではなく、払うタイミングを自分で選びやすくなる、と理解しておいてください。

議決権は創業者に集中している。私たちが買えるのは「1票」の株

株式の種類 1株あたりの議決権 株数(2025年10月20日)
クラスA(一般の投資家が買える株) 1票 4.25億株
クラスB(主に創業者などが保有) 20票 1.81億株
クラスH なし 0.09億株

出典:10-Q(2025年9月期)の表紙、定款。

クラスB株は1株20票。計算すると、クラスB株が議決権全体の約9割を占めます(当ブログ計算)。私たちが買えるクラスA株は、株数では約7割を占めますが、議決権では約1割しかありません。会社の重要な方針は、実質的に創業者が決められる仕組みです。ただし定款では、上場から20年後(2040年12月ごろ)などの条件でクラスB株はクラスA株に転換されることになっています。

マンションの管理組合にたとえるなら、住戸の7割を持っているのに、総会での声は1割しかない、という状態です。少し落ち着かない気持ちになりますよね。買う側としては「経営の舵は自分たちの手にはない」と承知したうえで乗るかどうかを決める。その覚悟だけは、先に持っておきたいところです。

還元の数字は、差し引きと値段まで見てはじめて意味を持つ

株主還元を確かめるときは、まず、配当がないからといって「株主に何も返していない会社」と早合点しないことです。エアビーは、配当がない代わりに自社株買いで還元しています。

そのうえで、自社株買いと株式報酬の「差し引き」で、株数が本当に減っているかを確認してください。エアビーの場合、完全希薄化後で3年半に約8.5%減っていました。次に、その効果が1株あたりFCFの伸び(直近12か月で+15.0%)として表れているか。ここまでが「量」の確認です。

そして見落としがちなのが「値段」です。平均買付単価を計算して、今の株価と並べてみてください。最後に、議決権が創業者に集中していること(クラスBが約9割)を理解したうえで、株主になるかどうかを決めましょう。

配当ゼロでも還元は厚い。ただし「いくらで買い戻したか」までが株主還元

エアビーは、配当ゼロ・自社株買い中心の還元スタイルです。株式報酬による希薄化を上回るペースで株を買い戻していて、1株あたりの価値は着実に増えています。一方で、過去の自社株買いの単価は今の株価より高く、「お値打ちに買えていたか」という点では課題も残ります。

大家業を長く続けていると、物件を「買ったこと」より「いくらで買ったか」のほうが、あとあとまで収支に効いてくると感じます。自社株買いも同じです。量の多さに拍手を送りつつ、値段にも目を配っていきたいですね。

次回はいよいよ、この連載のクライマックス。今の株価116.99ドルは割高なのか、割安なのかを、同業との比較と「逆算」の手法で検証します!

 

※本記事は情報提供を目的としたもので、特定の銘柄の売買を勧めるものではありません。投資の判断はご自身の責任で行ってください。 ※数値は会社開示資料をもとに当ブログが集計・計算したもので、四捨五入の関係で合計が合わない場合があります。税金の取扱いは2025年12月時点の一般的な内容です。

出典・参考

  • Airbnb Form 10-Q(2025年9月期)https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1559720/000155972025000030/abnb-20250930.htm
  • Airbnb 2025年第3四半期 株主向けレター https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1559720/000119312525269432/d40503dex991.htm
  • Airbnb 2024年第4四半期 株主向けレター https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1559720/000119312525026054/d915198dex991.htm
  • Airbnb Form 10-K(2024年12月期)XBRLデータ https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1559720/000155972025000010/Financial_Report.xlsx
  • Airbnb 定款(Restated Certificate of Incorporation)https://s26.q4cdn.com/656283129/files/doc_governance/2025/Apr/07/Airbnb-Certificate-of-Incorporation-Restated-2024-707fd9.pdf