東雲結子:先生、歳末大売り出しのチラシみたいに、エアビー株にも「今だけお買い得!」って書いてあればいいのに。
税理士石井:ははは。株の値札には、残念ながら「お買い得」のシールは貼られていないんです。
東雲結子:でも私、自分で計算しました。FCF利回り6.3%! 米国10年国債の4.02%より高いので、これはもう買いです!
税理士石井:うーん、その6.3%、社員さんへの株式報酬をコストに入れ忘れていませんか? 差し引くと約4.2%で、ほぼ国債並みなんです。
東雲結子:えっ……。チラシの表面利回りに飛びついて、管理費と修繕費を見落とした人みたいです、私。
税理士石井:まさにそれです。大家さんなら、物件は表面利回りではなく、経費を引いた実質利回りで比べますよね。
東雲結子:たしかに……。じゃあ国債並みなら、わざわざ株を買う意味はないってことですか?
税理士石井:そこが面白いところで、国債と違って会社は成長できます。だから今日は逆に、「この値段で買うなら、手取りが毎年どれくらい増える前提なのか」を逆算してみるんです。
東雲結子:値札の裏に、こっそり書かれた前提を読むんですね!
税理士石井:ええ。同業との比較、国債との比較、そして逆DCF。3つの物差しで、116.99ドルという値札の中身を確かめていきましょう。
連載もいよいよクライマックス。第6回はバリュエーション(株価の評価)です。どんなに良い会社でも、高すぎる値段で買えば投資はうまくいきません。逆に、少し課題のある会社でも、安く買えれば報われることがあります。
これは、物件選びとまったく同じですよね。立地も建物も申し分ない物件でも、相場より高く買ってしまえば、家賃をもらい続けてもなかなか取り返せません。反対に、少し古くて手のかかる物件でも、値段次第では立派な投資になる。「良い会社かどうか」と「良い投資かどうか」は、別の質問なんです。
今回は、2025年11月28日の終値116.99ドルを「値札」として、3つの方法で検証します。1つ目は、同業他社と「倍率」を比べること。2つ目は、株の「利回り」を国債と比べること。そして3つ目が、株価から逆算して、どれくらいの成長が織り込まれているかを見る方法(逆DCF)です。
まずは、値札を読むための基本の数字をそろえる
| 項目 | 数字 | 計算方法 |
| 株価(2025/11/28) | 116.99ドル | ― |
| 株式数(クラスA・B・H) | 約6.155億株 | 10-Qの表紙(2025年10月20日) |
| 時価総額 | 約720億ドル | 株価×株式数 |
| ネットキャッシュ | 約96.9億ドル | 現金+短期投資−転換社債(2025年9月末) |
| EV(企業価値) | 約623億ドル | 時価総額−ネットキャッシュ |
| 純利益(直近12か月) | 26.31億ドル | 2024年10月〜2025年9月の合計 |
| FCF(直近12か月) | 45.50億ドル | 同上 |
| 株式報酬控除後のFCF(直近12か月) | 30.01億ドル | FCF−株式報酬15.49億ドル |
用語メモ:EV=Enterprise Value(企業価値。会社を丸ごと買うときの値段のイメージで、時価総額から手元の正味の現金を差し引いたもの)。
EVは、不動産に置きかえるとわかりやすくなります。売りに出ている1棟アパートに、管理用の預金口座がそっくり付いてくるとしたら、実質の買値は物件価格からその預金を引いた額ですよね。エアビーの場合、時価総額約720億ドルから、ネットキャッシュ約96.9億ドルを引いた約623億ドルが、その「実質の買値」です。このあと出てくるEV/FCFや逆DCFでは、この数字を使います。
同業2社と並べると、エアビーは「稼ぐ力のわりに安い」
比べる相手は、オンライン旅行の大手2社。ホテル予約の「ブッキング・ドットコム」などを運営するブッキング・ホールディングス(ティッカー:BKNG)と、「エクスペディア」や民泊の「Vrbo(バーボ)」を運営するエクスペディア・グループ(EXPE)です。
| 指標(2025/11/28、直近12か月ベース) | エアビー | ブッキング | エクスペディア |
| 時価総額 | 約720億ドル | 約1,584億ドル | 約313億ドル |
| PER(時価総額÷純利益) | 27.4倍 | 31.4倍 | 22.6倍 |
| EV/FCF(企業価値÷FCF) | 13.7倍 | 19.1倍 | 10.5倍 |
| FCF利回り(FCF÷時価総額) | 6.3% | 5.2% | 9.6% |
当ブログ計算。PER=Price Earnings Ratio(株価収益率)。エクスペディアの純利益は親会社株主に帰属する額。株価は各社とも2025年11月28日の終値(ブッキングは4,914.69ドル)、株数は各社10-Qの表紙の値(2025年10月20日または24日時点)。各社とも株式報酬は差し引いていません。

| 指標 | エアビー | ブッキング | エクスペディア |
| 売上の伸び(2025年Q3、前年同期比) | +9.7% | +12.7% | +8.7% |
| 営業利益率(直近12か月) | 22.6% | 32.7% | 11.6% |
| FCFマージン(直近12か月) | 38.1% | 31.9% | 20.9% |
2つの表を並べると、3社の位置づけが見えてきます。ブッキングは、伸び率も利益率も高い「王者」。その分、値札(PER31倍、EV/FCF19倍)も一番高くなっています。エクスペディアは利益率が低めで、値札(EV/FCF10倍台)も安め。そしてエアビーは、FCFマージンが3社で最高なのに、EV/FCFは13.7倍とブッキングよりかなり安いのです。
つまり市場は、エアビーに対して「稼ぐ力は高いけれど、成長の先行きには慎重」という評価をしている、と読めます。
不動産でいえば、利回りは高いのに、なぜか値段が抑えられている物件です。そういう物件の値段には、「将来の家賃が伸びにくいのでは」という心配が乗っていることがよくあります。お買い得なのか、それとも理由のある安さなのか。ここから先の2つの方法で、その答えに少しずつ近づいていきます。
注意:エアビーのFCFは株式報酬の影響が大きい(第3回・第4回)ので、株式報酬を差し引くとEV/FCFは約20.8倍になります。同業他社も株式報酬はありますが、今回は条件をそろえて「差し引かない」数字で比べています。
13.7倍が、株式報酬を差し引くだけで約20.8倍。表面と実質で、これだけ景色が変わります。株式報酬の多い会社を見るときは、この2つの数字をセットで覚えておくと安心です。
株式報酬を引くと、株の利回りは「ほぼ国債並み」

| 利回り(2025/11/28時点) | 数字 |
| 益回り(純利益÷時価総額) | 3.65% |
| FCF利回り | 6.32% |
| 株式報酬控除後のFCF利回り | 4.17% |
| 米国10年国債利回り | 4.02% |
米国10年国債は米財務省の公表値(2025年11月28日)。
表の益回り3.65%は、先ほどのPER27.4倍をひっくり返した数字です。PERは、不動産の利回りの逆数のようなもの。物件価格が年間の利益(家賃から経費や税金を引いた残り)の何年分か、という見方と同じだと考えると、ぐっと身近になります。
株式報酬を差し引いた「実質FCF利回り」は約4.2%で、ほぼ国債並みです。国債は利回りが保証されていますが、株はそうではありません。その代わり、株には「会社が成長すれば利回りが増えていく」可能性があります。
実質利回りが国債とほとんど変わらない物件を、わざわざ買う人がいるとしたら、その人はきっと「この先、家賃が上がっていく」と見込んでいるはずです。株も同じで、今の株価は「今後もある程度の成長が続く」ことを前提にした値段だといえます。では、どれくらいの成長でしょうか?
逆DCFで、値札に織り込まれた成長率を逆算する
DCF(ディスカウント・キャッシュフロー法)は、会社が将来生み出す現金を今の価値に引き直して、理論的な株価を計算する方法です。逆DCFは、その逆。今の株価を正しいと仮定して、どれくらいの成長が前提になっているかを逆算します。
用語メモ:DCF=Discounted Cash Flow。割引率=投資家が求めるリターン(年率)。リスクが高い株ほど高い割引率を使います。
大家さんが売り物件のチラシを見て、「この値段で買って目標の利回りを確保するには、家賃がどれだけ上がり続ける必要があるか」と逆算するのと同じ発想です。割引率は、その「目標の利回り」にあたるもの。リスクの高い物件ほど高い利回りを求めるのと同じで、リスクの高い株ほど割引率を高く置きます。
今回の前提は次のとおりです。
| 前提 | 内容 |
| 起点のFCF | 直近12か月のFCF 45.50億ドル、または株式報酬控除後 30.01億ドル |
| 予測期間 | 10年間(毎年同じ率で成長すると仮定) |
| 11年目以降 | 年3%で永久に成長 |
| 割引率 | 8%・9%・10%の3パターン |
| 比べる値段 | EV約623億ドル |

| 割引率 | FCFそのまま | FCF−株式報酬(保守的) |
| 8% | -2.2% | +3.1% |
| 9% | +0.0% | +5.5% |
| 10% | +2.0% | +7.7% |
当ブログによる簡易計算。数字は「今後10年間の年平均FCF成長率」。
結果はなかなか興味深いものです。株式報酬を気にしない見方(FCFそのまま)なら、今の株価は「ほぼ成長ゼロ」しか織り込んでいません。この見方だと、かなり割安に見えます。
ところが、株式報酬を本当のコストとみなす保守的な見方に立つと、割引率9%で「年5.5%成長」が織り込まれています。直近12か月の売上成長率(+10.2%)よりは低い水準です。
株式報酬をどう扱うかで、答えが「成長ゼロでも見合う」から「年5.5%は伸びてほしい」まで変わってしまう。第3回・第4回で株式報酬の影響を何度も確かめてきたのは、まさにこの場面のためでもありました。
つまり、会社が今のペース(年10%前後)で成長を続けられるなら、今の株価には上振れの余地があるかもしれない。逆に、北米の成熟や規制で成長が年5%前後まで落ちるなら、今の株価は「妥当〜やや割高」という計算になります。
前提を少し動かすだけで、理論価値は大きく動く

| 割引率\成長率 | 4% | 6% | 8% | 10% | 12% |
| 8% | 124ドル | 143ドル | 165ドル | 190ドル | 220ドル |
| 9% | 106ドル | 121ドル | 138ドル | 159ドル | 182ドル |
| 10% | 93ドル | 105ドル | 120ドル | 136ドル | 156ドル |
株式報酬控除後のFCF(30.01億ドル)を起点に、10年後以降は年3%成長、ネットキャッシュ96.9億ドルを加え、約6.155億株で割った簡易計算。現在の株価は116.99ドル。
同じ会社でも、前提の置き方ひとつで理論価値は93ドルから220ドルまで大きく変わります。DCFは「正解」を出す道具ではなく、「今の株価が何を前提にしているか」を知るための道具だと考えてください。
たとえば成長率8%の列を縦に見ると、割引率が8%・9%・10%と変わるだけで、165ドル、138ドル、120ドル。求める利回りを1ポイント動かすだけで、これだけ違ってきます。
物件の収支シミュレーションも、空室率や家賃の下落率を少し変えるだけで、結論ががらりと変わりますよね。だからこそ私は、シミュレーションの「答え」より「前提」のほうを、じっくり見るようにしています。株の理論価値も、まったく同じ付き合い方でいいと思います。
3つのシナリオで見ると、今の株価は「そこそこの鈍化」を織り込んでいる
| シナリオ | 前提のイメージ(株式報酬控除後FCFの年成長率) | 今の株価との関係(割引率9%の場合) |
| 強気 | 新事業(サービス・体験)が育ち、年10%前後の成長が続く | 理論価値 約159ドル(株価を上回る) |
| 中立 | 成長が年6〜8%に鈍化 | 理論価値 約121〜138ドル(株価をやや上回る) |
| 弱気 | 規制強化や北米の成熟で年4%程度に鈍化 | 理論価値 約106ドル(株価を下回る) |
上の感応度表(割引率9%の行)から抜き出したもの。将来の株価を予想するものではありません。
まとめると、今の株価は、成長がそこそこ鈍化することをある程度織り込んだ水準です。ここから株価が上がるか下がるかは、「成長率が年5%を大きく上回り続けられるか」にかかっています。次の決算(例年2月中旬ごろに2025年Q4の決算発表)では、北米の泊数の伸びと、新事業の手応えに注目です。
116.99ドルという株価は、弱気シナリオの約106ドルと、中立シナリオの下限の約121ドルのあいだにあります。この表を作りながら、市場は浮かれすぎてもいないし、悲観しすぎてもいない。そんな冷静さを、私は感じました。どちらのシナリオに近づいていくかは、これからの決算が少しずつ教えてくれるはずです。
値札を見るときは、倍率・利回り・逆算をセットで
値札を確かめるときは、まず、PERだけで判断しないことです。EV/FCFやFCF利回りでも確認してみてください。エアビーのように株式報酬の多い会社なら、差し引いた場合の数字(EV/FCF約20.8倍、FCF利回り約4.2%)も、あわせて見ておきたいところです。
そのうえで、同業他社(ブッキング、エクスペディア)と「伸び」「利益率」「値札」を並べて比べます。最後に、逆DCFで「今の株価が前提にしている成長率」を確かめる。その際、前提を変えると理論価値が大きく変わることも忘れずに。一つの数字だけを信じるのではなく、いくつかの角度から同じ値札を眺めることが、高値づかみを避けるいちばんの近道だと思います。
安いか高いかは、成長率についての「自分の見立て」で決まる
エアビーの値札は、同業の王者ブッキングより安く、稼ぐ力(FCFマージン)は3社で最高。一方で、株式報酬を本当のコストとみなすと、今の株価は「年5%程度の成長」を前提にした水準で、決して「激安」ではありません。
割安と見るか、妥当と見るかは、エアビーが北米以外の地域と新事業で成長を伸ばせるかについての、皆さん自身の見立て次第です。
物件を買うときも、最後に背中を押すのは、誰かの査定書ではなく「この街はこれから伸びる」という自分なりの見立てですよね。数字は、その見立てが独りよがりになっていないかを点検するための道具です。
次回は、その見立てを左右する「リスク」を整理します!
※本記事は情報提供を目的としたもので、特定の銘柄の売買を勧めるものではありません。投資の判断はご自身の責任で行ってください。 ※理論価値や逆算した成長率は、当ブログが一定の前提で計算した参考値であり、将来の株価や業績を示すものではありません。
出典・参考
- Airbnb 2025年第3四半期 株主向けレター https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1559720/000119312525269432/d40503dex991.htm
- Airbnb Form 10-Q(2025年9月期)https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1559720/000155972025000030/abnb-20250930.htm
- Booking Holdings 2025年第3四半期 決算発表 https://s201.q4cdn.com/865305287/files/doc_financials/2025/q3/Q3-25-BKNG-Earnings-Release-Final.pdf
- Booking Holdings Form 10-Q(2025年9月期)https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1075531/000107553125000051/bkng-20250930.htm
- Expedia Group 2025年第3四半期 決算発表 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1324424/000132442425000049/earningsrelease-q32025.htm
- Expedia Group Form 10-Q(2025年9月期)https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1324424/000132442425000051/expe-20250930.htm
- 米財務省 Daily Treasury Par Yield Curve Rates https://home.treasury.gov/resource-center/data-chart-center/interest-rates/daily-treasury-rates.csv/2025/all?type=daily_treasury_yield_curve
- 株価:Yahoo Finance https://au.finance.yahoo.com/quote/ABNB/history/ 、digrin https://www.digrin.com/stocks/detail/BKNG/price 、Yahoo Finance https://sg.finance.yahoo.com/quote/EXPE/history/































