東雲結子:先生、事務所の大掃除、終わりました! エアビーも6回かけて強みをたっぷり見てきたので、こちらもピカピカですね。

税理士石井:お疲れさまでした。ただ、大掃除というのは、家具をどかしたところからホコリが出てくるものなんです。

東雲結子:えっ、エアビーの家具の裏に、何があるんですか?

税理士石井:たとえばニューヨーク市です。規制前の2023年初めに、1つのサイトだけで3.8万件超あった掲載に対して、登録された短期賃貸は約3,000件にとどまっています。

東雲結子:3.8万件に対して約3,000件……。ホコリどころか、部屋ごと見当たりません(汗)。

税理士石井:ふふ。それでもエアビー全体では、2023年以降も、売上は年10%前後かそれ以上のペースで伸びてきました。1つの都市の規制で、会社全体が傾くわけではないんです。

東雲結子:なんだ、じゃあ心配いりませんね! 大掃除、終了です!

税理士石井:うーん、そこが落とし穴でして。規制は「人気の都市」ほど強まる傾向があって、同じ動きが世界の大都市に広がると、じわじわ効いてきます。民泊を営む大家さんなら、条例で営業日数がさらに絞られることもある怖さを、肌で知っていますよね。

東雲結子:あっ……。一発で倒れるんじゃなくて、気づいたら効いている、押し入れの湿気みたいなリスクなんですね。

税理士石井:いいたとえですね。今日は規制、税金、成長の鈍化まで、7つのリスクを順番に点検していきます。

ここまで6回にわたって、エアビーの「強み」をたくさん見てきました。高い利益率、潤沢なキャッシュ、借金の少なさ、積極的な自社株買い。でも、プロのアナリストが最後に必ずやるのが、何がうまくいかなくなる可能性があるかを考えることです。

第7回は、エアビーに投資する前に知っておきたいリスクを整理します。

大家業でも、物件を買う前にいちばん時間をかけたいのは、良いところ探しより「この物件で何が起こり得るか」の洗い出しです。空室、修繕、金利、そして法令や条例の変更。どれか一つを見落とすだけで、利回りの計算は簡単に崩れてしまいます。しかもエアビーは、民泊という、私たちの大家業とも地続きのビジネスの会社です。今日の話は、株主としてだけでなく、ホストや大家の立場からも読んでいただけると思います。

7つのリスクは、どこに潜んでいるのか

リスク 中身 注目ポイント
1. 都市ごとの規制強化 民泊を制限・禁止する都市が増えている 主要都市の新しい規制、掲載数の変化
2. 税務係争 米国IRS(内国歳入庁)との約13億ドル+αの争いなど 租税裁判所の判断、10-Qの注記
3. 成長の鈍化 売上の約45%を占める北米の伸びが+4%程度 北米の泊数の伸び
4. 景気後退 旅行は景気の影響を受けやすい 予約のリードタイム、ADR
5. 競争 ブッキング、Vrbo、ホテルとの競争 手数料率の推移
6. 集客の変化 検索・生成AIで旅行の探し方が変わる可能性 アプリ経由の比率、広告費
7. 為替・ガバナンス 売上の半分以上が北米以外/議決権が創業者に集中 ドル相場、経営方針

マップ上の位置や「注目ポイント」は当ブログの主観による整理です。

この7つのうち、民泊に関わる大家さんにとっていちばん身近なのは、やはり都市ごとの規制強化だと思います。ホストの側に立って読むと、どれも胃の痛くなる話です。順番に見ていきましょう。

いちばん大きいのは、都市ごとの規制強化

民泊は、観光客の増加や家賃の上昇に悩む都市から「住宅を観光客に奪っている」と批判されることがあり、各地で規制が強まっています。

主な出来事を、地域ごとに並べてみます。

地域 主な出来事
日本 2018年6月、住宅宿泊事業法(民泊新法)施行。届出制で、年間の営業日数は180日が上限(条例でさらに制限可)。施行前後に国内の掲載数が約8割減ったと報じられた
米国ニューヨーク市 2023年9月、Local Law 18(地方法18号)の執行開始。ホストの登録制、ホストが住んでいる住戸のみ・ゲストは同時に2人まで。住戸丸ごとの30日未満の貸し出しは事実上できなくなった
スペイン・バルセロナ 2024年6月、市長が観光用住宅のライセンス約1万件を2028年11月までにすべて廃止する方針を発表。2025年3月、憲法裁判所が州の政令を合憲と判断
スペイン全体 2025年5月、消費省がライセンス番号の表示がないなどとして6.5万件超の掲載削除を命じたと報じられた。エアビーは不服申立ての方針

出典:観光庁、Airbnb 10-K(2024年12月期)、ニューヨーク市刑事司法局(2025年9月)、The Local、Catalan News、Skift、Hotel Online。「報じられた」は報道ベースの数字。

日本の民泊新法は、届出制で、年間の営業日数は180日が上限(条例でさらに制限可)です。ホストの立場でいえば、1年の半分ほどしか営業できない前提で収支を組み立てることになります。日本で民泊を考えたことのある大家さんなら、この上限がどれほど計算を左右するか、よくご存じだと思います。

ニューヨーク市の報告によると、規制前の2023年初めに1つのサイトだけで3.8万件超あった掲載に対し、登録された短期賃貸は約3,000件にとどまっています。エアビーは10-Kで「ニューヨーク市は短期賃貸を事実上禁止した」と書いています。

ホストが住んでいる住戸のみ、ゲストは同時に2人まで。大家の目で読むと、住戸丸ごとを30日未満で貸すという、民泊のいちばんわかりやすい形が、事実上できなくなったということです。表の言葉は淡々としていますが、その向こうにいるホスト一人ひとりの収支を思うと、同じ大家として気持ちが重くなります。

一方で、エアビー全体の業績を見ると、2023年以降も、売上は年10%前後かそれ以上のペースで伸びてきました。1つの都市の規制で会社全体が傾くわけではないのも事実です。ただし、規制は「人気の都市」ほど強まる傾向があり、同じ動きが世界の大都市に広がると、じわじわ効いてくるタイプのリスクです。

ニューヨーク市の規制が売上にどれだけ影響したか、会社は具体的な数字を開示していません。

大家業でも、1つの物件で条例が変わっただけなら、ほかの物件の家賃で支えられることがあります。けれど、持っている物件の多くが同じ種類の規制の対象になったら、話は別です。エアビーにとっての世界の大都市は、ちょうどそういう「主力の物件群」にあたるのだと私は見ています。

税務係争は、会計事務所として一番気になるところ

エアビーは、世界中の税務当局と複数の争いを抱えています。

相手 内容 金額
米国IRS(内国歳入庁) 2013年に海外子会社へ移した知的財産の評価(移転価格)をめぐる争い。2024年5月に更正通知、同年7月に米国租税裁判所へ提訴 追加の税金13億ドル+罰金・利息(会社の引当額を10億ドル超上回る)。報道では罰金5.73億ドルを含め約19億ドル
イタリア歳入庁 ホストの所得に対する源泉徴収義務をめぐる争い 2017〜2021年分を5.76億ユーロ、2022年分を1.39億ユーロ、2023年分を1.79億ユーロで和解(いずれも責任は認めず)
スペイン消費省 短期賃貸の掲載ルール違反 約1.1億ユーロの罰金案(2025年7月通知。2025年6月末時点の10-Qの記載。会社は争っている)
宿泊税・取引税・ホストの源泉税など 各国・各都市の税金の取扱い 計上額を超える損失の可能性:合計 約4.2億〜4.6億ドル(2025年6月末時点の会社の見積りを当ブログで合計)

出典:Airbnb 10-K(2024年12月期)、10-Q(2025年6月期)、8-K(2023年12月13日)、Bloomberg Tax(2024年8月2日)。2025年9月末時点の金額は、2025年9月期の10-Qの注記もあわせてご確認ください。

用語メモ:移転価格=グループ会社の間で取引するときの値段。税率の低い国の子会社に利益を移しすぎていないかが、税務調査でよく争点になります。

移転価格というと難しく聞こえますが、構図そのものはシンプルです。グループの中で「いくらで取引したことにするか」によって、どの国に利益が残るかが変わる。家族で経営する管理会社と物件のオーナーのあいだで、管理料をいくらに決めるかによって、どちらに利益が残るかが変わるのと、形は似ています。

もっとも金額が大きいのはIRSとの争いです。仮に会社が全面的に負けた場合、追加の税金と罰金だけで約19億ドル(報道ベース)、さらに利息が加わる可能性があります。会社の引当額を上回る部分(10億ドル超)は、新たな費用として利益を押し下げることになります。ネットキャッシュ約97億ドルの会社にとって「致命傷」ではありませんが、1年分のFCF(約45億ドル)の4割強に当たる、決して小さくない金額です。

税務の仕事をしていると、争いごとは結論が出るまで落ち着かないものだと、つくづく感じます。投資家としては、表の注目ポイントに挙げたとおり、租税裁判所の判断と10-Qの注記で、金額や進み具合が変わっていないかを確かめ続けたいところです。

表を眺めると、ホストの所得に対する源泉徴収義務や、宿泊税・取引税の取扱いといった、ホストの目線でも気になる項目が並んでいるのも目を引きます。民泊は、税金の面でも、国や都市ごとのルールに左右されやすい商売だということが、よくわかります。

北米の成長鈍化は、株価の前提に直接かかわる

第2回で見たとおり、2024年の売上の約45%を占めた北米の売上は、2025年1〜9月で+4.0%にとどまっています。会社の説明でも、北米の泊数の伸びは「1桁台前半〜半ば」です。

第6回の逆DCFで見たとおり、今の株価は「株式報酬控除後のFCFが年5%程度成長する」ことを前提にした水準でした。成長率がこれを大きく下回るようになると、株価には下押し圧力がかかりやすくなります。

大家業でいえば、いちばん家賃収入の大きい物件の家賃が、あまり上がらなくなってきた状態です。満室で安定しているのはありがたいことですが、物件の値段が「家賃はこれからも上がる」という前提でついているなら、話は変わってきます。規制ほど目立ちませんが、株価の前提にそのまま響くリスクです。

景気後退が来れば、旅行は真っ先に削られやすい

旅行は、景気が悪くなると真っ先に削られやすい支出の一つです。コロナ禍の2020年には、売上が約3割減りました(感染症はさらに特殊なケースですが)。景気後退が来れば、泊数・単価ともに下がる可能性があります。

家計の中で、住まいの家賃はそう簡単には削れませんが、旅行は予定を一つ取りやめるだけで削れます。普通の賃貸と民泊の性格の違いは、まさにここにあると私は思います。表の注目ポイントに挙げた予約のリードタイムやADR(1泊あたり単価)は、その変化を確かめるための数字です。

競争の影響は、手数料率に表れる

競合 特徴
ブッキング・ホールディングス ホテル予約の最大手。民泊などの「オルタナティブ(代替)宿泊」にも力を入れている
エクスペディア・グループ(Vrbo) 別荘・一棟貸しの予約サイト「Vrbo」を運営
ホテル各社 別荘・アパートメント型の宿泊商品も提供(例:マリオットの「Homes & Villas」)

エアビーの手数料率(テイクレート)は13.5%前後でほぼ横ばいです。競争が激しくなって手数料を下げざるを得なくなれば、利益率に影響します。手数料率の推移は要チェックです。

民泊のホストにとって、掲載先のサイトは、賃貸でいう客付けの仲介会社のようなものだと思います。手数料と集客力をてんびんにかけて選ぶ。だからこそ、手数料率が横ばいのまま保たれているかどうかは、エアビーの競争力を測るいちばん素直な物差しになります。

集客の入り口が、生成AIで変わるかもしれない

エアビーの強みの一つは、広告に頼らずアプリや直接訪問でお客さんを集められることです(第3回)。ただ、生成AIを使った旅行の検索・予約サービスが広がると、「お客さんがどこから来るか」が変わる可能性があります。現時点で業績への影響は見えていませんが、長期的には注目しておきたいテーマです(当ブログの見方)。

前向きな面:エアビー自身もAIを使ったカスタマーサービスを導入していて、米国では人の担当者が必要な問い合わせが約15%減ったと説明しています(2025年第3四半期の株主向けレター)。

大家業でも、入居者がどこで部屋を探すかが変われば、頼る相手も変わります。入り口を握る相手が変われば、手数料や広告費の力関係も変わり得る。今すぐの心配ではないからこそ、アプリ経由の比率や広告費の推移を、静かに見守っておきたいところです。

為替と議決権の構造も、静かに効いてくる

リスク 中身
為替 2024年の売上の約55%は北米以外(物件の所在地ベース)。ドル高になると、海外の売上がドル換算で目減りする
ガバナンス クラスB株(1株20票)が議決権の約9割(当ブログ計算)。一般株主の声は経営に届きにくい

為替は、海外の物件から現地の通貨で家賃を受け取っている大家さんを想像するとわかりやすいと思います。現地での家賃が変わらなくても、自分の通貨に直したときの手取りは、為替で上下しますよね。エアビーの場合は、それがドル換算で起きる、ということです。

ガバナンスのほうは、すぐに数字に表れるリスクではありません。ただ、経営の方向が一般株主の期待とずれたときに、声を届ける手段が限られる。そのことを承知のうえで株主になるかどうか、だと思います。

次の決算では、この5つの数字を確かめたい

2025年Q4(10〜12月)の決算は、例年どおりなら2026年2月中旬ごろに発表される見込みです。

チェック項目 会社の見通し・目安
売上高 26.6億〜27.2億ドル(前年同期比+7〜10%)
泊数の伸び 全体で1桁台半ば(当ブログは特に北米に注目)
2025年通期の調整後EBITDAマージン 約35%
2026年の見通し 「高い利益率を保ちながら成長投資を続ける」(数値はまだ未公表)
税務・規制 IRS訴訟、スペインの罰金案などの進展

売上高と泊数の伸びは成長鈍化のリスクを、最後の行は税務と規制のリスクを、それぞれ映し出す数字です。決算の資料は分厚いですが、この5つに絞って見るだけでも、7つのリスクがどちらへ動いているかの手がかりになります。

規制と税金は「流れ」で、成長は「前提との差」で見る

リスクを点検するときは、まず、主要都市の規制(ニューヨーク、スペインなど)の流れを把握しておくことです。1つひとつのニュースより、同じ動きが広がっているかどうかに目を向けてください。

税務係争は、IRSとの争いの金額(13億ドル+罰金・利息)と、会社の体力(ネットキャッシュ約97億ドル)を並べて比べると、落ち着いて受け止められます。そのうえで、北米の成長鈍化が、株価の前提(年5%程度の成長)を下回らないかを注視する。競争の影響は、手数料率の推移で確認できます。

最後に、議決権の構造(クラスB株が約9割、主に創業者が保有)を理解したうえで、それでも投資するかどうかを判断する。この順番で見ていけば、ニュースの見出しに振り回されずにすむはずです。

一撃より「じわじわ」。だからこそ、定点観測が効く

エアビーのリスクは、一発で会社が傾くような大きなリスクというより、規制・税金・成長鈍化がじわじわ効いてくるリスクです。財務がとても健全なので、税務係争に負けても会社がつぶれるような事態は考えにくい一方、規制の広がりと北米の成熟は、株価の前提となる「成長率」に直接かかわってきます。

建物の傷みも、ある日突然ではなく、毎年少しずつ進みます。だから大家は、定期的な点検で小さな変化を拾い上げる。株も同じで、決算ごとに同じ数字を同じ目線で見続けることが、じわじわ型のリスクへのいちばんの備えだと思います。

さあ、いよいよ明日は最終回。エアビー株を買うかどうかを決める前に、日本に住む私たちが払う米国株の税金を総まとめします!

 

※本記事は情報提供を目的としたもので、特定の銘柄の売買を勧めるものではありません。投資の判断はご自身の責任で行ってください。 ※規制・係争の状況は2025年11月末時点で確認できた情報にもとづきます。その後の進展は会社の開示資料等でご確認ください。

出典・参考

  • Airbnb Form 10-K(2024年12月期)https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1559720/000155972025000010/abnb-20241231.htm
  • Airbnb Form 10-Q(2025年6月期)https://s26.q4cdn.com/656283129/files/doc_financials/2025/q2/31d36668-9548-464e-bd3d-d690c0fd6626.pdf
  • Airbnb Form 10-Q(2025年9月期)https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1559720/000155972025000030/abnb-20250930.htm
  • Airbnb 8-K(イタリアとの和解、2023年12月13日)https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1559720/000119312523293738/d599690d8k.htm
  • Airbnb 2025年第3四半期 株主向けレター https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1559720/000119312525269432/d40503dex991.htm
  • 観光庁「住宅宿泊事業法案 概要」https://www.mlit.go.jp/common/001183847.pdf
  • ニューヨーク市刑事司法局(2025年9月3日)https://criminaljustice.cityofnewyork.us/press-release/ll18-report-sheds-light-on-eliminated-illegal-rentals-in-nyc/
  • The Local(2024年6月21日)https://www.thelocal.es/20240621/breaking-barcelona-to-get-rid-of-all-tourist-rental-flats-by-2028
  • Catalan News(2025年3月14日)https://www.catalannews.com/society-science/item/barcelona-mayor-welcomes-constitutional-court-ruling-on-tourist-apartment-restrictions
  • Skift(2025年5月19日)https://skift.com/2025/05/19/spain-orders-airbnb-to-block-more-than-65000-holiday-rentals/
  • Hotel Online(2018年6月6日)https://www.hotel-online.com/news/airbnb-drops-nearly-80-percent-of-its-private-home-listings-ahead-of-new-pe
  • Bloomberg Tax(2024年8月2日)https://news.bloombergtax.com/daily-tax-report/airbnb-hit-with-2-billion-tax-and-penalty-over-transfer-pricing