東雲結子:先生、来年の年末に向けた節税、ひらめきました! ドルで5%値下がりした米国株を売れば、損だから税金はゼロ。完璧な損出しです!
税理士石井:うーん、その間、為替はどちらに動いていましたか?
東雲結子:えっ、為替ですか? 円安でした。1ドル141円から155円に……。
税理士石井:それですと、日本の税金は円で計算するので、20株の仮の例なら、ドルで-5%でも円では+12,500円の利益。約2,539円の税金がかかります。
東雲結子:ドルで泣いて、円で課税……。私の損出し、そもそも損が出ていませんでした(汗)。
税理士石井:ははは。外貨で家賃を受け取る物件を思い浮かべてみてください。現地の家賃が下がっても、円に直した手取りが増えていれば、円で暮らす私たちの成績表は黒字ですよね。
東雲結子:なるほど……。じゃあ、NISAで出た損は、特定口座の利益と相殺すればいいですね!
税理士石井:それがですね、NISA口座で出た損失は、他の口座の利益と相殺できず、翌年以降に繰り越すこともできないんです。
東雲結子:あっ……。非課税の部屋で出た損は、部屋の外にも、来年にも持ち出せないんですね。
税理士石井:そうです。最終回の今日は、こうした落とし穴を、日本に住む私たちの目線で一つずつ整理していきます。
全8回でお届けしてきたエアビーアンドビー(ティッカー:ABNB)の財務分析シリーズ、いよいよ最終回です。
ここまで読んで「よし、買ってみようかな」と思った方も、「やっぱり見送り」と思った方もいるはず。どちらにしても、会計事務所のブログとして最後にどうしてもお伝えしたいのが「税金」の話です。
米国株は、日本株と同じ感覚で売り買いすると「えっ、ドルでは損したのに税金がかかるの?」「NISAで損したのに他の利益と相殺できないの?」といった、ちょっとした落とし穴にハマりがち。今日はそこを、図と数字で整理していきます。
大家業を続けていると、表面の利回りより、税金を払ったあとに手元にいくら残るかのほうが大事だと、しみじみ感じます。株も同じで、銘柄選びがどれだけうまくいっても、税金の仕組みを知らないままだと、せっかくの利益が思わぬところで目減りしてしまいます。年の瀬のこの時期に、ご自身の口座を思い浮かべながら読んでみてください。
前提:日本に住んでいる個人(居住者)が、日本の証券会社を通じて米国株を売買する場合の、2025年12月時点の一般的な取扱いです。
売ったときの税金は「20.315%」
まずは基本中の基本。米国株を売って利益(譲渡益)が出たら、日本では上場株式等の譲渡所得として、税率20.315%の申告分離課税(ほかの所得と分けて計算する方式)で税金がかかります。
| 税金の種類 | 税率 | 利益10万円のとき |
| 所得税 | 15% | 15,000円 |
| 復興特別所得税(所得税額×2.1%) | 0.315% | 315円 |
| 住民税 | 5% | 5,000円 |
| 合計 | 20.315% | 20,315円 |
20.315%という中途半端に見える数字は、こうして分けてみると納得できます。端数の0.315%は、所得税の15%に2.1%をかけた復興特別所得税の分なんです。
一方、米国側では、日本の居住者が米国株を売った利益には原則として米国の税金はかかりません。つまり「売ったときの税金=日本の20.315%だけ」と覚えておけばOKです。
エアビーは2025年9月末時点で配当を一度も出していない「無配株」です。なので、エアビーの株主にとって一番関係があるのは、この「売ったときの税金」になります。
税率そのものはシンプルです。ところが、この20.315%を「何に」かけるのかで、米国株ならではの落とし穴が待っています。
利益は「円」で計算する。だから為替で結果が変わる
ここが米国株ならではのポイントです。日本の税金は円で計算します。つまり「ドルでいくら儲かったか」ではなく、「円でいくら払って、円でいくら受け取ったか」の差に税金がかかるんです。
20株を売買した3つのケース(数字はすべて仮の例です)を見てみましょう。
| ケース | 株価(ドル) | 為替(1ドル) | ドルでの損益 | 円での損益 | 日本の税金 |
| A | 100→120 | 146円→154円 | +20% | +77,600円 | 約15,764円 |
| B | 100→110 | 156円→140円 | +10% | -4,000円 | 0円 |
| C | 100→95 | 141円→155円 | -5% | +12,500円 | 約2,539円 |
ケースBは「ドルでは儲かったのに、円高で円では損」。ケースCは逆に「ドルでは損したのに、円安のおかげで円では利益」となり、ドルで損していても日本では税金がかかります。これ、知らないと本当にびっくりしますよね。
ケースCでは、株価は100ドルから95ドルに下がっています。それでも1ドルが141円から155円へと円安に動いたことで、売ったときに受け取る円が、買ったときに払った円を上回りました。その差の12,500円が、日本では利益として扱われます。ドルの値動きだけを見て「損したから税金はない」と思い込んでしまうのが、いちばん危ないところです。
計算の流れはこんな感じです。

為替レートはどれを使う?
円に直すときのレートを、場面ごとに整理すると次のとおりです。
| 場面 | 使うレート | 根拠・補足 |
| 原則(外貨建取引の一般ルール) | 取引日のTTM(仲値) | 所得税法57条の3、所得税基本通達57の3-2 |
| 株を買った(取得費) | 約定日のTTS(銀行が外貨を売るレート) | 租税特別措置法関係通達37の10・37の11共-6。円で外貨を買い、すぐ株を買った場合は、実際に払った円の額でもよい(所得税基本通達57の3-2(注)4) |
| 株を売った(譲渡収入) | 約定日のTTB(銀行が外貨を買うレート) | 同じ通達37の10・37の11共-6。代金を円で受け取る(円貨決済)場合も、ドルで受け取る(外貨決済)場合も同じ。レートは証券会社が公表するTTB(公表がなければ、その証券会社の主な取引銀行のTTB) |
用語メモ:TTM=Telegraphic Transfer Middle rate(仲値)、TTS=Telegraphic Transfer Selling rate(対顧客電信売相場)、TTB=Telegraphic Transfer Buying rate(対顧客電信買相場)。
TTSとTTBは名前が似ていて、混乱しやすいところです。覚え方としては、株を買うときは「私たちが銀行からドルを買う」立場をイメージするとTTS(銀行が外貨を売るレート)、株を売るときは「ドルを銀行に買ってもらう」立場をイメージするとTTB(銀行が外貨を買うレート)。あくまで覚え方ですが、表の「取得費」と「譲渡収入」に結びつけやすくなると思います。なお、売ったときのTTBは、表のとおり、代金を円で受け取る場合もドルで受け取る場合も同じです。
特定口座なら、この円換算は証券会社が自動で計算してくれます。株は「売るときはTTB、買うときはTTS」が基本ですが、実際に使うレートは証券会社ごとに違うので、各社の案内で確認しておきましょう。
注意:売却代金をドルのまま持っておき、あとで円に替えた場合の為替差益は、株の譲渡益とは別の所得(雑所得など)として扱われることがあります。ドルのまま再投資を繰り返す方は、税理士に一度相談しておくと安心です。
外貨のまま運用を続ける方ほど、ここは一人で抱え込まないでほしいところです。
どの口座で買う? NISA・特定口座・一般口座

| 口座 | 日本の税金 | 確定申告 | 向いている人 |
| NISA(成長投資枠) | 非課税 | 不要 | 長く持つつもりの人 |
| 特定口座(源泉徴収あり) | 20.315%を天引き | 原則不要 | 手間をかけたくない人 |
| 特定口座(源泉なし) | 20.315%(自分で申告) | 原則必要 | 自分で申告する人 |
| 一般口座 | 20.315%(自分で計算・申告) | 原則必要 | ― |
2024年からの新しいNISAは、成長投資枠が年240万円、生涯の非課税保有限度額は1,800万円(うち成長投資枠1,200万円)、保有期間は無期限。エアビーのような米国の個別株も、取り扱いのある証券会社なら成長投資枠で買えます。
物件を個人で持つか法人で持つかを最初に考えるように、株も「どの器で持つか」を、買う前に考えておきたいところです。表の「向いている人」を目安にすると、長く持つつもりならNISA、手間をかけたくないなら特定口座(源泉徴収あり)。ただ、NISAには、知っておきたい弱点がひとつあります。
NISAの損失は「なかったこと」になる
NISAはとってもお得な制度ですが、弱点がひとつあります。NISA口座で出た損失は、他の口座の利益と相殺(損益通算)できず、翌年以降に繰り越すこともできません。
同じ年に、特定口座で30万円の利益、NISAで30万円の損失が出たとしましょう。気持ちの上では「差し引きゼロ」ですが、税金は特定口座の30万円×20.315%=60,945円がしっかりかかります。
数字にすると、なかなか切ない結果です。非課税の口座は、利益に日本の税金がかからない代わりに、損も税金の計算の上では「なかったこと」になる。表と裏がセットになった制度だと考えておくと、腹に落ちやすいと思います。
第7回で見たように、エアビーは規制や景気で株価が大きく動くこともある銘柄です。値動きの大きい銘柄をNISAに入れるときは、この弱点も頭に入れておきましょう。
損したら「確定申告」で最大3年繰り越せる
特定口座(源泉徴収あり)は確定申告が要らないのが魅力ですが、損失が出た年は、あえて確定申告するとトクすることがあります。上場株式等の譲渡損失は、確定申告をすれば翌年以後3年間繰り越して、将来の利益と相殺できるからです。

| 2025年 | 2026年 | 2027年 | 税金の合計 | |
| 損益(仮の例) | -50万円 | +20万円 | +40万円 | ― |
| 確定申告しない | 0円 | 40,630円 | 81,260円 | 121,890円 |
| 確定申告で繰越 | 0円 | 0円 | 20,315円 | 20,315円 |
表の例では、2025年の50万円の損失を申告して繰り越しておくと、2026年の20万円の利益と相殺されて、この年の税金はゼロ。残った30万円の損失を2027年の40万円の利益と相殺し、税金がかかるのは差し引き10万円分の20,315円だけになります。
差はなんと101,575円(=50万円×20.315%)。ただし、繰越を続けるには損失が出た年から毎年、確定申告を続ける必要があります。
申告するかどうかで、これだけ違う。損失が出た年は「申告するかどうか」を一度検討してほしい、と私がお伝えしたい理由です。せっかくの繰越を途中で手放さないよう、毎年の段取りに組み込んでおきたいですね。
複数の証券会社を使っている場合、A社の利益とB社の損失を相殺するのも確定申告です。2025年分の確定申告期間は、2026年2月16日(月)から3月16日(月)までです。
年末の「損出し」(含み損の株を売って、その年の利益と相殺すること)を考える場合、その年の取引に入るかどうかは、原則として受渡日で決まります。米国株は現地の約定から受渡しまで日数がかかるので、「2025年分に入る最終売買日」は証券会社の案内で必ず確認してください。
この記事が出る12月28日の時点では、米国株の売却を2025年分の損出しに間に合わせる期限は、多くの証券会社ですでに過ぎていると考えられます。来年以降に備えて、年末が近づいたら早めに、お使いの証券会社の案内を確かめてください。
配当をもらうときは「二重課税」に注意(エアビーは無配)
エアビーは配当を出していませんが、他の米国株も検討する方のために、配当の税金も押さえておきましょう。米国株の配当は、米国で10%(日米租税条約の税率)が源泉徴収され、残りに日本で20.315%の税金がかかる二段階方式です。

| 口座・銘柄 | 米国の税金 | 日本の税金 | 手取り |
| 米国株・特定口座 | 1,000円 | 1,828円 | 7,172円(71.7%) |
| 米国株・NISA | 1,000円 | 0円 | 9,000円(90.0%) |
| 日本株・特定口座(参考) | ― | 2,031円 | 7,969円(79.7%) |
米国株・特定口座の行は、1万円の配当から米国で1,000円が引かれ、残りの9,000円に日本で20.315%の1,828円がかかって、手取りが7,172円という計算です。NISAでも手取りが90.0%にとどまるのは、米国の10%が残るからなんです。
米国で引かれた10%は、確定申告で「外国税額控除」を使うと一部(または全部)を取り戻せる場合があります(所得や税額によって限度があります)。一方、NISA口座では外国税額控除は使えず、米国の10%は取られっぱなしです。また、外国の会社からの配当は、日本株の配当で使える「配当控除」の対象外です。
「NISAなら税金はゼロ」と思っていると、ここで少し肩透かしを食らいます。配当を目的に米国株を選ぶ方は、表の手取りの割合を一度じっくり眺めてみてください。
意外と知らない「米国の遺産税」
最後は少し先の話ですが、大事なことなので。米国株は「米国にある財産」として、亡くなったときに米国の遺産税(Estate Tax)の対象になり得ます。日本の証券会社で持っていても同じです。
| ポイント | 内容 |
| 対象 | 米国株など、米国にある財産(米国所在資産) |
| 申告が必要になる目安 | 米国所在資産の時価が6万ドル超(1ドル150円なら900万円) |
| 申告書 | Form 706-NA(米国の非居住外国人用の遺産税申告書) |
| 期限 | 原則、亡くなった日から9か月以内 |
| 日米相続税条約 | 米国市民並みの控除(2025年は1,399万ドル)を、全世界の遺産に占める米国資産の割合で按分して使える |
| 日本側 | 日本の相続税もかかる。米国で払った税金は日本の外国税額控除の対象になり得る |
条約の按分控除によって、実際の米国の税額がゼロになるケースも多いのですが、それでも申告や名義変更の手続きは必要で、残されたご家族の負担はかなり大きいのが実情です。米国株の保有額が大きくなってきたら、早めに専門家に相談しておくのがおすすめです。
不動産の相続については、早くから準備を考えている大家さんも多いと思います。ただ、その財産の一覧に、米国株がきちんと載っているでしょうか。申告が必要になる目安の6万ドル超(1ドル150円なら900万円)は、長く積み立ててきた方なら届いてもおかしくない金額です。ご家族が困らないよう、どこに何を持っているかだけでも、早めに共有しておいてください。
買う前に、税金の「地図」を頭に入れておく
米国株を買う前に、まず、利益は「円」で計算されることを理解しておいてください。ドルで損でも課税されることがある、というのが最初の落とし穴でした。そのうえで、口座(NISA・特定口座〈源泉あり/なし〉・一般口座)を目的に合わせて選びます。
NISAを使うなら、NISAの損失は損益通算・繰越ができないことを知っておくこと。一方で、損失が出たら確定申告で3年繰り越せることも覚えておきましょう。年末に売るなら、その年の受渡日に間に合う最終売買日を確認しておくことも欠かせません。
配当株を選ぶなら、米国10%源泉と外国税額控除の仕組みを知っておくこと。そして、米国株の保有額が大きくなったら、遺産税の対策を相談する。この地図が頭に入っていれば、思わぬところで利益を取りこぼすことは、ぐっと減るはずです。
分析で選び、税金で守る
全8回、本当にお疲れさまでした! 財務分析は「どの銘柄を選ぶか」、税金の知識は「せっかくの利益をどう守るか」。この2つがそろってはじめて、投資の成績は手元に残ります。
民泊の会社の決算書を、大家の目線で読む。この8回で、売上の分解から利益の質、現金の流れ、株主還元、値札、リスク、そして税金まで、一緒に歩いてきました。数字の読み方は、物件の収支を見る目とほとんど同じだと感じていただけたなら、これほどうれしいことはありません。
確定申告や税金のことで迷ったら、いつでもお気軽にご相談くださいね。今年も最後までお読みいただき、ありがとうございました。どうぞよいお年をお迎えください。
※本記事は情報提供を目的としたもので、特定の銘柄の売買を勧めるものではありません。投資の判断はご自身の責任で行ってください。 ※税金の取扱いは2025年12月時点の法令にもとづく一般的な内容です。個別の事情によって結論が変わることがありますので、実際の申告は税務署・税理士にご確認ください。
出典・参考
- 国税庁 「租税特別措置法関係通達 37の10・37の11共-6(外貨で表示されている株式等に係る譲渡の対価の額等の邦貨換算)」https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/shotoku/sochiho/020624/sanrin/1273/37_10-11/01.htm
- 国税庁(英語)12017「Conversion of foreign currency transactions into yen」https://www.nta.go.jp/english/taxes/individual/12017.htm
- 国税庁「暮らしの税情報」株式・配当・利子と税https://www.nta.go.jp/publication/pamph/koho/kurashi/pdf/13.pdf
- 金融庁「新しいNISA 制度の概要」https://www.fsa.go.jp/policy/nisa2/about/nisa2024/summary.pdf
- IRS「Some nonresidents with U.S. assets must file estate tax returns」https://www.irs.gov/individuals/international-taxpayers/some-nonresidents-with-u-s-assets-must-file-estate-tax-returns































