東雲結子:先生、見つけました! アコーの株主還元利回り、7.7%です。7社の中でいちばん高いんですよ。大家でいえば、表面利回り7.7%の物件です!

税理士石井:うーん、「表面利回り」と聞くと、大家としては反射的に修繕履歴と借入の明細を取り寄せたくなりますね。

東雲結子:それに私、次にパリへ行ったらイビスに泊まると決めているんです。予約した時点で、もう半分くらい株主みたいなものですよね?

税理士石井:ははは。宿泊代を払う側と配当を受け取る側では、お財布の向きが正反対ですよ。それに足元には、慎重に見たい数字もあります。2025年7〜9月、本拠地の欧州・北アフリカのRevPARはマイナス4.6%でした。

東雲結子:えっ、フランスで何があったんですか?

税理士石井:何かあったのは、去年のほうなんです。2024年の夏はパリ五輪で、比べる相手が強すぎました。

東雲結子:去年の自分がライバル……。福引で特賞を当てた次の年に、参加賞のティッシュで落ち込むようなものですね。

税理士石井:ふふ、まさにそれです。もう一つの落とし穴は、貸借対照表の「資本」の中にある約10億ユーロのハイブリッド債。返済期限はないのに、毎年、利息にあたる支払いが続くお金です。

東雲結子:親から借りた返済期限なしのお金を、「全部自己資金です」と言い張るような……?

税理士石井:いい例えです。自己資金に近いと見る人もいれば、借入に数え直す人もいます。今日は物差しを2本用意して、利回り7.7%の「中身」を一緒に確かめていきましょう。

連載の第6回は、フランスのホテル会社アコー(Accor)です。第2回から第5回までの4社はどれもドルで決算を発表していましたが、アコーは7社のうちただ1社、ユーロで決算を出し、パリのユーロネクスト市場に上場しています(ティッカーはAC)。会計基準は前回のIHGと同じIFRS(国際会計基準)、決算期は12月です。

フランスの上場会社には、日本の有価証券報告書にあたる「URD(Document d’enregistrement universel、ユニバーサル登録書類)」があり、アコーの2024年版は2025年3月28日に公表されました。ただ、アコーは四半期ごとの利益を開示せず、1〜3月期と7〜9月期は売上高と客室の指標だけの発表です。そこで今回は、2024年12月期の通期決算、2025年1〜6月の中間決算、そして基準日(2025年11月9日)前の最新資料である10月23日の7〜9月期の売上高発表を組み合わせて読みます。

大家の目で見ると、アコーは少し変わった物件です。家賃にあたる手数料は世界中の通貨で入り、帳簿はユーロでつけ、私たち日本の投資家は最後に円で受け取る。為替のフィルターが二重にかかっています。そのうえでラグジュアリーへの重心の移動、手厚い株主還元、「資本」に入った借入を、順にほどいていきます。

客室86万室、ホテルブランドは45超。客室数は7社で4番目

2025年9月末のアコーのホテルは5,760軒、客室は859,830室。7社の中ではマリオット、ヒルトン、IHGに次ぐ4番目で、ウィンダム(855,400室)とほぼ並びます。開業準備中の案件(パイプライン)も1,453軒・25万室超あり、今ある客室の約3割にあたります(当ブログ計算)。

ホテルブランドは45を超え、ほかにサービス系のブランドが10以上あります。

ブランド ホテル数(2024年12月)
イビス(ibis) 1,251
メルキュール(Mercure) 1,013
イビス・スタイルズ(ibis Styles) 689
イビス・バジェット(ibis budget) 591
ノボテル(Novotel) 568
モーベンピック(Mövenpick) 134
Mギャラリー(MGallery) 126
ソフィテル(Sofitel) 123

※出典はアコー「Hotel Portfolio December 2024」。

アコーは2023年から、事業をプレミアム・ミッドスケール&エコノミー部門(PM&E)と、ラグジュアリー&ライフスタイル部門(L&L)の2つに分けて報告しています。PM&Eはさらに欧州・北アフリカ、中東・アフリカ・アジア太平洋、米州の3地域に、L&Lはラグジュアリーとライフスタイルに分かれ、ライフスタイルは子会社のエニスモア(Ennismore)がまとめています。

用語メモ:PM&E=Premium, Midscale & Economy(プレミアム・ミッドスケール&エコノミー)。L&L=Luxury & Lifestyle(ラグジュアリー&ライフスタイル)。

部門・地域(2025年9月末) ホテル数 客室数 客室の割合 運営受託(軒) フランチャイズ(軒) 保有・賃借(軒)
欧州・北アフリカ 2,926 327,446 38.1% 752 2,166 8
中東・アフリカ・アジア太平洋 1,814 331,985 38.6% 808 969 37
米州 456 71,995 8.4% 169 235 52
PM&E 計 5,196 731,426 85.1% 1,729 3,370 97
ラグジュアリー 372 86,105 10.0% 285 82 5
ライフスタイル(エニスモア) 192 42,299 4.9% 160 30 2
L&L 計 564 128,404 14.9% 445 112 7
合計 5,760 859,830 100% 2,174 3,482 104

※客室の割合=客室数÷859,830室(当ブログ計算)。出典はアコー 2025年7〜9月期売上高の説明資料。

L&Lのホテルは世界中にあるので、地域の分散は全ホテルで見るほうが正確です。2024年12月の客室で計算すると、欧州・北アフリカ42.0%、アジア太平洋35.0%、中東・アフリカ10.7%、米州12.2%(当ブログ計算)。本拠地の欧州が4割強とはいえ、アジア太平洋もそれに近い厚みがあります。米国の減速が話題の今年、この「地域の分散」が、アコーを読む一つ目の鍵です。

客室の半分は「運営受託」。米国勢より管理会社に近い稼ぎ方

第1回で見たホテル会社の3つの稼ぎ方は、大家の言葉でいえば、運営受託が管理会社、フランチャイズが看板貸し、保有・賃借が自主管理の大家(借りていればサブリース)です。

時点 保有・賃借 運営受託 フランチャイズ 合計客室
2019年12月 46,666(6.3%) 436,808(59.1%) 256,063(34.6%) 739,537
2024年12月 21,373(2.5%) 448,550(52.8%) 380,362(44.7%) 850,285
2025年9月 20,800(2.4%) 440,971(51.3%) 398,059(46.3%) 859,830

※客室数ベース。構成比は当ブログ計算。出典はアコーの各年の決算資料。

2025年9月末で、運営受託が51.3%、フランチャイズが46.3%、保有・賃借は2.4%。ヒルトン(フランチャイズ79.0%)、IHG(同72.7%)、マリオット(同66.0%)と比べると運営受託の比率が高く、7社の中では運営受託58.2%のハイアットと同じ側にいます。

2019年からの6年で、フランチャイズの客室は約1.55倍に増え、運営受託はほぼ横ばい、保有・賃借は半分以下になりました(当ブログ計算)。増えた分のほとんどは看板貸しです。自分で持つ客室を減らし、お金をあまり使わない形で広げてきたことが、数字にそのまま出ています。

部門で分けると、形はさらにはっきりします。PM&Eは5,196軒のうち3,370軒がフランチャイズ、L&Lは564軒のうち445軒が運営受託。手ごろな価格帯は看板貸しで広げ、高級ホテルは自分たちで運営する。高級ホテルほど接客の質がブランドの価値そのものなので、運営を手放しにくいのだろうと私は見ています(当ブログの見方)。

不便な点も一つあります。アコーは手数料を「基本運営手数料・インセンティブ手数料・フランチャイズ料」に分けて開示しておらず、まとめて「M&F」の1行です。ホテルの利益に連動するインセンティブ手数料がどれだけあるのか、外からは見えません。

用語メモ:運営受託(managed)=ホテルの持ち主から運営を任され、手数料を受け取る契約。フランチャイズ(franchised)=持ち主が自分で運営し、ブランドと予約の仕組みの使用料を払う契約。M&F=Management & Franchise(運営受託・フランチャイズの手数料)。

売上高の4分の1近くは「立替費用」。2025年から表示が変わった

2024年12月期の売上高は5,606百万ユーロ(1ユーロ177.13円の換算で約9,930億円)。このうち1,325百万ユーロ、売上高の23.6%は、オーナーに代わって払った費用を請求し直した「立替費用」です(当ブログ計算)。管理会社が立て替えた共用部の電気代をオーナーに請求しても、もうけにならないのと同じで、売上高はふくらみますが利益はほとんど生みません。

2024年12月期(百万ユーロ) PM&E 売上 L&L 売上 PM&E 経常EBITDA L&L 経常EBITDA
運営受託・フランチャイズ(M&F) 899 494 655 333
オーナー向けサービス(立替費用を含む) 1,158 1,479 43 20
ホテル資産・その他 1,045 614 111 74
部門計 3,103 2,587 809 427

※グループの売上高5,606は部門間取引−84を、経常EBITDA 1,120は本社費用−116を差し引いた後の値。出典はアコー 2024年12月期決算発表。

用語メモ:EBITDA=利息・税金・減価償却費を差し引く前の利益。経常EBITDA(Recurring EBITDA)はアコーが自分で定めた指標で、営業利益から「その他の損益」を除き、減価償却費を足し戻したもの。会計基準で決められた数字ではありません。

もうけの源ははっきりしています。M&Fは売上が合わせて1,393なのに、経常EBITDAは988。売上の約7割が利益として残り、グループの経常EBITDA 1,120の88%をM&Fが稼いでいます(当ブログ計算)。反対に、オーナー向けサービスは売上2,637に対してEBITDAは63だけ。立替費用を除くと、売上高に対する経常EBITDAの比率は20.0%から26.2%に上がります(当ブログ計算:1,120÷5,606と1,120÷4,281)。第1回でお話しした「売上高で比べてはいけない」理由が、ここにも出ています。なお「ホテル資産・その他」には、パリ・ソサエティ(Paris Society)やポテル・エ・シャボ(Potel & Chabot)のイベント・ケータリング事業も入っていて、ホテルの稼ぎだけではありません。

2025年10月の7〜9月期の発表から、アコーは「オーナー向けサービス」を2つに分けました。販売・マーケティング・送客・会員プログラムの「SMDL」は部門ごとに、立替費用はグループ全体の1行として別に出す形です。

7〜9月の売上高(百万ユーロ) 2024年 2025年 為替一定の伸び
PM&E M&F 238 228 −1.2%
PM&E SMDL 270 244 −6.4%
PM&E ホテル資産・その他 265 260 +4.4%
L&L M&F 119 126 +11.7%
L&L SMDL 102 109 +11.2%
L&L ホテル資産・その他 150 123 −16.4%
立替費用 312 297 +2.3%
部門間取引 −22 −18 ―
売上高合計 1,434 1,369 +0.1%(報告ベース−4.6%)

※報告ベースの減少には、為替の影響−68と、パリ・ソサエティのイベント事業の売却による影響−19を含む。2024年7〜9月にはパリ五輪関連の現物提供による売上26が入っている(利益への影響はなし)。出典はアコー 2025年7〜9月期売上高発表。

用語メモ:SMDL=Sales, Marketing, Distribution & Loyalty(販売・マーケティング・送客・会員プログラム)。

立替費用が別の行で見えるのは投資家にはありがたい変更です。ただ、新しい表示の四半期を足した2024年の立替費用は1,293で、決算書の注記の1,325とは32の差があり、その理由は当ブログでは確かめられていません。表示が切り替わる時期は、比べ方に一段の注意が要ります。

2025年1〜9月のRevPARは+3.2%。7〜9月は五輪の反動で欧州が−4.6%

成長を測る一つ目の物差しが、RevPAR(販売可能な客室1室あたりの宿泊売上)です。アコーの値はユーロ建て・税抜きで、伸び率は既存ホテル・為替一定の比較です。

用語メモ:RevPAR=Revenue Per Available Room。客室単価×稼働率で求めます。既存ホテル比較(LFL、like-for-like)=前年と同じ条件で営業しているホテルだけで比べる方法。

2025年1〜9月のグループ全体のRevPARの伸びは3.2%。稼働率66.8%、客室単価112ユーロ、RevPAR 75ユーロでした。ただ、四半期ごとに追うと勢いは落ちています。2024年10〜12月が+5.8%、2025年1〜3月が+5.0%、1〜6月の累計で+4.6%、そして7〜9月は+0.8%です。

RevPARの伸び(既存ホテル・為替一定) 2024年12月期 2025年1〜6月 2025年7〜9月 2025年1〜9月 1〜9月のRevPAR
欧州・北アフリカ +3.3% +2.3% −4.6% −0.3% 70ユーロ
中東・アフリカ・アジア太平洋 +6.1% +2.9% +2.7% +2.9% 55ユーロ
米州 +10.5% +11.0% +7.1% +9.6% 42ユーロ
PM&E 計 +4.9% +3.2% −1.1% +1.7% 61ユーロ
ラグジュアリー +6.3% +7.0% +4.3% +6.1% 167ユーロ
ライフスタイル +10.9% +9.6% +6.9% +8.5% 142ユーロ
L&L 計 +7.3% +7.6% +5.0% +6.6% 159ユーロ
グループ全体 +5.7% +4.6% +0.8% +3.2% 75ユーロ

※ユーロ建て・税抜き。出典はアコーの2024年12月期のRevPAR資料、2025年6月中間決算発表、2025年7〜9月期売上高発表。

7〜9月に足を引っ張ったのは本拠地の欧州・北アフリカで、RevPARは−4.6%。主な原因は客室単価の下落(−5.5%)でした。前年の7〜9月はパリ五輪の時期で、比べる相手が特別に強かったのです。中東・アフリカ・アジア太平洋は7〜9月も+2.7%で、中国を除くと+5.3%ですから、中国が重荷になっている形です。米州は1〜9月で+9.6%と目立ちますが、客室は全体の8.4%、RevPARも42ユーロと低めです。

図のタイトルのとおり、欧州・北アフリカの足踏みを、ほかの地域とL&Lが補った。これが2025年のアコーです。同じ1〜9月のRevPARの伸びは、ハイアット+2.5%、マリオット+2.0%、IHG+1.4%、ヒルトン+0.3%で、ウィンダムとチョイスはマイナス。計算の基準が各社で違うので単純比較はできませんが、分散の効き目は数字に表れていると思います(当ブログの見方)。エリアの違う物件を何棟か持つ大家が、一つのエリアの空室に全体を揺らされにくいのと同じです。

純客室増加率は2.5%。年3.5%の見通しは10〜12月の開業しだい

成長のもう一つの物差しが、NUG(純客室増加率)。開業から退出を差し引いて、1年で客室が何%増えたかを示します。

用語メモ:NUG=Net Unit Growth(純客室増加率)。

年 NUG パイプライン(室)
2019年 +5.1% 208,000
2021年 約+3% 214,000
2022年 +3.2% 216,000
2023年 +2.4% 225,000
2024年 +3.5% 233,000超
2025年9月までの12か月 +2.5% 250,000超
2025年の見通し 約3.5% ―

※パイプラインは各年末(2025年は9月末)時点。出典はアコーの各年の決算資料。

2025年9月までの12か月は+2.5%で、PM&Eが+2.0%、L&Lが+5.3%。2024年もPM&Eの+2.8%に対してL&Lは+7.5%と、高級側が速く増えています。2025年の開業は、1〜6月が117軒(1万5,000室超)、7〜9月が77軒・11,200室でした。

会社の2025年の見通しは「約3.5%」です。9月までの12か月が2.5%なので、年3.5%に届くには10〜12月に開業がかなり集中する必要があります(当ブログの見方)。次の決算で必ず確かめたい点です。2023年6月に示した中期目標(2023〜2027年)では、客室網の拡大を年3〜5%としています。

打ち手も動いています。2025年4月には、インドのInterGlobeとの提携で、2030年までにインドのアコーのホテルを300軒にする目標を発表。同じ月に、Royal Holidayグループと17件・3,200室の運営契約について独占交渉に入りました(対価は7,900万ドルを段階的に支払い)。管理会社が管理戸数を増やすためにオーナーへ協力金を出すような発想で、キーマネー(ホテルオーナーに払う契約時の協力金)に近いものだと私は見ています(当ブログの見方)。

利益を伸ばしたのはL&L。2年で2倍超、部門利益の3分の1超に

図は、経常EBITDAを部門別に分け、2022〜2024年12月期と2024年・2025年の1〜6月を並べたものです。2022年から2024年に、L&Lは205から427へ2.08倍、PM&Eは593から809へ1.36倍。本社費用を除いた部門合計に占めるL&Lの比率は、2022年の25.7%から2024年には34.5%、2025年1〜6月は36.8%まで上がりました(いずれも当ブログ計算)。

L&Lが大事な理由は、1室あたりの稼ぎの差です。2024年12月時点で、L&Lは客室の15.0%しかないのに、M&Fの売上(手数料)1,393のうち494、35.5%を稼いでいます(当ブログ計算)。2025年1〜9月のRevPARも、L&Lの159ユーロに対してPM&Eは61ユーロと約2.6倍。しかもL&Lは、RevPARの伸び(1〜9月+6.6%)でも客室の増え方(+5.3%)でもPM&Eを上回り、7〜9月の手数料も為替一定で、PM&Eの−1.2%に対してL&Lは+11.7%(ライフスタイルは+23.1%)でした。

ただし、冷静に見たいところもあります。2025年1〜6月のL&Lの経常EBITDAは196から224に増えましたが、M&Fは169から165にわずかに減り、増えたのはオーナー向けサービス(4→16)とホテル資産・その他(24→43)でした。グループ全体でも、1〜6月の経常EBITDAの増加48(504→552)のうち43は、オーナー向けサービスの改善(PM&Eで13→44、L&Lで4→16)によるものです(当ブログ計算)。M&F売上は1〜6月が前年比−0.3%(既存ホテル比較で+1.7%)、7〜9月が為替一定で+3.1%と、中期目標の「年6〜10%増」と比べると控えめです。

大家でいえば、家賃が上がって手取りが増えたのか、管理費を見直して増えたのか、の違いです。後者は効果が一巡しやすいので、次の決算ではM&Fの伸びが戻るかどうかを見たいと思います(当ブログの見方)。

エニスモアの上場準備は「価値の見える化」になるか

2025年10月23日、アコーの取締役会は、エニスモアの株式上場に向けた準備作業を承認しました。アコーは上場後も支配株主にとどまる方針で、上場が実現するかはまだ決まっていません。

エニスモアは2025年9月末で192軒。2024年の客室の増加率は+17.6%、経常EBITDAへの寄与は1億7,000万ユーロで、グループの1,120の約15%にあたります(当ブログ計算)。2021年10月の統合完了時点のアコーの持分は66.67%で(その後の比率は当ブログでは確認できていません)、ほかの株主の持分は2025年6月末に非支配株主持分として317百万ユーロ計上されています。

上場の意味は2つあると私は見ています。アコーの中に埋もれた伸び盛りの事業に市場が値段をつけること、そして親子上場となり、利益の一部がアコーの株主以外のものであり続けることです。人気の1棟だけを共有持分で売りに出し、その値段で手元の物件全体を測り直すようなもの。値札が見えるのは良いことですが、持分を手放せば家賃の取り分も減ります(当ブログの見方)。

6年分の損益。コロナで大赤字、2024年は2019年より4割近く大きく

百万ユーロ FY2019 FY2020 FY2021 FY2022 FY2023 FY2024 2024年1〜6月 2025年1〜6月
売上高 4,049 1,621 2,204 4,224 5,056 5,606 2,677 2,745
うち手数料(M&F) 1,026 292 518 1,052 1,300 1,393 673 671
経常EBITDA 825 −391 22 675 1,003 1,120 504 552
EBIT(2023年までの定義) 497 −665 −228 447 723 ― ― ―
営業利益(2024年からの定義) ― ― ― ― 735 786 343 399
持分法による投資損益 ― ― −273 33 44 188 49 −19
純利益(親会社株主に帰属) 464 −1,988 85 402 633 610 253 233
希薄化後EPS(ユーロ) ― ― ― 1.39 2.22 2.33 0.89 0.80
経常FCF(会社定義) 434 −727 −246 373 596 614 120 136

※IFRS。FY=12月期。EPS=1株あたり純利益。EBIT=利息・税金を差し引く前の利益。FY2019〜FY2022の経常EBITDAの欄は当時の「EBITDA」(リースの会計基準IFRS第16号は2019年から適用済み)。営業利益は2024年に定義が変わり、FY2023は779から735に組み替えられている。―は未取得か、定義の違いで載せていないもの。部門の区分も2021年、2023年、2025年7〜9月期に変わっている。出典はアコーの各年の決算発表と決算書。

2019年から2024年に、売上高は+38.5%、手数料(M&F)と経常EBITDAはともに+35.8%、会社定義の経常FCFは+41.5%でした(当ブログ計算)。2020年は売上高が2019年の約4割まで落ち、純利益は−1,988百万ユーロの大赤字。それでも2022年に売上高が、2023年に経常EBITDAが、2019年を上回りました。

2024年12月期(百万ユーロ) 金額
経常EBITDA 1,120
−減価償却費 −341
+その他の損益 +6
=営業利益 786
+持分法による投資損益 +188
−純金融費用 −124
=税引前利益 850
−法人税 −193
−非支配株主に帰属する利益 −47
=純利益(親会社株主に帰属) 610

※四捨五入のため、合計が合わない行がある。出典はアコー 2024年連結財務諸表。

経常EBITDAから純利益までをたどると、持分法による投資損益の188が目を引きます。アコーは、2017〜2018年に切り離したホテルの所有・運営会社AccorInvest(2025年4月にEssendiへ社名変更)の株式を持ち、その利益を持分法で取り込んでいます。2024年の188は主にAccorInvestの資産売却による利益で、毎年続くものではなく、2025年1〜6月は−19に反転しました。2024年の純利益が2023年より少ないのは、2023年の法人税が39と、フランスの繰延税金の益で小さかったことも一因です。

その結果、2025年1〜6月は、経常EBITDAが+9.4%(為替一定で+13.4%)、営業利益も343から399に増えたのに、純利益は253から233へ、希薄化後EPSは0.89から0.80へ減りました。持分法の損益が68悪化し、純金融費用も21から52に増えたためです。

キャッシュフローはIFRSで2年分。リースの返済はFCFの「下」に出てくる

IFRSのキャッシュフロー計算書から当ブログが取得できたのは、2023年と2024年、それに中間期です。2019〜2022年は会社定義の「経常FCF」しかありません。

百万ユーロ FY2023 FY2024 2024年1〜6月 2025年1〜6月
営業キャッシュフロー 669 733 176 240
設備投資(有形・無形) −254 −293 −186 −84
FCF(営業CF−設備投資) 415 440 −10 156
リース負債の返済 −100 −106 −54 −58
配当の支払い −297 −298 −295 −324
自社株買い −401 −404 −405 −206
還元合計(配当+自社株買い) 698 702 700 530
還元÷FCF 168% 160% ― 340%

※FCF、還元合計、還元÷FCFは当ブログ計算。配当の支払いはキャッシュフロー計算書の値で、非支配株主への配当を含む可能性がある。出典はアコー 2024年連結財務諸表、2025年6月中間財務諸表。

用語メモ:FCF=フリーキャッシュフロー。ここでは営業キャッシュフローから設備投資を引いたもので、借入の返済は差し引いていません。IFRS第16号=リースの会計基準。借りている資産を貸借対照表に載せ、将来の支払いを「リース負債」として計上します。

IFRSでは、借りているホテルや本社などの家賃のうち元本にあたる部分が「財務活動」の欄に出てきます。だから「営業CF−設備投資」のFCFは、リースの返済を引く前の数字です。2024年のFCF 440からリースの返済106を引くと334(当ブログ計算)。サブリースで借りている物件の家賃を、ローン返済の欄に書いているようなもので、米国会計基準の会社と比べると手取りが大きく見えやすい点は覚えておきたいところです。

会社が重視する「経常FCF」(2024年は614)は、経常EBITDA 1,120から、リースの返済106、利息62、法人税169、キーマネーを含む経常的な投資221を引き、運転資本などの増減を足した数字で、当ブログのFCFとは定義が違います。キーマネーは「契約資産」として貸借対照表に載り(2025年6月末で486百万ユーロ)、契約期間にわたって売上から差し引かれますが、IFRSのキャッシュフロー計算書のどの欄に入るかは、当ブログでは確認できていません。

表のいちばん下の行が、この会社の性格を物語っています。2023〜2024年の2年で、FCFは合計855、還元は1,400と、還元がFCFの約1.6倍でした(当ブログ計算)。差を埋めたのは資産の売却と借入です。2023年は子会社や投資株式の売却で477が入り(H World〈華住〉株の売却を含む)、純有利子負債は2022年末の1,658から2024年末の2,495へ増えました。

配当の方針は、2019年から「経常FCFの50%を普通配当に回す」。2024年の経常FCF 614の半分は307で、2025年6月に払った配当総額303とほぼ一致します(当ブログ計算)。配当はFCFの範囲に収め、超える分を自社株買いで上乗せする。これがアコーの還元の組み立てです。

2025年の見通しは上方修正。ただし為替で約6,000万ユーロ目減りする

2025年の見通し 7月31日(中間決算) 10月23日(7〜9月期)
RevPAR(既存ホテル) +3〜4% +3〜4%(据え置き)
NUG 約3.5% 約3.5%(据え置き)
経常EBITDA(為替一定) +9〜10% +11〜12%(上方修正)
為替の影響(報告ベースの経常EBITDA) 約−6,000万ユーロ 約−6,000万ユーロ
自社株買い 第2弾 2億4,000万ユーロ 10〜12月に1億ユーロを追加

※為替の影響は、ユーロ・ドルを1.17と置いた会社の試算。10月の上方修正には、2,000万ユーロ超のコスト対策を含む。出典はアコー 2025年6月中間決算発表、7〜9月期売上高発表・説明資料。

経常EBITDAの見通しは、為替一定で前年比+11〜12%に引き上げられました。2024年の1,120に当てはめると1,243〜1,254百万ユーロ、為替の影響約60を差し引くと報告ベースで1,183〜1,194程度です(当ブログ計算)。後のバリュエーションでは、この中央値の1,189を使います。なお2024年は、見通し(1,100〜1,125)の範囲内の1,120で着地しました。

一方、RevPARの見通しは+3〜4%で据え置き。1〜9月が+3.2%、7〜9月が+0.8%でしたから、10〜12月も7〜9月並みにとどまると、下限の+3%に届きにくくなります(当ブログの見方)。

為替の重さも確かめておきます。2024年は為替で売上高が117百万ユーロ減り、2025年1〜6月は経常EBITDAが21百万ユーロ目減り、7〜9月の売上高も68百万ユーロ減りました。ユーロで帳簿をつける会社なので、ユーロが強くなると、現地の家賃が同じでも帳簿の上では目減りします。外貨建ての家賃を受け取る大家さんなら、身に覚えのある感覚だと思います。

株主還元は2025年に約8.4億ユーロ。利回り7.7%は7社で最も高い

年 1株配当(対象の年度) 配当総額 自社株買い 還元合計
2023年 1.05ユーロ(FY2022分) ― 400 676
2024年 1.18ユーロ(FY2023分) 286 400 686
2025年(10月23日まで) 1.26ユーロ(FY2024分) 303 440 743
2025年10〜12月(予定) ― ― 100 100

※百万ユーロ。会社公表の値で、キャッシュフロー計算書の支払額とは少しずれる。2025年の自社株買いは第1弾200(4,627,761株、平均43.22ユーロ)と第2弾240(5,666,436株、平均42.35ユーロ)、2024年は9,923,228株を平均40.31ユーロで取得。2025年の2回の合計10,294,197株は、6月末の発行済株式数244,966,893株の約4.2%(当ブログ計算)。FY2022分の配当は普通配当0.71ユーロと特別配当0.34ユーロ。FY2019分の1.05ユーロはコロナで取り下げられ、FY2020・FY2021分は無配。出典はアコーの各年の決算資料、2024年統合報告書、2025年7〜9月期説明資料。

2025年の還元は10月23日までで743百万ユーロ。10〜12月の追加分100を足すと843百万ユーロです(当ブログ計算)。これを時価総額10,923百万ユーロで割ったものが株主還元利回りで、7.7%。7社で最も高く、ウィンダム6.8%、IHG6.0%、ヒルトン5.2%、マリオット5.1%と続きます(ウィンダムとチョイスは直近12か月の実績、ほかは2025年の計画で、基準はそろっていません)。配当だけの利回りも、1株1.26ユーロ÷株価45.45ユーロで2.8%と、7社でいちばん高い水準です。

ただ、7.7%は大家でいえば「表面利回り」です。まず、配当は2.8%分で、残りは自社株買い。自社株買いは毎年続けると約束されたものではありません。そのうえで、2025年の還元843は、6月までの12か月のFCF(営業CF−設備投資)606の約1.4倍で(当ブログ計算)、手元資金の取り崩しや借入、資産の売却なしには続けにくい水準です。2023〜2025年の3年間の還元は約22億ユーロ(2025年は予定を含む)で、中期目標の「5年で約30億ユーロ」の約7割をすでに使った計算になります(当ブログ計算)。なお時価総額は6月末の株数(自己株式を除く240.3百万株)で計算しており、8〜9月に買った5,666,436株を差し引くと時価総額は10,666百万ユーロ、利回りは約7.9%とむしろ少し上がります(当ブログ計算)。

純資産はプラス。ただし「資本」の中に約10億ユーロのハイブリッド債がある

百万ユーロ 2024年12月末 2025年6月末
現金及び現金同等物 1,244 1,135
有利子負債(社債・借入など) 3,002 3,593
リース負債 755 688
純有利子負債(会社定義、リース負債を含む) 2,495 3,096
のれん 2,398 2,332
その他の無形資産 3,197 3,023
持分法投資(Essendiなど) 1,367 1,325
契約資産(キーマネーなど) 469 486
会員プログラムの負債 373 405
普通株主の資本(親会社持分) 3,884 3,359
永久劣後債(ハイブリッド債、資本に計上) 1,148 991
非支配株主持分 437 421
純資産合計 5,469 4,771

※会社定義の純有利子負債は、有利子負債+リース負債−現金−デリバティブ資産などで、ハイブリッド債は含まない。2025年6月末の有利子負債はデリバティブ負債などを含む総額。9月末の貸借対照表は公表されていない。出典はアコー 2024年連結財務諸表、2025年6月中間財務諸表。

まず、純資産はプラスです。第2回・第3回のマリオットやヒルトンは自社株買いを続けた結果、純資産がマイナスでしたが、アコーはハイブリッド債を除いた普通株主の資本だけでも3,359百万ユーロあります。総資産11,829のうち、のれんと無形資産が5,355と約45%を占め(当ブログ計算)、有形固定資産は366にすぎません。「持たない」ホテル会社らしい貸借対照表です。

6月末の純有利子負債3,096を、6月までの12か月の経常EBITDA 1,168で割ると約2.7倍(当ブログ計算)。2024年末の約2.2倍より高いのは、配当と自社株買いが上半期に集まる季節要因もあります。当ブログが確認した2024〜2025年の資料には数値目標が見当たりませんでしたが、2023年12月期の資料では「S&P方式で3倍未満」としていました。格付けは、2025年2月と8月の社債発行の発表時点で、S&P・フィッチともBBB−。投資適格のいちばん下の段階です。

平均の調達金利は2025年1〜6月で2.6%、平均残存期間は3年超、手元の流動性は22億ユーロ。2026年2月満期の利率1.75%の社債6億ユーロは期限前償還の通知を出し(償還日は11月4日)、8月に利率3.625%・7年の社債5億ユーロを発行しました。固定金利の期間が明けるたびに金利が上がる大家さんと同じで、安い借入が高い借入に置き換わっていく流れです。

そして、もう一つの主役がハイブリッド債、正式には「永久劣後債」です。2025年6月末で991百万ユーロ。主な中身は、2023年10月発行の利率7.25%の5億ユーロ(期限前に償還できる最初の日は2029年4月)と、2024年8〜9月発行の利率4.875%の5億ユーロ(同2030年9月)です。利息にあたる支払いは損益計算書を通らず資本から直接差し引かれ、希薄化後EPSはその支払いを差し引いた後で計算されています。額面から計算すると支払いは年に約6,060万ユーロで、2024年の純金融費用124の約半分にあたる額が、損益計算書の外にある計算です(当ブログ計算)。

用語メモ:永久劣後債(ハイブリッド債)=満期がなく、返済の順番がほかの借入より後ろ(普通株主よりは前)の社債。一般に、返済の義務がなく、利息にあたる支払いも発行体の判断で先送りできる条件がつくため、IFRSでは資本に入ります(アコーの債券の個別の条件は当ブログでは確認していません)。ただし、利息にあたる支払いがあります。

会計上は資本でも、株式アナリストの中には、これを借入に数え直す人がいます。決まった率の支払いが毎年あり、アコー自身も2024年に、2019年発行のハイブリッド債を買い戻して新しいハイブリッド債に借り換えるなど、返す(借り換える)ものとして扱っているからです。今回並べる米国の5社には、当ブログが見た範囲で同じような「資本の中の借入」がないので、並べるなら、そろえたほうが公平です。

ハイブリッド債991を借入に足すと、純有利子負債は4,087で、12か月の経常EBITDAの約3.5倍。EV(企業価値)は14,019から15,010に増え、EV/EBITDAは11.8倍から12.6倍になります(いずれも当ブログ計算)。会社の見せ方に合わせるなら11.8倍、米国の会社と並べて慎重に見るなら12.6倍。親族からの返済期限のない借入を、銀行が自己資金に近いと見てくれることはあっても、毎年利息を払っている以上、自分の収支表では借入の欄に書いておく。そのくらいの慎重さが、ちょうどよいと私は考えています。

株価は年初から−3.4%。EV/EBITDA 11.8倍は大手4社より一段低い

項目 値 計算・前提
株価(2025年11月7日終値) 45.45ユーロ 換算で約8,051円
株式数 240.3百万株 2025年6月末の発行済株式数−自己株式
時価総額 10,923百万ユーロ 換算で約1兆9,348億円
純有利子負債 3,096百万ユーロ 2025年6月末、リース負債を含む
EV(企業価値) 14,019百万ユーロ 時価総額+純有利子負債
2025年の経常EBITDA(想定) 1,189百万ユーロ 見通しの中央値(為替一定)1,249−為替の影響約60
EV/EBITDA 11.8倍 ハイブリッド債を借入に含めると12.6倍
PER 20.3倍 株価÷12か月の希薄化後EPS 2.24ユーロ
FCF利回り 4.0% 2024年のFCF 440÷時価総額(6月までの12か月では5.5%)
株主還元利回り 7.7% 2025年の還元843÷時価総額
配当利回り 2.8% 1株配当1.26ユーロ÷株価
純有利子負債÷経常EBITDA 2.7倍 6月までの12か月の経常EBITDA 1,168

※12か月の希薄化後EPS=2024年12月期2.33−2024年1〜6月0.89+2025年1〜6月0.80(概算)。円換算は1ユーロ177.13円。すべて当ブログの計算。

用語メモ:EV=Enterprise Value(企業価値。時価総額に純有利子負債を足したもの)。PER=株価収益率(株価÷1株あたり純利益)。

アコーには調整後EPSがないため、PERは一時的な損益も含んだ12か月の希薄化後EPSで計算しています。多くの社は2025年の調整後EPSの見通しで計算しているので、定義はそろっていません。そのうえで並べると、EV/EBITDAはヒルトン20.0倍、IHG18.2倍、マリオット17.4倍、ハイアット17.0倍に対し、アコーは11.8倍で、ウィンダム(11.3倍)やチョイス(10.3倍)に近い水準です。PERも、ヒルトン34.1倍、マリオット29.1倍、IHG27.2倍に対して20.3倍でした。

大家の言葉に直すと、EV/EBITDA 11.8倍は「償却前の利回り約8.5%」、PER 20.3倍は「利益の利回り約4.9%」です(当ブログ計算)。ヒルトンの20.0倍なら利回り5%。利回り8.5%の物件は5%の物件より割安に見えますが、その差には成長の見込み、借入の重さ、立地の評価の違いが詰まっています。アコーの場合、欧州の比重とユーロ、ヒルトン(6.5%)やマリオット(4.7%)より低いNUG(2.5%)、2025年の手数料の伸びの鈍さ、Essendiの持分やハイブリッド債が絡む構造の複雑さが、値札の低さに表れているのだろうと私は見ています(当ブログの見方)。

株価は、2025年11月7日の終値45.45ユーロが、2024年末の47.04ユーロから−3.4%、2019年末の41.75ユーロからは+8.9%でした(配当を含まない)。同じ期間に、フランスの代表的な株価指数CAC 40は+7.7%と+33.0%です。2023年末の34.60ユーロから2024年末までの1年では約36%上がっていたので、2024年に大きく上げ、2025年は足踏み、という流れです(当ブログ計算)。

日本から投資するなら、ユーロと「買える場所」を先に確かめる

円で投資する人は、ユーロ円の動きのほかに、買える場所も先に確かめておきたいところです。当ブログが確認した各社の資料では、SBI証券の外国株の取扱国(米国、中国、韓国など9か国)にフランスは入っておらず、楽天証券の外国株も米国・中国・アセアンなどで、欧州の株はありません。大手ネット証券の中には、パリ上場のアコー株を買えないところがあるということです。マネックス証券の扱いは確認できていません。パリ上場株を扱う国内の証券会社もありますが、アコーが買えるかまでは確かめられていないので、各社の最新の案内で確認してください。

米国では、アコーのADR(米国預託証券)が店頭市場(OTC)で取引されています。ティッカーはACCYY、預託銀行はシティバンクです。会社のページには比率が「1:5」とあり、価格から判断するとADR 5口で普通株1株にあたるようです(当ブログの判断)。ただ、日本の証券会社でACCYYを扱っているところは確認できていません。楽天証券は2012年に、フランスの金融取引税(TTF)がADRにもかかることを理由に、フランス企業のADRの買付を停止したことがあります(現在の扱いは未確認)。

用語メモ:ADR=American Depositary Receipt(米国預託証券。外国の株を米国で売買できるようにした証書)。OTC=Over The Counter(取引所を通さない店頭取引)。TTF=フランスの金融取引税(Taxe sur les transactions financières)。

税金は第9回で詳しく扱いますが、フランス株の配当には現地の源泉税(非居住の個人は12.8%、日仏租税条約の手続をすれば10%)がかかる点だけ、先に頭に入れておいてください。

投資家として、次の決算で確かめたいこと

会社が2025年の中間報告書で重要度の高い順に挙げたリスクは、個人データを狙うサイバー攻撃、気候変動、景気・地政学・衛生環境の悪化、予約や送客のシステムの停止、人材の確保、法令違反の6つです。サイバー攻撃とシステム停止が上位にあるのは、ホテルをほとんど持たず、予約と会員の仕組みで稼ぐ会社らしいところです(当ブログの見方)。

私はこれに加えて、2つの点を気にしています。一つは、先ほど見た為替です。もう一つはEssendi(旧AccorInvest)への依存です。2025年1〜6月の売上高の7%を占める最大の取引先で、持分法による投資損益(Essendi以外も含む合計)も2024年の+188から2025年1〜6月の−19へと大きく振れました(Essendi分は1〜6月で−16)。売上の7%を1社の法人契約に頼りながら、その会社の株も持っている大家、といった関係です。

次の決算(2025年12月期の通期決算)では、まず経常EBITDAが為替一定で+11〜12%(1,243〜1,254百万ユーロ)に届いたか、為替を含めた報告ベースでいくらになったかを確かめたいと思います。そのうえで、欧州・北アフリカのRevPARが、五輪の夏が比較の相手から外れる10〜12月にプラスへ戻ったか。9月までの12か月で2.5%だったNUGが、年3.5%の見通しに届いたか。M&Fの売上が、中期目標の年6〜10%増に近い伸びへ戻ってきたか。年末の純有利子負債÷経常EBITDAが、2024年末の約2.2倍と比べてどうなったか。そしてエニスモアの上場準備がどう進むか。どれも、利回り7.7%を来年以降も続けられるかに直結する点です。

利回り7.7%を支えるのは「分散」と「L&L」。揺らすのは為替と「資本の中の借入」

アコーの還元はFCFを上回り、資産の売却と借入に支えられてきました。「資本」の中のハイブリッド債を借入と数えれば、EV/EBITDAは11.8倍から12.6倍に変わります。日本の投資家には、ユーロの為替と「どこで買えるか」という、もう一段の確認も必要です。

大家業を長く続けていると、表面利回りの高い物件ほど、レントロールと修繕履歴と借入の明細を、いつもより丁寧に見るようになります。利回りが高いのには、必ず理由があるからです。アコーの7.7%には、地域分散とL&Lの伸びという支えがある一方で、為替と「資本の中の借入」という揺れる要素もある。表と裏の両方を見たうえで、ご自分の物差しで判断していただければと思います。

明日の第7回は、ウィンダム(WH)とチョイス(CHH)。米国の減速で株価が年初から3割前後下がった、フランチャイズ専業の2社を並べて読み解きます。

 

※本記事は公表資料をもとにした情報提供を目的としたもので、特定の銘柄の売買を勧めるものではありません。投資の判断はご自身の責任で行ってください。 ※数値は各社の決算資料(年次報告書・四半期報告書・決算発表資料)をもとに当ブログが集計・計算したもので、四捨五入の関係で合計が合わない場合があります。株価は2025年11月7日の終値、円換算は三菱UFJ銀行の2025年11月6日の仲値(1ドル154.04円)を使っています。

出典・参考

  • Accor Full-Year 2024 Results(Accor、2025年2月20日)https://assets.group.accor.com/yrj0orc8tx24/2C96SdNfIPRxqrfPEnrqBW/e9fa4eb73b66041a8c7838c45c45743d/blockchained_FY_24_PR_vDef.pdf
  • Accor 2024 Consolidated Financial Statements and Notes(Accor、2025年2月)https://assets.group.accor.com/yrj0orc8tx24/3T4W8eBWnheEwgRrPUynaH/e3675a64e596a1eb95f6f20a14474f0e/Accor-2024-Notes-to-Financial-Statements-vdef.pdf
  • Accor FY2024 Results presentation(Accor、2025年2月20日)https://assets.group.accor.com/yrj0orc8tx24/6BFTujS5J1WgOvFIrXZkoc/ecbb70dd8cf2784cef0dfc8c3d76218e/FY_24_Presentation_vDefs.pdf
  • Accor RevPAR FY2024(Accor、2025年2月)https://assets.group.accor.com/yrj0orc8tx24/11DxTxeMEBz8kMMQcC0hYq/67c1cfacdb9641aaa54cc92d4be15142/RevPAR_EN_122024.pdf
  • Accor Hotel Portfolio December 2024(Accor、2025年2月)https://assets.group.accor.com/yrj0orc8tx24/6NiG5RAyW62kRq74YGYeBh/74fb3b16eeb5bac4d4133690e54e5cdf/Hotel_Portfolio_ENG_122024.pdf
  • Accor 2024 Universal Registration Document(Accor、2025年3月28日)https://assets.group.accor.com/yrj0orc8tx24/60b0FHwTQyquNUIrlNsFKE/5ec6c92c7c237a5ef4e6a0d3b5432197/ACCOR_URD2024_UK_20250328_MEL.pdf
  • Accor 2024 Integrated Report(Accor、2025年3月28日)https://assets.group.accor.com/yrj0orc8tx24/4tViUa177mMSGQxNgi0SWS/37ae4ee9af8341421721b5f8df1cfd4a/ACCOR_RI_2024_MEL_EN.pdf
  • Accor Q1 2025 revenue(Accor、2025年4月24日)https://assets.group.accor.com/yrj0orc8tx24/6Y8fLtdBpzZrwpxN8ARVkj/dcf7b33bfc0a3f4ec9fbcb3f59b9b47b/Blockchain_PR_Accor_Q1_25_vDef.pdf
  • Accor H1 2025 results(Accor、2025年7月31日)https://assets.group.accor.com/yrj0orc8tx24/1V855gcSUFMTUzIx7le4Yn/22f0590320a209196ddd63570b2333b7/Blockchained_H1_25_PR_vDef.pdf
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  • Accor 2025 Interim Financial Report(Accor、2025年7月31日)https://assets.group.accor.com/yrj0orc8tx24/mYXfK3xm7DTYERoyCxcDd/c118c73f88587a65aa9186d3fc6b9f07/ACCOR-Interim-Financial-Report-2025-vDef.pdf
  • Accor Q3 2025 revenue(Accor、2025年10月23日)https://assets.group.accor.com/yrj0orc8tx24/5kGydTRaTztuHtg3XmGX4t/bba98268f8cc3a428cdda078270c14d5/Blockchained_PR_Accor_Q3_2025.pdf
  • Accor Q3 2025 revenue presentation(Accor、2025年10月23日)https://assets.group.accor.com/yrj0orc8tx24/1szyPzePGuugqLKdvVWd3Z/f7b5ce9d86b420a3fc557f17199f2967/Q3_25_Presentation_MG_vDef.pdf
  • Accor FY2019 results(Accor、2020年2月20日)https://assets.group.accor.com/yrj0orc8tx24/1KTQ2Mhy3lcW24PXnAVcmp/ef1c33ad95c753b97b11b16beb461d67/Accor-FY19-Results-20012020-vDef.pdf
  • Accor FY2019 results presentation(Accor、2020年2月20日)https://assets.group.accor.com/yrj0orc8tx24/37f31pPXIHrufeivWxIL0H/9894f10ce3bfcc116f375a523bea202b/Accor_FY19_Results_20022020_Presentation.pdf
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  • Accor FY2022 results presentation(Accor、2023年2月23日)https://assets.group.accor.com/yrj0orc8tx24/3tn03hvqk9RGOREgxAr3jd/957825f72c831e88430b25b313e16f6b/FY22_Presentation_vDef.pdf
  • Accor FY2023 results(Accor、2024年2月22日)https://assets.group.accor.com/yrj0orc8tx24/2AoQpLcxwietJyXvMdPrem/6858f707923a07954bfd20e27ccfacf2/blockchained_FY_23_PR_vDef.pdf
  • Accor FY2023 results presentation(Accor、2024年2月22日)https://assets.group.accor.com/yrj0orc8tx24/7AwfZgTDQjzrsZO1Qa7GGf/6726ddce9bc9c1e09da716ab974fa6f2/FY_23_Presentation_vDef.pdf
  • Accor announces new senior bond issuance(Accor、2025年2月25日)https://assets.group.accor.com/yrj0orc8tx24/16DMBCmj58ouYgLVqxtOJu/5bdd11ee33d1bb7f69a8c9ab87825182/ACCOR-New-senior-bond-issuance-25022025.pdf
  • Accor successfully issues €500 million senior bond(Accor、2025年8月27日)https://webdisclosure.com/article/accor-epa-ac-accor-successfully-issues-500-million-senior-bond-FkdGjExtEct
  • AccorInvest becomes Essendi and shares its ambitions(Hospitality ON、2025年4月29日)https://hospitality-on.com/en/csr/exclusive-accorinvest-becomes-essendi-and-shares-its-ambitions
  • Accor’s ADR(Accor、日付なし)https://group.accor.com/en/finance/accor-share/accor-adr
  • 外国株式取引に関する説明書(インターネット取引)(SBI証券、日付なし)https://search.sbisec.co.jp/v2/popwin/info/home/kouhu/foreign.pdf
  • プレスリリース(新NISA 米国株手数料無料化)(SBI証券、2023年9月22日)https://search.sbisec.co.jp/v2/popwin/info/home/irpress/prestory230922_011130.pdf
  • 外国株式(楽天証券、日付なし)https://www.rakuten-sec.co.jp/web/foreign/
  • 米国上場ADR フランス籍企業発行銘柄の買付停止のお知らせ(楽天証券、2012年)https://www.rakuten-sec.co.jp/web/info/info20121122-03.html
  • BOI-RPPM-RCM-30-30-10-20(フランス財務総局 BOFiP-Impôts、2022年6月29日版)https://bofip.impots.gouv.fr/doctrine/pgp/2674-PGP
  • BOI-INT-DG-20-20-20-20(フランス財務総局 BOFiP-Impôts、2012年9月12日版)https://bofip.impots.gouv.fr/doctrine/BOI-INT-DG-20-20-20-20
  • 日仏租税条約 統合条文(財務省)https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/international/tax_convention/SynthesizedTextforJapan_France_JP.pdf
  • 株価:Accor SA(PA)Historical Prices(Yahoo Finance)https://finance.yahoo.com/quote/AC.PA/history/
  • 株価指数:CAC 40(^FCHI)Historical Data(Yahoo Finance)https://finance.yahoo.com/quote/%5EFCHI/history/ 、CAC 40(Wikipedia、年末値)https://en.wikipedia.org/wiki/CAC_40
  • 為替:外国為替相場情報 2025年11月6日の為替相場(三菱UFJリサーチ&コンサルティング、2025年11月6日)https://www.murc-kawasesouba.jp/fx/past/index.php?id=251106
  • 他社の数値:各社の決算資料(第2〜5回、第7回の出典欄に記載)