東雲結子:先生、決めました! ホテル株を買って、リッツ・カールトンのスイートに「株主です」って顔パスで泊まります。合鍵は何本もらえるんでしょう?
税理士石井:うーん、合鍵の前に、ひとつ残念なお知らせです。リッツ・カールトンを抱えるマリオットは、2025年9月末で約175万室。そのうち自分で所有・賃借している客室は、0.8%しかないんです。
東雲結子:えっ……。じゃあ私が買おうとしていたのは、スイートじゃなくて……看板?
税理士石井:ふふ、かなり正解に近いです。建物はオーナーのもの。ホテル会社は、大家さんの世界でいう「管理会社」や「看板貸し」として、手数料をいただく側なんです。
東雲結子:なるほど……。でもマリオットの2024年の売上高は約251億ドルですよね? 看板と管理だけで、そんなに稼げるんですか?
税理士石井:それがですね……。そのうち73.6%は、オーナーのために立て替えたお金を返してもらう「立替金の回収」で、利益はほとんど生まないんです。
東雲結子:お財布を通り過ぎていくだけのお金……。私のお給料とまったく同じ仕組みです。
税理士石井:ははは。だからプロは売上高ではなく、手数料と調整後EBITDA、そしてFCFを見ます。今日は7社の稼ぎ方と株価の通信簿を、決算書から一緒に開いていきましょう。
東雲結子:はい! スイートはいったんあきらめて、まずは決算書の目次に泊まります。
今日から9回にわたり、世界の大手ホテル会社7社を決算書で読み解く連載をお届けします。登場するのは、マリオット、ヒルトン、ハイアット、IHG(インターコンチネンタル・ホテルズ・グループ)、アコー、ウィンダム、チョイスの7社です。米国の10-K(年次報告書)や10-Q(四半期報告書)、英国IHGの年次報告書、フランスのアコーが出すURD(ユニバーサル・レジストレーション・ドキュメント)といった「海外版の有価証券報告書」とその期中版を1冊ずつ開き、株式投資の銘柄選びの目線で比べていきます。
大家の目で見ると、ホテル会社の決算書は不思議なことだらけです。ホテルをほとんど持っていない。売上高の大半が、右から左へ流れていくお金。純資産がマイナスなのに、株価は高い。どれも賃貸経営の言葉に置きかえると、驚くほどすっきり見えてきます。第1回の今日は、その「読み方の地図」を広げる回です。
数字は、2025年11月9日までに公表された各社の資料から取っています。7社の2025年7〜9月期の発表も、この日までに出そろいました(IHGとアコーは、利益を含まない売上高や客室指標の発表です)。株価は2025年11月7日の終値、円換算は三菱UFJ銀行の11月6日の仲値(1ドル154.04円、1ユーロ177.13円、1ポンド201.15円)を使っています。
ホテル会社の稼ぎ方は「大家」「管理会社」「看板貸し」の3つ
ホテル会社とホテルの関わり方は、大きく分けて3つあります。
1つ目は「所有・賃借」です。ホテル会社が自分で建物を持つか借りるかして、自分のリスクで営業します。客室の売上も人件費も、減価償却費や家賃も、すべて自分の損益に入ります。大家さんでいえば、自分の建物で自ら旅館を営む形。利益も空室の痛みも、丸ごと自分のものです。
2つ目は「運営受託」です。建物はオーナー(不動産会社や投資家)のもので、ホテル会社は運営を請け負って手数料を受け取ります。賃貸でいえば管理会社の立場ですね。マリオットやヒルトンの決算書では、この手数料が「基本運営手数料」と、成果に応じて上乗せされる「インセンティブ運営手数料」に分かれています。
3つ目は「フランチャイズ」です。運営もオーナー側が行い、ホテル会社はブランドの看板と予約の仕組み、会員プログラムを貸して、ロイヤルティを受け取ります。10-Kによると、標準的なロイヤルティはウィンダムで客室売上の約5%、チョイスで5〜6%。まさに「看板貸し」です。
マリオットの2024年12月期の手数料収入51.70億ドルを分けてみると、フランチャイズ料(提携クレジットカードの収入などを含む)が31.13億ドルで約6割を占め、基本運営手数料が12.88億ドル、インセンティブ運営手数料が7.69億ドルでした。7社で最大のマリオットでも、稼ぎ頭は看板貸しなのです。
では、なぜ大手は持たないのか。ヒントは、景気が最悪だった年の数字にあります。2020年、マリオットの手数料収入は38.23億ドルから16.83億ドルへ、半分以下に落ちました。成果連動のインセンティブ運営手数料は、6.37億ドルから0.87億ドルです。看板貸しでも、ホテルの売上が減れば収入は減ります。
それでも、7社のうち5社は2020年も調整後EBITDAが黒字でした。調整後EBITDAは、利息・税金・減価償却費などを差し引く前の利益に、会社が独自の調整を加えた物差しです。赤字になったのは、2019年に売上高50.20億ドルのうち18.48億ドルが所有・賃借ホテルの売上だったハイアット(−1.77億ドル)と、2019年12月に客室の6.3%を自社で保有・賃借していたアコー(当時の定義のEBITDA −3.91億ユーロ)の2社です。ハイアットは、抱えていたホテルの固定費が売上の急減をまともに受け止めた形だと私は見ています(当ブログの見方)。アコーの赤字は、所有ホテルよりもオーナー向けサービスと本社費用から出ていました(第8回で詳しく見ます)。
持たない経営は、お金の使い方も軽くします。ヒルトンの2024年の設備投資(ソフトウェアを含む)は1.98億ドルで、調整後EBITDA 34.29億ドルの6%弱。屋根や外壁の修繕に備えて毎年お金を取り分けておく大家業とは、正反対の身軽さです。
ただし、ただで身軽になれるわけではありません。管理会社が管理を任せてもらうために大家さんへ協力金を出すように、ホテル会社も契約を取るためにオーナーへ協力金を出すことがあります。マリオットは2024年に3.41億ドルを支払いました。
用語メモ:キーマネー=ホテル会社が運営受託やフランチャイズの契約を結ぶとき、オーナーに払う協力金。7社のうちアコー以外の6社では、営業キャッシュフローの中で支払われています。
自分で持つ客室の割合は、いちばん高いハイアットでも4.3%
図は、7社の客室を契約形態別に分け、客室数の多い順に並べたものです(2025年9月末)。いちばん大きいマリオットは175.4万室で、フランチャイズが66.0%、運営受託が32.2%、所有・賃借は0.8%。ヒルトン(131.0万室)はフランチャイズが79.0%を占め、所有・賃借は1.2%です。IHG(101.1万室)もフランチャイズが72.7%で、所有・賃借は0.4%にすぎません。
運営受託の比重が高いのは、アコー(86.0万室、運営受託51.3%)とハイアット(36.6万室、同58.2%)です。所有・賃借はアコーが2.4%、ハイアットが4.3%。割合のわかる6社(チョイスは軒数ベース)で最も高いハイアットでも4.3%で、しかも2025年6月に買収したPlaya(プラヤ)の、売却予定のリゾートを含んだ数字です。ウィンダム(85.5万室)については、契約形態別の室数を決算資料で確認できませんでしたが、ほぼすべてがフランチャイズで、保有ホテルは2022年に売却済み。チョイス(65.0万室)も軒数の99.7%がフランチャイズで、保有は15軒だけです。
7社の客室を単純に足すと約680万室。保有のないウィンダムと、所有ホテルの室数を確認できなかったチョイスを除く5社の所有・賃借を合計しても約7万室で、全体のおよそ1%です(数え方は各社で少しずつ違うため、当ブログによる目安の計算)。
しかも、「持たない」流れは今も続いています。アコーの所有・賃借の割合は、先ほどの6.3%から2.4%まで下がりました。ハイアットは、利益のうち手数料ビジネスから生まれる割合(会社の定義)を2017年の47.0%から2024年には79.2%へ高め、2027年に90%以上(プロフォーマ=資産売却などを済ませたと仮定した試算)を目標に掲げています。
大家業を長く続けていると、建物を持つことの安心感と重さを、両方とも肌で感じます。大手ホテル会社はその重さの大部分をオーナーに預け、看板と運営の腕前で稼ぐ道を選びました。ホテル株で私たちが手にするのは、建物ではなく、この「看板と契約の束」なのです。
売上高の半分以上が「立替金の回収」。だから売上高では比べない
ホテル会社の決算書を開いた人がほぼ必ずつまずくのが、売上高の中の「立替金の回収」です。運営を任されたホテルの現場の費用や、広告・予約システム・会員プログラムの運営費などは、ホテル会社がいったん支払い、あとでオーナーから回収します。決算書では、この回収分が「コスト償還収入」などの名前で売上高に、支払った分が費用に、それぞれ総額で載ります。
マリオットの2024年12月期でいうと、コスト償還収入が184.82億ドルで、売上高251.00億ドルの73.6%。対応する費用は187.99億ドルで、差し引きは3.17億ドルのマイナスでした(当ブログ計算)。売上高の4分の3近くが、通帳を通り過ぎるだけのお金なのです。
管理会社が清掃や設備点検の業者代を立て替え、あとで大家さんに同じ金額を請求するのと同じです。通帳には大きなお金が出入りしても、もうけは管理手数料だけ。その立替金まで「売上」に数えたら、管理会社の実力を見誤ってしまいますよね。
図は、2024年12月期の売上高の内訳を、立替金の回収の割合が高い順に並べたものです。マリオット73.6%、ヒルトン57.5%、IHG 53.0%、ハイアット50.4%と、4社で半分を超えています。ウィンダムとチョイスは40.3%、アコーは23.6%でした。ただし、何を立替金に数えるかは会社ごとに違います。IHGとウィンダムは広告・予約・会員制度のための基金を含み、チョイスは会社が非GAAPで示す値、アコーは会社が「立替費用」とした分だけです。手数料収入の割合も、ウィンダムの59.7%からハイアットの15.5%まで大きな幅があります。
用語メモ:非GAAP=米国会計基準(GAAP)の決算書の数字ではなく、会社が独自の定義で計算して示す数字。
立替金を外して、7社の本当の稼ぎを並べると次のようになります。
| 会社 | 売上高 | 手数料収入 | 立替収入の比率 | 調整後EBITDA | FCF(営業CF−設備投資) |
| マリオット | 25,100 | 5,170 | 73.6% | 4,981 | 1,999 |
| ヒルトン | 11,174 | 3,259 | 57.5% | 3,429 | 1,815 |
| ハイアット | 6,648 | 1,099 | 50.4% | 1,096 | 463 |
| IHG | 4,923 | 1,774 | 53.0% | 1,189 | 646 |
| アコー | 5,606 | 1,393 | 23.6% | 1,120 | 440 |
| ウィンダム | 1,408 | 841 | 40.3% | 694 | 241 |
| チョイス | 1,584.8 | 616.0 | 40.3% | 604.1 | 173.6 |
※2024年12月期。単位は百万ドル(アコーは百万ユーロ)。手数料収入の範囲は会社ごとに違う(マリオットとハイアットはキーマネー償却の控除前で、図は控除後の純額。IHGはセントラル収入、ウィンダムはライセンス料などを含む)。調整後EBITDAは各社の定義(アコーは経常EBITDA、ハイアットは2024年の定義)。立替収入の比率とFCFは当ブログ計算。
売上高で比べると、マリオットはチョイスの約16倍です。ところが調整後EBITDAで比べると、約8倍に縮まります。利益率も同じで、マリオットの調整後EBITDAを売上高で割ると19.8%ですが、手数料(控除前51.70億ドル)と所有・賃借ホテル等の売上(15.51億ドル)の合計(67.21億ドル)で割ると74.1%になります(当ブログ計算)。
だからプロのアナリストは、売上高ではなく、手数料収入、調整後EBITDA、そしてFCF(フリーキャッシュフロー)を見ます。手数料は看板と管理の本当の稼ぎ、調整後EBITDAは立替金の出入りなどを除いた稼ぐ力(除き方は会社ごとに違います)、FCFは設備投資を払った後に手元に残る現金(借入の元金返済や株主還元の前)。この3つが、連載の背骨になります。
7社の顔ぶれ。通貨も会計基準も、得意な価格帯も違う
| 会社(ティッカー) | 上場市場 | 報告通貨・会計基準 | 客室数 | 契約形態の中心 | 主な価格帯・ブランドの例 |
| マリオット(MAR) | ナスダック | ドル・米国会計基準 | 175.4万室 | フランチャイズ66.0% | ラグジュアリー(リッツ・カールトン、セントレジス)からセレクト(コートヤード、フェアフィールド)まで |
| ヒルトン(HLT) | ニューヨーク証券取引所 | ドル・米国会計基準 | 131.0万室 | フランチャイズ79.0% | ウォルドーフ・アストリア、コンラッドからハンプトン、ヒルトン・ガーデン・インまで25ブランド |
| IHG | ロンドン証券取引所(ニューヨークに預託証券) | ドル・IFRS(ロンドンの株価はペンス) | 101.1万室 | フランチャイズ72.7% | インターコンチネンタル、シックスセンシズからホリデイ・イン・エクスプレスまで |
| アコー(AC) | ユーロネクスト・パリ | ユーロ・IFRS | 86.0万室 | 運営受託51.3% | 客室の約85%がプレミアム・ミッドスケール・エコノミー部門。軒数の多いブランドはイビス、メルキュール |
| ウィンダム(WH) | ニューヨーク証券取引所 | ドル・米国会計基準 | 85.5万室 | ほぼすべてフランチャイズ | エコノミー〜ミッドスケール中心の25ブランド |
| チョイス(CHH) | ニューヨーク証券取引所 | ドル・米国会計基準 | 65.0万室 | フランチャイズ(軒数の99.7%) | 米国のミッドスケール(コンフォート、クオリティ)と長期滞在型(ウッドスプリング) |
| ハイアット(H) | ニューヨーク証券取引所(クラスA株) | ドル・米国会計基準 | 36.6万室 | 運営受託58.2% | ラグジュアリー、ライフスタイルと、オールインクルーシブ(客室の16.1%) |
※客室数は2025年9月末(ヒルトンはタイムシェアを除く、ウィンダムは中国のスーパー8を除く新基準)。7社とも12月決算。アコーの約85%は当ブログ計算(プレミアム・ミッドスケール・エコノミー部門の73.1万室÷86.0万室)。軒数の多いブランドはアコーの2024年12月時点。
用語メモ:IFRS=国際会計基準。オールインクルーシブ=食事などが料金に含まれるリゾート。
ひと口に「大手ホテル会社」といっても、性格はずいぶん違います。私は大きく3つのグループに分けて見ています(当ブログの見方)。
ひとつは、米国の2強、マリオットとヒルトン。客室数が100万室を大きく超え、フランチャイズが中心で、ラグジュアリーからお手ごろな価格帯まで幅広くそろえています。客室のある場所は、マリオットの61.6%(当ブログ計算)が米国・カナダ、ヒルトンの64.5%が米国です。
ふたつ目は、運営受託の比重が高いハイアットとアコー。ハイアットはラグジュアリーやオールインクルーシブに力を入れ、創業家のプリツカー家が議決権の88.8%を握っています(2025年1月末)。アコーは客室の大半が欧州・北アフリカと、中東・アフリカ・アジア太平洋にあります。IHGはその中間で、客室の51.8%が米州、27.7%がEMEAA(欧州・中東・アフリカ・アジア)、20.5%が中華圏と、地域の分散が大きい会社です。
みっつ目は、米国のエコノミー〜ミッドスケールを主力とするフランチャイズ専業のウィンダムとチョイス。チョイスは客室の77%(当ブログ計算)が米国にあります。
IHGは英国上場でIFRSを使いながら、決算はドルで報告し、ロンドンの株価はペンス建てです(2026年1月からロンドンの株価もドル建てにする方針を、2025年10月23日に示しました)。外貨建ての家賃を受け取る大家さんと同じで、私たち日本の投資家には、業績とは別に為替の波もかかってきます。
株価の通信簿。2019年末からS&P500を上回ったのはヒルトンだけ
| 会社 | 株価(2025年11月7日終値) | 時価総額 | 円換算(億円) | 2019年末→ | 2024年末→ |
| マリオット | 291.16ドル | 約781億ドル | 120,356 | +92.3% | +4.4% |
| ヒルトン | 273.32ドル | 約635億ドル | 97,860 | +146.4% | +10.6% |
| IHG | 9,738ペンス | 約148億ポンド | 29,853 | +89.6% | +4.2% |
| ハイアット | 155.34ドル | 約148億ドル | 22,724 | +73.2% | −1.0% |
| アコー | 45.45ユーロ | 約109億ユーロ | 19,348 | +8.9% | −3.4% |
| ウィンダム | 73.73ドル | 約56億ドル | 8,580 | +17.4% | −26.8% |
| チョイス | 98.53ドル | 約46億ドル | 7,023 | −4.7% | −30.6% |
| S&P500(参考) | 6,728.80 | ― | ― | +108.3% | +14.4% |
※騰落率は2025年11月7日までの株価の変化率(配当を含まない)。時価総額=株価×発行済株式数で、株数の時点は会社により2025年6月末〜10月末(ハイアットはクラスA株とB株の合計、アコーは8〜9月の買い戻し分を反映していない)。IHGの騰落率はニューヨーク上場の預託証券(ドル建て)で、ロンドンの株価(ペンス建て)では2024年末から−2.2%。
時価総額では、マリオット(約12.0兆円)とヒルトン(約9.8兆円)が飛び抜けています。7社を合わせると約30.6兆円で、そのうち7割強をこの2社が占める計算です(当ブログ計算)。3位のIHG(約3.0兆円)から下は、ウィンダムの約8,600億円、チョイスの約7,000億円まで、ぐっと小ぶりになります。
株価の騰落は、さらに差がつきました。2019年末からの約6年で、S&P500(+108.3%)を上回ったのはヒルトンだけ(+146.4%)です。2025年に入ってからは、S&P500の+14.4%を上回った会社は1社もなく、米国のエコノミー〜ミッドスケールが主力のウィンダム(−26.8%)とチョイス(−30.6%)が大きく下げています。なお、騰落率はそれぞれの現地通貨で計算したもので、円で投資した場合の損益は為替の動きでも変わります。
正直に言うと、この表を最初に並べたとき、私は少し意外に感じました。同じ「看板貸し」なのに、6年で2倍半になった会社と、ほぼ元の値段のままの会社がある。物件でも、同じ頃に買ったのに10年後の値段がまるで違うことがありますよね。その差は、たいてい立地と管理の中身にあります。株価の差の「理由」を決算書から探すのが、第2回からの仕事です。なお、過去の株価の動きは将来の成果を保証するものではありません。
毎回使う物差しを、大家さんの言葉に置きかえておく
この連載では、次の10個の物差しを繰り返し使います。
| 指標 | 意味 | 大家さんの感覚でいうと |
| RevPAR | 販売できる客室1室あたりの客室売上(ADR×稼働率) | 空室も含めて均した、1部屋あたりの家賃収入 |
| ADR | 実際に売れた客室の平均単価 | 成約した部屋の家賃 |
| 稼働率 | 販売できる客室のうち、売れた割合 | 入居率 |
| NUG | 客室数の純増率(開業から退出を引く) | 管理を任される戸数の純増 |
| パイプライン | 契約済みで、まだ開業していない客室 | 竣工待ちの管理受託の予約 |
| 調整後EBITDA | 会社定義の利益(利息・税金・減価償却費などの前、一時的な項目を除く) | 家賃から運営費を引いた残り(NOI=営業純収益、ローン返済前)に近いもの |
| FCF | 営業キャッシュフロー−設備投資 | 運営費と修繕・設備投資を払った後に残るお金(ローン元金の返済前) |
| 純有利子負債/EBITDA | 借金が稼ぎの何年分か | 借入残高÷年間のNOI(ローン返済前の稼ぎ) |
| EV/EBITDA | 会社全体の値段が、稼ぎの何年分か | 物件価格÷NOI(キャップレートの逆数) |
| PER | 株価÷1株あたり利益 | 利回りの逆数(25倍なら4%) |
用語メモ:RevPAR=Revenue Per Available Room(販売可能な客室1室あたりの売上)。ADR=Average Daily Rate(平均客室単価)。NUG=Net Unit Growth(純客室増加率)。NOI=Net Operating Income(不動産の純収益)。
用語メモ:EBITDA=Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation and Amortization(利息・税金・減価償却費などを差し引く前の利益)。EV=Enterprise Value(企業価値。時価総額+純有利子負債)。PER=Price Earnings Ratio(株価収益率)。
手数料を動かすエンジンは2つあります。1つは、既存のホテルの稼ぎを示すRevPAR。たとえばヒルトンの2025年7〜9月は、稼働率74.5%、ADR 160.25ドルで、RevPARは119.33ドルでした(160.25ドル×74.5%で約119ドル)。RevPARが動けば、手数料も利益も動きます。ハイアットは、システム全体のRevPARが1ポイント動くと調整後EBITDAが1,800万〜2,800万ドル動く(2025年2月時点)、チョイスは米国のRevPARが1%動くとロイヤルティが約490万ドル動く(2025年2月の投資家向け資料)と示しています。
もう1つのエンジンがNUGです。家賃を上げられない年でも、管理戸数が増えれば管理会社の収入は伸びるのと同じで、RevPARが横ばいでも看板の数が増えれば手数料は増えます。その先の伸びしろを示すのがパイプラインです。
調整後EBITDAは便利な一方で、会社が自分で定義した数字で、米国会計基準やIFRSで決められた数字ではありません。たとえばチョイスは広告・予約などの基金の赤字を足し戻していますが、ウィンダムは足し戻していません。同じ名前でも中身が違うので、比べるときは注記まで読む必要があります。
FCFは、この連載では「営業キャッシュフロー−設備投資」で統一します。キーマネーはアコー以外の6社で営業キャッシュフローの中に入っているので、このFCFからは差し引き済みです。一方、ウィンダムやチョイスが自分で示す「調整後FCF」はキーマネーを足し戻すため、高めに出ます。そしてFCFは、ローンの元金返済を引く前のお金。大家さんが「返済前の手残り」と「返済後の手残り」を分けて考えるのと同じです。
純有利子負債/EBITDAは、借金が稼ぎの何年分かを見る物差しです。IHGは2.5〜3.0倍、ウィンダムは3〜4倍を目標に掲げています。EV/EBITDAとPERは株価の「値札」で、不動産でいえばキャップレート(利回り)の逆数にあたります。試しに、7社に当ててみましょう。
| 会社 | NUG(直近12か月) | パイプライン(既存客室比) | 純有利子負債/EBITDA | EV/EBITDA | PER |
| マリオット | 4.7% | 59.6万室超(約34%) | 2.9倍 | 17.4倍 | 29.1倍 |
| ヒルトン | 6.5% | 51.5万室(約39%) | 2.9倍 | 20.0倍 | 34.1倍 |
| IHG | 4.4% | 34.2万室(約34%) | 2.7倍 | 18.2倍 | 27.2倍 |
| アコー | 2.5% | 25万室超(約29%) | 2.7倍 | 11.8倍 | 20.3倍 |
| ウィンダム | 3.9% | 約25.7万室(約30%) | 3.6倍 | 11.3倍 | 16.2倍 |
| チョイス | 2.3% | 8.6万室(約13%) | 3.0倍 | 10.3倍 | 14.2倍 |
| ハイアット | 12.1% | 約14.1万室(約38%) | 4.7倍 | 17.0倍 | 120.4倍(異常値) |
※NUGとパイプラインは2025年9月末(ハイアットのNUGは買収を除くと7.0%)。既存客室比はパイプライン÷客室数(当ブログ計算)。純有利子負債/EBITDAは直近12か月のEBITDAによる当ブログ計算(IHGとアコーは2025年6月末でリース負債を含む、ほかは9月末。ウィンダムの会社公表値は3.5倍)で、ハイアットはPlaya買収のつなぎ借入17億ドルで一時的に高い。EV/EBITDAとPERは2025年の会社見通しの中央値で計算するのが基本で、IHG、アコー、ハイアットの一部は直近12か月の実績を使用(アコーのPERは調整後EPSがないため希薄化EPS。詳しくは第9回)。ハイアットのPERは、Playa関連の費用で12か月の調整後EPSが1.29ドルまで下がったための異常値。
値札を見ると、マリオット、ヒルトン、ハイアット、IHGが17〜20倍、アコー、ウィンダム、チョイスが10〜12倍と、2つのグループにはっきり分かれます。同じ1億円の稼ぎに、前者は17億〜20億円、後者は10億〜12億円の値段がついている計算です。高い値札は成長への期待の表れでもあり、どちらが割安かは単純には言えません。この中身は第8回と第9回で検証します。
海外の「有価証券報告書」は、10-K、年次報告書、URD
米国の5社(マリオット、ヒルトン、ハイアット、ウィンダム、チョイス)は、米国証券取引委員会(SEC)に、年1回の10-Kと、第1〜第3四半期ごとの10-Q(第4四半期分は10-Kに含まれます)を提出します。日本の有価証券報告書にあたるのが10-Kで、決算発表の資料も8-Kという書類の添付として出されます。どれもSECのサイト(EDGAR)や各社の投資家向けサイトで公開されています。10-Kで特に大事なのは、事業の内容(Item 1)、リスク要因(Item 1A)、経営者による分析(Item 7、MD&A)、財務諸表と注記(Item 8)の4か所です。
用語メモ:SEC=Securities and Exchange Commission(米国証券取引委員会)。MD&A=Management’s Discussion and Analysis(経営者による財政状態・経営成績の分析)。
ロンドン上場のIHGは、年次報告書を「Annual Report and Form 20-F」として出しています(2024年版は2025年2月27日公表)。期中は上半期決算があり、1〜3月期と7〜9月期は「トレーディング・アップデート」という、RevPARや客室数などの指標だけの発表です。
パリ上場のアコーは、URD(ユニバーサル・レジストレーション・ドキュメント、フランス語ではDocument d’enregistrement universel)が年次の報告書です(2024年版は2025年3月28日公表)。期中は中間報告書を出し、1〜3月期と7〜9月期は売上高の発表だけ。四半期ごとのEBITDAや純利益、9月末の貸借対照表は公表されていません。
| 会社 | 年1回の報告書 | 期中の報告 | 基準日までの最新の発表 |
| 米国の5社 | 10-K(SECに提出) | 10-Q(第1〜第3四半期)と決算発表 | 2025年7〜9月期(10月22日〜11月6日) |
| IHG | Annual Report and Form 20-F | 上半期決算。1〜3月期と7〜9月期はトレーディング・アップデート | 7〜9月期のトレーディング・アップデート(10月23日) |
| アコー | URD | 中間報告書。1〜3月期と7〜9月期は売上高の発表 | 7〜9月期の売上高の発表(10月23日) |
この違いは、比べるときの小さな、でも大事な落とし穴です。IHGとアコーの「直近12か月」の利益やキャッシュフローは2025年6月までの数字になり、米国の5社とは3か月ずれます。複数の物件の収支を比べるときに締め日をそろえるのと同じ感覚で、この連載では期間を必ず書き添えます。
会計基準の違いと「マイナスの純資産」に慌てない
決算書を並べて戸惑う点が、あと2つあります。ひとつは会計基準の違いです。IHGとアコーが使うIFRSでは、リース費用が減価償却費と利息に分かれてEBITDAの外に出て、リース料のうち元本の返済分は営業キャッシュフローではなく財務キャッシュフローに入ります(利息の支払いをどちらに入れるかは会社が選びます)。その代わり、リース負債は純有利子負債に入ります。アコーの2024年のリース負債の返済1.06億ユーロも、営業キャッシュフロー−設備投資で計算したFCFの外です。アコーのハイブリッド債(返済期限のない劣後債。9.91億ユーロ、2025年6月末)が、IFRSでは負債ではなく資本に数えられるのも、同じ種類の注意点です。
もうひとつが、純資産のマイナスです。マリオットは−31.19億ドル、ヒルトンは−49.05億ドル(いずれも2025年9月末)、IHGは−23.08億ドル(2024年末)。日本で「債務超過」と聞くと経営危機の響きがありますが、この3社の場合、主な原因は赤字の積み重ねではなく、借入も使った自社株買い(IHGは特別配当も)です。マリオットが買い戻した自己株式は、2025年9月末で268.90億ドルにのぼります。
大家さんに置きかえるなら、物件を担保に借り増しをして、そのお金で共有者の持分を買い取ったようなものです。帳簿上の純資産はマイナスになっても、家賃を生む力が落ちたわけではありません。ただし借入は増えているので、空室が増えたときの余裕は小さくなる。マイナスの純資産を見たら、慌てる前に「なぜマイナスなのか」と「借金は稼ぎの何年分か」を確かめる。それが、この連載の読み方です。
2025年の景色。米国が減速し、米国の外が支えた
最後に、7〜9月期の決算から見えた2025年の景色です。
| 会社 | 全体 | 米国 | 米国以外で目立った地域 |
| マリオット | +0.5% | −0.4%(米国・カナダ) | 米国以外+2.6%、中東・アフリカ+8.7% |
| ヒルトン | −1.1% | −2.3% | 中東・アフリカ+9.9%、米州(米国除く)+4.3% |
| ハイアット | +0.3% | −1.6% | 中東・アフリカ+8.5%、アジア太平洋(中華圏除く)+5.1% |
| IHG | +0.1% | −1.6% | EMEAA+2.8%、中華圏−1.8% |
| アコー | +0.8% | ― | 米州+7.1%、欧州・北アフリカ−4.6%(パリ五輪の反動) |
| ウィンダム | −5% | −5% | 米国以外−2%(中華圏−10%) |
| チョイス | ― | −3.2% | 米国以外+5.1%(為替一定) |
※2025年7〜9月のRevPARの前年同期比。比較可能なホテル・為替一定ベース(アコーはユーロ建ての同一ホテル比較で、米州と欧州・北アフリカはプレミアム・ミッドスケール・エコノミー部門。ウィンダムは整数%の開示。チョイスは米国が中心の開示)。
7社に共通して見えたのは、米国の減速です。米国の数字を開示している6社は、そろって前年を下回りました。マリオットは、米国で低価格帯の需要と政府関係の出張が弱かったと説明しています。IHGの米国では、客室売上がビジネス需要で+2%だった一方、レジャーは−5%、団体は−7%でした。
一方、米国の外は総じて底堅く、特に中東・アフリカはマリオット、ヒルトン、ハイアットの3社とも8%を超える伸びでした。ただし一様ではなく、中華圏はIHGが−1.8%、ウィンダムが−10%、アコーの欧州・北アフリカはパリ五輪の反動で−4.6%でした。
会社の見通しの変化を並べると、景色の違いがもっとはっきりします。
| 会社 | RevPAR見通し(期初) | RevPAR見通し(最新) | 調整後EBITDA見通し(期初) | 調整後EBITDA見通し(最新) |
| マリオット | +2〜4%(2月11日) | +1.5〜2.5%(11月4日) | 5,295〜5,435 | 5,352〜5,382 |
| ヒルトン | +2〜3%(2月6日) | 0〜+1%(10月22日) | 3,700〜3,740 | 3,685〜3,715 |
| ハイアット | +2〜4%(2月13日) | +2〜2.5%(11月6日) | 1,100〜1,150 | 1,090〜1,110 |
| IHG | 正式な見通しなし | 正式な見通しなし | ― | ― |
| アコー | +3〜4%(7月31日) | +3〜4%(10月23日) | 為替一定で+9〜10% | 為替一定で+11〜12% |
| ウィンダム | +2〜3%(2月12日) | −3〜−2%(10月22日) | 745〜755 | 715〜725 |
| チョイス | 米国+1〜2%(2月20日) | 米国−3〜−2%(11月5日) | 625〜640 | 620〜632 |
※調整後EBITDAは百万ドル(アコーは経常EBITDAの伸び率)。ハイアットはPlayaを除く見通し。アコーが2025年の数値の見通しを初めて示したのは7月31日。IHGは「市場予想の達成に向けて順調」としている。
米国の比重が大きく、エコノミー〜ミッドスケールが主力のウィンダムとチョイスは、RevPARの見通しがプラスからマイナスへ変わり、調整後EBITDAの見通しも引き下げました。ところが、マリオットとヒルトンの調整後EBITDAの見通しは、期初からほとんど動いていません。マリオットの2025年1〜9月は、RevPARが+2.0%だったのに対し、調整後EBITDAは前年同期の36.95億ドルから39.81億ドルへ+8%。ヒルトンもRevPAR+0.3%に対して、調整後EBITDAは+8.1%でした。アコーは7〜9月のRevPARが+0.8%にとどまりながら、EBITDAの見通しを引き上げています。
RevPARが伸び悩んでも、客室数の純増や提携クレジットカードなどの収入が利益を支え、地域の分散が1つの地域の減速を和らげている。一方で、米国の手ごろな価格帯に集中している会社ほど、景気の波をまともに受けている。これが、2025年の決算から見える構図だと私は考えています(当ブログの見方)。
ホテル株で買うのは、建物ではなく「看板と契約」
投資家としてのチェックポイントを、最後にまとめておきます。
ホテル会社の決算書を開いたら、まず売上高の大きさに目を奪われないこと。会社によっては半分以上が、利益をほとんど生まない立替金の回収です。見るべきは手数料収入と調整後EBITDA、そしてFCFで、調整後EBITDAは会社ごとの定義なので注記で中身を確かめます。次に、成長のエンジンをRevPARとNUGに分けて見ます。2025年は米国のRevPARが弱く、米国の手ごろな価格帯に集中する会社ほど見通しを下げました。そして、財務の体力は純有利子負債/EBITDAで、値札はEV/EBITDAとPERで測る。マイナスの純資産に出会っても、まずは理由を確かめてください。IHGとアコーは期間が3か月ずれ、会計基準も違うことも忘れずに。
大家業でも、良い物件かどうかは、外観の立派さより、通帳に残るお金と借入の重さで決まります。ホテル会社も同じです。きらびやかなロビーの裏側で、看板と契約がどれだけの現金を生み、それを誰にどう配っているのか。そこを数字で追いかければ、ホテル会社の決算書は、大家にとってこれほど読みやすいものもない、と私は感じています。
明日の第2回は、客室175万室を抱える、7社で最大のマリオットです。看板ビジネスの手数料の中身と、借りてでも続ける株主還元を、決算書から読み解きます。
※本記事は公表資料をもとにした情報提供を目的としたもので、特定の銘柄の売買を勧めるものではありません。投資の判断はご自身の責任で行ってください。 ※数値は各社の決算資料(年次報告書・四半期報告書・決算発表資料)をもとに当ブログが集計・計算したもので、四捨五入の関係で合計が合わない場合があります。株価は2025年11月7日の終値、円換算は三菱UFJ銀行の2025年11月6日の仲値(1ドル154.04円)を使っています。
出典・参考
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- Marriott International Reports Third Quarter 2025 Results(IR資料PDF)(Marriott International、2025年11月4日)https://marriott.gcs-web.com/node/36496/pdf
- Marriott Form 10-Q(2025年9月期)(Marriott International、2025年11月4日)https://marriott.gcs-web.com/static-files/2fd22425-22d3-41a0-a731-0c7f97001eb1
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