2024年の強さを確認したら、次は条件が悪化した場合を考える。非開示の費用内訳を決めつけず、仮定を動かして利益の変わり方を確かめる。

東雲結子:高い利益率なら、売上が少し下がっても安心ですか?

税理士石井:費用がどれだけ下がるかで違います。仮定を示して、条件を変えた計算をしてみましょう。

将来予測ではなく、何に弱いかを調べる

2024年11月期の売上高2,259.70億円、営業利益821.14億円から逆算した営業費用は1,438.56億円だった。この利益率が続くかどうかを考えるには、宿泊需要の減速、客室単価の低下、人件費・外注費の増加、新規出店の費用を分けて見る必要がある。

ただし、公開資料では連結営業費用の固定費・変動費の内訳が分からない。そこで、アパの本当の損益分岐点を推計したように見せるのではなく、仮定を明示した感応度分析を行う。本稿の試算は会社予想ではなく、売上や費用を動かしたときの計算上の関係を示す。2025年11月期の通期実績を予測した数字でもない。

売上20%減なら、利益はどれほど減るのか

基準となる営業費用のうち20%、40%、60%が売上高に比例して増減し、それ以外は一定とする3ケースを置く。この比率は『売上高に対する変動費率』ではなく、『2024年の営業費用に占める売上連動部分の割合』である。売上が20%減る場合、利益は順に426.74億円、484.28億円、541.83億円となる。費用が下がりにくいほど利益減少が大きい。

中間の40%ケースでは、売上20%減に対して営業利益は約41.0%減る。売上30%減では利益315.86億円、利益率は約20.0%となる。基準の利益率が高くても、売上と利益は同じ率で動かない。減価償却、固定賃料、常勤人員などの負担を急に減らせない事業では、この差が経営判断を左右する。

これは単純化したモデルなので、売上減の中身によって現実の結果は変わる。客数が減れば清掃や消耗品の一部は減りやすいが、客数が同じで単価だけが下がれば、同じ程度に費用を減らせるとは限らない。事業撤退、契約改定、資産売却などもモデルには入れていない。黒字が残る計算結果を、そのまま安全性の保証にはできない。

売上減少率 費用連動20% 費用連動40% 費用連動60%
0% 821.14 821.14 821.14
10% 623.94 652.71 681.48
20% 426.74 484.28 541.83
30% 229.54 315.86 402.17
40% 32.34 147.43 262.51

図22 売上減少に対する営業利益の感応度。筆者の仮定計算。2024年実績を起点とし、営業費用の20%・40%・60%が売上に比例して変動、残りは一定とする。実際の固定費・変動費内訳は非開示。会社予想や損益分岐点の推定ではない。

稼働率を上げても、値下げ幅によっては収入が減る

個別ホテルを考える際は、ADRと稼働率を掛け合わせる。例えば平均客室単価1万円、稼働率90%なら、販売可能客室1室当たりの宿泊売上は9,000円。単価を9,000円へ10%下げて満室にしても9,000円で、客室売上の水準は変わらない。さらに単価8,000円で満室なら8,000円となり、基準を11.1%下回る。これはアパの実績ではなく、関係を説明する仮想例だ。

同じ売上でも、満室にするため販売する客室が増えれば、清掃、リネン、アメニティなどの追加費用が発生し得る。逆に単価を上げて稼働率が落ちた場合は、売上への影響と変動費の減少を両方見る必要がある。満室そのものを目標にするより、日ごとの需要と販売経路の費用を考えて、残る利益を確かめたい。

販売経路も利益に効く。一般に自社予約へ誘導すれば外部予約経路の手数料を抑える余地があるが、自社にもポイント、広告、システム運用、決済の費用がある。アパ直の会員規模だけから手数料削減額や利益貢献を計算することはできない。予約経路別の手取り単価と、顧客獲得・維持の費用が必要になる。

図23 ADR×稼働率によるRevPARの試算。仮想例(アパの実績・予想ではない)。セルは販売可能客室1室当たりの宿泊売上=RevPAR(円)。デイユース等の特殊要因を除き、同じ集計範囲・期間を想定。

費用が5%増えると、利益は8.8%減る

売上を2024年の水準に固定し、営業費用全体を5%増やすと、費用増は71.93億円、営業利益は749.21億円となる。利益の減少率は8.8%だ。費用10%増では営業利益677.28億円、17.5%減となる。これは費用が全て同率で増える仮定で、人件費だけが5%上がった場合の計算ではない。

費用上昇を吸収するには単価、稼働、販売経路、作業効率、契約条件のどこを変えるかを考える。固定賃料のある賃借モデルと、運営受託料を得るMCモデルでは、同じ費用上昇でも負担する主体が違う。所有・賃借・運営受託を増やす比率が変われば、過去の利益率をそのまま将来に当てはめられなくなる。

図24 営業費用増加の利益への影響。2024年売上2,259.70億円を固定し、逆算営業費用1,438.56億円だけを増やした仮定計算。会社予想ではなく、費用全体が同率で増える簡略モデル。

利益の余裕と、資金の余裕を二段階で確認する

試算上で営業黒字が残っても、借入元本の返済、新築や大規模改修の支出、敷金・保証金の差し入れなどで現金は減り得る。反対に、減価償却の計上によって会計利益が低くても、営業上の現金が一定程度残ることもある。営業利益と現金収支を同じ表の一行にまとめないことが、ホテル経営でも賃貸経営でも必要だ。

JCRの2024年11月期末ネット有利子負債/EBITDAは3.1倍だった。仮に純有利子負債を一定に保ったままEBITDAが20%減れば、倍率は約3.9倍になる。収益悪化による分母の縮小だけでも信用指標は悪化し得る。実際の借入残高や返済余力を確定するには、満期、金利、現金残高、更新投資の予定まで確認しなければならない。

2025年11月時点で、次に追うべき数字

第一は、既存ホテルのADR・稼働率・RevPARである。新規出店や買収を除いた同じ施設の変化が分かれば、価格設定や需要の強さを評価しやすい。第二は、賃借・MC・FC・予約参画を含めた契約形態別の成長である。客室数だけでは、売上の帰属と固定負担の変化が分からない。

第三は、設備投資と資金調達である。売却額、売却益、営業キャッシュフロー、借入返済、将来賃料を別々に追いたい。第四は、改修や買収の投資採算である。売上や客室数が増えた後に、投じた資金に見合う利益と現金が残ったかを確認する。

2025年11月期の通期決算は、この掲載時点ではまだ公表されていない。2024年までの利益・信用指標は改善したが、2025年の最終的な成績、買収の利益寄与、売却予定の実行結果を後知恵で加えることはしない。今ある数値と、これから確認すべき数値を分けることで、好調な決算からも次の判断に役立つ論点を取り出せる。

 

連結損益の10期一覧

単位:億円。原表は百万円。各年11月期。

11月期 売上高 営業利益 経常利益 当期利益等 営業利益率
2015 910.35 320.08 281.90 179.03 35.16%
2016 1,105.01 371.66 338.44 199.90 33.63%
2017 1,161.02 364.36 350.48 238.23 31.38%
2018 1,339.49 379.62 362.31 236.62 28.34%
2019 1,371.56 359.79 335.47 211.93 26.23%
2020 904.32 20.44 10.09 9.49 2.26%
2021 916.56 81.90 75.22 39.38 8.94%
2022 1,382.37 358.33 353.15 217.28 25.92%
2023 1,912.27 566.76 552.77 373.20 29.64%
2024 2,259.70 821.14 795.80 562.84 36.34%

2015年は2016年決算発表の前期比較欄。2023・2024年は親会社株主に帰属する当期純利益と確認できる。それ以前は原資料の当期利益・当期純利益表記を保持し、帰属範囲が同一と推測して補わない。

 

貸借対照表と信用指標

指標 2022年11月末 2023年11月末 2024年11月末
総資産(億円) 時系列採用なし 7,405.93 8,106.92
純資産(億円) 時系列採用なし 2,717.86 3,282.64
負債合計・差額(億円) — 4,688.07 4,824.28
自己資本比率・JCR 34.7% 36.7% 40.5%
ネットDER・JCR 1.47倍 1.24倍 0.97倍
純有利子負債/EBITDA・JCR 6.4倍 4.5倍 3.1倍