3ホテルの12か月の実績を、稼働率・単価・RevPARに分解する。繁盛しているかと、投資として収益が残るかを分けて検証する。

東雲結子:満室に近いホテルから選べば、収入も一番高そうです。

税理士石井:単価との掛け算が必要です。なんば・博多・松山の実際の月次データで比べましょう。

満室に近いホテルが、最も高い収入を生むとは限らない。アパホテルの個別物件を比べると、その違いがはっきりする。

今回は、日本ホテル&レジデンシャル投資法人(NHR)が2025年11月12日に公表した取得予定資産の資料から、〈なんば北 心斎橋駅前〉162室、〈博多駅前4丁目〉109室、〈松山城西〉144室を分析する。対象期間は2024年10月〜2025年9月の12か月だ。

これは取得予定資産として選ばれた3棟であり、アパグループ全体を代表する標本ではない。以下の客室単価・稼働率・RevPARを「アパ全体の平均」と読むことはできない。

図12 同じブランドでも、3ホテルの客室収益には差がある。2024年10月〜2025年9月。NHR取得予定の3ホテルの資料記載値。アパ全体・各都市全体の平均ではない。ADR=販売客室当たり単価、RevPAR=販売可能客室当たり宿泊売上。

稼働率と単価を分けて読む

客室稼働率は、売れる客室のうち実際に利用された割合。ADR(平均客室単価)は、売れた客室1室当たりの収入。RevPAR(販売可能客室1室当たり収入)は、空室も含めた販売可能な客室全体に対する収入を見る指標である。通常の定義では、RevPARはADR×客室稼働率で表せる。

例えば単価1万円、稼働率90%ならRevPARは9,000円。単価1万2,000円、稼働率80%なら9,600円となる。後者は空室が多くても、販売可能な1室当たりの収入は高い。これは仕組みを示す仮例であり、アパの実績ではない。

ただし、これらは清掃費、人件費、予約手数料、光熱費などを差し引く前の客室販売指標だ。RevPARが高いことだけで利益率や投資利回りの高さまでは証明できない。本稿のグラフは公表値を採用し、客室数と日数を掛けた宿泊売上の逆算は行っていない。

なんば:単価と稼働の同時改善で収入が跳ねる

〈なんば北 心斎橋駅前〉の2025年2月は、稼働率77.7%、ADR9,346円、RevPAR7,262円だった。4月には稼働率95.7%、ADR1万4,064円、RevPAR1万3,459円へ上がっている。

わずか2か月の比較で、稼働率は18.0ポイント上昇、ADRは50.5%上昇、RevPARは85.3%増加した。客室を埋める力と、高い価格で販売する力が同時に働いた結果と読める。片方だけの数字では、この変化を説明できない。

4月の博多は稼働率97.2%でなんばを上回るが、RevPARは1万348円。なんばは稼働率が1.5ポイント低くても、RevPARは30.1%高い。単価の差が客室収入の差を作っている。

一方、なんばのRevPARは7月に9,823円まで下がり、9月には1万3,448円に戻る。4月の最高値を毎月の平常値として収益計画に置くのは適切でない。上昇をすべて万博の効果と断定することもできない。この資料だけでは季節、曜日構成、イベント、顧客構成、価格設定などの影響を分離できないからだ。

図13 ほぼ満室でも、客室単価の変化が売上を動かす。2024年10月〜2025年9月。NHR取得予定の3ホテルの資料記載値。アパ全体・各都市全体の平均ではない。ADR=販売客室当たり単価、RevPAR=販売可能客室当たり宿泊売上。

博多:高稼働でも、単価次第で売上効率は変わる

〈博多駅前4丁目〉は12か月すべてで稼働率90%以上。最低の2025年7月でも90.6%、最高の2024年10月は97.7%で、稼働率の範囲は7.1ポイントに収まる。

ただし、客室収入まで一定ではない。2024年11月は稼働率95.4%、ADR1万5,284円、RevPAR1万4,581円。2025年9月は稼働率96.8%とむしろ高いが、ADR9,794円、RevPAR9,481円だった。稼働率が1.4ポイント上がっても、RevPARは35.0%低い。

これは前年同月比ではなく、異なる月の比較である。季節やイベントなどが違うため、営業力の低下とは断定できない。しかし「客室がほぼ埋まっているから、収入も安定している」と判断できないことは分かる。

満室に近い物件では、稼働率をさらに上げる余地が限られる。大家がホテル運営者を見る際には、空室対策に加え、需要の強い日の販売価格、予約経路、客層の構成を確かめることが収入の持続性を見極める手掛かりになる。

図14 高稼働が続く博多と、月による変動の大きい松山。2024年10月〜2025年9月。NHR取得予定の3ホテルの資料記載値。アパ全体・各都市全体の平均ではない。ADR=販売客室当たり単価、RevPAR=販売可能客室当たり宿泊売上。

松山:弱い月の収入まで織り込めているか

〈松山城西〉の2025年6月は、稼働率65.6%、ADR6,912円、RevPAR4,534円。5月のRevPAR7,113円から36.3%下がっている。7月も稼働率69.3%、RevPAR4,764円にとどまった。

一方、9月には稼働率82.0%、ADR8,560円、RevPAR7,019円まで戻る。6月との比較ではRevPARは54.8%増であり、6月だけを採って恒常的な不振と決めつけるのも適切でない。12か月の稼働率は65.6〜95.9%と30.3ポイントの幅があり、博多より月ごとの振れが大きい。

運営者にとって、この振れは資金繰りと年間収支の見方を変える。好調月の収入で固定費を回収できても、弱い月には手元資金が必要になる。修繕や設備更新を含め、低稼働の月を乗り切れる収入構造かを確認したい。単月のピークや平均値だけでは、その負担は見えにくい。

出典:[S14]

インバウンド比率は、需要の違いを示す手掛かり

同じ12か月のインバウンド比率は、なんば30.7%、博多14.4%、松山6.2%。同じアパブランドでも、外国人宿泊需要への接点は大きく異なる。

なんばは商業・観光集積地、博多は交通の結節点、松山は城・温泉観光と官公庁・業務需要に接する立地として資料で説明される。ただし、インバウンド比率が高いから単価も高い、と3棟だけで因果関係を決めることはできない。外国人比率だけでは客の国籍、宿泊目的、泊数、支払単価は分からない。

図15 3ホテルのインバウンド比率。2024年10月〜2025年9月、NHR公表値。外国人宿泊需要との関係を考える補助指標。グループ全体の外国人売上比率ではない。

大家が買うのは「最高月のRevPAR」ではない

3棟とも、取得後はアパホテル株式会社を賃借人として、2025年12月2日から20年間、固定賃料と売上連動の変動賃料を組み合わせる契約が予定されている。11月時点では取得・契約開始前の計画だ。

したがって物件評価では、ホテルの客室収入と大家が受け取る賃料を分ける必要がある。RevPARが上がっても、その増収が全額大家に移るわけではない。賃料の算式、運営者の支払能力、修繕費などの負担区分を通じて、不動産収益にどう届くかを確認する。

また、3地域への分散は需要の偏りを和らげる可能性があるが、賃借人は同じアパホテル株式会社だ。地域を分散しても、賃借人の信用リスクまで分散するとは限らない。

高単価のホテルでも取得価格が高ければ利回りは下がり得る。単価が低いホテルでも、取得価格と費用が見合えば投資として成立し得る。稼働率、単価、月ごとの変動、賃料契約、必要な修繕を順に確かめ、年間を通して残るキャッシュフローを取得価格と照らす。その手順が、繁盛して見えるホテルと、保有価値のある不動産を見分ける助けになる。