不動産を売って現金を回収し、ホテルの営業は続ける。2025年11月公表の3物件を使い、売却益、家賃、鑑定利回り、運営利益を分けて考える。
東雲結子:ホテルを売って営業を続けられるなら、資金はずっと増やせませんか?
税理士石井:代金を回収する代わりに、賃料の支払いが続きます。売却価格と継続負担を一緒に見ます。
3ホテル、415室、取得予定価格は合計99.8億円
日本ホテル&レジデンシャル投資法人(NHR)は2025年11月12日、アパホテル〈なんば北 心斎橋駅前〉を48.5億円、〈博多駅前4丁目〉を39.3億円、〈松山城西〉を12.0億円で取得する予定を公表した。3棟の合計は99.8億円、客室数は162室、109室、144室の計415室である。取得予定日は12月2日。本稿の基準である11月末時点では、実行済みの取引には数えない。
売主は順にアパホーム、ホテルグリーン・ドゥ、アパマンション。賃借人はいずれもアパホテル株式会社となり、運営が続く計画である。不動産の保有会社とホテルの運営会社を分けて見ると、何を売り、何を続けるのかが分かりやすい。ここでNHRの決算をアパグループの決算に足し合わせることはしない。

図18 不動産売却と運営継続の関係。3物件の取得予定価格の合計。売却代金は売却益ではない。NHRは上場投資法人であり、グループの手元現金と同一視しない。2025年11月時点の予定取引。
99.8億円は、売却益でも自由な手元資金でもない
不動産の売却代金は、売却損益とは違う。損益の計算には売却資産の帳簿価額や関連費用等が必要だが、3物件のアパ側の簿価・税負担・借入返済額は、この取得発表からは確定できない。99.8億円がそのまま利益に上乗せされる、同額を全額次の開発に回せる、と計算することはできない。
それでも資産回転の選択肢を持つ意味は大きい。土地・建物に固定されていた資金を回収し、借入返済、新規開発、改装などに振り向けられる可能性があるからだ。一方、売却後も営業を続けるなら、不動産を使うための賃料が継続して発生する。不動産売却による資金回収と、その後の賃料負担を一つの収支表で比較する必要がある。
今回の3物件価格99.8億円は、2024年11月末の連結総資産8,106.92億円に対して約1.2%である。異なる時点の参考比較だが、一度の売却予定だけでグループ全体が保有型から転換したと評価するには規模が小さい。今後の売却頻度、再投資額、賃借物件の増加を継続して追う方が実態を捉えやすい。
1室当たり価格は約833万円から3,606万円まで
取得予定価格を客室数で割ると、なんばは1室当たり約2,994万円、博多は約3,606万円、松山は約833万円になる。これは土地・建物を含む不動産価格の目安で、部屋だけの価格や新築工事単価ではない。立地、敷地、客室構成、建物の状態、将来の修繕負担が違うため、単純に安い物件を選べばよいわけではない。
資料に掲載された償却前鑑定NOI利回りは、順に4.5%、4.3%、7.1%。NOIは、ここでは鑑定評価で想定する不動産の運営収益から運営費用を引いた純収益である。アパグループ連結の営業利益率36.3%とは、分子も分母も違う。前者は不動産の純収益を取得予定価格で割り、後者はグループ営業利益をグループ売上高で割っている。
松山は取得価格が低く、鑑定NOI利回りは高い。しかし第4回で見たとおり、月次稼働率・RevPARの振れも大きい。高い利回りを評価するなら、その収入が続く条件と、必要な修繕・更新支出を合わせて確かめたい。鑑定上の想定収益は、将来の実現額を約束するものではない。

図19 ホテル3物件の取得予定価格÷客室数。筆者計算。土地・建物を含む価格で、建築単価や客室のみの価値ではない。取得予定日は2025年12月2日。

図20 固定賃料の表面比率と鑑定NOI利回り。灰色は筆者計算、緑は資料記載値。NOIは鑑定想定の不動産純収益。固定賃料だけからNOIを再計算した図ではなく、ホテル運営利益率でもない。
固定賃料が下支えし、売上連動部分が上乗せされる
契約期間は引渡し予定日から20年間。固定賃料の月額は、なんば1,860万円、博多1,470万円、松山820万円で、年換算すると2.232億円、1.764億円、0.984億円となる。3棟合計で年4.98億円。取得予定価格で割った固定賃料の表面比率は4.60%、4.49%、8.20%だが、これは所有者の諸費用を引く前の比率である。
変動賃料は売上連動で、年額基準売上高は5.5億円、4.24億円、3.3億円。実際には2月と8月の支払いについて、異なる12か月の売上高を用い、基準を超えた部分にそれぞれ5%を乗じる。両算定期間の年間売上が同じ水準で推移するという仮定なら、年額相当の賃料は『固定月額×12+基準超過売上×10%』と表せる。グラフはこの平常年の比較モデルであり、2025年の実際の受取額ではない。
例えば、なんばの両算定売上を6.5億円と仮定すれば、基準5.5億円を1億円上回るので、年間相当の変動賃料は1,000万円。固定部分と合わせて2.332億円となる。売上が基準以下でも固定部分は残る。所有者は一定の家賃を受け取る構造だが、賃借人の支払能力が失われれば固定賃料も確実に回収できるとは限らない。

図21 固定+売上連動賃料の形。比較用の仮定:2月・8月支払分の異なる12か月算定売上がともにS。各超過額に5%ずつを乗じるため、年間相当額=固定月額×12+10%×max(S−基準,0)。実際の支払日程・初年度額を示さない。
売上連動は、所有者と運営者で物価上昇の影響が違う
売上連動賃料では、売上が増えると変動賃料も増える一方、運営会社の人件費や清掃費が増えても、その増加額がそのまま変動賃料の計算から控除されるとは限らない。売上が伸びているのに運営者の利益が伸びにくい局面があり得る。GOP、すなわちホテル運営で直接発生する費用を控除した利益に連動する賃料とは、費用上昇の分担が異なる。
大家が見るべき点は、固定賃料と上振れ余地の大きさだけではない。修繕の負担者、設備更新、賃料改定、中途解約、保証金、運営会社の信用力まで、契約書の条項を確認する必要がある。公表概要だけで非開示条項を補うことはできない。3棟は地域が分散していても、賃借人はいずれもアパホテルであり、借り手の信用リスクは共通している。
スポンサー取引の価格は、両側から点検する
売主・賃借人と資産運用会社との利害関係について、NHRは投資法人役員会の承認と同意を得たと説明する。取引価格、鑑定評価額、賃貸条件を一組で確認したい。手続きの存在と、将来収益から見た価格の妥当性は別の問いである。
アパ側は資金を回収して運営を続け、NHR側は不動産収入と賃借人の信用力を引き受ける。NHRの投資口は非上場のアパグループ株式とは異なる投資対象である。資産の売却とともに、賃料や保証など継続する負担を確かめる必要がある。































