アパの財務構成は改善した。次に見るべきは、現金と将来の支払いだ。
東雲結子:利益がこれだけ出ていれば、ホテルをどんどん増やせそうですね。
税理士石井:利益と現金は違います。資産の増え方、借入負担、将来の支払いを確かめましょう。
総資産8,106.92億円、その裏側はどう変わったか
日本ホテル&レジデンシャル投資法人(NHR)はスポンサー概要で、完全親会社の連結総資産と連結純資産を開示している。2023年11月末の総資産は7,405.93億円、純資産は2,717.86億円。2024年11月末には総資産8,106.92億円、純資産3,282.64億円となった。資産が9.5%増えた一方、純資産は20.8%増え、純資産の積み上がりが資産拡大を上回る速度で進んだ。
資産は負債と純資産の合計である。この関係から負債合計を計算すると、4,688.07億円から4,824.28億円へ、増加率は2.9%となる。資産の増分700.99億円に対し、純資産の増分は564.78億円、負債の増分は136.21億円だった。残高の増加という観点では、負債だけに依存して資産を増やした形ではない。
ただし、この差額計算で得られるのは負債合計である。銀行借入や社債だけでなく、買掛金、未払金なども含み得る。また、純資産の増分が資産増分の約80.6%に相当しても、『投資の80.6%を手元資金で賄った』とは言えない。貸借対照表の増減と、現金の調達・支出は別の情報だからだ。
なお、総資産は帳簿上の金額であり、保有不動産を現在の市場価格ですべて売った場合の価値ではない。土地の値上がりが、そのまま純資産に加算されているとも限らない。個別物件の取得原価、減価償却、減損、時価の情報が揃わない以上、『含み益を入れればもっと安全』という評価も数字では裏付けられない。まずは公表された簿価の範囲で比較する。

図7 連結資産・負債・純資産の構成。NHRのスポンサー概要に掲載された完全親会社の連結値。負債合計=総資産−純資産であり、有利子負債ではない。

図8 2023年末から2024年末への残高増減。公表残高からの筆者計算。資金調達・投資の現金収支を示す図ではない。純資産増加をそのまま内部資金による設備投資額と解釈しない。
営業利益率と、投下した資産の効率をつなぐ
2024年の期首・期末総資産を単純平均すると7,756.43億円となる。この平均総資産に対する売上高は0.291倍、営業利益は10.59%である。計算上、営業利益率36.34%に総資産回転率0.291倍を掛けると、平均総資産に対する営業利益10.59%につながる。いずれも公表値からの筆者計算で、会社公表のROAではない。
この分解には、高い利益率の意味を投資額と結び付ける役割がある。土地・建物を多く持つ企業は、営業利益率が高くても資産の回転は低くなりやすい。運営受託やFC中心の企業は、収入の計上範囲と必要資産が違う。同じ売上利益率だけで順位を付けると、資本をどれだけ使って稼いだかを見落とす。アパの数字もホテル以外を含む連結であり、物件ごとの投資利回りには読み替えられない。
| 指標 | 2024年の計算値 | 算式 |
| 期首・期末平均総資産 | 7,756.43億円 | (2023年末資産+2024年末資産)÷2 |
| 総資産回転率 | 0.291倍 | 売上高÷平均総資産 |
| 平均総資産に対する営業利益 | 10.59% | 営業利益÷平均総資産 |
自己資本比率は34.7%から40.5%へ
財務構成の改善は、日本格付研究所(JCR)の公表値でも確認できる。自己資本比率は2022年11月末34.7%、2023年36.7%、2024年40.5%。ネットDER(純有利子負債/自己資本)は同じ順に1.47倍、1.24倍、0.97倍へ低下した。ネット有利子負債と自己資本の関係では、2024年に1倍を下回っている。
ここで純資産と自己資本を厳密に同じ言葉として扱わないことも大切だ。一般に純資産には、株主資本のほか評価・換算差額などが含まれ、連結では非支配株主持分等との区別も必要になる。公開された総額だけから全内訳を確定することはできない。本稿の自己資本比率は、純資産を独自に読み替えた値ではなく、JCRが公表した数値をそのまま使用した。
JCRは2025年8月、アパホールディングスの長期発行体格付をBBB+からA-に引き上げ、見通しを安定的とした。評価にはグループ全体の信用力が反映されている。利益の拡大だけでなく、財務構成の改善が外部の信用評価にもつながったと読める。

図9 自己資本比率は2022→2024年に5.8ポイント改善。JCR公表値。ネットDERは純有利子負債と自己資本の比率。EBITDA倍率は利益創出力との比較で、返済期限ではない。比率から非開示金額は逆算していない。

図10 ネット有利子負債は、自己資本の1倍を下回る。JCR公表値。ネットDERは純有利子負債と自己資本の比率。EBITDA倍率は利益創出力との比較で、返済期限ではない。比率から非開示金額は逆算していない。
借入負担は軽くなったが、返済済みという意味ではない
ネット有利子負債/EBITDA倍率も、2022年6.4倍、2023年4.5倍、2024年3.1倍へ改善した。EBITDAは税金・利息・減価償却等の影響を調整した利益の指標で、ここではJCRの算定による。これは負債と利益創出力の釣り合いを見る指標である。JCRが使うEBITDAを基準にした倍率であり、3.1年後に借入がなくなるという返済予定表ではない。
この改善には、利益の増加によって分母が大きくなった効果も含まれる。実際のネット有利子負債がいくら減ったのかを、倍率だけから正確に断定することはできない。逆に需要が弱まり、ネット有利子負債は一定のままEBITDAが20%減ったと仮定すると、倍率は3.1÷0.8で約3.9倍になる。これは会社予想ではなく、利益変動への感応度を示す計算だ。
自社でホテルを保有するモデルでは、営業利益が増える局面の強さと、建設・改修・借換えの負担を一緒に見る必要がある。2024年の改善は明確だが、それだけで今後の投資余力を無制限と評価することはできない。

図11 利益創出力に対する負債の倍率も低下。JCR公表値。ネットDERは純有利子負債と自己資本の比率。EBITDA倍率は利益創出力との比較で、返済期限ではない。比率から非開示金額は逆算していない。
562.84億円の純利益は、そのまま使える現金ではない
2024年11月期の純利益は562.84億円だった。だが、利益には現金支出を伴わない減価償却が反映される一方、ホテルの新築投資は支払った年に全額が費用になるわけではない。運転資金の増減、税金、資産売却なども現金残高を動かす。純利益だけで営業キャッシュフローやフリーキャッシュフローを代用すると、資金繰りの実態を取り違える。
今回確認できた一般公開資料では、連結貸借対照表の全科目や連結キャッシュフロー計算書の全表、借入の満期別内訳、金利条件までは追えなかった。JCRが監査済財務諸表を格付に利用したという説明も、読者が同じ財務諸表一式を入手できるという意味ではない。現金や有利子負債の絶対額を比率から逆算し、それを公式公表値として扱うことは避けた。
ホテルを売却しても、支払い義務は残る
資産回転を進めるREITの活用も、リスクがすべて消える取引ではない。NHRが2025年11月に公表したホテル3物件の取得計画では、アパホテルが主要テナントとなり、引渡し予定日から20年間の賃借と固定・変動賃料が組み合わされている。11月時点では12月の引渡し予定であり、売却完了後の実績としては扱わない。
所有資産を現金化できれば、次の投資や負債圧縮に使う選択肢は広がる。一方で、借りて運営を続けるホテルには賃料負担が残る。さらにJCRは、アパホールディングスがNHRの借入に債務保証を行っていることにも言及した。JCRの評価では財務基盤への影響は軽微だが、売却益、継続賃料、保証による信用供与を別々に確認する必要がある。
運営形態の変化は、利益指標の読み方にも影響する。自社保有なら減価償却費として計上されるコストの一部が、売却後の賃借では賃料負担になる。一般に減価償却費を足し戻すEBITDAだけを比べると、所有と賃借の違いが見えにくい。今後REITへの売却が増える場合は、指標の改善が事業の収益力によるものか、資産の持ち方や費用構造の変化によるものかも確認したい。
公開数値から言えるのは、2024年までに利益と純資産が積み上がり、信用指標が改善したということだ。その先の投資余力を判断するには、ホテルを何棟増やすかに加え、現金、更新投資、借換え、賃料と保証の負担まで追う必要がある。アパの高収益を評価するほど、利益と資金繰りの間に残る情報の空白も意識したい。































