黒字を続けたという評価だけでは、危機の深さも回復の質も見えない。2019年を基準に売上と利益を追い、宿泊療養の一棟貸しと、その終了後の通常営業を区別して読む。

東雲結子:コロナ禍でも黒字なら、ほとんど影響はなかったのでしょうか。

税理士石井:2020年の経常利益は97%減っています。黒字を守ったことと、余裕があったことは分けて考えます。

売上34%減に、経常利益97%減

2019年11月期のアパグループは、売上1,371.56億円、営業利益359.79億円、経常利益335.47億円だった。翌2020年には売上904.32億円、営業利益20.44億円、経常利益10.09億円へ落ち込んだ。売上の減少率34.1%に対し、営業利益は94.3%減、経常利益は97.0%減。純利益も211.93億円から9.49億円に縮んでいる。

営業利益率は26.2%から2.3%へ低下した。損益上の黒字を守った事実と、利益の余裕を大きく失った事実を両方見なければならない。黒字という言葉だけから、資金繰りへの負担が小さかった、借入返済も楽だった、とまでは判断できない。会社は2020年について、業務見直しや自社予約サイトへの誘導によるコスト削減を説明している。

図5 コロナ期の売上・利益減少率。各項目の2019年実績に対する2020年の減少率を筆者計算。減少率のグラフで、損失額や赤字を示すものではない。

2019年を100にすると、回復の順序が見える

売上と営業利益をそれぞれ2019年=100の指数にすると、2020年は65.9と5.7、2021年は66.8と22.8になる。2021年は売上がほぼ横ばいでも利益が戻り始めたが、危機前の水準からはまだ遠かった。2022年には売上100.8、営業利益99.6となり、ほぼ2019年の規模へ戻る。

その後、2023年は139.4と157.5、2024年は164.8と228.2へ上昇した。売上が危機前を64.8%上回る一方、営業利益は128.2%上回る。回復を越えた利益拡大が起きている。ただし、これはグループ全体の総額の指数だ。客室増加や不動産事業などの影響を含むため、同じホテルの稼働率や単価だけが改善したことを表す指標ではない。

図6 2019年を基準にした回復の比較。売上と営業利益はそれぞれ自身の2019年額を100とする。2022年には宿泊療養等の一棟貸しも寄与。グループ総額であり既存店指数ではない。

2022年の回復には、一棟貸しの寄与もある

2022年は売上50.8%増、営業利益337.5%増と、数字だけなら急激な旅行需要回復に見える。しかし会社は、旅行支援や訪日需要の再開に加え、感染者受け入れ等のための一棟貸しが想定より長く続いたことも増収増益要因として挙げている。

一棟貸しは、個々の旅行者へ客室を販売する営業とは契約の形が違う。通常の客室単価・稼働率と、まとまった施設利用の契約収入は分けて考える必要がある。もっとも、公表決算には一棟貸しの売上額、利益額、対象ホテル数、契約ごとの費用負担の内訳がない。この収入を除けば赤字だった、あるいは通常営業だけでも同じ利益だった、という計算はできない。

大家や宿泊事業者が臨時契約を評価する際には、契約の継続期間と終了後の使い方まで収支計画に入れたい。契約中の収益性だけを恒常的な収益力として評価すると、翌期の売上や費用の見込みを誤る可能性がある。

2023年は、一棟貸し終了後への移行が焦点

JCRの2024年7月16日付資料によると、宿泊療養施設としての一棟貸しは2023年11月期の期中に終了した。それでも通常営業が好調に推移し、同年度の営業利益は最高益を更新したと評価している。連結決算でも、営業利益は358.33億円から566.76億円へ増えた。臨時的な需要の終了を、通常の宿泊需要で乗り越えた点が重要である。

ただし、期中に終了したという説明から、2023年の通期利益に一棟貸しの寄与が全くなかったとはいえない。公表情報から確認できるのは、終了を含む年度でも最高益だったことと、JCRが通常営業の好調を評価していることまでだ。通常営業だけの営業利益率を、連結利益から切り出すことはできない。

会社は2023年の需要回復を捉えられた理由として、コロナ禍にも新規出店を続けたことを挙げる。回復局面で販売できる客室を持っていた意味は大きいと考えられる一方、出店を続けた場合と控えた場合の差額利益までは開示されていない。投資判断の成功を定量評価するには、物件ごとの投資額と稼働後の収益が必要になる。

危機への強さを、三つの問いに分ける

第一は、需要が減った時にどれだけ利益が減るか。2020年のように売上の減少幅を利益の減少幅が大きく上回る局面を、収支計画に織り込む必要がある。第二は、臨時収入や一時的な費用削減の終了後に、何が収益を支えるか。第三は、その間の投資、修繕、借入返済を手元資金で賄えるかである。

この連結損益の時系列では、2020年・2021年を含めて各期の営業・経常・当期利益が黒字だったことを確認できる。一方、損益だけでは毎期の現金の増減や自由に使える資金を確定できない。黒字の継続を、借入に頼らない経営や営業キャッシュフローの連続黒字に読み替えない姿勢が大切だ。

経営・不動産投資への示唆

アパの回復を評価するうえでは、危機中に利益を残したことに加え、一棟貸し終了を経て通常営業の好調を維持した経緯を押さえたい。自分の事業でも、平常時、需要急減時、臨時契約終了後の三つの収支を並べると、利益率だけでは見えない持続力が分かる。