今回から8回にわたって、アパホテルの企業分析をしてみたいと思います。

2024年11月期のアパグループは、売上の伸びを大きく上回る増益を実現しました。10年分の公表数値から、利益率上昇の仕組みと、それを自分の不動産経営に置き換える際の注意点を探っていきます。

東雲結子:利益率36%なら、部屋を売るたびに3分の1以上が利益になるんですか?

税理士石井:これはグループ全体の数字です。事業の範囲と、売上・費用の増え方を見ていきましょう。

売上100円に対して営業利益36.3円

2024年11月期の連結売上高は2,259.70億円、営業利益は821.14億円。営業利益率は36.3%に達した。前年の29.6%から6.7ポイント上昇し、売上18.2%増に対して営業利益は44.9%増えた。収益規模の拡大と採算改善が同時に起きている。

会社は、訪日客の増加と国内の会議・イベント需要を背景に、ホテルの稼働率と単価がともに前年を大きく上回ったと説明する。ただし、この発表には平均客室単価や稼働率の実数がない。単価上昇、稼働改善、新規開業がそれぞれ増収に何億円寄与したかまでは分解できない。ここからは、確認できる損益数値を使って分析する。

10年の成長を、直近の好況と分けて読む

2015年の売上高910.35億円、営業利益320.08億円に対して、2024年はそれぞれ2.48倍、2.57倍になった。2015年末から2024年末までの9年間で計算した年平均成長率は、売上10.6%、営業利益11.0%。コロナ禍の落ち込みを挟んでも、長い期間では事業の規模が拡大している。

ただし、利益率が一貫して上がったわけではない。2015年の営業利益率は35.2%で、2024年の36.3%との差は約1.2ポイントにとどまる。直近1年の急改善だけを延長すると、長期の姿を見誤る。2024年は、既に高かった利益率を取り戻して上回り、その利益率を以前より大きな売上に乗せた年と読める。

途中の2018年には売上15.4%増に対して営業利益は4.2%増、2019年には増収でも営業利益が5.2%減った。会社は外注費や改装、開業費用などの負担を説明している。出店が進む時期と、その設備から十分な売上が得られる時期のずれも見る必要がある。

図1 10期の売上高と営業利益。各年11月期、アパグループ連結。億円表示は百万円の公式表から換算。純粋な既存店成長ではなく、事業・拠点構成の変化も含む。

図2 営業利益率の10期推移。筆者計算:営業利益÷売上高。2015年35.2%、2024年36.3%で、長期の差は約1.2ポイント。

増収347億円のうち254億円が営業増益になった

利益率改善の核心は、売上と営業費用の増え方の違いにある。売上高から営業利益を引いて営業費用の総額を逆算すると、2023年は1,345.51億円、2024年は1,438.56億円だった。売上が18.2%増える間に、費用の増加は6.9%にとどまった。費用自体は減っておらず、売上の伸びが費用の伸びを上回ったのである。

金額で並べると、営業利益566.76億円に、売上増347.43億円を加え、費用増93.05億円を差し引けば、821.14億円になる。営業増益254.38億円を増収347.43億円で割った「増分営業利益率」は73.2%。増えた売上の多くが営業利益に結び付いたことが分かる。

この73.2%は2期の実績差分であり、今後も売上が1億円増えるたびに7,320万円の利益が増えるという意味ではない。事業構成や客室数、価格、費用計上の時期が変われば比率も変わる。また、逆算した営業費用には会計上の費用が含まれるため、現金支出や固定費と同一視できない。費用の内訳がなければ損益分岐点も確定しない。

図3 2023年から2024年への営業増益の分解。営業費用=売上高−営業利益として逆算。増分営業利益率は実績差分の比率であり、将来の限界利益率ではない。

営業利益から、自由に使える現金までには距離がある

2024年は営業利益821.14億円から経常利益795.80億円へ25.34億円減っている。この差は営業外収益と営業外費用を合わせた純額であり、支払利息そのものではない。さらに親会社株主に帰属する純利益は562.84億円だが、経常利益との差額232.96億円を全て税金とみなすこともできない。

純利益が出ても、借入元本の返済や設備投資は別途資金を必要とする。大家が収益性を考える際も、営業利益だけでは新規投資後の資金余力を判断できない。投下資金に対する収益、借入条件、修繕・更新支出まで確認して初めて、保有を続けられる事業かを評価できる。

図4 営業・経常・最終利益の比較。営業利益と経常利益の差を支払利息、経常利益と最終利益の差を法人税額とみなすことはできない。いずれも純額の差。

経営・不動産投資への示唆

アパの2024年決算から学べるのは、売上を伸ばした時に費用をどこまで抑えて増益へつなげられるか、という経営の構造だ。自社に置き換える際も、売上増、費用増、投資額を別々に追いたい。高い利益率を目標にする前に、どの条件がそろえばその利益率を再現できるかを確かめることが、長く続く収益につながる。