拠点数の拡大と、所有資産・売上・固定負担の増加は一致しない。ネットワークの内訳とイシン買収から、出店モデルの変化を読む。

東雲結子:約14万室ということは、アパが14万室分の建物を持っているんですね?

税理士石井:その客室数には予約参画や計画中の施設も入ります。持つ、借りる、運営する、送客するを分けましょう。

アパホテルの成長を客室数だけで判断すると、財務の姿を見誤る。2025年11月28日の会社発表によるネットワークは1,024ホテル・14万97室。ただし、この数字には建築・設計中の施設、海外、フランチャイズ、予約サイト「アパ直」に参加するアパブランド以外のホテルが含まれる。全室が営業中でも、アパグループの所有でもない。

2025年のイシン・ホテルズ・グループ買収は、この違いを理解する格好の材料だ。アパはホテルを増やす方法そのものを広げている。

14万室のうち「国内直営」は約半分

内訳を確認できる2025年10月23日時点のネットワークは13万9,937室。日本ホテル&レジデンシャル投資法人の説明資料では、国内直営7万1,232室、国内FC・MC1万533室、海外5,218室、アパ直参画ホテル5万2,954室に分かれる。国内直営が50.9%、アパ直参画ホテルが37.8%だ。いずれも建築・設計中を含む。

2020年10月23日からの増加3万8,311室のうち、アパ直参画ホテルの増加は2万713室で54.1%を占める。これはネットワーク拡大への寄与を示す数字であり、連結売上や利益の増加寄与率ではない。

ここが重要だ。直営ホテルの客室販売、FC加盟ホテルから受け取る本部収入、外部ホテルへの送客収入では、アパに帰属する売上の範囲が違う。全ネットワークの室数に平均客室単価と稼働率を掛けても、連結売上高にはならない。

図16 ネットワーク客室数の内訳。すべて建築・設計中等を含む。直営・FC/MC・海外・予約参画という資料上の区分であり、連結範囲や不動産所有形態と完全に一致しない。

図17 5年間のネットワーク拡大への寄与。各年10月23日時点の差額。全体純増38,311室、うちアパ直参画20,713室。54.1%は客室数増加への寄与率で、利益への寄与率ではない。

「誰が不動産を持つか」と「誰が運営するか」

ホテル事業には、少なくとも次の5つの形がある。下表は契約の一般的な構造であり、各形態のアパにおける売上・利益を算出したものではない。

賃借とMCを一括して「資産を持たないから安全」と評価するのは早い。賃借では客室収入が落ちても固定賃料が残り得る。MCでは通常、所有者と受託運営者の間で収入・費用を分担するため、受託料の算定方法、最低保証、費用負担を確認する必要がある。賃借に伴う貸借対照表上の計上も契約・会計処理による。「不動産を持たない」は「将来の固定負担がない」と同義ではない。

なお、直営と所有も同義ではない。海外の2024年資料でも、直営、MC、FCを分けて開示している。シアトルの256室を2024年6月に取得した際には、グループ全体で米国初の「所有ホテル」と明記された。それ以前から存在した米国のホテル網には、FCが含まれていた。

形態 主な収入の入口 資本・固定負担の読み方
所有・直営 宿泊・飲食など 土地・建物に投資。減価償却、修繕、借入利息等を負担。
賃借・運営 運営者としてのホテル売上 不動産取得を抑えても、固定賃料等の支払義務が残り得る。
MC:運営受託 運営受託料等 報酬、費用負担、最低保証は契約による。
FC:フランチャイズ ロイヤルティ・予約等 加盟店が運営。本部はブランド維持や加盟店支援を負担。
予約網への参画 予約・送客関連収入等 他ブランドも参加。連結範囲は株式支配など別の要素で決まる。

イシン買収で何が変わるのか

アパホールディングスは2025年6月19日、イシンの全株式を取得した。買収発表時の運営規模は17棟・2,643室。「the b hotels」などを展開するイシンは不動産を所有せず、賃借・MC方式の運営を得意とする。

買収理由は明快だ。アパは従来、不動産を所有する直営方式とFC方式を主力としてきたが、それだけでは出店速度が十分ではないとして、賃借・MC方式の本格導入を挙げた。不動産購入だけに頼らず、運営能力を獲得して出店経路を増やす判断と読める。ただし、買収価格、取得時の純資産、のれん、利益への寄与は、この発表からは確認できない。買収による投資採算まで断定する材料はない。

イシンのブランドはアパへ統合せず、8月4日から「アパ直」で予約受付を開始した。 ここには会計分析上の注意がある。完全子会社であるイシンも、予約上は「アパ直参画ホテル」に入る。したがって「アパ直参画ホテル=すべて非連結の外部企業」という整理も誤りだ。ブランド、運営契約、株式の支配関係は、別々に確認しなければならない。

直営からFCへ変えてもネットワークは残る

2025年6月20日には、宮崎延岡の直営2ホテル、計285室がティーケーピーによるFC運営へ転換した。アパ側は、ネットワークを維持しながら戦略性の高い土地への出店を進められると説明している。

この事例から分かるのは、ブランドの規模と自社の運営負担を別々に動かせるということだ。店舗数が変わらなくても、宿泊売上の帰属、運営費、必要な資本は変わり得る。逆に、直営の減少だけを見て事業縮小と判断することもできない。ただし、この発表には売却価格や売却益の開示がなく、資金回収額を推計して利益に加えることはできない。

会員基盤の価値は大きい。人数を売上に置き換えない

2025年11月12日公表の説明資料では、累積会員2,000万人超、アパアプリ700万ダウンロード突破が示されている。 新規ホテルやFC、イシンへの送客に使える基盤だが、累積登録とダウンロードは、現在利用している顧客数ではない。両者には重複があり、足し合わせることもできない。

また、国内直営・FC全店に導入された「1秒チェックイン」は、事前決済・部屋選択などを済ませた後、QRコードをかざしてから鍵を発行するまでの仕組みを指す。全手続きが1秒という意味ではない。 顧客の待ち時間や定型業務を減らす仕組みとして評価できる一方、人件費が何%下がったかは別の検証が必要になる。

AIM5の2027年3月末15万室目標に対し、11月28日のネットワークは93.4%まで来た。ただし、これは建築・設計中を含む目標の進捗である。 今後の財務評価では、増えた室数に加え、どの契約で増え、どの収入がアパに入り、どの固定負担が残るのかを見たい。所有・直営の収益力と、運営・ブランド・予約機能による拡大を分けて追うことで、成長の質が見えてくる。