東雲結子:決算を全部並べました。売上が一番伸びた会社を買えばいいんですよね?

税理士石井:うーん、その結論だとポラリスが圧勝ですが、買収で会社の大きさが変わっています。

東雲結子:では、営業利益率が一番高いABホテルが優勝ですか?

税理士石井:今度は帝国ホテルが弱い会社に見えます。でも、同じホテルでも売っている商品がまるで違います。

東雲結子:ホテルなのに、同じ競技ではないんですか?

税理士石井:そうですね。素泊まりの短距離走と、宴会・婚礼まで含む十種競技を、タイムだけで比べているようなものです。

東雲結子:数字は正しくても、読み方を間違えると危ないんですね。

税理士石井:今日は数字の大きさより、利益が生まれた理由を見ていきましょう。

 

日本中のホテルに同じ追い風。それでも利益の伸びはバラバラ

訪日客の増加、国内レジャー需要、大阪・関西万博、円安は、多くのホテル会社に共通する追い風でした。それでも、最新決算の営業利益の伸び率は、共立メンテナンスの6.1%からワシントンホテルの132.9%まで大きく分かれています。需要環境だけで決算が決まるなら、ここまで差は出ません。

差を作ったのは、客室をいくらで売ったか、売れる部屋をどれだけ増やしたか、増収時に追加で発生する費用がどの程度か、という三つです。ホテルは客室を今夜売れなければ在庫として翌日へ持ち越せません。需要が強い日に単価を上げられる会社ほど、増えた売上の多くが利益へ残ります。

成長には四種類ある。数字を混ぜると判断を誤る

今回の8社の成長は、四つに分けると理解しやすくなります。第一は、既存ホテルのADR(平均客室単価)と稼働率が上がる「既存店成長」です。ワシントンホテル、グリーンズ、ABホテル、藤田観光のWHG事業が典型です。第二は、新規開業やリブランドで販売可能な客室を増やす「能力増強型」。第三は、ポラリスのミナシア買収のような「M&A型」。第四は、リゾートトラストの会員権のように、契約は増えていても開業まで会計上の売上・利益が繰り延べられる「会計時期差型」です。

この四つは質が違います。既存店成長は追加投資が比較的小さく、利益率が上がりやすい一方、新規開業は将来の売上を増やしますが、開業前の人件費や初期費用が先に出ます。M&Aは一気に規模を広げますが、のれんと統合の成否を確認しなければなりません。

増収分の何割が営業利益になったか

増収額に対して営業利益がどれだけ増えたかを、ここでは「増分利益率」として見てみます。説明用の単純計算ですが、ワシントンホテルは約59%、ABホテルは約58%、グリーンズは約48%でした。既存のホテル設備と人員を使って単価と稼働率を上げたため、追加売上の多くが利益へ残ったと読めます。

反対にポラリスは、法定開示ベースで売上が約126億円増えた一方、営業利益の増加は約7億円でした。買収した会社の売上が加わると売上高は大きくなりますが、人件費、賃借料、のれん償却も一緒に加わります。規模拡大の初期は、利益率より統合後の改善余地を見る局面です。

大家さんの物件分析と同じ。売上よりNOIに近い数字を見る

大家さんが物件を選ぶとき、満室家賃だけで判断せず、空室、管理費、修繕、固定資産税を引いたNOI(営業純利益)を見ます。ホテル企業でも同じです。客室単価が上がったか、稼働率が上がったか、人件費と賃借料がどう動いたか、改装のため販売停止した部屋があるかまで確認します。

ホテル株を見るときの最初の結論は、「今の日本のホテル市場が強い」ではありません。市場が強いときに、どの会社が最も利益を残せる構造を持っているか。ここまで見て初めて、決算分析になります。

主な参考資料