東雲結子:ホテルは週末になると値段が上がりますよね。アパートも月末だけ家賃を上げたらどうでしょう。
税理士石井:それは入居者さんが落ち着きません。賃貸借は毎日価格を変える商品ではありません。
東雲結子:では、ホテルの価格戦略は大家さんには使えない?
税理士石井:そのままは使えませんが、需要を細かく分け、条件別に価格を変える考え方は使えます。
東雲結子:同じ部屋でも、貸し方で値段を変えるんですか。
税理士石井:家具付き、法人契約、短期定期借家、駐車場付きなど、商品が違えば価格も変わります。
東雲結子:なるほど。入居中の家賃を毎日変えるのではなく、募集商品を分けるんですね。
税理士石井:ええ。ホテルの速い値付けを、賃貸の長い契約に合う形へ翻訳します。
ホテルは、曜日、季節、イベント、予約時期、残室数に応じて宿泊価格を変えます。これがダイナミックプライシングです。賃貸住宅は契約期間中の家賃を毎日変えられませんが、需要を観察し、商品を分け、入替え時に価格を調整する考え方は応用できます。ただし、ホテルのスピード感をそのまま持ち込むのではなく、賃貸借契約の安定性を壊さないことが前提です。
ホテルはADRと稼働率の掛け算を毎日最適化する
説明用に、100室のホテルを考えます。平日22日はADR1万1,000円・稼働率75%、週末8日はADR1万8,000円・稼働率95%とすると、1室当たり月売上は31万8,300円、100室で3,183万円です。
※Average Daily Rate(客室平均単価)
一律1万3,000円・稼働率80%なら、100室で3,120万円。差は月63万円です。価格を上げる日と、稼働を取りに行く日を分けるだけで、同じ客室数でも売上が変わります。
賃貸は「時間」ではなく「顧客と条件」で分ける
賃貸住宅で毎日家賃を動かすことは現実的ではありません。しかし、同じ間取りでも、家具家電付き、法人契約、ペット可、駐車場付き、インターネット付き、短期の定期借家など、提供条件を変えれば別商品になります。
たとえば通常家賃8万円、家具付き9万5,000円、法人向け10万円というように、顧客が必要とする価値へ価格を付けます。単なる値上げではなく、誰に何を付けて売るかの設計です。
ホテルの「残室」を、賃貸では「空室日数」として見る
ホテルは、今夜売れなかった部屋を明日へ持ち越せません。賃貸も、空室だった1か月の家賃は取り戻せません。
したがって、募集開始から30日、60日、90日で条件を変えるルールを決めておくとよいでしょう。30日で写真と募集チャネル、60日で初期費用、90日で家賃・設備を見直す。担当者の感覚ではなく、空室日数に応じて行動を変える点はホテルの収益管理に近い考え方です。
新規募集価格と既存家賃を混同しない
ホテルは同じ日に隣の部屋と価格が違っても不自然ではありません。賃貸では、既存入居者との関係があります。新規募集が高く決まったからといって、既存家賃を直ちに同額へ変更できるわけではありません。
新規募集価格、更新時の協議、設備改善後の価格を分けて管理します。価格最適化を急ぎすぎて、長期入居者を失い、原状回復と空室を発生させれば、値上げ効果が消えます。
賃貸版RevPARを作る
ホテルのRevPARに近い考え方として、満室想定賃料に対して実際にいくら回収できたかを見ます。フリーレント、家賃値下げ、滞納、空室を反映した実効収入を、販売可能戸数で割るのです。
「10戸中9戸入居だから90%」で終わらず、高家賃住戸が空いていないか、無料期間で収入が落ちていないかを確認する。ホテルから学ぶべきなのは、価格を激しく動かすことより、収入を正確に測ることだと思います。
| 説明用の月次試算 | 1室当たり | 100室 |
| 曜日別価格:平日1.1万円・75%、週末1.8万円・95% | 31万8,300円 | 3,183万円 |
| 一律価格:1.3万円・80% | 31万2,000円 | 3,120万円 |
| 差額 | 6,300円 | 63万円 |
参考資料
Marriott International 2024 Full Year Results































